モブせか・カーラ if ルート   作:julas

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11(27)魔笛

『終わりましたか?』

「ああ、とりあえず今のところは、かな。って痛ぇ! もう少し優しく出来ねえのかよ!」

 

 リオンはルクシオンから手当てを受けながら文句を垂れる。

 

『無茶をなさるからです。それに今の私、この子機に出来るのは止血だけです。早く船に戻ってオリヴィアに治してもらいなさい』

「そうだな……。早く会いに戻りたいよ。リビアとカーラに。あとアンジェも相当心配してくれてたから」

 

 リオンは空を仰ぎ豪華客船の方に首をめぐらす。船に残してきた婚約者達と親友を思い浮かべる。

 これで今度こそ本当に終わりか、そう思っていると黒煙を噴き上げる公国の船の一隻が照明弾のようなものを打ち上げる。

 まばゆい光が一面を照らし異様な音が辺り一面に木霊す。その光と音が収まった頃、辺りから次々とモンスターが姿を現す。

 

 

「往生際の悪い真似を……」

 

 リオンが呆れと苛立ちが混じった声でつぶやき溜息を漏らす。

 

「愚か者が。この場の全てを消し去るつもりか……!」

 

 黒騎士もまた怒りのこもった声を漏らす。

 どうやら公国軍の総意と言うわけでもないらしいと思いリオンは尋ねる。

 

「爺さん今のは一体何だ?」

「魔笛を研究する過程で生み出された魔道具だ。だがモンスターは呼び出せてもそれを制御することもかなわぬ欠陥品! これでは両軍全滅の共倒れぞ!」

 

 黒騎士の言う通り呼び出されたモンスター達は最初艦隊と共に隊列を組んでたように見えたモンスター達とは違い、統率もなく公国軍も豪華客船も見境なく向かい始めていた。

 状況を察してかクリスが直ぐ様豪華客船に向かってくれたので若干の猶予があるが、あまり残された時間も多くは無さそうだ。

 

 リオンはこの戦い、ルクシオンの本体、航空戦艦の力を使わず済ませるつもりであった。

 たった一隻で艦隊全てを相手取って見せたパルトナーでさえ脅威と捉えられ無用な警戒をを向けられかねない。

 ルクシオン本体の力はそのパルトナーすらはるかに上回るほどのもの。そんなもの行使すれば下手をすれば国をも脅かす脅威と警戒を向けられかねない。それほどまでに強大過ぎる力。

 使わずに済むのならそれに越したことはない。だが、どうやら覚悟を決めねばなるまい。

 そう思ったとき――

 

「私が何とかします」

 

 声のした方を見ればヘルトルーデだった。手には何時の間にか妖しげな装いの横笛を握っていた。今まで懐にでも隠し持ってたのだろうか。

 

「魔笛か」

 

 リオンの声にヘルトルーデは頷く。

 ――魔笛、それがモンスターを操る力があるのをリオンは前世のゲーム知識で知ってた。

 先ほど用いられた魔道具。本来ならこの魔笛と共に使うのを想定されたものだったのだろう。

 だが公国王女の安否も定かならざる状況での使用は正に両軍共倒れに導く暴挙以外の何物でもなかった。だが――

 

「モンスターを操る力があるんだったな。そいつでこのモンスターどもを操って、もう一戦交えるつもりか?」

「そんなことはしません。この戦、私たちの敗けです」

「その言葉、信じろと?」

 

 返事はない。だがリオンを見詰める瞳には狂気も害意も敵意もなくただ真っすぐ真摯なものだった。

 

 

「……いいだろう」

 

 リオンの言葉にヘルトルーデは会釈すると魔笛を吹き始める。

 どこか物悲しく切なげな音色が鳴り響くと、モンスター達は皆一様に船から離れ始める。公国の軍艦からも王国の豪華客船からも。

 どうやら本当に信用してよいようだとリオンは思った。

 だが次の瞬間目にした光景は想定外のものだった。

 船から離れたモンスター達が互いに食らいつき始める。

 モンスター同士で喰らい合うとそれらは黒い煙になって消えていく。

 その様子に本当に潔く敗北を受け入れてくれたのだなとリオンは安堵する。

 そんなリオンとは逆に黒騎士は焦りの声を上げる。

 

「姫様! そこまでなさらずとも良いのです! それ以上はお体に障ります!」

 

 リオンはヘルトルーデに目をやれば額に脂汗がにじみ顔色は青白く憔悴してた。

 

「どういう事だ爺さん!」

「魔笛は術者の精神力を媒介にする! ただ操り引かせるだけなら疲労程度ですむがこんな無茶な使い方されては……! ご無礼を……!」

 

 言って黒騎士はヘルトルーデから魔笛を取り上げようとする。

 だが、ヘルトルーデの真っすぐな瞳で見つめられると出来なかった。その瞳に宿った強い意志に。

 

 

「爺さん。あんたの大剣使わせてもらうぞ」

 

 言ってリオンはアロガンツに乗り込む。そして黒騎士の大剣を装備する。アロガンツ本来の装備のブレードと合わせて二刀流の形に。

 アロガンツはバーニアを吹かすとモンスターの群れに飛び込んで行った。

 

「あの小僧……! 姫様の負担を軽くするために……!?」

 

 黒騎士の視線の先には飛び立つアロガンツの姿が映っていた。

 

 

 

 

「コンテナのミサイル全弾発射しろ!」

『全弾発射』

 

 アロガンツのコンテナが開くと夥しいミサイルが発射され広範囲に次々とモンスターに降り注ぎモンスター達を黒い煙に変え辺り一面を覆う。

 

「ブレードのリミッターも外せ!」

『リミッター解除』

 

 ブレードの実剣部分が割れて変形しアロガンツの全高も超えるほどの長大な光の刃が出現する。

 それらは黒騎士や人間相手の不殺を目的とした戦いでは使えなかった手。正真正銘のアロガンツの全開の力。

 光の刃と黒騎士の剣、二刀を振りかざしモンスターを群れごと斬り伏せていく。

 遠間の敵や巨大な敵は光の刃で、直ぐ傍まで迫ってきた敵には黒騎士の大剣を振るい次々と切り伏せ黒い煙に変えていく。

 あたりはモンスターが消えた後現れる黒い煙が増々埋め尽くしていく。

 

 

「ルクシオン、お前の本体からも撃て。ただしモンスターが消えた時の黒い煙などに紛れ込ませなるべく目立たないようにだ。今ならこれだけ黒い煙だらけだから行けるだろ?」

 

 最初にミサイルを広範囲に撃ち辺りを埋め尽くさんばかりに黒い煙だらけにしたのもこのため。

 

『注文が多いですね。私の本体の一斉射を用いれば楽に片づけられるというのに』

「なるべく目立ちたくないんだよ。言わせんなよ……ったく」

 

 そうして無数のモンスター達はアロガンツとルクシオンによりすべて掃討された。

 

 

 

 

「お姫様の方は大丈夫か?」

 

 モンスターを掃討し終えたリオンはヘルトルーデと黒騎士の元へ戻って来てた。

 黒騎士の腕に抱かれたヘルトルーデに視線を向ければ、かなり憔悴してるようにも見えるが一応無事なようだった。

 また、近くには何時の間にかメイド姿の女性たちも来ており手には血で染まった手ぬぐいを持ってた。

 ヘルトルーデにかかったリオンの血は拭われてて、このメイド達が拭ってあげたのが伺える。

 服にはまだ血がついてるようだが黒いドレスのためそれほど目立たない。

 

 

「小僧……いや王国の騎士よ。礼を言わねばならぬようだな。だがあの力は何だ。まさか俺との戦いで手を抜いていたのか!?」

 

 黒騎士は困惑と僅かな怒りを含んだ表情でリオンに語り掛けた。

 

「アンタと戦ってた俺にそんな余裕があったように見えたか?」

「だがあの力を使えばもっと楽に俺に勝てたのではないのか!?」

「ミサイルぶっ放したってアンタなら全部避けただろう。光の刃だって威力はデカいが隙もデカい。あんなの振り回してたらあっと言う間に懐に飛び込まれてバッサリやられてたさ。

的がデカく動きも鈍いモンスター相手にだから使っただけだ」

「……だが俺の命を奪わないように戦ってたのは事実だろう。明らかにお前の太刀筋は致命傷を避けていた」

 

 黒騎士の言葉にリオンは瞠目し苦笑を浮かべる。

 

「バレてたか。流石だな」

「敵の命を気遣うなど……!」

「アンタの為じゃないさ」

 

 そう言ったリオンの視線はヘルトルーデに向けられていた。

 

 

「姫様の為か……!? 何故だ!?」

「気に食わなかっただけさ。簡単に命を投げ出す考えが」

「たったそれだけの為に……!?」

 

 黒騎士の問いにリオンは瞳を閉じ、そして開くとどこか遠い目をして口を開く。

 

「王国と公国との戦争は俺の生まれる前の話だから話に聞いてるだけで直接は知らねぇ……。そういう意味じゃ俺とそう齢の変わらないように見えるお姫様だって同じはずだろ。

自分の体験してない戦争の為に命を投げ出す……はっきり言って俺には異常に、狂気に見えたよ」

 

 思い返すのはヘルトルーデが公国の騎士たちに向かい自分ごと討てと言った時の貌。狂気じみた眼光。

 

「あんなの自分の考えとは思えねぇ。植え付けられたか洗脳されてるか……。他人の都合を無理に押し付けられてる様にしか思えなかったよ。

俺はな、強い力で無理やり人の人生を捻じ曲げるようなヤツが許せねえんだよ……!」

 

 言いながらリオン脳裏に浮かんだ忌まわしく憎々しい相手達。自分たち兄弟や母を虐げてきた父の本妻のゾラ、カーラを無理やり従わせ尊厳を踏みにじってきたステファニー。

 自分や自分の大切な人を踏みにじってきた者たちに対する怒り。

 その怒りは同じように他者を踏みにじり利用する者たちに対しても湧き上がるのを抑えられなかった。

 

 

「だから姫様を放っておけなかったのか!? 敵国の人間であるはずの!?」

「敵国……か」

 

 かっての自分だったら敵国どころか同郷の人間相手でもこんな風に干渉しただろうか。

 例え同じような似たような境遇の相手でも。

 そう思った時ふと浮かんだのはカーラの顔だった。

 それも泣いてた時の顔。

 

(カーラ……)

 

 そして思う。自分が変わったのだとしたら、それはカーラを救った時、いや救ってあげたいと思った時からだったのかもしれない、と。

 彼女の涙を止めたい。もう泣かないで済むようにしてあげたい、と。

 そして瞼を閉じ思い浮かぶのは愛しい恋人の――優しく微笑むカーラの顔。

 彼女の顔を思い浮かべたリオンの顔もまた優しいものだった。

 それは先ほどまで死線を潜り抜けるような死闘を繰り広げてきたものとは思えないほどの穏やかな顔。

 その顔を黒騎士は黙って見詰めていた。

 

 

 

「俺は……間違っていたのか? 失った妻子の為王国を滅ぼすと誓い、たとえ姫様を巻き込んだとしても復讐を遂げて見せると誓ったのは……」

「悪いが俺にそれに答える資格はないよ。ただ、俺個人の意見で言わせてもらえば年端もいかない娘に犠牲を強いるやり方はやっぱり嫌いだ。アンタはどうなんだ?

若しアンタの娘が死んでなかったとして、それなのに折角助かった命を公国の為に捧げろなんて言われたら素直に従えたか?」

 

 返事はない。黒騎士はただ俯き押し黙ってる。

 ヘルトルーデはそんな黒騎士の前に立つと優しく抱きしめるのだった。

 

 

 

「……王国の騎士よ。名前を聞かせてはもらえませんか?」

 

 ヘルトルーデの問いかけに「リ……」とリオンは自分のファーストネームを名乗ろうとしたが口を噤む。そして改めて名乗る。

 

「バルトファルトだ。リオン・フォウ・バルトファルト子爵だ」

 

 リオンの言葉にヘルトルーデは目を閉じ静かに口を開く。

 

「バルトファルト子爵。公国軍はあなた方に降伏します」




公国戦、終結、です。
次回、やっと船に帰れます。
おつかれ、リオン。

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