モブせか・カーラ if ルート   作:julas

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15(31)告白 再び

「リオンさん。私です」

 

 カーラがリオンの部屋のドアをノックし声をかけると「カーラか? いいぞ」と返事が返ってきたので扉を開ける。

 

「アンジェリカ様もいらっしゃってます。お通ししてもよろしいでしょうか?」

「ああ、そう言えばさっき来てくれたのに追い返す形みたいになっちゃったんだよな。勿論だ。通してくれ」

 

 そうしてカーラの「どうぞ」との声に「失礼する」とアンジェは扉をくぐる。

 

 

「悪いなアンジェ。さっきも来てくれてたのに」

「構わん。それにいきさつについてはカーラから聞いたしな」

 

 言ってアンジェは悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 その答えにリオンはカーラに視線を送るとカーラは気まずさと照れくささが混じったような笑みを浮かべてたので、思わずリオンも同じような顔になる。

 そしてリオンはベッドから降りようとする。ベッドから身を起こしたままの応対も失礼だろうと思ったのだろうが、アンジェは手の平をかざし押しとどめる。

 

「そのままで良い。公国軍を退けた英雄殿だ。名誉の負傷だって負ったのだろう? 楽にしていろ」

「そうだな、それじゃこのままの姿勢で失礼させてもらうよ」

 

 微笑むアンジェにリオンも微笑みで返す。

 

 

「どうぞ、アンジェリカ様」

 

 カーラがアンジェの為に椅子を用意する。

 アンジェはカーラに軽く礼を言い座りリオンと向き合う形に。

 リビアとカーラは、リビアがリオンに寄り添う形で、カーラがアンジェに付き従う形で、四人はそれぞれ位置取る。

 

「お姫様の相手してくれてたんだよな。戦後処理の手続きどうなってる?」

「ああ、滞りなく進んでるよ。それこそあっけないくらい順調にな。もっとも、最功労者たるお前抜きでは進められぬ話もあるからそれ以外は、と言ったところか。

あと、色々聞かせて貰ったぞ。王女でありながら死兵の覚悟で挑んだヘルトルーデ王女殿下を結果的に救ったそうだな」

「まあな。俺たちと同い年くらいな癖に軽々しく命を捨てるとか抜かしやがるんでな」

 

 リオンが何処か不貞腐れた様に答える。

 

「敵の王女にまで情けをかけるとはな。ある意味お前らしいよ」

「お姫様には敵も殺せぬ腰抜け騎士だの理解できないだの散々言われたよ。ま、別に理解して貰おうなんて思ってねぇし、俺が勝手にやったことだしな」

「勝手に、か。益々お前らしいな。敵も殺せぬ騎士様、か。確かに多くの者には欠陥と映るかもしれんな。だがリオン、私はお前のそういうところ好きだぞ。

勿論リビアとカーラも。そうだろう?」

「勿論です! 私たちにだけでなく敵まで思いやれる優しさはリオンさんの素晴らしいとこです!」

「ハイ! リオンさんの優しさ、懐の深いところ、婚約者として誇りに思ってます!」

 

 アンジェの言葉にリビアとカーラも力強く言葉を発した。

 

「ありがとよ。敵国のお姫様に嫌われたって愛しい婚約者達と親友が理解を示してくれればそれで充分さ」

 

 そう言ってリオンは微笑みを向ける。

 

 

「婚約者と親友……。親友……か」

「アンジェリカ様?」

 

 アンジェの声色がどこか寂しげだったのを気付き、気にしたカーラが声をかける。

 カーラの気遣いに応えるようにアンジェはカーラに向かい微笑み、そしてリオンに向き直る。

 

「……リオン、少し二人きりで話がしたい」

 

 アンジェの声に何か気付いたようにカーラが身をかがめアンジェに顔を寄せる。

 アンジェはそんなカーラの肩を掴むと立ち上がり数歩後ろに下がりリオンには背を向ける形に。

 

 

「アンジェリカ様、若しかして……」

 

 カーラがアンジェに小声で囁きかける。

 その声に応えるようにアンジェが小さく頷くと、カーラの瞳が大きく見開かれ、その表情には驚きと言うより期待が滲み出てるかのようだった。

 

「で、では……!」

 

 声を抑えながらも興奮を隠しきれないといった様子のカーラ。

 

「落ち着け……。そういう事だからリビアも連れて少し部屋を出て、私とリオンの二人きりにしてくれるか?」

「ハイ! あ、でもむしろ私達がいた方がリオンさんに……」

「お前の言いたいことは分かる。リオンが惚れ込んでるお前達が取り持ってくれれば私の思いを受け入れてくれるだろう……。だがそれでは駄目だ。

私が、私だけの言葉で伝えねばならんのだ……!」

 

 アンジェの言葉には強い決意が滲み出ていた。

 

「差し出がましい真似を致しました。申し訳ありません」

「気にするな。お前の好意ありがたく受け取っておくよ」

 

 アンジェがそう言って微笑むとカーラもそれに応える様に頷く。

 

 

「リビアさん」

 

 カーラはリビアのもとに駆け寄り、リビアの手を引く。 

 リビアは状況を把握しきれないながらもカーラの真剣な眼差しに何かを感じ頷き立ち上がる。

 

「ルクシオンさんも」

 

 次いでカーラはルクシオンにも手を伸ばし両手で掴むと胸元に引き寄せる。

 ルクシオンは『いえ、私はマスターの元を離れるわけには――』と声を上げるも「ルク君、空気読んでください」とリビアの声に遮られる。

 カーラはルクシオンを胸に抱きリビアの手を引き扉に向かって歩を進める。

 すれ違い様、カーラはアンジェに向かい視線に思いを込める様に見詰め頷くと、アンジェもまたそれに応えるように頷く。

 そして部屋にリオンとアンジェの二人を残し、カーラ達は部屋を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 カーラの部屋

 

「アンジェ、リオンさんと二人きりで話したいって言ってましたけど……」

 

 リビアはカーラに視線を向ける。答えを求める様に。

 リオンの部屋を後にした二人、正確にはルクシオンも含めた三人はカーラの部屋に居た。

 

 

「リビアさん、この国の貴族の爵位って言える?」

「勿論です。上から公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、そしてその下に準男爵。その中でアンジェの御実家が公爵で、リオンさんが子爵、カーラさんの御実家が男爵、ですよね」

 

 リビアは何故今そんな話をと疑問に思いつつも答える。

 

「うん、その通りね。じゃぁ貴族間の婚姻の決まりも言えるわね?」

「原則として同じ爵位か、上にも下にも隣り合わせの爵位としか出来ないんでしたよね」

「そう。ただし男爵家以上と準男爵家とは隔たりがあって一見隣り合わせに見えるけど婚姻結べないわね。

私の家の以前の爵位もこれだったけどリオンさんとアンジェリカ様の計らいで男爵家に陞爵していただいたお陰で婚約結べたのよね。

それともう一つ、公爵家はアンジェリカ様の御実家のレッドグレイブ家だけでその上はもう王族だけだから、他の爵位と同じ決まりに従うと婚姻結べる家があまりにも少なすぎてしまうわ。

だから侯爵よりもう一つ下の伯爵も婚姻結べるの。リオンさんの子爵の一つ上の爵位ね」

 

 一つ上の爵位と言う言葉にリビアが何か気付いたような表情を浮かべる。

 

「リオンさんの一つ上の爵位……? 待ってください今回の戦いリオンさん大活躍でしたよね。これって若しかして十分陞爵に値する功績なのでは!?」

「リビアさんもそう思う?」

「ハイ。ってことはアンジェからリオンさんへの話って……」

「うん。リオンさんへの告白――」

「ステキです! 私とカーラさんに加えアンジェもリオンさんのお嫁さんにってことですよね!?」

 

 興奮を抑えきれず声を上げたリビアにカーラは一瞬驚くも、直後満足そうな笑みを浮かべる。

 

 

「良かった……やっぱりリビアさんも同じ気持ちで」

「勿論です! アンジェは大切な友達で、それで私たちと同じようにリオンさんのお嫁さんになれば何時までも一緒なんてこんな素敵なことはありません!」

「うん。リビアさんならそう言ってくれると信じてた。本当に良かった……私の考えが間違ってなくて」

「カーラさん? 何だかずっと前からこうなるの予測してたみたいな?」

 

 リビアが驚きと嬉しさで興奮を隠しきれないのに対し、カーラの嬉しそうながらもやけに落ち着いた反応に首を傾げる。

 

 

「実はそうなの。予測っていうかこうなったらいいなってアンジェリカ様とお話したことがあってね。

私たちが告白してリオンさんが受け入れてくれたあの日、私とアンジェリカ様、バルコニーで二人お話ししたじゃない? 実はあの時ね、アンジェリカ様にお尋ねしたの。

リオンさんのことどう思ってますか、って。そして若しリオンさんがこの先陞爵されたら、って」

「あの時からもう既に今日のような日が来ることを予見してたんですか!? 凄いですカーラさん!」

 

 そう言ってリビアはカーラの手を取り感激のままその手をぶんぶん振る。

 そんな喜色満面のリビアの手の動きが止まる。

 

 

「どうしたのリビアさん?」

「うん。ちょっと気になったんだけど……リオンさん、アンジェの告白受け入れてくれますよね……?」

 

 言われてカーラの表情も固まる。

 

「リオンさん、私たちが告白した時も一度逃げてるものね……」

 

 途端に不安になる二人。視線を巡らせるとルクシオンに目が留まる。

 

 

「カーラさん、ルク君まで連れてきちゃって良かったのかしら……」

「う、う~ん。でもアンジェリカ様二人切りにしてくれって仰ったわけだし。流石のリオンさんもあの時とは違うわけだし、私たちの時みたいに逃げたりは……」

 

 二人とも不安の色が滲みだす眼差しでルクシオンを見た。

 その視線は何処かルクシオンに答えを求めてるかのようでもあり。

 

『やれやれ、私のマスターは相変わらず信用がありませんね』

「い、いえそんな事ないです! リオンさんの強さと優しさを信頼してます!」

「ルク君、私もリオンさんの人柄は信頼してます!」

『その一方で恋愛方面に関しては不信感を抱かれてるようですが?』

 

 言われて二人とも押し黙る。

 

『そんなに心配ならマスターの部屋に戻られては?』

「それは出来ません! アンジェリカ様を信じると申し上げた以上は! そしてリオンさんを信じます!」

「私もアンジェとリオンさんを信じて待ちます!」

 

 そうして二人は揃って頷くと、祈る様に互いに手と手を取り合うのだった。

 

 

 

 

 

 リオンの部屋。

 

 カーラがリビアに加えルクシオンまで連れて行ったため、リオンはアンジェと二人切り。

 

「アンジェ、どうしたんだ? 二人きりで話したいだなんて?」

 

 言いながらリオンは何となく察していた。と言うよりこの雰囲気に覚えがあった。

 それはリビアとカーラに告白されたときのこと。

 

(まさか告白!? いや、でもそんな……)

「リオン」

「ハイ……!」

 

 リオンの戸惑いを打ち破るかのように発せられたアンジェの声に思わず返事をする。

 アンジェの顔を見ればやや強張った緊張がうかがい知れるような顔で頬もわずかに紅潮してる様に見える。

 その表情に疑問が確信に変わっていく。

 そしてアンジェは意を決して言葉を紡ぐ。

 

 

「リオン、好きだ。私とも結婚を……婚姻を、婚約を結んで欲しい!」

 

 アンジェの告白にリオンは硬直してしまう。

 

「え、えっと……ちょっと待って」

 

 言ってリオンは片手で顔を覆いもう片方をアンジェに向かい手の平を向ける。

 そうしてしばらく黙り込み紡ぐべき言葉を探す。

 

 

「その……婚姻とはいっても、俺は子爵でアンジェは公爵令嬢で……」

「それについてはリオン、公国軍を返り討ちにし敵総司令の王女まで捕縛したお前の今回の働き、十二分に陞爵に値するものだ。子爵ではなく伯爵なら公爵家の私とも十分釣り合いがとれる」

「あ……」

 

 言われてリオンは気付く。戦ってる時はみんなを護ることで頭が一杯で気付かなかったが、あれだけの功績で陞爵しない方がむしろあり得ないことに。

 子爵と言う今の爵位でさえ手に余るというのにそこから更に上がって伯爵など勤まる自信がない。

 

 

「貴族と言うのも難儀なものだな……。爵位やしがらみに縛られ自分の気持ち一つままならぬのだからな……」

 

 そう呟いたアンジェの声にリオンは我に返る。

 アンジェに視線を送ればその頬は先ほどよりさらに赤みを増し、心なしか瞳も潤んで見える。

 

「それって……爵位を理由にずっと気持ちを抑え込んでいた、ってことなのか?」

「そうだな……。正直お前が男爵だったころはそこまで意識したことなかった。

いや、無意識に気持ちに蓋をしてたのかもしれないな。

ハッキリと意識し始めたのはお前が子爵に陞爵してから、だな。若しまた陞爵したら……そんな事を考える時が増えた。まぁ出世したくないお前にとっては迷惑かもしれんが」

「そ、そんな事……」

 

 リオンはそんな事ないとは言い切れなかった。やはり出世したくないという気持ちは心の奥底に強く根付いてるため。

 その一方で、自分を気遣いそんな思いを口に出さずずっと仕舞い続けてきたアンジェの気持ちを無碍にすることも出来ず。

 考えがまとまらずリオンは黙り込む。

 アンジェもしばらく黙り込んでいたが、やがて口を開く。

 

「お前がカーラとリビアと婚約を結び子爵へ陞爵し、それはお前にとって劇的な変化だったろうが、私の心にも少なからぬ変化を与えてくれた。一番は、羨望……だろうな。

お前がカーラやリビアに愛情を注ぐ姿に、また二人からも同様にお前に愛を向ける姿をいつも微笑ましく見守らせてもらってたが、同時に羨ましくもあった。

だが勘違いしないで欲しい。別に妬んだりはしていない。リビアもカーラも二人とも私の大事な親友だ。二人の幸せそうな姿を見守るのは私にとっても幸せなひと時だ。

だがな……やはり心のどこかで寂しくもあったのだ。四人一緒にいてもお前にとって二人は恋人、私はただの親友……」

 

 アンジェの言葉にリオンは自分が全く気付かなかったことに胸が痛む思いがした。

 リオンの表情に心中を察したのかアンジェは寂しげに微笑む。

 

「お前が気に病むことではない。気持ちを悟らせぬよう心の内を見せなかったのは私なんだから……いや違うな、それでも心のどこかで気付いて欲しいと思っていたのかもな。

そしてカーラやリビアに向けてる愛を私にも向けて欲しいと……我ながら勝手なものだ……」

 

 そう言って自嘲し遠い目をしたアンジェにリオンはかけるべき言葉が見つからなかった。

 暫く二人とも口を開かず無言の時が流れる。

 

 

「なぁリオン。やはり陞爵は嫌か?」

 

 アンジェの問いにリオンは答えに詰まる。

 本音を言えば出世や陞爵は御免被るところ。だが今それを口にするのはアンジェの思いを拒絶することに他ならない。

 そう思い、はたと気付く。拒絶を選べない、ということはアンジェを受け入れたいと思ってるという事なのか、と。

 

(俺は、アンジェのことが好きなのか……?)

 

 好きか嫌いかで言えば当然好きだ。大好きだと言える程大切な親友だ。だが――果たしてそれは恋愛と言う意味での好きなのか?

 リビアとカーラに向けるような狂おしいほどの愛しい想いが彼女に対しあるのか?

 アンジェがリオンに向ける想いに応えるほどの熱量があるのか?

 

「リオン……。出世が嫌なら、階級が上がるのは止められないが、陞爵だけなら何とかならなくもないぞ?」

 

 アンジェのその言葉は子爵に留まれるという意味に聞こえる。

 出世を望まぬリオンにとっては本来なら願っても無い話。だが――

 

「待ってくれ。アンジェは俺との婚姻が望みじゃなかったのか!? それなのに俺の陞爵を無しにしたりしたら……」

 

「そうだな……お前が子爵のままなら折角のこの告白も無意味なものになるな。だがな、陞爵を望まぬお前の意を無視して婚姻を望むのはやはり違う気がしてな。

だが安心しろ。お前が陞爵を拒否したとしてもその事でお前を責めるつもりはない。私に選ばれる魅力がなかった。ただそれだけだ」

 

 そう言ってアンジェは何処か寂しげな笑みを浮かべる。

 リオンの方は黙ったままで、それは言葉を見つけられず戸惑ってるようにも見える。

 

「だがな、それでも望まずにはいられないんだ。陞爵の件と秤にかけて、それでも私を選んで欲しいと」

 

 そう言ったアンジェの頬はさらに熱を帯び瞳は潤み揺れていた。

 そしてアンジェは意を決し想いを口にする。

 

「思えばマリエとその代理人の王子たち五人に決闘を申し込んだ時、誰も私の味方になってくれず孤立無援の中たった一人お前が名乗り出てくれた時から好きからだったのかもしれないな。

いや、正確には少し違うかな。あのときは真にそれがどんなにありがたかったか私自身も気付いていなかったのだろう。殿下に拒まれたことばかり気にして。

だから本当の意味であの時寄り添ってくれたリビアとお前に感謝の気持ちと好意を抱くようになったのはそれより少し後からかもしれないが、その時からずっと好きだったんだと思う……

いや断言しよう。あの時からずっと好きだった。お前はリビアとカーラにとっても騎士で英雄で勇者だが、私にとってもそうだ。

お前は私にとっても騎士で英雄で勇者で、世界でただ一人愛する男だ! リオン、あらためて告白する。お前が好きだ! 私とも婚姻を結んでくれ!」

 

 再び告白を告げたアンジェは、熱い思いを込めた瞳で真っすぐにリオンを見詰めるのだった。

 リオンもまた正面から視線を受け止める。だがその口は噤んだまま。

 そうして二人見詰めあったまま無言の時間が流れる。

 どれくらい時が流れただろうか。アンジェが諦めたような寂しげな笑みを浮かべる。

 

 

「どうやら私は振られてしまったようだな……。分かった。陞爵しないで済むよう手を尽くしてみせよう」

 

 そう言って背を向け、一呼吸おいて言葉を続ける。

 

「リオン……頼みがある。出来れば、今後も変わらず私とは友人で……」

 

 アンジェの肩は、そして声も震えその声は嗚咽交じりの――

 

「アンジェ!」

 

 リオンはベッドから飛び降りアンジェを背後から抱きしめる。

 

「リオン……お前は優しい奴だな……。だが同情はいらんぞ……。優しさも時には残酷――」

 

「違う! そうじゃない! いや、その……俺もなんて言っていいか分からないんだけど……とりあえず伯爵への陞爵は受け入れるよ……」

 

 その言葉にアンジェは目を見開き振り返る。

 

 

「リオン……それはつまり……」

「待ってくれ……俺もまだ整理がつかないんだ。アンジェ、お前という人間を好ましく思ってるこれは本心だ。そして凄く魅力的な女性だと思う。

だけど……そこに恋愛感情があるのか正直自信がないんだ……。そんな気持ちのまま告白の返事だなんて失礼なんじゃ……。

でもな……お前の震える背中を見た時、そのまま行かせたくないって思ったんだ……。その為なら望まぬ陞爵だって受け入れられる、って。

お前との縁を、繋がりを失いたくないんだ。その為に婚姻が必要ならそうする、って……。いやスマン、やっぱ告白の返事としては無いよなこんなの……」

「それは……受け入れてくれたと捉えても良いのだな……?」

 

 アンジェの問いにリオンは気まずそうな照れくさそうな顔で頬を赤らめながら頷く。

 

「悪い……意を決して告白してくれたのにこんな格好悪い返事で……」

 

 リオンの言葉にアンジェは微笑みを浮かべ答える。

 

「十分だ。私の想いを受け入れてくれた。ああ、それだけで十分だ……。ありがとう……リオン」

 

 アンジェは両の手をリオンの胸元に当て、頭も預けるように置く。

 リオンはそんなアンジェを抱きしめようと手を伸ばそうとするとアンジェが顔を上げる。

 それは先ほどまでの寂しそうな雰囲気も不安も振り払った晴れ晴れとした笑顔だった。

 

 

「そうと決まれば覚悟しておけよリオン。何れお前をリビアやカーラと同じくらい私に夢中にさせてみせるからな」

 

 そう言ってアンジェは右手を人差し指と親指を立て拳銃のように形作り、その人差し指をリオンの胸に当てウインクしてみせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 その頃のカーラの部屋。

 

「だ、大丈夫かなぁ、アンジェリカ様とリオンさん……」

 

 言いながらカーラは部屋の中をグルグル回っている。

 カーラはアンジェの告白に対し幾分か自分が後押しした自覚があった。そして敬愛する主の恋の成就を誰よりも切に願っていた。

 その一方でもし失敗したらと言う心配懸念も拭いきれず、そして若し告白が失敗に終わった場合そこに責任感を感じずにはいられない。

 失敗して落ち込んだ場合一晩中でもそれ以上でも寄り添い慰める覚悟はある。

 その一方で、リオンと想いが通じ合ってる自分にその資格があるのか、むしろ傷口に塩を塗ることになるのでは、と言う葛藤。

 

 

「カ、カーラさん落ち着いて……?」

 

 そんなカーラをなだめようとリビアが声をかける。

 

「う、うん、ありがとうリビアさん。そうよね私が思い悩んだってしょうがないわよね……。それは分かってるんだけど……」

 

 言いながら頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。

 

「あ~~っもうっ! 正直自分の告白の時よりやきもきする~~っ!」

 

 今度は頭を抱えたまま立ち上がる。

 

「カ、カーラさんっ。そういう時は深呼吸ですよ! 息を大きく吸って……吐いて……」

「そ、そうね……! 深呼吸ね……! うん……」

 

 そしてカーラは大きく深呼吸すると少しは気分も静まったよう。だが――

 

 

「あ~~ん! でもやっぱり気になる~!」

『そんなに気になるなら、やっぱりマスターの部屋に向かわれてはどうです?』

「ですから! それだけはダメです! アンジェリカ様とリオンさんを信じて待つって決めたんですから!」

『その割には言葉と行動が一致してないように見受けますが?』

 

 ルクシオンの言葉にカーラは思わず涙目になる。

 そんなカーラをリビアは抱きしめ、なだめながらルクシオンを諫める。

 

「ルク君! カーラさんのことあんまり煽っちゃ、メッ!ですよ!」

『失礼、私も少々意地の悪い言い方をしてしまったようですね。それに、もう思い悩む必要もなさそうですよ』

「それって……?」

『ハイ。ただ今アンジェリカはこちらの部屋へ向かってきています。どうやら結果は……』

 

 ルクシオンはそこで言葉を切った。そして赤いレンズを二人に向ける。

 

『お聞きになりたいですか?』

 

 その言葉に二人は揃って首を左右に振る。

 

 

「い、いいえ! どちらの答えでもアンジェリカ様ご自身の口から聞きます!」

「私も! アンジェから直接の答えを待ちます!」

 

 そうして二人見詰めあい頷き合うと瞳を扉に向けるのだった。

 そうして待ち続けるように見つめてると扉をノックする音が響く。

 

 

 

「カーラ、居るか? 私だ」

 

 アンジェの声が聞こえるとカーラすぐさま駆け寄り開ける。

 

「アンジェリカ様! ど、どうなりました?」

 

 間髪置かず開かれた扉と真剣な瞳のカーラにアンジェは一瞬面喰うも、直ぐその顔は微笑みに変わる。

 

「受け止めて貰えたよ私の想い。そういう訳だから今後ともよろしく頼む。これからは同じリオンの婚約者としてな」

「おめでとうございます!」

 

 アンジェの言葉にカーラは感極まったという感じで抱き着く。

 その後ろからリビアが顔を覗かせながら口を開く。

 

「おめでとうございますアンジェ。カーラさんずっと心配してたんですよ。リオンさんが断ってたら、私たちの時みたいに逃げてたらどうしようって」

 

 どこか悪戯っぽい笑みを浮かべながら言ったリビアの顔にアンジェも微笑みで返し、そして背後に視線を送る。

 

「だ、そうだ。リオン」

 

 言ってアンジェが視線を送った先に居たリオンは照れくささと、ほんの僅かな気まずさが混じった顔で立っていた。

 

「リオンさんも! アンジェリカ様の想いを受けとめてくださってありがとうございます!」

 

 アンジェに抱き着いたままカーラはリオンに語り掛けると、リビアも言葉を継ぐ。

 

「リオンさん、アンジェの思いに応えてくださってありがとうございます」

 

 リオンは照れくさそうな笑みを浮かべたまま二人の元にやってきてその頭を優しく撫でてやるのだった。

 

 

「そう言えばカーラとリビアは知ってたのか? アンジェが告白すること」

「私は先ほどカーラさんから教えていただきました。カーラさんは大分前から御存じだったみたいですよ」

 

 リビアの言葉にリオンは傍らのカーラを見る。

 

「そうなのか?」

 

 リオンの問いにアンジェが答える。

 

「ああ、むしろカーラに背中を押してもらったともいえるな」

「背中を?」

 

 言いながらリオンの脳裏に浮かんだのはカーラから、そしてリビアからも告白を受けた日の事。

 

(そう言えばリビアの告白もカーラに背中を押してもらってのことだったんだよな)

 

「カーラ、お前大した奴だよな。独占欲とか、そういうの無いんだな」

「独占欲ではありませんけど、私は自分のこと思ったよりも欲張りなんだと思ってますよ」

「そうか? 欲張りなら俺のこと独り占めしたいとか思ったりしないか?」

「逆ですよ。リオンさんも――」

 

 言いながらリオンの手を取る。そしてそこにアンジェとリビアの手も重ねる。

 

「アンジェリカ様も、リビアさんも、みんな欲しいと思ったんです。ね? 欲張りでしょ?」

 

 そう言ってその上に自分のもう片方の手を重ねる。

 重なり合った四人の手。

 それは正にカーラが思い描く理想の形。

 いつまでも四人一緒に居たい。

 かけがえのない宝物。

 

 それがカーラの、そしてリオンの、アンジェの、リビアの、全員の望み願い。

 

 四人固く手を取り合い、何時までも共にいたいと願うのだった。

 




やっとこさアンジェの婚約フラグ回収完了です

第一章ラスト以来の大きな区切りです
そういう意味では第二章完とも言えますが、この続きを三章とすべきか引き続き二章か迷ってます。
この後、公国側のフラグ回収なども残ってますしね。

ただ、これよりしばらくお休みいただきます申し訳ありません

代わって、アンジェが平民に、リビアが公爵令嬢に入れ替わる新しいIFの物語の連載を始めました
此方もお読みいただければ嬉しいです

今後とも私の創作活動にお付き合いいただければ幸いです
引き続きご愛顧お願いいたします

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  • ヘルトルーデ
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