「無理……してたんですね」
ベッドに横たわるカーラの手を握りその寝顔を見つめながらリビアが呟く。
パルトナーに乗る前からカーラは気丈に明るく振舞っていた。だが考えてみれば無理もない。
今まで恐怖と共に支配されてきた伯爵令嬢に反旗を翻そうというのだから。
首尾よくリオンが伯爵家を潰してくれれば問題ない。
だが若し失敗したらどんな報復が……そんな恐怖は常に心の中にくすぶり続けてたのだろう。
横たわるカーラを見つめるリオンは己の浅はかさに対し苛立ってた。
空賊相手にいい気になって暴れ回って、だが倒したのは結局先遣隊で全体の一部に過ぎない。
本隊を潰さない限りは問題解決にはならない。
だがそのことに対し、単なるイベント消化程度しか考えて無かった事に気付かされる。
カーラにとっては自分のこの先の人生を左右する程の一大事。
恐怖と不安に押し潰されそうになりながら必死の思いでリオンに縋ってきたのだ。
そんなカーラの想いに対しリオンは自分が軽くしか考えて無かったことに気付かされ自己嫌悪に陥る。
「俺の……せいだ。俺がもっと気を回してやれてれば」
「そんな、リオンさんは……」
言いかけてリビアは言葉を続けられなかった。ここでリオンをかばうのは逆にカーラを責めるようで、そんなこと出切る筈も無く。
「俺はカーラさんのこと解ってやれていなかった。解ってやれたはずなのに……」
「リオンさん?」
「リビア、以前話したことあったよな。俺が、親父の本妻のババァの命令で五十過ぎの後家の婿にされそうになった事」
「ハイ。酷い話だと思いました」
「同じだよ、俺もカーラさんも。片や本妻のババァに、片や寄親の伯爵令嬢に、生殺与奪の権をクソみてぇな女に握られ逆らうことが出来ない……。
その辛さ俺は誰より分ってたはずなのに……なのに気付いてやれなかった」
そう、上級貴族の女に逆らえず無理やり従わさせられる辛さ惨めさと言う点ならリオンは誰よりも良く解ってた筈だった。
リオンはそんな境遇から抜け出す為に命がけでロストアイテムのルクシオンを手に入れたのだった。
それは体を張って命がけで手に入れた対価。
確かに自分で体を張ったリオンと人に命運を託したカーラとは違うかもしれない。
だがそれも前世の知識あってのこと。
若し前世の知識が無ければ命を賭ける賭けない以前に方法すら見出せずリオンも詰んでただろう。
そう言う意味ではリオンとカーラの間に何の違いがあるというのだ。
「クソッ……何やってんだよ俺は……!」
カーラの憔悴し切った寝顔にリオンは自責の念に耐え切れず部屋を後にする。
「バルトファルト! ここに居たのか!」
部屋を後にしたリオンの元に駆け寄ってきたのはブラッドとグレッグだった。
何の用だとリオンが口を開く前に二人が口を開く。
「頼む! 次の戦いには僕達も参加させてくれ!」
「空賊たちの本隊は未だ残ってるんだろう? だったらチャンスだ。これを逃したくねぇ!」
だがその言葉にリオンは不快感を露にする。
「チャンスだ? まるで未だ空賊が残ってるのが嬉しいみたいなふざけた言い草だな?」
「そんなつもりは! いや失言だったな、すまん」
リオンに咎められグレッグは謝罪を述べる。次いでブラッドが口を開く。
「だが僕達にも面子ってものがあるし男の意地もある。だから……」
「面子? 男の意地? くっだらねぇ そんな自己満足の為に連れてけってか? 冗談じゃねぇ」
その言葉にリオンは切り捨てるように言葉を吐いた。
リオンの言葉にブラッドはカッとなる。
「な!? くだらないだと!? だったら君はどうなんだ! カーラさんに泣きつかれて受けたそうじゃないかこの空賊退治。
その女の寄親が誰か知ってるのか!? ステファニー・フォウ・オフリー伯爵令嬢。忌々しいが僕の元婚約者だが醜聞だらけの酷い女だよ。
そんな女の取り巻きだよあの女は」
「何が言いたい」
ブラッドの言葉に問い返すリオン。その声は酷く低く底冷えするような響き。
だがブラッドはそれに気を止めるでもなく話し続ける。
「この依頼だって裏に何が隠れているやら。そもそも僕は最初受けるつもり無かったんだ。
そしたらあの女、僕の婚約破棄の件を匂わせて協力求めてきたんだ。ズルいやりかたさ寄親ソックリだよ。親が親なら寄子もって……」
「黙れ! お前にカーラさんの何が分る!」
リオンの怒声がブラッドが最後まで語るのを許さなかった。
「カーラさんが……! カーラが好き好んであんな女の取り巻きをやってるとでも思ってるのかよ!?」
そしてその胸倉を掴み、怒りのままに壁に叩きつけた。
「お前らの様なボンボンに! 上級貴族の女に生殺与奪の権を握られた俺やカーラの気持ちが分ってたまるか!」
その時扉が開いた。リビアだった。
「あの……寝てる人が居るんです。だからお静かに願います」
リオンはブラッドの胸倉から手を離しリビアの元に歩み寄る。
「すまん、取り乱した。ところでカーラは……」
「未だ眠ってます」
「そうか……引き続き側にいてやってくれるか」
そう言ったリオンの声は気遣いが感じられる優しいものだった。
そんなリオンにリビアは優しく微笑む。
「勿論です」
「頼む」
そうしてリオンはその場を後にする。
「待て! バルトファルト話は未だ……」
言いかけたブラッドの前にリビアが立ち塞がる。自分の口の前に人差し指を立てて見せる。
その仕草にブラッドは口を噤む。
リビアはそれを確認するとそのまま部屋に戻り扉を閉めようとする。
「ま、待ってくれ。バルトファルトが何であんなに怒ってたのかよければ教えてくれないか?」
ブラッドは声を押し殺してリビアに頼み込む。
リビアはそんなブラッドに冷たい視線を向け、溜め息を一つつくと「どうぞ」と部屋へ入れる。
「寝てる人が居るんです。くれぐれもお静かに」
リビアは二人を連れ部屋に入ると隅の方に向かい二人にもついてくる様促す。
ベッドから離れた位置で、それでいてベッドに眠るカーラが視界に納まる位置取り。
そして二人に話した。学園祭初日カーラがリオン達のクラスの喫茶店にやってきた事。
それから先程倒した空賊が先遣隊に過ぎず、未だ本体が残ってる為オフリー伯爵家を潰しカーラを開放するという目的が成ってないこと。
それを伝えた直後気を失ってしまった事。
話し終わった時ブラッドとグレッグは非常に気まずそうな表情をしてた。
「話は終わったので、もう部屋から出てってください」
「待ってくれ。彼女に謝罪したいん……」
「必要ありません。悪いと思うなら、カーラさんの前に現れないでください。
あなたのような、事情も知らないくせに悪く言うような人に私の大切な友人を会わせられません」
「……! 聞こえていたのかっ!?」
リビアは答えることも視線を合わせることもなく扉を閉める。
そうして部屋から追い出された二人はしばらくその場でうなだれるのだった。
リオンがキレました。リビアも静かにキレてます。
今回カーラは臥せってて台詞などありませんでしたが、リオンとリビアのブチキレっぷりから二人がカーラをどのように思ってるかを描けて満足でした。
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