モブせか・カーラ if ルート   作:julas

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8、背中

 リオンが自室に篭り、幾つもの資料と睨み合っててどれくらい時が立ったであろう。

 

『マスター』

 

 ルクシオンがリオンに声をかける。

 

「なんだ? 大したことじゃなければ後にしろ」

 

 だが次に発した言葉にリオンの目の色が変わる。

 

 

『カーラが目を覚ましました』

 

 ルクシオンの報告を聞き終わるか終わらないうちにリオンは部屋を飛び出し走り出していた。

 パルトナーのなか、通路を走りぬけカーラに宛がわれた部屋に辿り付くと勢い良く扉を開ける。

 

 

 

「カーラ!」

 

 部屋に入りベッドの方に視線を向けたリオンは瞬間硬直する。

 リオンの目に映ったのは艶やかな長い紺色の髪をかき分け現れた白いうなじ、そして背中から細いウエストのくびれを経てヒップに至る優美な曲線。

 

「だ、男爵……」「リオンさん!」

 

 その次に目に映ったのはカーラの朱に染まった顔とその隣で絞ったタオルを手にしたリビア。

 

「ご、ご、ご……ごめんなさい~~!」

 

 次の瞬間リオンは脱兎の如く部屋から飛び出していた。

 

 

 

『どうやら背中の寝汗を拭いてもらってたようですね』

「ようですね、じゃねーよ! 見りゃ分るよ! じゃなくてルクシオン! なんで言わねーんだよ!」

『走り出してて伝える間もありませんでしたので』

 

 ルクシオンの言葉に反論出来ずリオンはそのまま熱く火照る顔を両手で覆い座り込んでしまった。

 

「覗いちゃったじゃねーかよぉ……。どうやって二人に顔合わせりゃいいんだよ~」

 

 

 

 そうやって蹲ってるとややあってドアの開く音が聞こえる。視線を向ければリビアが立っていた。

 リビアの顔にはいつもの笑顔ではなく、口元は笑みを浮かべていたが、目が全く笑っておらず無言の圧を発していた。

 リビアは部屋に入るよう無言で手招きする。リオンは背中に冷たいものが流れるの感じながら黙って従うのだった。

 

 

 

「本っ当~~に! 申し訳なかった!」

 

 リオンは額が床に届きそうなほど深く頭を下げていた。

 

「全くもう! リオンさんノックも無しに女性の部屋に入っちゃメッ!ですよ」

 

 リビアの口癖の「メッ!」は可愛らしくてリオンが好む仕草であったが、今はさすがにそれを愛でる余裕でも空気でもなかった。

 対称的にカーラは怒ってはいないようで、と言うより恥ずかしがって照れてる感じで、戸惑いながら声をかける。

 

「だ、男爵……お、怒っていませんから……。それよりお見苦しいとこお見せしてしまって」

「見苦しいだなんてとんでもない! むしろ眼福で、まるで泉で沐浴する妖精か女神もかくや、って……」

「リオンさん!」

「も、申し訳ない!」

 

 

 

 ややあってリオンはおそるおそる頭を上げていく。

 リビアの方は怒りも大分収まり今は呆れの方が大きい表情か。

 カーラは布団を上げ顔半分まで隠していたが、そこから覗く顔は未だ赤く視線も戸惑い泳いでいた。

 寝汗を拭いてたというコトは服も着替えたのだろうか。

 だが布団で隠され顔半分から下は見えない状況は先程の柔肌を露にした姿を想起させリオンはまた顔が熱くなっていくのを感じる。

 

 

 

「あの、頭を上げてください……それに謝らなきゃいけないのはむしろ私で……」

「そんなことはない……! カーラは何も悪くなんか」

 

 リオンの言葉にカーラは首を振って言葉を紡ぐ。

 

「先の空賊との戦い、男爵は体を張って矢面に立って戦ってくださったのに、本当にお疲れなのは男爵なのに……。

それなのにただ見てただけで戦ってもいない私が気を失って御迷惑おかけしてしまって……」

 

 カーラの申し訳なさそうに声を振り絞り言葉を紡ぐがその声は掠れ消え入りそうだった。

 それは声だけでなく存在そのものまで消えそうに儚く感じられ。

 

「戦ってるよ! カーラは寄親から! あのクソみたいな女から放れようって決心して動いたじゃないか!」

 

 そんなカーラにリオンは一気に詰め寄りベッドに身を乗り出す。両手を伸ばすとカーラの華奢な両肩を包みこむように掴む。

 そして両の眼でカーラの顔を正面から見据えて言葉を続ける。

 

「カーラはあの伯爵令嬢の悪事を、企みを伝えてくれたじゃないか!

上級貴族のクソ女どもが幅を利かせるこの国で、それを決意し実行するのがどれだけ勇気がいるか!

その勇気と行動を戦ってないなんて誰にも言わせねぇ!」

 

 そこまで言ってリオンは気付く。リオンが自分とカーラの距離が息遣いが聞こえそうなほど近い事に。

 

 

「ス、スマン! 気安過ぎた!」

 

 慌ててリオンは両手を肩から離し体ごと向きを変え背を向ける。その後姿は、背中越しに顔は見えないが耳は真っ赤に染まっていた。

 そしてリオンは背中を向けたまま話を続ける。

 

「俺も……上級貴族のクソ女に、俺の場合ウチの親父の本妻のババァに道具扱いされても逆らえなかった……。

五十過ぎの後家に売られそうになったりして……! しかも戦場に行けって、明らかに遺族年金目当ての戦死見越して……!

だから伯爵令嬢に逆らえないカーラの辛い気持ち解るんだ。解る筈だったんだ。それなのに気付いてやるの遅れちまって……」

 

 

 リオンの話を聞くカーラの頬を一筋の涙が伝う。

 

「私……あの女に脅され、逆らったら家ごと潰すって……だから嫌な事命じられても逆らえなくって……。

でもそんな私の辛さを解ってくれる人なんて誰も居なくって、そんな人どこにも居ないって思ってて……。

だけど、男爵はそんな私の辛い気持ち解ってくれて……それが……それが、こんなにも嬉しいなんて……」

 

 何時しかカーラの瞳からは涙が溢れ、リオンの背中にしがみつき顔を埋め声を上げ泣いてた。

 リオンはそんなカーラに泣き止むまで黙って背中を貸してあげたのだった。

 

 

 

 

「申し訳ありません 背中を貸していただいて……」

 

 ひとしきり泣いたカーラはリオンの背中から手を、顔を離す。

 カーラが放れたのを確認するとリオンはベッドから降りてカーラの方に向き直る。

 

「こんな背中でよければいつでも貸すよ。他にも俺が出来ることだったら何でも。

さっき覗いちゃったことのお詫びもあるし……」

 

 言いながらリオンはまた自分の顔が熱くなるのを感じる。

 そしてカーラの顔に視線を向けると、その顔は少し照れた様にはにかんでいた。

 

 

「いえ、そんな……本当に気にしてませんから。あ、でもでしたら一つだけ。

必ず……無事に帰ってきてください」

 

 そう言ったカーラは、とても優しい瞳をしてた。

 

「空賊も伯爵家も潰してやるって仰ってくれたとき本当に嬉しかったです。

でも無茶だけはしないで下さい。必ず無事で生きて帰って来てください。それ以上は何も望みませんから」

 

 カーラのリオンを気遣う言葉を受け、リオンも優しい表情でかえす。

 

「安心しろ空賊は潰す。伯爵家も潰す。そして……約束するよ俺もちゃんと無事に帰ってくる」

 

「リオンさん私も無事を祈ってます」

 

 リビアもまたリオンの無事を願い言葉を紡ぐ。

 

「ありがとう。必ず無事二人の元に帰ってくるから、って今すぐ出るわけじゃないがな。それでも今日明日には出撃する。

その時には、出撃する前にはまた二人の顔を見に立ち寄らせてもらうよ」

 

 言いながらリオンは扉に向かう。

 そんなリオンの背中を見送りながら「あ……!」と何かに気付いたようにカーラが声を上げた。

 その声に反応したリオンが「どうした?」と振り返る。

 見ればカーラが恥ずかし気に口篭ってる。

 そんなカーラを見つめながらリオンが首を傾げる。

 

 

「名前……呼び方……カーラって……」

「あ……!」

 

 カーラに言われてリオンは気付く。ずっと【カーラさん】呼びだったのが何時の間にか【カ-ラ】と呼び捨てになってたのを。

 

「わ、悪い、気安い呼び方しちまって……!」

「い、いえ……そのむしろ嬉しい……です。出来たらそのままそう呼んでいただけたら……」

「そ、そうか。じゃぁ俺のことも男爵じゃなくて名前で、呼んでくれない……か」

「はい……リオン……さん」

 

 言いながらカーラは自分の顔が熱くなるのを感じる、

 そんなカーラを見つめるリオンも自身の顔の温度が上昇してくのを感じた。

 

「また来るよカーラ! その……お大事に!」

 

 そう言いながらリオンは照れくささを誤魔化す様に逃げる様に部屋を後にした。

 

 

 

 

 部屋を後にしたリオンはしばらく早歩きだったが徐々に速度を落とし立ち止まると頬に手を当てる。

 未だ熱が残ってるように感じる。

 そんなリオンの右肩の上にルクシオンが姿を表す

 

『大分良い顔になりましたね。お二人に会う前のマスターは必要以上に精神が昂ぶり視野狭窄に陥ってました。あれでは勝てる戦も勝てません』

「ルクシオン……お前、わざとか?」

『さあ? 何のことでしょう』

「お前は本当にイヤなやつだよ」

 

 だがそう言ったリオンの声色に不快感は感じられず、むしろ信頼が滲み出ているようだった。




ルクシオン『マスターは頭に血が昇りすぎてましたからね。少し下げた方が良いと判断しました。具体的には余分な血を下半――
リオン「ルクシオン!
まさかのラッキースケベ回でしたw

呼び方自体変わったのは前々回キレた拍子からでしたが今回自覚。
互いに心の深いところの傷に触れて絆深まった感じ書けて満足でした。

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