オールドタウンに入るためには基本的にケーブルタクシーを使う必要がある。
定点同士なんだからタクシーって呼ばないのでは? と思ったがここではそう呼ぶらしい。
しかし、空を飛べるポケモンがいれば話は別だとか。
そういうわけで女子4人はリザードンに運んでもらう話になった。
リザードンは4人まで乗れるが、俺と荷物を乗せたら流石に飛べない。
じゃあ俺はどうするのん?
俺は、ケーブルタクシーを利用することになった。
「あはは、おそ〜い!」
ケーブルタクシーってのは鋼鉄製のワイヤーを伝っていくのでそこまで速く無い。
というか揺れてて危機感がヤバい。
誰だよこんなクソシステム考えたやつ!
しかも4人はゆっくり登っている俺をわざわざリザードンで並走して煽っている。
その上、4人だけじゃ無くて他にひこうタイプのポケモンに乗っている奴らも、俺の近くまでわざわざ来て俺を見ていく。
何なんだお前ら! 人のこと見て笑いやがって!
「ケーブルタクシーなんて今時使う人いないよ、知り合いに迎えにきて貰えばいい」
レッド! 何でソレが分かっててタクシーの話したんだ!
「面白いから」
俺を何だと思ってんだお前は!
お前ら覚えとけよ! 俺もこの街で友達作ってひこうタイプで自由に行き来できるようになってやるからな!
……あれ、そういえば俺ってこの世界にほぼ友達いないんだ。コイツらは仲間だしテッセンさんは恩人だし、カムイはよく分からないし……
ヒガンくん! 俺も友達ヒガンくんだけだったわ!
どうせ撮影してんだろ? 喜べヒガンくん! ヒガンくんが俺の友達1号だ!
もうこうなりゃヤケだ! そこの自撮りしてる女ァ! ピースピース! はい、俺のこと撮ったからお前も友達!
お前も俺と目があったから俺と友達!
お前も! お前も!
結局、ケーブルタクシーを上り切るまでに20人と友達になってしまった。
すまんなホシノ、俺の魅力が高すぎて友達増えちゃったよ。
この調子でいけば1日で友達100人も全く夢じゃ無い。すれ違うやつを片っ端から友達にしていけばいいんだから。
おっ……君、なかなかいいメガネをしているじゃないか、俺と友達になろう!
「ヒッ……」
ははは、何を怯えているんだい? 俺の名前はポケモントレーナー、さあ友達になろう、今、ここで。
あいてっ。
「いきなり知らない子を壁に追い詰めて、ナンパを超えたホラー体験を植え付けるのはやめなさい」
ホラー体験?
ただ友達になろうとしているだけのこれのどこがホラーなんだよ。
なあ?
「…………キュゥ」
あれ、寝ちゃった。
大丈夫か? おーい。
疲れていたようだ、放っておいてあげよう。
おや、このロコンはこの子のパートナーかな?
可愛いなあ、ほーれこっちおいでー……いだっ! か、噛まれたぞ……
なかなかポケモンってのも難しいな。
それにしても……あんな物まで浮いてるのか、この街は。
おそらく街の中心にあるであろうスタジアム。宙に浮かんで、繋ぎ止めているのは鎖だけか。
とりあえず宿探すぞ宿!
──────
そういうわけで宿を探して繁華街を練り歩く。
空中都市なのにめっちゃ人がいる。どうやらオールドタウンは結構人気のある街らしい。
……人気の無い街に出会したことが無いんだが?
だが、レッドたちに聞くとそんな街も実際あるらしく、こんなに活気のある雰囲気では無いらしい。
まあ、田舎の街ってそんなモンだよな、今のところ当たりばっか引いてる……というか、そういう街を狙って進んでいるんだろうな。
俺は着いてきているだけだから街選びは任せてるし。
街の至る所には珍しくもディスプレイが浮遊しており、ポケモンバトルの様子を伝えている。どうやら、街の中心のスタジアムで、トーナメント形式の大会の予選を開いているようだ。
なんかすげえポケモンっぽい!
俺も参加しよう! な、ホシノ、良いだろ?
「ええ〜? おじさんちょっとはゆっくりしたいんだけどな〜」
ここに、何でも言う事を一つ聞く券があります。
「もらい〜!」
ふふふ……ソレを受け取ったという事は、我との契約は為されたという事だな?
「はっ……!? だ、騙された〜!」
いや分かってただろ、一瞬で持っていきやがって。
「うへへ〜」
ちょいちょいと突かれる。
ナギ、どうした?
「私のは?」
いや、君はポケモンじゃ無いでしょ、ホシノにはご褒美であげるというか……そ、そんなキラキラした目をしても俺は屈しない!
「ママー、あのおじさん何言ってるのー?」
「見ちゃダメ、ポケモントレーナーっていう変質者だからね……近寄っちゃだめよ」
ポケモントレーナーを変質者の代名詞みたいに言うな! あと俺はおじさんじゃ無い! お兄さんだ!
「ちょうだい?」
…………はい。
ほら、お前らも一枚ずつあるから。
「あー私にだけ働かせるんだー! ひどいよ〜」
じゃあホシノは2枚ね。
……不公平とか言わない!
ホシノと腕を組んで歩く。なんか、出店も出てるし風船とか飾ってあったりして良い街だな。
街全体が祭りみたいな感じの雰囲気を醸し出しており、日本の夏祭りを思い出しておおらかな気持ちになってしまった。訪れる人もそんな感じなのか、サインやツーショットを求められる回数が異様に多い。
人類皆友達計画発動中の俺は、今回だけは許してやろうとツーショットの撮影には応じた。
え? サインもお願いします?
いやです、サインは手が疲れるから。そこを何とか……なりません!
契約外の事は致しません!
パートナーと一緒に歩いているポケモンも小洒落た格好をしているのが多く、ホシノのような人型のポケモンも相当数いた。
ホシノ、ほらあれ、あの輪っかホシノとすげえ似てるな。
「ほんとだね〜」
ホシノはあんまり興味無いらしい。自分の頭の上に輪っかが浮かんでて気にならないとかあるのか? 俺だったら寝てる時に枕にめり込んだりしないかとかすげえ気になるんだけど。
「生まれた時からあるからね〜」
なるほど……
ちょっとそこの君良いか? その輪っかについて聞きたいんだけど。
おっと失礼。俺はポケモントレーナーというものだ。
うん? そう、ポケモントレーナー。いや、俺の事はいいんだけどその天使の輪っかについて聞きたくて……あ、ちょっと、押さないで……ホシノ!? 今俺が話してたのになんでグイグイ押すんだ!
え? ホシノのを好きなだけ触ればいい?
ホシノのは既に触ろうとした事あるけど触れなかったじゃん……まあ良いけどさ。
ほら、触れな…………触れる!?
嘘だろ、何で触れるようになってんだ?
この街のサイコエネルギーの影響か?
ええ……変な手触りだけど、スベスベで触ってて気持ちいいわ。
なんかこんだけ薄いと自由に操れたら気円斬ごっこできそうだな。
おい、もうちょっと触らせろよ。
……手つきがいやらしい? いや、やめてくれる? そういうの。
顔を赤らめるのもやめろ。まるで俺が本当にいかがわしい事をしてるみたいに見られるだろ。
……ほら、また注目されちゃった。
解散、かいさーん!
それにしても、スタジアムバトルに早く参加したい。さっさと選手登録するために宿に行こうぜ!
暫く進むと、レッドが探していたという宿に着いた。ほえー立派な宿……まあとりあえず部屋が空いてるのか確認するか。3部屋くらい空いてるよな?
……予約してある? パーフェクトだ、レッド。
チェックインしようか。
インパーフェクトだ、レッド。
なぜ部屋を一つしか取らなかった。
旅館では確かに家族部屋に移ったけど、ここでまで一部屋とかどうなっとるんや!
同じ部屋で寝るのも今更だから良いじゃんって…………俺が男だって事を完全に忘れてるな、こいつら。
まあ良い、支払いさえできれば別の部屋を取れば良いだけだしな。
でもここで試練を受けるのってむずくね? 一々降りなきゃいけないんだよな?
……試練は受けられない?
一体どういう事だ! まさか、空を飛べなきゃ試練受けられないとかか!?
…………ジ、ジムが無いぃぃ!!??
え、じゃあここって何なの?
本当にただ発展してるだけの街!?
ジムリーダーって街の防衛とか担ってるんじゃないの!?
空を浮いてるからほぼ気にしなくて良いって、そんな無茶苦茶な……
ん? つまり、俺は日銭を稼ぐことが……できない……? というかお前らも稼げないのでは。
……大会で勝てば金がいっぱいもらえる?
そういう場所なの?
じゃあ稼いで宿代にするか……
「私は協力しないからね〜」
う、裏切り者ぉ!
──────
結局同室になることを認め、部屋に入ると結構な広さだった。
なにせ5人が使える部屋だ。
これ、お高いんでしょうなあ……
「3部屋も取るよりは安い」
……この問答はもう良い、これからは同室でいいよ。
一々反論するのもアレだし。
レッドは小さくガッツポーズをした。
「よし」
じゃあ俺は窓際のベッドいただきー!
ふほほほ、フカフカだぜ! 悪いなお前ら、このベッドはリザードンとヒーホーくんと俺の3人用なんだ!
「ずるい」
「日向ぼっこは私のものだ〜!」
おい、飛び込んでくるなああ!! ぐえええ!!
「……私も飛び込んじゃいます!」
「えいっ」
ぐわあああああ!
アイリとナギも後からフライングプレスを浴びせてきやがった!
ベッド決めでわちゃわちゃした結果、俺の場所は一番窓から遠いベッドになった。
どうして……
──────
『予選5日目、第一回戦! 赤コーナーから出てくるは、現在試練四年目、バッジも6つ手に入れたヤマキ選手! このバトルトーナメントで入賞経験もあります! 対して青コーナーからは初参加のホシノ選手! 試練は六年目! バッジは5つ……いえ、ヤマキ選手と同じく6つ手に入れたとの事です!』
『ヤマキ選手はエリートトレーナーとして推薦されており、活躍が期待されます! 一方のホシノ選手はつい最近までバッジ3つだったのが、破竹の勢いでここまで来たとのこと!』
『さあ、一体どんなバトルが繰り広げられるのか! お互いのパートナーも入場します! ヤマキ選手のパートナーはドサイドン! 高い防御力を持ち味としたモンスターで、生半可な攻撃は通しません! 対して赤コーナーは……ポケモン……トレーナー? ……ああいえ、失礼しました! ポケモントレーナーは人間で、ええと、ホシノ選手に指示を出して戦わせるそうですね!』
ざわつく場内を気にせず、ポケモントレーナーは歌っていた。
「新しい街、僕らは進む〜輝く時のなーかーでーふんふんふんふーん、甘くないさバトルはいつだって、辛い苦い渋い酸っぱいね、ふんふふふーん……」
「トレーナー、機嫌良いね〜?」
「ああ、この雰囲気……まさに劇場版だな、すげえ懐かしいよ」
「うへ〜また変なこと言い出して……」
ポケモントレーナーは、昔観に行った映画のことを思い出していた。サトシが伝説のポケモン達と繰り広げる冒険譚。大体は冒頭にバトルのシーンが入る。
当然、伝説の〜なんてそんな展開にならないのは分かっているが、あの時のサトシはこんな気持ちだったのだろうかと感慨深い気分にもなる。
ジム戦とは違い、バッジを求めるための戦いでは無いが、モチベーションが高まるのを感じていた。
『さあ、両者出揃い、ドサイドンとホシノ選手が戦闘開始位置につきました! ではみなさん、本日はじめのバトル! レディィィィゴ────!!』
「っしゃあ! 行くぞ、ホシノ!」
「ドサイドン! 蹴散らしてやれ!」
──────
激しく間合いを変えて鎬を削るドサイドンとホシノの戦いを、3人はスタジアム席で眺めていた。
「師匠、楽しそうですね!」
「そうね、私と戦った時より楽しそう?」
「それはない」
明らかに、青年の機嫌が良かった。
指示を出しながら身体を揺らしてノリノリである。
対するヤマキ選手はそれを挑発と取ったのか、ドサイドンに対してより激しく行くよう指示を出した。
ソレでも青年は変わらない。
『ふんふんふーん……ホシノ! 右脇腹をすり抜けて背後から撃て! ……ふんふーん』
『……舐めやがって!』
ヤマキから見れば舐めプに見えるかもしれないが、本人は至って普通に楽しんでいるだけだった。
『ドサイドン! じしん!』
『……おっとっと』
範囲攻撃によりホシノのいる場所まで揺れが広がり、立っていられなくなる。
ヤマキも片膝をつき、次の指示を出す。
青年は揺れと同期してその場に仁王立ちし、先読みしてソレに対応する。
『がんせきほう! 打ち貫け!』
『活路は前だ! 突き進め』
「随分無茶な指示を飛ばすわね……」
ナギの言う通り、生身の人間に出す指示とは思えない内容だったが、青年は信頼していた。
ホシノもそれが綱渡りのような指示である事は理解していたが、自身の役割はトレーナーの指示に従う事だ。
言う通りに射線上からほんの少しだけ軸をずらし、自らを掠めるように飛んでいくがんせきほうを無視する。
がんせきほうを撃ち放った直後の余韻で硬直しているドサイドンの腹にみずタイプのシェルを何度も放つ。
弱点を突かれたドサイドンは吹き飛び、地面に倒れ伏す。しかし、まだ闘志はみなぎっているのか、立ちあがろうとし、舞い上がっていた土煙からホシノが飛び出してきた。
『これで──終わりっ!』
さらに追い討ちのシェルを叩き込まれ、ドサイドンはダウンした。
『ええと、どっちの名前言えば良いんだろ……勝者、ホシノ選手!!』
歓声で沸くスタジアム。
悪態をつくヤマキの元にホシノがやってきた。
「……くそっ!」
「いや〜ヤマキくんだっけ? ごめんねうちのトレーナーが。別に舐めてるわけじゃないんだよ? ただ、バカだからさ〜」
「あ、いえ……」
「ほら、終わったら握手〜」
「は、はい……」
ヤマキは自分よりも背の低い女の子の手を握った。そして、その手の柔らかさに思わず赤面する。
よく見ればホシノはとんでもなく可愛い顔をしていた。ドキドキして、思わず大きな声が出る。
「あ、あの!」
「ん、なに〜?」
「その……電話番号を交換していただけませんか!?」
「……あはは、ごめんね〜。うちのトレーナーがダメって言うからさ〜」
そこにやってきたのはポケモントレーナー。
「ウィ〜!! ヤマキくんだっけ? 良いバトルだった、すごく楽しかったぞ! ありがとな! ……ん? 何の話?」
「えと、ホシノさんの電話番号を……」
「お、モテモテじゃん! 良いねぇ、電話番号くらいあげれば、あいてっ!」
「あはは、またね〜。じゃあ行こっか、トレーナー?」
「何で今つねられたんだ俺……つねられ損?」
ポケモントレーナーのアンチが1人増えた瞬間だった。
どうやら予選の第二試合は一週間後のようで、今日はもう出番は無いらしく、五人で街をうろつく。出店で綿飴を買ったりポケモンの型のお面を買ったりして楽しむ。
「これとコトリタウンの雰囲気が合わさってたら最強だったな〜」
「そうね……アラカゼおじさんにこういう催し物が出来ないか聞いてみようかしら」
「うわ! 権力者だ!」
「ちょっと、そういう反応やめて!」
「カリカリすんなよ、ほら、綿飴食うか?」
「……あむっ」
「美味いだろ、ただの砂糖だけどな。そんでレッド、今はどこに向かってるんだ?」
「特等席」
一行は周囲に比べて背の高い建物の屋上にあるカフェに来ていた。夜間限定営業のカフェらしく、カップル客などもちらほらといる。そんなところに5人でわらわらと来て、しかも一番良い席を予約していたものだから大目立ちだ。
「レッド、お前が予約してくれたのか?」
「うん」
「凄いなあレッドは! それで、ここは何があるんだ?」
「座ろ、お兄さんはこっち」
今回はレッドが予約してくれたという事で誰も何も言わない。
隣に座って肩に頭を預けるレッドとアイリに愛おしさを感じながら、何が始まるのかと楽しみに待つ。もうすでに陽は落ちている。
どうやらあまり待たずにソレは始まるらしい。
ドリンクやサラダ、オードブルなどがテーブルに並べられていく中で、レッドがリュックからものを取り出した。
「はい、これ」
そう言って手渡されたのはタブレットだ。
始まるのか。
画面には多分だけど待機中みたいな文字が並んでおり、カウントダウンが始まっていた。
『3』
『2』
『1』
『0』
暗転し、pv的なのが流れる。
箒に乗って空を駆け巡る映像だ。一人称視点で建物の間やスタジアムの上を飛び回り、輪っかをくぐっていく。
キャンプで見たアレのことか?
「アレはお遊び、こっちが本番」
夜空に花火が打ち上がった。
ドローンかなにかが飛び回り、形を変えて空に選手の姿を映し出す。
正直全く知らないが、ホシノ達も興奮しているところを見るにその界隈では有名なのだろう。
俺はあのドローンショーが素の視力で見えるけど、この建物からだとちょっと遠く無いか? と思ったら他の奴ら全員メガネつけてた。
なるほどね。
タブレットに視線を戻すと、司会があいさつしている。
『さあ、このオールドタウンにて年に一度の大イベント、サイコジェットレースレジェンドシリーズが今年も開かれようとしています! 一昨年、記録更新間近になったところで、謎の爆発により行方不明者が出るという痛ましい事故もありましたが、安全対策を重ねてなんとか開催した去年、そして今年は完全復活となるか! 昼間は前哨戦としてスタジアムでバトルトーナメントの予選が行われました。さて、本日はレジェンドシリーズの方も予選! リポーターのムカイさん、現地の状況はどのような感じでしょうか!』
『……はい、こちらムカイ! レースのスタート地点に現在来ております! 予選にも関わらず、現地はこのように人で埋め尽くされております!』
カメラがリポーターからスタート地点に向くと、テンションの上がった観客がビールを掛け合ったりしていた。
出店から音楽もバンバンに流れており、そっちも楽しそうだなと正直思う。
というか一次予選でこんなに集まるのすげえな。
騒いでる酔っ払いに取材をするリポーター。
『イェーイ! 見てるー? 今年はアラネアが絶対勝つから! 見とけよお前ら!』
カメラの向きが強引に変えられる。
顔と名前が印刷されているTシャツがドアップになった。
『今年はルーチェです! もうね! 絶対そう! あの美しいサイコエネルギーの流れ! わかる? お前ら!』
今度は集合写真を撮っている集団にカメラが向く。全員が一斉に同じことを唱える。
『シャロン選手がんばれー!』
うわあ涙出そう。この光景、テレビで見たなあ……
レッドも応援してる選手とかいるのか?
「わかんない」
レッドらしいわ、アイリは?
「私はリン選手が好きです!」
へー……あ、この選手なのね。
「リン選手は最後の加速が凄くて、サイコエネルギーを絞り出すようにすごい輝くんです! ソレがかっこよくて、去年は4位でしたけど今年は絶対優勝します!」
2人は?
「私はミネルバね、ひこうタイプ使いとして応援してるわ」
「おじさんはホッパーちゃんかな〜のんびりしてるのが羨ましくてさ〜」
へー、色々いるんだな。
『さあ、予選第一レースは間も無く開始! 全16選手がスタート位置につきました! そして……今年の予選コースはこちら! 全長20km、高低差の激しいコースです! 街中も通る為、近くに来たら精一杯応援しましょう!』
画面にオールドタウンの俯瞰映像が映される。
と同時に、上空や建物の横を縫うように、虹色に輝く光が一本の筋となって現れた。
……これはレインボーロード!? レインボーロードじゃないか!
「師匠、これがサイコジェットレースレジェンドシリーズの名物、その年限りのオリジナルコースです!」
分からん! オリジナルじゃ無いコースがあるのか?
「レジェンドシリーズ以外のレースだってありますからね! 決まったコースで時間を競ったりとか!」
TAか、そっちの方がよっぽど競技性高いような気もするけど。
まあ催し物ってことだしな。そういう対応力みたいなのも見るんだろうな。
タブレットからでは無く、現実の方で街のあちこちからドンドンぱふぱふと場のボルテージが上がっているのが聞こえる。
『さあ、この大玉花火が打ち上がると同時にレーススタートです! 花火職人の方にお話を伺ってみましょう! 今年の花火の出来はいかがでしょうか?』
『今年は湿気も少なく、良い火薬を手に入れる事が出来たので素晴らしい花火を見せる事ができそうです』
『だそうです! そして、1分前のカウントタウンが始まりました!』
カメラは出場選手達を次々と映していく。
それぞれがそれぞれに、一様な表情をしているわけでは無い。緊張の面持ちをしている者、リラックスしている者、闘志に包まれ犬歯を剥き出しにしている者。
俺、今映った犬歯剥き出しの女の子好きかもしれない。
観衆もすっかり直前の空気に飲み込まれたのか、静かにしている。
そして──花火が打ち上がり、俺がいる屋上からも大きく見えるほどの箒が弾けた。
『花火と同時にスタート!! まず先頭につくのはミネルバ選手! ひこうタイプのパートナーがいて、空を飛ぶのはお手のもの!』
コースを少女達が滑るように飛んでいくのを配信映像と、俺のハイパー視力の両方で捉える。箒に跨り、コースを形成する粒子を撒き散らしながら飛ぶ様は、確かにサイコジェットの名に相応しいかもしれないな。
惜しむらくはレッド達のようにメガネで臨場感ある映像が見れないことだ。
選手それぞれの一人称視点、三人称視点、俯瞰視点、自由視点をメガネでは楽しむことができるらしい。
だが、タブレットの三人称視点だけでも十分興奮できた。
なにせ、空を箒で飛ぶなんて、魔女宅かハリーポッターを見ている奴なら誰でも憧れるだろう。
俺でさえこれなんだから、ホシノ達なんてとんでもなく興奮していた。
あのレッドでさえ、自分が飛んでいる気になってヤジを飛ばしている。
他に屋上にいるカップル達もそんな感じだから正直ちょっと面白い。
『さあ! 一つ目の難所、垂直に反り立つコース! 水平に飛ぶのと垂直に上がるのでは要求される技術が全く違います! 最初一位だったミネルバ選手は三位に落ち、現在壁を登る先頭にはアラネア選手がいます! 上位入賞を何度も果たしているその操箒技術は確かなもの! このまま良い位置をキープできるのか! 二番手はラクス選手! 歌手としても有名ですが、サイコジェットレースのプロライセンスを持っているのはみなさんご存知でしょう! 一位のアラネア選手を風除けとするつもりなのか、ピッタリと後ろに張り付いています!』
サブカメラに観衆達が映し出される。
先ほどの酔っ払いが拳を振って応援していた。
『うおおおお!!! アラネアアアアア!! いけえええ!!』
すぐさま映像はレースに戻る。
カメラマンが優秀過ぎる。
『さあ、壁を乗り越えた先にあるのはシンプルな直線! 要求されているのは、自身のトップスピードと後のことを考えたスタミナ配分のバランス調整! 濃縮されたサイコエネルギーが選手同士の操作で掻き乱される中で、いかにして自分の推進力として用いるか。どれだけサイコエネルギーとメガネを使いこなしているか、そしてどれだけ勝ちたいと想い続けられるかが試されます!』
『──おっと! ここに来て、アローハ地方からやってきたミスズ選手が伸びてきた! 黒く焼けた肌が眩しいですね! 彼女はサイコジェットレースの魅力に魅了されてこの地方に引っ越してきたほどの情熱を持っています! その情熱が、サイコジェットの赤い波にも強く現れているようです!』
確かに、ミスズ選手とやらの箒の尾から放たれる粒子は他の選手に比べて赤みが強い。明らかに速いし、本当に気持ち次第で変わるのか……?
『しかし、強い感情を持ち続けるのは人間にとって負担となるのもまた事実! 額に浮かぶ汗は何よりの証拠でしょう! トップ中のトップの選手が鎬を削る中でアレほど突出した速度を得る為の精神の消耗は推して量るべし!』
少し気持ちが前のめりになり過ぎたのか、どうやらオーバーペースだったらしく段々と減速していくミスズ選手。それでも直線で稼いだ分、まだ二位以下との距離は離れている。最後まで逃げ切れるかがこのレースの結果を決めるだろう。
『次は第二の難所、急カーブの連続! ここではどれだけ速度を維持したまま上手く曲がり切れるかが明暗を分けます! プロ選手なら使えて当然のドリフト、練習量がそのまま滑らかさとして現れます! さあ、ミスズ選手がまずカーブに突っ込んだ! 綺麗にカーブを処理していきます!』
もうまんまカーレースだな……でもカッケェわ。
カーブに入ると同時に箒をカーブの中心方向に向けて、尾からサイコエネルギーを吹き出し続けることで向心力と遠心力、慣性を利用する。確かにドリフトだ。
『さあ! ホッパー選手のドリフトが今まさに! 彼女は自身の名がつくほどの高等技術であるホッパードリフトを使いこなす名手! カーブ内でこまめにブーストをかけることで加速を続け、カーブを抜けた瞬間一気に周囲を置き去りにします!』
アレがホシノのお気に入りのホッパーか。確かにのんびりした顔してるけど、ビンビンに溢れてるな、闘志が。
……ソレもそうか、サイコエネルギーが感情の高まりによって励起状態になるなら、それだけ激しい感情を持っていたからこそレジェンドシリーズまで来れたんだ。
つまりあの16人全員、とんでもない感情の持ち主ってわけだ。
「行けー! ホッパーちゃ──ん!!」
ホシノ、ホッパーちゃんの事めっちゃ好きじゃん。
……うおっすげえ、カーブ後に一気に抜け出したぞ。
『やはりホッパー選手抜け出したあ! ミスズ選手を捉えるのはもはや時間の問題だ! 必死に逃げるミスズ選手に、ホッパードリフトを用いてどんどんと迫っていく!』
うーん、凄まじい……これは確かに胸が熱くなるな。他の選手もドリフト技術に問題は無いのにホッパードリフトが使えるってだけでここまで差が出るとは。他の選手は使わないのか使えないのか知らないが、このままだとホッパーが一位なんじゃ無いか?
『……おっとお!? これ以上離されてはたまるものかと全選手がホッパードリフトをし始めた! さすがプロ選手! あの高等技術を使えないなんてことはありえなかった! ただ、流石に本家本元のホッパー選手には叶わないのか粗さも見えますが、それでも大きな差を生むのを阻止! そしてここで、ミスズ選手とホッパー選手が最後の直線に入った! 宙を大きく一回転するギミックがあるのみ! 最後の体力を振り絞れ!』
次々と直線に突っ込んでいく選手。
先ほどのミスズのように、気力を振り絞って赤い粒子を箒から迸らせ、さらにギアを上げていく。
そして、その中でも一等光り輝いていたのはリン。アイリの応援している選手とのことだが、ここからでも眩く感じるほどだ。
『やはり、最後に来たのはこの選手! 勝ちへの執念か! 何が彼女にそこまで強い感情を齎すのか! 煌めく少女達の中で、それでも尚光り輝く綺羅星! サイコエネルギーの輝きが止まらない!』
最後の直線は俺たちのいる屋上の間近も通る。
その感情の煌めきを見せてもらおうじゃ無いか。
ホシノ達もメガネを置いて、向かってくる選手達を見つめていた。
リンは直線に入るまではだいぶ後ろの方に位置していたが、もはや首位交代目前だった。
『やはり速い、リン選手! 昨年初参加した時ですら全体四位を取ったその強さに磨きがかかっている! 金髪を靡かせて、今まさにゴーーーール!!』
「やったーーーーーー!!!!」
アイリが飛び跳ねて狂喜乱舞。
確かに、あの輝きはファンになるのも理解できる。
でもあの粒子を浴びた瞬間、俺には伝わってきた。あれは、あの感情は決して……このレースに勝ちたいとか、一番になりたいとか、そういう綺麗なモノじゃ無い。
もっと苦しそうで、それこそあの時のナギのような──―
「やりましたよししょー! 見てましたかあの加速!」
「ん、ああ見てたよ。凄かったな、さすがアイリ、物を見抜く力があるな」
「えへへー、これはご褒美をもらわないといけませんね!」
「そうだな、何か考えとくよ」
まあ、俺が気にすることじゃ無い。推しが勝って調子に乗っているアイリの相手をする方がよほど大切だ。
あとは、ガッカリしている他の奴らもな。
「ほらお前ら、選手全員頑張ったんだからインタビュー見てやれよ」
「はっ!? そうですね!」
リポーターのムカイが再び画面に映り、地面に降りてきたリンに近付く。
『お疲れのところ申し訳ありませんが、一位のリン選手! 一言お願いします!』
ワクワクとしながら待っているリポーターに向けてリンは、何度か口を開けたり閉じたりしたあとに言葉を紡ぐ。
『わたしは……わたしのレースを見てもらいたい人がいます』
『どこにいるのかはわかりませんが、この大会で優勝すれば必ずその人の元まで届くはずだと信じています』
『だから、絶対に優勝します!』
『……ありがとうございましたー! いやー! 素晴らしいレースでした! お疲れでしょうし、これくらいにしておきましょうか! 続きは優勝してからということで、他の選手の方々にもインタビューを行っていきましょう!』
2人目以降のインタビューも恙なく進み、次のレースのスケジュールが発表される。
一週間後が予選第二レースとの事だった。次のレースにはそれぞれの応援選手は出場しないらしいが、また別の場所で観戦するらしい。最初に名前が出ていたシャロンとかルーチェってのも次のレースだそうだ。
今回の上位6名、一週間後の第二レースの上位6名、二週間後のルーザーズの上位4名、合計16名が三週間後の決勝で火花を散らすことになる。
その時には今よりももっと街にいる人間の数も増えているらしい。
…………俺も飛びてえーーーー!!
ぶっちゃけ超羨ましい。
本当なら俺があそこで飛んでいたい。
なんで俺はメガネが使えないんだ!
「ちょ、ちょっと……あなた右手が……」
え? あ……
また右手が青く燃えていた。
大丈夫、熱くないから。
全員騒ぎ始めた。
「お、お兄さん! ハンカチとか濡らして!」
「消火器、消火器」
「ししょー! あおいです!」
「大丈夫なわけないでしょ! ヒーホー君、氷漬けにして!」
ナギ!? なんて恐ろしい事を言うんだお前は! 殺人教唆だぞ!
本当に熱くないって! ほら、触ってみろ!
「きゃっ! ちょっと! …………熱くない、わね……」
な? 大丈夫だろ?
「お兄さん、私そんなの見た事無いんだけどな〜……いつから?」
あれ、話さなかったっけ。アレだよ、橋の向こうでボコされた時からだよ。
「つい最近じゃん!」
そうだよ、だからまだ何もわかって無いんだよな。まあたまに噴き出るくらいだし、汗みたいなもんだよ。
「ほ、ほんとうに大丈夫なんですかししょー……」
本当に大丈夫。
ほら、だんだん収まってきた。
な?
「……まあ、一応は大丈夫そうね」
そうそう。
「で! も!」
はい!
「何かあってからじゃ遅いんだから、燃え始めたらすぐ報告してね! いざとなったらヒーホー君に凍らせてもらうから!」
本当に殺される……