俺はポケモントレーナー   作:goldMg

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16_頼りになる仲間

 コンビニで飯とか色々買って部屋に戻るとユカリがシャワールームで倒れていた。やべーって感じで介抱してベッドに寝かせ、苦しそうだからフワンテのゆめくいで悪夢を食い散らかした。

 あんまり比較ってよくないんだけど、これまで出会った中でぶっちぎりですぐ死にそうな女の子でやばい。

 何はともあれ、今のユカリに必要なのは休養、休養そして休養だ。

 彼女は口では、これ以上お世話になるわけには、とか言うんだけどお前行くあてもないのにどこ行くんだよって感じだ。

 そもそもまだ逃げ出して数日しか経ってないんだから身体の調子良くないし大人しく寝てろ。

 離れるわけにもいかないので専属介助者としてソファでぼーっと時間を潰していたが、宿のご主人に今日の金の話をされ、金ねんだわってなった。

 無いなら出ていけと言われるが、一人ならともかく現状ではそうもいかない。

 

 今日稼いでくるからちょっと待っておくんなまし! 

 ユカリの護衛兼臨時介助者としてフワンテをつけておき、俺はバトルスタジアムに急いで向かった。

 道中でルカリオのお面を買って、ルカリオとして選手登録できたので、デイリーバトルで敵を粉砕玉砕大喝采して金を稼ぐ事に成功した。俺は大急ぎで宿に戻ってご主人に、はいこれ一週間分! と言って金を渡した。

 やっぱ先読みは正義なんすよねえ。

 

「金払のいい客は好きだぜ」

 

 そう言って機嫌良く裏に戻っていったご主人は暖かいミルクをくれた。

 し、信用できねえ……

 

 部屋に戻ると、フワンテが目をキリッとさせてこちらを睨んでいて、護衛として役目を果たそうとしてくれていたことが十分にわかった。

 これはご褒美のポフィンじゃよ。

 

 ひたすらユカリに付き添って彼女の精神と肉体が良い方向に向かっていくのを待つんだけど、肉体はともかく精神があんまりね。

 原因が取り除かれたわけじゃ無いし、なかなか上手くいかないのは分かってる。

 事情は聞けずとも、俺の話をした。もう永遠に話してたね。

 この際だからもう良いや、と俺の前の世界の話もちょっとだけした。

 遠い地方の話だからとか言っときゃ分かんねえだろ。

 寝たきりの彼女の気晴らしにさえなれば、それで良い。

 タピオカの流行の話とか、楽しそうに聞いてくれるからな。ついつい話しちまったよ。

 

 そうして部屋に引きこもっていたが、レジェンドシリーズ予選第二レースの日となったので気晴らしも兼ねて彼女を連れて行く事になった。

 ほんの少しは打ち解けたような気もする。

 彼女用にメガネは買ってある。なんかアップルストアみたいなところで、ユカって名前で登録しといた。

 髪も白から紫色に染めたし、多分バレねえだろ。

 それにしてもメガネって結構お高いのね……

 

 今、ユカリは隣に座って、レース冒頭の解説を聞いているっぽい。

 彼女は何故か、わずかに震える腕を押さえていた。

 レースが始まると、その震えはさらに大きくなった。

 張り巡らされたコースを、少女たちが箒で駆け抜けていく。今回はタブレットが無いため、俺は肉眼をフル稼働してその動きを追う。

 確かに、アイリたちが応援していた選手はこの場にはいないようだ。

 白熱しているっぽいレースを眺め、チラッとユカリを見ると泣いていた。

 慌てて事情を聞いてみると、どうやら彼女は、2年前に起きた爆発事故の際に誘拐されたサイコジェットレーサーだったらしい。

 今、あそこで飛んでいるレーサーの中にはユカリの友人もいるのだとか。

 私はあそこには戻れないと泣く彼女の肩に腕を回す。俺もユカリの友達だから元気があーだこーだ。

 安っぽいセリフしか言えないのが俺の欠点だが、気休め程度にはなったのだろう。驚いたようにこちらを見ていた。

 だが、そうか、サイコジェットレーサーだったのか。

 箒を失った代わりに翼を手に入れた少女。

 皮肉だな、人は翼を望むのに、それを得た少女は……

 

 またも、青いオーラが立ち上っていた。

 ……何となく、理解できた。

 これはサイコエネルギーだ。

 不定期に見えるようになるのは、俺の感情の揺れに従って消えたり現れたりしているに過ぎない。

 意味が無いものだと思っていたが、使い方はすでに一度習っていた。

 霧の男はこれを飛び道具としても用いて俺を攻撃してきていた。

 ……こんな感じか? 

 変な感覚とともに、右手から青白い球が発射され、屋上に設置された水槽を吹き飛ばした。

 やべっ。

 ……俺もこれでポケモンの仲間入りか。

 

 

 ──────

 

 

 第二レースからまた数日経って、ユカリを背負って街を歩く。これは彼女からの要望だった。

 2年経って街が変わっているかどうか、彼女なりに思うところがあったのだろう。

 ていうかやばい、アイツらの正体もくそも無い。そばを離れられないから何もできねえ。

 …………

 一つ一つの店に入り、中を冷やかしていく。見知った顔の店主なんかもいるのか、俺が話している間は背中に顔を埋めていた。

 

 昼頃になり、腹も減ったのでカフェに入る。

 ユカリを助けた日に入った店だ。

 店主さん、あの日はお世話になりました。

 

「ああ! それにしても兄ちゃん、足速いんだねえ……俺、驚いちゃったよ」

 

 ええ、今日はきちんと昼飯をいただきに来ました。

 

「それじゃあ、注文が決まったら呼んでくれ」

 

 ユカリ、好きなもの頼んで良いからな。

 

「はい……」

 

 彼女は街を散歩したからなのか、少し落ち込んでいる声音をしていた。あれか、自分がいなくても問題無く回る世界に、的なやつか? 

 そこら辺は俺にはどうにもする事もできない。

 これが主人公だったらどう解決しているんだろうな。

 なんかこう……お使いクエストとかこなすのかな、プレゼントがどうとかで。

 店の中という事でフードを外したユカリの顔は、やはり沈鬱に見える。

 ……ユカリ。

 

「……はい」

 

 逃げるか? 

 

「え……」

 

 もちろんその時は俺の仲間も一緒だけど、別にお前一人加わったところで怒るような奴らじゃ無い。

 ……いや、俺は怒られるけど。というか今日、この後怒られてくる予定だけど。

 良い加減、顔ぐらいは出しとかないと安否も分からんし。

 というかあいつらの事も心配すぎる……なんで俺はこんなに優柔不断なんだ……

 ま、まあそれは良いんだ。

 ユカリ、お前が望むなら逃げる事だってできる。

 別に他の街に放り出しておしまいってわけじゃない。

 きちんと国際警察が保護してくれるまでは一緒だ。

 

「わた……しは……」

 

 好きに決めて良い。

 

「う……うう……」

 

「……兄ちゃん、女の子をイジメちゃいけねえ」

 

 店主さん。

 

「少しだけ見させてもらっていた。困り事のようだが……そんな、女の子を追い詰めてまで、すぐに結論を出さなきゃいけないような事なのか?」

 

 ……そうですね。

 いや、ありがとうございます。

 焦っていたみたいです。

 なんか、妙だな……店主さんのいう通り、前ならもう少し気長にやっていたはずなんだけど。

 それだけ俺がユカリに肩入れしているって事なのか? 

 ごめんユカリ、今の話は忘れてくれ。

 とりあえず昼飯を食べたら、宿に戻ろうか。

 

 

 ──────

 

 

 宿に戻ると、彼は少し出掛けてくると言って出て行った。

 彼の言う通りだった。

 いっそのこと、逃げ出してしまえば良かった。

 何もかも忘れて、彼に着いていって、あの地獄の事なんて無かったことにしてしまえばよかった。

 ……出来るはずがなかった。

 今も彼女らは苦しんでいる。それを忘れるなんて、出来なかった。

 それでも、何も出来ないくせに、逃げるという選択が取れない自分の浅ましさが恨めしくなる。

 一週間、彼と一緒にいて分かった。彼は、底なしのバカだった。

 まだ誰にも話した事がないという話を教えてくれた。とても遠いところの話らしい。こんな、出会ってすぐの私にそんな事を教えて何になるというのだろうか。仲間に話してあげれば良いのに、それを彼は苦笑いして否定していた。

 こんな話、したところで変わらない、と。

 

 きっと、彼なら救ってくれる。

 今も孤独と絶望の中であえぐ彼女たちを。

 ただ、助けて欲しいというだけで彼はそれを了承してくれるだろう。

 でも、その一言が言えない。

 善意で助けてくれている人に、そんな危ない事をしろなんて……そのくせ、逃げたいとも言えず。

 

「お母……さん……」

 

 今すぐに家族に会いたかった。

 顔が見たかった。

 帰って、ただいまって言いたかった。

 暖かいスープが飲みたかった。

 

「ラク、ス……ホッパー……ミネ……ルバ……」

 

 一緒にレースの練習をしていたみんな。

 切磋琢磨し、コースを研究し、フォームをチェックしあって。

 あんな日々に戻りたかった。

 

 ベッドで鬱々とそんな事を考えていたら、にわかに、廊下で複数の足音が聞こえ出した。

 あいつらが来たのかと身体が強張るのを感じた。

 フワンテが前に来て、壁になってくれた。

 ガチャリと扉が開き、入ってきたのは彼だった。

 彼は、あー、と少し言葉に詰まった後説明する

 

「俺の仲間だ」

 

 

 ──────

 

 

 ユカリを一旦部屋に置いて、俺はホシノ達がいる宿に来ていた。

 何度も躊躇い、ドアノブに手をかけて押し開ける。

 ホシノが立っていた。

 

「……言うことは?」

 

 ……めーんご! ……ぶへあ!!! 

 ぜ、全力の腹パン……中々気合い入ってんじゃねえかホシノ……あれ、みんなどうした、そんな泣きそうになって。レッドも。

 ホシノに胸ぐらを掴まれた。

 

「……レッドちゃんは! お兄さんが危ない事に巻き込まれてるのは自分のせいなんじゃないかって思ってるんだよ!」

 

 ええ……何でそうなるの? 

 レッドなんかした? 

 

「私が……オールドタウンに連れてきたから……予約なんてしなければ……」

 

「それは違う」

 

「あ……」

 

 ホシノの手をそっと外す。

 レッドの両手を握って、目を見て、そんで話す。

 

「いてて……サイコジェットレース……見ててすげえ面白かったよな」

 

「……うん」

 

「バトルトーナメントも出店も、俺は楽しめた。こんな楽しいところに連れてきてくれて、カフェだって、ホテルだって予約とってくれて、すげえ感謝してる」

 

「……うん」

 

「でも、それだけじゃだめなんだ」

 

「……」

 

「目の前で人が苦しんでたら、助けたくなるだろ?」

 

「助けられる力があろうがなかろうが、何とかしようと足掻いてみたい、そういうもんだろ?」

 

「どれだけでかい組織だろうと、試してみれば案外脆いもんだ」

 

「ただ……俺の力だけじゃ足りないっぽいんだ」

 

「あんな連絡をしておいて、何様ってのはわかる……ただ、恥知らずだが頼む! どうしても助けたいんだ!」

 

 たったの数日で無様を晒して恥ずかしい限りの、こんな情けない男だが、下げる頭ぐらいはある。

 

「お前らの力を貸してくれ」

 

 両頬に手が添えられて、ホシノと目が合う。

 

「……何で最初から頼ってくれなかったの?」

 

「危ないからだ」

 

「相談してって言ってるよね?」

 

「ごめん」

 

「……はぁ〜」

 

 ホシノに抱きしめられる。

 

「お兄さんが無事で良かった……」

 

 小さな身体を抱きしめ返す。

 次はナギと向き合う。

 

「……あまり関わってほしく無いって言ったのだけど」

 

「悪かった。ただ、どうやらこれが俺らしいんだ」

 

 少し不貞腐れた様子を見せるナギの頭を撫で、抱き寄せる。

 

「……おかえり」

 

「ああ、ただいま」

 

「一週間だったけど、とても寂しかったわ」

 

「俺もだ」

 

 アイリが服を摘んできた。

 膝をついて目線を合わせる。

 

「ししょー……」

 

「ごめんアイリ、また心配させたな」

 

「…………」

 

 くぐもった声でしがみついてくるアイリの背中を軽くさする。

 

 最後にもう一度、レッドの元に行く。

 目を逸らして、こちらを向いてくれない。

 

「約束……全然守ってくれない」

 

「いや、本当に……言い訳もできない」

 

「遊んでくれないし」

 

「はい……」

 

「連絡も来ないし」

 

「…………」

 

「もう……信用しない」

 

「は、はい……」

 

 めっちゃ心にくる、なんだこれ。

 

「だから」

 

 ズィ、といきなり顔を近づけて来た。

 綺麗な瞳に吸い込まれるような感覚を覚える。

 

「離さないから」

 

「……好きにしてくれ」

 

 お手上げだ。

 俺には人の心は読み切れない、ましてや年頃の女の子なんて尚更。

 ベッドに座り込んで、現状の把握を始める。

 

「どこまで進んでるの〜?」

 

 正直、全くと言って良いほど進んでいない。

 というのも、ユカリは歩けない。足の腱を切られているから自力で逃げられないんだ。

 だから常にそばにいる必要がある。本当なら今ここにいるのもあまり良くは無いんだけど……

 あ〜もう、人手が足りなさ過ぎる。

 せめてリオレウスがいたら……

 頭をペシッと叩かれる。

 

「そういうのは先に言いなさい! 早くその子のところに行くわよ」

 

 お、おう。

 

 歩きながら色々と情報交換をしていると驚愕の事実が判明した。

 ホシノ達はどうやら、ハンサムにはもう連絡してあるし、相手の正体も分かっていたらしい。

 え? じゃあこの一週間って本当に無駄じゃん。

 ただ、意味も無く連絡を絶った俺とユカリが別の宿に泊まっていたってだけじゃん。

 

「……同じ部屋に泊まってるの?」

 

 右手を繋いだレッドがちょっと目を細めながら聞いてきた。

 ……金が無いからな。

 まあ、デイリーの試合に出て稼いではいたけど。

 

「じゃあ別の部屋で良いよね?」

 

 レッドがそれを言うのか……

 いや、護衛も兼ねてたからそういうわけにも……って、そんな怖い目すんなよ。

 それで、相手の正体は? 会社なのか? 

 

「アイズカンパニーって言うらしいよ〜」

 

 アイズ……俺は知らないけど、大企業なのか? 

 

「ティアーズカンパニーはアイズカンパニーの子会社だったわ。それに、元々はサイコエネルギーを生み出したのもアイズカンパニーの実験だったらしいわね」

 

 涙の元は目……

 なら、今回の事件との関連は十分ってわけだ。

 サイコエネルギーを生み出した企業が、女の子を拐って実験をしている。

 それだけわかれば十分だ。

 あとはハンサムだな。

 いつ頃来れるって? 

 

「それがですね……今別件で忙しすぎて無理らしいんです」

 

 はああ!? じゃあハンサムじゃなくてもいいから誰か別の人を寄越したりとかは!? 

 

「それも……ハンサムさんが決められる事じゃ無いって……」

 

 ふざけんなよ、人の命が掛かってんのに! 

 事件は現場で起きてるんだぞ! 何でそんな事も分からないんだ! 

 

「その……伝言なんですけど……『君なら成し遂げられると信じている』だそうです」

 

 嘘だろ……

 

「ちょっと〜? おじさん達がそんなに頼りないかな〜?」

 

「貴方が女の子とイチャイチャしている間も私達はアイズカンパニーと戦ってたのよ?」

 

 マジか、俺の知らないところでそんな事が……本当に杞憂だったな、危ない事に巻き込むとか巻き込まないとか。

 あとイチャイチャはしてない。

 

「絶対に嘘だね〜」

 

 信用無いな……いや、信用されるような事してないかもしれないけど。

 拉致事件の被害者とイチャイチャとか意味分からんだろ。

 

「私の時はあんなに優しく接してくれたのに?」

 

 その言い方本当にやめて? 

 あとナギは誘拐はされてないでしょうが、ちょっと疲れていただけというか。

 というかあれも別にイチャイチャでは無いだろ……まるで俺が弱った女の子に付け込むやつみたいに印象操作しようとしないでくれない? 

 多分、最近はソーマでの評判も多少は良くなってきてるんだから。

 

「?」

 

 マジかよ、最近はなんて言われてるんだ。

 

「自分のことをルカリオだと思い込んでいる狂人、ハーレム野郎、女に戦わせる人間のクズ」

 

 酷くなってない? あと、ちょっと長いかなって。

 女に戦わせる云々に関しては今更って感じだし。悪口のレパートリーもそんなもんか、異世界人ども。

 ……あれ? ルカリオが俺ってバレてる!? 

 嘘だろ、何のために変装したと思ってるんだよ。

 

「声でバレてたわよ」

 

 マジか……人間って怖いな。

 

「あと、弱った女の子に付け込むってところは多分間違って無いわよね」

 

 お前俺のことそんな風に思ってたの!? どう接すればいいんだよじゃあ! 

 普通にしてるだけなのに! 

 

「……まあ、相手が嫌だと思わなければ良いんじゃないかしら」

 

 仮に聞いたとして、帰ってきた答えが合っているかも分からないのにどっやってそれを察しろと……

 やっぱり、主人公達が解決してくれるのを待つのが正しいのか? 

 

「私は……嬉しかったわよ」

 

 そうか、それは良かった。じゃあ、ナギの時みたいな感じで接すればいいってことか……

 

「ソレはだめ」

 

 ダメって言われても、俺ってそこまで対人能力高く無いからあんまり選択肢がないんですけど……。

 

「師匠のコミュニケーション能力が低い……もしかしてツッコミ待ちですか?」

 

 なんでだよ。

 言い方が違うのか? 

 女の子の相手をするのに慣れてない……なんか変な表現になるけどこう言えばいいか? 

 

「それもギャグですよね?」

 

 なんでだよ! 

 

 

 ──────

 

 

 技術者区画、いまだ瓦礫が散らばる建物の前に、5人組が現れた。

 紙袋を被ったその5人組を見た瞬間、警備員はインカムで連絡を取る。

 

「応援を要請する。例の四人……いや、五人だ。紙袋を被っている」

 

『至急向かわせる、お前はそこで応戦しろ』

 

「了解……ボーマンダ!」

 

 はるか上空から降りてきたボーマンダの背に飛び乗り、警備員は時間稼ぎに徹することを決める。

 

「りゅうせいぐん!」

 

「初っ端から全開だな……レッド、頼む」

 

「うん、リザードン、スピードスター」

 

 空から降り注ぐりゅうせいぐんに対し、レッドはスピードスターを指示。リザードンが尻尾を一振りして放たれた白星は全てを迎撃した。

 レッドもリザードンの背に乗り、ボーマンダと同じ高さに来る。

 

「……どうやら地力では相当に劣っているようだな」

 

「あなたじゃ勝てないよ」

 

「若いな、勝つことは私の仕事では無い! ボーマンダ! あの四人にもう一度りゅうせいぐん!」

 

「かえんほうしゃ!」

 

「ぐっ……! 回避に徹するぞ!」

 

 りゅうせいぐんが四人に放たれることを阻止したレッドは追撃を喰らわせようとするも、回避行動に徹し始めたボーマンダの機動力に狙いが定まらず、泥沼と化す。

 

 一方、下の四人も囲まれていた。

 

「ガキ四人じゃあ、大したことはできねえよ」

 

「囲んで叩いちまえば何の問題もないな」

 

 ポケモントレーナーは一歩前に出て、右手を相手に向ける。

 

「本当にそうかな? 例えばこの右腕からビームが出たりしたらどうだ?」

 

「…………はっはっは! 面白い、出してみろ!」

 

「そんじゃあお言葉に甘えて」

 

 右の人差し指を自身に向ける青年に、本当に何かあるのかと一瞬たじろぐが、中々出てこない。

 

「まあ、そんなものはないわけだが」

 

「ちっ……グラエナ!」

 

「レイガーーン!」

 

「なっ!? ぐあああ!!」

 

 騙されたと気付いた警備員がパートナーに襲わせようとした瞬間、指先から青い球を撃ち出してグラエナごと警備員をノックアウトした。

 

「ビームじゃなくて球なら出せるぜ。いや〜、初めて使った瞬間からこれやりたかったんだよな」

 

「ちょっとあなた、何なの今の!?」

 

「今の? レイガン」

 

「わざの名前なんか聞いてないわよ!」

 

「俺も理屈は知らないけど、なんかできた」

 

 警備員達に動揺が広がる。

 その隙に乗じてアイリがブフを放った。

 また1匹モンスターが戦闘不能になり、ホシノも続く。

 シェルを切り替えて次々とパートナーを攻撃していく。

 

「散々邪魔してくれたからね〜、お返しだよ〜?」

 

「くっ……ミジュマル、アクアジェット!」

 

「うぁっ! ……まだまだ!」

 

「てめええええ!!」

 

 アクアジェットがホシノに直撃するのを見たポケモントレーナーはブチギレた。

 別にそこまで大したダメージでも無いのだが。

 

「くたばれやあ!」

 

「ちょっ……」

 

 警備員が数人まとめて特大の光球に飲み込まれて吹き飛んだ。

 

「ホシノ大丈夫か! どこか怪我してないか!?」

 

「うへ〜……過保護だよお〜」

 

 ペタペタと自身の身体を触って確かめる青年の手にくすぐったさを感じながらも、振り解くことはしない。

 

「なんかお兄さんさーいつもと少し性格違くない〜? くたばれなんて……お兄さんらしくないよ?」

 

「それな、なんか俺も違和感感じてるんだけど別に良いかなって」

 

 アイリが心配そうにポケモントレーナーの頭を撫でる。

 

「催眠術とか受けて無いですよね……?」

 

「受けて無いぞー」

 

「後で、あたまのお医者さまに行きましょう?」

 

「……無いんだよなあ精神科」

 

 

 ──────

 

 

 監視カメラに映る映像を見て、黒服がカレンに話しかける。

 

「カレンさま、警備員はかなりやられたようです。このままでは時間の問題かと。如何いたしますか?」

 

「……資料を回収しろ、裏手から逃げる」

 

「逃げる、ですか? 増幅体どもは?」

 

「調達できれば増幅体などどうとでもなる、この資料さえあればな」

 

 カレンは部下と共に、最重要の機密のみを回収してジュラルミンケースに詰め始めた。

 そこに、カツコツと足音が近付いてくる。

 

「ん? 誰だ──何故、あなたがここに」

 

「私が研究所にいてはそんなにおかしいか、カレン」

 

「いえ、そんな事は……」

 

「それよりも、何故侵入者と戦わない。戦うためのモンスターは与えているはずだ」

 

「……直ちに」

 

 駆けていくカレンと黒服を一顧だにせず、声の主は机の上にある資料を撫でて、ページを捲る。

 全て頭に入っているその内容を、ペラペラと流し見ていく。

 

「テンガン山で何も見つけられなかった時は絶望したが、グリゴリ計画……ただのサブプランがここまで育つとは」

 

 かつて、ウツロイドが感情を操る能力を持っていると聞いたことがあった。計画に組み込めないかと連れてきたが、結局のところただの洗脳能力に過ぎなかった。それではダメなのだ。

 生の感情、人間の自由意思からもたらされる激しい感情で無ければ。

 ウツロイドは大部分がジムリーダーに殲滅されたと聞いた。

 傘下のティアーズカンパニーが何故かウツロイドに乗っ取られてその後壊滅したとも。

 どちらも計画に必要な存在ではなかった。何の問題も無い。

 

「サイコエネルギーは十分に集まった。もう、この資料も必要無い」

 

「後は、来たる日を待つのみ」

 

「すぐそこだ……すぐに、我が宿願は成される」

 

「新たなるコトワリを開き、真の世界へと人々を導くのだ」

 

 声の主が去った後、資料とその部屋のものは全て燃え尽きていた。

 

 

 ──────

 

 

 おいおい、まさかこんな劣勢の中で出てくるなんて……社畜根性極まれりかあ!? 

 でも良いよな社会人はよお、給料もらえて。

 俺なんて無給でこんな事やってんだぞ、バカみてえだろ? 何でこんなバカみてえなことやってるか教えてやろうか……お前らみたいなのが子供達を傷つけるからだよ! 

 

「ふん……貴様のような白痴には分かるまい、我々の計画の崇高さが」

 

 崇高さ! ここにきて崇高さですか! 

 お前らみてえな崇高な人間にだって分かんねえんだろうな! 毎日一生懸命生きてる俺たちみたいな人間のことはよ! 

 

「分かりたくもない……ドーベルモン!」

 

 ……それじゃあ、お前が分かろうともしない人間様の強さってやつを見せてやるよ。

 

「待って」

 

 意気揚々と返り討ちにしてやろうと思ったら、レッドに止められた。

 どうした? 

 

「私たちがやる」

 

「散々邪魔されたもんね〜」

 

 い、一週間ですよね……? 何回戦ったの? 

 

「5回です」

 

 何だそのエンカウント率……本当によく無事だったなお前ら。そもそも何でそんなに遭遇したんだよ。

 

「悪いことしてるやつからお兄さんの居場所聞けないかな〜って」

 

「後は今回の事について調べていたらって感じね」

 

 うちの女子は血気盛んですねえ……まあ、何度も勝ってるんなら問題無いか。

 じゃあ、任せたぞ? 

 俺は先に行く。

 

「四人もいれば楽勝だよ〜」

 

「待て!」

 

「邪魔はさせません!」

 

 俺の方に来ようとした黒服のハゲに向かってアイリのブフが飛ぶ。

 ナイス援護! 

 ……頼もしい仲間達だぜ。

 

 建物内部に入ると、白を基調とした無機質な空間が広がっていた。

 ザ 研究所って感じだ。

 ここから出会うやつは全員敵とみなしてぶちのめしていこう。

 まさに、先ほどまでは人がいましたと言わんばかりの電気のつき方、戦闘員では無いんだろうな。

 捕まえてきた被害者を実験するだけ……なんて姑息で、気持ちの悪い奴らだ。

 ますます許し難い。

 トイレから飛び出してきたやつを地面に叩きつける。

 

「ぐはあっ! わ、私は戦闘員では……」

 

 言い訳無用! 全員、力の限り叩きのめす。

 その後も出会った奴らを全員ボロ切れにしながら奥に向かう。

 一階のどこにも被害者はいない。

 おそらく、地下があるのだろう。

 内部構造に詳しいやつを一人ぐらい残しておくべきだった。

 ……そういえば建物の一部が爆発によって吹き飛んでいた。あそこからユカリが逃げ出してきたなら、逆に行けば辿り着けるはずだ。

 

 

 ──────

 

 

「おーおー、ぽっかり空いてら」

 

 青年は躊躇なく、その穴に身を投じた。そこまで長く無い浮遊感の後、床に脚がつく。

 どうやら透明な囲いの中のようで、まるで虫籠にいるような気分になる。

 周囲を見回すと幾つも同じような囲いがあり、女の子達が閉じ込められていた。

 

「本当に……胸糞が悪い」

 

 全員地面に倒れている。寝ているのか、はたまた……考えていても仕方ないと、まずは自分のいる囲いを壊した。

 人間を想定した強度なのだろう。

 もうなんか色々後付けで強化され過ぎて、膂力だけなら人外になってしまった。

 おかしい、この世界に来る前はちゃんと人間だったのに……

 問題無く破壊できることが分かったので、次々と彼女達の囲いも破壊する。

 

 何が起きているかわからない様子の彼女達に、自由である事を伝える。

 脳が意味を処理出来ないのか呆然としているが、とりあえず出口を探す事にした。

 

「出口は向こうだ」

 

 ……見覚えは無いな。

 もう、本当に嫌になる。

 お前がアイズカンパニーの親玉か? 

 

「親玉……社長ではあるな」

 

 ほらもう……何で社長がこんなとこに来てんだよ。

 帰れよ、今ここでやり合いたく無いんだよ。

 

「そうだな……どうせすぐだ、預けておこう」

 

 そうだ帰れ帰れ! 

 ……行ったか? 行ったな、よし。

 じゃあ君たち、帰ろうか、家に。

 

 ゾロゾロと拉致被害者を引き連れて出口へ向かう。

 が、疲労困憊な子ばかりなので結局一人ずつ俺がおんぶして運ぶ事になった。

 

 

 ──────

 

 

 全員運び終えて、ベンチで休んでいた所にホシノがやってきた。

 今は警察やら病院関係者が多数やってきて、被害者を病院に運んでいる。

 全員病院にちゃんと運ばれたのか後で人数確認しとこ。

 

「結局、お兄さんが一人で頑張る意味なんて無かったね?」

 

 本当にその通りだったな……

 なんか研究所にいた戦闘員も少なかったし、俺はてっきりティアーズの時みたいな感じになるかと。

 しかも一週間で無理だなって判断したから別に頑張っても無いし。

 隣に座ったホシノはぐでーっと寄りかかってきた。

 受け止めて、半分お姫様抱っこみたいな状態になる。

 

「……懲りた?」

 

 …………

 

「そこはさ〜嘘でも懲りたって良いなよ〜」

 

 だってもう約束破っちゃったし、言っても意味無いかなって。

 

「ホント、私がいないとダメだよね〜」

 

 いつもお世話になっております。

 

「……まだちょっと怒ってるからね」

 

 ま、誠に申し訳なく……

 

 その後はユカリに報告し、家族がいるという何とかタウンに帰る運びとなった。

 とはいえ、彼女はあの足だ。レジェンドシリーズの決勝を見て、次の街へ向かう俺らに同行するらしい。

 そこで教えられたんだけど……四人とも、俺が新しい女を探していると思っていたらしい。

 本当に失礼過ぎる。

 人の事を何だと思っているのだろうか。

 そもそも俺は女を探して旅をしているわけじゃ無いだろうが! 

 レッドのピカチュウ、それとアイリの兄グズマ、この二者を探しているんだ。

 なーにが女タラシじゃ! 

 証拠出せってんだ証拠! 

 

 それと、リンがインタビューで答えていた、レースを届けたい相手というのはユカリだった。

 あの安宿に一人だとアレだからと、俺たちが泊まっている宿に連れてきたのだが、フードをしていなかったユカリとリンが対面して大騒ぎ。

 2年前の爆発事故の時に行方不明になったのがユカリで、リンはずっとユカリを探していたらしい。

 というか姉妹だってよ。

 良かったな。

 

 今回の件、結局、ホシノ達がほとんど動いて解決してしまった。

 俺はマジでユカリのそばにいただけだし、リンにあんなに感謝されると罪悪感がすごい。

 というかなんで俺は、ハンサム案件だと判断したのに一人でやろうとしたんだ……しかも一週間で諦めてるし、何がしたかったのかわからん……

 

 ユカリ以外の被害者達も順次、自分の家に帰れるらしい。ユカリだけが足の腱を切られていた、それは彼女が最も反抗的だったからだとか。

 なんとも身勝手で、極めて悪辣な人間の思考だった。

 やはり、俺はこの世界を見誤っていたのだろうか。

 ベッドでボケーっと座ってたらアイリが隣に座り込んだ。

 

「師匠……お顔が暗いですよ?」

 

「……少し分からなくなった事があるんだ」

 

「そうなんですね……私には難しい事はよく分からないですけど……言ってくれればなんでもしますからね?」

 

「ああ……」

 

「それとやっぱり、師匠はもっと色々と口に出すべきだと思います!」

 

「俺ってそんなに無口か?」

 

「あぶない事があった時、全然教えてくれないです!」

 

「………そうかも」

 

「……その……レッドさん、泣いてましたよ」

 

「ちゃんと、謝らなきゃなあ」

 

「な、なにするんでふかー」

 

 アイリのほっぺをムニムニと揉む。

 柔らかくてスベスベで、触ってて気持ちいい。

 

「アイリもごめんな」

 

「……」

 

 アイリはしばらくなされるがままだったけど、俺の手を取ると、ニッと笑った。

 

「師匠、笑ってください! 私は……その方が好きです!」

 

 …………いやもうホント

 

「わっ……えへへ、ししょー汗臭いです」

 

 俺には出来過ぎた弟子だわ。

 

 

 ──────

 

 

「それじゃあ、箒の乗り方から教えるわね」

 

「は〜い」

 

「リンさんから直接教えてもらえるなんて夢みたいです! ね、ナギさん!」

 

「ええ、箒で飛ぶのは初めてだから楽しみだわ」

 

「じゃあお兄さん、行ってくるね」

 

 いってら……

 四人とも良いなあ……箒……俺も飛びたかったな……クィディッチとか出来たのになあ……

 

「わたし……がいる……から……ごめんな……さい……」

 

 ベンチで隣に座っているユカリが申し訳なさそうにしていた。

 いや、違うんだよ。ユカリがいるからとかじゃなくて、俺、メガネ使えないんだ。

 ニューラルリンクがね、適合しねえんだ。

 

「そんな……人……いるんで……すね……」

 

 まあ原因は何となく分かってるんだけど、どうしようも無いと思うし。

 

「きおくの……ですか……?」

 

 多分な。

 そういや身体の調子はどうだ? 足が痛んだりとか。

 どっか悪かったら言えよ。

 回復スプレーいっぱいあるから全部使ってやる。

 

「ふふ……ありがと……ござい……ます」

 

 それより、ユカリは良いのか? トップレーサーだったんだろ? 久しぶりに……

 

「……こわい……んです」

 

 怖い……か。

 でも、俺は覚えてるよ。

 あの時、戻れないって泣いてたじゃないか。それが本心なんだろ? 

 もう、あいつらも君のことは追いかけない。

 試してみるのも悪くはないと俺は思うんだ。

 

「…………」

 

 箒を手に取ると、あの爆発からの日々が脳裏に過ぎる。震えが止まらなくなり、思考がまとまらなくなる。

 ユカリは途切れ途切れにそう言った。

 そんな症状の出る彼女に、無理強いをすることはできない。

 ただ、楽しそうに練習するホシノ達を眺めるユカリの姿は、とても寂しそうだった。

 正直見ていられないので、気晴らしにどこか行こうと誘う。

 

「どこか……ですか……?」

 

 そう、どこか。

 安宿で申し訳なかったしな……そうだ、美味いもんでも食べに行こうか? 

 

「みな……さんは……」

 

 別に良いだろ、あいつらだけ楽しんでて羨ましいし。

 

「いえ……そうで……は無く……」

 

 チラッとホシノ達を見るユカリ。アイツらとも一緒に飯食いたいのか? いつの間に仲良くなったんだな。

 ハア、とため息をつかれた。

 なんだよ。

 

「苦労……してそ……ですね……」

 

 いやホント苦労してるよ。

 女の子四人だからな。

 常に誰かの機嫌取りしてる気がするわ、俺。

 まあ大体俺のやらかしではあるんだけど、マジで難しいわ。

 やりたくなったらすぐやっちゃうから終わった後にいつも怒られてる。

 まあ良いや、飯行こっか。

 ユカリは飛んでく? それともおんぶする? 

 

「……お願い……します……」

 

「いや、何で二人で行こうとしてるわけ?」

 

 あれ、ナギ。

 練習は? 

 

「質問の答えは?」

 

 飛ぶ練習してて羨ましかったから美味いもんでも食いに行こうかと。

 

「みんな、ちょっとこっちきて?」

 

 はいはい、いつもの流れね。

 

 

 ──────

 

 

「全く、油断も隙もあったもんじゃないわね……」

 

「やっぱり狙ってたんだね〜」

 

 後ろで歩くポケモントレーナーを睨みつける。

 シュンとしてて、今はおんぶしているユカリに慰められている。

 

「あんなに怒らなくても良かったんじゃない?」

 

「リンちゃん、分かってないね〜」

 

「そうなの?」

 

 こんこんとポケモントレーナーがどれだけ女の敵なのかを語る四人。

 聞かされたリンの反応は

 

「惚気だよね?」

 

 であった。

 

「ち、ちがうよ〜?」

 

「別に惚気るとか……そういう関係じゃないわよ、ねえ?」

 

「じゃあ、隙あらば手を繋いで〜だの、頭を撫でられて〜だの、抱きしめられて〜だの、それを聞かされて私はどうすればいいの?」

 

「ユカリちゃんが毒牙にかけられちゃうよ〜?」

 

 リンはチラッとユカリと青年を見る。

 とても楽しそうだ。

 

「別に良いんじゃない? 助けてくれたんだし、お姉ちゃんも満更じゃなさそうだよ?」

 

 何だこのめんどくさいやつら、好きなら好きで良いじゃん……とリンは辟易としていた。

 ただ、4人に確認してもどうせ埒があかないので、本人に直接聞くことにした。

 

「旅で恋愛……? お前、あいのりか何かと勘違いしてる?」

 

 こいつゴミだわ。

 あいのりが何かは分からないけど、リンは四人に同情した。

 後でソーマに書き込んでやろうか。

 

「お姉ちゃんやめとこう、ダメだよこんなやつ」

 

「何がダメなんだこら」

 

「全部」

 

 まさか全部月島さんが……!? とか意味不明な事を言い出したポケモントレーナーを放っておいてリンはユカリの説得を続けるが

 

「別に……そういう……のじゃ……ないよ……」

 

「……大丈夫、そうだね」

 

 笑って否定するユカリ。

 リンはホッとして、道の出っ張りにつまずく。

 

「お、おい……大丈夫か」

 

 跪いて手を差し伸べたポケモントレーナーの手を払いのける。

 

「触れるなけだもの!」

 

「けっ…………」

 

「そうやってあの4人のこともスケコマシたんでしょ!」

 

「お前何言ってんの!? 変なこと言ってアイツら怒らせるのやめろよ! お小遣いこれ以上減らされたらもう生きていけねえよ!」

 

「そもそも一番年上なのにお金を管理されてるのがおかしいじゃん!」

 

「い、いやそれには事情が……」

 

「理由も知ってるんだからね。金遣いが荒すぎるとか子供じゃん! 絶対将来ヒモだよ!」

 

「ヒモ……将来……就職……うっ、頭が……」

 

「君みたいな人にお姉ちゃんは任せられません!」

 

「いや、故郷までは護衛する。それは俺の義務だ」

 

「うわっ、切り替えきもっ……」

 

 一度関わった以上は終幕まで。

 だって、途中で放り出したら気分悪いし続きが気になる。

 漫画はたとえ打ち切りでも最後まで揃えるタイプ。

 それがポケモントレーナーという男だった。

 それさえ無くしてしまったら、最後に残った自我さえ意味の無い物になってしまう。

 

「お前が俺の事を嫌っていても良い。でも、これだけはやらせてもらうぞ」

 

「……別に嫌いじゃ無いけどさ」

 

「そうなのか? じゃあ何で突っかかってきたんだ?」

 

「黙秘しまーす」

 

 男は片眉を上げてリンを見る。

 まあ良いかとすぐに歩き出した。

 絶対ソーマに悪口書きまくろう。

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