俺はポケモントレーナー   作:goldMg

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18_魔法、それは夢、希望、願い

「ぐぬぬぬぬ……」

 

「て、テッセンさん、どうされたんですか?」

 

「……これ」

 

 テッセンは秘書に、ソーマのとある画像を共有した。

 コメントが貼り付けてある。

 

『チュ、暇人でごめん。テッセンさんが忙しくしているだろう今、俺はオールドタウンで可愛い女の子二人と一緒にデイリーバトルを観戦しています。本当はテッセンさんも誘いたかったけど、でも……今はもう少しだけお仕事頑張ってね! バーカバーカ!』

 

 秘書は戦慄した。

 

「な、なんて命知らずな……」

 

 無敵すぎる、炎上とか怖くないのだろうか。

 というかなんの目的があってこんなことしたんだ。

 

「何が一番腹立つって……あのクソガキはメガネ使えないから、その女の子とやらに文字を打たせてることじゃよ……下手に返すとその娘に迷惑がかかる……」 

 

「めっちゃ姑息ですね……」

 

 それでもとりあえず返信はするらしい。

 

 

 ──────

 

 

「ねえ、本当にこんなの送って良かったの?」

 

「私も……ちょっと……こわい……です」

 

 良いんだよ、あの爺さん優しいからこういう雑殴りみたいなの反応してくれるよ。

 いっつもガキどもに髭引っ張られてたし。

 

「……あ、本当に返信が来た」

 

 なんて言ってた? 

 

「ポケモントレーナー、お前だけは許さん……だってさ。良かったー私じゃなくて……げっ」

 

 どうした? 粘着質なフォロワーに気持ち悪いDM送られたみたいな顔して。

 

「……いや、その通りなんだけどなんで分かるの?」

 

 だってお前ファン多そうだし、そういうのもいっぱいいるんじゃねえかと思ってたんだよ。

 女の子だから大変だねえ、俺なんか正面からぶつかってくる気持ちのいい奴しかいないよ。

 全員粉砕してくだけで良いし。

 

「ブロックしても別垢で何度も送ってくるんだよね……」

 

 なるほどなあ……ストーキングとかされてたりしないのか? まあこの世界でストーキングはかなりパワーに溢れてるけど。

 

「そういうのじゃないけど、疲れちゃうよね……」

 

 そんなの俺だったら普通に無視して終わりなのに、お前律儀だなあ。

 

「リンは……根が……真面目……なので……」

 

 大変なことがあったらホシノ達に言えよ? 警察でも可。

 

「……君は?」

 

 いや、メガネ使えないから何もできません。デジタルの世界において、俺のことは置物だと思ってください。

 ストーカーが直接やってきた時の暴力装置として扱ってくれる分には構わない。

 逆に考えると、俺がメガネ使えたら何でもできちゃうからバランス取るためにこうなのでは? 

 

 おっ、次の対戦はヌマクローが出るのか。

 対戦相手は……アメノウズメ? 神様じゃん。

 ヌマクローが可哀想すぎるだろ……

 

「アメノウズメって確か……亜人だよね、あんまり見ないけど」

 

 亜神……やっぱり神なのか!? 

 ホイホイ出して良いのかそんなやつ。神と戦うってんなら俺も全力でやらないといけなくなるぞ。多分勝てないけど。

 

「いや、君なら勝てるでしょ……」

 

 リオレウスとドダイトスとホシノをフルで指揮して、喰らいつけもしないくらいじゃね? 

 

「……多分……勘違い……です……」

 

 ユカリが指差す方向を見ると、ほぼ人間がいた。神様かって言われるとなんちげだ。

 なぜ扇子をバイザー代わりに……でもあれだ、太ももが眩しいな。

 

「なんか目つきがイヤらしくない?」

 

 あんな太ももを見なかったらそれこそ失礼だろ。

 ……お前には分からんか。

 

「何で私の太もも見るんだよ!」

 

 だって比較したらリンの太ももの方が綺麗だし。

 まあ太ももは太ければ太いほど良いけど、リンは引き締まってる感じだからな。別枠というか。

 

「変態!」

 

 真面目に言ってるんだ。

 

「ま、真面目な変態……」

 

 まあ太ももと戦闘力は関係無いけど。

 あの人からは圧は感じないところを見るに、神では無さそうだな。

 

「だから、亜人だって。あ、じ、ん、亜のひとだよ」

 

 そっちか、なら分かるわ。でも扇子を服飾に使ったくらいで亜がついちまうなら、パリコレとか亜人しかいなくなるぞ。

 

「よく分かんないけど、モンスターとしての特徴が色濃く出てると亜人らしいね」

 

 ぺろっ……これは差別の味! 

 ……良くないよそういうのホント、少し人と違うからって人間じゃないとか。

 アメリカだったら大変な事になってるよ? 

 

「私に言わないでよ、なんかDNA的に決まってるらしいんだってば。あの飾りみたいなやつもちゃんと肉体の一部だし」

 

 ホントぉ? 

 俺に間違った知識植え付けようとしてない? 

 

「ホント……ですよ……」

 

 ほなホントか……

 

「ちょっと待って、何でお姉ちゃんの時だけそんな素直なの」

 

 俺はハンムラビ法典の正当なる継承者。優しさには優しさを、素直さには素直さを、ツンデレにはツンデレを。

 お前が素直になってくれれば俺も素直になる。

 

 というのは冗談で、リンは揶揄いたくなるんだよな。反応が良いからついつい。

 好きな子をいじめたくなる小学生のような気持ちに戻してくれる貴重な人材だ。

 

「お姉ちゃん、私こいつ嫌い!」

 

「よし、よし……」

 

 それにしても亜人か。元の世界なら喜んで飛びつくような変態ばっかだけど、こっちだとそうでもないのかな。

 普通に存在してるからそういう目では見られないのか? 

 あ、バトル始まった。

 

 

 ──────

 

 

 アメノウズメが勝った。

 そうか、亜人っていうのか……ホシノも? 

 

「ホシノ……さんは……普通の……人間……です、ね……」

 

 分かんねえ〜、基準分かんねえ〜。

 このリハクの目をもってしても分かんねえ〜。

 

「あなたは……人間……ですか……?」

 

 何その質問、俺は普通の人間だよ。

 見ろこの五体、鱗も無いし翼も無い。これが人間でなかったら何だっていうんだ。

 

「そうなん……ですね……」

 

「君は普通じゃないよ、お姉ちゃんもそう思ってるし」

 

 種族名:ポケモントレーナー的な? 

 

「そういうこと……ところで」

 

 なに? 

 

「ずっと思ってたんだけど何なのそのお面、恥ずかしいからやめて欲しいんだけど」

 

 そう、実は俺は今、りんごろうのお面をつけていた。控え室からこっちに戻ってくる時に屋台で売っていたのだ。

 このお面を被っていれば、俺が誰か分かるまい。

 

「アイドルオタクみたい」

 

 アイドルとかいるんだ? youtuberみたいなのがいるのは知ってたけど。そもそもりんごとアイドルに何の関係が? 

 

「君、興味無さそうだもんね」

 

 情報が入ってこないものに興味を持ちようが無いでしょ! メガネ使えたら俺だってもう少しなあ! 

 ……あれ、でもこれまでそんな暇してる事が無かったような。そもそも文字が読めないからソーマとか読み上げ機能が無いとよく分かんないし、動画も、ゲームの配信とかドラマとかそういう、前の世界なら当たり前にあったものが割と少ない。

 

「もう少し、なに?」

 

 結論、ソーマはクソ。

 日本語勉強してこい。

 

「ニホンゴ……ですか?」

 

 ドワンゴみたいに言わないで? 

 ……あのワチャワチャした感じももはや懐かしいな。

 さて、良い加減腹も減ったし出ますか。

 ほら、おんぶするぞ。

 

「たまには私がするよ、家族だしね」

 

 良いけど、落とすなよ? 

 

「そんな……重く……無いです……」

 

「君、デリカシー無いって良く言われない?」

 

 仲間には言われる。

 よいしょとユカリをおぶったリンは、流石プロのスポーツ選手、ちゃんと鍛えているのかしっかりとした足取りだ。流石にいつもより歩く速度は遅いけどな。

 ……メロエッタちゃん可愛いでちゅね〜。ほら、こっちおいでー? 怖くないよー? 

 あれ、何でリンの後ろに隠れるんだ……

 きもい!? 

 どこがキモいんだ! 

 お前らはイッヌやネッコにこうして接しないのか! 

 可愛いものを見たら人間はこうなっちゃうんだよ! 

 ……人前でやるな? 

 大丈夫だ、今はりんごろうのお面被ってるから何も恥ずかしくない。

 あ、ちょっとお面返して……

 

「あれ、ドスニキだ」

 

「また別の女の子連れてるぞ!」

 

「あいつ昨日酔っ払って花壇とかぶっ壊してたぞ」

 

「ツーショット撮ろうぜ! ポケモントレーナーの兄ちゃん!」

 

「捕まえろ!」

 

 ……だから言ったじゃん! 

 やべえぞ、みんなポケモンバトル観て気分が上がってるから押し寄せてきてる。

 でも二人がいるから逃げられねえ……ドミノ倒しが一番怖いからな。

 

 

 ──────

 

 

 揉みくちゃにされてスタジアムを後にし、フラフラと歩く青年をリンは見ていた。

 

 お気に入りの、というか隙あらば着ているアロハシャツとズボンはところどころ裂けている。

 ホシノさん達は、彼が服装に無頓着な事に文句を言っていた。旅とかしてたらそういうの気をつけるんじゃないのかな。

 

「服? 必要性が出たら買ってるよ、そのパーカーだって俺が買ったやつだし」

 

 お姉ちゃんが着ているパーカーは、出会った時に彼から貰ったものらしい。

 というか、服を買った後で研究者区画に侵入してお姉ちゃんを見つけたらしい。

 ……やはり馬鹿だ。

 こんな可愛らしい服は彼には似合わないだろうに。

 イメージを和らげようと思ったとか言っているけど、服で誤魔化せる範疇を超えていると思うんだ。

 お姉ちゃんもそう思うよね? 

 

「でも……この……パーカーの……おかげで……出会え、たから……」

 

 そういう問題なのかな。

 もちろん感謝はしてるけど、また別問題なような気も。

 そういえば、顔を隠すようにフード付きのそれを渡されたって言ってたけど、返さなくて良いの? 

 

「うん……もらった……んだ」

 

 嬉しそうにウサ耳をいじっている。

 まあ、当人同士でそうなってるなら良いや……

 そういえば今はどこに向かってるの? 

 

「分かんねえ、なんか美味そうなところがあれば入ろうかなって」

 

 普通調べてから出発するもんじゃないの? すぐ調べ……られないんだったね。

 

「はいはい、俺が悪うござんした。お前らならメガネでパパッと調べられるんだろ?」

 

 私はおんぶしてて両手塞がってるから、お姉ちゃんお願い。

 

「分かっ、た……」

 

 近場のレストランに入った。

 昼時あってかなり混んでおり、少し並ぶ事になった。

 親子連れの家族もいるので彼は子供に絡まれていた。

 

「高い高いしてー!」

 

「良いぞー、そーら」

 

「あははは!!」

 

「すみません構っていただいて……」

 

「子供は好きなんで大丈夫ですよ」

 

「ねえ今度は僕とバトルしようよ!」

 

「もう少し大きくなったらやろうや、せめてパートナーを手に入れてからな」

 

「えー、今やりたいー!」

 

「じゃあじゃんけんしてやるよ、じゃんけんほい、はい俺の勝ちー!」

 

「あっ……いきなりはずるい!」

 

「永遠に勝ち逃げさせてもらうぜ」

 

「ねえサインちょうだい!」

 

「サ、サイン……」

 

 サインと聞いて彼は顔が引き攣っていた。

 文字がほとんど読めないので、辛うじて書ける自分の名前も汚すぎるらしい。

 良くそれで生活できるな、と思ったけどお店の人や仲間に代筆してもらっているらしい。

 やっぱりまともには生活できてないじゃん。

 そのうち契約とかで騙されそう。

 

「結局いつもこっちなんだよな……」

 

 そう言って謎の紋様を書き連ねる。

 たまに、ポケモントレーナーからサイン貰った! という書き込みとともにアレの画像が投稿されるのを見かけるけど、本当に何なんだろうか。

 家紋とかだろうか。

 覗き込んでみてもさっぱり分からない。

 

「これ? 俺の故郷の文字」

 

 全くもって検索に引っかからないんだけど、その故郷は実在するの? 

 脳内にしか存在しない故郷だったりしない? 

 

「実質そうだよ。俺は記憶喪失だから、こういう一部だけ残った物を頼りに故郷が存在した証拠を残しているんだ」

 

 ……なんだか、少し寂しいね。

 あ、ごめん、悪く言うつもりは……

 

「寂しいもんか。むしろ、故郷にいる奴らが俺の立場を知ったら死ぬほど羨ましがるだろうよ」

 

 そうなの? 記憶喪失で全然わからない場所に放り出されたのに? 

 

「そういうもんだ、俺の故郷ってのはそういう場所なんだよ」

 

 サインを子供に渡し、目を細めて遠くを見るポケモントレーナー。記憶喪失の中でも僅かに残った故郷の姿を思い出しているのだろうか。

 

「寿司が食いてえ……」

 

 寿司とは何だろう。

 

 

 ──────

 

 

 昼飯後、リンがとある場所に行きたいというので付き合う事になった。

 しかし、少し歩き出したところでリンが立ち止まった。

 

「疲れちゃって、もう無理かも……」

 

 そりゃ人間一人おんぶしてるからだろ。だから俺がおんぶするって言ってるのに。

 

「君が仲間の荷物全部持ってるって聞いたんだけど……というか動画も見たんだけど、アレって本当なの? 編集だったりする?」

 

 普通に持ってるけど。

 

「化け物じゃん……」

 

 あんな箒に乗って空を駆け回れるお前らの方がすごいよ。

 あと、疲れたなら代わるぞ。

 

「……お願い」

 

「ごめん……なさい……」

 

 いや、ユカリは軽いから全然気にならないぞ。

 

「君は誰おんぶしても重く無いでしょ……」

 

 やってきたのはナントカスポーツ協会だ。

 どうやらレジェンドシリーズの決勝関係で来る必要があったらしい。そろそろ決勝の一週間前だからそれに合わせてって感じか。

 協会の扉から中に入ると、少し視線が集まるのを感じた。そりゃあ、俺みたいな門外漢が来たら気になるでしょ。

 

「いらっしゃい」

 

「こんにちは、決勝の受付に来ました」

 

「それではこちらに目を通したら別室にお越し下さい」

 

「はーい」

 

 何やってるか全然わからないけど、多分誓約書とか読んでるのかな。形式的にやってるし、慣れたものなんだろう。

 ユカリと一緒にベンチに腰掛ける。

 顔バレしたく無いのか、ユカリはフードを被っていた。

 やっぱ、思い出すか? 

 コクリと頷くユカリは、ギュウと服の裾を握っている。

 ……時間はありそうだし、一つお話を聞かせてあげよう。

 

「はなし……」

 

 とは言っても今回はポケモンの話じゃ無い。

 たまには別の話でもしようと思ってな。

 

 予言の子と呼ばれる魔法使いの話だよ。

 とても長い話だから全部は話せないけど、暇つぶしくらいにはなるかもな。

 

「魔法……使い……」

 

 まあ、のんびりしていこうや。

 

 

 ──────

 

 

「ん──っ!」

 

 二時間弱、ただただ長いだけのつまらない手続きを済ませ、伸びをする。待たせてしまった二人を探すと、見当たらない。彼のことだから、もしかしたらお姉ちゃんをどこかに連れて行ってしまったのかもしれない。

 しかし、待合スペースを見れば、やたらと人集りが出来ている場所があった。

 協会を訪れていたレーサー達だ。

 なぜかみんな律儀に椅子を持ってきて座っていた。

 嫌な予感がしたので近付いてみると、中心にはやはりポケモントレーナーがいた。

 お姉ちゃんも隣にいて、何かを話しているようだ。

 

「それで、3人はハグリッドの小屋を訪れました。もちろん目的は、フラッフィー以外の番人は何なのかという事です。ハグリッドは、他の番人が何かは知りませんでしたが、協力している教師の名前は知っています。当然問い詰められ、無理の一言で終わらせれば良いのに、協力している教師陣の名前を教えてしまいました。薬草学のスプラウト先生、呪文学のフリットウィック先生……おっ、リンが来たな。今日のところはこれでおしまいにしとこうか」

 

「え〜」

 

「もうちょっと聞かせてくださいよー」

 

「良いところなのに……」

 

 このアウェイな空気! おかしい、私は普通に手続きを済ませて、というかいつもより気持ち早めに済ませて出て来たはずなのに全然歓迎されてない。

 いや、一人だけ歓迎していた。

 ポケモントレーナーだ。

 彼だけ全く空気を気にせずに

 

「さあ、行くか!」

 

 なんて言っていた。

 その目は飾りなのかしら? こちらを振り返ってジト目で私を見ている子の何と多いことか。

 おかしい、私はこれでも活躍しているプロスポーツ選手で、むしろチヤホヤされて然るべきのはずだ。

 なんでこんな、もっと時間かけてこいよ、みたいな顔をされているんだ。

 

「オ、オホホ……じゃ、じゃあ行こっか〜?」

 

「ポケモントレーナーさん、またきてくださいね!」

 

「今度は続きね!」

 

「おう、リンが来るときがあったらくっついてくるわ」

 

 なぜこの男はこんなに火種をうまく投下してしまうのか。もはやジト目どころか、分かってるよな? という目付きで見られている。

 彼が何を話していたのか気になって仕方がない。

 

 ユカリは背中にしがみつきながら、本心からの納得をしていた。

 何故彼はメガネが使えずともあんなにサイコジェットレースを楽しそうに見ていたのか。

 その、魔法というのは難しい概念でまだ良く分からない部分もあったけど、クィディッチという競技によほど憧れていたのだろう。そして、箒で空を飛ぶことが、彼にとって憧憬の対象であったということがよく伝わってきた。

 それは確かに落胆するだろう。

 ただ一人だけ、彼だけ空を飛べないのだから。メガネが使えれば、箒でも自転車でも、空を飛ぶことはできる。競技にこだわらないなら、何でも良いのだ。

 選手はレギュレーションの問題で箒を普段から使っているけど、そうでない人はみんな、思い思いの道具で空を飛んでいる。

 

「あの……」

 

「ん? どうした?」

 

「今の話は……その……」

 

「もちろん作り話だけど……俺にとってだけは作り話じゃない」

 

 それは……夢を諦めないという事だろうか。

 確かに諦めなければ夢は叶うとは良く言うけど、あまりにも残酷すぎやしないか。

 結局は、物語なんだから。

 

「そういう意味じゃない、説明は出来ないんだけど……説明出来ないことだらけで悪いな。ともかく、諦めるとか諦めないとかそういう次元を超えて、俺にとってはまた一つのちゃんとした世界なんだ」

 

「そう……ですか……」

 

「でも、たしかに俺は夢を見ているのかもしれないな」

 

 正直、言っていることの意味は分からない。だけど、心底からそう信じていると表情が語っていたので、ユカリには頷くことしか出来なかった。

 

「ねえ、あの人集り、なんか宗教でも開いてたの?」

 

「魔法使いのお話」

 

「マホーツカイってなに?」

 

「そりゃ、なあ?」

 

「ふふ……はい……」

 

「なんだよもー! ちゃんと教えてよー! あの目、見た!? 邪魔者を見るような目! 私はちゃんと仕事してたのに除け者にして!」

 

「どうどう」

 

 リンもいつか聞かせてもらえたら良いね。

 

 

 ──────

 

 

 さっき話していたことを私にも話せ、なんてアホな要求をしてくるリンをスルーしていると、トボトボと歩いている6人組を発見。

 ホシノ、ナギ、アイリ、レッド、ヨウ、リーリエだ。

 あまりに暗くて、歩いた後からキノコでも生えそうな雰囲気にすれ違った人も思わず顔を顰めている。

 まだ4時にもなってないのに今日のお仕事は終わりか。

 

「うわ、なんか暗いね……」

 

 暗いどころかなんか汚い。あちこち駆けずり回って汗だくになったのか、それとも森の中にでも探しに行ったのか。近寄りがたい空気だ。

 

 まあ無事な事が分かればいいか、と目の前を通り過ぎていく6人を見送る。

 声を掛けなくていいのかって? 

 俺も心は痛いけど、こういうのはあいつらの成長に繋がるのかなと思ってさ。

 

 リザードンもいつもより尻尾の炎がいつもより勢い弱くなっており、後でブラッシングでもしてやろうかと思案する。

 ヒーホーくんは何故か普通の顔で歩いている。下を向いている他の奴らと違い視野が狭まっているわけではないのか、しっかりと俺たちを認識したようだ。

 アイリの腕を叩いてこちらを指差すので俺も手を振る。アイリは疲れているようだ。ヒーホーくんのそれを煽りと判断したのかちょっと怒り口調でやめるように言った。

 ええ……って顔をして、何度もこっちを見ながら連れて行かれた。

 おもしろ。

 

「着いて行かなくていいの?」

 

 思い返せば、彼女達が自分で考えて動く機会ってこれまで実はあまり無かった。良識ある大人としてはそれこそ、ハンサムと同様に止めた方がいいんだろう。だけどそれをしたら、今後につながらないような気がした。

 

「良識……?」

 

 なんだ、何か言いたそうだな。

 

「大人から良識を抜いたのが君だと私は思ってるんだけど」

 

 本当に俺の良識が無かったら、あの四人の誰とも旅なんてしてないぞ。

 多分盗賊ルートに進んでると思う。

 

「盗賊って……そんな極端な話してないよ」

 

 だって、IDカード無い、街入れない、お金稼げない、って事だし。

 

「それって、目覚めた直後の話? その……記憶喪失の」

 

 そうだよ。

 今思い返しても綱渡りだった。

 当時は興奮してたからあんまり気付いてなかったけど。

 

「興奮? ……変態」

 

 なにが!? いや、シモの話じゃないからね? 

 良識云々を置いといても、街入れないってなってたら、そうしてポケモントレーナーは森の奥に姿を消して行ったってモノローグが追加されてたはずだよ。

 そしてまともな装備を手に入れるために盗賊へと身を窶して別の物語になってただろうな。

 やっぱり衣食住足りて礼節を知るんだよ人間は。

 

「やっぱり記憶喪失って大変なんだね」

 

 そりゃ大変だよ。

 地理的情報も無ければ文字も読めない、知人もいないし金も無い。

 まあ実際はそこまで辛くは無かったけどな。ホシノがいたし、ガキどもも懐いてくれたしな。

 

「ホシノさんとはどこで知り合ったの?」

 

 最初の最初だな、目を覚ましたらそこにいた。ババコンガと戦ってる時に俺が落ちてきたんだとよ。

 俺は丸腰だったし、何もできねえからとりあえずホシノに指示を出してた。

 マジでこれ以外持ってなかったから超焦ったわ。

 

「……なにこれカード? でもIDカードとは違うよね」

 

 俺の故郷のIDカード、みたいなもんだよ。

 

「へー……なんでこんなに髪ボサボサなの」

 

 寝起きのまんま卒業試験受けに行った。

 

「IDカードは?」

 

 その時は普通だったような……いや、顔に土付いてるわ。テッセンさんにその場で登録してもらったからだ。

 

「無頓着過ぎない?」

 

 もっと大事な事がたくさんあるからな。

 そういえばこの後はどうしようか。

 

「私はそろそろ練習に行こうかな」

 

「まあ良い時間だもんな。ユカリは?」

 

「私は……特に……」

 

「それじゃあ、オールドタウンの外の景色でも見に行くか」

 

 

 ──────

 

 

 ケーブルタクシーに揺られながら、2週間ぶりに街の外へと出る。

 降りている最中は360度の視界が取れる。その景色を見ながらユカリの話を聞く。

 

「昔は……リンが……後ろ、に……くっついて、きて……」

 

「へー、あの勝気なリンがヒヨコみたいだったんだ」

 

「ヒヨコ……?」

 

「ニワトリいねえよなあ……後ろにくっついてくる子の事をヒヨコって言うんだよ」

 

「へー……」

 

「でも、今だって暇さえあればお姉ちゃんお姉ちゃんって」

 

「はい……変わった……のは……わたし……ですね……」

 

 夕焼けの中で悲しげに、儚げに笑うユカリを見て思う。自分に、彼女の気持ちを和らげる事はできない。きっと、時間だけがそれを癒してくれる。いや、あるいは……これから彼女を待ち受ける素晴らしい出会いがそうなのか。

 まあ、出会って一週間とちょっとの俺には分かる筈のないことだ。

 

「そんな……怖い……顔を……しない、で……ください」

 

 微笑みながら言われて、眉間に力が入っていた事に気づく。いけねえや、二人きりなのに片方がこんな顔してちゃあな。

 

「ごめんごめん、これでどうだ」

 

「……ふふ……ふふふ……」

 

 あれ、なんか表情間違えたかな……別に変な顔してないと思うんだけど。

 タクシーの窓に映った顔を見ると、眉間に力が入ったまま笑顔になっていた。

 きっしょ……

 揉んでほぐす。

 よし、大丈夫だな。

 

「はい……直り……ました……」

 

「うん、良かった」

 

 下に着くと、杖をついた管理人のじいさんにいきなり杖でツンツンと突かれる。

 やめろや。

 

「お前さん、最初にタクシーに乗せた時はギャアギャア喧しいだけのヤツなんじゃねえかと思ったが、評判通りやるヤツだったみたいだな」

 

「は、はあ……?」

 

「とぼけなくて良い、派手に立ち回ったらしいじゃねえか。俺もわけえ時は色々やったもんだが……お前さん、なかなかにコレだな?」

 

 じいさんは頭を指差してクルクルと指を回す。

 いわゆるクルクルパーってやつだろう。

 普通に否定すると

 

「じゃあ、お前さん以外に何人が動いた?」

 

「動いた?」

 

「この歳になると、何かのために腰をあげるのも一苦労だ……」

 

 よく分からない話が始まった。爺さんの薫陶を聞かされるのだろうか。

 

「人助けってのは難しいもんだ……なあ、どこまでやったら助けたって事になる? 誰が認めたら助けたって事になるんだ?」

 

 …………? 

 

「何で助けた? 何が望みだ? お前さんは何のために生きているんだ?」

 

 脈絡の無い話と続け様の質問に脳みそがショートする。長話が始まりそうだなと、薄ぼんやり明るい空を眺めて話を聞き飛ばした。

 

 

 ──────

 

 

 おじいさんは彼に質問しているようで、そうではなかった。きっと、もう答えは知っているのだろうソレを、黙りこくった彼にぶつける事で、どんな人間かを推し量ろうとでもしているかのようだった。

 何故そんな事をするのか、まるで分からなかった。

 

「例えば……みんなの希望であろうとした男がいて、その夢が叶わなかったとする。男のせいでは無く、ただ、その手が届かなかったというだけで、誰かが死んだとする」

 

 会話ですら無かった。

 おじいさんはにやけた顔のまま、その鋭い目付きが私たちを捉えて離さなかった。

 

「誰が責める? 9999人を助けて、最後の一人だけ助けられなかったソイツを誰が責める? どんな権利があって責めるんだ?」

 

「人を助けて、何になる?」

 

「意味があるのか?」

 

 まるで、彼の行いを否定してるかのような言葉に、それでも無言の彼に代わって答える。

 

「私は……助け、られ……ました……あそこで……果てる……はず、だった……命……」

 

「暗い……路地裏から……」

 

「だから……そんな……事を……言わない、で……」

 

 おじいさんは、悲しい顔をした。

 その顔は、私に向いていなかった。

 

「そうだな……お前さん達はそうだろうよ。だが、コイツみたいなタイプは……ああ、愚かだ……なんて愚かだ」

 

 ブツブツと呟きながら私たちを残して歩いて行ったおじいさん。

 一体何だったのだろうか。

 

「あ、終わった? おじじの長話ほど無駄なもんはねえからな、意識飛んでたわ」

 

 黙ってたと思ったら寝ていたらしい。

 ちょっとムカッと来たので正当な抗議をする。

 

「背中をポコポコ叩かないでもらっても?」

 

「真面目に……聞かない……から、です……」

 

「ごめんて……あっちの方でも見に行くか」

 

 花が生い茂る場所に来た。もう陽もほぼ落ちているけど、その場所にはナゾノクサやマダツボミ、バタフリーやリーフィアなど様々なポケモンがいた。

 皆、思い思いの場所にいて、草を食んだり花を見つめたりしていた。

 ポケットに詰めていたのか、レジャーシートを取り出してそこに座らせてもらう。

 隣に胡座をかいて座り込み、地面が硬くてわるいけどと前置きして彼は話した。

 

「可愛いよな」

 

「はい」

 

「割とありふれた光景かもしれないけど……こうして見ているだけで、時々思い出す事があるんだ」

 

「なにを……ですか?」

 

「ドッグラン」

 

「ドッグ……?」

 

「俺の故郷には、イヌっていうモンスターがいる」

 

「イヌ……」

 

「ドッグとも呼ぶんだけど、そいつらを遊ばせておく場所がドッグランなんだ」

 

「そう……なんですか……?」

 

「俺の実家にはイヌが1匹いてな、そりゃあもう可愛がったよ。ヨボヨボになっても、名前を呼んだら首を上げてこっちを見るんだ。今でも思い出すよ、帰ったら飛びついてくるあいつを」

 

「わたし……も……実家に……バリヤー、ド、が……いました……」

 

「……バリヤード!?」

 

 何故か、私の言葉に彼は過剰に反応していた。何がそんなに驚かせたのだろう。バリヤードを見た事が無いのだろうか。

 

「ユカリ、そういえばちゃんと聞いてなかったけど、お前の故郷ってマサラタウンだったりする!?」

 

「い、いえ……マサゴ、タウン……です……」

 

「ゴか〜〜……いやごめん、ちょっとな」

 

 何故かガッカリされてしまった、マサラタウンとはどこだろうか。

 …………まさか。

 

「あの……」

 

「ん?」

 

「あなたの……故郷は……マサラ……タウンなの、ですか……?」

 

「いや、流石にそれは無いけど」

 

「あれ……」

 

 じゃあなんであんなに過剰反応したんだろうか。

 聞こうと思ったけど、ナゾノクサ達と戯れ始めた姿を見てやめた。

 順番待ちのモンスター達を次々と放り投げており、モンスター達はとても楽しそうにしていた。

 彼は無表情でそれを行なっており、遊んでいるというよりは事務作業をしているようだった。

 しばらくして戻ってきた彼に楽しかったのかを聞く。

 

「アレ自体は別に……でも、ポケモンと触れ合えるのは楽しいからな。ちょうどプラマイゼロって感じだ」

 

「じゃあ……そろそろ……暗い……ので……」

 

 時間も18時を大きく超えている。リンはまだまだ練習しているだろうけど、彼の仲間は心配しているのでは無いだろうか。

 

「付き合わせて悪かったな、戻るか」

 

「いえ……ひさし、ぶりに……外に出て……楽しめ……ました……」

 

「じゃあ、ほれ」

 

 いつも通り彼の背中に乗る。

 彼の背中は何故か全く揺れない。おかげで乗り心地は本当に良いけど、理由がわからなくて聞いてみた。

 パワーでなんとかしている、だそうだ。

 タクシーの所に行ってみると、管理小屋はもう閉まっていた。

 途端に焦り出す彼。

 

「え、まじ? 今日はもう動かないとか嘘だよな?」

 

「営業……終了……って、書いて……あります……」

 

「オワタ……」

 

 どうしよどうしよ……と常に見ない慌て具合の彼はワイヤーを見つめた。

 

「かくなる上はよじ登るか……」

 

 それはやめて欲しいと心から思う。難なく出来るのかもしれないけど、背中から手が離れたらと思うと恐ろしくて仕方ない。

 

「あ」

 

 ワイヤーを見上げていた彼が何かに気づいた。同様に見上げると、影が近付いてきていた。

 野生のモンスターかと身を固くすると、大丈夫と宥められる。

 

「リザードン、心の友よ! 信じていたぞ!」

 

 レッドさんのリザードンが迎えにきたようだった。

 軽蔑の眼差しを彼に向けながら、地面に降り立つ。

 握った右の拳で彼の頭をボカッと殴った。左手には紙を持っているようだった。

 

「いってえええええ!!」

 

 悶絶しながらも私が揺れないようにするあたり、意外と余裕はあるらしい。リザードンへのポーズなのだろう。

 リザードンが紙を掲げた。

 彼の写真に『こいつ、探してる』というあまり綺麗で無い文字が書かれていた。

 え……

 

「まさか……書いた、の……?」

 

 コクリと頷くリザードン。

 

「くそ〜! 先越された〜!」

 

 彼は悔しがっている。文字を書ける事は知っていたのかな。

 

「全然上手くならねえから諦めてたんだけど、お前まだ練習してたのかよ〜……」

 

 リザードンはどうでも良いと言わんばかりに紙をグシャグシャにして彼のポケットに押し込んだ。

 地面にうつ伏せになり、ちらっとこちらを見る。

 

「サンキュー」

 

 飛んで帰るつもりなんだ、そう思った瞬間、身体がいう事を聞かなくなった。

 無意識に彼の背中を押して離れようとした。当然、背中に乗っている私がそんな事をしたら落ちそうになるわけで……

 

「おっと」

 

 地面に背を打ち付けるという予想は外れて彼の腕の中に収まった。

 

「やだ……」

 

 研究所が壊滅したと知る前のように、拒絶の言葉が漏れる。いつ連れ戻されるのか怯えているばかりで、手を握って貰わないと寝ることも出来なかった。

 

「痛いのは……やだ……」

 

 目を瞑って、縮こまる。脳裏にフラッシュバックする実験の記憶に、意識が流されそうになるのを耐えていた。

 

「大丈夫だよ」

 

 優しい声が聞こえた。

 恐る恐る目を開けると、ベッドに横たわっていた。

 どこかわからずにいると、彼が扉を指差す。

 

「さっきの管理小屋だよ、ベッドもトイレも冷蔵庫もあるから今日はここで良いだろ。あの爺さんはここには泊まらないようだしな」

 

 ホッとすると共に、リザードンと彼に申し訳なくなる。

 

「そんな顔しないで良いよ、迷惑じゃ無い、本当だ」

 

「リザー、ドン……は?」

 

「帰った。アイツらは疲れて寝ちゃったらしいから早めに帰りたかったんだと。ユカリ、お前も寝て良いぞ。俺は外に出とくから」

 

 もう追われることも無いから見張りとか要らないしな、そう言って出て行こうとする彼の手を掴む。

 

「その……」

 

「…………外は寒いし、中にいようかな」

 

 

 ──────

 

 

 ユカリの問題、全然解決してねえじゃん! 

 もうアレだな、リンとシッカリ話し合うしか無いな。故郷に帰ったらお世話するのは家族なんだし。

 手を握ったまま寝息を立てるユカリ。

 俺はベッドの横で椅子に座っていた。

 かなり力強く握っているので、剥がそうとしたら起きてしまうかもしれない。リンと寝ている時はどうしていたのやら。

 ……そりゃあ、家族が隣にいれば安心して眠れるか。

 

「んん……」

 

 寝苦しそうにしている。フワンテがいればゆめくいで悪夢を消せたんだけど、置いてきちゃった……

 しょうがないので手櫛で、髪を漉くように撫でる。

 しばらく撫でていれば表情が和らぎ、寝息も安定した。

 これが撫でポ……? 

 撫でポのポってなんだっけ、ポーションだっけ。

 撫でポーション、便利そうだけど日常生活送り辛そうだな。

 

「おかあ……さん……」

 

「どっちかというとおとうさんだな」

 

 紫に染めた髪だけど、研究所がすぐに無くなったからあんまり意味なかったな……どうせなら元の白い髪のまんまでよかったか。

 子供の頭皮にダメージ入れただけになってしまった。綺麗な白い髪だったのにな。

 

 それにしても…………

 布団から出た足を見る。痛々しい痕が確かにそこには残っていた。今のままでは一生まともに歩けない事は明らかだ。

 こんな仕打ちをするだけの価値が、アイツの目標とやらにはあるのだろうか。

 ……そんなわけがない。例えそれがどれだけ崇高な目的につながるとしても、許されて良いことではないはずだ。

 青い揺らめきが発現するのを抑え込む。

 今だけは、この揺らめきが心にささくれを生み出した。レイガンを撃てるから何だ、まるで意味が無い。

 この街では己の無力と自惚れを思い知らされてばかりだ。

 

 

 ──────

 

 

「あの……」

 

 か細い声で起きる。どうやらいつの間にか朝になっていたようだ。椅子に座って寝ていたからケツが痺れていた。

 おはようユカリ、眠れたか? 

 

「はい……その……ありがと……ござい、ます……」

 

 どういたしまして。

 伸びをすればゴキボキと骨が鳴る。やっぱ座って寝るのはあんまり良く無いな。

 次はちゃんと寝よう。

 それにしても……腹が減ったな。

 

「昨日は……かんたん、な……ものしか……食べて……無い、です……からね……」

 

 まだ宿の朝飯はやってる時間だし、急いで帰ろうかな。

 軽く会話をしていたら扉が軋む音が聞こえた。

 

「昨夜はお楽しみでしたかね?」

 

 じいさん、管理小屋勝手に借りさせてもらったぜ。

 

「好きにせい」

 

 それじゃあタクシーも営業開始って事で、邪魔になるし行きますか。

 

「は、い……」

 

 宿に帰ってユカリをリンの部屋に帰し、シャワーを浴び終えるとホシノが泣きついて来た。

 

「あんなの無理だよ〜、もう行きたく無いよ〜おじさんクタクタだよー……」

 

 ぐりぐりと俺の腹に顔を押し付ける。

 どうやら俺のことを猫型ロボットか何かと勘違いしているようだ。

 それはともかく、よく分からんけど頑張ったな。

 

「ひーん……」

 

 ナギも擦れた顔をしている。

 

「あんな大冒険したのに収穫無しだったわ……」

 

 収穫無しは何となく察してたよ、昨日の帰り際のお前ら見てたから。

 

「疲れた」

 

 下だけ履いて、ベッドに腰掛ける。上まで着たら暑くて敵わねえや。

 俺がシャワーを浴びる前と変わらず、いまだベッドに横たわって無の顔を見せていたレッドは、ゴロゴロと転がって俺のベッドに乗り込んできた。

 

「疲れた」

 

 もう伝わってるから。そんな二回も言わなくても聞こえてるから。

 転がったせいでパジャマがはだけて腹が見えているので、とりあえず撫でる。

 ……スベスベだ! 

 堪能したところで撫でるのをやめて、だらしなく広がっている服を直したらレッドに手を掴まれた。

 

「もっと」

 

 ワンコと化したレッドをモニュモニュする。レッドもレッドで、いつぞやのように太ももに頭を載せている。俺の膝をペチペチ叩いたり手を伸ばしてなんかしようとしているのを見ていると背中に衝撃が。

 すわ暗殺者かと身を捩って確認するとアイリだった。

 なんかめっちゃ鼻息荒い。

 こわ……

 な、何してんの? 

 

「くさかったので上書きしてます!」

 

 むくつけき男の匂いで上書きしないといけないほど臭いってどこ行ったんだコイツら。

 というかレッドもアイリもホシノもちょっと様子がおかしいというか、なんか変だ。

 ナギもチラチラこっち見てるし。

 

「下水道に行ったんだけれど、完全に想定外だったわ……」

 

 ええ……そもそも下水道に社長が隠れるわけ無いと思うんですけど……お前ら配管の中を這ってたの? 

 

「違うのよ……」

 

 改めて話を聞いてみる。

 そもそもなぜ下水道なんぞに行ったかと言えば、まず、ヨウとリーリエとともに研究所の探索を行ったと。

 近くでわざと騒ぎを起こして警察を釣り出し、その隙に乗り込んだんだとよ。

 当然目的は地下だ。

 そこで隠し通路とやらが無いかを探したらしい。警察がスキャンして、もう無いと結論付いてるはずでは? 

 と思ったが、どうやらリーリエのパートナーが異空間を見つけて、行き来するためのワームホールを作ったらしい。

 ワームホールを潜った先はどこかの下水道で、6人はそこに侵入した。

 直径10何メートルもあるような下水道だったらしい。

 

 彼女達がそこで出会ったのは、マネカタというポケモンだった。

 

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