俺はポケモントレーナー   作:goldMg

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2_初めての旅

 フルオカタウンを出発してしばらく、160番街道を道なりに進んでいるんだが一つ問題がある。

 

 俺、サバイバルできねえや。

 マジできつい。

 いや、サバイバルっていうかキャンプ? もう本当にめんどくさい。

 こっちの世界来てから異常に身体の調子が良いから道具とかは楽々持ち運べるんだけど、ペグの刺し方だの火の起こし方だのがダルすぎる。

 

 あと飯。

 カフェのサンドイッチが懐かしいよぉ……

 なあレッドちゃん……いっつもこんな感じなのん? 

 ちょっと違う、だそうです。

 つまりほぼこんな感じってことだ。

 もう本当に申し訳ないんだけど都会育ちの俺にはあまりにもキツすぎてモチベーションがとんでもなく低いよ……

 でもあっちの二人はずーっと異常にテンション高いからあんまそういうの口に出せないし……

 この旅でだいぶレッドとも馴染んできた感じはあるけどこの一点だけは厳しいぜ。

 

 誰かが許すならすぐにでも辞めたいけど、レッドにあんな大言壮語吐いた手前無理だ! 

 

 くそっ、俺にもサバイバルチートみたいなのがあれば! もう俺には分かる。次の街には絶対ピカチュウいないよ! 

 だってレッドの故郷から何の理由があってピカチュウがそんな離れたところ行くんだよ。

 地図だって見方分からないだろうし、俺がピカチュウならレッドを信じて故郷の周りでウロチョロしてるよ! 

 そもそも遠過ぎだよ! もう1ヶ月は旅してるよ! どういう世界だよ! 街と街が遠すぎる! これは確かに人類が生態系のトップやってないって分かるよ! 

 ……まあ良い、俺は大人だからな。今日の飯が倒したモンスターの肉でも文句を言う事はしない。

 ただ、米とサラダが無いことに対して怒りを感じているだけだ。

 遠い世界で転移すらしたことがない弱者ども、覚えておけ。食える葉っぱは覚えておいて損が無いぞ。

 

 というわけで、おーいホシノ! 食える葉っぱ探しに行こうぜ! 

 え? ……夜だからなんだ! 俺は葉っぱが食いてえんだ! ……お、おお、良いのか……

 ハイハイって受け流されるかと思ってたけど意外と言ってみるもんだな。

 え? 眠いからおんぶしろって? まあ良いけど。普通はトレーナー、俺がポケモンに乗る立場だよな……まあサトシも肩にピカチュウ載せてたか。

 

 レッドも行くか? 

 ……まあそうだよな、何を好き好んで夜に葉っぱ如きを探さないといけないんだって話だよな。

 分かるよ、俺も子供の頃は肉以外要らなかったし。でも俺もさ、この歳になると……いや全然、全然若いけどね!? そう、この歳になると葉っぱの良さも分かるというか、肉だけじゃ得られない栄養ってやっぱあるんだよ。

 じゃあ一旦席外すから、モンスターの襲撃に気を付けろよ? 旅の大先輩にこんな事言っても無駄だと思うけどな。

 先に寝てて良いからな? リザードン、警戒は頼んだぞ……っっ!! うひょひょひょひょ! リザードンがウィンクしてくれたぞホシノ! 

 そういやレッドのリザードン以外のポケモンは故郷の預かり屋さんの所にいるらしい。まあモンスターボール無いしな……

 

 さて、探しに行くか。夜の物資調達だ! 

 あんま揺らさないでって? 任せろ、前なら出来なかったが今なら身体をほぼ揺らさずに歩くことが出来る! 

 ……いや、滑らかすぎて気持ち悪いとか言うな! 

 俺のチートの恩恵受けといて贅沢言うな! ちょっとだけ傷付いたぞ! 

 おっ、あの葉っぱとかどうだ? え? 毒草? ほーん……じゃあアレは? さっきのとは違うけど……アレも毒草。えーと、じゃあそっちのは? ……毒草? 

 毒草しかねえじゃねえか! 

 

 なに? 食べられる草はそんなに多く無いとか言われても、どうすりゃ良いんだよ俺のこの行き場のない感情は。

 どうせアレだろ、モンスターに食われないように毒を溜めるように進化したんだろ? ……っ! そうだ、そもそも食べられる草みたいなモンスターっていねえのか!? 

 バカにすんな、本気で言ってんだよ。

 ……人の背中で爆笑すんじゃねえ! 

 え? それ食える? どれだ、これか? 

 ……なるほど、覚えたぞ。これは食えるんだな。

 そんじゃあいくつか持ってくか。

 えーと……そこか。

 おっ、あっちにもあるジャーン。

 何だ、探せば意外とたくさんあるな。

 どんどん採っていくか。

 

 

 ──────

 

 

 デカい亀に追いかけられてます。ホシノ曰くドダイドスと言うらしい。なんか聞き覚えあるし多分こいつも原作ポケモンだわ。

 ホシノは武装を置いてきちまったし勝ち目はない。

 とはいえ絶望的な状況というわけでは無い。デカくて、鈍重。もうその2条件が揃っただけで、俺が追い付かれるなんて事は起こり得ない。

 

 振り回される尻尾にトンッと足をかけて跳躍する。背中に乗るとひっくり返って引き剥がそうとするので、ひっくり返るのとは逆側に降りて暴れているのを眺める。

 ブチギレたドダイドスがなんか蔦とか使い始めて、あたり一面蠢く蔦だらけになったし木がいきなり生えてきたりでマジックショーを見ている気分だ。

 まあポケモンの技なんてそんなもんだよな。

 そしてこの一連の動作の中でもホシノに揺れを感じさせない俺を誰か褒めろ。

 あとホシノ、もう少しだけ腕の力弱めてくれない? キツすぎるだろ流石に。

 え? 振り落とされないように必死だって? ……遠心力はノーカン! ノーカンだから! 

 

 技を連発しすぎて息を切らしているドダイドスと腕組みをして高笑いする俺。勝者は明らかですわよ。

 お前の敗因はPP管理の甘さだな! 

 ……げっ! 新しく3頭きやがった! 

 反則! 反則ですよ! 

 流石に逃げるぞ! 

 もう視界全部覆い尽くすぐらいの勢いで迫ってくる蔦を逆に足場にして全力で逃げていると空から赤い流星が落ちてきた。

 おっ、リザードン! と、レッド。

 助けに来てくれたか! 

 いやいやレッド、違うから! 別にレッドのことを蔑ろにしているわけじゃないから! 

 な! リザードンもそう思うよな! 

 ……ほら、リザードンもそうだってよ! 

 いや、違う違う違う! こっちにかえんほうしゃ打たせるな! ホシノもいるんだぞ! 

 避けられるでしょって? 

 見ろよホシノの腕! ぶるっぶるに震えてるじゃねえか! 

 なーホシノ、人にかえんほうしゃなんか使っちゃダメだよなあ? 

 レッド、反省しなさい! 

 ……冗談、冗談だから、お願いマジで助けて! 何で夜にこんな全力運動しないといけねえんだよ! 

 

 うおおおおお!! 空を飛んでるぞ!! 

 すげえ! コレがそらをとぶってやつか! 

 惜しむらくは背中に乗れねえことだが、すげえ! 

 ホシノ、そっちの光景はどうだ? 

 ……良いなあ〜、俺も背中にな〜、こう、仁王立ちしてる所を写真に撮ってもらいてえ〜。

 え? レッドが今まさにやってんの? 

 羨ましいぞ、レッド! お前はキャンプ地に戻ったらくすぐりの刑だ! 

 あっ、ちょっ、揺らさないで……

 

 ふぃー、楽しかったわー……リザードン、ありがとな! レッドもサンキュー。

 報酬? ……じゃあ〜くすぐりの刑だ! 

 こら、逃げるな! 待て! ──おっ、笑ったな。

 偶にはそういう年相応っぽい顔も見せてくれないと心配になるからそれで良いんだよ。

 あ、仏頂面に戻った。

 いでっ、脇腹に正拳突きすな。

 

 そういや、何で助けに来れたんだ? 結構離れてたし音とか聞こえないと思うんだけど。

 知らないって……いや、何でそっぽむくんだよ。

 なんだホシノ、そっとしといてやれ? 

 しゃあねえ……草と肉でも食うか……

 お前らはさっさと寝るんだぞ? 

 俺は燃費悪いからな、こうしてこまめなガソリン補給が必須なんだよ。

 あと、ちゃんと寝ないと大きくなれないぞ? 二人ともまだ成長期真っ盛りなんだから。まあ俺も一応まだ成長期ではあるけど。

 いや、セクハラじゃ無いから……嫌な概念を思い出させるんじゃねえ! 

 

 

 ──────

 

 

 んー、寝覚めの悪い朝がきた。ベッドで寝たいめう……

 今日も霧が出てるな。

 気候の問題だとは思うけど、伝説のポケモンが隠れ蓑として霧を出しててもおかしくないのがこの世界だからロマンがあるぜ。

 さて、まずは薪に火を付けるか。

 この作業が毎度のことめんどくさいんだよな。ホシノ達は太陽石とかいうよく分からない石に念じると火が出るのに、俺はそれが出来ないから錐揉み式でやるしかない。しかも霧で湿ってるから全力を出さないと火が付かないのだ。

 2人は都合のいいファンタジー世界なのに、俺だけディスカバリーチャンネルの世界だ。

 

 薪に火をつけて、いつものようにドクダミ茶を温めておいたら2人とも起きてきた。

 2人ともおはよう。ほら、レッド、危ないからふらふら歩くな。こっち座りな。

 おいホシノ、お前もどこ行くんだ。そっちは段差だ、転ぶぞ。

 全く……なに? トイレに行きたい? じゃあリザードン、ついてってやってくれ。

 おう、肉は後でやるから。

 ほらレッド、お茶飲みな。

 

 お……ピクミンだ。確か人参みたいな味がするんだっけ? あの見た目で人参は逆に珍味だろ。流石に食べる気になれないな。

 ん、レッドどうしたうつらうつらして……眠いか? まあ朝だからな。一旦川で顔洗ってくるか? 

 おう、そんじゃあ俺も付き添うか。

 ……本当にこいつら1人でやってきたのか? 

 

 さて、河辺に危ないポケモンはいねえな……ポケモンもこうして野生でやり合うことになるとただの猛獣となにも変わらねえというのを本当にひしひしと感じるわ。

 アマゾンではトイレに行ったらワニに食われて半身だけ残っていた、なんて話を聞いたりしたもんだけど、それより過酷だわ。

 ほら、今のうちに顔洗いな。

 俺も水筒に水入れるか……マジでくっそ綺麗だよなこの世界の川って。もちろん煮沸はするけど。

 お、シャキッとしたか? そんじゃあ戻るか……なにモジモジしてんだ。……あー、じゃあ俺はあっちの方行っとくから、なんかあったら大声で呼べ。

 先に戻れってお前……ちゃんと戻ってくるんだぞ? 

 

 焚き火の所に戻るとホシノが戻っていた。顔も洗ってきたようでコチラもシャキッとしている。目ぇ覚めたか? 

 え、お腹が減った? じゃあ燻してた肉でも食え、葉っぱも一応炒めてあるから一緒に食べな。

 いや好き嫌いすんな! ったく……リザードン、ありがとな。ほら、肉。──あっぶね! お前俺の腕ごといこうとすんなよ! 

 さて、全員目は醒めたみたいだし、テントを片付けるか! 

 朝から元気だね〜、っても俺は体力だけは異常に余ってるからな。

 

 お、レッドもちゃんと戻ってこれたな、偉いぞー。

 お腹減った? いや、今見ての通りに君たちのテント片付けてるんだけど……焚き火の近くに燻製肉があるからそれ食べてな。ちゃんと葉っぱも食べるんだぞ。

 おいそっぽ向くな。

 何だこのガキども……しまいにはお前たち2人とも飯はポロックだけにすんぞこら。

 え、昔の駄菓子? いや、ポケモンの餌だろ。

 なに、そういう扱いなのポロックって。

 そ、そうなんだ……別に何の思い入れもないけどなんかショックだな。

 ……早くテント片付けてよ、です、か。

 はいはい、分かりました分かりました。俺には感傷に浸る暇すらありませんからね。

 レッドちゃん、君、結構俺に対して遠慮が無くなってきたね? 

 まあコレも良いことではある、のか? ……うん、コミュニケーション能力が上がったと考えよう。

 

 さて、2人とも食べ終わったらちゃんと歯磨きするんだぞ。

 ……おい、寝転がるな。

 ホシノ、磨いて〜、じゃない。ほら、起きてちゃんと磨け。おい、早く起きろ。……何だこのポケモン全然言うこと聞かねえじゃねえか! やっぱりバッジが無いのがいけないんだ! 

 あの時テッセンさんから無理矢理にでも貰っておくんだった! 

 もうホシノじゃなくてカビゴンだよこれ! 

 レッドを見習え! あの子はちゃんと磨いてるぞ! お前何歳だ言ってみろ! イデッ、こ、こいつ、俺を足蹴にしやがった……

 

 

 ──────

 

 

 道中、余りにも暇すぎるのでホシノになんか面白い話とか無いかと聞いてみたら、どうやらこの道沿いにオツキミヤマなる山があるとの事だった。

 何だっけ、オツキミヤマ……確か、ピッピがいるんだよな……なんかイベントが……

 ホシノ、何だっけオツキミヤマのやつ、え、ピッピなんて聞いたことも無い? レッドは? 

 

 首を傾げるレッドとホシノの様子に俺の記憶間違いかと思ったけど、そんな特徴的な名前の山を忘れるはずがない。絶対になんかあるはずだ。

 よし、寄ってみるか! 

 幸い今夜は満月だ! 

 レッド、暗い顔すんなって。

 メインがピカチュウ探しなのは分かってるよ。でも街から街へ行くだけじゃあ到底見つからないのは分かるだろ? だって野生のポケモンは街になんか入らないんだから。

 それに、知らないってことはまだオツキミヤマを探索したわけじゃないんだろ? 

 な? じゃあ行ってみるのも全然ありだろ。

 全然ありは誤用? レッド、どうでも良いことは気にすんな。

 

 基本的に道の近くには小川があるので水筒の水が無くなったら補給しているが、2人とも煮沸せずにガブガブ飲むもんだから見てて怖いわ……

 腹壊すぞお前ら……

 いや、俺がいるから大丈夫ってなんだよ。腹壊すのと俺に何の関係があるんだよ。

 あとずっと言ってるけど、水飲みたいなら先に言え、ちゃんと煮沸するから。まあ喉乾いたらすぐ飲みたいのは分かるけどな。いちいち沸騰するまで待ってるのもめんどくさいだろうし。

 

 でもお前らその適当さで良くこんな旅出来るな……いや、2人揃って俺にだけは言われたくないって言うけど俺ほど几帳面な男もいないだろ。

 誰がお前らの服洗ってると思ってんだ。

 そこら辺……? そこら辺か……。

 いや待て、論点をすり替えるな。お前らも旅程の最初の頃はもう少しシャンとしてただろ。それがいつの間にかこんな事に……

 おじさん気付いちゃったんだー、って何に? 

 ……俺に全部任せれば楽に旅できるって? お前少し前まで野良ポケモンだったのに野生忘れるの早えよ。レッドも頷くな。

 こいつらツッコミどころが多すぎる……

 

 

 ──────

 

 

 2人とも、そろそろ昼飯にするか。

 こら、パンツが汚れるから地べたに直接座るな。いや、そっちのパンツじゃねえよ。ズボンの意味だよ。

 レッド、枝を探してきてくれ。ホシノ、お前は食える葉っぱ探してこい。疲れたよ〜じゃねえ、荷物全部持ってんの俺だろうが! 

 俺は今から一旦荷解きしなきゃいけないんだから。リザードンは薪の主材持ってきてくれ。

 

 さて、釣竿もそこら辺のしなる木で適当に作ったし、アイツらが探しに行っている間に釣りと洒落込みますか。餌は燻製肉だ。

 朝作ったスープを水筒に入れといたのでそれを啜りながらボケーっと待つ。

 ヌオーが水面から顔を出してコチラを観察していた。多分今の俺もあんな感じの顔してんだろうな……

 なんかこう……もっとウーパールーパーな見た目してるもんだと思ってたけど意外とゲームそのまんまな見た目してるよなヌオー。

 おっ、竿が引いてる…………!? つ、強い! 何だこれ、何がかかったんだ!? 

 

 結局釣れたのはコイキングだった。まあ確かにコイキングって結構でかいし相応に釣るの大変か。

 それにしてもこいつってコイなんだよなぁ、養殖じゃないやつは臭いって聞いたことある気がするんだけど……水が綺麗だからいけるかもしれないか。

 ビチビチと跳ねるコイキングをシメて捌いていく。

 骨ふっと……

 全体的に骨が太いからか意外と捌きやすいんだな。

 レッドたちが戻ってきたら焼くか。

 

 あ、おいレッド、摘み食いするな。

 生の川魚には寄生虫がいるんだから、ほら、ペってしなさい。

 生でも美味しい? いやそう言う問題じゃ無いから。海で今度好きなだけ食べさせてあげるからやめろって。

 いつもはレーションしか持ち歩かないとか言ってたからあんまり食べない味なのは分かるけどさ。終わってるよお前の食生活。

 もっと釣ってよと言われましても……まあ釣るけど、あと1匹だけな。お前も座るか? 

 

 よいしょ、この岩の上なら2人ぐらい余裕だろ。

 そういや枝はどうした? 

 あっちに置いといてくれたのか、ありがとうな。

 子供扱いしないで? いや、大人は仕事してもらったら感謝するのが最低限のマナーだからむしろ大人扱いというか、本当に子供だと思ってたら枝なんか探しに行かせてないから……

 露骨に機嫌良くなった気がするな、あんま表情に出てないけど。やっぱ子供ですわ。

 

 記憶喪失だって言ってあったっけ? そうか、言ってなかったか。まあとにかくそうなんだ。

 でも、大人になりたくなかったのは覚えてる。

 昔からずっと、大人になんかなりたくなかった。だって見てても分かるじゃん、好きな時に好きな場所に出掛けられ無いんだぞ? 

 だから今でもガキみたいだろ? 

 そんな事ない? いや、そこは賛同しとけよ……

 まあ俺もまだモラトリアムの端っこの方にいるから社会人的な意味での大人ってわけじゃない。

 もう少しで大人の仲間入りって時に、こんな所に飛ばされちまったからな。やり直しともまた違うけど、ちょっとホッとしてるよ。

 いや? 悪いことはしてないぞ、事故みたいなもんだ。どちらかと言うと遭難に近いな。少なくとも島流しみたいな認識は無い。

 

 寂しいかって? ……まあ、多少はな。でも、お前もホシノも親元から離れて旅してて少しは寂しくなったりするだろ? それと似たようなもんだ。

 え、孤児? ……兄弟とかいるのか? そうか、施設の子供達はみんな弟妹みたいな感じ、ね。

 良いじゃん、大事にしろよ。

 

 戻ってきたホシノは色々な種類の葉っぱや果物を持ってきた。多分、オレンの実とかあるんだろうな……

 ホシノ、沢山採ってきたな! よくやった。

 主食はコイキングだ。好きなだけ食え。

 そんじゃあいただきます。

 …………ん、ポケモンか。

 大分興奮してるみてえだが、こっちにはレッドがいるんだよなあ……

 

 野良ポケモンの襲撃もレッドがいれば余裕だったな、さすがだぜ。

 それにしても飯を邪魔しやがって。

 まあ食い終わったしそろそろ行くか。

 

 

 ──────

 

 

 今、私たちはおつきみやまの麓にいた。

 おつきみやま、お兄さんが言うにはピッピというモンスターがいるらしい。

 3年間の旅の中でそんな名前は聞いた事が無かったけど、お兄さんは何でそんな事知っているんだろう。

 思えば最初から色々と変なことだけ知っているみたいだった。

 私の親友、ピカチュウの事もそうだ。

 お兄さんはカフェで話したあの時、私がピカチュウといるのが当然みたいな態度だった。

 何でだろう? 

 考えても分からないけど、とにかく変な人だった。

 

 まず、キャンプのやり方を知らなかった。簡単な紐の結び方すら苦労してやっていた。

 旅をする前に最初に学ぶのがそういう事のやり方なのに、そんな事はやった事もないって言っていた。

 10歳になっても旅をしない地方なんてあるのかな? 

 それと、お兄さんはポケモンという単語を良く使う。これも私は聞いた事がなかった。

 あまりにも当然のように使っているので、常識知らずというよりは遠い地方で生きてきたんじゃないかなって思ったりもする。

 でも、おつきみやまに詳しかったりするし、本当によく分からない。

 

 記憶喪失で、生まれた場所とか名前は落としてきたと笑っていた。

 その代わりに、ポケモントレーナーと名乗っているらしい。名前としてはあんまりなんじゃないかなって聞いてみたら、だからこそ良いんだ、とよくわからない事を言われた。

 私だったら自分の名前が分からなかったらすごい嫌だなってなる。なのにお兄さんは全く気にしていないようで、これが大人なのかなって思った。

 

 

 ──────

 

 

 おつきみやま、それは何の変哲もない山だった。

 何もなさすぎて、最も近い街であるマタナキタウンに住む人が来る事も無い。

 観光地ですら無い。

 忘れ去られていた。

 内部に洞窟がある事など誰も知る由はなかった。

 ただ、断崖絶壁で周囲を囲まれた山であり、わざわざ危険を犯して行く者などいなかった。

 空には今も上り続ける満月が浮かび、月明かりだけがほのかに周りを照らしている。

 ただ、青年は知っていた。

 獣道が一本伸びている。それは確信であった。

 この先だ、と。

 

「本当にピッピっていうモンスターがいるの?」

 

「ああ」

 

 木々に空が覆い隠された森の中ではリザードンの炎とヘッドランプのみが頼りだ。

 ホシノとレッドは少し怖気付いていた。

 こんな場所で周囲をモンスターに囲まれたらひとたまりも無い。レッドが全バッジ獲得の最年少保持記録者かどうかなど関係無い。全5匹のパートナーが今ここにいたなら制圧も出来ただろうが、リザードン以外は今は故郷の預かり屋さんのところだ。

 人の目が届かない森の奥、モンスター達のテリトリー。仮に四方八方から迫られたら……

 ごくりと唾を飲み込む2人の予想に反して、モンスターたちが現れる気配はなかった。

 察知能力という意味では人間を遥かに凌駕しているリザードンと、先読みの能力が高い青年だけが、物騒な事は何も起こらない事を知っていた。

 足元に隠れる木の根だけに注意しながら3人と1匹は山の中腹、切り立った崖の下まで来た。

 そこには太い蔦がびっしりと生えていて、蔦を登るでもしない限り進むことはできなさそうだった。

 しかし青年の判断は違った。

 レッドの相棒、リザードンに対して指示を出す。

 

「リザードン、エアスラッシュ」

 

「…………ゴアアアアアア!!!」

 

「え!? リザードン!?」

 

 レッドはあまりの驚きに常は出さない大声で叫ばずにはいられなかった。

 リザードンも自らの体がオートマチックに動き出すのを感じていた。

 自らの相棒たるレッドに動かされるのとは違う。

 心から信頼した相手からの指示でないにも関わらず、身体をどう動かせば、技をどう当てれば目の前の蔦を切り払う事が出来るかがまるで呼吸をするように導き出された。

 放たれたエアスラッシュは的確に太い蔦を切り裂き、その先にあったものを露わにした。

 そこには洞穴の入り口があった。

 古く閉ざされていた頂上への道が開けたのであった。

 

「さあ、先に行くぞ」

 

 リザードンもレッドも、ホシノも驚いていた。ただ、ずんずんと先に進む青年に、お互いの顔を見合わせて着いていくことしかできなかった。

 中は真の暗闇と言って差し支えなかった。

 

「うへ〜、何にも見えないよ〜」

 

 ヘッドランプやリザードンの炎があったところでそう変わるわけでも無い。しかし、青年は全く迷いがなかった。

 

「ほら、こっちだ」

 

「……道を間違えたら出て来れなさそうだね」

 

「大丈夫だ、俺について来ればそんな事にはならないからな」

 

 青年は2人と手を繋いで進んでいく。

 

「おじさんも一応乙女だから、手を繋ぐのはちょっとだけ恥ずかしいかなーって……」

 

「ポケモンとポケモントレーナーが手を繋ぐのは別に変な事じゃないだろ」

 

「うへー……」

 

 青年に導かれるままに歩くことしばし、角を曲がったところで外に繋がる穴が見えた。

 

「あそこだ」

 

「やっとだ〜」

 

 外に出ると青年は2人の手を離し、キョロキョロと辺りを見回す。

 そこはまさに、山の頂上だった。

 開けた視界の中にはまばらに木々が生えているものの、動くものはいなかった。

 

「そうか……」

 

 明らかに落胆した様子の青年にレッドは、先ほどの驚きを忘れて慰めの言葉を投げかけた。

 

「お兄さん、また来よう?」

 

「…………そうだな!」

 

 レッドの意を汲んだ青年は嬉しそうに笑い、レッドの頭を優しく撫でた。

 レッドは自らの頬が少しだけ熱くなるのを感じた。

 青年は切り替えたのか、荷物を下ろしてテキパキと野営の準備をする。

 

「付き合わせて悪かったな、2人は休んでてくれ」

 

「……おじさんもたまには手伝うよ〜」

 

「そうか? じゃあそっち持ってくれ」

 

「うへ〜風でバタバタして全然掴めないんだけど〜……」

 

 テントの片方を持つように指示を出されたが、風ではためく布はホシノの目の前を上下して捉えさせてくれない。それを、小さな手が横から出てきてひょいと掴んだ。

 

「はい」

 

「レッド、手伝ってくれるのか」

 

「うん」

 

「じゃあ2人で布のそっちとそっちを持って抑えといてくれ」

 

「おっけ〜」

 

「わかった」

 

 いつもと違い黙々と作業をする青年に違和感を感じた2人が、拙いながらも積極的に話題を振り、話しながらもテキパキと設営を進めていった。

 

 夕飯も食べ終え、今日は先に寝るとだけ言って、ホシノとレッドを残し青年は自分のテントに入ってしまった。

 

「元気、無いね」

 

「何か思い入れでもあるのかもね〜」

 

「ここに?」

 

「うん、あんまり自分のこと話す人じゃ無いから分からないけどねー……」

 

 2人は青年がいつもと違うことに気付いていた。ただ、彼は自らの事をあまり話さない、記憶喪失だからだろうか? 

 何故彼があんなに急いでいたのか、2人にはさっぱり分からなかった。ただ、おつきみやまの頂上に辿り着いた時、ピッピがいないのに気付いた時、やけに寂しそうにしていた。

 そんなに見たかったのだろうか。

 

「ピッピってモンスターがすごい好きなのかもね」

 

「そうかも」

 

 レッドもレッドで気になる事があり、少し上の空だった。

 

「リザードンのアレ、気になる?」

 

「……うん」

 

 こくりと頷いたレッドに、ホシノは青年に指示を出されるとどうなるのかを説明した。

 

「……すごいね」

 

「うん、すごいよね。私なんかじゃなくて、もっと強いパートナーを見つければチャンピオンにだってなれるんだろうね」

 

「……ううん、お兄さんじゃなくて、ホシノ。あ、お兄さんもすごいけど……」

 

「え〜?」

 

「だって、モンスターと戦ってるのはホシノでしょ?」

 

 レッドは、自分がモンスターと対峙するなんて到底無理だと自覚していた。

 生身で、もちろんホシノは防具もつけてるけど、それでも掠っただけでも大怪我になりかねないモンスターと直接戦うなんて無理だ。

 

「危なくなったらすぐに助けてくれるから、そこまで怖い気持ちは無いよ」

 

「でも、私は戦うなんて出来ないよ」

 

「またまた〜、レッドちゃんだってバッジの最年少記録持ってるじゃん。そっちの方がすごいっておじさんは思うよ?」

 

「……あんまり、楽しく無いんだ」

 

「え?」

 

 レッドはポツポツと話した。

 自分が孤児院の出身であること。

 仕送りのために一生懸命パートナー達と試練を達成してきたこと。

 試練の傍らでピカチュウを探していたこと。

 いつのまにかバッジ獲得の最年少記録保持者なんて言われて、四天王に挑んで負けたら新聞で悪し様に言われていたこと。

 

「別に、チャンピオンなんて目指して無いのに……」

 

「そっか……」

 

 ホシノは、少しだけこのレッドという少女と近付けた気がしていた。

 自分が到底敵わないと思っていたプレイヤーも、自分と同じようにいろいろな悩みを持っている。

 等身大の13歳の少女がそこにはいた。

 当たり前のことを当たり前に認識しただけで、少し見え方が変わった気分だった。

 2人はしばらく静寂の中でただ空を見上げ、青年が作ったスープを啜っていた。

 

「さて、そろそろ私たちも寝よっか」

 

「うん、歯磨き」

 

「うへー……めんどくさいからレッドちゃんに磨いて欲しいなー」

 

「やだ」

 

「ありゃりゃ」

 

 寝そべり、その会話をそっと聞いていたリザードンがぴくりと反応した。

 首を持ち上げ、真上を見上げる。

 

「? ……リザードンどうしたの……あ」

 

「どうしたのレッドちゃん……え」

 

 夜空の中心には満月が座していた。だが、重要な事はそれではなかった。

 

『ッピ…………ッピ…………ッピ……ッピ』

 

 満月から大量の何かが降りてきていた。

 まんまるでピンク色の体に短い手足を振りながら、踊りながら、ソレは降りてきていた。

 

『ピッピ、ピッピ、ピッピ、ピッピ』

 

「あれが……ピッピ?」

 

「そうだろうね〜……本当にいたんだね」

 

 2人とも呆気に取られていた。

 突飛の無い事を言うのはいつものことだけれども、今回のおつきみやまの件に関しては想像を超えていた。まさか、本当にピッピがいるなんて。

 彼が言っていた事を思い出す。

 

「満月の夜、おつきみやまには月からピッピが降りてくる……あれ、レッドちゃん?」

 

「お兄さん起こさなきゃ」

 

 確かに、そもそもは彼が見たいからと言ってここに来たのだ。その本人が寝ていたのではあまりにも意味が無さすぎる。

 レッドは先にテントへと潜り込んでしまったのでホシノもそれに続いて入る。

 

「すぅ……すぅ……」

 

「お兄さん起きて、ピッピだよ、ピッピ来たよ」

 

 昼間はあんなに元気で喧しいくらいなのに、寝ている時は静かだった。

 ユサユサとレッドに体を揺さぶられながらもまったく起きる気配が無い。

 

「すぅ……すぅ……」

 

「起きない」

 

「うーん……まあ無理に起こすのもアレだし動画だけ撮っておいて後で見せてあげれば良いんじゃないかな?」

 

「お兄さんが楽しみにしてたのに……」

 

「しょうがないよ、私たちだけでも楽しもう?」

 

 テントから出て2人ともメガネを装着、起動し、動画撮影を開始する。

 

『ピッピ、ピッピ、ピッピ』

 

「……あは」

 

「わは〜」

 

 リザードンがピッピに混ざって踊ったり、レッドが胴上げされたり、ピッピが持ってきたお団子を食べたりと色々あった。とにかく、ピッピ達はとても明るくて、楽しいお祭りみたいだった。

 2人とも、笑顔だった。ピッピ達も笑顔だった。

 

 沈みゆく満月に向かって帰っていくピッピ達に手を振る。

 

「まーたねー!」

 

「……バイバイ」

 

『ピッピ、ピッピ、ピッピ』

 

 遠ざかっていくピッピ達は見えなくなるまで、音頭をとりながらも手を振り返してくれていた。

 

「うへ〜疲れた〜」

 

「うん……」

 

「でも、楽しかったね」

 

「──うん」

 

「今度はお兄さんが起きてる時に、みんなでね」

 

「うん!」 

 

「じゃあ、私たちも寝よっか」

 

「うん、おやすみ」

 

「おやすみ〜」

 

 

 ──────

 

 

 ええぇぇぇぇぇ、ピッピ来てたのぉ!? 

 何で起こしてくれなかったの!? 

 ……起こそうとしたのに起きなかった? 

 うーん……じゃあしょうがない……わけあるかあ! めっちゃ見たかったのに! 

 え、なに? 満月からピッピが踊りながら降りてきて2人とリザードンと一緒にお祭り騒ぎ? 

 なんだよそれ、めっちゃ面白そうじゃん。

 くっそ悔しい! 

 これが歴史の修正力か。

 え、動画は撮ってる? ホシノ、レッド、でかした! 

 見せてくれ! 

 

 え、メガネ使ったの? 

 はぁ……俺、そのメガネ使えないじゃん……

 ああいや、気持ちは嬉しいよ、ありがとな……え、何? 今レッドはそれで見てるの? 別々で撮ったから動画共有? ズルすぎない? お爺ちゃんとか使いこなせないでしょそんなん。

 え、そんなわけない? 誰でも使える? そこまで浸透してんの? 

 じゃあ俺って情報弱者の最底辺って事じゃん……

 何だレッド背中を叩いたりして、慰めてくれるのか? 

 ありがとな、でもお前も昨夜はお楽しみだったんだろうなあ。

 楽しかったか? 

 お、おお、そんなに楽しかったか……レッドが眼をこんなキラキラさせてるの初めて見たな。

 うん? もっと色々な場所に行きたい? 

 いや俺は土地勘があるわけじゃないから、今回のおつきみやまも偶々知ってただけだし。

 それでも良い? じゃあ色々な逸話とか地名とか勉強しないとな。

 伝説って言われてるようなので俺が知ってるのもあるかもしれないし。

 まあピカチュウを探すついでだからな。

 旅の途中でそんな場所があればって事で。

 

 どうやらレッドはこういう原作で起きるイベントみたいなのが好きらしい。俺からすればこの世界全部がイベントみたいなもんだけど、住んでる人間からしたらモンスターなんて見慣れ過ぎて何とも思わないか。

 でも、そうか……レッドは旅をしててロケット団とかと戦ったりしてないのか? 

 ……ロケット団が分からないと来たか。

 なあ、悪の組織みたいなやつ無いのか? ポケモンを攫うとかそういうニュースになるような。

 ん? ニュース見ないから分からない? そっか……じゃあほらあれだ、Twitterとか無いのか? いや、Twitterは絶対分からねえか……ソーシャルメディアって言えば良いのか? 不特定多数に向けて日々の出来事を発信するみたいな。

 ソーマ? そういうのがあるのか。で、それはメガネを使わないとできないと。はいはい、俺は大人しくテレビでニュースでも見てますよ……

 

 え? パソコンが使えればできる? 

 宿無し親無し戸籍無し、ついでに根も無いこの俺にパソコンなんか買えるわけないだろ! 

 いや待てよ、もしかしてパソコンがあればピッピの動画も観れるのか? 

 ……よく考えたらやっぱ良いや。そういうのは実際に体験しないと分からないし、初見の感動が失われるだけだからな。

 レッド、うんうん唸ってるけどどうした? 

 え、まだロケット団の事考えてたの? 

 いや、ロケット団の話題を出した手前申し訳ないんだけど、仮にそういう悪の組織みたいなのが見つかったとしても子供が関わるべきじゃ無いから……

 眼をキラキラさせるな、おつきみやまが楽しかったのは分かるから、どうせならそういう危ない事じゃなくて、もっと夢のある話をしよう。例えば──

 ん? なんだレッド、自分から手なんて繋いで。

 え? 折角ならポケモンの話が聞きたい? お前もポケモンに興味を持つようになったか、それでこそレッドだ。

 

 じゃあそうだな、セレビィってのは知ってるか? 

 知らない? そうか……セレビィってのは幻のポケモンだ。見た目は玉ねぎみたいな感じで、綺麗な森にしか生きていられないコダマみたいな感じだ。

 いや、コダマはまた別の存在だから、そっちに食いつかなくて良いから。もののけ姫とかトトロの話になっちゃうから。いや、トトロに食い付かないで? 流れちゃうよセレビィの話……まあ良いか。

 トトロはなんていうか……お化けとは違うけど、精霊みたいな? 森に住んでて、大人では絶対に見つける事ができないんだ。

 なんでって……大人は超常現象を信じないからな。目の前で起こる事をありのまま信じる事ができる、そういう純真さを持った子供にしか見つけられないんだろうな。

 ……ああ見た目はカビゴンみたいな……カビゴンは分かるか? 

 あー四天王のパートナーだった、ね……

 まあとにかくアレをもっと大きくして顔を可愛くした感じだ。あと腹に三角形の模様がついてるな。

 見てみたい? そうだな……仮に見つけられるとしたら、俺と旅をしている時じゃ無いだろうな。

 見つけたら目一杯遊んでもらえ。

 

 ふと、俺は反省した。

 レッドばかりに構って、俺ってポケモントレーナー失格じゃないか。

 俺はホシノのトレーナーなんだから気を配らなきゃいけないのに……トレーナーの道は険しいな。

 次の街では俺のトレーナーレベルも上げなきゃならんな。

 おいホシノ! 次の街、マタナキタウンだったっけ? なんか知ってる事あるか? 俺はくさタイプの街ってことしか知らないんだが、なんか情報収集したりしたか? それとも野良の時に行った事あったりする? 

 ……あ、行った事あるんだ。意外と行動範囲広かったんだな、ラティアスみてえなポケモンだったのか。

 ん? ラティアスってのは……ってレッド、今はマタナキタウンの話だから後でな。

 

 

 ──────

 

 

「これからの予定を話すから、ラティアスの話は後でな?」

 

「あ……」

 

 パッと手を離して青年がホシノの元に行ってしまった。ただそれだけなのに、足元が寒くなったような気がした。少しだけ胸が押されるような感覚があった。

 マタナキタウンについて話すなら自分だって負けないぐらい知ってるのに……そう思ったけど、青年はホシノと楽しそうに話していて、割って入れるような気持ちにならなかった。

 

 そもそも彼は言っていた。

 俺はポケモントレーナー、ホシノのトレーナーだ、と。それはつまり、私にとってのリザードン達みたいな、プレイヤーとパートナーの関係なんだろう。

 そんな間柄に無理やり入るなんて、すごい恥ずかしい事だよってもう1人の自分が囁いていた。

 お兄さんは、私がピカチュウを探すのを手伝って欲しいって言ったからそうしてくれているだけで、それはホシノも同じだった。

 

 並んで話している2人の後ろに着いていく。

 いつもの旅、いつもの日々に戻ったみたいな気持ちになった。

 2人との旅をして分かったのは、一緒に歩く人がいるだけで、いつもより長く歩けること。

 お兄さんは野営の準備とかしてくれて、誰も知らない事を色々話してくれた。ホシノも髪を梳かしてくれたり、おしゃれな服の話とか教えてくれた。

 野営の準備、最初は私も手伝おうとしたけど、お兄さんが休んでて良いぞって、段々とそれが当たり前になっていた。

 手持ち無沙汰にしてるとホシノが話しかけてきて、上手く話せない私に話題を振ってくれた。

 

 気を、使わせてたのかな……

 また、1人で旅してた頃に戻るのかな……

 楽しく無いのかな……

 

 ポン、と頭に何かが乗っかった。

 いつの間にか下を向いて歩いていた。

 前を向くとお兄さんが怪訝な顔をして私を見ていた。

 その右手に、わしゃわしゃと雑に頭を撫でられる。

 

「下向いてたら危ないぞ?」

 

「前向いてこ〜」

 

「ほら、こっちこい」

 

 手を引かれて2人の間に入る。左手はお兄さんが、右手はホシノが。

 2人と手を繋いで歩き始めた。

 

「ラティアス」

 

「え?」

 

「むげんポケモン、高い知能を持ち、人の言葉を理解することができる。鏡みたいな毛で、人間の姿をとることもできるそうだ」

 

「……」

 

「そんなポケモンだが、聞いたことあるか?」

 

「ない」

 

 お兄さんはいつも、私たちに質問をする。それで首を振ると、楽しそうに話を始める。

 

「ラティアスには対の存在であるラティオスってのがいる。違いは赤いか青いかってのと、メスかオスかってだけだ」

 

「どこにいるの?」

 

「……さあ? 知らない、ただ、俺の知識的には水の都って所にいると思うぜ」

 

 水の都……どこかにあるのかな。

 

「聞いた事あるよ〜」

 

 のんびりとしたホシノの声が右から聞こえてきた。

 

「別の地方だけど、アルトマーレって都市があるらしくて、確か水の都って呼ばれてるよ〜」

 

「……なるほど?」

 

 レッドは聞いたことが無かったが、青年は興味深いとでも言いたげな反応をしていた。

 

「レッド、ホシノ、ピカチュウを見つけたらアルトマーレに行こうか」

 

「え?」

 

「ラティアスに会いに行こう」

 

「お〜、お兄さんの知識と合致したんだ〜」

 

 ピカチュウと出会うまでの旅の筈なのに、お兄さんはピカチュウを見つけたらラティアスを探しに行こうと言った。

 

「さて、アルトマーレではどんな事が待ち受けてるのか。何も知らねえが、楽しい事になるだろうな」

 

「……私も、一緒?」

 

「──あぁ、一緒だ。旅は道連れ、世は情けってな。最後まで付き合ってもらうぜ?」

 

 ニヤリと笑った青年の顔を見て、レッドはもう先ほどの鬱屈した気持ちなど完全に忘れていた。

 水の都、どんな場所なんだろう。ラティアス、どんなポケモンなんだろう。

 また、おつきみやまみたいな胸踊る体験が出来るのかな。

 

「レッド、楽しみか?」

 

「……うん」

 

 青年はレッドを見て微笑んだ。

 レッドもそれに笑って返した。

 青年は頷くとホシノに視線を移した。

 

「そしてその前に……ホシノ、マタナキタウン到着だ」

 

「う、うん」

 

 青年は笑っていた。まるで威嚇するように、獣のように。

 目の前に広がる樹海の如き街に向けて。

 

「なるほど、くさタイプの街……一筋縄じゃあ行かなさそうだが……」

 

 青年は優しくレッドから手を離すと、ホシノの両肩に手を置く。

 ホシノは肩がギュッと縮こまっていた。

 過去に惨敗した時のことを思い返していた。

 だが、青年はそんな事知らない。

 ホシノの過去に何があったかなんて一度たりとて聞いていないし、レッドがどうやってマタナキジムを突破したかなんて聞くことも無い。

 

「お前の力があれば、何でもやれる」

 

「わ、わたしは……」

 

 ただ、宣言した。

 

「俺とお前で、コレからやるんだ」

 

「あ……」

 

 

 ──────

 

 

 男が立体ディスプレイを用いて誰かと話をしていた。

 

「────────」

 

「ああ、なるほどな……そろそろ到着するって事か」

 

「────────!」

 

「そんな面白い奴がマタナキタウンに来るって?」

 

「────────」

 

「そいつは俺よりも強いのか? テッセンさん」

 

「──」

 

 相手は短く言葉を残し、通話は切れた。

 

「……重畳!」

 

「来い! 新たなプレイヤー! ……いいや、ポケモントレーナーよ! 我はここで待っているぞ!」

 

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