俺はポケモントレーナー   作:goldMg

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22_雪道を征く

「はっ! せい! とうっ!」

 

「右、上、下」

 

「ホ! ハッ! ヒホ!」

 

「上、上、右」

 

「なんか変なことやってる……」

 

 昼休憩時、トレ君がアイリちゃんに稽古をつけるというので見ていたら、アイリちゃんが刃物を持って、ヒーホー君は普通にわざを繰り出して彼を攻撃し出した。

 それを彼は、どちらから攻撃が来るのか一々口に出しながら避け、差し込んだ拳を寸止めしてガラ空きの部分を指摘する。

 そんな事を繰り返していた。

 何これ、暴漢に襲われた時の訓練でもしてんの? 

 

「あー! もううごけませーん!」

 

 どたーっと倒れたアイリをおんぶして、やってくる。

 アイリが汗だくなのに対して、彼は涼しい顔をしていた。

 

「一回、身体を洗いたいです……」

 

「じゃあリザードン頼んだわ」

 

 チラッとアイリを見たリザードンは、その手を引いて川のほうに向かった。

 どういうこと? 

 

「リザードンに川の水を温めてもらうんだよ」

 

 お風呂ってこと? 

 

「そうゆうこと」

 

 そもそも、アイリちゃんも一緒に特訓してるのはどういうことなの? 

 戦うのヒーホー君じゃん。

 

「実際、自分でやってみないと戦ってみた時の視点とか分からない事もあるからな。指示出してるだけだと成長しない部分を鍛えてる」

 

 へ〜、ちゃんと師匠みたいなことしてるんだ。

 

「師匠……うん、そうすね」

 

 どしたの? 

 

「いまだに師匠っていう肩書きが大仰すぎて慣れないんだわ」

 

 じゃあそう言えば? 

 

「なんかもう呼び方が師匠で固定されちゃってるから……そこまで嫌ってわけじゃないし」

 

 めんどくさっ! もっと堂々とすればいいじゃん。

 

「それって烏滸がましくね?」

 

 ……ホシノちゃーん、これどうなの? 

 

「おい、それは禁止カード!」

 

「めんどくさいのはいつもの事だし、ほっといたら〜?」

 

「俺をめんどくさいキャラにするな」

 

 キャラっていうか存在そのものがめんどくさいじゃん……

 

「……そうね……ねえ、あの後から、そうなんじゃないかってみんなで話してたんだけど」

 

「いきなりなんだ」

 

「どうしても確認がしたくて……」

 

 なんか話してたっけ……4人の中での話かな? 

 と思ったらナギさんがトレ君の手をギュッと握った。

 怪訝な顔をするトレ君。

 何故かナギさんは少しだけ辛そうな顔をしていた。

 

「あなた……大昔からやってきた人だったのね」

 

 ……えっ? 

 

「リンちゃんは知らないんだったよね」

 

「お兄さんの秘密」

 

 トレ君、それ本当!? 

 

「…………?」

 

 そこには怪訝な顔から、本当にわけがわからないという顔になった彼の姿が。

 あれ、違うの? 

 

「どういうことだ……?」

 

 いや、私も分からないよ。

 私はキャラ超えて、生きてるだけでめんどくさいと思って言っただけなんだけど。

 

「あまりにもあんまりで泣ける」

 

「え? あなた、レッドさんにモンスターボールの話してたんでしょ?」

 

「確かにしたけどそれが?」

 

「……そう、あなたは見ていなかったのね」

 

「何をだ?」

 

「ヒカワは、モンスターボールを持っていたのよ」

 

「……なんだと!!!?」

 

 これまでに見たことが無いような驚き方をしていた。トレ君はナギさんの肩を掴んで詰め寄る。

 

 

 ──────

 

 

 あの時ヒカワはモンスターボールを実際に所持しており、使えないガラクタとして放り捨てたらしい。

 まあ世界を変えたらそんなもん本当に要らなくなるからな。

 それで、俺が全然知らなかった理由は単純に気絶していたからだと。ヒカワに首掴まれて吹き飛ばされた後、ホシノの声で目覚めるまでの間にあった出来事だったんだろうな。

 灰色だったとのことなので、衝撃とかで地面がグチャグチャに荒れてたのも相まって、保護色になっちゃって見えなかったってことか? 

 肝心のブツの現在についてだが、あの戦いの後に行方を追う余裕なんか無くて分からないそうだ。

 ……もうちょっとだけ早く教えて欲しかったかなあ! 

 くっそ、マジで見てみたかった!! 

 なんで俺ってそういうイベント見逃しちゃうんだよ! 

 

 ……俺は事故かなんかでタイムトラベルした古代人で、ガチの記憶喪失だけど頑張って明るく振る舞ってる可哀想な漂流者!!!? 

 マジかよ、モンスターボールとかディアルガとか中途半端に先に教えちゃってたせいで誤解がとんでもないことになってる。

 全く当たっていないところが爆笑ポイントだが、古代人じゃ無いと言ったところで逆に何なのって話だ。

 まあ適当に誤魔化しといたから確定はさせてない。

 ただ、記憶喪失だから……っていう鉄板ネタが少し出しづらくなった気はする。

 これまでは、ハイハイ記憶喪失記憶喪失、みたいな感じで流されるから言いやすかったのに、そうだね……記憶喪失だもんね……っていう優しい目で見られるようになるの嫌すぎる。

 優しくされても、なんだかなぁって気分だ。

 いや、そもそも記憶喪失だったら辛いとか無いじゃん? 可哀想っていう気持ちだけが先行しちゃってるよ絶対。

 

 旅路そのものは至って順調に進んだ。

 これだけの人数がいればポケモンは警戒してくれるらしい。いつもと比べると、出現するポケモンの数は格段に少なかった。

 リンとユカリも見慣れた道のりだからか、こっちに進むと花畑がある、そっちに進むと湖がある、とガイドさん的な事をやってくれた。

 アレだ、マジで観光に来ている気分になる。

 

 ユカリは、これまでより明るくなった。きっかけはやっぱり大泣きしたことだろう。あの日以来、少しだけ自己主張が強くなったような感じがある。

 やって欲しいことを前よりもちゃんと言ってくるようになったし、ナギ達とももっと積極的に話し出した。

 流石だと思う。

 まあ、強い子なのは分かっていた。

 それは、オールドタウンで長く語り合ったからとか、そういうロマンチックな話じゃない。

 彼女がサイコジェットレーサーだったからだ。

 強くサイコエネルギーを励起させることが出来る、強い感情を持った人間だけがレーサーとして活躍できる。

 トッププロだった彼女は元々、そういう気質だったのだろう。

 ただ、2年も苦痛を味わえば誰だろうとその環境に慣れてしまう。

 影に覆われていた彼女の本質が、あの日に少しだけ解放されたという事だと内心で解釈していた。

 

 反対にリンは少しだけ顔が暗い。

 こいつはなんかよく分からん。お姉ちゃん子なのは分かるけど、なんでこんな顔してんだ。

 

 俺も、案内のお返しとしてポケモンの話をした。そしたら、俺のことを古代人だと思ってるせいか知らんけどレッド達がガチで地形情報とか調べ出してドン引きでした。

 もうお前らそこに拘らなくていいから! 

 腫れ物に触るような感じ、とも少し違うけどやり辛えよ俺。

 レッドなんか

 

「私がついてるから」

 

 と俺のことを励まそうとしているのか、ふんすと気合いを入れて俺の手を引いてくれる。

 ……嬉しい! すごく嬉しい! 

 でもそうじゃないんだ! 

 

 いいじゃん別に俺の出自とかどうでも。俺的には、レッドにはもっと他に気にして欲しいことがあるわけですよ。

 一緒にお風呂に入ろうとか、躊躇なく目の前で着替え始めたりとかさ。

 レッドは多分まだ男女のそういうのに疎いんだろうけどさ、もうちょっとだけ……な? 

 夜、お風呂に一緒に入りたいと手を掴んでくるレッドに、遠回しに伝えたら口を尖らせて無言になってしまった。

 拗ねちゃった……

 でも相変わらず手は握ってる。

 としごろのおんなのこ、わかんない! 

 ……ちょ……無理やり服を脱がそうとするな! 

 

 なんか少しだけ暗いリンに、気晴らしとしてレッドのことを相談しようとしたら疲れてるから今はやめてとのことだった。

 ……荷物か? 

 ああ、じゃあやっぱり俺が持つよ。なんで街出る時に渡さなかったんだ。俺が持つって言ったじゃん。

 私は仲間じゃないからって……お前、そんなこと気にしてたの? 

 なんか誤解してるっぽいけど、一緒に旅するんだから仲間に決まってるじゃん。そもそもそんな仲間はずれみたいなことするわけないだろ? 

 ほら、荷物貸せよ。

 とりあえず一旦休憩にしよう。

 リンが疲れてるしな。

 ……疲れてたから暗い顔してたのか! 

 やっぱ疲労ってクソだな! 

 

 休憩していると、なんとなく肌寒いものを感じた。汗冷えかもしれない、汗かいてないけど。

 …………やったああああああ!! ほんの少しだけ寒いぞおおおおああ!! 

 なんだナギ、見られたら恥ずかしいからやめろって? これが落ち着いていられるか! 俺もちゃんと人間だったんだ! 少し騒いだらもう暑くなったけど。

 楽しくなってきたのでそこら辺のブルファンゴを転がして焼肉にした。

 さすが冬ごもり前の肉だ! 脂たっぷりだぜ! 

 

 7人もいるとどんどん肉が消えていく。

 育ち盛りだし動きっぱだからな、旅をしてる子はみんなめっちゃ食うぜ。

 俺ほどじゃないけどねえ!? 

 なに? 食い過ぎ? 

 うるさーい! この肉はぜーんぶ俺の──お、お前はリザードン!? 

 やめろ! 俺の隣にくるな! 

 あ、ああ……俺の肉が消えていく…………

 いや、ヒーホー君はその身体のどこにそんな量の肉が収まってんだよ。

 一番食ってんのお前じゃん。

 

 ヒカワ戦でヒーホー君は一つ覚醒した。氷の結晶みたいなやつが常に頭に乗っかった状態になっており、火力がこれまでとは段違いだ。

 アイリも次の次の街で二つ目のバッジに挑むんだよな? 相変わらず、なんて街なのか教えてくれないけど。

 ん? どうしたユカリ。

 マサゴタウンは多分覚悟が必要? ……なんでマサゴタウン? 

 もしかしてアイリじゃなくて俺の話? 

 この先 覚悟が有効だ、って事ね。

 …………いつもじゃん。

 

 

 ──────

 

 

 リンが体調を崩した。

 疲れが溜まってたのと季節の変わり目特有のアレだろうなあ。

 ユカリが、私は歩くから大丈夫ですとか言ってるけどだいじょばないよ。

 それでお前まで体調崩してみろ。

 マサゴタウンで親御さんになんて言えばいいんだよ。

 ただ……現状ユカリをおんぶしてて、荷物に関してはリザードンに木を掘って作ってもらったソリに載せて引いてる。

 リンはソリに寝かせるか。

 休憩もこまめに取るようにしよう。

 リン、ちょっと窮屈かもしれ無いけどソリに寝られるか? 

 

「うん……ごめんね……」

 

 気にすんな。

 寒いらしいからリンには服を着込ませてモコモコにした。

 いつもはあんな感じだけど、リンも辛いとしおらしくなるんだな。

 ……しお……辛い……塩辛!? 

 塩辛食いてえ。

 もうこの際オクタンでも良いから。

 

 はーい、雪が降ってきました。

 全然寒くないでーす。あの時寒いと思ったのは気のせいだったみたいでーす……おもんな。

 なんなんだよ、ポケモントレーナー強すぎだろ。

 運営ナーフしろ! 

 ……なに? 見てて寒くなるから服着ろ? 

 しゃあねえな……荷物から引っ張り出すか。

 ソリの上にはリンの他にホシノが寝っ転がっている。リンはいいけど、こいつ途中から自分で歩く事すら放棄したよ。

 クックック……腹に肉がつき始めてから恐れ慄くが良い……

 

 ホシノ、寝心地はどうだ? 結構揺れるだろ? 

 何? 楽しい? 

 そうか! そう言われるとこっちも頑張って引っ張ってる甲斐があるな! でもお前、寝てばっかだとアレだぞ! もちもちホシノになっちゃうぞ! いてっ……

 ん? ナギ、なんか言いたそうだな。

 疲れてないかって? 普通だよ普通、心配してくれてありがとな。

 ……別に心配してないってなに!? 

 ただただひどくね!? 

 ……そっか、ナギは俺のことなんかもう気にもかけてくれないんだ。

 そうだよな……俺なんかただの記憶喪失のポケモントレーナーだし、元ジムリーダーで巫女で美人のナギと仲間でいるのなんか相応しくないよな……

 分かったよ……

 え? うそ? 

 ……傷ついちゃったな〜、誰か慰めてくれないかな〜

 おっ……ナギは優しいな。

 別にそんなんじゃないって、抱きついたまま言うことじゃなくない? ツンデレ極めた? 

 ……たまにはお前も揉みくちゃになれー! 

 

 

 ──────

 

 

 あげぽよ〜、とか言いながら真顔でソリを引いて歩くポケモントレーナー。彼は今、どんな気持ちでいるんだろう。

 レッドは横顔を盗み見て、思いを馳せていた。

 全てを失くしてきた、それがまさか、本当に全てを失くしてきたんだなんて思わなかった。記憶喪失だからこそ分かっていたんだ、もう取り戻すことは出来ないだろうって。

 絶対に、奇跡が起きない限り帰ることはできない。そんな場所で、お兄さんはどうしてあんな風に振る舞えるんだろう。

 帰れるという確信でもあるのかな。それなら、なんの気兼ねなく行動しているのも分かる。

 そうだとしたら、喜ぶべきなんだろうと思った。でも、そうだと想像した時に、どうしても喜ぶことができなかった。

 

 

 ──────

 

 

 野営! 雪! ポケモンの襲撃! 

 ファイッ! 

 

「リザードン、ほのおのうずで陣地を作って」

 

 ……が、ダメッ! 雪が吹いてる中でそんな事しても焼け石に水ッ! 

 もうあれだ! キャンプ地が破壊される前に撃退するしかねえ! 

 

「うへ〜……アイスモンの群れかぁ、厄介だね〜」

 

 よく分かんねえけど硬そうだしぶっ壊してくぞ! 

 アイリ! ナギ! リン達と一緒にテントの中にいてくれ。アイリ! いざとなったらヒーホー君と頼む! 

 

「はい!」

 

「私も早くパートナー見つけなきゃ……」

 

 そんじゃあ、ホシノ! レッド! 流石にこの数は手間かかりそうだが、体力は大丈夫か! 

 

「うへ〜寝起きだからね〜」

 

「大丈夫」

 

 リザードンは有効な技が多そうだから問題無いとして、ホシノはどうだ? 

 

「シェルがいっぱいあるからオッケーだよ〜」

 

 よし、じゃあレッドはそっち半分、ホシノはこっち半分だ! 

 

「分かった」

 

「無茶言うよね〜……まっ、かわい子ちゃん達を守るためだから、おじさんも少しは頑張ろっかな〜」

 

 野生の アイスモンの 群れが現れた! 

 

 いけ! ホシノ! 

 

 ホシノ! ファイアシェル! 

 

 こうかは ばつぐんだ! 

 

 アイスモン3体は 倒れた! 

 

 アイスモンの アイスニードル! 

 

 ホシノには 当たらなかった! 

 

 ホシノ! ファイアシェル! 

 

 こうかは ばつぐんだ! 

 

 アイスモン4体は 倒れた! 

 

 アイスモンの アイスボールボム! 

 

 ホシノには 当たらなかった! 

 

 ホシノ! インパクトシェル! 

 

 こうかは ばつぐんだ! 

 

 アイスモン10体は 倒れた! 

 

 アイスモンの オーロラフリーズ! 

 

 ホシノには 当たらなかった! 

 

 ポケモントレーナーには 当たらなかった! 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「結構いたな……」

 

「そうだね〜なんでこんな攻撃的になってるのか分からないけど、これからも続けるってわけにもいかないよ?」

 

「あー……ナワバリに入っちまった感じか?」

 

「う〜ん……それは考えられないかなー? 人が通るような道のすぐ近くに、こんな大量のモンスターが縄張りを作るなんて」

 

「つまり?」

 

「ヌシモンスターだと思う」

 

「レッド、知ってるのか、というか向こうは?」

 

「ニトロチャージで突っ込んだら逃げてった」

 

「おお、すごいなリザードン」

 

「……むう」

 

 ちょっとだけむくれた相棒の頬を撫でる。リザードンは範囲攻撃だって得意なんだからそりゃあこういう時の殲滅力はさすがにな。

 というか余計な事言うんじゃなかった。

 

「ホシノももちろんすごいぞ」

 

「……うへ、おじさん疲れちゃったよ〜レッドちゃんおんぶして〜」

 

 ホシノの偉いところはこういうところだ。少しミスったなと思ったらすぐ挽回できる。昼行灯風ムーブで誤魔化すのが得意なんだよな。

 ちなみに昼行灯では無い、何故なら割とすぐ崩れるから。

 レッドが近寄ってきたホシノをどすこいどすこいと押して背中を向かせる。

 

「なになに? どしたのー?」

 

「私の方が疲れてるから」

 

「……もー、おじさんを酷使するなんてバチがあたっちゃうよー?」

 

 むしろホシノがレッドをおんぶする事になった。なんかこいつら仲良いよな。

 4人の中でも相性がある気がする。

 当社調べだとホシノとレッド、ナギとアイリ、これがそれぞれの相性が特に良い相手だ。

 だからと言ってそれ以外の組み合わせがボロボロなわけでは無い。普通にみんな仲良い。

 ただ、この組み合わせの時は相手に甘えた言動をすることがよく見られる気がする。

 俺は全員分け隔てなく接してるつもりだからあんまりこれといった差は無い、多分。

 そういえば……ヒーホー君はリザードンを滑り台にしてよく遊んでたな。

 ……異世界ぼっち飯、次号から連載始まります。

 

 ホシノはやっぱ体力余ってんじゃんって感じで、レッドをおんぶしてダラダラと歩いてる。

 レッドも珍しくはしゃいであっち進んでだの今度はそっちだの指示を出してた。

 なんか大丈夫そうだし、俺はテントの様子を見に行くか。

 テントに近付くとなんか言ってるのが聞こえる。

 

「うん! ししょーはいつも優しいよ!」

 

「────そんな事無いですよ、アイリさんはいつも頑張っています」

 

「────お兄ちゃんはまだ見つかってないんだ……でも、この間ししょーが……あ、見てたの?」

 

 あれ、アイリとナギなんだけど、あんな口調で誰と喋ってるんだ? 通話中か? 

 知らんうちに友達でも出来たのか。

 おいーっす。

 

「あ、ししょーきたよ! 師匠! お父さん達と今話してました! ……師匠とも話したいって!」

 

 説明してくれてありがとねえ。

 同期してタブレットに映し出されたアイリのご両親と顔を合わせる。

 ハイテクやね。

 ……よく考えたら2人と改めて話すのマタナキタウン以来だ、アイリが時々電話してるのは知ってたし横で聞いてることもあったけど。

 せっかくの親との時間なんだから邪魔しちゃいかんなと思ってたんだよな。

 

 ……あの時はアイリのお母さんに失礼な事しかしてないよな。

 よし、無難に挨拶、無難にな。

 

「えー……その節は大変お世話になりまして……」

 

 ダメだ、なに言っても皮肉にしかならないぞこれ。ファーストコンタクトがゴミカスすぎて挽回できる気がしない。

 

『おや、ポケモントレーナー君、緊張しているのかい?』

 

「ああ、えーと……アナさんには大変な失礼をしてしまいまして、はい……改めて申し訳ございませんでした」

 

「この人、親とちゃんと話す時はやたら丁寧になるのよね……」

 

「いつもと全然違いますよね……」

 

「私の……お母さん……たちとも……こんな、感じに……なるん……ですかね……」

 

 そこ! ヒソヒソうるさいぞ! 

 

『ハハ、気にしなくて良い。アナ、君からも言いたい事があるんだろう?』

 

『……その、ポケモントレーナーさん……あの時はありがとうございました』

 

「いやいやそんな、感謝されるような事なんて何も……」

 

『あの子の兄、グズマは優秀ではありました。でも……バッジ集めが嫌だったらしくてほっつき歩いてばかりで、それに私はキツく当たったりしてしまいました』

 

「…………」

 

 アナさんは語り始めた。

 無意識だろう、両手を顔の前で組んで話すそれはさながら、告解のようだった。

 そして、俺に対して言いたい事というよりもむしろ、アイリに対して言いたい事だったのだろう。

 

『グズマは……そんな日常に嫌気がさしたのでしょう。ある日、メガネすら持たずにどこかへ行ってしまいました』

 

 アナさんの話は続き、グズマがいなくなった後にアイリに辛く当たってしまった事を懺悔するように、俺を介してアイリに話していった。

 アイリはいつの間にか俺のそばに来て、一緒にタブレットを覗き込んでいた。

 メガネじゃなくて良いのか? と聞こうと思ったが、やめた。

 真剣に聞いている様子を見るに、この事についてちゃんと話すのは初めてだったんだろう。

 本当に大事な事ってのは中々話辛いもんな。俺も留年しそうになった時、親になんて言おうか考えて憂鬱になったもん。結局留年しなかったけど。

 グズマについての話が終わる頃には、アイリは服を、皺が寄るほど強く握っていた。涙も目一杯に溜まっている。

 アナさんは、そんなアイリを大事そうに見つめてこんな事を聞く。

 

『……改めて、あなたにお聞きしたいです。アイリは、ちゃんとお役に立てていますか?』

 

 アイリの肩が小さく跳ねた。まあ、当然その話は出てくるよな。

 それに対する返答は予習してある。そう! 就職面接のようにね! 

 

「アイリさんにはいつも助けてもらっています」

 

「……え?」

 

 涙声で驚いたような声を出すアイリ。顔を上げてこちらを見ている気配があったけど、敢えて構わずに続ける。

 

「彼女は、俺には無い芯の強さを持っています。俺が迷った時、途方に暮れた時、彼女の真っ直ぐな言葉は指針になる。それに、ポケモンバトルの才能もあります。いずれはジムリーダークラスの人材になるでしょう。そんな彼女がいてくれるのはとてもありがたいです」

 

 ……よし! 完璧だ! 嘘じゃ無いからスラスラ言えたな! 

 

『ポケモントレーナーさん、そんなにアイリを……』

 

「師匠……」

 

『……随分とアイリのことを高く買ってくれているようだね』

 

「いいや、これでもまだ低い方でしょう……なんたって!」

 

「わっ」

 

 アイリを抱き寄せる。

 

「こんなに可愛いんですから!」

 

『……ハッハッハ! そうだね!』

 

 快活に笑うお父さんには伝わったらしい。

 俺たちは仕事をしているわけじゃ無い。

 俺たちは旅をしているんだ。

 そしてその中で、自分にできることをみんながやっている。

 役に立つとか立たないとか、ソーマで勝手に言わせとけば良いんだ。

 アイリがそこにいてくれるだけで頑張れる男もいる。そんくらい単純で良いじゃん。

 

『だけど……』

 

「はい?」

 

『ちょっと近く無いかな?』

 

「ヒェッ……」

 

 ピキピキィ。

 そんな擬音語が聞こえてくるくらいにブチギレていた。

 お前、うちの娘になに断りなく触ってんの? 確かにファンだけど、あんま調子乗んなよ? 

 笑ってない目がそう語っていた。

 すぐさま、抱き寄せていた腕をパッと話してホールドアップする。

 さながら痴漢冤罪に怯える中年男性のような気分を味わっていた。

 お、俺は何もしてぬぇぇ! 

 

「ほ、ほら、アイリ……な?」

 

「えへへ、ししょ〜」

 

 しかし、肝心のアイリが自分から抱きついてきててダメだった。ほっぺを俺の胸元に擦り寄せてて、脳みそ溶けちゃってる感じの声出してた。

 ……やばいって! お父さん、目が笑ってないとかじゃなくてもう真顔だから! カウントダウン始まってるから! 

 いつ爆発してもおかしく無いから! 

 なんでアイリにはこの空気が分からないんだ!? 

 しゃ、釈明を! 釈明をしなきゃ終わる! 多分俺の人生が! 

 

「お、お父さん違うんですよ……これはですね」

 

『……だ』

 

「はい?」

 

『誰がお義父さんだああああ!! 君のお義父さんになった覚えはないぞ俺は!! アイリ、今すぐ彼から離れなさい!! クソ、なんでこの画面から手を伸ばしてぶん殴れないんだ!! ……ええい、待ってろ! 今からそこに行くかぺっ……』

 

 画面が暗転した。

 ……え? ……かぺっ、て何? 何が起きたの? もしかしてキレすぎて血管もブチ切れた? 大丈夫? 

 

「あ、あの〜?」

 

 恐る恐る声をかけると、ゴソゴソという音がする。なに? 怖いんだけど、何が起きてるんです? 

 暫く音が続き、一瞬お父さんの白目を剥いた顔が画面に現れて再びすぐに暗転した。

 ええ……

 

『あら、ごめんなさいね? 突然眠くなっちゃったみたいで』

 

 アナさんがそんな事を言って、お父さんがソファに寝そべっているのが映し出される。

 ……そうなんですね! 

 

『元気過ぎてイヤになっちゃうわね、あとでちゃんと絞っておくから』

 

 そ、そうですか……まあ程々にね? 

 

『え〜?』

 

 アナさんは、アイリのお母さんとは思えないような表情をしていた。

 アイリが俺の方を向いてて良かった。

 よく分かんねえけどきょーいくに悪いからな! よく分かんねえけどな! 

 

『ポケモントレーナーさん……改めて、アイリをよろしくお願いします』

 

 穏やかな声になったアナさんからそんなことを言われる。

 アイリも画面の方を振り向いて、アナさんの顔を見つめた。

 

「むしろ、俺がアイリさんによろしくされる立場なのでこちらこそよろしくお願いします」

 

『ふふ……ちょっと耳を塞いでてもらっても良いですか?』

 

「あ、分かりました」

 

 つっても俺の聴力だと耳塞いだ程度じゃ聞こえちゃうんだけどどうしようかな……

 と思ったら耳栓がスッと横から出てきた。

 

「ほら、これ使って」

 

 ナギだった。

 準備良いな。

 嵌めてみると……しゅ、しゅごい! 何も聞こえない! 

 というわけで、続きをどうぞとジェスチャーで示す。

 なんか話してるっぽいのはわかるけど聞こえないので、リンの様子を見る。

 今は落ち着いているようで、そこまで辛そうな表情はしていない。

 ただ、薬とかは無いのでリンの自然治癒力に任せるしか無いのが痛いところだ。早いところマサゴタウンに到着したいんだけど、物事ってのは中々うまくいかねえな。

 ユカリのパーカーのウサ耳を弄ったり、リンの氷嚢の中身を変えたりしていたら、割とすぐに話は終わっていたらしい。

 耳栓を外すと、アイリがペタンと座り込んでなんか呟いてた。

 

「そんな、私が? ……無理だよぅ……でもでも……えへへ……」

 

 何してんのこの子。

 ナギに話を聞いてみようとしたら、知りたければアイリに直接聞けとのことだ。

 まあじゃあ遠慮なく。

 アイリ? 

 

「ひゃあ!? し、師匠!?」

 

 師匠ですがなにか。

 そんな驚く事無くね? ずっと一緒にいたじゃん。

 

「そ、そうですね……」

 

 いや、俺の方を見ろよ。

 なんでずっと下見てんの? 

 もしかしてこの数分でなんかあった? 

 アナさんと何話してたの? 

 

「…………あぅ」

 

 えーと……なんでもいっか! 

 

「そういうのはあなたの良いところね」

 

 是非とも皆さんに見習ってほしい、俺のスルー・ジツ。ナギの反応的に変なこと言われたんじゃないだろうしなんでも良いよ。

 

 そんなところにホシノとレッドがエントリーだ! 

 良い加減疲れたらしいホシノがレッドをおんぶしたままテントの中へ飛び込んできた。

 

「うへ〜……レッドちゃんもう許して〜……」

 

「分かった」

 

 2人はぱっぱっと身体についた雪を払うと、様子のおかしいアイリを見て固まり、何故か次に俺を見た。

 

「お兄さん」

 

 ズイッとレッドが顔を詰め寄らせてくる。うーん……顔面偏差値80! 

 

「何したの」

 

「うへー……相当やってるね〜これ……」

 

 おかしい、すでに2人の中では俺がアイリに対して何かをしたことは確定しているらしい。

 冤罪だ! 

 ホシノがむぉっほんと、なんか偉そうにしている。

 

「裁判を始めるよ〜」

 

 裁判長! 弁護士はどこですか! 

 

「弁護士はいないよ〜」

 

「死刑が妥当」

 

 検察官レッドから要求されたのは死刑。

 この国の法律と裁判所はどうやら俺に厳しいようだ。

 

「何バカなことやってるのよ……」

 

 おいナギ、お前も誤解を解くの手伝ってくれよ。俺何もしてないじゃん、いやマジで。

 

「……何もしてなくは無いかもね」

 

 ナギさん!? 

 味方が、いない……だと……

 ローテンションでギルティコールをする2人に、いつも通りにくすぐりの刑をしてからどういう事なのかを考えた。

 全く分かんないので諦めた。

 

 

 ──────

 

 

 肩で息をするレッドにヌシモンスターの事を聞く。

 

「……エッチ」

 

 いや、エッチじゃないから。ただくすぐっただけだろ。

 おいでと言えば、ふん、とか言いながら胡座の間に収まるレッドのチョロさに心配になっているとヌシモンスターの話をし始める。

 ……なるほど、種族関係なくその一帯を支配しているポケモンの事か。

 で、ヌシモンスターによって餌場を追いやられてナワバリが変なところになってしまう時があると。

 一応ヌシモンスターを倒せば解決はするらしいけど、雪の中で探すのは自殺行為だな。

 ……じゃあ無理じゃん。

 まあ野生ってそんなもんだよな。原因が分かったところで対処方法がない事なんていくらでもある。

 体力のステータスがカンストしてる俺が不寝番して襲撃防ぐしかねえな。

 

「……本当に大丈夫?」

 

 でえじょおぶだ! ヒーホー君にもいてもらうしな! 

 

「なんでオイラ!?」

 

 うっせ! 

 

「私も一緒に頑張るよ?」

 

 ありがとな。でもレッド、夜更かししたらニキビとかできちゃうぞ? 

 

「あなた、そういうイヤに生々しい話で説得するのやめなさいよ……」

 

 ナギ、お前も他人事じゃないんだぞ。まだ成長期の真っ最中なんだからちゃんと寝ろな? 

 

「……分かってるわよ」

 

 よしよし。

 

「ちょっと、恥ずかしいんだけど……」

 

 そう言いつつ嬉しそうだな。

 ……ゲヘヘ、体は正直でゲスねえ! 

 

「もう……」

 

「お兄さん気持ち悪い」

 

 ぐはあ! 

 

 

 ──────

 

 

 不寝番をしている最中、焚き火を見ていたらユカリがやってきた。どうしてもと言うので、隣に座らせる。

 リンの事らしい。

 

「リンは……だいぶ……落ち着いた……みたい、です……」

 

 それは良かった。確かにさっき見た時は穏やか寝息だったもんな。治るならそれに越したことは無い。悪化する方向も考えてたから一安心だ。

 

「はい……気にかけて……頂いて……ありがと……ございます……」

 

 みずくせえな、一緒に旅してる仲間じゃねえか。

 ……それだけ? 

 

「はい……あの……ダメ、ですか……?」

 

 いや、久しぶりにこうして2人……いや、2人と1匹ってのも悪く無い。最初の頃は本当に付きっきりでフワンテと俺でお前のことを見ていたからな。

 フワンテはなぜかここまで着いてきたけど。

 

「フワァ」

 

 フワァ、じゃないが。

 別に戦闘に参加したりしないし、ただ本当に着いてきてるだけなんだよな……

 

「いいじゃ……ないですか……」

 

 まあ害は無いからな。

 ……その、なんだっけ、ハトロン? ちゃんと動いてるか? 

 

「はい」

 

 そうか、すげえな。

 それにしても……ユカリ、お前ちょっと寒いだろ? 

 そのパーカーは一応冬に備えて買ったやつでもあったからある程度は凌げるだろうけど。

 

「あはは……わかり……ますか?」

 

 流石にな。

 もうちょい薪くべて火力高めるか。

 ……うおっ、なんだ。

 どうかしたのか? 

 

「本当に……温かい……ですね」

 

 ユカリが無理やり俺の膝の間に入ってきた。初めての出来事だから流石に俺も対応に困る。

 

「私達も……仲間……ですよね……?」

 

 ……そうだな。

 

 不安気にそう聞いてくるユカリの真意が何となく分かった。

 先の事を考えているのだろう。マサゴタウンに到着したら、どれくらい滞在するかは分からないけど俺たちはいずれ旅に出る。

 つまり……俺たちはさよならだ。

 ユカリは別れが寂しいと言ってくれた。

 不安気なのではなくて、本当に不安なのかもしれない。

 俺はあんまり心配しなくても良いとは思ってるけど、当人はそうもいかない。

 これからユカリは、1から、自分のしたい事、すべき事を築いていかなくてはならない。

 それに、足の問題だって根本的に解決したわけじゃ無い。やる事が山積みなんだ。

 そりゃあ恐ろしいだろう。

 俺だって、また1から元の世界でやり直すってなったら何すりゃ良いか分かんねえもん。もう勉強とかしたくねえよ。

 それで俺は接してきた時間がこの中だと長い分、そういうモヤモヤを吐き出しやすいんだろう。

 

「やっぱり……これでも……少しだけ……寒い、です……」

 

 紫に染めた髪の根元の方は、伸びた髪の地の色が出ており白くなっている。それはそのまま、俺たちが過ごしてきた日々を表していた。

 毎回街を出る度に思うし、オールドタウンでも思った。

 濃い日々だった。

 たったの一ヶ月半だが、ユカリとはだいぶ近付けた。

 これくらいはいいだろう。

 持ってきていた大きめのブランケットで2人ごと包まる。

 どうだ温かくなったろう。

 

「はい……とても……」

 

 そういや俺があげたパーカーずっと着てるけど、実際どんな服装が好みなんだ? 

 

「え?」

 

 そのパーカー何で買ったかって言うとさ、俺に対するイメージとか変えてやろうと思ったんだよね。

 

「……あなたが……着るつもり……だったん、ですか……?」

 

 似合わないのは分かってるけどな。

 俺、巷でなんて言われてるか知ってる? 

 ゴキブリとかロリコンとかクズとかだぞ、最早ただの悪口だろ。目立つのは悪いことじゃ無いけど、悪い目立ち方をすると後に響く。

 主にあいつらの将来とか。

 

「てっきり……誰かへの……プレゼント、だと……ばかり……」

 

 プレゼント……そういや俺ってあいつらにプレゼントとかあげたことあったっけ。

 

「!」

 

 なんだ? 

 

「だめ……ですよ……? ちゃんと……労わって……あげなきゃ」

 

 ──そうだな。

 それじゃあ、ユカリは何か欲しいものとかあるか? 

 

「……私は……もう……たくさん……貰い、ました……」

 

 いやいやそんな……まだまだしたいことが沢山あるんじゃないか? 

 

「……ポケモン……トレーナーさん、は……デリカシー……無いです、よね……」

 

 一々気にしてたら何にも行動できやしねえからな。例えどう思われたって、この世界では好きにやらせてもらうぜ。

 

「その割……には……レッドさん、達の……言う事に……すごい……反応……してます……よね……?」

 

 仲間は別だろ。

 有象無象の声なんか聞く価値もねえけど、あいつらはあいつらだ。

 

「そう……ですか……」

 

 おいおい、他人事みたいな反応してんなよ。

 ユカリ、お前もリンも仲間だぜ、して欲しいことがあったら何でも言えよ。

 

「……なら……いつか……ちゃんと……自分で……歩けるように、なったら……あなた達と……旅が……」

 

 そうか……じゃあ、いつでもユカリが参加できるようにあと20年くらい旅しようかな! 

 

「ふふ……その頃には……結婚……してる、んじゃ……ないですか……?」

 

 けっ……こん……? 

 …………

 

 ▂▅▇█▓▒░(’ω’)░▒▓█▇▅▂ウワァァァァァァァァ‼︎‼︎

 

「ど、どうしたん……ですか……?」

 

 急に現実に引き戻されたよ。

 というかどん底に叩き落とされた。

 俺って現在進行形で無職だし、過去にも職歴無くて学歴無くて戸籍が無いただのゴミなんだったわ。

 

「ええと……」

 

 つまり俺はホームレスということだよ。

 結婚とか夢のまた夢過ぎて泣きたくなる。

 これがこの世界に来た代償とか重過ぎない? 

 一体前世でどんな悪行を成せばこんな仕打が許されるんだ。

 

「ナギさん達は……?」

 

 そりゃあお前、そんなことが許されるならするけど。

 そもそも今は旅してるからそれで満足してるしな。

 でも、あいつらと結婚か……

 

 瞬間、ポケモントレーナーの脳内に溢れ出した、存在しない記憶。

 

 

 ──────

 

 

『一緒にレースに出るって約束したのに……』

 

『リン、ごめん……だってモンスターレースでスイクンがレギュ違反なんて知らないし……』

 

『……考えたらわかるじゃん! トレ君のバカ!』

 

『ちょ、待てよ!』

 

『……記念日なのに』

 

『今度必ず穴埋めするからさ、絶対』

 

『……絶対だよ』

 

 

 ──────

 

 

『あれ、ひさしぶりに着てるなそれ』

 

『あの日のことを……思い出していました』

 

『──今でも鮮明に思い出せるよ、天使が路地裏に落ちてたんだからな』

 

『ふふ……天使だなんて、お上手ですね』

 

『……ソレも、だいぶよれちゃったな』

 

『捨てませんよ? ……私の人生の、第二章が始まった証なんですから』

 

『その言い回し、今思うと恥ずかしいな……おっと』

 

『私の愛しい旦那様……』

 

『ユカリ……やっぱり紫より白が似合ってるな』

 

 

 ──────

 

 

『ただいまー……あれ、ナギー?』

 

『あなたおかえり、ご飯できてるわよ……きゃっ! もう、危ないからいきなり抱きつかないでよ!』

 

『今日も良い匂いだな』

 

『全然聞いてないし……一緒にお風呂入る?』

 

『ん? もう入ったんじゃ無いのか?』

 

『……言わせるの?』

 

『!!!!』

 

 

 ──────

 

 

『ししょー! 今日は休日なので一緒にお外に行きましょう!』

 

『ええ? もうちょっとゴロゴロしてようぜ?』

 

『もー……ししょー、ほら、行きますよ! 起きないならキスしちゃい──んっ』

 

『アイリ、もう師匠じゃ無いだろ?』

 

『……にゅへへ……そうですね……』

 

 

 ──────

 

 

『ねえ……何であの時、私の名前を聞いて驚いたの?』

 

『ああ、俺の世界ではレッド、お前は伝説の存在なんだ。だから、とても嬉しかったんだよ』

 

『……じゃあ、今は? 私は伝説でも何でも無いよ?』

 

『もうそんなの関係無いさ、ずっと隣にいるってあの時約束しただろ?』

 

『……うん』

 

『夢、叶えちゃったな?』

 

『──あは!』

 

 

 ──────

 

 

『長い旅だった』

 

『うん』

 

『良い旅だった』

 

『そうだね』

 

『どんな結末でも受け入れる気だったけど……まさかこうなるとは』

 

『おじさんは分かってたよ〜?』

 

『まじ?』

 

『そんなことより、家はどこに買おっか〜!』

 

『そうだな──』

 

 

 ──────

 

 

『トレ君!』

 

『旦那様』

 

『あなた』

 

『ししょー!』

 

『お兄さん』

 

『おにーいさん!』

 

 

 ──────

 

 

「あの……大丈夫……ですか……? 涙が……」

 

 ……愛だよ。

 

「ええ……何の、話……?」

 

 

 ──────

 

 

 しばらくしてお眠になって、うとうとし始めたユカリをテントまで運ぶ。

 大丈夫です……大丈夫です……とかめっちゃ小さい声で言いながら船漕いでてちょっと面白かった。

 俺のテントに運んでおく。

 リンから病気を移さないようにする為だ。

 ユカリを寝かせた後に、リンの様子を見に行く。

 一声かけてテントに入ると、薄く目を開けてこちらを見ていた。

 

「起きてたか」

 

「うん……」

 

「喉が痛いとか無いか?」

 

「大丈夫……でも」

 

「なんだ?」

 

「お腹、空いた……」

 

「分かった、ちょっと待ってろ」

 

 凍ったスープを火にかけて、リンが飲めるようにちょうど良い温かさにする。

 

「ほら、起きれるか?」

 

「……ちょっと、身体が重いかな」

 

 どうやらだいぶ体力を消耗しているらしい。良いことだな、身体が頑張っている証拠だ。

 リンを抱き起こして背もたれがわりになる。

 

「あーん」

 

「ん……」

 

 やっぱ身体が辛いと心も弱くなるのだろう。口に運んだスプーンを素直に咥えてゆっくりと咀嚼している。

 こくんと飲み込むのを待ち、全部飲み終わるまで同じように繰り返した。

 

「少しは落ち着いたか?」

 

「うん……その……」

 

「ん?」

 

「ト……トイレに……」

 

「まあずっと寝てたからな。一応、あるにはあるんだけど……寒いのは我慢できるか?」

 

「う、うん……」

 

 

 ──────

 

 

「ありがと」

 

 再び横たわってもこもこになったリンに、寝るように言い付けてテントを去ろうとすると、背中越しにそんなことを言われた。

 どういたしまして。

 

「……いつも、こんなことしてるの?」

 

 どうやら話がしたいらしい。まあ少しの間ならヒーホー君に任せても良いか。リンのそばに座り直して、いつも、という真意を考える。

 調子を崩した仲間の看病を、という意味ならたまにしてるかもしれない。

 誰彼構わずというわけじゃ無い。

 何故か顔の下半分を布団に埋めたリンはジト目をしていた。

 

「はあ……」

 

 しかもため息を吐かれた。

 恩を着せるつもりは無いけど、お前看病してもらっておいてソレはどうなんだ? お腹いっぱいになったら余裕だな、おい。

 

「なんか……苦労してそうだね」

 

 分かる? 俺もソレなりに苦労してんだよね。

 恵まれた人間特有の、みたいな感じだけど。

 

「君じゃないよ……」

 

 むしろ何でお前だと思った? みたいな感じで否定された。ホシノ達のこと? 

 確かにアイツらもなかなかヘビーな事情を抱えているからな……俺よりはよほど苦労してるよ。まあ、だからこそ支えがいがあるというか。

 

「にぶ……」

 

 二部? 

 

「ねえ……なんでメガネが使えないの?」

 

 あー……わからん。精密検査とかすれば分かるかもしれないけど、そこまで必要性を感じてない。

 

「でも、使えたら……お姉ちゃんといつでも話せるんだよ」

 

 確かにな。

 俺もソレは考えなかったわけじゃ無い。

 でも、こういうのって流れだから。今は多分その時じゃ無いんだと思う。

 

「……変なの」

 

 ソレよりお前、オールドタウンにいた時ソーマに俺の悪口投稿しただろ。名前は伏せてたらしいけどみんなにバレてたからな。あんまりああいうことしちゃダメだぞ? 

 

「うっ……じ、時効だから」

 

 こら、隠れるな。

 布団を少しだけ剥がしてリンの顔を見つめる。

 

「ご……」

 

 ご? 

 

「ごめんなさい……」

 

 いやそんな、いきなり泣きそうにならなくても……俺が悪いみたいじゃん。

 

「その……あの時は……まだ完全には、信用できてなかったから……」

 

 ……別に本気で怒ってたわけじゃ無いから良いよ。

 それに俺も病人に対して大人げなかった、ごめんな。

 

「……今はちゃんと、分かってるから」

 

 ……なんかしんみりしちゃったあ! 

 いつもの感じで接してたら、リンが弱々しい反応するからノリツッコミが成立してない! 

 こんなところで妹属性をフル活用するな! 

 ……まあ良いか。

 リン、あんまり話してると治るの遅くなっちゃうから、本当にそろそろ寝な。

 

「うん……おやすみ……」

 

 おやすみ。

 

 

 ──────

 

 

「何でオイラがちゃんと見張ってるのに女とイチャコラしてんだホ!」

 

 ごめん、日本語で頼むわ。

 

「ニホンってなんだホ!」

 

 うるさいホ、今は夜中だホ、あんまり騒ぐとアイツらが起きちゃうホ、アイリに怒られちゃうホ? 

 

「絶対いつか分からせるホ」

 

 ……ん? なんか、デカいのがいるな。

 雪が降っているのも相まって視界が悪いけど、奥に何かがいる。

 ヒーホー君、ふざけてる場合じゃ無い。

 

「ヒホ」

 

 ……こっちに近づいてきてるな。

 ………………? 

 

 やってきたのは、傷ついたユキノオーだった。全身血塗れで、虚な目をしている。薪の前に来た途端ぶっ倒れたのでヒーホー君と思わず顔を見合わせちまったよ。

 こんな時のために回復スプレー死ぬほど買い込んでるので、ぶちまけて応急処置は済ませた。

 あとは深めの傷に包帯を巻き、ちゃんと寝かせておく。

 一つだけ不可解なことがあった。

 ヒーホー君的には、こいつは結構格が高いらしいし、俺的にも、コイツからは凄まじい強さを感じた事だ。

 コイツがボロクソに負けるってマジ? 

 

 その後、かなりの数のポケモンが襲撃してきたので端から順番にぶちのめしておいた。

 やっぱ結構危ないなここ。

 ユキノオーは戦闘音で自然と目を覚まして身構えようとしていたが、包帯でぐるぐる巻きなのでまともに動けなくて目を丸くしていた。

 

 俺たちのこともしばらく警戒していたが、やがて何もしてこないと分かったのか大人しく眠りに落ちた。

 切り替えはや……

 ヒーホー君も戦闘を終えると流石にうつらうつらし始め、ひっくり返って雪に突っ込んだまま鼻ちょうちんをふくらませていたのでアイリのところに送り届ける。

 一人でも問題無さそうだし。

 

 朝、まず起きてきたのはレッドだった。

 寒い寒い言いながらピトッとくっついてくる。

 

「ずっとここにいたの?」

 

 まあな。

 

「でも、あったかいね」

 

 ポケモントレーナーですから。

 それより昨日はちゃんと眠れたか? 

 

「うん、ヒーホー君は?」

 

 アイリとナギのテントで寝てるよ。

 ところでソイツを見てくれ。

 

「……ユキノオー、なんで?」

 

 分かんねえ、夜中に血だらけのコイツが現れて、そこでぶっ倒れたからとりあえず治療しておいた。

 あと、ポケモンの襲撃も一回あったな。

 

「また、トラブル?」

 

 そうだな、断じて俺のせいじゃ無いけどな。

 第一発見者が容疑者として数えられてるような感覚だ。誠に遺憾ですよ。

 死んだように眠るユキノオーをレッドが指差した。

 

「どうするの?」

 

 どうもしない。

 

「え?」

 

 起きたら勝手に動くだろ。

 

「いいの?」

 

 良いも何も、俺が決めることじゃ無い。

 コイツが決めるんだ。

 

「……来たんだね」

 

 真正面から両足に跨って抱きついてきたので、後頭部に手を伸ばし、少し絡まった艶やかな黒髪を手櫛でとかす。やっぱ野宿してると多少はみだれるよな。

 それにしてもビシバシと感じるぜ、イベントの予感をよ! 

 …………あの、レッドさん。

 

「なに」

 

 この体勢はちょっと良く無いというかですね……

 

「知らない」

 

 いや、アイツらが起きてきて見られたらうるさくなるから……

 

「知らない」

 

 そうか、知らないか……

 そうですよね……

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