俺はポケモントレーナー   作:goldMg

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24_積み上がる約束

 雪に閉ざされた視界の向こうで爆音が鳴る。

 村の人たちが寄ってきた。

 

「なんだなんだ! 酔ってんのかあんちゃん!」

 

「すごい迫力だったけど……家に当たってないよね?」

 

「リザードンちゃんもお酒呑んでるのに凄いねえ〜」

 

 音がしていた方向をひたすら見る。

 何も現れる事無く、ただ時間だけが過ぎ去る。

 

「……なんも来ねえじゃねえか、やっぱ酔ってんのか?」

 

「…………あれ?」

 

 いや、確かに音がしたんだけどな……気のせいだった? 

 ええ……? 鳥肌が立つような気配だった、というか立ったんだけど。

 そもそも呑んでねえから酔ってねえし。

 でも現れないな。

 気配も無い。

 …………まあいっか! 

 

 ユカリとリンのところに戻って話をしていたら、なぜかお酌をしてもらう流れになった。

 両サイドに2人が付いている。

 なんだここ、高級キャバか? 

 注いでもらってるのはクラボジュースだけど。

 ねえ、まだ君たちのご飯残ってるのに俺にジュースなんて飲ませてて良いの? 

 あと俺もご飯まだ残って……ない。

 あいつら俺のご飯食べちゃったみたいだ、食いしん坊だね。

 え? 良いのかって……別に良いよ、お腹空いてんだろ。

 お前らも空いてんじゃねえのか? 

 ……あー、家の中にいたからあんまり空いてないのね。

 勿体無い、美味しいのに。

 刺身とか食べてみろよ、飛ぶぞ。

 それよりさっきのはなんだったかって? 

 ……そうだな、一緒にやるって決めたもんな。

 あの時、やべえやつの気配を感じたんだよ。だから全力で迎撃した。

 具体的に何かは分からない。

 ただ、多分だけどソイツはあのユキノオーをズタボロにできるぐらい強くて、ここら一帯の生態系に異変を及ぼしてるって事だ。

 オーキド博士から聞いたんだよ。

 最近、前はいなかったポケモンが現れて、前はいたポケモンがいなくなって、生息地の分布がぐちゃぐちゃになってるって。

 俺はそういうの詳しく無いけど、ヌシモンスターとかいうのが関係してるのかね。

 ……ヌシがいてもそこまで極端じゃない? 

 へー、じゃあなんなのかね。

 

 そういやずっと気にはなってたんだけど、村の中心にあるクソでかい石碑はなんなの? 

 なんか文字が刻まれてるけど。

 昔、村を守っていた巨人の使っていた剣? 

 ……リンちゃん、何を言っているんだい? 

 確かに柄っぽいのは付いてるけど、巨人ってなんだよ。いきなり意味わからんこと言うな。

 ……え? マジでいるの? 

 なんで俺は見たことないの? 

 ああ、少ないのね。

 絶滅危惧種的な? 

 ……普通の人から稀に生まれる!? お前らの遺伝子どうなってんの!? 

 ……頭の上に輪っかが浮かんでんのも大概か。

 

「ねえ、いつまでこっちにいるのよ」

 

 お、ナギどうした? 

 というかあいつらはもう食い終わったのか? 

 ……お眠みたいだねえ。

 

「みんなあなたのこと待ってたのよ」

 

 そりゃあ悪いことしたな。

 ナギは? 

 

「……私も待ってたわよ」

 

 食い終わったのかって事だったんだけど。

 そうか、待ってたのか。

 

「……わざとでしょ」

 

 ばれた? 

 

「ふんっ、女の子2人侍らせて良い気になってるんじゃないの?」

 

 ソレ言ったら人数的には普段の方が、とは思ったけど流石に口には出さなかった。

 

「普段の方が侍らせてない?」

 

 リンが言っちゃった。

 完全に忘れていたのか、黙り込むナギ。

 これが真の論破……!? 

 でもちょっと待って欲しい。

 侍らせるって表現は良くないと俺は思うんだ。

 まるであいつらが俺の女みたいな。

 そもそも仲間に対して侍らせるっておかしいだろ。

 伴うならわかるけど、君たちはもう少し言葉の持つ力って言うのを考えて欲しい。

 ……お前が言うな? 

 俺は気を付けてるから問題無いよ。

 ……おい! なんで村の全員ブーイングしてんだ! 

 良いぜ、あんたらの気持ちはよーく分かった。来いよ、メガネなんか捨ててかかって来い! 全員ぶっ倒してやる、相撲でな! 

 

 

 ──────

 

 

 なぜかいきなり集会場のステージで取っ組み合いを始めた青年をナギたち3人は眺めていた。

 

「あの人ってなんであんなに喧嘩っ早いのかしら……」

 

「止める暇も無かったね」

 

「楽し、そう……ですね……」

 

 ステージ上で取っ組み合った瞬間、地面に組み倒され、起き上がったと思ったらぽんぽんとぶん投げられていく大人達。

 

「どぁぁぁ!」

 

「うわぁぁぁ!」

 

「ひゃあああ!」

 

「数人で行け!」

 

「かかれかかれ!」

 

「っしゃあ! 温まってきたぜ!」

 

 数人に組みつかれても全く意に介さず、手に引っかかった人を放り投げていく。

 もはやギャグみたいな光景だった。

 

「ああいう力押しは珍しいわね」

 

「そう……ですね……」

 

 ユカリが知っている彼も、デイリーバトルでは相手の動きを受け流すような戦いをしていた。

 ああいう、全てを受け止めて跳ね返すような立ち回りも出来るという事を初めて知った。

 全員を薙ぎ倒して、一汗かいたぜとでも言うように額を拭った青年は、ニカッと笑ってこちらにピースサインをした。

 手を振ると嬉しそうに頷いた。

 

「なんのためにあんな事したんだっけ」

 

 戻ってきて開口一番そんな事を言うのにはたまげた。

 言葉の力が、とかそんな事を言っていたのをもう忘れてしまったらしい。

 というか、彼は自分の言葉がどう受け止められているのかとか興味無いのかな。

 聞いてみると、言葉が無かったらコミュニケーション取れないんだから大事に決まってるじゃん、との事だ。

 なんか、深い事を言ってるようで浅かった。

 水を飲む彼のおでこに光る汗を拭くと、お返しとばかりに顔を拭いてもらった。

 

「ユカリは気が利きすぎて怖いくらいだ」

 

「私は?」

 

 リンが自分を指差しながら尋ねる。彼はじっくりとリンの顔を見たあと、大きく頷いた。

 

「うん!」

 

「何が!? ちゃんと答えてよ!」

 

 リンに揺さぶられるままに左右へ揺れる彼のところに村長さんがやってきた。

 

「さすが、英雄と呼ばれるだけはあるんだねえ」

 

「ポケモントレーナーは英雄にはならないんですけど……ゼクロムとレシラムでもいれば別だけど」

 

 知らないモンスターの名前を言った彼は、心底から自分が英雄では無いと思っているらしい。

 

「そもそも英雄とかいう称号を現代人が貰うのはきついって! もっと主人公頑張れ!」

 

「おお……?」

 

 困惑する村長をよそに、立ち上がった彼はアイリちゃん達の方に行った。

 もうあっちの3人は完全に寝てしまっている。

 

「おーい……起きれるかー……」

 

 小さい声で話しかけているけど、むにゃむにゃ言うだけで全然起きないらしくて戻ってきた。

 

「帰るわ」

 

「えっ……もうちょっといたら良いのに」

 

 リンがそんな事を言った。

 オールドタウンで出会ったばかりの頃はもっと刺々しい対応をしていたらしいけど、接していくうちに態度が変わったみたい。

 決定的に変わったのはリンが体調を崩してから。

 引き止めるなんて前なら考えられなかったよ。

 でも、彼があの子達を蔑ろにする訳がなかった。

 リンの言葉に苦笑して、悪いな、と続ける。

 

「あいつらはもうお眠だから、床で寝たら体に悪いし帰らせてくれ」

 

「リン……ダメだよ……」

 

「……姉妹揃って俺を困らせるのが得意だな」

 

 ……私も? なんで? 

 

「まだしばらくこの村には泊まるし、話す機会もたくさんある。今日のところはってことで許してくれ」

 

「……分かった」

 

 彼は拳を額に当てて唸る。

 

「……なんだかなあ」

 

「え?」

 

「いやなんでも、2人ともおやすみ」

 

 リンの肩をポンと叩くと、ナギさんと一緒にアイリちゃん達を回収しに行った。

 起きないように丁寧に抱き起こして、レッドさんだけリザードンに預けた。

 

「本日はこのような催し物を開いていただき、誠にありがとうございました。えー……うちの仲間がこうなっちゃったもんで……それでは、おやすみなさい!」

 

「ああ、おやすみー」

 

「送り狼かー?」

 

 凄い丁寧な挨拶をして彼は宿に帰った。

 

「ユカリ、リン!」

 

 お父さんが詰め寄ってきた。

 ヒソヒソと耳元で囁く。

 

「チャンスだぞ! 着いていくんだ! この村で一番リードしてるんだから!」

 

 この村のこういう所は本当にダメだと思う。

 そういう安っぽい関係として見て欲しく無かった。

 私たちが築いてきたのはそんな安っぽいものじゃなくてもっと……上手く言葉に表せないけど、とにかく、そんな変な事をして崩したく無かった。

 リンも同じ気持ちらしい。

 ムッとした顔をしていた。

 

 

 ──────

 

 

 次の日、かえんほうしゃを放った所を見に行ってみると、何も無かった。

 ポケモンに当たったのか、雪に炸裂しただけだったのか、ソレすらもわからない。あれだけ大きな音が鳴っていたんだから何かしらあると思ったんだけどな。

 ホシノ達はあの時ほぼ寝てたからナギに聞いてみる。

 風の巫女としてなんか分かることない? 

 

 探知機みたいに扱うなと怒られた。

 別にそんな風には思ってないんですけど……

 え? 言い方の問題? 

 ……ヘイ、ユー! ウインドサーチプリーズ! 

 ごはぁぁぁぁ!! 

 ひ、久しぶりにリザードンの腹パン喰らったぜ……

 どうやらアウトだったらしい。

 ナギの機嫌を取ってからリンたちと合流し、村にある祠、いや、祠があったという場所を見に行く。

 見事に崩れていた。

 どうしてこんなことになってしまったん? 

 え? 村長がいつものように祠へ捧げ物を届けに来たらこんな事になっていた? 

 えれえ事だ。

 村民のポケモンにはそんなこと出来るやついないし、間違いなく外部犯だな。

 ……まあ、ソレは村の人が解決すればいっか! 

 俺はあの気配の主を追いたいだけだし。

 この程度の事ならポケモンであれば普通にできるからな。

 

 昼頃、こりゅう観測所に所属するこりゅう観測隊とかいうよく分からん人が、アプトノスというポケモンが引く竜車にやってきた。

 ナギ! いつも思ってるんだけどやっぱり俺もあれ欲しい! 

 今度買おう! 

 

「お金無いから」

 

 うわー! 欲しい! 

 観測隊は村長に対して、フリーザーはこりゅうじゃないけどフライヤ山脈にこりゅうがいますみたいな事言ってた。

 そんなこと言われてもって感じの村長。

 こりゅう観測隊の兄ちゃんはこのままだと村もろとも一帯が滅ぶから依頼を出すように勧める。

 そもそもこりゅうって何? 

 と話に割り込んでみたら、英雄がいるなら大丈夫かも! とか言われてしまった。

 ちょっと待てい! こりゅうが何かを教えろ! 今まで聴いたことないぞ! 

 ……ナバルデウスとかを観測所の学術的な括りとしてこりゅうって読んでる? 古い龍で古龍? 

 無理無理無理無理! 無理です! 

 ミンチになって死にます! 

 そもそもポケモン討伐はポケモントレーナーの仕事じゃねえだろ! 

 専門の人呼んでこい! 俺はそれにくっついて見に行くから! 

 え? 何で見に行こうとしてるんだって? 

 馬鹿野郎! 俺がそんな面白そうなの見に行かないわけねえだろうが! 

 ……フライヤ山脈は結構遠い? どれくらい? 

 歩いたら一週間!? 

 そんな遠い所からここを滅ぼすの!? 

 やっぱやべえやつじゃん! 

 村長! ちゃんと依頼出した方がいいっすよ! 

 ……金と村とどっちが心配なんだこのハゲ! 

 

 

 ──────

 

 

「ハチミツください」

 

 なんだこいつ!? 

 二週間後、特急便に乗って現れたのは開口一番こんな事を言うやべえやつだった。

 名前はユウタと言うらしい。

 もう見た目もやばい。全身を紫色のゴツい鎧で覆って、紫色のでかい剣を背負い、アクマアイルーとかいう種族の二足歩行猫を伴っている。

 それでいて出会う人出会う人にハチミツを持っているかどうかを最初に尋ねる。

 名前と言動のギャップが……

 

 村長もちょっとだけ不安になったのか、実力の程を聞いている。そりゃそうだよ、だってこの人、今のところハチミツの事しか言ってないんだもん。

 ナギが耳打ちしてくる。

 こそばゆい。

 

「ねえ、あなたから見てこの人は神様と同じくらいの強さのモンスターを討伐できるの?」

 

 ……分からないな。

 言動こそ狂ってるけど、研ぎ澄まされた殺意は俺の肌にピリピリと来てる。

 たぶん、修羅ってやつだ。

 でも、あの神様に叶うかは、本当に分からない。

 

「あなたと戦ったらどっちが強いの……?」

 

 うーん……正直何とも言えない。あの人は多分、ポケモンを倒すのに特化してるんだと思う。

 動きはもちろん洗練されてるんだけど、対人って感じがしない。

 まあ俺も武術をやってるわけじゃないから、なんとなくそう感じるってだけだ。

 ……また、村民に話しかけてる。

 

「あ、ハチミツください」

 

「誰!?」

 

 そりゃそうなるよ……

 

 ──────

 

 

 アイリが一緒にお出かけしたいというので今日は他のメンバーとは別行動だ。

 えー、だの、ぶー、だの抗議を飛ばしてくるので、ナギを誠心誠意込めて説得したらみんな顔を真っ赤にして背けていた。

 分かってくれれば良いんだよ。

 待ち合わせ場所に行くとアイリは年相応ながら目一杯おめかししていたので死ぬほど褒めた。

 フニャンフニャンに溶けたアイリと手を繋いで村を見て周る。

 オーキド博士の研究所、ポケモンセンター、フレンドリィショップ、村長の家……

 何もかもが微妙に違う、それでも強い既視感を覚えさせる村の構成は郷愁の念を燃え上がらせ、一つの話をしたくなった。

 

 マサゴタウンってのは2つ目の街なんだけど、それは知ってるか? 

 

「えへへへ……わかんにゃいです!」

 

 …………一つ目の街、フタバタウンから旅は始まる。

 10歳の誕生日。

 目が覚めたら、彼らはポケモントレーナーになる資格を持っている。昨日までの自分と同じなのに、全く違う存在になった気分だ。前日なんてもう、眠れないんじゃないかな。尽きない興奮──期待と不安が溢れ出すよなぁ……

 

 カーテンを開けたらいつもの街が見える。ドキドキしながらベッドを出て、ドキドキしながら階段を降りて、ドキドキしながら顔を洗って、何のことはないって顔をしながらご飯を食べる。でも母親には見透かされてて、ニヤニヤしながら見られてる。

 少しだけ豪華なご飯が、これからの事を想像させるんだ。

 家を出るといつもより色鮮やかな街がそこにはあって、普段は軽く挨拶をするだけのおばさんも頑張ってね、なんて言ってくる。

 そこに近付くにつれて手に汗が滲んで、同世代の金持ちのことを思い出したりなんかして──親に与えられたポケモンを小さい時から育てていて、少し鼻に付く言動をするやつがいたりすることもある。

 今日、やっと自分もスタートラインに立つんだっていう覚悟。

 あいつを見返してやる、そんな反骨心と一緒に、いつもは絶対入るなって言われてる場所に入る。

 

 懐いてもらえなかったらどうしようとか、活躍できなかったらどうしようとか、そんな不安だってあるだろう。

 でも、モンスターボールを持って草むらに飛び込んで、傷だらけになりながら初めてのポケモンを捕まえる。

 何度か揺れを繰り返して、カチッという音と共に手の中に収まった、1匹のポケモンが入ったモンスターボール。

 

 それを見た瞬間、魂が打ち震えるんだよ。

 御三家かどうかなんて関係無い。

 俺がホシノと出会った時のように、アイリ、君がヒーホー君をパートナーにした時のように。

 運命だと、そう感じるんだ。

 そしてマサゴタウン、この村に来る。

 オーキド博士の研究所、あそこは元々ナナカマド博士という人の研究所で、その人にポケモン図鑑を貰って……旅が始まる。

 だから……ここは俺にとっても馴染み深い場所なんだ。

 親しみ深い場所では無いけれど、それでも思い出深いよ。

 

 

 ──────

 

 

「師匠も……」

 

 アイリは、緊張しながら尋ねた。

 この話が、これまでしてきた会話の中で最も彼の生い立ちの根幹に近い部分だと何となく感じたからだ。

 

「師匠も10歳の時、旅をしたんですか?」

 

「……はっはっは! 俺はしてないよ! するわけがない! ……ん? ある意味してるのか? いや、俺は記憶喪失だから覚えてないけどね?」

 

「えっと……どっち、なんですか?」

 

 あえて踏み込んだ。

 お母さんに言われた事の一部を思い出していた。

 

『彼の事をもっとちゃんと知りなさい』

 

 今、この時ちゃんと聞くのが正解だと思った。

 記憶喪失なのか、そうじゃないのかは関係無かった。

 もっと、この人のことが知りたかった。

 

「……そうだな、俺は旅なんてしてないよ。出来るわけがなかった」

 

「今、師匠がポケモントレーナーを名乗っていることと関係があったり……?」

 

「おっ! 鋭いな!」

 

「その……」

 

「──アイリ」

 

 被せるようにして彼が言葉を被せてくる。

 優しい顔をしているけど、悲しい顔にも見えた。

 

「俺は記憶喪失、それじゃあだめか?」

 

「…………」

 

「二度と手に入らないって分かっていても、未練ってのはやっぱりあるもんなんだな……勉強しなくて良いのは楽だけど」

 

 全然そんな風には見えなくても、やっぱり師匠は元の時代に帰りたいんだ。

 でも……それでも、ここで引くのは違う気がして、畳み掛けようとして──

 

「この旅がさ」

 

「ししょ……え?」

 

「この旅が終わったら全部話すよ」

 

「……」

 

「どんな終わり方かは分からないけど……それでも、ちゃんと話す、全員に」

 

「……」

 

「それで許してくれない?」

 

 そう言われてしまえばもう何も言えない。

 ある意味では禁じ手だった。

 だから、これ以上逃げさせないために。

 

「約束してください、ちゃんと」

 

「……また増えちゃうわけですか、俺も学習しねえな」

 

「師匠!」

 

「どうどう……」

 

 肩にしがみつくと、落ち着けと言わんばかりに宥められる。

 

「約束だよ、俺は旅の終わりに全てを話す」

 

「ちゃんと約束しましたからね!」

 

「ああ、覚えててくれよ? 俺がまた記憶喪失になっても大丈夫なようにな」

 

「私がついてるからそんなことにはなりません!」

 

「頼もしいなあ……」

 

 嬉しそうに笑う青年は空に呟く。

 

「勝手に死なない、どこかに行かない、みんなにちゃんと話す……まあ、これくらい小学生でも守れるよな」

 

 

 ──────

 

 

 アイリと引き続き村を見て周る。

 村って言っても、ゲームみたいに数軒しか家が無いなんて事はありえない。

 ばらつきながらも周る場所はそこそこ広い。

 畑にはカブンの実とかいうカブみたいな野菜が植えてあったり、凍った池でトサキントが氷を割ってたり、ウンディーネとかいうポケモンが少年の性癖を破壊して幼馴染の女の子にWSSを味わせたりしてるのを見ていく。

 ウンディーネ……激マブじゃね? 俺も子供の時だったら壊れるわあんなん。

 

「むー! むー!」

 

 一生懸命目隠しをしようとぴょんぴょん跳ねているアイリを肩に乗せる。

 当然頭にだきつかれて視界を隠される。

 

「ダメです! あ、あんな……え、えっちなのを見ちゃ……」

 

 アイリも思春期なんだなあ……ところでアイリには幼馴染はいないの? 

 

「……その、一応いるんですけど……」

 

 ですけど? 

 

「私が師匠に着いていくってなったら怒っちゃって……」

 

 ブロックはされてないけどチャットに返信してもらえないらしい。既読はつくので見てくれているのは間違いないとか。

 わかるよ、ここまで来て謝るのもなんか違うもんな。

 すげえ複雑な気持ちで読んでるんだろう。

 

 

 ──────

 

 

 最近欠かさないのが夜のパトロールだ。

 俺の感じた気配は嘘だったのか、それともやはり、あの場には何者かがいたのか。

 そして根気強くパトロールした成果が出た。

 最後まで起きていたレッドに添い寝して、寝かしつけてから部屋を出て村を周っていたら、こんな村には不釣り合いな狼が現れた。

 

 半身が青い炎で構成されたその狼は、噴き上げる炎の勢いと共に加速していく。

 ただ、いかんせん俺に与えられたチートは、その手の輩との相性が良い。

 野生的な動きで読み辛さはあるだろうけど、ポケモンってそういうもんだから。

 せめてあの霧の人みたいに先手読み後手読み後手読み後手ぐらいやってくれないと。

 

 現れた時に火柱が左右に立ち上っていたのと、雪を次々と溶かして水の槍として飛ばしてくるのは結構カッコよかった。

 あと体力もえぐい。

 戦いが始まってから数十分が経過している。

 悲しいことに俺は腕力とナイフでどうにかしなきゃいけないんだけど、ナイフが通らない程度には硬かったので拳で抵抗している。

 すでに数百発、良いのを喰らわせてやったのになあ……

 焦れに焦れたのか、焔を吹き上がらせる。

 

「オオオォォォォォン!!!!」

 

「へっ……こいよワンコロ! 撫でてやる!」

 

 俺の命を刈り取ろうとカッ飛んでくる水の刃をすり抜ける。

 刃はブラフだったのか雪の積もった地面を軽快に駆けてその牙で俺の体を噛み砕こうと口を開き──

 

「ギャオオ!?」

 

 鼻っ面に全力のストレートをかました。

 流石ポケモントレーナーだ! 何ともないぜ! 

 すぐに距離を取り、次の動きを見る。

 

 怯んだ狼は鼻を爪の生えた前足で不器用に押さえ、しかしすぐさま獲物たる俺を睨む。鼻を押さえていた前足を振り抜き、爪の形に合わせるように炎を発生させて俺を焼き尽くそうとする。

 怯んだふりをして隙を窺っていたのだろう。

 炎が体に当たるのをガン無視して左前脚にソバットを喰らわせる。

 

 軸足が地面に脛まで埋まるほどの威力の蹴りがもろに当たり、バキバキという良い音が鳴る。

 脚についていた装甲のような皮膚組織には戦う前からすでにヒビが入っており、それが今の一撃で砕けた。

 集中的に攻撃していた甲斐があるぜ。

 今度はフリでは無くて、本気で苦しんでやがるな。

 地面を転がって悶えてるし。

 

「お兄さん!」

 

 我が相棒の声が聞こえた。

 背後から駆けてきて横に並んだホシノが油断なくショットガンを構える。

 モードを変更したメガネで解析を行っているようだ。

 

「こいつ……フェンリルガモンっていうモンスターだ! ほとんどデータが存在しないよ!」

 

 幻のポケモンじゃん。

 是非ともマスターボールで一発ゲット! とはいかないのが辛いところだぜ。

 

 

 ──────

 

 

 多勢に無勢と逃げた狼は放置して、オーキド博士の家に向かおうとしたらレッドカード。

 ……いや、これはレッドがカードを出したわけじゃ無くてサッカーの方のだからね? 

 ホシノの頭の上に持ち上げられて宿に連れ帰られ、俺に対するメディカルチェック(笑)が行われた。

 また無茶をしてだの勝手にどっか行こうとしてだの、ペタペタと全身をまさぐりながらなんか言ってるのをはいはいと頷く。

 ホシノは寝てたんじゃないの? なんで気付いたんだ? 

 ……気付かないわけがない? 

 そうなの? でもこいつら寝てたじゃん。

 あでっ! 何だよ、事実じゃん……余計な事言うなって? 

 ……結果的には見つけたんだから良いじゃねえか! 何で俺が責められてるんだ! 許せねえ! 俺は風呂に入るぜ! 

 

 ふう……勢いで抜けてきたぜ。

 全く、善意のパトロールにケチつけるなんてひどいぜ。

 動き回って多少は汗かいたからな、いつでも風呂入れるタイプの民宿で良かったぜ。

 ガラガラ〜っと扉を開けて風呂場に入り、身体を洗って湯船に浸かる。

 風呂にこだわってるらしく、民宿なのに部屋風呂もあれば、それとは別に大きめの風呂場が用意されてもいる。

 ……この世界にも風呂の文化があって良かったわ本当。こういうところは日本産のゲームである事を実感する。

 湯船にはアヒルの代わりにカモネギのおもちゃが浮いてる。

 ゼンマイを回して水に浸けた。

 鳴き声を模した素っ頓狂な音がオモチャから出る。

 

「カーモネwwカーモネww」

 

 前から思ってたんだけど、まじで何なのこれ……俺には煽りにしか聞こえないんだが。

 

「お兄さんもそれで遊ぶの?」

 

 遊ぶというか、謎過ぎてついいじっちまうんだよ。

 

「アイリはそれ好きだよ」

 

 ふーん、これが? 

 …………ん? 

 

「レッドぉ!?」

 

「うん?」

 

「なんで当たり前みたいな顔して一緒に浸かってるんだ!?」

 

「最初からいたよ」

 

「マジか……マジか……自然過ぎて全然気付かなかった……」

 

「……だめ?」

 

「……既に入っちゃってるからな。良いよ、もう諦めるよ」

 

「だよね」

 

 暫しの間2人での入浴を楽しむ。

 考えると、ヒガン君を除けば仲間と一緒に風呂に入るのは初めてだ。

 ……当たり前なんだけどな。

 でも、レッドもいつか反抗期になったら、こんな風に構ってくれなくなっちゃうのかもしれないな。

 ちょっと寂しくなったので、今のうちに堪能しておこうと思い、レッドを抱き寄せようと手を伸ばしたらスッと避けられた。

 それは流石に恥ずかしいらしい。

 俺にはお前が分かんないよ……

 

 

 ──────

 

 

 部屋に帰った時にまだホシノは起きてたけど、俺の後にレッドが風呂に入ったで乗り切った。

 人間って不思議なもので、連呼してると本当にそうだったんじゃないかって気がしてくるんだよな。

 レッドもそこはちゃんと協力してくれて、一緒には入ってないアピールをしていた。

 ベッドに寝そべると、ホシノがモゾモゾと潜り込んでくる。

 あの狼についての話だった。

 そもそも、何であのレベルのポケモンがマサゴタウンに来たのかが分からない。

 底なし沼みたいな体力してたぞ。

 何であんなところにいたのかって? そりゃあお前、名探偵ポケモントレーナーさまの聴覚に嘘がないことを証明するためだよ。

 まだ決まったわけじゃないけど、あいつの最高速度ならあの場から逃げることも可能だろうな。

 ……怪我は本当にしてないよ、むしろあいつの方が重症というか、全然引いてくれないからああするしかなかった。

 逃げてくれるんなら別に追わないんだけど、やたら粘るんだもん。

 何か目的があるのかもしれない。

 え? これからもパトロールするのかって? そりゃあするよ。

 野生なのにあんだけ粘ってた時点で、左脚砕かれた程度じゃ諦めないだろ。

 

 

 ──────

 

 

「コレは貴重な映像資料になるぞ……確かにこの見た目はフェンリルガモンじゃ……ワシも直接目撃したことは無いが、人里離れた場所でしか見られないとは聞いていた」

 

 え、じゃあなんで? 

 

「フライヤ山脈に現れたという古龍の影響かもしれんのお……数百年に一度しか目撃されないような伝説の存在達じゃからそれくらいの影響力はあってもおかしくないぞ」

 

 ……ナバルデウスは? 

 

「アレも現れたのは200年ぶりだったんじゃよ。街が二つほど地図から消え、ジムリーダーたちの全戦力で屈服せしめたというわけじゃ。しかも、先日の異変ではあの檻を破壊したという話もある」

 

 ホシノの肩を掴んで隅っこに連れて行く。

 

 ちょっと!? 何一つとして聞いてないんですけど!? 

 数百年ぶりって何!? あいつらそういうアレなの!? 

 

「言ってないもん」

 

 アマツマガツチも古龍ってことだよな!? 

 

「うへ〜……あの神様に関しては本当に何の情報も無いんだよ〜……」

 

 ナギたちがいなかったら名前すら伝わらなかった可能性があるってことじゃん……

 

「お主たち、何をコソコソ話しとるんじゃ?」

 

 いや、なにも? 

 

「ともかく、これまでこの地でフェンリルガモンが目撃されたという情報は無かった。つまり、フェンリルガモンが周囲の生態系に影響を及ぼしている可能性は高い。それに、そういった強力なモンスターは高い治癒能力を有しておる。お主が与えたという傷もそのうち回復するじゃろう」

 

 一番気になるのは、何でわざわざこんな場所まで現れたかって事なんですけど。

 

「分からんわい! ワシとて聞かれたらなんでも答えられるというわけでは無い!」

 

 そりゃそうだ。

 

 

 ──────

 

 

 また別の日、ユキノオーが吹き飛んできて石碑をぶち壊した。

 当然、マサゴタウンは騒然となる。

 村民のパートナーたちなんかは怯えて若干パニックになっていた。

 俺もビックリした。

 そんな、村の真ん中にある石碑にちょうど当たるなんてまるでボウリングだな! 

 ぐったりと気絶しているユキノオーは、以前と同じように全身に裂傷を負っている。

 とはいえ、傷ついたポケモンを見て放っておくような心無い人間はいない。

 えっちらおっちらと村民全員でポケモンセンターに運び込む。

 

「まあ、酷い怪我!」

 

 ジョーイさんの遺伝子強いな……

 もこもこのピンク髪……ホシノはサラサラだもんな? 

 

「うん〜」

 

 お父さんたちの髪の毛もピンクなのか? 

 

「……え……え……?」

 

 なんだその、何でそんな質問するの? みたいな顔。

 俺はお前のお父さんたちのことも聞いちゃいかんのか。

 

「おじさんの家族に興味とかあったの……?」

 

 無いわけないが!? 相棒の家族に興味を持たないわけが無いが!? 

 そんなの当たり前なんだが!? 

 

「そうなんだけど……全然聞いてこないから」

 

 ……流れがな。

 

「うへ〜……つまり、おじさんの家族について聞くタイミングが来たってこと〜?」

 

 そうだよ。

 

「……何かあったの?」

 

 あったか無かったかで言えば、あった。

 旅が終わったらどうするかを一つ決めただけだ。

 

「ええ!? どういうこと!?」

 

 ちょ……人がいっぱいいるから……一旦外でな。

 もうちょっとだけおじさんらしくのんびりキャラ保つ努力しろよ……

 

 ポケセンの外に出たらホシノに服を掴まれて詳しく話せとせがまれる。

 アイリとの約束を俺が勝手にバラすわけにもいかないし、アイリに聞いて欲しいと告げた。

 それでアイリが良いって言うなら俺は構わない。

 

 朝起きて、2人の家に行って朝ごはんを食べる。

 民泊の飯で良いじゃんとも思うが、ユカリとリンのご両親から朝ごはんは一緒に食べようと誘われているのだ。

 流石の俺も2人の親御さんの誘いとあれば無碍にするわけにもいかん。

 ホシノ達を説得して、朝だけはこっちで食えることになった。

 近くの湖で釣れた魚の塩焼きと目玉焼きに舌鼓を打つ。

 リンは最近、グレイスとビビという歌手の二人組が好きらしい。

 ……違法な改造によって作られたアンドロイド達で、様々な事件を経て人間と結婚して歌手にもなったリアルシンデレラストーリー? 

 なんかすごいな! 

 現代に生きてた俺には改造っていう単語があまりにも重い! 

 みんな善良なのに、倫理観バグってるやつの突き抜け具合やばいって! 

 ……ええ!? グレイスの影響でサイボーグとかアンドロイドの製造が禁止になった!? 

 アンドロイドとの結婚は認めたのに!? 

 おいふざけんな! ロマンはどこいったんだよ! 

 セクサロ……いや、なんでもない。

 ……なんでもなーい!! 

 これ以上聞くな! 

 そうですよねお父さん? 

 

「え……そ、そうだねえ?」

 

 ほれみろ! 

 それで、その2人の音楽はどんなんなんだ? 

 …………ふーん、よく分かんないけどリズムは嫌いじゃないよ? 

 いつもこれ聴きながら練習してんの? 

 ……へー、やっぱメガネって便利だな。

 それとビビじゃなくてヴィヴィ? どうでもいいわ。

 ……だから、ダウンロードしろって言われてもメガネは使えないんだって。

 別に使えないならそれでも良いんだ俺は。

 今ならできるかもしれないから一回試せ? 

 分かりきってるんだけど……じゃあ一回だけな? 

 ──ああ、この画面懐かしいな。

 

『Sight Newral Link 確立中……』

 

 前回と同じよう音声が流れ、しばらく待つと、結果が現れる。

 

『確立失敗……原因不明……こちらにお問い合わせください──―』

 

 やっぱ無理じゃんって事でメガネを外そうとした時だった。

 

『──―来──よ』

 

 …………え? 

 

 先ほどまでの、エラーを伝える為の音声とは違う、明らかな意志を感じさせる声が聞こえた。

 ぶつ切りで、今にも通信の途絶えそうな音声だけど、何者かがいるのを感じた。

 

『──―この──は──―?』

 

「トレ君、どうしたの?」

 

 いや……何でもないよ。

 怪訝な顔をするリンにメガネを返す。

 さて、朝飯は食べ終わったしそろそろ戻ろうかな? 

 

「えー、結局朝ごはんの時しかしゃべれないじゃん……」

 

 それは違うよ! 

 村を見て周ったりするときにリンとユカリは着いてきていた! 

 その時に俺たちと会話をしていたのは自明だ! 

 

「そうだけどさぁ……」

 

 ……まあ論破したいわけじゃないし、少し喋るか。

 出会ったばかりの時はあんなに刺々しかったのに、人って変わるなあ。

 

「あの……マホーツカイの話の……続きが聞きたい……です」

 

「それじゃあソファが開いてるから! そっち使って良いぞ!」

 

 お父さん、ありがとうございます。

 

 ユカリは一息の中で話すことができる量がだいぶ増えてきた。

 最初出会った時はカッスカスで、普通の聴力だとめちゃくちゃ聞き取りづらかったらしいけど、今はだいぶ良くなっている。

 

「早く早く!」

 

 ソファに腰掛けると左右を姉妹に挟まれる。

 リンがソファの上で軽く跳ねながら頭をバシバシと叩く。

 話すから落ち着いて? 

 

「それじゃあ失礼して」

 

 なぜか対面のソファにはお父さんお母さんが腰掛けた。

 あの……? 

 

「お気になさらず〜」

 

「うん! 気にせず話してほしい!」

 

 は、はあ……みんなが聞くなら初めから話しますけど。

 ユカリは二度目になっちゃうけど良いよな? 

 

「はい!」

 

 

 ──────

 

 

 ユウタが出発した。

 結局、彼の情報はハチミツが欲しい人というところで止まっている。

 なんというか、普通に狂人だった。

 幻獣チーズと黄金芋酒とかいうものを異様に食べたがっていたのも印象的だ。アレだけ欲しがってたハチミツどこいったんだよ。

 

 黄金芋酒とかいうのは100年に一度しか飲めないぐらいレアな酒で、幻獣チーズは幻獣のチーズらしい。

 モンスター討伐のために酒が必要とか大丈夫か? 

 いや、それがユウタの普通なのかもしれない。

 でももう少し気を使って欲しかったというか……

 村の人は、古龍の出現と祠の破壊とユキノオーとで次々と異常な事が起きてピリピリしてるんだよ。

 

 オーキド博士以外の人に聞いてみても、以前から、近辺で肉のために取れるような獣が少なくなって、現れるモンスター達の種類も変わってしまったのでどう対処すれば良いのか分からなかったとか。

 そこに現れたのがユウタなのでそりゃあもう不安にもなるよ。

 俺も不安だもん。

 でもユカリとリンだけは大丈夫って言ってて、しかもその根拠が俺がいるからだそうだ。

 

 信じてもらえるのは嬉しいけど、盲目的なのは良くなくね? あとそれ他の村民に言わないでね? 

 そもそも俺が解決できるのはポケモンの流れに沿えるやつだけで、それ以外だと無理やりやるしかない。

 古龍なんて、ゲームをやってて見た事もない。こっちの世界だと伝説のポケモンをそう呼ぶのか? 

 でもナバルデウスなんかポケモンの大きさから明らかに逸脱してるし、どうなんだ。

 

 でも、俺を見る目は掛け値無しに、言葉通りに俺の事を信じているようで、野暮な事を言うのは躊躇われた。

 ……言うんだけどね! 

 ユカリ、リン、悪いことは言わないからそういう風に俺を信じるのはやめな? 

 俺はあくまでやりたいようにやってるだけだし、その延長としてユカリを助けたのがあるんだから、そんな風に思うのはあんまり健全じゃない。

 感謝は嬉しいけどね。

 え……? そんなの関係無い? 信じたいから信じる? 

 ……よく分かんねえけど、ユウタ頑張れ! 

 マサゴタウンの未来は君の手に! 

 

 

 ──────

 

 

 ユキノオーが激突してぶっ倒れた石碑の中から一つの巻物が見つかったらしい。今はオーキド博士が持っていて、中身を解読しているとか。

 知りたーい! 

 研究所に突撃だー! 

 

「おお、やはり来おったか! この巻物に書かれているのは古い文字じゃが、何度も読んだことがある文字じゃ。簡単に解読できたぞ!」

 

 この仕事の早さは……ジョバンニ!? 

 やっぱオーキドってすげえ! 

 なんて書いてあったんですか!? 

 

「これは歌に関する物なんじゃよ」

 

 歌? 

 

「そう、言うなれば鎮めの歌じゃ」

 

 どんな歌なんすか? 

 

「それは、お主ら2人が良く知っとるものじゃよ」

 

 なぜかユカリとリンに目線を向ける博士。

 2人は何のことだかという顔をしていた。

 

「あかとあおのうた、これなら分かるかの?」

 

「ええと、分かりますけど……それがどうしたんですか?」

 

 なになに? 分かるの? 

 

「うん、あかとあおのうたっていうのはマサゴタウンに伝わる童謡で、この村で育ったみんなが知ってる歌だよ。別に大した意味とか無い歌だけどね」

 

 ふーん……どんなん? 

 

「え……わたし?」

 

 リンが自分を指差して左右に視線を巡らせる。

 お前以外に誰がいるんだよ。オーキド博士とはいえ爺さんの歌よりはリンの歌の方が聴きてえよ。

 

「え……ええ〜……」

 

「ワシ、怒っても良いよな……」

 

 頼む! どうしてもお前の歌が聞きたいんだ! 

 がしっと手を握って想いを伝えれば、少し照れながらも了承してくれた。

 

「またああいう事してる……」

 

「ばーか」

 

 なんか後ろからヒソヒソ聞こえてくるけど今はリンに集中じゃい! 

 リンはあー、あー、と軽く喉の調子を確かめてから歌い出す。

 

 あかいたまと あおいたま

 

 どちらのたまが ただしいの

 

 てにしたものは みな そらへ

 

 ねむっていれば かわらない

 

 ねむっていてね いつまでも

 

 おこしたときは かかさんが

 

 ずっといっしょに いるからね

 

 みたまのそので ねむりましょう

 

 みおろすそらの つめたさを

 

 しずめきよめて ねむりましょう

 

 あかいたまと あおいたま

 

 どちらのたまが ただしいの

 

「こ、こんな感じなんだけど……あはは、恥ずかしいな」

 

 あばばばばばばばば…………

 

「どうしたの!?」

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