俺はポケモントレーナー   作:goldMg

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25_決戦、フェンリルガモン!!

 ……そういうこと? …………そういうことなのか!? 

 そうだとしたら……やばいやばいやばいやばい……やばひいいいい! 

 何でそんなやべえ歌が伝わってんだよこの村! 

 マサゴタウンでしょ!? 

 地理的にはシンオウ地方寄りじゃないのか!? 

 いや、マタナキは映画の街っぽかったし分かんねえか!? 

 お、おおおちおちち落ち着けぇ!! 

 俺はディアルガとパルキアを操った男すら退けたんだぞ! 

 あの銀河を思い出せ! 

 創世すら止めた俺が負けるわけねえだろ!? 

 ……物理的に海と太陽に勝てるわけねえだろうが! 

 ふざきんな! 

 そもそもあの時は相手が人間で、ディアルガとパルキアのことをよく分かっていなかったから勝てただけだ! 

 ディアパルと直接的に対面してたら絶対勝てなかったぞ! 

 しかもホウエン地方でコレを聞くならまだ分かるけど、よりによってマサゴタウンで聞かされるなんて突然すぎる。

 何が起きるか全く分からない……

 海面上昇と旱魃で世界がお亡くなりになっちゃうのか? 突然のゲームオーバーやめてくれ! 

 

「ちょっと、トレ君! 大丈夫!?」

 

 大丈夫じゃない! 

 何だその歌は! 

 ふざけるな! 

 

「ひゃっ……!」

 

 何でそんな歌が存在するんだ! 

 

「ポケモントレーナー君、落ち着くんじゃ」

 

 ……オーキド博士、そうですね。

 リンごめん、ちょっとパニックになってたわ。

 ……落ち着いてる場合かあ! 

 

「この巻物の内容を話しても良いか? そこまで長くは無いからの……まあ、あまり楽しいことは書いて無いぞ」

 

 

 ──────

 

 

 血みどろになった手で、震える手で、顔を覆う。

 すまない。

 みんな、すまない。

 

 由来のわからぬ青い玉と赤い玉、それらをめぐって大きな争いが起きてしまった。

 全て、自分の責任だ。

 あんなもの、見つけなければよかった。

 歴史など、研究しなければよかった。

 娘夫婦、孫、村長、村のみんな……

 あの村の中で、この災害を引き起こした元凶たる自分だけが生き残ってしまった。

 

 今も争う2匹のモンスターを見下ろす。

 紋様が刻まれた巨体をぶつけ合っている。

 自らがいるこの山の頂上だけが辛うじて無事だった。

 周囲には、他の街から同じく避難した人々が絶望の表情で項垂れている。

 押し寄せる津波が片っ端から蒸発していく、戦闘の最前線。

 終わりだ。

 もう、本当に終わりだ。

 

 チャンピオンも、四天王も、ジムリーダーも、あの2体を止めることはできなかった。

 自身のテリトリーを犯す輩を滅しようと空から現れた野生のモンスター達も、2体に攻撃を浴びせた結果として、うねり上がる津波と無限に照射されるソーラービームに飲み込まれていった。

 言い訳が口をついて出そうになり、額を地面に叩きつける。

 愛するもの達の死に顔が脳裏から離れない。

 灼熱に晒されて、泣くことすら許されなかった。

 

「あれは……なんだ……?」

 

「────」

 

 謎の唄が世界に満ちる。

 2体のモンスターの身体に刻まれていた紋様が失われ、赤く染まっていた目は理性を取り戻していった。

 途端に潮が引いていく。

 ジリジリと肌を焼く太陽が翳っていく。

 本来の時間に相応しい暗さを取り戻した空を見上げる。助かった事を知った皆が喜ぶ中で、同じく自身のうちに湧き上がる、助かった事への安堵感に頭を掻きむしる。

 気が狂いそうだった。

 

 流れ落ちる涙を無視して羊皮紙に文字を書き記す。

 あの2つの玉を使ってはいけない事、永遠に誰からも守り通す事、そして──

 あの唄だけは、何としても継がなければならない。

 絶望の中で、唯一、心に安らぎをくれた。

 あの2体のモンスターを鎮めた唄。

 メロディーだけでは人は覚えられないから、歌詞をつける。

 拙いが、大事なのはそこでは無い。

 この悔しさが伝われと、思いを込める。

 繰り返すなと、願いを込める。

 

 

 ──────

 

 

 あかいたまと あおいたま

 

 どちらのたまが ただしいの

 

 てにしたものは みな そらへ

 

 ねむっていれば かわらない

 

 ねむっていてね いつまでも

 

 おこしたときは かかさんが

 

 ずっといっしょに いるからね

 

 みたまのそので ねむりましょう

 

 みおろすそらの つめたさを

 

 しずめきよめて ねむりましょう

 

 あかいたまと あおいたま

 

 どちらのたまが ただしいの

 

 

 ──────

 

 

 同じ巻き物を二つ作った。

 一つを青い玉とともに、1人の少女に渡した。

 かのナナカマド博士の子孫らしい。

 別の地方から来ていた彼女なら、遠いところまで持って行ってくれるだろう。

 2体が揃う事がないように、こうするしかなかった。

 

 赤い玉はこの地で封印する。

 自分が、守っていく。

 だけど将来、二つの玉が悪用されることもあるだろう。

 またあの怪物達が目覚めた時に、この唄を受け継いでいて欲しい。

 できるならば地方全体で。

 最低でも一つの町で。

 この悲劇を未来に持っていかないために。

 

 ……死にたかった。

 のうのうと生きている自分が許せなかった。

 何故、助かったんだ。

 助かって、しまったんだ。

 あの子達の未来を奪った自分が何故。

 そんな声がいつまでも脳内に響いている。

 それでも、この命尽きるまではあの赤い玉を誰にも渡さないと決めた。

 海水による塩害と日照りとで被害は甚大だ。

 本当にここから復興できるのかも分からない。

 でも、憂う資格すら自分には無かった。

 どうか、遥か未来まであの唄が継がれていくことを祈るしか無い。

 

 

 ──────

 

 

「津波を引き起こすモンスターと日照りを引き起こすモンスターの戦いで一つの地方が滅びた……? それは本当なのですか?」

 

「ナギ君、残念ながらそれが本当かどうかを調べる術は無いのじゃよ。そもそも、これが真実を述べているという確証も無い」

 

 書かれていたのは、一つの地方を滅ぼしたという災害に関する注意書きとも言うべきものだった。

 そして、二つの玉を二度と使用してはならず、誰にも触れさせてはならないと書いてあった。

 たった2体のモンスター同士の争いで地方が滅びる。

 それは、尋常では無い事だった。

 あの超巨体を誇るナバルデウスですら、海辺にある二つの街を消したところでジムリーダー達に止められた。

 眉唾と切って捨てても何ら問題無いだろう……本来なら。

 

「あばばばっばばばばばばば」

 

 白目を剥いたポケモントレーナーがいなければの話だった。

 明らかに、何かしらの事情を知っているものの反応をしている。

 先ほどリンが歌ったこの村の童謡を聞いてからずっとこの調子だ。

 アイリがツンツンとついてもバグったままである。

 

「お兄さんがこんな壊れ方するなんて初めてだよ〜」

 

 相棒のホシノから見ても彼の様子はおかしいらしい。

 

「お兄さん、大丈夫?」

 

 レッドが脛を蹴る。

 しかし、全く反応しない。

 はあ、とため息をついたリザードンが尻尾で空を薙ぐ。

 バチィン! という音が走る。

 

「……はっ!」

 

 眼の焦点が帰ってきた青年は咄嗟に走り出そうとする。

 

「こ、こんなところにいられるか! 俺は先に逃げさせてもらうぜ!」

 

 どうやら正気の方はまだ帰ってきていなかったようだ。

 ナギが襟を掴んで引き止める。

 

「ぐええ! ……あ、そうか、研究所にいたんだったな」

 

「何でいきなり壊れちゃったのよ……」

 

「壊れない方がおかしい」

 

 先程までの自分が壊れていたことを認めたポケモントレーナーに、その理由を聞く。

 カイオーガ、グラードン、あいいろのたま、べにいろのたま、それらの関係性を説明した青年は、巻き物の記述に関しても十分に起こり得ることだと付け加えた。

 

「うへ〜……オールドタウンであんなに頑張ったのにまた事件〜? 少しはのんびりしたいかな〜……」

 

 それは6人に共通した気持ちだった。

 濃い話を聞かされて疲れ、待ち合いスペースにある向かい合ったソファに3対3で座る。

 ポケモントレーナーに関してはオーキド博士と真剣に話をしていた。

 

「君の目から見て、この状況はどうだね?」

 

「もう最初がおかしいですよね。そもそもその巻物がこの地方にあって良いものじゃ無いと感じるんですよ」

 

「というと?」

 

「細かいことは省きますけど、カイオーガとグラードンってのは別の地方でそれぞれが海の化身、大地の化身として崇められていたポケモンです」

 

「……なるほど、それは確かに変じゃな。その2体が引き起こした事を綴っているなら、その地方にあるのが自然じゃのお」

 

「はい、だから意味がわからなくてパニクったんですよね」

 

「前提が違うという可能性はないか?」

 

「前提ですか?」

 

「例えば、その災害は実はこの地方で起こったとか」

 

「……正直、その可能性も考えました。ただ……」

 

「ただ?」

 

「オールドタウンでの事は記憶に新しいと思いますけど、アレを引き起こしたのはまた別の地方で有名な存在でして……」

 

 流石に、本物の神様に一番近い存在とは言えなかった。

 

「銀河を顕現させた存在がいるということじゃな? しかしそれが何故、カイオーガとグラードンがこの地方の存在では無いことの証明になるんじゃ?」

 

「それは……」

 

 説明できるけど、非常に説明しづらかった。

 それを分かりやすく説明するには、シンオウ地方とホウエン地方について説明する必要がある。

 それは、ホシノに言われたことを破ることに繋がりかねなかった。

 結果として──

 

「それは……説明できません」

 

 そこに関しては説明を放棄した。

 

「……ふむ?」

 

「博士、申し訳ないけどそれを俺の口から述べるわけにはいかないんです」

 

 オーキドカズユキは何となく察した。

 この青年はある程度の確信をもって先ほどの発言をしている。

 その上で説明を放棄したのだ。

 何がしかの事情を抱えているに違いない。

 彼は記憶喪失であるというのは有名な話だ。

 ホシノという少女に、あまり知識を拡散するなと怒られたのでこれ以上は……とも言っていた。

 おそらくそれらが複合的に関係しているのだろう。

 

「……分かった、信じよう!」

 

 説明はできないけど、それは事実である。

 歴史を研究するものとして、そんな風に物事を捉えるのは不誠実だ。

 一つ一つ証拠を見つけて、真実に辿り着くのが我々の仕事であり、一足跳びに答えを見つけるなんてことは通常あり得ない。

 それでも彼は、その一足跳びを私に見せてくれた。

 あれだけの量の未知の知識を有する彼の事だ。

 私が持っていないピースを脳内で一つ一つ当てはめて、順序立ててその結論に至っているのだろう。

 だから、その発言にも信じる価値があると感じた。

 

「……ありがとうございます」

 

「次の話をしようかの? その災いが過去に起こった場所も大事じゃが、我々は今を生きるものとして、今起きている事についても考えなければならない」

 

「それもそうか」

 

「フライヤ山脈に現れたという古龍、これはグラードンやカイオーガと関係していると思うかね? 

 

「……絶対に無いです」

 

「海と日照りか?」

 

「はい、そのどちらも起きていないでしょう? まあ、この村を滅ぼしうるという意味では大差ないのかもしれないけど」

 

 チラッと、ホシノ達を見る。

 寒くて動けないよ〜、みたいな感じで勝手にブランケットを使ってた。楽しそうに話してるし、めっちゃのんびりした空気になってる。

 ポットのお湯でミルクティーとか入れてるぞ。

 アイリなんか昼なのにちょっと眠くなってきてるっぽい。ナギが膝枕して頭撫でてるからな。

 お前ら……人が真面目な話してる時に……

 

「話終わった〜? じゃあこっち来て一緒にのんびりしようよ〜」

 

 こっちとあっちの温度差えぐくない? 

 

「すみませんうちのが……」

 

「わっはっは! みんな仲が良いようでいいじゃないか!」

 

「そう言ってくださると助かりますけど」

 

「なんだかんだ言っても、研究所なんて訪れる人はあまりいないからのお……こうして賑やかなのは嬉しいんじゃよ」

 

「……確かに研究所でしたねここ」

 

 ポケモンだと当たり前みたいに出入りしていたから、そんな感じだと思ってたわ。

 

「君も遠慮せず来ていいからの?」

 

「はい」

 

 

 ──────

 

 

 話は一旦終わったけど博士は少し入り用だそうで、勝手に寛いでいいとの事だったので少しだけ間借りする事にした。

 なんか、ソファのどっちも狭そうだったから、横に椅子を置いてそこに座る。

 6人がわちゃわちゃしているのを適当に眺めようかと思っていたら、何故か全員こっちを見てる。

 なんか奈良の鹿みたいな感じでちょっと面白いなこれ。

 ……いや、怖いわ。

 何? 

 リンが口を開いた。

 

「どっちか座らないの?」

 

 いや、どっちかっつってもどっちも狭いじゃん。

 なんなら、3人掛けのソファに4人で座ったらオーバーじゃん。

 お前らぎゅうぎゅうの状態でソファに座りたいんか? 

 ちょっと暑いし暑苦しいだろ、それ。

 

「気にしないわよそんなの、ただでさえ寒いんだし」

 

 俺は気にするんだが? 

 椅子ってのはのんびり座るところであって、おしくらまんじゅうを楽しむところじゃないんだ。

 あと俺は暑い。

 ……なんか俺もミルクティー飲みたくなってきたな。

 えーと、ポットが……あそこか。

 ちょっと淹れてくるわ。

 

 ポケモン世界のミルクってミルタンクのミルクなんだよな……ミルタンク牧場で飼われてんのかな。

 それってなんかどうなんだろう、ヴィーガン問題とかにならない? 

 ポケモンって自我強いし。

 茶葉とかは普通に茶畑もあるっぽいんだけど、ドダイトスの背中にお茶植えるとかもやってるらしい。

 高級茶でなかなか出回らないけど、独特な風味がするとか。

 俺は割と味音痴だから差とか分からないけど。

 ……お茶請けとかねえのかな、好きにしていいって言われてるし、この際だからなんかお菓子とか探してみるか。

 

 戻ったら椅子がなくなっていた。

 お前の席ねーから! ってことですね、分かります。

 ただ、イジメは良くないな。

 残念ながら俺はイジメには拳で全力抵抗するタイプだ。

 全員逆さ吊りで川に沈めてきたぞ。

 俺も辛いけど仕方ない、これも教育だ。

 お前らも泣くまでお尻ぺんぺんさせてもらう。

 さあ、誰が最初に尻を出すんだ? 

 

「ちがうわよ!」

 

 ん? 何が違うんだ? 

 ナギ、言ってみろ。

 

「……その……どっちのソファに座るのかなって話になって……」

 

 ……予想の一万倍くらい可愛い理由だった。

 なんか気まずいぞ! 

 

 言い出しっぺのリンを膝の上に乗っけてくつろぐ。

 狭いからちょうどよかった。

 お前はあれだな、ナチュラルに人をいじめかねないから気をつけた方がいい。

 

「そ、そんなこと無いし……」

 

 そんなことあるから言っとるんやろがい、このメスガキが! 

 

「メッ……」

 

 お前にリンなんて名前は贅沢だね、これからはメスガキって名乗りな。

 

「信じらんない! 女の子にそんなこと言うなんて!」

 

 信じられないのはお前だ! 

 もっと人とのコミュニケーションの取り方を学べ! 

 

「そ、そーまではけいごとかつかえるし……」

 

 発言がアホの思考から発されるそれなんよ。

 ……というかお前、前回から何も学んで無いな!? 

 体調くずしてたときは、今はちゃんと、わかっ──

 

「わー! わーー!」

 

 うるっさ! 

 いきなり騒ぐな! 

 びっくりしたわ。

 

「びっくりしたのは私だよ! そーいうのって普通、2人だけのみたいな感じじゃないの!?」

 

「2人だけのってなになに〜? お兄さんも隅に置けないな〜」

 

「あ、いや……」

 

 目が笑ってないですね……

 別に大したことはないぞ、ただのコミュニケーションだ。

 なあ、リン。

 

「う、うん……そうだよ」

 

「ふーん? その割にはリンちゃんとくっついて楽しそうだけどね〜?」

 

 なんだこのジトッとした空気……この部屋湿度高くない? 博士、空調ケチってるんじゃねえか? 

 貴重な資料もあるんだから、ちゃんと湿度管理できる空調にしてくれよー。

 同じソファでレッドを挟んで座っていたユカリがトコトコ近付いてきて耳打ちする。

 

「ヤキモチを……妬いてるんだとおもいます……」

 

 お餅を!? 

 あのホシノが!? 

 何故このタイミングで!? 

 

「さっき、まちがえてお酒が入ったおかしをいくつか食べちゃって……」

 

 なんだそりゃ……そんなの現実で起こり得るのか……ゲームみたいなもんだけど。

 ホシノと目を合わせるとプイッと視線を逸らした。

 いつもと違うホシノも可愛いけど、こいつには成人してもお酒を飲ませないようにしよう。

 非常にめんどくさい事になりそうだ。

 

「うわ〜ん! ナギちゃーん! お兄さんが取られた〜……」

 

「よしよし……」

 

 ナギにだる絡みし始めた。

 もうめんどいやん……

 というかリンはなんでそんな前屈みでカチコチなの、もっとリラックスしろよ。

 あー、お茶うめ。

 

「だって……君にもたれかかる事になるじゃん」

 

 …………? 

 

 またもユカリの耳打ちが発動する。

 これもうパッシブスキルかなんかだろ。

 

「恥ずかしいんだと……思います……」

 

 旅の途中は散々おんぶしたじゃん。

 大体一緒じゃね? 

 

「全然違うよ! 前後ろが逆じゃん!」

 

 ふーん。

 

「なんでそんなどうでも良さそうなの!?」

 

 だっていつもしてるから。

 

「確かに君はそうかもしれないけど……」

 

 そんなに気になるなら、そもそも椅子を隠さなきゃ良かったのに。

 

「だってこうなるなんて予想できないじゃん!」

 

 そこは頑張れよ。

 俺なんて次の瞬間にはカイオーガが現れて海面上昇で世界が水没するところまで予想してるんだぞ。

 

「それは妄想の域だよ……」

 

 うるせえ、観念しろ! 

 

 膝を持ち上げれば、乗っかってるリンはモーメントに従って倒れてきた。

 ポスッと胸に収まったリンは耳まで真っ赤になっている。

 借りてきた猫とはこの事かな? 

 

「ううう……」

 

 どんだけ緊張してんだよ……こっちまで吊られて緊張してきた……

 なんかリンってホシノ達とタイプが違うんだよな。

 普段は一番活発なのに、やけにしおらしい時があるというか。

 

 

 ──────

 

 

 今日もやってきたわね、フェンリルガモン! 

 さあ、やっておしまい! スーパームキムキポケモントレーナー! 

 ッパァァァァァンン!!! ドグォッッ!! バキィッ!! ブルッシャァァァァ!! 

 フェンリルガモンだったモノ「」ピクピク

 

 とはならないけど、フェンリルガモンがやってくるたびに撃退しなければならないので結構めんどくさい。

 やっぱり、何でこの村に現れるのかが分からない事にはいつか殺処分しなきゃいけなくなる。

 ワシントン条約的な発想として希少なポケモンはあまり殺したくないから抑えてるけど、人間の方が大事なんで。

 

 古龍観測隊がまだ村に留まって古龍の動向を観測しているので何か知らないかを聞いてみると、専門外のことで全く分からないらしい。

 なんかは分かるだろ流石に。

 でも分かるよ、下手な事言ったら責任問題だもんね。

 せめて古龍の正体とか分からないかと聞いてみると、数百年に一度だけ現れるモンスターの名前とか残ってるわけがないとの事だった。

 ……いや、残るだろ普通。

 数百年前に猛威を振るったからその事実が残ってるんだろ? 

 あれか? 災いが多すぎて記録とか結構消えがちなのか? 

 

 次に尋ねたのは村長だ。

 フェンリルガモンそのものというより、なんか狙われるようなものがこの村に無いか聞いてみると、露骨に心拍が乱れていた。

 ビンゴかよ……

 頼む! 教えてくれさい! と頼んでも、なんのことかわからーん! と言って走っていってしまった。

 ふざけた口調だが、心底からの拒絶を感じた。

 中々うまくはいかないな……

 今後の目標は村長をなんとか懐柔することか。

 

 やはり安心安全のオーキド博士。

 フェンリルガモンが現れる場所や攻撃方法などを伝えたら、画面上でプロットして推理が始まったようだ。

 

「現れる場所そのものに、マサゴタウンの中であるという以外の関連性は無いのお」

 

「確かに、どこに偏ってるみたいな感覚は無いですね」

 

「では、村を襲うことそのものが目的という可能性はあるな」

 

「なるほど?」

 

「他には、君をまず倒してから目的を達成しようと考えているとかじゃな。もうユキノオーは相手にならないと考えているようじゃからな」

 

 裂傷に付着していたDNAとフェンリルガモンのDNAが一致したらしく、ユキノオーが戦っていたのがフェンリルガモンであるということがほぼ確定した。

 それで、ユキノオーよりは強いんだろうけど相性ってもんがある。

 俺たちを倒すなんて無理な話だ。

 というかユキノオーは今どうなってんだ。

 あいつのDNAは通常のユキノオーと違いすぎてデータが無いから、メディカルマシーンだと修復できないらしいじゃん。

 

「ジョーイくんによると、回復スプレーなどでいきなり治すのはあまり良くないから自然治癒させとるようじゃよ。無理やり山に戻ろうとしたユキノオーに、君がフェンリルガモンと戦ってる姿を見せたら、大人しく言う事を聞いたらしいの」

 

 それはアレか、やっぱヌシモンスターだから的なあれだろうか。

 元々、この一帯の秩序を守ってたとか? 

 

「そうじゃな、あのユキノオーがここら辺のヌシなのは間違いない、皆知っておるよ。そしてそれだけに、そのユキノオーが吹き飛んできたとなれば不安にもなる」

 

 あー、そういう。

 というか、回復スプレー使うのあんまり良く無いんだ……

 これからはちょっと自重しようかな。

 そういえば……

 

「……村長がフェンリルガモンの狙っているものを知ってそうな素振りをしていたじゃと?」

 

 そうなんすよ。

 明らかに心臓の拍動が乱れてたし、なんのことかわからーん! とか叫びながら走ってったんすよ。

 アレはなんか知ってますよ。

 

「そうか……じゃが、そこまで露骨だと逆に話してくれなさそうじゃのお……」

 

 俺だとダメかもしれないので、博士が当たってみてくれません? 

 

「あいわかった、ワシがやってみよう……それにしても彼は何を考えているんじゃ? 村の存亡がかかっているかもしれないというのに……」

 

 それこそ、村外の人間である俺には話せないことなんていくらでもあるでしょう。

 餅は餅屋ですよ。

 

 結局博士も村長から聞き出すことはできなかったらしいんだけど、一週間ぐらい経った日、村長が大慌てでどこかに向かうのを見かけたとアイリから聞いた。リンにモンスターレースについて教えてもらっていたけど、2人とも担ぎ上げる。

 村民達も村長の尋常じゃない様子には気付いていたようで、あっち行ったよー、なんて教えてくれる。

 まあ、行く場所は知っていたので言われずともって感じだけど、ありがとうと言っておいた。

 

 

 ──────

 

 

 以前よりもさらに破壊された祠の、掘り起こされたその残骸を漁る。

 邪魔な物を退け、土を掻き分け、そこにあるはずのものを探して──

 

「無い……無い……無い、無い、無い! ああ、まずい……なんて事だ、このままでは……!」

 

「何をお探しで?」

 

 ピタリと手が止まる。

 正直、ここに急いで来た時点で彼も来るだろう事は予想出来ていた。

 ただ、そんな事は、腹の奥底まで冷えるような恐怖が広がっていくせいで気にならなかった。

 

「……ポケモントレーナー君」

 

「そこに、あったんですね? どちらかのたまが」

 

「……!」

 

 振り向くと、彼も青ざめた顔をしていた。

 何故か肩に、リンちゃんと彼の仲間の1人が担がれている。

 

「知っていたのか!?」

 

「……いや、知らなかったです……ただ、あんな巻物がある以上、どこかにはあるのではないかと。それがまさか、壊された祠に放置されたままだったとは……」

 

「……ここにあったのは、青い玉だ。一族が連綿と受け継いで来た」

 

 顔を顰めたポケモントレーナーは、苦しげに呟く。

 

「あいいろのたま……カイオーガか……」

 

「カイオーガ……それが、伝承の怪物の名前なんだな……君は、信じているんだね? 津波を引き起こすほどのモンスターだという話を」

 

「ええ、まあ……」

 

「……私の先祖の1人は、伝承を受け継いでいながら愚かにも青い玉を使おうとして破滅した。教訓として語り継がれているのだよ、あの玉の恐ろしさが。当時の村の者には不運な事故とだけ聞かされていただろうがね」

 

「盗んだのは誰ですか?」

 

「おそらくは……最近現れるあの狼だろう」

 

「……2人とも! 覚悟はいいな!」

 

 こうしちゃいられねえ! 

 出動だ! 

 

 

 ──────

 

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

 ユキノオーは、その巨体をムクリと起き上がらせる。ジョーイの制止をガン無視してメディカルセンターの外に出た。

 人が、そこにいた。

 

「まちなさい! ……あれ!? あなたは!」

 

「待ってたぜ、お前がいなきゃ始まらねえからな」

 

 ユキノオーから特に何かを言う事は無い。

 言葉を持たないのもあるが、あの不埒者を抑えていたという事で、わざわざここに来た目的は見えていた。

 

「手伝えよ、本来お前の仕事なんだからな」

 

 そういうことだ。

 

 獣、フェンリルガモンがこの地を訪れたのは偶然だったが、この村を狙ったの偶然ではなかった。

 生息している雪山──人類はフライヤ山脈と呼ぶ──には、自身に匹敵するモンスターが数匹いた。それぞれがそれぞれのテリトリーを支配し、日夜鎬を削る事で一帯の均衡は保たれていた。

 しかし突然にそれは崩された。

 数匹を遥かに凌駕する怪物が、フェンリルガモンの支配していた地域内に眠っていたソイツが、目を覚ましたのだ。

 フェンリルガモンはフライヤ山脈を追われた。

 しかし、それで諦めるような殊勝な生物でも無かった。

 なんとかして再びあの地で頂点に返り咲くために、強さを求めた。あの怪物を屠るために。

 別のモンスターの支配するテリトリーに入ったことを悟り、まずはそこを占領しようとした。

 中々骨のある奴がトップにいたが、自信に匹敵するほどではなかった。

 追いやり、テリトリーの中を探ると、人里に凄まじい気配を感じることに気付く。

 直感的に察した。

 これだ。

 これを手に入れれば、あの怪物を上回ることができる。

 何度も厄介な奴に邪魔されはしたが、最終的に手に入れることができた。

 後は、これが馴染めば──

 

「ブラストバーン」

 

 

 ──────

 

 

 うわああああああああ!! 

 既に癒着してるっぽいいいいいい!! 

 もうこうなったら引き剥がすのは多分出来ないし、ぶっ倒して意識飛ばすしか無い! 

 開幕はリザードンのブラストバーン。

 まあ、少し煤けてる程度でほとんどダメージ喰らってないんだけど。

 そもそもほのおタイプっぽいし、あいいろのたまを吸収してどうなってるかわからん! 

 もおおおおお! 何でポケモンがあいいろのたまなんか狙ってんだよ! 

 あれか!? 犬っぽいからやっぱ球遊びとか好きなのか!? 

 

 ホシノ、タイプを見極めたいから色んなシェルで攻撃してくれ! 

 

「りょ〜かい!」

 

 ホシノの手品染みた手捌きにより、ショットガンからは次々と各タイプのシェルが撃ち出される。

 結果として、ほのお、みず、でんき、ゴーストの複合タイプっぽいことが分かった。

 やめろそういうめんどくさいやつ。

 そもそも何で俺の攻撃効いたんだよ……まあ、その疑問は後回しで良いか。

 とりあえず、うちのメンツにノーマルタイプの攻撃メインのやつはいないし滅多打ちにしろ! 

 

 アレから散々攻撃したけど……かたい! こいつやっぱかたいよ! 

 あんなん立ってられへんやん普通! 

 なんかフリーザーも現れて、あいつにキレてんのか冷凍ビームを撃ちまくってるのに堪えねえ。

 たまはどんどん融合していくし、このままだと本当にどうなるかわからん! 

 というか、あいつの全身にうっすら紋様が浮かんでるように見えるのは気のせいか? 

 

「気のせいじゃないわよ! フワンテ、シャドーボール!」

 

 みんなにも見えているらしい。

 人間があいいろのたまと融合したら正気を失うんだろうけど……

 

「ねえ、どうするの……?」

 

 何をしたら良いかわからないのだろう。

 リンはメロエッタを抱っこして、ユカリと一緒に俺の後ろに控えている。

 ナギは、ずっとユカリと俺にくっついてきていたフワンテに指示を出していた。

 やっぱ元ジムリーダーなだけあって指示能力も一線級だな。アレでジムリーダー歴一年とかだったらしいし才能がイカれてるわ。

 

 どうするっていうか、あの玉をどうしようかってのを今、ちょうど悩んでるところなんだよね。

 

「あの脈打ってる……青い玉が……そうなんですか……?」

 

 そうだ、アレが世界を滅ぼす力を持った玉だ。

 アレを使えばカイオーガを呼び覚まして、海面上昇で文明を丸ごとリセットできるのさ。

 

「じゃあアレを壊せば良いんじゃ無いの?」

 

 お前、なんて恐ろしいことを考えるんだ……

 良いか? アレは制御装置であり、力を内包した玉でもある。

 そんな物をぶっ壊してみろ! 

 爆発するかもしれないし、カイオーガが暴走し続けるかもしれないんだぞ! 

 

「じゃあ、あいつがそのたまを吸収したらどうなっちゃうの?」

 

 まったくわかりません! 

 

「ええ!? なにか策とか無いの!?」

 

 ありません! 

 こうしている瞬間にもフェンリルガモンの体にあいいろのたまが取り込まれていっているが、俺にはほとんど対応策が思いつかない! 

 ぶっちゃけ殺すのが一番楽だと思う。

 

「他に一個ぐらい無いの!?」

 

 ……無い事は無い。

 

「どんなの? ──うわぁ!?」

 

 あぶなっ! 2人とも、マジで修羅場だからあんまり顔出すんじゃないぞ! 

 

「え……今、炎当たったよね?」

 

 細かい事は気にすんな!

 ホシノ! でかいのが来るから背後に抜けて後頭部を攻撃しろ! 

 

「おっけ!」

 

 極太レーザーがホシノのいた空間を抜けていき、その方向にあった木々や地面を丸ごとくり抜いていった。

 メキメキと音を立てながら倒れていく木を見て、ユカリが声を漏らす。

 

「ヒッ……!」

 

 あいつの体力は今6割ぐらいか……いかんせんタイプが多いからな。

 ……俺、参戦!! 

 

 

 ──────

 

 

 服をリュックから取り出して身に付け、雪に寝っ転がって大声で叫ぶ。

 

「くぅぅぅぅ! 疲れたぁぁぁぁぁ!!!」

 

 実際、めちゃくちゃ疲れた。

 レッド達も座り込んでいる。

 フェンリルガモンも寝ていた。

 ホシノは腹の上で両肘をついてこちらを見ている。

 

「あははは! お兄さん、めっちゃレーザーに撃たれてたもんね!」

 

「マジで死ぬかと思ったぞ、死ななくても痛いもんは痛いんだからな! ユキノオーが支えてくれなかったら耐え切れずに吹っ飛んでたわ! というか普通に俺のこと盾として扱いはじめやがったからなあいつ!」

 

「まあまあ、お兄さんが防いでくれなかったらみんな死んでたんだからさ〜」

 

「……今回もマジで、本当に危なかった!」

 

 結局、あいいろのたまが完全に融合するまで粘ったフェンリルガモンは、あり得ない事にゲンシカイキを引き起こした。

 すぐさま潮位の変化が観測され、大雨が全世界で降り始めた。

 ゲンシフェンリルガモンは、手始めに俺らを抹殺しようと、火力全開で極太レーザーを俺たちに向けて撃った。

 リザードンやヒーホー君が展開したまもるを貫通するほどの威力のソレを、何故か俺を盾にして防ぐユキノオー。

 迫るレーザーを前にしたあの時は流石に、お前はバカか? と心の中の出◯哲郎が叫んでいた。

 

 まあ死ななかったけど。

 くっそ痛かったけど! 

 あとパンツ以外は燃え尽きた。

 何でほぼ全裸であいつと戦わなきゃいけなかったん? 

 女子がキャーキャー言ってたのがプラチナむかついたわ。お前ら、今とんでもない状況なんだが? って思ってたわ。もっと俺の体調とか気にしろ。

 というか、ほのおわざ完全に無効化してるくせに自分は撃てるの反則では? 

 

 変身後特有の体力全回復とかいうクソ仕様は無かったので、隙を見て怒りのレイガンで大ダメージを与えてやった。俺のサイコエネルギーはあの街に依存していないのでどこでも扱えるのだ。なるべく使わないようにしているけど。

 それで大ダメージを与えたのは良かったんだけど、最悪なことに今度は玉が暴走し始めた。

 あいいろのたまがやべえオーラを放ち始めて、海震が観測された事を知る。

 津波が起こって沿岸部を侵食し始め、ついには各地のチャンピオンが出動したらしかった。

 フェンリルガモンの眼は赤く染まり、本来扱えないであろうハイドロポンプやしおふきといった強力なわざを連発し始めた。しかも俺たちに向けるならともかく、意味も無く撒き散らしていた。

 いよいよ終わりかな? と思い、最後の手段として殺す覚悟を決めた。

 

「待って!」

 

『……ラ〜〜〜〜ララ〜〜〜』

 

 リンの制止の後、唄声が聞こえた。

 あかいたまとあおいたまのメロディだった。

 メロエッタが奏でる音が広がっていく。

 俺が敢えて言わなかった対応策だった。

 確証が無かったからな。

 ただ、木々に頭を打ち付け、技を無意味に放出して苦しんでいたフェンリルガモンは、目を瞑ってジッとしていた。

 

 俺は流石に納得せざるを得なかった。リンとメロエッタ、この2人がマサゴタウンにいたのもまた、運命だったのだろう。

 ユキノオー、フェンリルガモン、あいいろのたま、鎮めの唄、メロエッタ。

 これが正規のルートという事に違いない。

 フェンリルガモンの肉体に刻まれていた紋様が薄くなっていき、雨が弱まった。

 融合していたあいいろのたまがポロッとフェンリルガモンの身体から落ち、メロエッタの手に収まった。

 フェンリルガモンは、崩れ落ちるように眠りについた。

 ユキノオーは思うところでもあったのか、その姿をジッと見つめていた。

 

 

 ──────

 

 

 ユキノオー達は放置して下山した。

 普通に仲間が凍死しそうだったからな。

 博士と村長が出迎えてくれた。

 村長の頭にはでかいタンコブができていた。

 

 2人への報告も兼ねて、研究所でささやかなパーティーを開いた。

 大々的には村内に広められないからな。

 

「ゲンシカイキ……また知らない単語が出てきたのお……」

 

「まあ理屈はどうでも良いけど、強力なポケモンにあいいろのたまが奪られるとどうなるか分かってよかったです」

 

 人間が使おうとすると即座に暴走するからな。準備期間が増えると考えれば悪く無い。

 

「ゲンシカイキが何なのかも教えてくれないんじゃろお……?」

 

 無理っすね、ホシノに睨まれてるんで。

 

「ケチ!」

 

 ジジイがそんな事言ってもキモイだけですよ。

 ねえ、村長。

 ……村長? 

 

「……ポケモントレーナーくん、すまなかった。関係無い君達を巻き込んでしまって」

 

 真面目な顔で村長に謝られた。

 

「本来なら私がアレを防がなければいけなかったのだろうに、余計な負担をかけてしまった」

 

 いや、本当ですよ! 何で最初に聞いた時に教えてくれなかったんですか!? 

 

「……面目無い」

 

 まあ、最終的にはリンとメロエッタがなんとかしれくれたんで、感謝ならアイツらにしてあげてください。

 俺は今回、綺麗な流れに乗っかっただけなんで、ちゃんと唄を覚えてたあの子達がMVPですね。

 

 

 ──────

 

 

「ホシノ、おつかれ」

 

「おつかれ〜、いや〜おじさんもクタクタだよ〜……」

 

 ジュースをちびちび飲んでいるホシノを労う。

 隣に座ると、へにゃりと顔を崩していた。

 

「今回もまた大事件だったな」

 

「……本当、懲りないよね〜」

 

「まあな……っておーい! 俺が自分から呼び寄せてるみたいに言うな! ……このやり取りも毎度のことになってきたな」

 

 本当に失礼だからやめていただきたい。

 

「お兄さんと出会ってから飽きがこないよ〜」

 

「いやいや、俺じゃないって絶対」

 

「うへー……またレッドちゃんのせいにして……」

 

「いや、せいとかじゃなくて絶対そうだって」

 

「レッドちゃん傷付くよ? 面と向かってそんな事言われたら」

 

「ええ……」

 

 レッドのピカチュウ探しが全ての始まりなんですけど……

 

「ほら、こっち見てるからあんまり迂闊な事言っちゃダメだからね?」

 

「お、おう……ホシノ的にはあの玉みたいなパワーアップアイテムとかどう思う?」

 

「えー? おじさんは使う事は無いかなって思うけど……なんで?」

 

「いや、似たような事例を他にも知ってるからさ、そのうちまたそういうのに出会うかもしれないなって」

 

「そういうの多くない……?」

 

「世界が広いのが悪い、ヨウ達が使ってたアレもたぶんそうだしな」

 

「なになになんの話ー?」

 

 リンが後ろからのしかかってきた。

 

「世界が広いって話をしてた」

 

「……そっか」

 

 楽しそうに話に混ざってきたのに、何故かちょっと神妙な顔に切り替わっていた。

 ホシノが立ち上がると、レッド達の方を指差す。

 リザードンやアイリと研究所の機械をいじって遊んでいた。

 

「おじさんはちょっとあっち行ってるね〜」

 

 代わりにリンが、ホシノのいた場所に座る。

 

「おう……それで、そっかってなんだよ」

 

「やっぱり旅に出るんだね」

 

「ん? ──そりゃあ、出るよ、出ますよ、出ますとも!」

 

「あはは…………すごい、楽しかったな」

 

「ああ! 俺もすげえ楽しかったぜ! なんだかんだ三ヶ月ぐらい一緒にいたんじゃねえか?」

 

「うん、お姉ちゃんが助かってからずっとだもんね」

 

 リンもだいぶ馴染んできたところだっただけに惜しいな。

 

「出発するまでは少しだけ日にちがあるし、なんかあれば言えよ?」

 

「お節介焼き過ぎない?」

 

「なんだ、今更気付いたのか? 俺は年下にはお節介兄ちゃんなんだ」

 

「あんまりそういうことしてると刺されるよ?」

 

「女将さんにもソレ言われたな……その時も言ったけど、もう刺されてるんだよな」

 

「え?」

 

「ほら、この脇腹の傷」

 

「な、なにこれ……大丈夫なの?」

 

 白くなったそこをリンが恐る恐る触る。ティアーズカンパニーに乗り込んだ時のやつだ。

 

「ストライクにブッ刺された。傷はとっくに治ってるから問題無いぞ」

 

「何で刺されたの?」

 

「大会社に乗り込んでバトルしてきた」

 

「……何言ってんの?」

 

 いや、ソレ以外に説明のしようがなく無い? 

 

「その傷……」

 

 リンと逆側にナギがスッと静かに座った。

 ナギって上品だよな。

 

「トレ君が大会社に乗り込んで戦ってきたとか言ってるんだけど」

 

「そうね……」

 

 ナギも手を伸ばして脇腹の傷に触れる。

 ご利益とかある感じですか? 

 

 

 ──────

 

 

「へー、そういう経緯で一緒に旅に出たんだ」

 

「断られたらどうしようかと思ってたわ」

 

「そうなの?」

 

「ええ、内心ドキドキだったもの」

 

 俺を挟んで会話するのやめない? 

 なんか尻がムズムズするよ、自分のこと話されるの。

 俺が端っこ行くから、思う存分会話して? 

 

「空気読みなさいよ、ばか」

 

 腕を掴まれた。

 突然のことに顔を見ようとしたらそっぽを向いている。

 こ、これはツンデレの呼吸!? 

 バカな、あれは二次元の中だけでしか存在しないのでは無かったのか!? 

 ……ここはゲームの世界だった! 

 なんてこったい! 俺としたことがそんなことを忘れるなんてYO! 

 

「それにしても……どこの街でもやってる事変わらないんだね」

 

 人をワンパターンなやつみたいに言うのやめなー? 傷つくぞー? 

 

「これからもどんどん仲間を増やしてくつもり?」

 

 え? 

 

「え? じゃなくて」

 

 俺、自分から仲間を増やしたことって無いんだよね、アイリ以外で。

 ……いでで! こら、ナギ! 爪を立てるな! 

 

「…………」

 

 痕付いちゃったよ……

 まあそういうわけだから、俺が自発的に誰かを誘うって無いんじゃないかな、多分。

 現状でも男1に女4でしょ? ご存知の通りハーレムとか言われてるからな……

 これ以上偏るのは流石に。

 

「仲間になるのが女の子なのは決まってるんだ……」

 

 そりゃそうだろ、こいつらに変な男近寄らせるわけないじゃん。

 あと、ここまで全員女で来て、いきなり男が仲間になる流れってよくわからんだろ。

 

「変な男筆頭がなんか言ってる」

 

 なんだとぉ!? 

 余計なことを言う口はここか! 

 

「やめへよ〜……」

 

 

 ──────

 

 

「うわああああ!! 行っちゃやじゃあああああああ!!」

 

「博士、邪魔しちゃダメですよ……」

 

「いやじゃいやじゃいやじゃあああああ!!! ポケモントレーナー君はワシとこの村で研究するのおおおお!!」

 

「もう……ほら、あなたも博士止めるの手伝って!」

 

「……やだあああああ!! ポケモントレーナー君はユカリ達と結婚してこの村で子供に恵まれて俺を看取るのおおおおお!!」

 

「あなた!?」

 

「うへ〜、まさか博士とリンちゃん達のお父さんがあんなキャラだったなんてね〜」

 

「うちの娘が一番可愛いんだからお嫁には出さないんだあああああ!! 婿を取るんだあああああああ!!」

 

「ねえ! なんで私たちがトレ君と結婚するのが確定みたいになってるの!」

 

「娘のことで分からない事なんかあるわけないだろ良い加減にしろ!」

 

「ユカリさん達も大変ね……」

 

「ポケモントレーナー君、ささやかだが路銀だ。受け取ってくれ」

 

「村長さん、こっちで受け取ります。この人はお金のことはちょっと……」

 

「あ、ああ……仲間に恵まれているんだね」

 

「この人がやってきたことの結果ですから」

 

「ソレでも、良い子達ばかりだね」

 

 

 ──────

 

 

「やっぱり……言いたいこと……言えそうに無いです……」

 

「お姉ちゃん……」

 

「先に言っておいて……良かったです……」

 

「うん……うん……そうだね……」

 

 話したいことが多過ぎるから逆に笑いでも取ろうと考えていたんだけど、涙をいっぱいに溜める2人を前にして一気にそんな気分じゃなくなった。

 2人を抱き締める。

 

「お前らは俺の仲間だ」

 

「……」

 

「ユカリ、いつだってお前が旅に加わってくれるなら大歓迎だ。というか、次に会ったら無理やり連れて行くから覚悟しとけよ?」

 

「……はい!」

 

「リン、お前はちょっとそそっかしいからもう少し落ち着け……モンスターレース、教えてくれるの楽しみにしてるからな?」

 

「なんで私だけ説教がむぐっ……うん……」

 

「さて……言いたい事なんて山ほどあってキリがないからな……お父さん!」

 

「!!!」

 

「次会った時にこの子達が結婚してなかったらもらっていきますからね!」

 

「うん!!! わかった!!!」

 

「え……!?」

 

「ト、トレ君!?」

 

「それじゃあ2人とも! 良い旅をありがとう! …………うぎゃあああああああああ!!!」

 

「何勝手に約束してるのよ!」

 

「お兄さ〜ん? 流石に意味分かってるんだろうね〜?」

 

「師匠! 脛を出してください!」

 

「リザードン、きりさく」

 

「な、なにが!? なんの話!? ……おわあああああああ!!!」

 

 

 ──────

 

 

 大騒ぎしながらポケモントレーナー達が出発してすぐの事だった。

 ジャリジャリと地面を踏み締める音が鳴る。

 村長が足音に気付き、振り向いた時にはすぐそこにいた。

 驚く村長に、報酬を要求する。

 

「ハチミツください」

 

「にゃ!」

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