さっくりと死ぬところだったぞ!
「紛らわしいのよ」
そもそも何で俺があいつらを娶るんだよ! どういう勘違いだよ!
いつまでも相手を見つけなかったら旅に連れてくぞって意味に決まってんだろうが!
「そんな流れどこにも無かったわよ」
……じゃあ次にマサゴタウンに行った時にあいつらが結婚してなかったら俺は結婚しなきゃいけないの!?
「勘違いなんだから正せば良いじゃない」
……それもそうだ。
じゃあ頼むわ。
ナギ、連絡先とか交換してんだろ?
「いやよ……なんで私がそんな事で連絡しなきゃいけないの」
なんでって……じゃあ俺が次にリン達に会った時にいきなり結婚する事になっても良いってか!? ……あっ、なんでもないです。
目ぇ怖っ……。
「紛らわしい事したんだから自分で責任くらい持ちなさいよね、お金の管理もできないんだから」
おい! チクチク言葉はやめろ!
なんでそんなに当たり強いんだよ!
前はもうちょっと優しかっただろ!
「だってあなた……優しくしてたらいつまで経っても分かってくれないじゃない」
異議あり!
「却下」
「そりゃあ却下されるよね〜」
…………ぐぅ!
「ぐぅの音は出るのね」
──────
次の街はどんな所かなー、なんて思いに耽りながら楽しく雪道を移動するわけだが、4人はそういうわけでも無いようだ。
ユカリちゃんが恋しいよ〜とか、5人だと静かに感じるわね、とか少なからず寂しさを感じているらしい。
俺もあの2人が抜けてしまって寂しいけど、5人で静かに感じるという事は無いので、ナギの感覚がおかしくなっちゃってるんだと思う。
良いか? 5人は、静かじゃ、無い!
今もぺちゃくちゃ喋ってるし、静寂とは無縁だ。
流石にレッドは分かるよな。
……静かに感じる?
あれ、俺がおかしいのかな。
なんでレッドの言うことは素直に聞くのかって……だってレッドはずっと一人旅だったんだし。そのレッドが静かだって感じるならソレは静かなんだよ。
……ホシノ? いや、ホシノはポケモンだから基準外かなって。
いてっ。
葉っぱがない。
バッフロンはいるけど葉っぱがない。
もう冬だもん、そりゃあ葉っぱもないよな。
お肉は好きだけど味気ないよお……
ホシノ、冬でも取れる葉っぱ知らない?
そんなことより寒い?
そんな事とはなんだ! 俺にとっては死活問題だぞ!
あと、バランスよく食べないとおおきくなれないぞ!
……古い迷信?
ふ、古く無いわい!
今日の昼飯はバッフロンの焼肉と霜降りマツタケのスープだ。
無駄に高級感あるし美味いんだけど野菜がなあ……
お、ヒーホー君、なんか見つけてきたのか?
……ええ!? キャベツの群生地帯だってえ!?
おい! 飯食ってる場合じゃねえ!
ちょっと行ってくるわ!
キャベツが走ってた。
小動物が中に隠れてて、とかじゃなくて普通に走ってた。
見てるだけで頭おかしくなりそうだった。
でも美味しい。
しこたま収穫して持って帰ってきた。
やっぱ肉と葉っぱは一対一なんすよねえ……
ほら、アイリも食べるか?
冬だから食材が腐らないし持ち運びには便利だな。夏はヒーホー君に凍らせてもらわなきゃいけなかったので、そこの手間は大分楽になった。
まあソレ以外は夏の方が楽なんだけど。
何がダメって歩き辛いよね。
慣れてそうなレッドやホシノはやはり負担も少なく歩けているようだけど、アイリとナギは消耗がけっこうキツめだ。
荷物はほとんど俺が持ってるから、そこまで一気に体力を削られてるって感じじゃ無い。
知識はあるんだろうけど、やっぱこういうのって実地でやらないと体の動かし方とか分からないよな。
ナギだって経験豊富に見えても、実際は巫女になる為にずっとコトリタウンにいたから、アイリの方が旅をしている期間が長い。まあ2、3ヶ月程度の差でしか無いけど。
ホシノ達もそこは分かっているのか、ちょいちょい気にかけたりはしている。
街の中とか休憩中だとナギはこう……落ち着いた女性の雰囲気を醸し出すんだけど、一回歩き出したら雪に隠れた木の根で転びそうになったりとか意外とおっちょこちょいだ。
でもあいつ、旅した事も無かったのにいきなりジムリーダーやらされて一年であの強さはえぐいよな。ファンだってめちゃくちゃ多かったし。
民度ゴミだったけど。
ナギちゃんファンクラブとは今でも連絡をとってるのかと聞いてみるとあんまり取ってないとのこと。
勿体無いなあ……
「だってみんな、いつ子供ができるのかとか聞いてくるからちょっとね……」
セクハラえぐくて草ァ!
そりゃあ連絡取らなくて正解だわ。
というか子供とか気が早すぎない?
まずは相手見つけるところからだろ普通に。
ファンクラブのやつらみんな頭真っピンクだな。
「……ばかね」
は? 天才だが?
「……あなたは……子供が出来たら、何人くらい欲しいの?」
最低3人。
「そ、即答……どうして?」
どうしてって、パッと思いついたのが3人だったからだけど。
「ふぅん……」
お前は?
何人欲しいんだ?
「……さ、3人」
一緒じゃん。
こっちだと3人って普通なのか?
「そ、そうかも?」
なんで疑問系なんだよ。
……まあ巫女だったからあんまそういうのわからないのか。
「そう! そういうこと!」
なんかテンションおかしくね? 大丈夫そ?
その後、他の全員に聞いてみたら同じく3人欲しいとの答えが返ってきたのでやはりソレが普通なようだ。
俺もだいぶこの世界の人間らしくなってきたかなあ?
──────
半月ほど進んだら……スライムもりもり!
なんだここはぁ!
雪が降りしきる中でも凍らない温泉を見つけた俺たちはそこを野営地に決めた。
「スラスラ」
「スラ!」
「スラァ……」
テントを張って焚き火をしていたら、スライムとかいうポケモン共が周りに集まってきた。
なんか普通に会話っぽい事してるし、知性も感じる。
グニュグニュしてて、温度は25度くらいだ、多分。
なんだお前ら、食っちまうぞ。
「スラ!」
「スラスラ!」
なんだこら! みたいな顔をしている。
鬱陶しいので温泉に放り投げといた。
温泉に手をつけてみれば、ちょうどいいぐらいの熱さだった。
リザードンに温めて作ってもらう風呂が悪いとは言わねえが、ちとワイルドすぎるからな。
こういう秘湯もたまには……とても良い!
日本人としての魂が震えてやがるぜ!
今日はここらを野営地にすっか!
ちょっとまだ時間的には早いけど、ホシノ達がソワソワしてるからな!
ホシノ達が風呂に入っている間、レッドとお馬さんごっこをして遊ぶ。
当然俺が馬役だ。
ひひーん!
俺は馬だ!
「あっち」
リザードンとヒーホー君の死んだような目に晒されながら楽しんでいると、温泉を上がったホシノ達が戻ってきた。
ゲンナリしたような目を向けながらテントに入っていく。
何がそんなにダメなんだ?
楽しいじゃん、お馬さんごっこ。
……動きが早すぎて気持ち悪いらしい。
「あ゛ぁ゛〜やっぱこれなんすよねえ……」
「おじさんくさい」
「レッドはこういう秘境に入ったことはあったか?」
「無い」
「苔とかあるからな。ほら、滑らないように気をつけて」
「うん」
俺の番になったので意気揚々と温泉に身体を沈めたら、レッドがタオルを撒いて現れた。
転ばないように手を取り、ゆっくりと片足ずつお湯に入れさせていく。
「温度は大丈夫か?」
「大丈夫」
レッドはもうね、諦めた。
この子の意志力半端ないんだもん……
ついでに隠密力も半端ない。
お風呂の時だけ全然察知できねえんだけど。
は〜今日も疲れた〜お風呂入るか〜リザードン頼むわ〜→レッド「!!」シュバババ→お湯気持ちえ〜→……何でレッドがここに!?
初回以降これが無限に繰り返されるから俺の方が折れた。
まあ可愛いからなんでも良いよね。
ホシノ達に誤魔化すのも諦めた、というかやめた。
だって、誤魔化してたらいかがわしい事してたって思われるじゃん。
一緒にお風呂入ってる時点でいやらしいです! とか言われたけど。
俺よりもレッドを説得してくれないと意味無いんじゃね? と言ったら、あまりの正論っぷりに全員ショックを受けたようだった。
敗北を知りたい。
あと、レッドは3人を全員撃破してた。
『一緒にお風呂に入っちゃダメです!』
『なんで?』
『エッチだからです!』
『エッチだとなんでダメなの?』
『そ、それは……あぅぅ……ナギさぁん……』
『えっ……あ、あの……ホシノさん……』
『えぇ!? え、え……うへへ……その、間違いが……』
『間違いって?』
『……うぅ……お、お兄さん、おじさんにはこんなの無理だよ〜……』
『……分かった、良いかレッド、間違いってのはセッぐわぁぁぁぁ!!!』
『変態! 変態! 変態!』
なんか余計な記憶も入り混じったけど、とにかく3人はレッドに負けたので文句を言うことができなくなったらしい。
俺はレッドと一緒にお風呂入るの、嫌じゃ無いからな。
タイーホされないなら特に気にはしない。
ただ、最近は俺もタオル巻いて風呂入ってるわ。
レッドが恥ずかしがるんだもん。
自分から入ってきといてなんなん……
温泉だからシャンプーは使えないけど、レッドの後ろに座って髪を漉く。
だいぶ髪が伸びたせいで、もう纏めても帽子には収まりきらない。
「切らないのか」
「……長いの、いや?」
「好きだぞ」
「じゃあ、褒めて?」
振り向き美少女が炸裂して俺の心臓が爆散した。
まあ爆散は嘘だけど、あまりに可愛すぎて言葉が出なかった。
幼さの残る細い肩とか、耳にかかる髪とか、温泉ゆえのちょっと潤んだ目とか、全てが完璧すぎる。
こ、これは……スチル獲得イベント!?
「お兄さん?」
おっと、放っておくのは失礼だった。
そうだな、レッドの髪はまず艶が良い。
こうやって翳すだけで、月光を反射してキラキラと輝く。松明の赤い光にかざせばその色をそのまま鏡みたいに返すぐらい手入れがきちんとしてて、日頃の努力が分かるよ。
「うん」
それと、いつも髪を後ろで纏めてるよな。
前は全部帽子に入れてたからボーイッシュな印象もあったけど、最近は垂れてるから、ふとした時に揺れる髪に目が取られるようになってきた。
男の子達もすれ違う時見てるぞ。
「ふーん」
あと……レッドは黒髪だから、俺と同じだよな。褒めポイントかは分からないけど。
「そっか」
…………!?
お風呂だと抱き締めさせてくれないレッドがもたれかかってきた!
これはチャンス!
動物を抱きしめる時みたいに、ゆっくりと両腕をレッドの身体に回していく。いきなりやると逃げられちゃうからな。
はい、捕まえた〜。
サルゲッチュやってた俺に捕まえられない奴とかいないから。
回した手にレッドが手を重ねてきた。
……なんだこの肌!?
あまりにもスベスベすぎる。
人間辞めてるだろこれ。
「子供」
うん?
「いつ作るの?」
……少なくとも、グズマとピカチュウ見つけてからだよな〜。
相手を探すのがって話だけど。
いや待て、就職しないとそもそも相手を見つけるのも無理なのでは?
……ここにきてユカリとリンのアレが効いてくるのか!?
レッドが俺の手をいじっている。
手の甲を触ったり、手を持ってじーっと見たり。
「おっきい」
普通ぐらいだよ。
レッドが小さいだけじゃね?
手のひらと手のひらを合わせてしあわせ〜、
じゃなくてサイズを比べている。
レッドの孤児院には大人はいたんだっけ?
「おばあさんが1人いた」
ヒガン君のとこと似たような感じなのかな……
もしそうなら俺は大掃除をしなきゃならんな。
「ねえ」
ん?
「親って……どんな感じなの?」
親か……俺も親になった事があるわけじゃ無いから想像でしかないけど……
子供の為ならなんでもして、どんな時でも味方でいて、それで、世界で一番その子のことを愛している。
そういう存在なんじゃないかな?
まあ、理想論だろうけど。
色々世知辛い事もあるし、時には厳しさも必要だしな。
「だから、ユカリ達は泣いてたの?」
……そうだな。
ユカリのお父さん達は、ユカリを間違いなく愛していた。だから、あの光景を見る事ができてよかったと思ってるよ。
「じゃあ、私のお父さん達は……」
「…………」
俺のちっぽけな脳味噌では、ソレに対する上手い返答が思い付かなかった。
ただ、先ほどよりも強くレッドを抱きしめる。
「……大丈夫だよ」
意外にも、レッドの声からは暗さを感じ取れなかった。本当に大丈夫なのだろうか。
「お兄さんやみんながいてくれるから」
「…………」
「味方でいてくれるでしょ?」
レッドの顔を覗き込むと、温泉を楽しんでいるのだろうか、目を瞑って微笑んでいた。
それはとても重い信頼だった。
ただ、心地よい重さだと、そう感じた。
「──いつだってな」
──────
温泉に言い争う男女の声が響く。
心配になったホシノが意を決して見に行くと、何かを掴んだ2人がいた。
膂力に大きな差がある為か、あまり強くは引っ張らないようにしている青年は、少女からソレを引き離すのに苦労しているようだ。
「なんでいきなりコレに興味湧いたんだよ!」
「なんとなく」
「ダメだから! 絶対ダメだから!」
「いつだって……味方なんじゃないの……?」
「ソレとこれとは話が別だから! むしろ味方だからこそ止めてるだけだから!」
「でも、好きなもの食べていいっていつもは言ってるよ」
「食べ物なら食って良いよ! コレ食い物じゃないからね!? 良い加減離せって!」
「美味しくなかったらやめるよ」
「……スライムは食べ物じゃないから!」
「うへ……なにしてるの?」
「──来たか! おいホシノ! この食いしん坊を止めるの手伝ってくれ!」
「う、うん……でも濡れちゃうんだけど……」
「脱げ!」
「はあ!? ……頭きた!」
「……ちょっ……雪を投げるな! あっ、こらレッド! スライムに噛みつこうとするな!」
「んぐぐぐぐ……」
「……だ、だれかー! 男の人呼んでー!」
「あむっ」
「スラァァァァァ!!?」
「ああーー!?」
「もぐもぐ……まずっ」
「スラ……」
ペッ、と吐き出された青いゼリーを悲しげに見つめるスライム。
急いで温泉でうがいさせて、テントの中に担ぎ込んで口を開けさせる。ライトで照らして、中を確かめた。
だ、大丈夫か!? 口の中ヒリヒリしないか!?
スライムとかいう、何の物質で出来ているのか分かったものではない生命体を口に入れるなんて、この娘は何を考えているんだ。
というか、他のポケモンで考えるなら生肉を食べたと同義だ。
全くもって度し難い!
心なしか口の中が青くなっているような気がするが、本人的にはヒリヒリとかはないらしい。
……レッド!
「…………っ」
こんなことやっちゃダメだぞ! お前生肉食えって言われて食えんのか! ……生で川魚食ってたなそういや。
「……んふ」
なんで嬉しそうにしてんだ! 反省しなさい! というかスライムが食えるかどうかなんてソーマに情報あるだろ! ちゃんと調べろよ!
「お兄さんの真似してみた」
ユーチューバーみたいな事すんな、俺はメガネ使えないだけって知ってるでしょうが! 文明の利器を使える奴は遠慮無く使い倒せば良いんだよ。あと俺はそんな無謀なことはしてない。
「いや〜……スライム食べるなんて、お兄さんに比べたら全然マトモだよ〜?」
俺が世界で一番マトモだからソレはない。
……風邪引かないようにちゃんと服着な?
──────
レッドがゴソゴソと服を着出したので一旦テントの外に出ると、ホシノが内緒話をしようと言うので顔を突き合わせて話し始めた。
「ねぇ……やっぱり一緒にお風呂入るのやめなって……」
え? 今更なの? お前らレッドに完全に論破されてたじゃん。
「……レッドちゃんがなんであんな事したか分かってる?」
え? ……す、スライムが食べたいから……
「あのさ……お兄さんじゃないんだからそんなわけないじゃん?」
いや……ちょっと待て、俺はスライムなんか食ってないだろ。世界で一番云々は嘘だけど、そこまで頭いっとらんぞ。
「うへ……自覚が無いのがなぁ……」
いやいやいやいやいや! そもそもレッドがなんとなくとか言って食べようとしたんだぞ!
本当に待って! 嘘松とかじゃ無くて本当にちょっと待って!
俺、止めてたじゃん! レッドが食べないようにしてたじゃん!
むぐ……
「いいから聞いて?」
…………
「……レッドちゃんはさ、お母さんもお父さんもいないんでしょ?」
孤児院出身だって話は聞いてる。
年下しかいなかったらしいな。
「そうそう、つまりレッドちゃんは、子供の頃にお母さん達と触れ合った記憶が無いってことでしょ? ……だから、おじさんが思うに──」
俺に対して父性を感じてるって?
「……やっぱ分かってるじゃ〜ん」
肘で突くな。
流れ的にだ、流れ的に。
それで、なんで一緒にお風呂に入るのをやめた方がいいんだ?
「そこは普通にわかって欲しいかな……」
わからん。
「あれは多分さ……叱って欲しいんだよ」
……まあ、概ねは理解した。
「今ので!?」
理解したけど、お風呂に入るのは良くね?
スライム食べるのは良くないからちゃんと叱ったし。
レッドが何かをして欲しいなら、俺はできるだけそれに付き合ってやりたい。
そんで……叱るとかじゃ無くて、もっと別の形で安心させてあげたい。
「……なんでそんなにレッドちゃんに甘いの?」
コレくらい普通だ。
自分のことを慕ってくれてる子達の事を邪険に扱うほど俺は擦れてない。
「達って……」
うん、とりあえず俺も服着たいかなって。いまだにタオル一枚だし。
「……エッチ」
むっつりスケベめ。
「〜〜〜〜!!」
おほほほ! 心地よいですわあ! 肩たたき程度にしか感じませんのことよ!
──────
温泉を去ってからもスライム達は頻繁に出現し、逆に他のモンスターはあまり出現しなかった。
竹が生えている地帯に来て、道が無くなった。レッドさんがしきりに首を捻る。次の街への道にこんな所は無かったらしい。
スライム達が誘うままに進んでいく。
左右の感覚を失いそうなほどに変わり映えのしない景色、竹林の中だ。
「スラスラスラスラ」
「スララァ〜」
竹の樹冠に阻まれて、ここらの地面にはうっすらとしか雪が張っていない。
地面に敷き詰められた竹の葉っぱの上をずーりずーりと小気味良い音を立てながらスライム達は列になって移動していく。
後ろ向きに滑っていく個体もいて、私たちのことが心底気になっている様子。
彼は先ほどからうーんと唸っている。
唸りながら何かを考察しているみたい。
歩きながら竹をコンコンとノックしたり、倒して断面を見たり、スライムをブニョブニョと伸ばしたり。
私たちの次の目的地、スパイクタウンとは全然違う道行きだけど、ホシノさんがこれで良いと言うので黙って着いていく。
話には聞いていた。一種のトランス状態のような、話しかけても全く反応せずに突き進むという、まさにその通りだった。
レッドさんが目に見えてワクワクしている。手を繋いで、頻繁に彼の様子を伺っていた。
「スラスーラ」
「──スラ!? スラスラスラ!」
「スラスラスースララ」
何を言っているか分からないけど、スライム達は確かに会話をしている。
そんな知能があるなんて話は聞いたことがない。まあ、外に出た事のなかった私が知っている知識なんてこの広い世界の一部も一部、ほんの少しでしかないだろうけども。
そんな彼らが導く先は一体どこへつながっているのか。
鬱蒼と深い竹林の奥に来ているはずなのに段々と明るくなっていく周囲にドキドキが止まらない。
「そーそー、大事件なんかよりもやっぱ、お兄さんはこういう冒険の方が似合ってるよね〜?」
「はい!」
「何が起こるの?」
レッドさんが目をキラキラと輝かせながら彼に尋ねた。
「何か起こる……ズレているような気も……」
顎に手をやる彼は足を止めないままに、今の状況について強い違和感を感じているらしかった。
「光……スライム……竹……なんだこれ」
スライム達は歌っていた。
「パッションモイノーイノイノイ」
「チャカレタパットンパンコラケットントン」
「なんだろう……知らないはずなのに懐かしいな……CMとかかな」
周囲を包み込んだ、目も眩むような光の中に飲み込まれた。
──────
どこだここ、真っ白なんだけど。
ホシノ達も辺りを見回している。
『君たち誰!? どうやって来たの!?』
ここどこだ。
とりあえずは右に200歩、後ろに256歩、左に63歩進んでみるか。
『ちょっと、聞いてる!? ……あれ? 聞こえてるよね?』
「聞こえてるよ〜」
『あ、ありがとう……そこのお兄さんも無視しないで!』
別に何も起こらねえや。
まあそりゃそうだよな、世界がバグるなんてそんな事あるわけ無いし。
それにしてもあのスライムどもはどこ行ったんだ?
光に中に入ったらいきなりポケモンが消える……転移か?
つまり、なんらかの干渉を受けてるってことか?
そうなると人為的に引き起こされてる可能性もあるよな。
『ちょっとちょっと! なんで全然話聞いてくれないの!』
「えーと……彼、こうなると本当に話聞いてくれないのよ」
『いや、君達もなんでここに入れてるの!? ……あれ、しかも、君は最近ジムリーダーをやめたナギ!? あっ、そっちのはあのレッド!? ……あれ、あの顔ってポケモントレーナー!?』
「あなたは誰なの?」
『そ、それは言えないけど……そもそも、ニューラルリンクの誘導でここには近寄れないようになってるはずなのに……』
「この先には何があるの〜?」
『だめだめだめだめだめ絶対ダメ! めちゃくちゃ怒られるし出禁になるよ!』
……出禁? 今、俺に対して出禁って言った?
「あ、終わった」
『え』
奥は……こっちだ!
『なんで分かるの!? ……強制退去、執行!!』
──────
「まさかあんなところがあるなんて思わなかったわ!」
「凄いよね〜、よくもまあ毎度毎度見つけられるというか……」
気が付いたら竹林の外にいた一行は、あそこに行っても無駄だろうと結論付けて先に進むことに決めた。
アイリとレッドは少し残念そうにしている。久しぶりにちゃんと冒険ができるものと思っていただけに、青年をペチペチと叩いていた。
そんなポケモントレーナーもポケモントレーナーで、釈然としない顔をしている。
「なんだったんだあれ……こら、やめろ」
「ぼーけん! ぼーけん!」
「ぼーけん、ぼーけん」
「……じゃあちゃんと逸話とか調べたのか? 俺はなんも聞いてないけど」
「ぎくっ……」
「寒かったから」
「一限行く気なくなった大学生みたいな言い訳ですねえ……俺はこの世界の地理とかなんも知らないんだから、ちゃんと教えてくれなきゃなんも分からんって」
「ぶーー……」
「ぶーー」
「……ナギ、次の街はなんて所なんだ、そろそろ近かったりするのか?」
「えーと、だいたい半分ね」
「意外と遠いな……名前は?」
「スパイクタウンです!」
「あ、ずるい」
「や、やめへくらはいれっふぉさん……」
お互いのほっぺたをもにゅり始めたレッドとアイリを放置して、そのスパイクタウンとやらがどんな街かを聴くことにした。
──────
スパイクタウンは世界で一番不思議な場所らしい。
不思議なモンスターが蔓延る世界で、一番不思議な場所?
あんまり期待せずに行こう。
この世界の住人の驚くポイントは俺には理解できない所もあるからな。
逆もまた然りだけど。
というか……情報それだけ?
絞りすぎじゃね?
そろそろ事前に知った状態で街に入っておきたいんだけど。
……ジムリーダーがいる?
やったじゃん!
…………ホシノはすでにバッジを持っているので、ジムリーダー戦の機会は無いようだ。
ちきしょー!!
夜、寝袋に潜りながら、アイリに手伝ってもらって久しぶりにソーマを見たら、ハンサムのアカウントが特定されてて、ウルトラビーストについてクソほど聞かれているようだった。
まじごめん。
でも早くアカウント閉鎖しろよ、と思ったら、アカウントの消し方が分からない……とか呟いてるらしい。
オッサンさあ……せめてプロフィールの写真くらいまともなのにしとけよ……
なんなのこの鼻のドアップ写真……
この世界にも機械音痴っていたんだな。
ヒガン君はパートナーをちゃんと見つけていた。
ナルガクルガ? とかいうやつの幼体を捕まえたらしい。
あと、孤児院の子供達とはその後も仲良くできているようで、ミカとナギサって子達とナルガクルガと一緒に写真に写っていた。めちゃくちゃ可愛いなこの子達。
俺はそういうの怖いからやめた方がいいと思うタイプなんだけど、孤児院の後ろにはコトリタウン最強の男がいるし大丈夫か。
一つ、言葉を送ってもらおうとしたらアイリに協力拒否されたので、アイリが一番だよ(はあと)で許してもらった。
「えへへ〜」
ウチの弟子がちょろ過ぎる件について。
アイリが世界で一番可愛いのは間違いないけど。
俺は最近ド田舎にいたせいか、盗撮される機会が若干減っていた。
若干である。
道で珍しく人と出会ったかと思えば挨拶代わりに撮られるし。
お前ら頭ジャーナリストか?
でも、機会が減ってもアンチはドチャクソに増えていた。リンを連れていくんじゃないかと思われてかなり増えたらしい。
本当に連れてってやればよかった……
なんか、変な異名も生えて来たとか。
……現地妻製造機!?
なんだそのネーミングセンス、いい加減にしろ。俺が就職したいと思った時に大ダメージ喰らうだろうが。
ポケモントレーナー(女限定)とも言われてるらしい。
俺はキレていい、キレようかな……
というかキレてレスバしようとしたら、アイリに今度こそ腕をバッテンされた。
自分の師匠がこんな不名誉なあだ名をつけられて何とも思わないんか!
と聞いたら、
甘ったれてんじゃねえぞ! 自分の名誉は、おめえが守るんだ! (意訳)
って言われた。
だから今守ろうとしてるんでしょ!?
手伝ってくれない!?
「師匠は普段の行動をもう少しだけ見直して下さい」
マジ顔でそんな事を言われてちょっとだけ傷付いた。
──────
今日はイャンクックの討伐だった。
ナルと一緒に初めて討伐依頼をこなした。身のこなしが素早いナルに撹乱してもらったおかげで僕は攻撃に専念することができた。
ただ、ソレでも今の僕にイャンクックは荷が重いのか、かなりボロボロになってしまった。
ナルと出会った頃のことを思い出す。
強大なモンスターが蔓延る湿地帯の奥地、咆哮の止む日が無いその場所に一歩踏み込めば、テリトリーを犯したとみなされてすぐさまヌシに屠られる。
もちろん僕も自分から踏み込んだ事はない。ポケモントレーナーさんやアラカゼさんからもあそこには行くなと言われていた。
行く気なんてさらさら無かった。
ある日、いつものように依頼を受けて湿地に赴くと巨大なモンスターが倒れていた。
早朝だったからか、他のプレイヤーは誰もいなかった。
事切れているソレはどう考えても、ランク3の僕が相手できるようなモンスターじゃ無かった。それは、迅竜と呼ばれることもあるナルガクルガだった。
僕の十倍はあるだろう身体を横たえ、首筋には噛みちぎられたような跡があるのを見た僕は腰を抜かしてしまった。
あまりにも無防備で、あの瞬間、どんなモンスターが襲いかかって来ても僕は死んでいただろう。
バクバクと鳴り続ける心臓の音ともう一つ、甲高い音が耳に響くことに僕は気付いた。
それはどうやらナルガクルガの身体の下から聞こえているようで、その大きなモンスターが死んでいる事を再度確認した後に音の正体を探した。
死体をそのまま小さくしたような姿。ヒャンヒャンと鳴き続けるその身体を僕は抱え上げた。
『どうやってパートナーを決めればいいのかって? ギャハハハ! そんなの簡単だ! ……目と目が合った瞬間に気付く、これが運命だってな』
その通りだった。
目があった瞬間、身体の中心を、痛みすら伴うような痺れが通ったのを感じた。
その日の依頼で倒したランポスの肉を食べさせて、ジムに戻った。
邪な目線が僕に向いているのを感じた。
ソレは覚悟の上だった。
アレだけのモンスターになる事が確定しているこの子を持っている、ランク3のカモ。
当然、あいつらに絡まれた。
あの頃の僕なら奪われていただろう。
でも、彼と比べて遅く、彼と比べて非力で、彼と比べて遅い。なんでこんな奴らに怯えていたのか今の僕には分からなかった。
ムカつくやつはボコしちまえばいい、そんな彼の言葉通り、あいつらを叩きのめした。すごく簡単な事だった。
パートナー登録を済ませ、孤児院に帰るとアラカゼさんが怒っていた。どうやらジム経由で話を聞いたらしかった。
喧嘩した事を怒られるのかと思ったら……全然違った。
その対処法を教えてくれたポケモントレーナーさんに全ての怒りが向いていた。
肩を掴まれて、真剣な顔で諭された。
『ヒガン君……あんまり彼の真似をしちゃダメだぞ?』
『どうしてですか? あのままじゃ、この子は取られてました』
『……ポケモントレーナー君の在り方はとてもカッコいいよな』
『はい!』
『だが……アレを貫けるのは、彼が故郷を持たないからだ。君のような子があんな振る舞いをするべきでは無い』
『…………』
『最近よく面倒を見ている子達がいるだろ?』
『ミカとナギサですか?』
『そう、君の不用意な振る舞いで、あの子達が悪い立場に置かれるかもしれない。君はソレでもいいのか?』
『…………』
『分からないことも多いだろうが、守るべきものをちゃんと守れる男になれよ?』
そう言い残してアラカゼさんは自分の家に帰った。
僕は、言われた事が頭の中をぐるぐると回って、いつの間にか自室に帰って来ていた事にも気付けなかった。
腕の中で眠るパートナーを見つめる。
何が正しいのか、あの人に教えてもらいたかった。
扉がコンコンとノックされた。
どうぞと声をかければ、簡素な作りの扉がガチャリと開いて、いつもの2人が入ってくる。
『お兄ちゃん、おかえりー!』
『お帰りなさい、ヒガンさん』
飛びついてこようとしてくるミカを制止する。腕の中にいるナルを見せると、目を輝かせた。
『何この子! 可愛い〜!』
『寝てるからそっとね』
ミカがナルを抱えて頭を撫でる。
『うわ〜、毛並みすごい綺麗!』
そうなのだ、ナルは種族柄なのか黒艶の硬い毛が生えており、とても触り心地が良い。
ナギサが隣に座る。
『今日はどんな依頼を受けてきたのですか?』
『今日はドスランポスを倒して来たんだよ』
『えーと、こんな大きなモンスターをですか?』
『あはは……まだまださ』
あの人が無造作に倒したアオアシラですらドスランポスよりも強い。
『この子、うちで飼うの!?』
『飼うっていうか、パートナーなんだ』
『え? こんなちっちゃいのに? 可哀想じゃない?』
『そう言われても……』
『ミカさん、ヒガンさんのお手をわずらわせてはダメですよ』
『いみわかんなーい』
『あ、あははは……』
いつものように2人の小さな翼と髪をブラッシングし、最後にナルの毛にもブラシをかけようとして、毛が硬い為、ブラシがダメになってしまうことに気付いた。
今度ナル用のブラシを買うことを決め、今日は撫でるだけにする。
ナギサとミカは寝てしまったので部屋に運び、自室に戻るとナルが起きていた。
ヒャンヒャンと鳴いており、冷蔵庫のベーコンを一塊あげることにした。
それからも、ベッドの上でウンチをしたり、頻繁にご飯をねだるのでアプトノスを狩って冷蔵庫に大量の肉塊を入れていたら孤児院の子達に好き勝手食い荒らされたり、ブラシがとびきり高かったり、ナルに構いすぎてミカが怒ったりと色々あった。
でも、獣の本能か直ぐに狩りの仕方は覚え、ケルビやグラエナ、コダマみたいな小さいモンスターなら1匹でも狩れるようになった。
あまり細かい指示は聞いてくれなかったけど。
でも、ようやくここまで辿り着いた。怪鳥イャンクック、今日の討伐目標は1人じゃ倒すことが出来なかったモンスターだ。
ナルは今、僕の膝くらいまでの大きさで、腕には小さな刃がくっついている。
寝ている時に戯れつかれると僕の体が切られちゃうからなんとかしたいんだけど……今回はソレが役に立った。
武器はナイフから片手剣に変えている。
あんなナイフで依頼をこなしていたあの人は本当におかしいと思う。
今、あの時に買ったナイフは部屋に飾ってある。
僕の、初めの一歩を踏み出した記念だ。
イャンクックから討伐証明の部位を剥ぎ取り、ナルが肉をしこたま食べるのを見守る。
お腹が膨れて動けなくなったナルを背嚢の上に寝かせて、ジムに戻る。
受付で、これまでとは比べ物にならないくらいのお金をもらった。
震える手でサインを書いてジムを後にする。
帰ると、ミカ達がお祝いのご馳走を準備してくれていた。
席に着くと、ミカとナギサだけじゃない、孤児院のみんなが祝ってくれた。
こんなの、前なら考えられなかった。
辛い記憶が蘇る。
そして、あっという間に過ぎ去っていった彼とのあの一週間を思い出す。
全てが、変わった。
アラカゼさんはポケモントレーナーさんのようになってはいけないと言うけど……変えてくれたのは、彼だった。
この状況がどれほど嬉しいか、アラカゼさんには恐らく想像が出来ないのだろう。巫女の一族で、お金に困ったことなんて無いんだから。
みんなが笑ってご飯を食べている。
みんなが、同じ食卓を囲んでいる。
みんなが毎日お風呂に入れる。
あんなに暗かった食堂に電気が通っていて、たくさんの食料がある。
用意されたご飯を食べながら、垂れてくる涙と鼻水を拭いていると、ナギサが覗き込んできた。
「あの……大丈夫ですか?」
「ん? 大丈夫だよ」
「……ありがとうございます」
「え?」
「お腹いっぱい食べられるのは……ヒガンさんのおかげ、なんですよね?」
「いやいや、アラカゼさんが──」
「アラカゼさんに聞いたんです」
「あ……そっ、か」
「稼いだお金、ほとんど孤児院の維持費に消えてるんですよね?」
「……」
「旅に出たいんじゃないんですか?」
「……」
「チャンピオンを目指してるんじゃないんですか?」
「……ナギサちゃん、あとで話そう。今は、楽しい夕飯時だからね」
「……はい」
「なになに〜、ナギサちゃんが余計な事言ったの〜?」
「ミカちゃん、そんな言い方は良くないよ」
「ちぇー」
──────
夕飯後、ヒガンが部屋で日記を付けているところにナギサが入っていく。後ろ手に扉を閉めた。
椅子に座っているヒガンが、ベッドに座るように促す。
『それでお金の話だっけ?』
『それもありますけど、そうじゃありません!』
『心配しなくても必要分は残してあるよ』
『だから……! ヒガンさんは、旅に出るべきです!』
『まだ、今は早いんだ』
『早いからこそ、ナルさんを育てる為にも、旅に出るのが普通じゃないんですか!?』
ナギサが感情的に詰め寄り、ヒガンはソレを冷静に否定する。そんな部屋の扉が小さく軋む音がした。
当然、言い争っている2人は気付かない。
『チャンピオンを目指すのに、こんな所で燻っている暇があるんですか!?』
『……ん? ちょっと待って……ソーマに通知が……あ゛っ!!』
『ヒガンさん!? 今、真剣な話を……』
『ちょっと待って……このアカウント、多分ポケモントレーナーさんからの連絡……! ええと……』
「無事でやっているようで安心した。ナイフだとキツイことには気付いたか? パートナー育成に関しては、アラカゼさんをちゃんと頼るんだぞ。さて、パートナーを手に入れたら、後はジムリーダー倒して四天王倒してチャンピオン出すだけだ! ファイト!」
『うわぁ、このグチャグチャで身も蓋もない感じ……本当にあの人だあ!』
『ヒガンさん!』
『あ……ごめん、ナギサちゃん……嬉しくて、つい』
『……ポケモントレーナーさんのファンなのは分かりますけど、自分の将来の事もちゃんと考えてください!』
ピンク髪の少女はそこまで聞いて自室に帰る。心底理解できないという顔をして、鬱憤を晴らすように枕を殴りつけていた。
「なんでそんな……お兄ちゃんが出て行ったら、また前に戻っちゃうじゃん……」
──────
相変わらず雪が吹き荒ぶ中で黙々と歩き続けるのはこいつらにとってかなりキツイらしい。
景色は一辺倒、視界も狭く、零下の大気は体力と気力をあっという間に削っていくということだ。
こまめに休憩を取っている。
ペンギンみたいに一塊になって温まっている4人を尻目にテントを張る。寝るわけじゃ無い、テントでも張らないとマトモな休息も取れないだけだ。
リザードンも翼で4人を覆って風除けになっている。
紳士な事で。
ヒーホー君はこおりタイプなだけあって元気だ。
フワンテは風に吹き流されないように触腕を木に巻いてしがみついている。
というか、いつの間にかフワンテはナギと行動を共にしていた。ユカリにはハムがいたし別に良いんだろうけどな。
ナギは良いんだな? フワンテで。
「なにが?」
いやいや、好きなら良いんですよ好きなら。
お互い好きじゃ無いと上手くやっていけないからな。
「私は好きよ、フワンテ」
「フワァ……」
感情が無い……
さて、テント張れたぞー。
「さむ」
レッドが真っ先に中に潜り込んでいった。
置いといた毛布に包まって温まっているようだ。
「ずるいですよレッドさん! 私にもわけてくだわぁぁ……」
毛布を寄越せと突撃したアイリが、レッドがパカッと開けた毛布の中に吸い込まれていった。
ビスケットオリバ以外にその術使うやつ初めて見た。
にょきっと顔だけ出したアイリがこちらを向く。
「ししょーたちもこっち来ましょうよー」
「私も中入るわね」
「う〜寒いよ〜おじさんも中入れて〜」
でかいテントだけど4人も入ればあとは1人ぐらいしか入れそうに見えない。
ぶっちゃけリザードンが寒そうに震えてるし……俺は外でヒーホー君とのんびりすっか!
リザードンも中入りな。
頷いて中にノシノシとリザードンが中に入ると、レッドの声が聞こえた。
「リザードン、どうしたの?」
「寒いんじゃな〜い? ほら、真ん中に丸まりな〜」
湯たんぽ代わりに扱われてんなありゃ。
まあ、俺らは椅子に座ってチルしましょうや。
「やっとオイラの季節が来たって感じだホ〜」
いつもは暑かったのか。
まあヒーホー君は氷の精霊っぽさあるもんな。
「溶けそうだったホ」
俺、いつかヒーホー君でかき氷作って食べるんだ……
シロップはメロンでな。
「いつか痛い目に会えばいいヒホ」
散々痛い目にあってるだろ。
そもそもこの地方に来たのが痛い目に遭ってるみたいな部分あるし。
「……お前、そういうのあいつらの前で言うなホ」
いやいや、極端にネガティブな側面を切り出したらそうだってだけだから。
俺みたいなやつにとっては天国なのは間違いないぜ。
あいつらにも出会えたしな。
「ソレは言ってやるべきだホ」
割と言ってないか?
「知らないホ」
まあヒーホー君はいつも蝶々追いかけてるもんな、知らないのも当然か。
美味いのか?
「土でも食ってるがいいホ」
──────
テントの中を覗くと、全員毛布で丸まっていた。
おーい、出発の時間だぞー。
「寒いから閉めて」
レッドが少し怒っている時の顔をしている。
いや、まだ寝るの早いから。
昼なのに動かなかったら夜眠れないぞ。
昼夜逆転したら直すの大変なんだから、ほれ、起きろ。
「やです!」
アイリも毛布の中に隠れてしまった。
ホシノは普通に寝息立ててるし……おいナギ、お前は起きるんだろうな?
「……むふふ」
なんだそのイタズラ心満載な顔は。
碌でも無いこと考えてるな?
「嫌がってる女の子を無理やり起こすなんて、あなたはしないわよね? そんな酷いこと」
……ソレもそうだな。ほら、風邪ひかないようにちゃんと上着羽織りな。
「……あ、ありがと?」
「……ししょー! 私も寒いです!」
おお、ほら……アイリもちゃんと腕通しな?
「えへへ、服を着させてもらうのは初めてですね!」
うんうん。
「お兄さん、私は?」
レッドもちゃんとダウン着なきゃな。
「うん……ふふ」
「あなたも一緒にお昼寝しましょ?」
ん? いや、俺はちょっとやる事があるからテントから出るわ。
「せっかくみんなでお昼寝してるんだから一緒にいましょうよ」
ははは……いやいや、ちょっとな。
靴を履いて、外に出て、と。
さて。
……テントの中で毛布に包まっているぐうたら共! 5分経ったらこのテントは強制執行により解体される!
それまでは時間をくれてやるから荷物をまとめなさい! 抵抗は無駄だ!
『横暴ですよ!』
『そーよ! 寒いのよ外は!』
『そーだそーだ』
『んみゅう……』
『グルルル』
うっせー! お前ら冬眠でもするつもりか!
寒いもんは諦めろ! 動いたほうが温まるだろーが!
『リザードンがいるから暖かいです!』
『なんでもいうことを聞いてくれる券を使用するわ!』
あれは良い子にしか使えないので現在は使用不可です!
そもそも旅をしているんだから寒いのくらいレッドは慣れてるだろ!
『もう……寒いのはいやだから』
『レッドさん……』
『……私たちが一緒にいますからね!』
ちょっとしんみりした空気を出しても無駄だから。
……お?
「うへ……何騒いでるの〜?」
ホシノがテントから出てきた。
寝てたんじゃ無かったのか?
「うるさいんだもんさ〜……寒っ! お兄さんあっためて〜」
おいで。
「……ふぃー、あったか〜い」
ほらみんな! ホシノを見習え!
おーヨシヨシ、ホシノは良い子だな〜。
見ろ、あのぐぅたらな3人。
こんな真っ昼間からあんな毛布にいつまでも包まって、なぁ?
「そうだよ〜」
『ホシノさんも今まで寝てたのに不公平よ……』
……はぁ。
ちょっとホシノごめんな、もう一回あのワガママ娘どものところ行ってくるから。
「うへ〜厳しさのカケラもない対応だ〜……」
──ほら、起こすぞ。
「あ、うん」
ナギの脇に腕を差し入れて抱き起こした。
ちゃんと準備しろって言っただろ?
寒くなることはわかってたんじゃないのか?
「準備したって寒いものは寒いじゃない……」
まあ、それはそうだけどさ。
しばらく街に滞在して体力落ちちゃったのかもしれないけど、まだ今日は時間も早いんだし、もう少しだけ頑張ろうぜ? な?
夜は早めにテント張るから。
「わかったわよ……」
もうちょっと厳しくしたほうがいいのかな……
──────
辛い道のりを超えて、真っ白な景色を抜けて、それは現れた。
俺の常識には無い構造物だ。
いや、構造物なのか?
空間そのものに幕が張っているような感じだ。
幕の前では多くのテントが張られている。
何これ、難民キャンプ?
……うおお!? 幕が歪んで中から人が出て来た!
これがスパイクタウン!
なんだなんだ! あんまりワクワクさせんなよ!
よっし! 俺も行くか!
「あ、ポケモントレーナーだ」
「本当だ」
「やっぱこっち向かってたんだな」
……ああ、この感じ懐かしいな。
人の波に飲み込まれそうなこの感覚……まあ、あいつらは早々に横に逸れてるし、いいんだけどね、ええ。
俺には秘策があるんだ!
「おい、バトルしろよ」
「なあ、あのスタジアムでは何があったんだ?」
「女連れてんじゃねえぞ、調子乗りやがって」
はいはい!
用事がある方は列になって下さいね!
ほら、そこのお兄さんから!
「あ? ……いいぜ、前から一発殴ってやりたいとおぼぉ!」
はい、1人終了。次!
「スタジアムでは何が?」
知らない! 次!
「あの銀河はなんなんですか?」
知らない! 次!
「おい! まともに答えろー!」
「ちゃんと答える気あんのか!」
答えるかどうかなんて俺の自由に決まってんだろ調子乗んな!
俺が黒って言ったら白も黒になるんだよ!
というか、俺はお前らのインタビューに答えに来たわけじゃねえんだ! ぶっ飛ばすぞ!
もう答える気なくなったから! 俺が気に入ったやつしか答えないから!
あと……何人並んでんだよ、コミケか!
俺の負担考えろ、アホ!
こんなことしてる暇あったらスパイクタウンの事についててててて!!
「お兄さ〜ん? まだネタバレは早いよ〜?」
いてててて!! …………おい、どこまで引っ張ってく気だ! 耳! 耳千切れちゃう!
キャンプ地からだいぶ離れた場所に連れてこられて、ようやく解放された。
どうやらホシノ達はここに避難していたらしい。
最後まで耳掴まれてたんだが、出血してないよな?
「……うへ、ここまでくれば大丈夫かな」
「まったく……なんで律儀に相手しようとするのよ」
とりあえず、さっさと街の中入って宿見つけないとな。
「順番待ちね」
何の話だ?
……ん? あの大量のテントはもしかして。
「そういうこと」