俺はポケモントレーナー   作:goldMg

28 / 60
28_チュンチュン村 新たな出会い

 色々話を聞いて分かった。

 ポケダンだ。

 人間やパートナー達は全員ポケモンになってダンジョンに潜るらしい。それがスパイクタウンの試練というか、とにかくそうなっているらしい。

 謎が謎を読んで流石の俺も脳みそがオーバーフローしちまうよ。

 まあ、この世界に俺がいきなり転移した謎の方が深いけど。

 そして俺の肉体は、誇り高き人間のものからピカチュウのものに変わってしまった。

 ナギ達もそれぞれ、ホシノ→ナカヌチャン、レッド→アブソル、アイリ→ロコン、ナギ→キルリアになっていた。

 というか、さっきから四人に囲まれて揉みくちゃにされている。いつもより遥かに頭身の下がった俺を見て、弄りたい欲が湧いてきたらしい。

 

「師匠ちっちゃ〜い!」

 

 アイリの尻尾に巻かれ、

 

「お兄さんがピカチュウ……あは」

 

 レッドに毛繕いされ、

 

「ふふふ……この姿なら好き勝手出来ないわね」

 

「うへ〜、この中で一番ちっちゃくなっちゃったね〜」

 

 ホシノとナギに撫で回されていた。俺としても、この視線の高さは新鮮だ。

 そして、ポケモントレーナーとしてのチートはどうなったかというと……

 

「かみなり──おお、使えるな」

 

 肉体が変わったからといって使えなくなるものでも無いらしい。わざが引き出される感覚があった。

 良かったぜ。

 それにしても、わざを使うってこんな感じなのか。

 ん? 何で通りすがりのポケモンが唖然として……自警団がなに? 

 あれ、なんか警察みたいな格好したポケモンが集まってきたな。

 

「とまれ!」

 

「こらーっ! 街中でわざを使うなんて、何を考えているんだー!」

 

 ……もしかして、ぬるま湯の中でチャプチャプ過ごしてた感じですか? 

 ちょうど良い、肉体運用テストとしてお前らをぶちのめしてやる。

 

「ストーーップ!」

 

 おわっ……ナギに抱きしめられて身動きが取れねえ。膂力はピカチュウに準拠しているらしい。

 

「すみません、ピカチュウは新入りなもので常識が……ちゃんと教えますので、今回は何とか……」

 

「……はぁ、そういうことか。次は無いから、気を付けろよ?」

 

「はい、ごめんなさい……」

 

「……というか、お前たち誰だ?」

 

「そうだよな、こんな奴らいたか? もしかして別の場所からやってきたばかりだったり?」

 

「……え? ホシノさん、どういうこと?」

 

「さあ……」

 

「何にせよ、問題起こすなよ?」

 

 あれか、人間がわざをいきなり使えるようになると暴走するかもってことか? 

 それなら最初に説明とかするべきだと思うんだけど、俺、間違ってるかな? 

 それともこれも含めて試練だったり? 

 んなわけあるかい! 

 ……おい、もう自警団あっち行ったし離していいぞ。

 ……ナギ? 

 

「スゥ〜……ハァ〜……」

 

 なにしてんだこいつ。

 あれか、ピカチュウ吸いしてんのか。

 

「お日様の匂い……」

 

 お、おう……中身は俺なんだが、そこんとこ分かってる? 

 ヌッ、と別の影が俺の頭上を覆う。

 アブソル、というかレッドだった。

 

「私も嗅ぎたい」

 

 スンスンと鼻を軽く鳴らしたあと、俺の毛並みの中に突っ込んだ。

 ていうかなんかアレだ、かみなりをつかった影響なのか、めちゃくちゃ眠い。負担がデカかったか……

 …………

 

「あれ〜お兄さん寝てない? わざを使ったからかな?」

 

「疲れるものなの?」

 

「そだよ〜」

 

「宿行こう」

 

「きゃ〜! ししょーの寝顔可愛い〜!」

 

 青年がスパイクタウンに入る直前まで背負っていた荷物は何処かに消えていた。そのかわり、全員が小さなリュックを背負っている。

 

「お金はどうするんだったかしら?」

 

「バッグに100ポケ入ってる」

 

「……本当に入ってるわね、なんで?」

 

「知らない」

 

「おじさんも最初は驚いたけど、そういうものって思うしか無いよ〜」

 

 アブソルの案内のもと、5匹はポケモントレーナーもといピカチュウを連れて泊まるべき場所へ向かった。ボロ小屋に土壁を貼り付けただけの簡素な建物で、中には藁が敷いてある。

 キルリアの顔が歪む。

 こんなところに泊まるとか冗談だよね? とでも言いたげだ。

 

「……ここ?」

 

「多分?」

 

 アブソルは勝手知ったるとでも言うように、藁の上にピカチュウを寝かせて、そのそばに丸くなる。

 前脚でツンツンと赤いほっぺたを突っついて、なにが面白いのか小さく笑っていた。

 

「ふふ、ピカチュウ」

 

「なんか、レッドさんのキャラが……」

 

「可愛いね……」

 

 放っといたら永遠にそのままでいそうだったので、ホシノ──ナカヌチャンがいつものポケモントレーナーの代わりに最初の目標を確認する。

 ピカチュウには教えなくても、いざその場に行けば大体把握してくれるだろうということで、寝ているのもお構い無しだ。

 

「とりあえずは始まりの洞窟からだよね〜、三人は初めてだしさ」

 

「試練としてのランクはどれくらいなのかしら?」

 

「1から2くらいだから、正直一人でも行けるくらいだね」

 

「じゃあ、行く?」

 

「複数人で入るの初めてだから、それが認められるか、まずは確認が必要だよね〜」

 

「それもそうね」

 

 本来、プレイヤーがパートナーと一緒に入ると街の入り口時点でパートナーが進化前の状態で一緒にいるのが普通だ。しかし今回、整理券の問題で五人一緒に登録した影響なのかそのパートナー達が見当たらなかった。そのため、まずは連絡所と呼ばれる施設に行く事にした四人。スパイクタウンの中では基本的にジムという名称では無くて連絡所と呼ばれている。何故かは分からず、昔からそう呼ばれているものだからみんな倣っていた。

 

 レッドとホシノはそれに加えて、以前に来た時との相違点をいくつか見つけていた。

 まず、もっとモンスターの数が多いはずなのだ。

 スパイクタウンに入ってきた人たちは当然街の中にいる。整理券を配布しないといけないのだから、中にいることができる限界の人数までいるのが常だ。

 こんな、逆に限界な集落ぐらいのモンスターしかいないようなのは初めて見た。

 

 そして街の規模だ。こんな平屋建てだらけで街灯もほとんど無く、コンビニもメディカルセンターも宿も無いような街では無い。街頭に至っては電気では無く、火を灯して付けるタイプの、今時そんな骨董品売ってすらねえよ、って感じのものだ。道だって舗装も何も無い土剥き出し、もしかしてここってスパイクタウンじゃないの? という思いが二人の胸中に湧き上がっていた。

 実はレッドも、先ほどの家には空き家と書いてあったから勝手に入っただけなのだ。

 そもそも、以前に訪れたスパイクタウンと配置が違いすぎた。

 

 そんな事を思いつつも、連絡所に向けて街を歩くナカヌチャン達を、すれ違うモンスターはちらちらと見ていた。

 ロコンがキルリアに耳打ちをする。

 

「なんでこんなに見られているんでしょうか……?」

 

「さあ……ホシノさん、何かわかる?」

 

「うーん……おじさんもこんな風に見られるのは初めてだから分かんないや」

 

 妙な居心地の悪さを感じながらも四匹は連絡所に辿り着いた。

 アブソルが以前の経験を思い出しつつ二匹のペリッパーに話しかける。

 

「始まりの洞窟に潜りたい」

 

「……どちら様ですか?」

 

「登録名はレッド」

 

「? ……存じ上げないですね、あなたは?」

 

「私も知らないですねえ……」

 

 二匹は不審者を見るような目で四匹を見ていた。アブソル──レッドは、違和感を感じる。

 間違いなく自分の名前は名簿に登録されているし、不本意ではあるけどそれなりの知名度だってある。知らないなんて事は無いはずだった。そもそも過去には同じようにここでダンジョンに潜っているわけだし。

 もしや、これは嫌がらせの類だろうか。過去に嫌がらせを受けた事は一度や二度では無いけど、ジムの受付でそんな扱いを受けたのは初めてだ。

 こんな時に頼りになるお兄さんはいないし、どうしようかなとホシノを見る。

 ナカヌチャンのキリッとした目と視線が合い、一つ頷くと代わりに応対してくれた。

 

「レッドちゃんの名前が名簿に登録されてないなんてあり得ないでしょ〜、ちゃんと調べてもらっても良いかな〜?」

 

「……ちょっと、裏を調べてきてくれない?」

 

「はーい、倉庫見てきますね〜」

 

 ペリッパーが一体、通用口から出て行った。

 どうやら別のところに名簿があるらしい。

 それにしても、この地方でレッドの名前を知らないなんて事があるのだろうか。

 ナカヌチャンは内心思いつつもペリッパーと会話をする。

 

「……それで、レッド? というのはどんなモンスターなんですか?」

 

「レッドってのはこのアブソルの名前というか……」

 

「ほうほう、もう少し詳しく聞かせていただいても?」

 

「うへ〜……」

 

 この会話は一体なんだろう、何かの意味があるのだろうか。レッドの名前なんて、名前として以上の意味は持たない。ポケモントレーナーにとっては何かしらの意味があるらしいけど、それがここに関わってくるわけでも無い。

 というか、本当にレッドの名前を知らないなんて事があるのだろうか。

 それも連絡所、言うなればジムの受付が? 

 明らかな違和感を覚えつつも、それを口に出すことは憚られるし、中身の無い会話をしていた。

 待機している三匹もにわかに表が騒がしくなった。

 なんだなんだと振り返ると、入り口からカメックス・マスカーニャ・メタグロスの三匹が入ってきた。

 後ろにはペリッパーもいた。

 カメックスが四匹を睨め付ける。

 

「コイツらか、いきなり村に現れてかみなりを使ったとかいう五匹組は……あれ、四匹だな」

 

「連絡所に来たのはこの四匹だけでした!」

 

「自警団の奴らは何をしているんだ全く……」

 

「……えーと?」

 

 ホシノは、冷や汗が額を伝うのを感じた。なんか、この空気は良く無い気がする。

 

 目の前の三匹からは相当な実力を感じた。一対一なら少しは粘れるかもしれないけど、総合力ではおそらく劣っている。ポケモントレーナーの指示があればともかく、この場ではそれも望めない。

 

 明らかに、戦意を感じさせる目つきをしていた。レッドやナギと目配せをすると、メタグロスから制止の言葉がかかる。

 

「やめておけ、我らトライデンツの噂ぐらいは耳にしたことがあるな? 実力差は理解できるだろう……大人しくお縄につけい!」

 

「うへ……何も悪い事してないんだけどなあ……」

 

「余所者が言う事など、信用に値しない」

 

 かくして四匹は拘束され、広場で住人たちに囲まれてしまった! 

 一体全体どうなってしまうの〜!? 

 

 

 ──────

 

 

 目を覚ますと、一人で藁の上に寝ていた。

 ……もしかして捨てられた? という冗談は置いといて、あいつらどこ行ったんだ? 

 冷蔵庫の中には何か……何もねえや、コーラぐらい入れといてくれよ。とりあえず、このバッグを背負って行くか。

 くそ、まさかバッグを背負って僅かでも重さを感じる時がまたくるなんて……

 人間の時の方が絶対強いよな……なんで異世界にきてバフかけられた後にとんでもないデバフかけられてんだ……

 あ、外に出て見ると分かるけどここアレか、ポケダンで主人公が寝泊まりする家か。表札にはなんか書いてあるけど読めないし、どういう形態の宿なのか分からねえ。

 確か改造できるんだっけ? ベッドぐらい準備しといてくれて良いし、なんなら普通に宿に泊まれば良くね? 

 そもそも俺が街の中に入る前に背負ってた荷物どこ行った? 

 人間がポケモンに変わるっていう事象に対してもまだ心の整理が追い付いてねえんだよこっちは……

 もう、何が何だかメチャクチャだ。

 お金がバッグの中に入ってたし、これで飯でも食えってことか? もしかしてあいつら先にダンジョン行ったりした? 

 

 ……スパイクタウンってこんな牧歌的な風景なのか。

 敷地から外に出て軽く散策すると、鍬で畑を耕してるケロマツがいた。話しかけたら、余所者か? と胡乱な目で見られた。

 違和感を感じたので、ここら辺の常識に疎くて分からんことばかりだからご迷惑おかけするかもしれないと挨拶しといた。

 常識のあるやつじゃねえか、最近の若者はホントに礼儀が……と老害ムーブを右から左へ受け流すと、街の大雑把な配置を教えてくれた。全部話聞かないとイベント進まないタイプのNPCかな? 

 大根のような形をしたダイコのみをもらえたので、洗って泥を落とした。齧りながら、教えてもらった通りの道を進んでいく。

 

 木製の柵で道幅が定められていて、そのアナログ感がすげえポケダンとか爺ちゃんちを思い出させて郷愁の念に浸る。

 空を見上げると、綿菓子のような雲がゆっくりと流れていった。外から見た時は幕で覆われていたのに、太陽が燦々と輝いていて雪も全く降り積もっていないんだな。

 

 それにしてもわざわざ整理券まで取って、週間単位で待たされて最後も列に並ばされたのに、いざスパイクタウンに入ってみれば全然ポケモンいないじゃねえか。入ってすぐは人間がいない事もあって相対的に多く見えたけど、歩いて見ると全然姿が見当たらない。

 アレか? みんなすぐに試練に向かうのか? 

 

 レッドもアイリも良くまあ四足であんなに滑らかに動けるよな。ピカチュウも一応ネズミだから四足歩行が普通のはずだけど、俺はてんでダメだわ。

 人間の時の感覚が強すぎて、四足で移動するってのが肌に合わねえ。

 VRでも二足歩行じゃないと全然操作出来なかったし、やはり俺には四足歩行の才能は無いらしいな。同級生はみんなスーパーサウルスとかになって楽しそうだったからマジで羨ましかったわ。

 そもそも空中ディスプレイ方式が使いこなせない俺にはVRそのものが無理筋だったってのもある。あっちだと埋め込み型が普通だったからみんな手ぶらだったし、スマホとか紙タイプの免許証とか使ってる俺は良く笑われてたわ。

 ……まあ、そのおかげでこっちの世界でも俺が俺である証拠を持って来れたんだけど。

 あー、でも思い出したら腹立ってきた。

 人間に戻ったらレッドとアイリを散々に可愛がってやる。

 

 ダイコのみを齧り終えて水が飲みたくなってきた頃、郵便局みたいなところにたどり着いた。ペリッパーの形した建物で、中に入る。

 確かここはペリッパー連絡所だよな。

 ポケダンの通りならここで依頼を受けられるはずだけど……誰もいない。

 まさか休日? 

 でもそれだと街に誰もいない理由が説明出来ないんですけど。

 おーい、誰かいませんかー? 

 ……ばーか! わざぐらい好きに使わせろや! ナギのやつも、なーにが新入りなもので常識が……だ! 

 そもそも、せっかくポケモンになれたんならわざぐらい使うだろ! 

 ばーかばーか! 

 

「……あの」

 

 あと、何だこのクッソしょぼい支度金みたいな金は! アレか!? 勇者の旅立ちには50ゴールドとひのきのぼうを渡す王様か!? これっぽっちで何ができるのか言ってみろや! 

 眠ってる俺を放ってどっか行きやがって! 

 

「ひぃっ……!」

 

 あぁ? 

 ……あんだお前、ワニノコで合ってるよな? いつからいたんだ? 

 

「い、今来ました」

 

 俺はポケモントレーナーという者だ、よろしく。

 ……何だ、握手を知らないのか? 何歳だ? 

 

「えっと、3歳です」

 

 さ、さんさぃぃ!? え、赤ちゃんもポケモンになれるの!? 

 

「あ、赤ちゃんじゃないです!」

 

 いやいや、3歳は赤ちゃんでしょどう考えても! 

 

「もう依頼だって受けられるし、立派なおとなです!」

 

 大人は自分のことを大人とか言いたがらないんだよ! そもそも旅を始めるのも試練を受けるのも10歳からだろ! 自分を大きく見せたがる奴はでっかい人間になれないぞ! 

 

「そ、そっちだって僕と大きさ変わらないじゃないか! そもそもニンゲンってなんだ!僕はモンスターだ!」

 

 いや、それは種族の問題だろ。

 俺は20超えてるぞ。

 

「えぇ!? う、うそだ! お父さんと同じ年齢じゃないか!」

 

 ッッグハァァァァァ!!! 

 

「ど、どうしたの!?」

 

 コヒュー……コヒュー……お、お前……宇宙で一番ダメージが入るセリフを、良くもピンポイントで……

 

「……そういえば、旅って何?」

 

 旅も知らないとかやっぱり赤ちゃんじゃん……

 

「そうじゃなくて! 10歳になったら旅を始めるって……別の村ではそうなの?」

 

 は? 俺が知りてえよ、何で10歳になったら旅を始めるんだよ。

 脳みそライオンかよ。

 

「らいおん……?」

 

 ……そういえば、依頼を受けに来たって言ってたよな? 

 

「う、うん、グミの納品を受けようと思って。君は別の村から来たんだろうし、まずは救助隊の登録から?」

 

 それなんだけどさ、中に誰もいないんだよ。

 お前が来てるってことは本来ならペリッパーがいるんだろ? 

 

「え? ……本当だ、ペリッパーさんどこ行っちゃったんだろ……何か知らない?」

 

 アホの子かな? 知ってたらわざわざ聞かないだろ。

 そもそも何でお前はこんな昼直前みたいな時間に来たんだ? もっと早くに来ればよかったのに。

 

「……昨日、えほんをよんでたら眠るのが遅くなっちゃって」

 

 可愛い。

 

「か、かわいいって……」

 

 なんかアレだ、出会ったばかりのヒガン君を思い出すわ。こう、弟感が強いなお前は。

 

「君、ピカチュウだよね? さっきは何でぽけんもとれーなー? を名乗ってたの?」

 

 ポケモントレーナーな? 

 名乗るのは、それが俺の名前だからだ。

 ……もしかして、この街では自分の名前を名乗るんじゃなくて種族名で名乗るのか? 

 

「えっと……?」

 

 あぁ3歳だもんな、難しい事はわからんか。

 悪い悪い、それじゃあ俺のことはピカチュウでいいよ。

 

「ばかにしないでよ!」

 

 怒るなって、馬鹿にしてるわけじゃねえよ。自分じゃ分からない事は分かるやつに聞けば良いんだから。

 

「むぅ……」

 

 一つ聞きたいんだけど、受けた依頼の紙ってどうなるんだ? 

 掲示板に貼られたままだったりする? 

 

「え? ……たしか、カウンターの後ろの棚にあるあの籠。あれにペリッパーさんは入れてたような……見ちゃダメだよ!?」

 

 うーん、やはり文字が読めねえな。でも、太陽の位置的に俺が寝てからそこまで時間が経ってるわけじゃないし、この中の比較的新しいところにアイツらの名前が書いてあるはずだ。

 ワニノコ、俺に場所を教えた時点でお前も共犯なんだから手伝え。

 

「ええ!? な、なんでそうなるのさ!?」

 

 ほら、こっちこいよ。

 ……良いから! 

 

「も、もう……誰もいないよね……?」

 

 今日受けられた依頼書に書いてある名前で、レッド、アイリ、ホシノ、ナギ、アブソル、ナカヌチャン、ロコン、キルリア、このどれかが書いてあるやつをピックアップしてくれ。

 

「そんなにたくさんおぼえきれないよ……」

 

 じゃあホシノだけで良い。

 

「…………」

 

 うん? 頼むぞ、誰か来たら見られちまう。

 

「じゃ、じゃあ一つじょうけんをつけます!」

 

 え? 

 

「ぼ、僕のきゅうじょたいに入ってください!」

 

 いや、仲間がいるんだって。

 

「それがじょうけんです!」

 

 こいつ、中々取引が上手だな……敵に回ったら真っ先に倒すべき相手だ。

 ……救助隊には入れないけど、言ってくれれば依頼について行く、それじゃダメか? 

 

「じゃ、じゃあそれで!」

 

 ……まさかドアインザフェイス!? 3歳でそんな駆け引きができるとか有望だな! 

 何でその強かさを、普通に仲間勧誘のステータスに分けてやれなかったんだ! 

 

「ふふん! ……じゃあ読んでいくね」

 

 ワニノコが読み上げた依頼書の中にホシノたちの名前は一つとして無かった。

 ……じゃあどこ行ったんだ? 

 はあ……しょうがねえ、足で稼ぐか。

 じゃあなワニノコ、ありがとよ。

 

「ぼ、ぼくもついていくよ」

 

 え? いやいいよ、俺の仲間探すだけだし。

 ケロマツの爺さんに教えてもらったから、街のマップ自体はある程度把握してる。

 

「でも、かんぜんには覚えてないんでしょ? ぼ、僕がいれば案内できるよ?」

 

 ……なるほど、よし、行こうか。

 っと……その前に、改めて。

 

「え?」

 

 俺の名前はピカチュウ。

 この街にいる間だけだが、これからよろしく。

 

「あ……う、うん!」

 

 握手を済ませたので改めてアイツらを探すことに。

 たしかにワニノコは言うだけの事はあった。この街を完全に把握しているらしく、不良たちが良くいるスポットとか、ミルタンクが密かに育てているリンゴの木とか知っていた。

 ……いや、何に役立つんだよ。

 それより、何でこの街に全然ポケモンがいないのか教えてくれよ。入るのに2週間弱ぐらいかかってるんだぜ確か。散々待たされて、入ってみたらスッカラカンでしたとか、このままじゃ俺はチェリノとメイと警備員たちの頬を一人一回ずつ、つねらなきゃいけねえよ。

 

「ポケモン……?」

 

 ああ、モンスターな。

 

「えっと……この村に最近来たのはオロミドロさんとガキさんと……忘れちゃったけど、あともう一匹ぐらいだったはずだよ? あ、君と君の仲間は除いてね? 

 

 は? 

 …………は? 

 

「な、なんだよぉ……怖い顔しないでよぉ……」

 

 ……うん、何かおかしいな。

 まず、前提条件を確認させてくれ。

 ここはスパイクタウンだよな? 

 

「すぱいく……? あはは、ちがうよ。ここはチュンチュン村、村入り口の看板にだって大きく書いてあるじゃん! あははは、変なの」

 

 どういう事だ? 

 

「君たちはどんな目的があってここに来たの? やっぱり伝説が気になって?」

 

 ……そうだったな、仲間に伝説を探しに行こうって誘われてこの村に来たんだよ。

 でも俺は伝説のことを聞かされてないから、教えてくれないか? 

 

「もしかしてきらわれてるの?」

 

 なんてことを言うんだお前は……ちげえよ、そういう奴らなんだよ。俺に何かとサプライズをしようとしてくるんだ、良いやつらさ。

 

「ふーん……この村には、最果ての森っていう場所の最奥に、何でも叶えてくれる宝物が埋まってるっていう伝説があるんだ。それを手に入れれば、とみもめいせいも、何でも思いのまま、じかんだって超えられるって。みんなは嘘とか眉唾物とか言ってるけどね」

 

 そんな伝説があるのか。

 それで、お前は信じてるのか? 

 

「……笑わない?」

 

 笑わない。

 

「コータスお爺さんが……あ、コータスお爺さんは村一番のお爺さんでね、僕はそのお爺さんと仲が良いんだ」

 

 お、おう。

 ……お爺さんがゲシュタルト崩壊しそうだ。

 

「それで、お爺さんが教えてくれたんだ。昔、まだコータスお爺さんが若かった時、本当にそれで夢を叶えたポケモンがいたんだって」

 

 へー。

 

「あ、信じてないでしょ」

 

 いや、信じてるけど。

 

「……ほんとう?」

 

 おう、むしろお前よりも遥かにその可能性を信じてる。

 

「……僕の方が信じてるもん!」

 

 いや、絶対俺の方が信じてるわ。お前、それを見たことはないんだろ? 

 俺は似たようなもんをいくつも知ってるからな。

 ……同じく実物は見てないけど。

 

「そうなの!?」

 

 聖杯、7つの球、小槌……いっぱいあるぞ。

 

「……すごいんだねえ、他の村も」

 

 まあ、信じる理由はそれだけじゃないけど。

 

「なになに、おしえて!」

 

 説明を拒否します。

 仲間にも教えてないんだから。

 

「えーおしえてよー!」

 

 おしえまてーん! 

 ……お、誰か来るな。確かエネコと……リオレウスの子供か? 

 

「あ……うん」

 

 うんじゃないが。

 あれも村の住人なんだろ? 

 おーい、そこなポケモーン、こんにちはー。

 

「あれワニノコだ、そいつ誰?」

 

「えっと……僕の救助隊のなかま」

 

 一時的にな。

 お前らはエネコとリオレウスで合ってるか? 

 

「そうだよ。……あれ、村じゃ見ない顔だけど、ピカチュウってもしかして……君、カミナリとか村の中で打ったりした?」

 

 いやぁ知らないなぁ、サンダーとかの仕業じゃないか? 俺はついさっきここに到着したから良く分からん。

 

「ふーん……たまたま、でんきタイプのモンスターが同時に来るなんて、珍しいこともあるもんだね〜……犯人を見つけたら教えてね! 今、そいつの仲間を広場でふんじばってるんだ! 雷を打つようなやつが村に侵入してきたらしくて、みんなで探してるんだ!」

 

 へー、見つけたら教えてやるよ。

 

「うん、僕たちはお菓子食べたいから抜け出したんだけど……あ、これ秘密ね?じゃあね〜」

 

 じゃあな。

 ……どうしたワニノコ。

 何か言いたそうな顔をしてるな? 

 勿体ぶらずに言ってみろ。

 

「カミナリ、使ったの?」

 

 うん。

 ……どわっ! 何だ、組みついてきやがった! 捕まえる気か! お前俺がピカチュウだからって舐めたらあかんど! タイプ相性をご存知だろ! 

 

「すごい!」

 

 あぇ? 

 

「カミナリを使えるなんて、他の村でも依頼を受けたりしてたの!? 今何レベル!?」

 

 1レベル。

 

「何でそんな雑な嘘つくの!? それくらい教えてくれても良いじゃん! 減るもんじゃないし!」

 

 本当に1レベルなんだけど。

 

「またまた……ほんとうに?」

 

 ほんとうに。

 測ったことはないけど、今日生まれたようなもんだからな。

 

「20歳って話はどうなったの!?」

 

 それも本当だ。

 

「……君の言ってること、良くわかんないや」

 

 それより、ふんじばられてる奴らが多分俺の仲間なんだけど。お前はどうする? 

 俺はその現場に乗り込むけど、着いてくるか? 

 

「……ど、どうしよう」

 

 まあ、俺は行くから。

 じゃあな、案内ありがとよ。

 

「……や、やっぱり僕も行く! ……へへへ、な、仲間だからね……でも村の人になんて言われるか……うう……」

 

 じゃあ……ここ、壊れそうだし別に良いか。

 

「ちょっと、何で柵を壊してるの!?」

 

 コラテラルダメージだ。

 ほら、目の部分だけしか無いけどこれで変装しろ。

 

「……これ、変装になる?」

 

 なるなる、俺はいつもそうやって変装してるし。

 

「絶対変装出来てないよそれ……」

 

 

 ──────

 

 

 広場にて、四匹の不審モンスターは監視されていた。お立ち台の上にいる取りまとめ役のコータスは、これで良いのかと悩みつつも妥協は出来ずにいた。

 目の前の四匹はまだ何もやっていない。しかし、最近の村近辺の事情などを考えると何事も無く解放はできない。

 それに、村民のあの目を見れば分かる。今この場で解放したところで、信用の無い彼らは生活をまともにすることすらできないに違いない。

 預言者がいてくれれば……そんなことを考えてしまう程度には、取りまとめ役としての実力不足を痛感していた。

 完全に、次にどうすれば良いか分からない、膠着状態であった。

 村民も、別にあの四匹を血祭りにあげたいわけでは無い。いきなり余所者で、かつ複数匹のモンスターが現れた事で不安になっていたのだ。

 村の閉鎖的な環境が生んだ、外部への拒否反応の一種だった。

 

 そんな広場に、なんか変な奴らが来た。

 一匹は……幼いながらも友人のワニノコだろう。何故か目元を隠しているが、己にわからないわけがあるまい。

 そして……あれはピカチュウだ。

 ピカチュウは、恐らく件の犯人だろう。カミナリをいきなり村の中でぶっ放したという荒くれ者……かと思ったが、意外と物腰は穏やかなようだった。

 

「お、いたいた。ちょっとどいてくださいね〜……あのー……すみませーん……チッ、しゃあねえな」

 

「…………!? な、ななななに今の動き!?」

 

 四匹を取り囲むモンスターの群れが一向にどかないため、ピカチュウはでんこうせっかだろうか? なにかしらのわざを用いて一気に最前列まで来ていた。

 

「後でな。おい、何でお前ら捕まってんの? あとコレ、こんなちょっとの金で俺に何を買えと?」

 

「おい、あんまりそいつらに近づくと危ないぞ! 不審モンスターなんだから! ……あれ、見ない顔だな」

 

 アオアシラがピカチュウに注意を促したが、違和感を覚えたのか顔を顰めた。

 

「なんでこんなにポケモンに囲まれてんの? お前らもしかして暴れたりした? 後、ここスパイクタウンじゃ無いんだけど、どうしてこんな村に来ちまったんだ? ……おい、何か答えろ」

 

「うへ〜……質問責めで疲れちゃったよ……」

 

「ししょ〜……たすけてください……」

 

「……ワニノコ、ひっかく。うーん、ピカチュウだと縄切るようなわざわざってあんまり無いよな……」

 

「…………!?」

 

「ワニノコ、なにを!?」

 

 ワニノコが繰り出したひっかくにより四匹を縛っていた縄はパラパラと解けた。

 すぐに四匹はピカチュウに駆け寄って縋り付く。

 

「うわー! ふあんでしたよー!」

 

「撫でて」

 

「あなたのせいよこれ……もうゆっくりさせて……」

 

「家まで運んで〜」

 

 当然、村民は色めき立つ。

 特にワニノコの父であるアリゲイツは大層驚いていた。

 

「ワ、ワニノコだよな!? なんで村の中でいきなりわざを!?」

 

「お、お父さん……分かんない、勝手にからだが……」

 

 囲んでいた村民の中には救助隊の面子もたくさんいる。トライデンツをはじめとして、戦えるモンスター達が臨戦体制に入った。

 ピカチュウは、彼らを見てニヤリと笑った。

 

「俺に挑もうたあ、良い度胸してやがる。寝たから体力もバッチリだ、やってやるぜ」

 

「アイツ、まるで怯んで無いぞ!」

 

「関係無い、数で押せば間違いなく倒せるだろう」

 

 そんな、緊張感の高まる広場の中でコータスは、別の意味で緊張を覚えていた。

 先ほどの光景に大きな衝撃を受けていたのだ。

 遠い、遠い、記憶の中にしまい込んでいたあの光景に酷似していた。

 アレは……別のモンスターに指示を出して従わせるあの特性は……幼い頃に見たあの……

 

「あなた……なのですか……?」

 

「爺さんにあなた呼びされるほど生きてないぜ」

 

「長老! そいつに近付かないでください!」

 

「そいつがカミナリを使った犯人です!」

 

 自信を心配した声を無視して、杖をつきながらヨロヨロとピカチュウに近付いていく。

 

「あなたが帰ってしまってから、言い付け通りみんなが頑張りましたぞ……この村も何度か危機に襲われましたが、何とか……何とか、守り抜いてきました」

 

 ピカチュウの手を、シワシワの手が震えながらも強く握っていた。

 コータス以外の誰も、何を言っているのか良くわかっていなかった。

 肝心のピカチュウも──

 

「あぁ、言い付けね……言い付け……俺ってもしかしてポケモンだったのか? いやいや……えぇ?」

 

 全くもって混乱しているようだった。

 コータスが何を言っているのか、本当にみんなさっぱりで、救助隊もピカチュウも、戦意をすっかり削がれてしまった。

 広場はしばらく、コータスの譫言のような言葉を聞くだけの場と化し、不審モンスター達もへたり込むだけで暴れ出す気配は無いようなので、トライデンツを除く村民は解散した。

 

「それでピカチュウ、貴様は何者なのだ? 長老と知り合いなのか?」

 

「知らねえ」

 

「そんなわけあるか! あの様子を見ただろう!」

 

「知らねえっつってんだろ! あのコータスがボケてるだけだ!」

 

「長老を愚弄する気か!」

 

「うわぁクソだる……」

 

「何だと貴様ぁ!」

 

「お、落ち着きなさいよカメックス」

 

「あなたももう少しちゃんと答えなさいよ」

 

 マスカーニャがカメックスを落ち着かせ、キルリアがピカチュウを注意していた。

 二匹とも一歩も譲らないため、平行線のままなのだ。

 コータスから話を聞ければもう少し話も早く済むのだろうが、いかんせん心を整理したいとの事で家に帰ってしまった。

 

「あの爺さんに聞いてくれよ、俺は知らねえって言ってんだから」

 

「……一応、ピカチュウは記憶喪失なのよ」

 

「むむ……記憶喪失か」

 

 まあそういう設定だからな……と思いつつもそこは黙るピカチュウ。今だけはかなり都合が良かった。

カメックスはトントンとこめかみを叩いて考えを整理する。

 

「……まあ良いだろう、大体は把握した。長老のことは置いておくとして、この村に居座りたいというのは?」

 

「あぁ、俺たちは故郷を見失っちゃってさ。帰る目処が立つまでこの村にいたいんだよね」

 

「アテでもあるのか?」

 

「もちろんある」

 

「そうなの?」

 

 ナカヌチャンが不思議そうに尋ねる。他の三匹も初耳なようで、どうやらピカチュウしか知らなかった事のようだ。

 どうにもこのピカチュウは曲者だ、とカメックスは感じていた。

 

「言ってみろ」

 

「最果ての森の宝物」

 

「…………」

 

「ワニノコから聞いたんだけど、何でも願いを叶えてくれるんだって? そいつを見つければ、すぐにでもそれを使って故郷に帰るさ」

 

「ぷっ」

 

 マスカーニャが小さく吹き出した。

 カメックスも顔が歪むのを抑えられなかった。

 

「あんな……子供騙しの作り話を信じてどうする」

 

「いいや、絶対にある」

 

「…………ぶはははは!! なんと愚かな!」

 

「ははは……」

 

 メタグロスがもう、隠すこともせずに彼を笑った。カメックスも乾いた声が漏れる

 それを信じているのはコータスだけだった。

 ……耄碌した老モンスターの言う事を信じて、この村に居座ろうとしているだと? 

 

「ふざけるな!」

 

「何だ、やっぱり信じてないのか? 長老の言う事なのに」

 

「そんな戯言に付き合うほど我々は暇じゃないぞ!」

 

「じゃあ何だ、俺たちに野垂れ死ねって?」

 

「ふん、そういうことだ」

 

「……別に俺はここでおっ始めても良いぜ? カメックス、お前くらいなら道連れにできる。どうせ死ぬなら勇猛に、だ」

 

「……そんな見え見えの脅しで我々が引くとでも?」

 

「良いや、コレは自信だ」

 

 ふんぞり返って笑うピカチュウには確かにその自信が見えた。

 

「……何が言いたい?」

 

「俺たちを救助隊として登録しろ」

 

「何だと?」

 

「チャンスをくれって言っているだけだ」

 

「…………」

 

 カメックスの脳細胞が回転した。

 始末するのはいつでもできる、しかし今、情勢は不安定だ。仮にだが、こいつらが戦力として数えることができるならそれは願っても無いことだ。

 この村で救助隊として活動しているモンスターの少なさは深刻だ。それはこの村が小さいことに起因するが、たしかに魅力的な提案だった。

 他所からやってくるモンスターは基本的に逃げてきたやつばっかりで、救助隊になろうなんて勇気のある奴はいない。

 まさか自らそんな事を提案してくるとは思わなかった。

 ダンジョンの途中で死ぬなら良し、活躍して村の役に立っても良し。

 ダメで元々だ。

 カメックスは腹を決めた。

 

「良いだろう」

 

「カメックス!? 何を言っているんだ、トチ狂ったか!」

 

「黙れ。俺がリーダーだ、従え」

 

 メタグロスの抗議を封殺し、カメックスは強くピカチュウを睨む。

 ピカチュウはまるで口が裂けるような、そうとしか表現できない悪どい笑みを浮かべていた。

 

「成立だな」

 

 ピカチュウは手を差し出した。

 

「なんだそれは」

 

「……マジでそういう概念が無いのか。これは握手だ、友好の証だよ」

 

「……ふん、もし村の者に手を出してみろ、すぐさま退治してやる」

 

「オッケーオッケー、やっぱり骨があるなお前は。そういうの好きだぜ」

 

 二匹が握手をし、とりあえず、村を騒がせた不審モンスター達は救助隊ストレンジャーズとして村に厄介になる事に決定した。

 

「カメックス、解散する前に一つだけ」

 

「なんだ」

 

「こいつらに飯を食わせてやってくれ」

 

「……なるほど」

 

 キルリア、ナカヌチャン、ロコン、アブソルの四匹はその場に倒れていた。

 何も食べずにずっと拘束されていたのだ。もう、お腹ぺこぺこだった。

 

「もう……むり……」

 

「レッド、もう少しの我慢だからな」

 

 横たわって元気なさげなアブソルの頭をピカチュウが撫でていた。

 サイズ感的にアンバランスな光景だが、それが自然らしい。アブソルは当たり前に受け入れていた。

 

「これを食え」

 

 カメックスから放り投げられたのはりんご5つ。

 途端にむしゃむしゃとそれに齧り付く四匹、何故かピカチュウは手中で弄んでいた。

 

「食べないなら返せ」

 

「いやいや……こいつらは育ち盛りだからな、一手間加えようと思って」

 

 バチッと軽く放電したピカチュウに、途端に警戒体制をとるカメックス。

 

「貴様……」

 

「落ち着けって、調理だよ、ちょーり」

 

 電気でリンゴを焼いて焼きリンゴにしたらしい。

 あっという間に自分のリンゴを食べ終えた四匹が、スンスンと鼻を引くつかせた。

 ピカチュウは尻尾であっという間にリンゴを四つに割ると、それぞれに一つずつ渡した。

 

「お兄さんは食べないの?」

 

「俺はもう食ってきた」

 

 それを聞くと、四匹は焼きリンゴを口に含んだ。

 

「甘いね〜」

 

「さっきのも焼いて貰えば良かったわね……」

 

 食べ終え、お腹いっぱいになった四匹はその場に座り込むと、あっという間に寝息を立て始めた。

 

「ええ……寝るのはや……ここ宿じゃねえんだぞ」

 

「泊まる場所はあるのか?」

 

「あー……アレだ、あの藁だらけのボロ家」

 

「……アソコか」

 

 まあ、あそこなら今はモンスターも住んでいないし良いだろう。

 そう判断したカメックスは許可を出した。

 もちろん、長老たるコータスの意見の方が優先されるため明日確認は取るが、あの様子なら了承は取れるだろう。事後承諾でも問題あるまい。

 

「とりあえず、荷台貸してくれ」

 

「……一人で運ぶ気か?」

 

「ああ」

 

「集会場の倉庫にあるが……俺が取ってくる。お前らは見張っていろ」

 

「盗まれたくないってことね、そんじゃあ頼むわ」

 

 その場にどかっと座り込んだピカチュウの言葉を無視し、倉庫へ向かう。

 途中、どこからやって来たのか、ワニノコが物陰から現れて話しかけてきた。

 

「帰ったんじゃなかったのか」

 

「その……ピカチュウ達はどうなるの?」

 

「……まあ、明日にはわかることだし良いか。あいつらにはこの村で救助隊ストレンジャーズとして働いてもらう。タダ飯食いは許さんということだ」

 

「ほんと!? 良かったあ……」

 

「なんだ、あいつらが怖くないのか?」

 

「実は──」

 

 どうやら、先にピカチュウと出会っていたワニノコは救助隊として手伝ってもらう約束をしていたらしい。

 なんて危険なことを……と叱りはしたが、ワニノコが一人でダンジョンに行くのをアリゲイツは嫌がっていたし、ちょうど良いのかもしれない。

 相手があのピカチュウなのが致命的なところだが。

 もうそこは、純真なワニノコの目を信用するしかないか……

 

 荷台を持って広場に戻ると、完全に四匹は熟睡していた。どうやら、疲労はそれほどに濃かったらしい。

 

「本当なら歯磨きさせたいところだけど……まあ、虫歯菌とかもいねえだろうし、別にいっか!」

 

 ピカチュウは何やら変なことを言っていた。本当にそういうところが信用できない。

 ワニノコも広場まで着いてきたので、マスカーニャ達に先ほどの話を聞かせる。

 

「えぇ? 本当に大丈夫?」

 

「やはりそう思うか……しかし、我らがついていくわけにもいかないからな。この後、アリゲイツには話すつもりだ」

 

「ふーん……」

 

 ピカチュウはコキコキと首の骨を鳴らすと、荷台にポイポイとナカヌチャン達を載せた。

 ピカチュウの体躯であの四匹を運べるわけないだろう、と思っていたら

 

「ハァッ! ……お、ちゃんと使えるな」

 

 いきなり全身に電気を纏わせた。

 

「な、なんだ!?」

 

「ボルテッカーだよ」

 

「ぼ、ぼるてっかー?」

 

 聞いたことのないわざだった。

 

「やっぱりこうしてれば能力が上がるんだな、疲れるけど」

 

 そのまま、荷台の持ち手部分をシッカリと掴んだ。

 

「じゃあな、ワニノコ!」

 

「あ、うん……ばいばい」

 

 ワニノコに挨拶をすると、あのボロ屋のある方向へとすごい勢いで走っていった。

 土煙が立っていく光景を見送り、あとはワニノコを家に帰すのみだった。

 

 ワニノコがいないことに気付いて慌てていたアリゲイツが飛び出す直前に家に返し、ピカチュウとワニノコの約束のことを伝えると、アリゲイツは白目を剥いていた。

 あとは親子の問題だ。

 帰り道、メタグロスがポツリと漏らした。

 

「ピカチュウも勿論注意しなければならない……だが、俺はあのアブソルの方が気になる」

 

「災いを呼ぶと言われるモンスター……ガブラスと同類だからな」

 

「正確には災いの前触れ、だがな」

 

「でも、あの四匹はおとなしかったじゃん。絶対ピカチュウが一番やばいって」

 

 マスカーニャの目にはそう見えたらしい。

 実際、危険度で言えばそうなるのだろう。

 ただ、感じ方はモンスターそれぞれだ。

 

「長老とも話をしなければならないな……」

 

「ああ」

 

 様子のおかしいコータス、果たしてまともに話をすることが出来るのか怪しいと思いつつも、知識・経験が共にトップクラスのコータスを抜いて村の事を決めるのはあまりにもリスキーだった。

 

 

 ──────

 

 

「さて、と……あー……くっそ疲れた」

 

 お風呂も無いんだからケチくせえよな……井戸から水汲んで水浴びするしかねえや。

 四匹はすでに藁の上に寝かせてある。

 それにしても、リザードン、フワンテ、ヒーホー君はどこに行ってしまったのか。

 というか……ここどこだよ。

 チュンチュン村って何? 

 スパイクタウンは? 

 もしかしてまた転移した? 

 

「んもぉ〜〜!!」

 

 本当に頭が痛くなる。

 転移したのか、その確証すら得られなかった。少なくとも、スパイクタウンで無いのは間違いない。

 夜空に浮かぶ月は、かつての世界に存在するものと瓜二つで、ウサギが一匹餅をついていた。

 いや、カニかも。

 ……どうでもいい!




ポケモントレーナー→ピカチュウ
ホシノ→ナカヌチャン
レッド→アブソル
アイリ→ロコン
ナギ→キルリア
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。