窓(ガラスとかは特に嵌められてない)から差し込む朝日で意識が覚醒した。風が吹き込むこの家で過ごすのは、今でこそちょうど良いけど、冬なら死んでてもおかしく無いだろう。
……今は冬では?
もしかして、俺は現実世界にいるのか? あの旅は全部夢で、家の布団で目を覚ますのか? 夏の焼け付くような空が俺を待ってるのか?
藁の上でのしかかられている、という現実が待っていた。
体格差でほぼ俺が潰れているのと、黄色い毛の生えた手足が見えるのが、俺の肉体がピカチュウになっている事実を証明していた。
ピカチュウ生活二日目が始まった。
良かったわ、声が全部ピカになってるとかじゃなくて。アブソルをどかして、藁の上から床に足を下ろす。
……足みじかっ!
これでも最高時速は人間超えるんだから、人間ってやっぱ貧弱だわ。
さて、最初にするべき事は……
井戸の滑車で水を汲んで喉を潤す。
結局昨日、ダイコのみしか食ってねえからな……あいつらもリンゴしか食べてない。
ポケダンならリンゴだけで生活できるけど、この世界だったらそうもいかねえだろ。
ケロマツ爺さんの畑に出向くと、今日も朝から鍬を振っていた。
精が出ますね。
「……ふん、カミナリを撃ったのはお前だったのか」
あ、バレました? 俺のいた村だとあれくらいは普通だったもんで。
「今日は何しに来た」
この村で働くことになったからその挨拶回りでもしようかと。
改めて、救助隊ストレンジャーズのポケモントレーナーと申します。
今後、何かしら依頼があればケロマツさんにはお安くしときますよ。
「ポケモントレーナー? なんだそりゃ、お前さんはピカチュウだろうが」
そうとも言う。
まあ、それくらいです。
そんじゃあまた。
「ふん、精々しっかり働け」
はい、ありがとうございます。
その後、村全体に挨拶して回ったがほぼ門前払いだった。
あれぇ?
なんかもっとこう……素敵! 抱いて! みたいなとまでは言わないけど普通の反応を待ってたんだけどな。
すごい歓迎されてないのを感じる。
そんなに街の中でカミナリぶっ放したのまずかった?
やべえな、あいつらにジト目で見られる。
ショップを経営してるミルタンクだけは普通に対応してくれた。
普通に対応してくれるだけで神様に見えるんだからギャップってすげえよな。
折角だしあいつらの分の昼ごはんまで買ったらちょうどお金無くなっちゃったっぽい……でも多分これ金足りて無いだろ。
しーっと口に指を当ててるミルタンクに惚れそうになったのはここだけの話だ。
素敵! 抱いて!
コータスの家に行くと、長老なだけあって守衛がいた。ヘラクロスとカイロス、厳格な顔つきの二匹がいて、コータスと話がしたい旨を伝えると不在だと言われた。どこ行ったかは教えてもらえなかった。
仲間はずれなんてひどいじゃないか! 僕たちは同じポケモンなんだから協力しなきゃ!
そんな、心に響く演説をしたはずなんだけどスンッとした顔で早よ散れと言われた。
けっ! おぼえてろばーか!
「アレがうちの村の新たな救助隊か……不安だ」
「コータス老を信じろ」
「おまえのその盲目的な姿勢が僕は羨ましいね」
「いずれ分かることに対して自分の意見など必要無いという事だ、仕事に集中しろ」
「はいはい」
最後に挨拶に向かったのはトライデンツの拠点だ。エリートランクなだけあり、かなり良さげな家を持ってらっしゃる。
ちわーっす! 三河屋でーす!
カメックスくんいますかー!
おーい! 野球しようぜー!
「……うるさい!」
窓から顔を出したマスカーニャがニャンニャン鳴いてるので他の二匹はどこ行ったのか尋ねると別々に依頼を受けているらしい。
救助隊組んでる意味あるのか? それ。
しかし、意外にもちゃんと意味があった。
最近、周辺の治安が良くないけど手が足りない……そうだ! エリートランクの三匹なら一匹でもコレくらいの依頼は解決出来そうだし、分かれて行動するのもアリにしよう!
となったらしい。
やっぱここスパイクタウンじゃねえわ。
何だよ治安が良くなくて手が足りないって……世知辛くて嫌になる。
でもアレだ。
こいつらやっぱり良い奴だ。
これからよろしくな!
「変な奴……」
他にも救助隊はいくつかあり、なぜか今日は会えなかった。
まあ、今度会えるか。
──────
家に帰ると四匹が待っていた。
大人しく藁の上に座っててとても可愛い、人間的な可愛さとはまた違うけど。
……というか、椅子もテーブルも無いんだよな。一応そういうの売ってる店もあったけど、目の前で店仕舞いされたから詳しく見る事はできなかった。
「お腹空いた」
「良い匂いがするわね」
ほれ、ご飯買って来たからこれ食べろ。
…………餌だよ〜〜ぶべらっ!
くっ……た、耐久力がいつもより低い! めっちゃ痛い! 人間って強い!
「本当に最低のクズね」
ま、まあいい……ご飯食べよう。
レッドとアイリは上手く食べられるのか?
手というより脚だけど。
「……できないです〜師匠食べさせてくださ〜い……」
はいよ。
ほら、あーん。
「……!? ……先を越された」
そもそもレッドはすでにスパイクタウンでバッジ手に入れてるんだし、その身体も慣れたもんだから心配いらなかったな。
ほらアイリ、次はどれ食べたい?
「次は唐揚げがいいです!」
萌え死にそう。
ニコニコのロコンが甘えてくるの天国すぎる。
しかしなぜか背中からはジトジトしたものを感じた。
振り向くと、アブソルが舌を出してた。まさかと思い背中を触ると濡れてる。
めっちゃ舐められてた。
ジトジトとかじゃなくて物理的に濡れてた。
キルリア達は顔を赤らめて背けてる。
なにしてんだレッド……心までアブソルになっちゃったの?
「その……」
どうした?
「前はごはんとかどうでも良かったから……リンゴしか食べてなかった」
そ、そうか……それで?
「上手に食べられないから食べさせて」
えーと、俺の手は一つだけなんだがナギは……あれ、あっち行っちゃった。
うーん……交互に食べさせれば良いか!
ほら、あーん。
「あーん」
「ししょう、次はこっちです!」
おう。
「こっち」
おう。
「はい!」
おう。
「早く」
おう。
…………早えよ! アイリ見てレッド見てアイリ見てレッド見てってスパンが短すぎるだろ!
お前ら二人とも、もっとちゃんと噛んで食べないとお腹いっぱいにならないぞ!
あとそんな食い方してたら栄養取れないし太るからな!
「意味わかんない」
「良いからご飯ください!」
俺もご飯食べたいピカ……
「はい、あーん」
この声は!?
「ほら、お兄さんもお腹空いてるんでしょ?」
ホ、ホシノ……! やはりお前こそ俺の……!
「お、俺の……なに……?」
嫁。
「……えへへ」
……かわいいよこの子! 相棒だからって放っといてごめん!
あと、俺が人間の姿じゃなくて良かったな、大変なことになってたぞ。
茹で蛸になるまで甘やかしてた。
「うへ〜……」
「ししょー! わたしは!?」
あ、そうだそうだ、お前らにもちゃんと食べさせてあげなきゃな。
はい、あーん。
「……お兄さんはえこひいき」
レッド、そんなこと言わないでくれって。ポケモンの姿になったせいでいつもと勝手が違うんだわ。許してちょ。
「……うん」
撫でるとアブソルの毛質はレッドのそれと非常に似ていた。何だろう、そこらへん考えてポケモンも選ばれてんのかな。
「あっずるいですよ! ……じゃあ私は元の姿に戻ったら一緒にお風呂に入ります!」
許可します。
「やったー!」
「あなた達、早く食べちゃいなさいよ……アイリちゃんダメだからね」
「ひぃん……」
俺は別に良いけど。
「だ、ダメに決まってるでしょ!」
そんな必死にならなくても良いじゃんお風呂に入るくらいで。
……心配ならお前も入れば?
「──へぇっ!?」
へぇっ、じゃないが。
何だ今の腑抜けた声は。
入るのか? 入らないのか?
「……は、はい……」
はい……?
「はいる……」
入るんだ。
……入るんだ!?
てっきり普通に断るかと思ってた。
「とにかく入るの!」
そうか……ナギが一緒に風呂に……
「お・に・い・さ・ん?」
何だホシノ、今ちょっとナギと風呂に入る所を想像してたんもががががが……
「ダイエットしなきゃ……ホ、ホシノさん? 流石にそれ以上はピカチュウの口だと入り切らないというか……まあいっか」
うごごごごごご……
──────
一晩かけてお父さんを説得して、ピカチュウと依頼を受けられることになったのでピカチュウの家に向かう。
仲間と一緒にあのボロ家に泊まってるらしい。
確か……キルリア、アブソル、ロコン、ナカヌチャンと一緒だった。
あまり見かけないモンスター達で、ピカチュウはその四匹と行動を共にしているんだ。
あのボロ家はお父さんが子供の頃からあるそうで、すごい昔はとあるモンスターが住んでいたらしい。そのモンスターがいなくなってしまってしばらくはコータスお爺さんが管理していたんだけど、自分の家の管理とか仕事とか他にもやる事があり最近は手付かずになっていたんだって。
前はもっと見た目も綺麗で窓もあんな吹きさらしじゃなかったって言ってた。
ピカチュウだってあんなボロの状態じゃ住みたくないはずだし、救助隊のしごとでお金をかせいで直していくのかな。
僕も救助隊ワニオンズとして、できるだけのお手伝いはしてあげよう!
そんな風に、気合い十分でピカチュウの家を訪れたら……
「おごごごごご」
なぜかピカチュウは地面に倒れて白目を剥いていた。口にはパンパンにご飯が詰め込まれており、ナカヌチャンがさらにご飯を詰めていく。
なにしてるの死んじゃうよ!?
声を掛けると、ナカヌチャンはピタッと動きを止めた。
こちらを向くと、にっこりと笑う。
「うへーこんにちは〜」
こ、こんにちは……あの、ピカチュウ大丈夫?
「え、何が? ピカチュウ? いないよ〜、そんなの」
そんなの、のところでドスが効いててちょっと怖かったけど、ピカチュウがいないって事はないでしょ。
ナカヌチャンの後ろに倒れてたじゃん。
何かを蹴る音の後にすぐ、藁が舞い上がった。
「どこどこ〜? ほら、いないよ?」
……いや、尻尾見えてるよ?
「いないよねー? レッドちゃーん」
「いない」
アブソルが、見えていた尻尾をお尻の下に敷いて座ってしまった。
もしかしたらピカチュウはとんでもないモンスター達をこの村に連れて来てしまったのかもしれない。
ピカチュウはあんな状態でも少しずつご飯を食べていたらしく、暫くしたら藁からモゾモゾと這い出て来た。
し、しぶとい……
尻尾だけはアブソルの下だったからくすぐってどかしていた。アブソルはとんでもなく驚いた後、くすぐられた所を押さえていた。飛び跳ねていたから相当だろう。
ピカチュウもそこまで驚くとは思わなかったみたいだ。少し目を丸くした後に口を大きく開けて笑い出した。
四匹から袋叩きにされてたけど。
ボロボロでフラフラのピカチュウと、やっとこさ挨拶をした。
「お、おはよう……大丈夫?」
「頭がキンキンするぜ……」
「心配しなくて良いわよ、自業自得だから」
「……ピカチュウ、やっぱり君って嫌われてるんじゃ無いの?」
「ははは、なんのなんの」
頭をトントンと叩くと笑って流した。
図太いというか何というか、全く堪えてないみたいだ。
つい今まで目の周りを星が飛んでいたのに、もう平然とした様子でロコンに話しかけている。
ロコンも嬉しそうにピカチュウの周りを駆けていた。
──あまりの光景に今日の要件を忘れるところだった!
「早速ダンジョンに潜りたいぃ?」
「う、うん……ダメかな? お互いの実力も早く知りたいし」
少し緊張しながら待つ。
ピカチュウは顎に手を当てて何事か考えているようだった。四匹を順番に見て、僕を見て、空を見上げて、うーんと唸る。
ドキドキ……
「今すぐ行こう!」
目を輝かせながらピカチュウは大きく宣言した。
……やった! 本当に手伝ってくれるか正直不安なところもあったんだけど、勇気を出して良かった!
ピカチュウに手を取られて歩き出す直前、四匹は唖然とした顔をしていた。
なんだか……嫌な予感が……
四匹が慌てて追いかけて来た。
「お兄さん!? 私たちは!?」
「え? ホシノとレッドがいて……別に何の問題も無いよな……?」
「ぼ、僕に聞かれても……」
「何でポッと出のワニノコを優先するのよ!」
「言い方言い方、ワニノコは3歳なんだから優しくしろよ」
「え」
四匹は僕のことを、とても信じられないとでも言うような目で見た。
ちょっと怖くなってピカチュウの後ろに隠れる。
「さ、さんさい……? 13歳じゃなくて?」
「私より年下ですね! ……でも、そうは見えないというか……」
「お前らには何が見えてるんだよ……」
「逆に、お兄さんはわからないの?」
アブソルが首を傾げていた。
やっぱりピカチュウはおかしいらしい。
他のみんなは僕がちゃんと大人に見えているのに、一匹だけ僕のことを赤ちゃんだなんて言うんだから。
……でも、あんまりジロジロ見られると怖いからやめてほしい。
結局、連絡所までは全員で行くことになった。
ストレンジャースはまだ村に受け入れられていないので僕が先頭で行くことになり、ピカチュウに至っては印象が悪すぎるので最後尾に着くことになった。
できるなら一緒にいて欲しかったんだけど……今、隣にいるのはナカヌチャンだった。
ストレンジャースのリーダーは誰なのかというとキルリアらしい。
僕から見てもピカチュウの次にリーダーシップがありそうなのはキルリアで、そして後はナカヌチャン、ロコン、アブソルの順だった。
アブソルはクールというかマイペースというか……あまり無駄なことは喋らないタイプなのか、ボーッと村の風景を見ていた。
逆にピカチュウはタネマシンガンのように喋るというか、カクレオンは最強とかシレンがどうとか意味の分からない事をロコンに話していた。
ロコンはピカチュウがすごい好きなようで、尻尾をピカチュウの腕に巻き付けながら話を楽しそうに聞いていた。
他のモンスターに見られるような場所で、あんまりエッチなことはしない方がいいと思うんだけどなぁ……
「そんじゃあ、三と三で別れるか」
「え?」
連絡所の前でピカチュウがそんなことを言い出した。
三匹と三匹……一体誰がこっちに……?
「はい! わたしがししょーについていきます!」
ロコンが声高に……というか師匠?
「あーと、それには複雑な事情が……お前ら、ここでは俺のことをピカチュウって呼んでくれ」
「ピカチュウ……なんか、しっかりくる」
「……うへ〜そう〜? レッドちゃんだけじゃない〜?」
「そうね……ねえピカチュウ……やっぱり猛烈な違和感が……」
「あーうるさいうるさい! 別に良いだろ俺の呼び方なんてなんでも! 元々名前無いんだし、どうせこれまでだってお兄さんだのあなただの適当だったんだから!」
「撤回を要求する」
「そうよ! 適当じゃ無いわよ!」
「そうだよ、おじさん達だってちゃんと考えてるんだよ!」
ピカチュウが四匹にまたしても詰め寄られていた。
もしかして、いつもこんな感じ?
「いやいや、なんでこんなことで引っ掛かってるんだ!? おいワニノコ、収拾つかなくなっちまったよこれ!」
僕のせいなの!?
た、確かに師匠呼びは不思議に思ったけど、変だなんて言ってないじゃないか!
いきなり呼び方を変えろとか言ったピカチュウの責任だよ!
「ワニノコさんの言うとおりです!」
「ぐぬぬぬ!」
「……あのー、連絡所の前で言い争うのやめてもらって良いですか?」
あ、ペリッパーさんだ。
おはようございますペリッパーさん。
「おはようワニノコ! ……いやそうじゃなくて、邪魔になるからここで屯さないでね?」
ごめんなさい……ほらみんなそっち寄って!
グイグイと5匹を押していくと、連絡所の前にはモンスターが通れるスペースが確保できた。
そのスペースをずんずんと連絡所に入っていく三匹のモンスター。
…………救助隊ウォリアーズ。
「……けっ、雑魚が」
「邪魔だから失せろ!」
「ほっとけ、時間の無駄だ」
足がすくむような目付きで睨み付けられ、動けなくなる。ダイヤモンドランクのウォリアーズから見れば僕たちなんてそれこそ雑魚だよね……
なお、黄色い毛むくじゃらはツカツカとウォリアーズの面々に近寄って観察していた。
慌てて止めるように言う。
「ガチグマ、アオアシラ、あと……なんだっけ」
「ちょ……! ピカチュウやめなって! ピカチュウ……!」
「…………何ジロジロ見てんだ、おい。わざなんか使わなくてもてめえなんか捻り潰せるんだぜ?」
「あ〜〜……もうそこまで出かかってるんだけど……まあいっか! お前らは何の依頼を受けるんだ?」
「は? おい、話聞いてんのか」
「おいアオアシラ関わるんじゃねえ、気狂いだぜソイツ」
「……けっ、次は潰すからな」
三匹が依頼を受けてこの場を離れると、ビリビリとした圧力も同時に引いていった。
まだ、身体が震えていた。
絶対的な差が僕たちとウォリアーズの間には存在した。
ピカチュウの行動の意図が読めなかった。
「な、何を……」
「お?」
「何であんなことをしたの……?」
「……なんで? 馬鹿だなお前は、舐められたら終わりだぜ。野生のポケモンなんだから序列ってものを分からせてやらなくちゃよお」
「や、野生……? 何を言っているの? 彼らはこの村の救助隊で……」
「そこら辺は認識の違いというか……まあ、気性の荒い奴にはあれくらいやっといた方が良いだろ」
「……今のあなたじゃあ、もし戦っても普通に殺されておしまいじゃない?」
「信頼されてないのね、ヨヨヨ……まあ、あんな奴らどうでも良いんだ」
「ど、どうでも良いって……」
ニカッと笑ったピカチュウは、まさに野望と呼ぶに相応しい事を口にした。
「俺の目標は最高ランクだ! アオアシラ風情がイキれるのも今のうちだけだぜ!」
頭が一瞬真っ白になった。
「……いやいやいや! ダイヤモンドランクになるのがどれだけ大変かわかってるの!? その上のエリートも! ……最高のマスターランクに到達したのなんて歴史上で一匹しかいないって言われてるんだよ!?」
「──そうか、喜べ! 俺たちは、救助隊として歴史上で初めてマスターランクに到達する!」
もはや絶句した。
なんの憂いも無くピカチュウは笑っていた。
ナカヌチャンが、仕方ないなあとでも言うように溜息をついた。
「はぁ、こうなったら止まらないからねえ……でも、懐かしいなあ」
「ハハハ! 最初の頃を思い出すな!」
「うん!」
「あ…………あ、あり得ないよ……」
そんな夢物語みたいな事、僕も口に出せたらどれ程楽しいだろうか。だけど僕の口から出るのは、否定の言葉だった。
「僕はブロンズランク……君たちはルーキー……一体どれだけのポイントを稼げばマスターに……それこそ、伝説のモンスター達を何度も、何体も倒さないと……」
あり得ない。
伝説のモンスターは、出会うことすらできないからこそ伝説なんだ。
そして伝説のモンスターは僕みたいな普通のモンスターよりもずっと、何十倍も強い。
一体倒せばそれだけで偉業と呼ぶに相応しい。一体でも倒せればそれだけでエリートランクになれるだろう。
そして、そんな事ができるならランクなんてもう関係無い。トライデンツですら伝説のモンスターと戦った事は無いんだから。
もう、無理なんて言葉で表すのも無理なほどだって、冷静な部分が告げていた。
唐突に、デコピンされる。
少し怒った顔のピカチュウが僕の事を見ていた。
「あのなあ……」
「3歳なんだから優しくしなよ〜」
「ぐっ……ワニノコ」
「うん……」
「夢を語れ」
「え?」
「目の前にどれだけの壁があろうと、どんな強敵がいようと関係無いんだ」
「関係無いってそんな……」
「この世界でお前が望めば、それはいつか叶う」
ほぼ根性論だった。
僕が聞きたい事と全然違った。
正直、がっかりした。
もっとこう……たしかな理由があって! みたいなのだと思ってたのに。
その思いはピカチュウにも伝わったのか、やれやれと首を振っていた。
「あーあ、これが現代が生み出した悲しきモンスターですか……ちょっと物事を知っただけですーぐ諦めやがって」
むっ……ちょっとだけカチンときた。
「そんな、何のこんきょも無い事を聞かされて信じられるわけ無いじゃん! ちゃんとしょーこを示してよ!」
「ほらもう小学生じゃんこれ……」
「なんか馬鹿にしてるでしょ!」
「そんなポカポカ叩かれても……いててて……」
「やめなよ〜も〜……お兄さんももう少しわかりやすくさぁ……」
「ピカチュウ」
「え」
「ピカチュウな?」
「…………」
「痛い痛い痛い! かなりバイオレンスだよこれ! ……ホシノ! ナカヌチャンの膂力で叩くな!」
「お兄さんだってホシノって呼んでるじゃん!」
「俺は良いの!」
「はぁぁぁぁあ!?」
「いでええええええ!!」
──────
またボロボロになったピカチュウは、そのまま続きを話した。懲りないね……
「ったく……ロマンだよ、ロマン」
「ろまん?」
「ローマというかロマンというか……情熱だ」
「情熱……」
「情熱があるから俺達はここまでやってこれた。全部がとんでもない試練だったけど、なんとかな。なあ? お前ら」
「……」
アブソル達は曖昧な顔をしながらもそれを否定しなかった。
「あれっ、なんかちょっと反応がイマイチだな……」
ナカヌチャンが半笑いでその理由を答えた。
「達って言うか、ほぼおに……ピカチュウの勢いありきだったよ」
じゃあ、これまでもピカチュウ達は何かをやって来たって事?
それなら確かに自身があるのもわかるけど……
「違う」
ピカチュウはそれをバッサリ否定した。
何が違うんだろう。
「何かをやって来たから自信があるんじゃ無い。強く思っていたからやってこれたんだ」
順序が逆って事?
「そうゆうこと……さて、最終目標は大きく持っといて何ら悪い事もない。というわけで、この話はここらへんにして今日の目標をね、はい」
……え? この流れで?
「おう、なんだっけ? あの〜……始まりの洞窟? とかいうのに行けば良いのか?」
「そんなところ無いけど……まあとりあえず、行く?」
「行く!」
そういう事になった。
そして厳正なじゃんけんにより、僕・ピカチュウ・キルリアとロコン・アブソル・ナカヌチャンで別れて今回は出発する。
ナカヌチャンとアブソルは始まりの洞窟が無いと聞いてショックを受けているようだった。
なんでだろう?
ピカチュウは何か知ってる?
「分からない、いや本当に」
依頼はグミ50個の納品。
場所は覆いの森。
簡単も簡単、僕一人でもこなせる依頼だ。
覆いの森に着くとピカチュウは大はしゃぎしていた。
「これがダンジョンかーすげー!」
「なんか、木とかがいやに整列してるわね」
君たちは、元々住んでた村では救助隊とかやってなかったの?
「やってないわね、ダンジョンに来るのも初めてよ」
そんなモンスターがいるんだね、ちょっと信じられないや。救助隊をやるにせよやらないにせよ、ダンジョンに一度くらい行く者だと思うんだけど。
あ、ほらあそこに落ちてるのがグミだよ。
「ま、マジで地面にグミが落ちてる……信じられねえよ俺」
「そうなの? ダンジョンだと普通って聞いたわよ?」
「それで納得できるお前が羨ましいよ」
ダンジョンにグミが落ちてるなんて当たり前のこともピカチュウは知らないらしい。一体どんな生活をしてたらそんなことすら知らないままでいるんだろう。
……そもそもダンジョンを通らずにどうやってチュンチュン村までたどり着いたの?
「色々あるんだよ俺たちにも」
日にちはかかったけど、結局、グミを集め終えるまでモンスターと出会う事は無かった。
いつもなら何度も戦う事になるんだけど今回はラッキーだったね。
わざわざ危ない事をする必要も無いし。
「俺はともかく、ナギがどこまで出来るのか見たかったんだけどなあ」
「私はそういうのよく分からないからあなたに任せたいんだけど……」
「俺だって素人だ」
「はいはい」
「いや、マジだからね?」
「そうですねー」
「全然信じてねえ……」
「……私に本当に戦わせる気?」
「だって今はキルリアじゃん」
「どうやってわざを出せば良いのかすら分からないのに?」
「一回使えば慣れるだろ」
わざを使うとか使わないとか、何で赤ちゃんみたいな話をしているのか分からないけど、戦いたいのかな?
それなら、グミは集め終わったけどこれからモンスターを探す?
キルリアは戦いたいんでしょ?
「そうだよ」
「ちょっ、ちがうから! ……ねえ、本当にやらなきゃダメ……?」
「良いからやってみろって、俺もついてるから大丈夫だよ」
「……でも……怖いし……」
「ヒカワを倒した時はあんなに勇ましく戦ってたじゃないか、なにが怖いんだ?」
「…………」
「これからの旅では、お前が戦わないといけない場面なんて山ほど出てくるぞ? ……ん?」
ムッツリとした表情のキルリアを見上げて何とか説得を試みていたピカチュウの耳が動いた。
どうしたの?
「いや、なんか聞こえたかと思ってな」
僕は何も聞こえなかったけど、キルリアは何か聞こえた?
「私も何も聞こえなかったよ?」
「そうか…………お? やっぱりなんか聞こえるな」
キルリアと顔を見合わせる。
ピカチュウって耳がいいんだっけ?
──────
四方八方からモンスターが集まってくる。
迷子を探すどころの話ではなかった。
こんなとんでもない場所で探索なんてまともにできるわけ無いじゃん……
お兄さん達とは別口でタネボーを探す依頼を受け、すぐにチュンチュン村から出発した。
地図を頼りに覆いの森へ…………3日もかかるような場所だとは思わなかったけどね。
いつもならソーマで情報収集するから、そういうのをどうやって調べればいいか分からなかったんだよねぇ〜……村の人たちにはまだ受け入れられていないみたいで答えてくれないだろうし、ワニノコも教えてくれればいいのにさ。
お兄さんは自称アナログ? 人間だからそういうのいっぱい知ってるんだろうけど。
覆いの森は見た事もないようなダンジョンだった。スパイクタウンの試練で行く場所にも森はあるけどこんな真っ暗な森じゃない。
樹冠が地面に影を落として、陽光が落ちる場所だけが道として照らされて迷路みたいになっている。
影の部分は真っ暗で、本当に何も見えなかった。
自然に出来た迷宮とでも言えばいいのかな? 時間と共に変わる太陽の位置のせいで、迷路は刻一刻と変化していく。自分が今どこにいるのかだって分からない。
そりゃあ、タネボーだって迷子になるよ。
私達は迷って、迷って、少しずつ覆いの森に慣れていった。モンスターとも何度も遭遇したし戦闘にもなった。
まあね、私は普段から戦ってるしモンスターの姿になるのもこれが初めてじゃない。レッドちゃんもいるし、戦うの自体は余裕だったよ?
……でも、全然タネボーが見つからなかった。
痕跡も見つからない。
時間ばかりかかった。
森で彷徨うのはかなり体力を使うから、本当なら熟睡したいところだったけどモンスターは夜もやってくる。
だんだんと疲弊していった。
そして、流石におかしいと感じていた。
いくらなんでも、ルーキーランクの受ける依頼がこんなに難しいわけが無い。
騙されたのかもしれない。
まさかペリッパーが早速そんな事をしてくるなんて……とは思いつつも、抜け出す事は難しかった。
既に私たちは、覆いの森の奥深くまで来てしまっていた。
この状況、お兄さんがいれば全部吹き飛ばして解決してくれたのだろうか、そんな馬鹿な事を考えるくらいには疲労も溜まっていた。
そして、一旦休憩しようと場所を定めて荷物を置いた時だった。
レッドちゃんが目を閉じて耳を澄ましていた。一匹だけ何かが聞こえているようでしばらくの間そうしていたけど、やがて私たちにも聞こえるようになった。
『歌声……?』
明らかに、誰かが歌っている声だった。どこから聞こえているのかも分からない──ただ、間違いなくそれは歌声であり、こんな場所に似つかわしく無い神々しさだった。
だから……気が抜けてしまっていたんだろう。
獲物を狙う目つきのモンスター達が私達を囲んでいるのに気付くのが遅れてしまった。
レッドちゃんと背中合わせになる。
「アイリちゃん、私たちの間に隠れて」
「は、はい!」
ハンマーを構える。
レッドちゃんはシャーッと牙を剥き出しにして威嚇をした。
私たちを囲んでいたのは見た事も無いモンスターだった。
「オマエラ クウ」
「ヤワラカイ ニク ウマイ」
「ニコンデ クウ」
「流石にこの状況……おじさん達も容赦しないよ〜」
強がりを口にはするものの、冷や汗が出る。
モンスターは、その数がとんでもなかった。カタコトで喋るソイツらの足元にはグラエナやイヌヌワンなどもいて、狩りの対象として見られているのは明らかだった。
「えいっ!」
レッドちゃんが爪を光らせ、近付いてきていたグラエナにきりさくを食らわせた。
ちょっと動きはぎこちないけど、戦えるみたいだね。
おじさんも、いっちょやってやりますか!
「うへ〜こういうのはガラじゃないんだけど……二人を守るためだから頑張るよ!」
「お、お願いします!」
「ホシノ、気を付けてね」
「ウゴク ニク ヒキシマッテテ ウマイ」
「ヤッタ ヤッタ」
とはいえ、視界を埋め尽くすモンスターの群れ。これはちょっとばかし、キツい戦いになりそうだね〜……
どれくらいの時間が経ったか、何も分からない。1分か、1時間か、1日か。
ハンマーを思いっきり振り抜いた。
硬いものにぶつかる感触が手に伝わる。
「はぁ……はぁ……まだまだいけるよ〜?」
飛び込んできたストライクを吹き飛ばして、次にやられるのは誰かを見定める。
あのモンスターは悔しそうに歯を噛み締めていた。
ここまでしてでも、私達を食べるのが諦め切れないらしい。
そしてまだまだ現れる、配下らしきモンスター達。
「ニク シブトイ」
「ツカレテル モウスコシ クエル」
「……ぐっ……はぁ、はぁ……やあ!」
レッドちゃんも機動力を活かして撹乱してくれていた。だけど、そろそろスタミナも尽きそうだ。わざを出せるのだって今ので最後だろう。
…………!
「アイリちゃん、あぶない!」
「あっ……」
危うく、投石がアイリちゃんに直撃するところだった。ハンマーで何とか弾いたけど、このままだと本当に、アイリちゃんを守るのも限界だ。
「あぅ……」
レッドちゃんが地面にへたり込んでしまった。目尻が力無く垂れて、体力の限界を表している。
まともに寝れていないから当然の結果と言えた。
もうどうする事もできなかった。
一人だけ動けたところでなんの意味も無い。
ただ……諦めようとは思わなかった。
もう何も、失いたくなんて無いんだから。
ハンマーを構えて、身の内にある不可思議な力を感じ取る。お兄さんに指示されている時のような万能感は無いけど、それでも、今出来ることを全力でやる。
力を引き出していき、レッドちゃんに近づいて行くモンスター目掛けてハンマーを投げ付けようとして──空中を静電気が走った。
「……遅いよ」
「ピ」
「後は任せたよ〜……」
「カ」
意識が遠のいていった。
「ヂュウ゛〜〜!!」
──────
やあ! 俺の名前はピカチュウ!
得意技は万ボル!
グミを集め終えてキルリア達と話していたら歌が聞こえて、それに釣られて覆いの森の奥に進んだら3匹のポケモンが襲われてたんだ!
相対するは無数のポケモン達!
…………うん、モンスターハウスだね! なんでこの子達はこんなところに来てるんだい?
とりあえず──
「ビガヂュウ゛〜〜!!!」
「声が汚すぎる……」
くそかわピカチュウボイスと共に万ボルで焼き尽くした。
数が多いから一掃させてもらったぜ。
黒く焦げたゴミカスどもは放っといて、疲労困憊のアブソル、ナカヌチャン、ロコンを回収した。なんか帰り道に迷子のタネボーも見つけたのでついでに回収して、一旦野営でござる!
起きたホシノ達に、なんであんなところまで入り込んでたのか聞いてみた。
まず、覆いの森に慣れるまで時間がかかってしまい、そこからタネボーを探し始めたんだけどモンスター達が襲ってきて全然休めなかったらしい。
俺たちと全然違くて草ァ!!
アレだぞ、俺たちはのんびり遠足しながらグミ集めてたぞ!
……まあでも、よく頑張った!
「タイミング測ってたりした〜?」
バカな事を言うなと説教したい気分だったが、寄りかかってくるナカヌチャンからは心底の安堵が感じられた。
アブソルもすげえ頑張ったっぽいし、両側から寄りかかられて押し潰されそうになってるのも許してやる。
ロコンもよくパニックにならなかったな。
「あの……さっきのは?」
ワニノコが恐る恐るといった感じに聞いてきた。
さっきのはモンスターハウスだろ?
知らないの?
「知ってるよ! そうじゃなくて、さっきのわざ……」
お前10まんボルト知らないの?
「……あれが10まんボルト!?」
何驚いてんだ、見た事無かったのか? まあ、使えるポケモンがいなきゃ見る機会も無いか。
……あ、だから村でカミナリ使った時も村民どもがあんなに過剰な反応してたのか!
「み、見た事ぐらいあるよ! でも……あんな威力じゃなかったよ!?」
それってあなたの感想ですよね?
もっと色々な10まんボルトを見てから評価して欲しいんですけど。
「な、納得いかない……でも!」
でも?
「やっぱり凄いじゃないか! レベル1なんて嘘だよ!」
その話まだ続ける?
じゃあいいよ、俺のレベル100な。
「…………」
「ピカチュウがはぐらかしてる時はマトモに会話しようとしても無駄よ」
ピカ!
……それで、なんでこんなところにいたのかな? タネボーくん。
「お母さんにお花をプレゼントしようと思って……気付いたらこんなところに……」
ええ……
迷子の才能に溢れてるな……?
「でも変なんだ……チュンチュン村からそんなに離れたところにいなかったはずなのに……」
神隠し一歩手前じゃん。
気を付けろよ?
下手に神様の世界に迷い込むと豚にされて、2度とお母さんの元に帰れなくなっちまうからな。
「ひぇぇ……」
一旦ナカヌチャン達を休ませてから村に帰ろうか。
──────
「おがあざぁぁぁぁん!!」
「ばか! 危ない事して!」
ひしっと抱き合う親子。
感動した。
とりあえず2組とも最初の依頼クリアーだな!
……おいペリッパー、それで済むわけねえよな?
「いやいや、本当にルーキーランクの依頼なんですって……ワニノコさん……」
「うん、迷子探しはルーキーランクのやる依頼だよ」
うーむ……本当にそうだとしたらうちの三人組がおっちょこちょいだって事になってしまう。
……ペリッパーさんはアブソルたちが、ルーキーランクの依頼すらマトモにこなせないポンコツだって言うんですか!?
「おじさん達貶されてる?」
「うん、しめよう」
まあ、報酬はもらえたし良しとするか。
……今日はこの金で美味いご飯を食べるんじゃ!
ヒャッホー!
「ストップ」
「確保〜」
な、なに!? この俺がいとも容易く捕まるだと……!? あり得ない……こんなのは……!
俺は今から最上級アプトノスステーキを食べにいくんだい!
「ししょー、お家のためにお金貯めるんですよね?」
ピカチュウそんなの知らない!
俺は美味しいご飯を食べれればそれでいいの!
「じゃあ4対1で私たちの意見が優先されるから必要分以外のお金は貯金に回すわね」
(;▽;)
「泣いても無駄だから」
「師匠、ヨシヨシしてあげますからね〜」
ペリッパーにキレたふりをして報酬で飯を食う策は呆気なく砕け散ったのであった……
冗談は置いといて、あの歌は一体なんだったのか。結局ワニノコとナギにも、それにレッド達にも聞こえていたらしいし、間違いなく何者かが歌っていたんだ。
森の歌姫……そんな存在でもいるのか?
俺が思い当たるようなポケモンはいないからコータスにでも話を聞きたいところだが、会えるかどうか。
「帰れ」
これだもんなあ……
少しくらい会わせてくれよ真面目な話なんだから。
「僕も真面目に言っているんだ」
「もっと実力を付けてから話に来い……戦闘力に限った話では無い、村の者に信頼されてからという事だ」
ちぇー……じゃあ長老じゃなくて良いから、あんたらの話を聞かせてくれよ。
「我々も暇では無いのだが」
歌姫の伝説とか知らないか?
覆いの森で歌が聞こえてきたんだけど。
「聞いた事ないね」
「歌姫……知らんな」
役に立たねえなこいつら……
まあいいや、ありがとよ。
ほれリンゴあげる。
じゃあな。
「リンゴ……僕たちは仕事中だと言ってるんだけど」
「ありがたく頂こう」
「ええ……」
「毒を盛ってるわけでもあるまい、食えるもんは食っておく」
「……それにしても長老は一体何をしていらっしゃるんだ? こんな遅くまでお一人でなんて──」
「知ってどうする? あのピカチュウにでも教えるのか?
「…………」
「今、我々が越権行為をしたところで何になる」
「連れないなぁ……」
……へぇー、本当にいないんだ。
じゃあカイロスもヘラクロスもちゃんと答えてくれてたんだな。
上方修正っと。
家に帰ると、ロコンが寝そべりながらキルリアに愛でられていた。わしゃわしゃと腹を撫でているキルリアはとても穏やかな表情をしている。
ロコンはいわゆるヘソ天状態で、かつては俺もイッヌとああして戯れたものだ。
まーぜーて。
「わああ!? お、おかえりなさいです師匠!」
ただいまですアイリ。
なぜヘソ天をやめてしまったんだい?
仲間はずれは寂しいぞ。
「……察しなさいよ」
じゃあ人間の姿なら良いんだな?
「あわわわ……」
アイリは丸くなってしまった。
いいもんいいもん! 今は代わりにアブソルをモフるんだもん!
「おかえり」
ただいまレッド。
……ハァハァ……おいたんがモフモフしてあげるからね……
「気持ち悪い」
そんな目で見られてモフるのはやめない!
……ビロードみてえな毛質だぁ。
「こんな状況でもお兄さんは変わらないね〜」
屋根の板を一枚分だけ修理したぞ!