俺はポケモントレーナー   作:goldMg

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3_マタナキタウン

 木、木、木。

 一面木だ。

 うねる樹木の一本一本が俺の背丈を遥かに超える幅を有している。街並みを形成するのは樹木が歪んでできた空間に嵌め込まれた建造物だ。

 やっぱ街の入り口ではIDを確認されるらしくて、提示したら何度も顔を見られた。

 警戒心強すぎだろ。

 レッドは顔を知られてるのか形式的に見せただけでハイハイって感じだったのに。

 あれか、やっぱ人型のモンスターの中にはやべえやつが混じってるんだろうな。

 ホシノ、過去にどっかの町でやらかしたりしてねえよな? 

 何で驚いた顔してんの? え? 現在進行形で俺がやらかしてる? 

 んなわけあるか。

 は? 木の根を踏んだ? 何言ってんの? 

 踏むだろそりゃ、歩くんだから。

 え、条例? この街では木の根を踏んではいけない? 頭アメリカかよ。

 え、まじ? おいおい……

 

 えーどうも、マタナキタウンやばいです。

 今俺は牢屋に入ってます。

 やばいでしょ、裁判すら無いんだぜ。レッドとホシノの必死の抗議も虚しく、というかあれ以上はアイツらもぶち込まれるからな。

 大人しく入りましたよ。

 狂ってるよこの街の司法。

 おい隣のあんた、あんたは何やらかしたんだ? 

 え? たばこを吸った? 

 喫煙所とか無いの? 

 ヤニカスに厳しい世界だな。

 うーん……俺の旅はここで終わりそうだな。

 …………この街の法律は頭悪い! 

 

「うるさいぞ!」

 

 本当だからだ! 

 …………あー虚し。

 なあアンタ、他にこの街のルール教えてもらって良いか? 

 木を大事にする? 

 でも家とか木をくり抜いて作ってるみたいだったけどあれはどうなるんだ? 

 え? シンリンカムイ? 知らん、誰だ。

 ジムリーダーなの? それで? 

 そいつの能力で木を自在に操って出来たのがこの街? 

 そいつ絶対ポケモンだろ。

 そもそも木の意思を無視して家とか作るのはどうなのって俺は思いますけどねえ! 

 そもそも俺は初めてこの街に来たんだからそんな常識知ってるわけねえだろ! 

 ちゃんと掲示しとけ、バリアフリーの精神を忘れるんじゃねえ。

 え? 看板に書いてある? 

 大きい文字で? 

 あー俺文字読めないから。

 おい憐れむな、別に捨て子とか野生児とかじゃねえよ。

 記憶喪失なだけだ。

 何でもっと可哀想なものを見る目になってんだよ。

 

 名前? ポケモントレーナー。

 あの? ってどのだよ。

 ていうかポケモントレーナー俺以外にもやっぱいるんじゃん、どんなやつなんだよ。

 え? フルオカタウンで衛兵を全員倒して金を奪った? ジムリーダーからバッジを強奪しようとした? 女の子を戦わせて自分は後ろだけで見ている? 

 …………俺じゃ無いな! 

 ところで、その情報はどこから手に入れたんだ? ……あぁソーマね、はいはい。俺あんまりソーマ見ないからさ。

 え? ポケモンって何だろうなって……ポケモンはポケモンだろ。ポケットモンスター、略してポケモン。

 ポケットはなんの意味があるかって? 

 うるせえ! さっさとモンスターボール開発しろ! 

 まあ出来たとしても俺は使わないと思うけど。ホシノをボールに閉じ込めるのはちょっと絵面がね……

 

 アンタはここに入ってどれくらいなんだ? 

 へー明日には出られるのか、意外と軽いんだな。

 まあタバコ吸ったぐらいで何年も牢屋に入れられる羽目になるのはおかしいしな。

 いや、俺は吸わないから紹介しなくて良いよ裏ルートなんて。

 ……どうすっかなあ、すぐ釈放されるかねえ。

 え? 3日? そうなんだ、初犯は軽めなんだな。

 3日か……のんびりしようかな。

 しばらく牢屋で休んで、出所したら街巡りだ、レッドに観光地とか聞かなきゃな。

 え? あのレッドかって? 

 だからどのレッドだよ。

 俺が知ってるのは13歳の女の子の方だけだよ。

 あ? ジムバッジ最年少記録? 日本語話せよ。

 あー全部集めるのが早かったのね? まあレッドだしな。去年四天王に挑んで負けた? 

 まあポケモンバトルだしそんなことも有るだろ。

 

 

 ──────

 

 

 やっぱ2日で牢屋飽きたわ。

 ヤニカスが出るのに合わせておれも出てきた。何故かヤニカスは驚いてどっか行ってしまった。

 あいつ名前なんて言うんだろ、結局分からなかったな。

 そのあとは2人を探してあっち行ったりこっち行ったり。挨拶したらみんな愛想良く返してくれるし結構良い街じゃんここ。なんか花屋とかあったから中に入ってみた。

 

「いらっしゃーい」

 

 花に詳しくないんでちょっと聞きたいんですけど。

 

「誰かへのプレゼントですか?」

 

 ええまあ、相棒と……みんなの憧れの存在、にこれからなる、みたいなヤツですね。

 

「それなら、ベンジャミンと……このフリージアかしら」

 

 んー……なんかちげえな。

 すみませんね、わざわざ教えてくれたのに。

 

「いいえ、あなたが誰かを思う気持ちそのままに花を選べたなら、それが最も良いでしょうから」

 

 ううん……まあ今はお金無いから買えないんだけど……

 

「でてけ」

 

 ええ……

 

「金が無い奴は客じゃない、出てきなさい」

 

 はい……

 

「あ!」

 

 お? ホシノじゃん、どうした? 

 え? 何で外にいるのかって? 出てきたからに決まってんだろ。

 俺にもっと牢屋で反省してろって言ってんのか? あんな意味わからんルールはクソ喰らえだ。

 何で頭抱えてんの? 

 腹減ったし飯食いに行こうぜ。

 どうした溜め息なんて吐いて、心配して損した? 失礼過ぎだろ。

 いや俺の牢屋物語なんてどうでも良いんだよ。シャバに出たらこの街の観光スポットとか調べようと思ってたんだよ。

 前に来たことがあるんだろ? 折角だし飯屋探しながらそこら辺のこと教えてくれよ。

 

 この街で1番有名な場所ってどこなんだ? ……グリーンスカイロッド? かっこ良過ぎだろ何だその名前。

 何の場所だよ。

 電波塔? あーそういうね。

 もしかしてここって大都会? ……あーやっぱり

 そうか、牢屋がある場所なんて隅っこに決まってるよな。

 ちなみに大きさはどれくらいなんだ? 

 直径3km、高さ3km? いやデカすぎだろ、絶対行くわそこ。ん? ってことは今見えてるあの細長ーい山がそれって、コト!? この街に来るまでの間にもちょくちょく見えてたけど、マジかよ。

 スカイロッドの下は観光スポットたくさんある感じか? ……まああるよな。

 ちなみに展望台はどこにあんの? 2km地点と2.5km地点と2.8km地点? 

 スカイツリーが泣いてるぞ。ん? スカイツリーは俺の地元の電波塔だよ、高さは634mだ。

 いや、田舎じゃないんだけどな……まあ説得力無いか。

 それで今はどこに向かってるんだ? 

 え? 定食屋? 良いじゃん、どんな飯が食えんの? 

 野菜多めなのか、センスあるじゃん。

 旅は肉ばっかだったからな、そういうので良いんだよ。

 ……あれ、そういやレッドはどうしたんだ? いや、忘れてた! じゃないから、いきなり駆け出さないで? 結局あの子どうしたの? 

 ……ずっと抗議してる!? 警察署で!? 何やってんのあの子!? 

 こりゃのんびりしてられん! 

 ホシノ! 担ぐぞ! 飛ばしてく! 

 

 

 ──────

 

 

「早くお兄さんを返して」

 

「いや、だからね?」

 

「返して」

 

「うーん……」

 

 レッドの相手をしている婦警は困り切っていた。木の根を踏んだという、初めてこの街に来た旅行客にありがちな犯罪を犯した青年を、いつものように牢屋に入れた、らしい。私はその時担当してないから知らない。二度としないように教育の意味も込めてそうするようになっている。もちろん犯罪歴などはつかない。栄えているマタナキタウンを守るためには必要な事だった。

 そうしたら、なぜか有名人が抗議しに来た。

 

 10歳で旅を始めてわずか2年で全バッジを獲得したレッド。四天王に負けて以降は、あまり目立つような事をしていない為かメディア露出も減っていたが、それでもその功績はあまりにも煌めいていた。多少見なくなったからと言ってすぐ忘れるものでも無い。この世界で最年少記録保持者になるという事はそういう事だ。

 それで、彼女は何故ここまであの青年に拘るのだろうか。レッドの噂といえば、パートナー達と共に立ちはだかるプレイヤー達を薙ぎ倒していったというものだ。言葉少なく、クールで、人と馴れ合わない。そんな人間だと思っていたわけだが……

 

「えーと……何回も言ってるんだけどね? これは一応街のルールだから、今すぐにはあのお兄さんは出て来れないんだ。知ってるとは思うけど」

 

「無理」

 

「えーと……」

 

「遊びに行く約束してるの」

 

 弱った、この子を対応していたらいつまで経っても書類の業務がこなせない。誰かヘルプを……そう思って後ろを振り返るも、誰も目を合わせない。薄情な奴らめ……

 そう思うも目の前の少女は引く気が無さそうな目をしている。

 うーん……そもそもこっぱの私に言われても困るんだよなあ。そういうのはどうせならジムリーダーとかに言ってくれればなあ……上からの指示っていう建前があれば出せるかもしれないのに。

 そう思っていたら、別の少女が来た。嘘でしょもう1人来るの……さよなら、私の帰宅後のんびり入浴タイム……

 絶望に打ちのめされ、覚悟を決めた婦警の予想に反してピンク髪の少女はレッドを説得しようとしているようだった。

 

「一旦戻ろ?」

 

「やだ」

 

「ほら、お腹も空いてきたでしょ?」

 

「全然空いてない」

 

「んー……」

 

 やれ! ピンクちゃん! その子を説得するんだ! 私のお風呂タイムを取り戻せ! 

 

「レッドちゃん、あのね……」

 

 ピンクちゃんがレッドちゃんの耳元に口を寄せて何かを囁くと、レッドちゃんがバッと顔を上げた。

 すると出口に向かうピンクちゃんの後に素直について行った。

 

「ご迷惑おかけしました〜」

 

 ホシノが謝る声を背に、レッドが警察署の扉をくぐると、青年が壁にもたれかかっていた。

 

「よっす」

 

「……よっす」

 

「ノリが分かるようになって来たな? ……お腹空いてるだろ」

 

「うん」

 

「さっきは空いてないって言ってたのに〜」

 

「知らない」

 

「え〜? うりうり〜」

 

 からかってくるホシノから逃れて青年の後ろに隠れるレッドとそれを更に追うホシノ。2人は青年を中心にして追いかけっこを始めた。

 片眉を上げている青年はそれをしばらく黙って見ていたが、やがてしびれを切らしたのか2人を担いで走り出す。

 

「俺が腹減ってるっつってんだろうが!」

 

 完全なる並行移動により肩の上の2人に全く揺れを与えず移動する青年だったが、その動きのあまりの滑らかさによりそれを目撃した市民から「マタナキのオオゴキブリ」と名付けられた。

 マタナキにはオオゴキブリが出る。

 そんな話が街には噂として残り続けた。

 

 

 ──────

 

 

 レッドを回収後、ホシノの誘導によって定食屋にやって来た俺はやっとまともな飯に辿り着けると思っていた。扉を開けて店の中に入る。

 あっちの世界でも良くあったような内装だ。カウンター席に着こうとしたら何故かボックス席に引っ張っていかれたがまあ良い。

 通路側にレッド、壁側にホシノ、正面にリザードンが座った。……狭いんだが? せめてレッド、お前はリザードンの隣座ってやれよ、パートナーだろ。何で三対一の構図になってんだよ。

 うるさい、じゃないが? 

 ……はあ、じゃあ俺がリザードンの方に行くから。ほら、ちょっとどいて。

 …………どいて? 

 何だホシノ、別に良いじゃんって……狭いんだが? 

 いや、違うぞレッド、別にレッドのことが嫌いなわけじゃないから。なんでいきなりメンヘラの会話になった? 

 

 もう良いわ……ほら、リザードンは1人でメニュー見てくれ。俺たちは3人で見るから。

 え、もう決まったのか? リザードン、お前決めるの一瞬じゃねえか。パラパラって流し見たアレで決まったの? 

 じゃあレッドとホシノ、メニュー表2枚あるから先に選びな、俺は後でいいから。

 ……いや、お前ら両脇でそれぞれ一枚持ってるのに、その2人と同時に見ようとしたら愚地独歩にならないと無理だから……いいから先に選べっつってんだろオラァ! 

 ん? リゾット? 美味いぞ、俺はチーズかけて食うのが好きだな、この店にあるかは知らないけど。食ったことないのか? 

 あぁ、そういえばレーション三昧でしたねレッドちゃんは。……いてっ突くな突くな、ひよこかお前は。

 あ? ワイン? 未成年に酒なんか飲ませるわけないだろ俺が。脳みそ萎んでダチョウみたいになっちまうぞ。

 ダチョウ知らないの? 2mぐらいのでかい鳥だよ、運動能力特化に進化したから3歩歩いたら全部忘れちまうらしい。

 俺みたい? 余計な事を言うのはこの口か〜? 

 全く……いや、レッドの頬は摘まないから。

 なんで摘んで欲しそうにしてんの? ……分かったよ、それじゃあ失礼して、ほい。

 嬉しそうにしてるし……うん、やめよう、店員さんにヤバいやつだと思われちゃうから。

 もう遅いんじゃないかな〜、とか言うな。

 リザードンも賛同するな、お前は人間の倫理観とか分からないだろ。アレか? レッドと色んな街行ったから人間のそういう機微みたいなの分かるようになったのか? 

 

 それでお前らメニュー決めたの? 

 まだ決めてないの? 今の時間なんだったの? 

 え、読み慣れてない? もっと外食しろ。

 もう良いわ、ホシノ一緒に見るぞ。

 ……ドリアとサラダ大盛りとチキン南蛮で良いや。

 いや、早く無いから。葉っぱさえ食べられれば何でも良いんだわ。

 いや待てよ、ここはドリンクバー無いのか? ……チェーン店でも無いのにあるわけないか。

 じゃあとりあえずクリームソーダでも久しぶりに飲むか。いや、昼飯なんだから何飲んでも良いだろ、じゃあホシノはコーヒーで良いんだな? 

 はいはい、クリームソーダ二つね。

 レッドは決まったか? 

 クリームソーダがどんな飲み物か? えぇ……甘くてシュワシュワしてる飲み物だな。

 レッドもそれにするか? 

 じゃあクリームソーダ三つだな、流石に食うものも決まったな? 

 ん……あれ、呼ぶボタン無いのか? 

 え? メガネの機能でもう呼んだ? あの……格差が凄い……

 

 

 ──────

 

 

「ご注文承ります」

 

「えーと、レッドがドリアだけで良いんだよな? じゃあドリア二つ、サラダ大盛り一つ、ホシノはおすすめランチだよな? それを一つ、あとチキン南蛮一つ、リザードンはパートナー用骨付き燻製肉3つで。あと飲み物はクリームソーダ三つと水も一応三つ下さい」

 

「はい、承りました。少々お時間いただきますがよろしいでしょうか? ロリコ……お客様」

 

「え? …………ああ、はい大丈夫ですよ」

 

「それではごゆっくりー」

 

「……なあホシノ、なんか今、あの店員とんでもないこと言おうとしてなかったか?」

 

「気のせいだよ〜」

 

「そうか……ホシノが言うならそうか……」

 

 そうだよな、店員がお客に向かってそんな……そんな事言うわけないよな……

 

「ねえ」

 

「どうした?」

 

「ロリコンってなに」

 

「…………」

 

 やっぱ言ってるじゃん、あの店員言い掛けてたっていうか言ってたじゃん! 

 やべえよ、どう説明すんだよ13歳の女の子に、めっちゃ気まずいだろロリコンの意味説明すんの。

 とはいえレッドの期待を裏切るのも……

 

「ロリコンってのは、だな……」

 

「うん」

 

「可愛い女の子を、大事にするやつ、みたいな……」

 

「……そう」

 

 ギリギリで誤魔化した、マジでギリギリで誤魔化した。

 

「避けたね〜」

 

「嘘はついてないから……」

 

 お前も十分ロリだから……お前も原因の1人だから……

 

 

 ──────

 

 

 届いた昼飯に舌鼓を打ち、リザードンの食いっぷりにいつもながら驚嘆しつつも、次の予定について考える。

 今が13時だから……そこまで遠いところには行けないな。なんか公共交通機関とかあれば……せめて自転車でも良いんだけどな。

 なんか無いのか? ……バス? 

 悪くは無いか……

 なんか近場で行けそうな所あるか? 

 ……いや待て、そういや野営の道具とかどうした? あの時お前らに預けたよな、まさか後から警察に押収されてたりする? 

 そうか、宿に預けたか。それなら街を出る時に回収すれば良いか。

 じゃあ気兼ね無く観光できるな、色々な場所行くぞ。

 

「少々、待ってくれ」

 

 ん? あんた……誰だ? 

 

「……シンリンカムイ」

 

「グルルルル……」

 

 シンリンカムイ? 誰だ? 

 

「久しいな、レッドくん。そちらの君も……以前に挑んでくれた子だね」

 

 あれ、なんかどっかで聞いたような……どこだっけ……

 

「君は……君が、ポケモントレーナーだね?」

 

 ん? 俺のこと知ってんの? 

 そうだよ、俺はポケモントレーナー、ホシノのトレーナーだ。

 

「ふふふ……街に来て早々問題を起こすとは、聞いていたより更に面白いやつだな」

 

 いや、名乗れよ。あんたはどこの何だよ

 

「おっと、そうだったな。失礼、我の名前はシンリンカムイ。登録名はカムイ、この街のジムリーダーだ」

 

 そうなんだ。ホシノ、お前の対戦相手この人だからちゃんと覚えておけよ。

 

「う、うん……忘れないよ」

 

 ん? ……そうだな。じゃあカムイ、俺たち今日は観光するからまた今度な。

 

「待て待て、気が早いな君たち、というか君は。そもそも観光しようにも警察から追われてただろう君」

 

 あ、忘れてたわ。

 

「……なるほど、コレがあの街でホシノくん、君を押し上げた要因かな?」

 

「そうだよ〜、凄いでしょ〜?」

 

「ああ、イカれてるな」

 

 本人の前で言うんじゃねえよ、クッソ失礼だわ。

 

「まあ、君たちが観光しようが自由だ。手違いという事で、警察の警戒は解くように通知してある」

 

 おっ、権力者っぽい発言、ありがとな、カムイさん。

 

「ははは、気にしなくて良い。テッセンさんから頼まれてるからな」

 

 そうか、テッセンさんには感謝を伝えておいてほしい。

 

「それは君たちがまたフルオカタウンを訪れた時に直接言うべきだね」

 

 ちげえねえ、そんじゃあ、そろそろ行くか。

 

「ああ、我の街を存分に楽しんでいってくれ」

 

 ん? 

 

「……なにか?」

 

 ……あぁ〜そういう事ね。

 

「何だい?」

 

 いや、じゃあ行くわ、会計済ませてからな。

 

「そうか、では我が先に出ていくとしよう」

 

 ああ、警察の件ありがとうな。

 ……行ったか、リザードン、もう睨まなくて良いぞ。

 

「うへ〜あの人苦手なんだよねえ……」

 

 まあ、その直感は合ってるんだろうな。あーあ、グリーンスカイロッド行きたかったのになぁ……

 

「行かないの?」

 

 うん……ちょっとやめとこうかなあ、と。

 

「なんで?」

 

「そうだよ〜あんなに行く気満々だったのに〜……おじさんもちょっとだけ興味あったな〜」

 

 うーん、お前らに話すのもなあ……なあ? リザードン。

 

「ガル」

 

「……隠し事?」

 

 そうだな……そういうことだ。

 暫くはスカイロッドには寄れねえよ。

 分かんねえけどな? 

 

「どういうこと?」

 

 やめて! 深掘りしないで! 

 

「教えて」

 

 やめてよ! 僕をいじめないで! 

 

「良いから教えて」

 

「教えろ〜!」

 

 おい、お楽しみモードに入るな、ゆさゆさすんな。聞いても楽しい事なんか無いから。

 ホシノも乗っかるな。両側からゆさゆさすんな。伸びちゃう、服が伸びちゃうから! 

 

 

 ──────

 

 

 2人の猛追を躱して、現在泊まっているという宿に来た。2人ともここに泊まってるのか、部屋は2人で一つ? まあいいんじゃないか、お前らも結構打ち解けたしな。

 それじゃあホシノ、宿泊代くれ。……いや何でもヘチマも無いが? 宿を借りるんだよ、俺に野宿しろってのか。

 は? いや良くないぞ、同室なんかダメに決まってんだろ。

 お金渡さなくて良いよ、とか言うなレッド。何で管理者が2人に増えてんだ、お前は財布別だろうが。

 ……は? ……資金まとめた!? いや、レッドは旅でめっちゃ金稼いでるんだからそんな意味わからんことしなくても……ああ、そうか、お前仕送りしてたのか。

 ……誤魔化されないからな? お金の管理はきちんとしなさい。いや、俺の浪費癖とそれはまた別の話だから。

 俺とホシノはトレーナーとポケモンって関係だからそれで良いけどレッドは違うだろ? 自分で稼いだ金はちゃんと自分のものとしてカウントしなさい。

 ……いや違うから、レッドは仲間じゃないとかそんな事思ってないからな? ただ、自分で稼いだ金は自由に使えるようにした方がいいからという……なあ? ホシノ。

 いや、何でお前もそっち側なんだよ。

 

 ……リ、リザードン! そうだよな!? やっぱり味方はお前だけだ! 

 もうウチの子になれ! 俺と組めば三食骨付き肉、メスリザードン選び放題の高待遇だぞ! 

 ──モフモフでお日様の香りがするぜ……もう今日は野宿するから俺のベッドになってくれないか? 

 あいてっ、正拳突きするなレッド……あれ、ホシノだ……いてっ、ウチの女子組いてっヴァイオレンス過ぎるいてっ。神心会門下生かな? 

 

 結局ホシノとレッドを説き伏せて金を手に入れた俺は2人が泊まっている部屋の隣を取った。

 風呂から上がって、いちごミルク片手に廊下のベンチで身体を冷やしていたらチョンチョンと横から突かれた。

 あれ、レッドじゃん。やっぱ風呂の後は髪下ろしてるんだな。いつもは髪束ねて帽子に収めてるしな。

 ホシノは? 

 ほー、じゃあお前は先に部屋戻る感じか。

 俺? 俺はもう少し涼んでくわ。

 これ? いちごミルク。

 ……売店行くか? まだいちごミルク売ってたからな。

 

 ほら、これがいちごミルクだ、飲んでみな。

 美味しいだろ? 

 じゃあ俺は宣言通り涼んでから部屋戻るから。

 え? 一緒に涼む? 

 そうか。

 じゃああそこのベンチでな。

 

 さて、明日はどこ行こうか。

 ……え? グリーンスカイロッドに行きたい? いや、昼間も言ったけど、とりあえず今はやめとこうかなって。

 そこ以外にしようぜ。

 服が見たい、か、どうすっかな……そしたら明日は別行動にしよう、そんでホシノとレッドは楽しんでこい。俺は一旦街の地図情報を頭に叩き込まなきゃならん。

 一緒に? ……いや、やっぱダメだな。

 おいおい不貞腐れるなって、暫くしたらスカイロッドも行けるようにもなるだろうさ。リザードンにも聞いてみると良い。

 お、ホシノも来たか、今? 明日何するかって話してた。

 レッドは服を買いたいらしいから2人で観光しててくれ、明日は別行動だ。

 え〜、じゃない。それに、四六時中一緒にいたらおかしくなっちまうよ。偶にはお前らも俺から少し離れて周りを見た方がいい。俺なんかよりもずっと大事な事があるかもしれないぞ? 

 だからホシノ、あとで金くれ。

 宿の女将がゴミを見る目で通り過ぎてった……

 

 

 ──────

 

 

 2人と別れた俺は、街を隅から隅まで探索してみる事にした。ゴミ箱の中を漁ったり、花壇を漁ったり、路地裏を漁ったり。俺が気付かなかっただけでアイテムとか落ちてるのかもしれねえな、と思ったのだ。

 別に何も見つからなかった。

 そこらへん歩いてる人に、回復アイテムが落ちてる事って無いのか聞いてみたら、あるわけないそうだ。

 まあそうだよな、俺もあんまり期待してるわけじゃなかった。

 警察に聞いてみても、落とし物は届けるように言われただけだった。

 当たり前だった。

 

 植物園があるというので行ってみる事にした。この、木で形成された街の植物園、一体どれほど珍妙なのか気にならないわけがない。

 チケットを買う前に受付で中の事について聞いてみると、街の外の森の一部を植物園と呼称しているようだ。

 どうやら、操作された樹木しか見た事が無い人や子供のために作ったサファリパークみたいな感じらしい。

 なんか話に聞くとポケモン見つけられるとか、見つけたらパートナーにしても良いとか。

 安全管理はどこ行ったんだよ安全管理は! 子供がポケモン見つけてマトモに相手出来るわけないだろ! 想像を働かせろ! 子供が熊と遭遇して友達になれると思うか!? 

 

 受付でそんなようなことを言ってみれば、子供がくる時はお金を払ってボディーガードを雇うとか、武器を持って来るのが普通らしい。

 やり取りをしている俺のそばを、おそらく10歳になりたてなのであろう子供と女の子が通って行った。女の子は俺が見たことのないポケモンを連れていた、おそらくアレが今聞いたボディーガードなんだろうな。

 えーなんか……行かなくても良いような気がしてきたな。

 要は普通の森だろ? 

 金払ってまで見るものじゃないだろ、街から出れば良いんだから。

 そこらへんどうなの? 

 

「ここならビーコンですぐに情報が届きますけど、普通に街を出るとそうはいきませんからね……」

 

 なるほど、一応安全対策みたいなのはしてあるんだな。

 まあ、俺が行く意味は無いってことだ。いろいろ聞いて悪かったよ、お姉さん。

 

「いいえ〜」

 

「お待ちになって?」

 

 ん? ……どうした嬢ちゃん、迷子か? 受付がそこにあるからあのお姉さんに道聞きな。

 

「全くもって違いますわ!」

 

 じゃあどうしたんだ? 

 まさかさっきの俺とお姉さんとのやりとりを聞いてたのか? 

 

「そうですわ!」

 

 何の用だい? 

 

「私を外に連れて行って欲しいのですわ!」

 

 じゃあ役者不足だ、他を当たりな。俺はポケモントレーナーであって戦う者じゃない。生憎と相棒は今別行動なんだ。

 

「知っていますわ! ポケモントレーナーなるお人がフルオカタウンでとても活躍したというお話をお父様から聞きました!」

 

 ……そりゃ勘違いだな、俺は何の称号も受け取ってないぜ。多分違うポケモントレーナーだ。

 

「あ、あれ……? でも、貴方の動画を確かに見たのですが……」

 

 動画? それってメガネで見るやつか? 俺はメガネ使えないんだ、悪いな。

 

「タブレットも持っているのでそちらで見ます?」

 

 見れるなら見せてもらうか。

 嬢ちゃんから借りたタブレットではソーマのアプリが起動していた。その中に、俺がホシノに指示を出してポケモントレーナーと戦ってる動画が投稿されていた。

 これアレだな、フルオカタウンに入って2週間目ぐらいに突っかかってきたやつをぶちのめした時の動画だ。

 撮られてたのか。

 こんなのsnsに投稿するんじゃねえよ……

 

「まるで未来視のごとき観察眼! 完璧な指示でパートナーに全く傷を負わせない立ち回り、是非とも私に見せて頂きたいのですわ!」

 

 うん、だからね? そのポケモンが今いないから無理だって説明した通りなんだわ。

 後、戦うかどうかは基本ホシノに任せてるから、仮にホシノがいたとしてもアイツが乗り気じゃなかったら俺もやらないぞ。

 ……何だ、目を輝かせて。

 

「お父様の言った通りですわ!」

 

 なにが? 

 

「訳のわからない事を堂々と宣うという話は本当だったのですね!」

 

 これが本当の、親の顔が見てみたいってやつか。

 まあ何でも良いけど、もう行くわ。

 次どこ行こうかな……図書館とか行ってみるか。

 

 

 ──────

 

 

「図書館は私も良く行きますわよ! 色々な本があって楽しいですわ!」

 

 なんか着いてきてるんだけど……

 

「どんな本をお探しなのですか?」

 

 え? あー……この街の歴史が知りたいな。

 

「えっと……この街は確か……すごい昔に偉い人が作ったのですわ!」

 

 そうか、凄いな。

 

「でも、凄い発展したのはシンリンカムイがジムリーダーになってからですわ!」

 

 ほう、それは良い情報だな。自販機で飲み物を買ってあげよう。

 

「……え?」

 

 何が良い? 

 

「わ、分からないのですわ……」

 

 好きな飲み物とか無いのか? 

 

「ジュースは頭がバカになるから飲むなって……」

 

 ほーん、そういう親か。まあ人様のお家の教育方針に難癖付ける気はないから、それにお嬢ちゃんが素直に従うなら別に買わなくても良いけど。

 

「えと……」

 

 それとも少しだけ悪い子になっちゃうか? 

 ……そもそも、1人でサファリパークに来てたけどアレは親には許されてるのか? 

 

「サファ……?」

 

 ああ、植物園だったか。全然イメージと違ったから覚え間違えてたわ。

 

「えと、その、お、お母様には……」

 

 ああなんだ、もう悪い子だったか。じゃあ別に何買っても良いじゃん。

 ほら、コーラでいいだろ。

 あぁ、開け方も分からんか、ほら、これで飲めるから。

 

「コ、コーラ……?」

 

 良いから飲もうぜ、歩くと暑くなってくるんだわ。

 

「……」

 

 意を結したように勢い良くコーラを飲み始める。

 そんなに一気に口に含んだら炭酸キツイんでない? 

 ほら、飲み込めなくてアワアワしてるし。

 

「〜〜〜っ!! なんっですの! これ!」

 

 やっぱキツイんじゃん、炭酸飲料はそんな一回でたくさん飲むもんじゃないぞ。そういうのはYouTuberとかQ太郎に任せとけよ。

 

「でも……美味しいですわ!」

 

 そうか、良かったな。じゃあ俺は図書館行くから……

 

「私も行きますわ!」

 

 いや、嬢ちゃんの目的は植物園の中に入る事だろ。戻ったほうがいいんじゃないか? 

 

「……今はこっちがいいですわ! 後、嬢ちゃんじゃなくてアイリですわ!」

 

 そうか、俺はポケモントレーナーだ。

 右手を差し出すが、アイリは意味がわからないのか俺の顔と右手を交互に見る。

 

「……なんですの?」

 

 握手だ、名を名乗ったら握手をするか、ポケモンバトルをするんだ。

 それが礼儀だ。

 

「! ──はいですわ!」

 

 ブンブンと俺の右手を激しく揺らすな。

 そんじゃあやっとこさ図書館行くか。

 

 

 ──────

 

 

 図書館では静かにな。

 

「はいですわ!」

 

 ……あ、警備員さん。ちょっとこの子世間知らずなだけなんでね、はい、ええ、すみません。なるべく静かにするように言うんで……

 さてアイリ、司書さんのところにまず行こうか。

 

「歴史書ですわね! 私が探しますわ!」

 

 アイリは俺の話を無視して脱兎の如く駆けて行った、図書館エアプだろ絶対……

 

「これが歴史書ですわ!」

 

 うん、俺の言い方が悪かったわ。こんなガチの歴史書は要らないんだ。この街の歴史を研究している人とかマスメディア以外は見る必要無いんだ。

 俺は概要を掴みたいだけだからな。

 

「がいよう……?」

 

 簡単な流れを知りたいだけだからな。

 そんな分厚いの読んでたらマタナキの誰よりもマタナキに詳しくなっちまうよ。

 でもまあ折角だし、それも一応ソファのところに置いておこうか。

 

「置きっぱなしにしていいんですの?」

 

 良いんだよ、さっき買ったコーラはそこの穴に入れときな。じゃあカウンターのところ行こうか。

 

「歴史の簡単な流れ、ですか?」

 

 ええ、観光でこの街に来たんですがね、そういうパンフレットとか資料みたいなのありますか? 

 

「えーと……」

 

 司書さんは空中に指を置いてなんかやっていた。メガネには空中ディスプレイ機能とかあるんだったけなあ……

 少し待つと何か見つけたらしく、焦点がこちらを向いた。

 

「あ、コレとかどうですか……あれ? 周辺にニューラルリンクの反応が無い……」

 

 あぁ俺それ繋がってないんですよね。

 

「えっ……どうやって生活してるんですか?」

 

 いや普通に生活してるけど。

 

「えぇ……凄いですね……ニューラルリンク無しの生活とか考えられなくないですか? もしかしてお金とか全部現金で支払ってる感じですか?」

 

 そうだけど。

 

「化石だ……生きた化石がここにいる……」

 

 あ、どうも化石です、それで、別の方法でパンフレットを頂けたりしないですかね? 

 

「ふふ……あ、そうですね。でも、欲しいものがこれか分からないしどうしようかなあ……」

 

「私が代わりに見て差し上げますわ!」

 

 じゃあアイリ、頼んだ。

 

「あ……はいですわ!」

 

 やる気満々といった様子のアイリは司書さんからの情報共有を受けて中身を見ている。

 どうやら幾つかあるらしくて、うんうん唸りながらも少しずつ絞っていった。

 

「これですわ!」

 

「じゃあ、これを印刷しますね〜、お代は400円です」

 

 ほい。

 

「お預かりいたします、あれ、そういえば現金ってどこに仕舞えば良いんだろ……」

 

 パンフレットっぽい冊子を受け取って元の席に戻る。

 広げると中には、マタナキタウンで過去に起きた大きなイベントについて触れていた。

 ドンピシャだよアイリ。

 

「ふふん!」

 

 黙々と読み続けていると、アイリが左肩にのしかかって顔を出してきた。

 

「紙の読み物ってこんな感じなんですのね」

 

 ああそうか、アイリは生まれた時からメガネ使って勉強とかしてきたのか。

 そりゃあ活字なんてほとんど目にしないよな。

 もしかして店とか入った時のメニュー表とかもメガネで見てる感じか? 

 あー……活字だからあいつらメニュー選ぶの遅かったのか。ん? いやそもそも俺だけ紙のメニュー表見れば良かったじゃん。

 あの時間めっちゃ無駄ってことじゃん。

 

「次のページが読みたいですわ」

 

 ああごめん。

 

 読み終えたら結構良い時間だったので解散となった。

 

「今日は楽しかったですわ!」

 

 それは良かった。

 じゃあな。

 

「あ」

 

 どうした? 

 

「その……連絡先を……」

 

 あーごめん、俺電話とか一切持ってないから。

 

「そ、そうなんですのね……」

 

 そんなシュンとすんなって、まだ暫くはこの街にいるからまた会えるだろ。

 

「本当ですの……?」

 

 ああ、俺は約束は大体守る男だ。

 

「じゃあ約束ですわよ!」

 

 ああ、約束だ。

 

 

 ──────

 

 

 アイリを見送ったあと、先ほどのパンフレットをもう一度軽く読み直し、情報を整理する。

 別行動したおかげで、この街のルーツというか、あっちの世界で言うならどこなのかが分かった。

 あのパンフレットにはこう書いてあった。

 空から降ってきた隕石と伝説の竜により、町では大災害が起きた。

 全体の中の一文でしか無かったがこれは恐らく、デオキシスとレックウザの事だろう。

 街の名前までは覚えていないが、映画の舞台だったはずだ。

 あの街は確かかなり先進的な場所として出てきていたと思う、それが発展すればこんな街になるのか。

 ただ、おそらくデオキシスたちはいないだろうな。年代を見てみるとはるか昔の出来事だった。

 ……それなら、スカイロッドに観光に行っても問題無い、のか? 

 

 ふーむ、考え過ぎだったか? 

 いや、ポケモンは地方地方に悪の組織があるからな。この地方にも多分いるんだろうなあ、そういうの……

 関わりたくねえ〜〜。

 レッドはどう考えても嵐の中心だからなあ、そういうの引き寄せるに決まってる。

 あいつと、ホシノだけがピッピを見る事が出来たのもそういう事なんだろう。

 それで、そんな2人をあんなでかくて目立つ建物に連れて行ってみろ、崩落しかねんぞ。

 

 ……ただ、根拠がなあ。レッドは素直だから俺の言葉にも従ってくれるけど、説明できないんだよ。

 カプコン知らないやつにカプコン製のヘリ見せても、ああ、落ちるんだな、とはならないしな。

 実際、俺の思い過ごしの可能性もある。……もう思い切ってスカイロッド行くかあ!? 

 俺も本当は行きてえんだもんよ。

 なんだよ高さ3kmって、うわマジで行きたくなってきたな……

 

 待てよ? 逆に考えると、1人でこっそり行っちゃえば良いのでは? 

 ああ、これは天啓だわ。

 レッドたちも俺も危ない目に遭わないし、そもそも2人はもう行ったことあるっぽいしな。

 明日は1人で行こう。それでその後になんか事件が起きて、それが解決したら改めて3人で行けば良いじゃん! 

 やばいな、ワクワクしてきた! 

 

「ふーん……」

 

 あ……よお、ホシノ! レッドはどうしたんだ? 

 え? いま飲み物買いに行ってるとこ? 置いてきたって事か? ダメだぞ、そんなことしちゃ。せめてどこ行くか伝えてからその場を離れないと。

 

「そんな事言える立場なのかな〜?」

 

 ん? なんのはな…………。

 い、いきなりのビンタに俺も流石にびっくりだよ……おお、まさにカスを見る目。

 間違いなく怒ってるよこの娘。なんでこんな……あ、もしかして。

 

「おじさんには全部聞こえてたよ〜?」

 

 ──荷物重いだろ? 持つよ。そういや買い物で歩き回って疲れてないか!? おんぶするぞ? あ、そうだ、今日の夕飯はちょっと奮発して良いもの食おうぜ! 

 ……ホシノ、こっち向いてくれない? 顔合わせて話そうぜ。

 

 …………悪かったよ。

 

「相談ぐらい……してよ」

 

 はい

 

「私のトレーナー、なんでしょ?」

 

 はい

 

「明日から私たちが行きたいところに全部付いてくること」

 

 はい

 

「明日は水族館に行くから」

 

 はい

 

「約束、破らないでよ?」

 

 約束は破らない。

 

「しばらくお小遣い無しだからね?」

 

 そ、それは…………っ! ぐぐぐ…………はいぃ……

 

「冗談だよ…………ん」

 

 差し出された手を握る。

 頬が真っ赤に染まっているのには見て見ぬ振りをして、ホシノの歩みに合わせて歩き出す。

 それでレッドは飲み物買いに行く為にどこ行ったんだ? コンビニ? ああ、いたいた。

 おーいレッド! 

 ……おいホシノ、離すな。

 レッドに見られるのを嫌ったのか手をぱっと離したので、捕まえて繋ぎ直す。

 これも約束だ、そうだろ? 

 耳まで真っ赤にしているが、小さく頷いたのでヨシ! 

 よおレッド、何買ってきたんだ? 

 え、なぜ飲み物を地面に落とし……ん? これ? これは仲直りの証というかなんかそういう……

 私も繋ぐ? 別に良いけどそれだと俺が飲み物持てないんだが……

 あ、レッドが飲ませてくれるの? 

 じゃあそうするか。

 あれだな、両手に花だな。

 片方は最強のポケモントレーナーに近い存在で、もう片方はポケモンだけど。

 

 宿に戻ったらリザードンに軽く額を小突かれた。

 お前は察しが良過ぎる。

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