仲間を置き去りにして街中を流星のごとく駆け抜けた。
しかし毎度のことながら、空を飛んでるの狡すぎる。
リザードンは今回、何の荷物も持ってないので本気を出せるって事で……
背面飛行しながら腕組みしてふふーんって顔で煽ってくる。
なんか前より速くね?
もしかしてレベル上がった?
「こらー! ルールを守って移動しなさーい!」
警察がダグトリオに乗って追いかけてきた。
「ポケモントレーナー、止まりなさい! 止まらないと逮捕するわよ!」
ええ〜、それはめんどくさい。
ジュンサーさん俺たち遊んでただけなんですけど。
「私はジュンサーなんて名前じゃありません。兎に角、街中であんな速度出しちゃいけません!」
メッ! と腰に手を当てて注意された。
別にそんな速度出してないのにあ。
それにダグトリオだって結構な速度で走ってたじゃん。
「あなたが速度を出すから、追いかけるために仕方なくです」
それじゃあ僕行くね……
「待ちなさい!」
なんですか、まだ用があるってんですか。
俺は今から仲間とイチャイチャする仕事があるんですけど。
ジュンサーさんも俺みたいな善人に構ってないで悪党見つけて下さいね。
お仕事がんばって!
「落ち着け私〜、コレは仕事、コレは仕事……こんなヤツいくらでも相手してきて──無い!」
百面相し始めたぞ。
なんか大変そうだし先行くか。
リザードンと温泉街を歩く。
なんかこうしてると俺がリザードンのプレイヤーみたいだけど全然そんなことないんだよな。
でもリザードンと一緒なのはすげえシックリくるというか、昔馴染みといるような気分になる。
……さっきからすげえジロジロ見られてるのは一体何なんだ。
視線だけ感じてその主が見つけ出せない。
いつもお世話になっているチート君に限ってそんなことが……?
リザードンに確認するも、ギョッとしたような顔をしたと思ったら、知らないと首を横に振っていた。
『き、の、せ、い』
どっかから取り出したフリップボードにリザードンが書いた言葉に違和感を覚えつつも、見つけ出せない以上は俺の神経過敏と認めるしかない。
何かに気付いてゴシゴシと文字を消すリザードンが人にぶつからないよう先導した。
妙な居心地の悪さを消すために、ゆっくりと足湯に浸かる。
リザードンがあまり見せない姿をしている。
キョロキョロと落ち着きなく周囲を見回しているのだ。
「リザードンお前も足つけろよ、あったかいぞ」
逡巡したのち、のしっと隣に陣取ったリザードンをモフモフする。
ちょっと嫌そうな顔してるのもたまらん。
ぐへへへ……今は俺とお前しかいないからモフり放題だぜ!
あ、どうも。
「ドーモ」
なんかちょっとツンとした子が足湯に来た。
リザードンを従えてる。
……個体によってだいぶ違うもんだ。
うちのリザードンの方が可愛いけどな〜。
毛並みに顔を埋めてスリスリしてると、負けじと隣もスリスリし始めた。
公衆の面前でなんて破廉恥な……何だリザードン、なんか言いたい事でもあんのか。
それにしてもあっちのリザードンはちょっと小柄だな。まだ若いのかもしれない。
チラチラと見てたのがいけなかったのか、ザブザブと足湯の中を進んできた少女はうちのリザードンを指差した。
「それ、あなたのリザードンじゃ無いですよね」
「そうだよ」
「盗んだんですか?」
「人聞き悪っ! ちがうよ、それだったらとっくに逃げてるだろ? ──ほら、何も繋がってない」
「ふーん……まあいっか、じゃあ」
なんか絡まれたと思ったらさっさと行ってしまった。
何あの子、怖い。
戸締りしとこ……
リザードンもオレンのみ食べようぜ、あの子が置いてってくれたし。
……何でそんな挙動不審なんだよさっきから。
「グルゥ……」
参ったなあ、とでも言いたげなので説明しづらい事でもあるんだろう。
それにしても、このオレンのみ酸っぱいな。
なあ酸っぱくね?
その後も事あるごとにその少女とは出会した。
何あの子、俺のこと好きなの?
でも目つきが鋭いというか、俺を見る時だけちょっと雰囲気がトゲトゲしてるんだよな。
決まって俺が1人でいる時だけ現れて、二、三、質問を投げかけるとどこかへ行く。
付き纏われたこと自体は初めてじゃ無いけど、あの子だけ妙に気になる。
あの少女がリザードンを伴っているからだろうか、全くもって邪険に扱う気にならなかった。
いつもならハイハイってスルーしてるんだけど、妙に真面目に対応してしまう。
年齢的にはアイリより少し上ぐらいか。
おそらくあの子が視線の主なんだろうな。
……名前すら教えてくれないのはどういうことなの?
質問に答えてる駄賃としてそれぐらい教えてくれよと頼んだらスタタタと走って行ってしまった。
俺も「まあいいか……」って思っちゃうし、もしかして催眠でもかけられてる?
流石にそんなわけないよね。
だってそれならドリームランドでスリーパーにボコボコにされてるはずだし。
洞窟で採掘採掘ゥ!
火山がもっと活発に噴火していた時期に出来た洞窟には大量の鉱物資源があり、それは俺にとって最高の遊び場となるのだ!
1人でピッケルを担いで採掘の試練を受ける。
俺も今日からカセキホリダー!
なぜかみんなには人気が無くて泣きそう。
仲間どころか、旅をする子達は誰もコレをやらないらしい。
中の気温が60℃を超えて、帰りは真っ黒で、荷物が重くなって、火を付けたら爆発して、溶岩が流れているところがあって、高レベルのポケモンがいるだけなのに……
ホシノすらついてきてくれない。
……いいや、レッドなら着いてきてくれるはずだ! だってレッドだからな!
なっ!
「う、うん」
「レッド、断りなよ」
「でも誘ってくれたし……」
「何の準備もしないでニンゲンが入ったら死ぬでしょ」
ダメだった。
レッドは快諾してくれたけど、周りに止められていた。
よく考えたら60℃はキツいわ。楽しいからハイになってた。
誰も付き合ってくれないけど……毎日ジムと洞窟往復する炭鉱夫みたいな生活してるけど……でも採掘やめられないんだけどwww
オニキス、エメラルド、ルビー、燃石炭、マカライト、ポリシュライト、ポケモンの化石。
男のロマンがここにあった。
宝石の一部はビードロ工房に持ち込んで、加工とかできないか聞いてみたら、その手の仕事も請け負っているらしい。
ブーバーも店主も久しぶりに大量供給だとかでやる気を出していて、珠玉の一品を楽しみにする事に。
どんどん持ってくるぜ!
金? 欲しけりゃくれてやる。
有り余る鉱石資源と試練の報酬により俺は無敵になった。
……ポケモントレーナー? あきまへんあきまへん! そんなしょぼい商売じゃあやってけまへん! 今時稼ぐならコレ! 採掘一筋!
がははは! 世の中すべて金だ!
……久しぶりだね、今日はなんの用だい?
「お茶でもしない?」
喜んで。
──────
ソーマで最近のお兄さんに関して流れてる情報が二つになった。
一つ目は見なくてもわかってる。
採掘にすごいのめり込んでいる事。
劣悪と言ってもオーバーにならないあんな環境に嬉々として突撃して、毎日のように宝石を持って帰ってくる。
私たちは忘れていた、お兄さんの頭がおかしいという事を。
完全に失敗だった。
ジムでどんな試練があるか聞かれたので、一つ一つ説明していたら突然暴走し始めた。
「素人でも採掘できる!? つまり俺も今日から一人前のトレジャーハンターってことじゃん!」
止める暇もなくピッケルを借りて洞窟に飛んでいくと、出てきた時には袋に山ほど鉱石を詰めてきた。
それから1ヶ月、基本的に朝から晩まで洞窟とジムを往復している。
なぜレッドちゃんを誘おうとしたのか謎だったけど流石に止めた。あそこは生身で人間が入るような場所じゃ無い。
私だって入った事無い。
試練だって誰も受けるはずが無いからランクが下がっていて、お兄さんが1人で受けられるランク3になっていた。
ジム側も毎日大変だ。
これまでの数十倍の供給が一気に流れ込んできたんだから。ビードロ工房や街の人は良質な宝石が大量に出回るようになって喜んでいたけど。
今日も炭鉱に行く情報だけ流れてくるんだろうなあと思っていた。
まさか、新しい女を見つけたとかいう情報が入ってくるなんて……!
許せない!
これは裏切りだ!
浮気はNGに決まってるじゃん!
優雅にお茶をしているとのことで、肩を怒らせながらその場所へ向かうとレッドちゃんがすごく目を見開いていた。
「なんでここに……」
お兄さんのこと?
そりゃあここにいるでしょ、調べて来たんだから。
でも、お兄さんのことでは無いらしくて……レッドちゃんが言っているのは向かいのソファー席に座っている女の子の事だった。
ロングの茶髪、黒いシャツに青いパンツ、黄色いポーチを脇に置いたその子の名前を呼んだ。
「ブルー」
「──あっ、お姉ちゃん!」
ブルー? ちゃんはレッドちゃんに気が付くと花が咲くような笑顔を見せた。
先ほどまではお兄さんに対して険悪な態度をしていたのに。
「ブ、ブルーだとぉ!!!??」
なぜかお兄さんもとんでもなく驚いていた。
椅子がひっくり返っている。
名前も知らない子と一緒にいたってどういう事?
無頓着にも程がある。
そもそも何で驚いてるの?
「いや、もしかしてレッドの孤児院って……」
顎に手を当てると何やらブツブツと呟き始めたお兄さんをよそに、ブルーちゃんはレッドちゃんの元に歩いて来た。
「お姉ちゃん久しぶり、元気してた?」
「うん、ブルーは?」
「もちろん! いつだって元気満タンだよ!」
「最近は人のパートナーにちょっかい掛けてないよね?」
「え? ……いやー、あはは」
「メッ、だよ」
レ、レッドちゃんがあんなに饒舌に!?
見た事無いよあんなレッドちゃん!
「レッドさんってあんなに喋るのね」
「本当に姉妹なのでしょうか……?」
レッドちゃんって孤児院出身だったよね、旅に出る前の話ってピカチュウのこと以外聞いたこと無かったけど……仲は良かったのかな?
「みんな、この子は私の妹のブルー」
「ブルーでーす!」
「本当に……ブルーなのか?」
お兄さんがマジマジとブルーちゃんの顔を見つめている。
「確かに、顔立ちも言われてみれば名残が……」
「なんですか? ジロジロ見ないでください」
「なるほど」
特に傷付いた様子も無く頷いていた。
何がなるほどなのかはよく分からないけど。
「ブルー、めっ」
「えぇ〜? お姉ちゃんこんな人のどこがいいのー?」
いきなりそんな事を聞かれて、頬を紅に染めてお兄さんをチラチラ見る。
お兄さんもお兄さんでワクワクした表情で答えを待っていた。
「……ひみつ」
「えー?」
「えぇー!?」
意味合いは全然違うんだろうけど、2人ともブーイングを上げる。ブルーちゃんは面白そうにしているし、お兄さんは残念そうだ。
クールなレッドちゃんも流石にみんなの前でそんな事は言えないらしい。
というかお兄さんはこういうの聞かないであげてほしい。
本人に聞かれるのが一番恥ずかしいんだから。
「ブルーは何でこの街にいるんだ?」
「ピカチュウを探してます」
「451番どうろにいっぱいいたぞ、捕まえてこいよ」
「ただのピカチュウに興味はありません!」
「おお……」
「お姉ちゃんのピカチュウが欲しいんです!」
「おい、とんでもねえよこの子!」
レッドちゃんが溜息をついた。
妹を前にするとこんなにも感情を表に出すんだ……
「私が先にあのピカチュウを見つけてパートナーにします」
「ブルー……前から言ってるけど」
「私には使いこなせないって話でしょ? 分かってるわかってる!」
「全然分かってない……」
姉妹らしく口論をしているレッドちゃんはいつもとは違った空気を纏っていた。
隣に立ったお兄さんが肩に手を置く。
嬉しそうにしていて、先ほどまでブルーちゃんに邪険に扱われていたとは思えない。
「本当にすげえよ」
「?」
「すげえ、ブルーだよアレ」
「うん?」
「多分、レッドの孤児院は俺にとって宝箱みたいなものなんだろうな。ちょっと失礼かもだけど」
「……そうなの?」
口喧嘩をしている2人を見て、フッフッフとニヤける。
「マサラタウンに行くのが待ち切れないな」
「まずはグレンバッジを手に入れないとね」
「頼りにしてるぜ?」
「うん、お兄さんもね〜」
「ああ! …………ん?」
「どうしたの?」
「いや、なんでも無い……あの2人は俺には刺激が強すぎたのかもしれないな」
「……大丈夫?」
是と答えながらも心ここに在らずな様子で、あの2人に何かを見出そうとするかのように目を細めていた。
──────
「宿代ちょーだい」
とうとうタカリを始めたらしい。
レッドの妹だってバレてからは、以前に輪をかけて出くわすことが多くなった。
でも、ご期待に添えず悪いんだけど俺はメガネ使えないから。デジタル払いに対応していない男、ポケモントレーナーです。
「えー? あんなに洞窟で稼いでるのにお金無いなんて、無駄遣いしてるでしょー」
そんなんじゃお姉ちゃんは任せられないなあ、などと生意気な事をほざいているけど今日の昼飯代は俺が出してるんだよなあ……
ブルーは何個バッジ持ってるんだ?
……7個?
おや、全部じゃ無いのか。
てっきりもう集め終わってるのかと。
煽りとかじゃ無いからね? 単純にブルーなら手に入れてるものだとばかり。
馴れ馴れしく呼ぶな?
そんなこと言われても苗字とか無いだろお前。
……じゃあレッドの妹でいいや。
うおっ、とんでも無い拒否反応。
何でバッジ全部集めてないんだ?
──あーシンリンカムイがね。
確かにあの人はべらぼうに強い。
でもタイプ有利なのに負けちゃったの?
それは草なんよ。
あ、これは煽りです。
おっと、こっちのリザードンは中々気合入ってるな。ガン飛ばしてくるとは。
……もしかしてカムイのパックンフラワー貰おうとしたりした?
やっぱり!? わかりやすっ!
そんな事するくらいならドダイトス捕まえてこいよ!
……強すぎて捕まらなかった?
あーあ、説得じゃ無くて威圧選んじゃったんだ〜分かって無いなぁ……
紳士的に提案すればある程度は飲んでくれたのに勿体無い。扱えるだけの技量はあるだろうになあ。
何のことってそりゃあ、ドダイトスの話でしょ。
俺が連れ出した時の話?
今更そんな話したって何の意味があるの?
……まあ良いけど。
とは言えそんなに話すことはないぞ。
ドダイトスのところまで行って話をしただけだ。結果的に戦闘はしたけど手合わせみたいなもんだったし、つまらなさそうだったから外に出てみれば? って提案したんだよね。
いや本当だし、ズルとかじゃないし。
あー……もしかしたら久しぶりに外に出てカムイと戦ったから満足しちゃってたのかもな。
楽しそうだったし。
あいつ、俺がいなくてもある程度の自律戦闘は行えるくらいだから、森の中だと相手がいなかったんだよね。
なんだかんだでこれまでも野良ポケとタッグ組んだりしたけど、古龍除いたらあいつ別格だな。
さすがにカムイが治める街の近くにいるだけはある。
それにしてもモンボが無い世界に生まれちまうとはお前も幸運だな。
早いもん勝ちじゃ無いから、スカウトすればもしかしたらピカチュウも仲間になってくれるかもしれないしな。
ただ、話を聞く限りだとぶっちぎりでやべえ素質持ちっぽいからそもそもプレイヤーを必要としてないかもしれないけど。
レッドの前からいなくなったのもそれが関係してるんじゃ無いかと睨んでるんだよな。
モンボ? モンスターボールの略だよ。
こんくらいの球体で、ポケモンに投げつけると自分のものにできるんだ。
……っと、あんまり余計な事教えるのも良く無いな。ホシノに何言われるか分からん。
あーあー、うるさいうるさい。
なにも聞こえませーん。
1、2の……ポカン!
ポケモントレーナーは モンスターボールに ついて わすれた!
はいコレでモンボについて聞かれても答えられませーん。
じゃあなジャリガール。
まさかビードロ工房で出くわすとは。
お前も作品見に来たのか?
ああ、最近宝石とか増えたから気になったのね。
よおブーバー、良いのできてるか?
……うーん、すごい!
小学生並みの感想しか出てこないけど、すげえ技術が詰め込まれてるんだろうなってのは分かる。
一体どれだけの時間を芸術に費やせばコレほどの作品が……?
店主さんもどうも。
ありました? いし。
「いや、普通の鉱石しか見つからないけど……本当にあるのかい? その、ほのおのいしとやらは。太陽石の間違いじゃ無くて?」
「何の話?」
いや、ほのおのいしの実物を見たことがないからこの機会に探してるんだけど……かみなりのいしとかでも良いんだけどね。
お前はなんか知らない?
聞いたこともない?
ポケモン進化させる時に使うんだから無いわけないんだけど……もしかして全く別の名前になってるのか?
でもそうか、誰に聞いても分からないって事はそういうことなのかもな。
巨人の手形を見に来た。
でも、うーん……手形、かなあ。
ナニコレ珍百景でギリギリ珍百景認定もらえるくらいの完成度にしか見えないんだけど。この地方の人はこんなのをありがたがってるの?
どう思うよホシノ。
……あ、君もこの地方のポケモンでしたね。
失敬失敬。
意外と権威ある観光資源なのか……
おいブーイングすんなお前ら。
俺も立派な観光資源だろうが!
オラ、そこの盗撮魔ども道開けろ! もっと近くで見たいんじゃ!
でもアレだな、常に燃え盛ってるのはすげえな。地下性のガスとかが噴き出てるんだろうな。
消火とかしないの?
……畏れ多い?
意外と精霊信仰豊かだよねこの世界、身近に精霊みたいなのがいるからかな?
でも気持ちはわかるわ、俺も神様信じてるし。
……あ、メガネは要らないです。
また出会ったな、このメガネ怪人!
お前の正体はどうせアレだろ! 人体実験とか行ってるクソやべえ組織のパシリだろ!
「ちょっ……! そんなわけないじゃないですか!」
めちゃんこ焦って釈明し始めた。でも、姿格好が怪しすぎて信じる気にならない。
ロキぐらい信用できない。
せめてビジネスマナーくらいは学んできてほしい。
……スーツはビジネスの基本?
俺が就職してたらそうかもしれないけど、この世界でスーツ着ててまともな人間にまだ出会ってないよ?
ジムの研究部門の人間? 身分証は?
……ふーん、文字読めないから分かんねえや。
俺が確認出来ないから帰ってどうぞ。
あれ、ブルーも来てる。
何したんだあいつ、囲まれとるやん。
……人のパートナー勝手に勧誘してたっぽいな。そりゃあ囲まれますわ。
でも、女の子を囲んで情け無い少年達だなあ……気持ちはわかるけどタイマン張れよ。
おっ、そうだ! 1人ずつやれ!
がんばれお前ら! 人のポケモンを盗む不忠の輩に鉄槌を!
……あー、ダメだありゃ。
リザードンに勝てる見込みのポケモン連れてる奴がいねえや。
はぁーあ、見せ物にもなりゃしねえよ。
お疲れィ!
え、野次が聞こえてた?
いや、昼飯の肴にちょうどよかったから見させてもらったわ。
仲間の妹を助けようと思わないのかって?
さすがに自業自得過ぎて何も思わなかった。
いてっ!
おい、姉がお世話になってるって事は実質お兄ちゃんだぞ! お兄ちゃんにこんなことしたらダメだろ!
「きも」
今のはレッドに似てた。
……おや、そこにいるのはダイゴ君! ダイゴ君じゃないか!
アレから進捗はどうだ?
アスナとちゃんと話し合えてるか?
あれ、なんかフラフラしてるな。
「女の子って……何?」
どうやら脳みそが女の子でいっぱいになってゲシュタルト崩壊してしまったらしい。
歴史のことは分かっても身近な女の子の事は分からないなんて、ざこざこじゃん(はあと)
……最近は付きっきりで動いてて1人の時間がない?
ざまあミソカツ。
でも、結構ちゃんとやってるみたいだな。
アスナちゃん、やっぱり大事だろ?
「……はい」
うんうん! じゃあもう少し頑張ってみよう!
十分頑張ってるから情報くれって? それはアスナに聞いてみよう!
……ほら、まだだってよ。
じゃあそういうことだから。
ジムもなー、挑むのなー、いつかなー。
エッサホイサと採掘するのもやめて最近はホシノと一緒に試練を受けている。
高温のポケモンばっかりで接近戦は危ないので、中遠距離での戦い方を練習してるんだよね。
ほらホシノ、擦り傷出来てるからちょっと座って。
……染みるのは我慢しててな。
足ぷらぷらさせない! 消毒し辛いでしょ!
ったく、こういう時だけ子供のまんまだな。
……セクハラじゃない。
いや、セクハラじゃないです。
それでどうだ、だいぶ距離感は掴めてきたか?
…………うん…………うん……じゃあ後は反復練習だな。
え? 疲れたからおんぶ?
はい。
「すんすん……あーやっぱり待って、おじさん汗臭いかも…… 」
ん? 良い匂いだから大丈夫だぞ。
「そういう問題じゃないから!」
うるさいですね……ほら。
「えぇー……んしょっと」
宿に戻ったらお風呂入るか。
「…………うん」
だいぶ動いたから汗を流すのにちょうどいいし、何より温泉は気持ちいい。
よーし、テンション上がってきた。
「えっち」
なにが!?
──────
風が強い。
季節的に嵐が近づいているのかもしれん。
ナギが
「嫌な感じね……」
とか言ってるのはちょっと笑いそうになった。
どつかれたけど俺は悪く無いと思う。
でも、ここは日本じゃ無いから嵐も滅多に起きないのかもしれないと思い直す。
それなら風の巫女的存在のナギがそう発言したのもわかる。
フワンテが飛ばされそうだ。
何なら一回飛ばされてリザードンが回収して来たし。
飛ばされて以降、ナギの片腕に触腕を巻きつけて止まり木みたいにしている、
それでも身体が棚引いてバタバタと音を立てているのは正直シュールだ。
レッドも帽子が飛ばないようにリュックの中にしまった。
……まずい!
レッドの魅力が世間にバレてしまう!
髪を下ろしたレッドは俺だけのものだ!
「ピカチュウはなにしてるの……」
「レッドちゃんの可愛さがバレないように隠してるらしいよ〜、確かに可愛いもんね」
ディーフェンス! ディーフェンス!
あ、ほらレッド、サングラスとか掛ければ多少は顔隠せるんじゃないか?
俺? 俺はかけないよ。
だって意味無いし。
何でそんなに隠したいかって……レッドの可愛さは俺だけが知ってればいいからな。
あれ? でも……レッドの可愛さがみんなにバレると……レッドが今より人気になる→みんながレッドを観にくる→横にいる男は誰だってなる→俺がドヤ顔で立っている→俺が人気者になる→バジリスクタイム→盗撮が増える
うんダメだ。
「ええ……」
「ホシノ、何だったの今の」
「わかんない……」
やっぱレッドは俺だけのレッドであればいいや。
な?
「うん」
そういうことなんで。
今日は昨日に引き続き朝から風が強いので、部屋でのんびりする事に。
ずっと昼寝してるホシノに添い寝したり、ボーッとしているレッドを膝の上に乗せて撫でたり、置いてあるメニューから甘味を頼んでナギと楽しんだり、アイリとぷよぷよみたいなアプリゲーをしたり、楽しそうに俺たちを見ていたノコも混ぜて明日の予定を決めたり、尻尾を齧ったらめっちゃ恥ずかしがったリザードンにしばき回されたり。
……リザードンの尻尾は性感帯!
ぐあああああああ!!
みぞおちへの捨て身タックルは効いた。
「こらー! 技を使わなーい!」
「ワニー!」
リザードンがノコに説教喰らっている間、ヒーホー君へと気になっていた事を質問する。
何で当たり前みたいな顔して人間の言葉が話せるんだ?
……賢いから?
バカかな? おっと、凍らせるのはまだ早い。それにノコが見てるぞ。
お前の先祖ってニャースだったりする?
……絶滅してる?
あ、そう……
なんか話せたって完全に天才のそれじゃん。
レッドたちが興味津々の表情で見ている……! これは期待に応えねばなるまい!
ニャースの悲恋の物語とその後の活躍を語ったぜ!
ヒーホー君が微妙な顔してたぜ!
ナギたちは感動してたぜ!
どこに感動したのか全くわからないぜ!
寿司が食いたいぜ!
ヨワシのなめろうを注文したぜ!
食ってないでもっと話せとレッドがうるさいぜ!
結局、ヒーホー君が話せるのは度を超えた天才だからだという事で話が落ち着いた。
ニャースと違って、何かの技が覚えられないとかも無いしな。
こいつは逸材だなやっぱり。
人語を解し、操るポケモンは希少だ。
時に荒ぶる、強くて恐ろしいポケモンと、何かにつけてポケモンの逆鱗を踏む愚かな人間の架け橋となりうる。
そして、それを操るアイリはさながら……うん、さながら……あれだよ。
巫女はもういるし、何て言えばいいんだろうね。
……ナギ、なんか良い感じのネーミングない?
バカにはして無いです。
今日は朝から大雨が降ってます。
アイリが窓に張り付いて外を見ていた。
火山灰混じりの雨はとんでもない重さになっているのか、ズドドドと水の当たる音とは思えないような音を立てる。
ポケモンたちも、流石に勘弁してくれと旅館の軒下に避難していた。
サンダルを履いて、レッドと一緒に擬似サファリエリアと化した軒下でポケモンと触れ合った。
さすがレッド、良いポケモントレーナーってのはポケモンに好かれちまうんだな。あんなにドカンボカンとわざを撃ち合ってたポケモンたちも優しい目をしてる。
何で俺が触ろうとすると腹を見せるんだい?
別に取って食おうとかしてないよね?
もしかして俺の高潔な魂を目の当たりにして従うしか無いと悟った?
おっ、気概のあるポケモンもいるのか噛みついて来た!
…………ぎえええええ!!
「お、お兄さん大丈夫……?」
だ、だいじょばない……でもまあ俺が悪いよな、猛獣と触れ合うのに迂闊すぎた。ダイゴ君に偉そうなこと言えねえや。
部屋戻るか? レッドもだいぶ身体冷えただろ。
雨が当たってたし風も強いからな。
お風呂入るか。
肩を寄せ合って、大豪雨を見物する。
もはや火山灰すら流されて、屋根を伝った雨水が滝のようになっている。
水が混ざったからだろうか。意思を持った火山自身が天に抗議するかのように、頂上では小規模な爆発が繰り返し起きていた。
しかしそれも雨によってすぐさま冷やされ、噴煙は上っていない。
レッドは昔ここのバッジ取ったんだよな? その時もこんな感じで大雨は降ったのか?
……降ってないんだ。
時期が違ったのか?
どうでもいい? そりゃなんで──マサラタウンに近いって? …………ああ、そういう……ごめんごめん、ごめんて。
レッドは旅に出て最初の頃は、ピカチュウを無くしたばかりでかなり辛かったようだ。
嫌なことを思い出させちゃってかなり心苦しいわ。
イジイジと古傷を突いてくるレッドの髪が湯に浸かっていたので、持ち上げて纏める。
こんな時のために髪ゴムは拝借して来た。
ホシノに髪の手入れを教えてもらってから、俺が見ていないところでも欠かさず丁寧に整えて来たんだろう。
もはや黒曜石のような光沢を手に入れた糸一本一本が指の間を抜けていく。
「綺麗だ」
そうとしか言いようが無い。
どれだけ努力したか。
一見無頓着で、ボーッとしてるだけのように見えるレッドはそれでも、ホシノに教わったことをきちんと守って来たんだろうと想像できた。
「…………」
たおやかにしなだれかかってきた。こちらを見上げると、俺が想像するよりもずっと大人な笑みを見せていて……ああ、ちゃんと女の子として成長してるんだな、とちょっと場違いな感想を抱いてしまった。
しかし、すぐにいつものジト目気味の表情に戻り、頭をこてっと傷だらけの胸板に預けた。
目を閉じたレッドに、手を取るよう促される。
よくわからないままその通りにすると、取った手に引かれて背後から片腕で抱きしめるような形になった。
降り続く雨が激しく屋根に当たる音をbgmとしてレッドの手遊びに付き合っていた。
でも、あんまり長く風呂に入っていたらのぼせちゃうしそろそろ上がろうか?
そう提案したら、なぜか物悲しそうな顔をしていたので慌てて話を聞く。
「お兄さん」
「うん」
「やっぱり元の居場所に帰りたい?」
「何でそう思うんだ?」
「……わかんない」
「そうか……本音を言うと、今更帰ってもとは思ってる」
「帰っちゃダメなの?」
「ダメっていうか、俺も最初と比べると変わったからなぁ」
あと、時間経過によっては出席数とか死亡認定とかそういう世知辛い問題がある。そんなことこいつらに言ってもしょうがないけどな。
「それに──」
「それに?」
口に出すのもなんか違うので、抱きしめた。
「な?」
「……うん」
そういうことだ。
……何で定期的にこの子達は俺が帰りたがってるかどうかを確認するんだ。
お風呂を上がったらブルーが部屋に入り込んでいた。この雨の中わざわざやって来たのか、床をびしょびしょにしている。
レッドの妹だし出て行けとは言わないけど、せめて水を拭いてから上がりなさい。
そんな事より一緒に風呂に入っていたのかって?
そんなこととはなんだ! 人の部屋に入り込んだならちゃんと水を拭くぐらいしろ!
「あわわぁぁぁぁぁぁ……」
バスタオルで全身の水を拭き取った。
そもそも何しに来たんだよ、こんな雨の日に外出たら危ないだろ。
……余計なお世話とか言うな!
お前のお姉ちゃんだって心配してるぞ!
なあレッド!
ほら、お姉ちゃんも頷いてるぞ!
え? お風呂の話?
そ、それは……なあ?
ほら、お姉ちゃんも頷いてるぞ!
通報はやめろぉ!
当人同士の合意があればセーフだから!
「ロリコンじゃん」
……うるさい!
お前も人のポケモンにちょっかい出してるくせに偉そうなこと言えないでしょうが!
言い争っていたら女将さんから連絡が入り、レッドの妹という事で通したけど、もし迷惑をかけるようなら摘み出すかと聞かれた。
来た時よりさらに天気が悪くなり、雷まで鳴り出して窓の外は数m先すら見えないような状況で放り出されるのには流石にビビったのか、ブルーはちんまりとしてしまった。
別にそこまでは求めて無いです。
とりあえず今日は泊めるので、ブルーの分の浴衣とかを用意して欲しい。
ブルー、今のうちに風呂入って来な。
上がる頃には浴衣も準備してもらえるだろ。
ブルーがすごすごと風呂に向かったのでレッドと話す。ブルーはお姉ちゃんっ子なのかと思ったが、別にそんな事はないらしい。仲は悪くないけど、すごい良いってわけでもないみたいな。
孤児院の妹弟とは大体あんな感じだよ、って言ってる。
……ほんとぉ? なんかブルーの感じを見てると怪しいなあ。
というか、勝手に泊めることにしちゃったけど別に良いよな?
……いやいや、そんな追い出すわけないじゃん。どんなイメージ持たれてるんだよ俺。
敵対者に容赦しない?
え……?
ブルーは敵じゃないぞ、お前ら何言ってるんだ?
ああ、散々暴言吐かれてるからってことね。
あのなぁ、子供がやることなら多少は俺も目を瞑る心の余裕はある。
特にネームドには優しいぞ俺は。
ミーハーだからな。
ああいうやり取りも、画面に映っているのを想像しながらだと中々楽しいんだ。
わけがわからない?
大丈夫、お前らはそのままでいいぞ。
ブルーが風呂出たら飯だろうし、座布団敷くか。
「わぁ〜! お姉ちゃん、私これ食べていいの!?」
「いいよ」
「いただきまーす!」
元気で何より。
人のポケモン奪おうとしたりしなければ可愛いんだけどなあ。ちょっかい掛けるのはサガってやつなのかね。
ブルーであれ誰であれ、周りにいる奴が美味しそうに食べるのを見るのは好きだ。
食事は心と胃袋を満たしてくれる。
そして腹が満たされなければ、人は獣になってしまう。
仲間には獣でいて欲しくないからな。
お腹いっぱい食べたブルーは、この宿が気に入ったのか泊まる事に決めたらしい。
今日は良いけど、あしたからはどうすんの?
……俺たちが金出すの?
え、俺個人? 流石にレッドの妹であってもそこまでは……
モンボがあったら俺を捕まえたのにって……モンボじゃ人間は捕まえられないぞ。
人間じゃないからいける? レッド、このあんぽんたんに姉としてなんか言ってやれ。
……おいいいい! 俺も人間だろうが! 味方いねえのかよ!
「あれ? 何でブルーがモンスターボールのこと知ってるの?」
あっ、俺ちょっと女将さんに用が……
「お、に、い、さ、ん?」
──────
「雨、止まないですねえ」
止まねえなあ。
こんな強い雨が継続的に降り続けるなんて信じらんねえ、梅雨ってレベルじゃねえぞこれオイ。
俺のシックスセンスも今は特に働いてないし異常では無いのかもしれないけど、それってつまりグレンタウンではこんな嵐が起きるのが常識って事か。
……女将さーん!
教えて女将さーん!
「なんでしょう」
グレンタウンではこんな雨が降るのって普通なんですか?
「数年に一度嵐が来ますね、ただ……」
ただ?
「この強さの嵐は十数年振りで……どうしても嫌な予感が拭えないです」
嫌な予感……それは?
「ワイルドハント……」
ワイ……何?
聴き馴染みがなさすぎて頭に入ってこなかった。
ワイルドっつった?
「忘れもしません、あの日もこんな嵐の夜でした……何かの笛の音が鳴り響き、海の向こうからあの恐ろしい軍勢がやってきました」
……カイロスもその戦いで?
そうか、だから防衛って言ってたのか。
じゃあ対処方法は?
前回はどうやって追い払ったんですか?
「あれだけの数を相手に、戦ったところで時間稼ぎにしかなりませんでした。私も力尽きて気絶したんですが……いつの間にか、という感じです」
映像記録とかはどうなってるのか聞いても?
「みんな確かに撮っていたはずなのに、何の記録も残っていないんです」
ワイルドハント……お前らは知ってたのか?
ノコは知らないだろうけど。
「私は名前だけなら」
「その時は赤ちゃんでした!」
「調べはした」
「同じく〜」
「ぼ、僕も知ってるし!」
そう……
ワイルドハント。
そう呼ばれる軍勢がいる事を初めて知った。
ナギ達はもっと早く俺に情報共有するべきだと思うんですけど。
……俺に教えたらまた無茶をする? いやいや、無理はしないよ。
ただ、俺にはポケモントレーナーのチートがあって、それはつまり、俺にはアーロンと同じチカラが宿っている可能性があるって事だ。
波導を操ることが出来れば、争いの調停が行える可能性もある。
アレはミュウと始まりの樹ありきだったけど、もしかしたらそれに相当する何かがある可能性も……無いわ、うん、無い。
デカい樹とか無いし。
火山しかないわこの街。
もう火山灰丸めて砲弾にして投げつけようぜ。
そもそも波導ってどうやったら操れるんだ。サイコエネルギーも見た目は波導と似てるけど違うんだよな……
目に集めて気配を見るとか出来ないし、何でこんな不器用なモノをくれたんだあの人は。
無い物ねだりしてもしょうがないので波導の事は置いておくとして、本当にワイルドハントとやらがやってくるのかは微妙だ。
というか来るな。
俺にもゆっくり過ごさせろ。
念の為にハンサムに連絡入れておいたけど、例の如く別件で忙しいらしい。
しかし……!
なんと……!
代わりにとんでもない助っ人が用意されているとの事です!
みんな拍手ぅぅぅ!!!
……なんで俺がいるだけで事件が起きるのが確定みたいに思われてるんですか(半ギレ)
おかしいよな?
ちなみに誰かは教えてもらえなかった。
教えろい!
せめて誰かは教えろい!
──────
雨、風、雷、人々が神の怒りの象徴としてきたもの。
グレンタウンを襲った嵐は過ぎ去る事なく、ひたすらに強くなり続けた。
ダイゴ君とは連絡が取れていない。
アスナと連絡をしていたナギによれば、暫くは大人しくアスナの所にいたダイゴ君だったが、嵐が襲ってきてからはどこかへ姿をくらましてしまったらしい。
あのさあ……
二重人格か何かか?
何があったんだよ。
ジムの受付の子達からも
「あの2人、最近いい感じなんですよー」
なんて話を聞いてたのに。
──ダイゴ君、やっぱりそうなのか?
どうしても諦め切れないのか?
安寧の中で過ごす事は出来ないのか?
……そうだよな、こんなすげえ世界に生まれて冒険しないなんてバカだよな。
気持ちは分かる。
でも、そうだとしても……それでも、お前はアスナを選ばなきゃいけなかった。
ブルー、何だこんな時に。
暗殺でもしに来たか?
話がしたいならもう少し柔らかい顔でだな……まあいいか。
レッドをまた戦わせるのかって、それはあの子次第だよ。
……これ以上無理をさせないでほしいなんて言われても……主戦力なんだよなあ。
優しいお姉ちゃんに戦いは似合わない……だからピカチュウを先に見つけようとしたのか?
半分はそうって、やっぱり人のパートナーにちょっかいかける癖は生来のモノなんだな。
……代わりに私が戦うなんて言っても、ブルーが戦ってレッドも戦えば二倍の戦力なんだけど、あんまり交渉になってなくない?
勘違いして欲しくないんだけど、俺はレッドが戦ってくれてすげえ助かってるけど無理に戦えとは言わない。
お前が自分で説得出来るなら全然してくれていい。
……何でビビってんだよ、お前の本音じゃなきゃ意味ないだろ。俺がレッドを説得する事に何の意義も無いんだから。
あと、ワイルドハントも来るとは限らないのに気が早いと思います。
おーい、姉妹で話がしたいってよー。
2人で話してこーい。
ナギ、そんな心配そうな顔しないで良い。家族同士の話だから首突っ込む必要無いぜ。
……俺がナギを助けたのは家族の事とか関係無いからね?
アレはあくまでお前が……って話逸れてるな。
待っててもしょうがないからゴロゴロしてようか。外出れないからどうしてもダラけちゃうんだよな。
ほらナギ、こっちこいよ。
いつも正座してて窮屈じゃ無いのか?
そうそう、たまには緩めることも大事なんだよ。
おっと……確かにこっち来いって言ったけど、飛び込んでくるとは。
……全員飛んでくるな!
危なかった……着地でさり気なく膝を突き込んでくる奴が多すぎる。何でこんなことするんだ!
……また女がって、お前ら頭真っピンクだねえ!?
どう見てもそうじゃ無いでしょ!? ……いーや怪しいって、俺のどこが怪しいんだ言ってみろ!
展開……?
展開って何だよ!
俺にも分かるように説明しろ!
何でお前ら異せk……お前らは一々俺に対して偏見を抱いて意味のわからん妄言をぶつけて来るんだ?
ただの大学生だった俺に誰かを、何かを操ることなんて出来るわけないだろうが!
あったまきた!
全員ヌチョヌチョのグチュグチュに……じゃなくてタルンタルンになるまで可愛がってやったわ。
肩で息をしているナギ達を見ていると爽やかな気持ちが額の間を抜けていく。
レッドは1人で戻ってきた。
ほっぺをむくれさせて窓際に体育座りをしてしまった。
どうやら姉妹喧嘩をしてきたらしい。
リザードンが隣に寄り添って、レッドは黙ってそれを受け入れていた。
あいつ、どうなったんだろ。
ちょっと気になったので見てみることにした。
ブルーは部屋の真ん中に立ち尽くしていた。
唇を噛んで俯いている。
声をかけると怒りの拳が顔にぶち込まれた。
やっぱり説得は失敗だったのか。
それでここからどうするんだ?
……俺に勝ってパーティーのリーダーになる?
いや、俺はリーダーじゃないからそういうのはちょっと……
そもそも根本的なところが違ってさ。レッドはピカチュウを見つけたいんだから、その為には戦うでしょ。
それがあいつの試練だと俺は思ってる。ジムの依頼は試練にならないだろうしな。そもそも目指してるものが違うんだよ他のプレイヤーとは。
お前の方がよく分かってるんじゃないか? 姉妹なんだし。
そんな、拳で殴っても何も変わらないぞ。
せめてリザードンに指示を出さなきゃ。
真のポケモントレーナーであるならそうするべきだ。
対人戦は初めてか?
これでもお前のことは高く買っているんだ。
表に出ようぜ。少しだけ天気は悪いけど……これは必要経費ってやつだ。
──────
「どうして……」
「現場ネコネキかな? そんな動揺してる暇があったら──」
迫り来る鉤爪はポケモントレーナーの身体に当たる事なく地面を浅く抉った。
舗装の砂利が飛び散る。
「指示を出さなきゃな!」
「グギャウ!?」
リザードンの腕に手を添えて、通り過ぎる方向にさらに力を加えた。
面白いように身体が流れていき、バランスを崩したリザードンは回転しながら倒れた。
ダメージが入ったわけでは無いので立ち上がるが、疲労の色は現れていた。
「荒削りだな」
「……倒す!」
「俺はあいつの家族と敵対したくはないんだけど……」
しょんぼりした様子でぼやく青年に対して、気炎を上げたブルーはリザードンにかえんほうしゃの指示を出す。
なぜかえんほうしゃを?
そう疑問に思う青年の目の前で、吐き出された炎はふり注ぐ雨を一瞬にして水蒸気にし、湯気でリザードンの姿を覆い隠した。
「おお! 思いつかなかった!」
「感心してる場合じゃ! 無いよ!」
湯気を蹴散らして突っ込んできたリザードンは青年に翼を叩きつけた。
青年は腕を交差させて正面から受け止めると、アドバイスをする。
「指示出しによってわざを出すのでない場合、指示を出した時よりも大きく威力が落ちるのは知っての通りだ。体格通り、質量通りの威力しか出ないから、こうして人間でも受け止められる」
「リザードン!」
雨の中で強く光る。
先ほど同様腕を振りかぶるが、今度は鉤爪から危険なオーラを放っていた。
これは受けれないと青年は大きく避けて、距離を取る。
「だいぶ、疲れたんじゃないか?」
「はぁ……はぁ……」
その通りだった。
湯気から飛び出たリザードンがわざを出せなかったのも、疲労から来るものだ。
それはつまりpp、わざポイントが無くなりかけている事を意味していた。
かれこれ20分も外で戦っているのだ、消耗だってする。
殊更に、水に弱いリザードンの消耗は激しい。
ブルーだって震えている。
もう、勝つのは絶望的だった。
しかし、こんな戦い無駄じゃないか、とはならない。
ブルーにとっては、戦って勝ったなら相手の意思は思いのままという考えが当然だった。
そんな、大きくスタンスの違う相手に対して、青年は相手の方式を敢えて採用した。相手の価値観で納得させなければ意味が無いからだ。
そして震えるブルーはこの状況に至っても、目の前に立つ憎き敵と戦おうとした。
しかし、意思とは裏腹に身体は言うことを聞かなかった。弱冠13歳の少女の身体にこの天候はあまりにも酷なのだ。
青年の見立てでは、レッドとブルーの才能にそこまで大きな開きがある様には思えなかった。
どちらも色を名に冠する者。
同じ年齢なら互角のはずだと推測できた。
しかし事実として、13歳の時にはレッドはカムイを倒していた。
現在目の前にいる少女と、出会った当時のレッドを比べたらレッドに軍配が上がる。
青年はチートを信用している。それ故にこの結果が奇妙であると思いはしたが、理由を考えるのは後に回すことにした。
目の前の少女が倒れたからだ。
「グルルル……」
尻尾の炎が今にも消えそうなリザードンが少女の前に立ち塞がる。
敵だからだ。
青年にとっては違くとも。
「落ち着けよ、病院に連れて行くだけだ。ここに放置したら死ぬぞ」
「…………」
その言葉を受けて、剥いていた牙がだんだんと隠れていく。
両手を上げて、戦闘の意思無しという事を見せつけながらゆっくりとブルーに近付いた。
「おねえ……ちゃ……」
「人間関係って難しいよな」
分かるわ、と頷きながら急いでブルーとリザードンを運んだ。
リザードンもだいぶ参っていたが、どちらも低体温による一時的な症状なので、点滴を打って暖かい部屋に居させれば回復するだろうとの事だった。
それにしても、こんなに天気が荒れてるのに病院は盛況だ。
暴風で飛ばされた物に当たって怪我した人や、自分自身が煽られて転んだ人が結構いる。
青年はブルーを運びはしたものの、関係性が微妙過ぎて同じ室内にいるのも変だなと廊下で立っていた。
ベッドの横で祈る様に座って待つのは似合わない。さりとて、放置して宿に戻るには少し近い。
彼自身は悪いことをしてないのに悪いことをした気分、というやつだった。
外ではもはや視界など無い。雨というか、滝だった。
これが青年の世界で起きたなら、歴史を塗り替える規模の大災害だった。
1秒外に出ただけでびしょ濡れになり、地面に転がされるだろう。
青年1人ならともかくベッドに横たわる少女には無理な話だ。リザードンはそんな危険な環境にプレイヤーを連れ出すくらいなら、病院内に留めることを選択するのは間違いない。
宿で待っているだろう仲間のことを思いながら、そしてブルーとリザードンを見守りながら、小さな鍵を手の中で弄んでいた。軽い頭痛を引き起こすこれはなんなのか、全く覚えのない物をなぜ渡されたのか。
それを考えていた。
──────
「はぁ……っ……はぁ……ダイゴ……」
ジュウジュウと周囲の水を蒸発させながら進む影がある。落ちてくる水滴と地面を覆う水、どちらも瞬間的に蒸発し、通った後に再び水が押し寄せる。
マグマッグが球状に展開した熱フィールドは中にいるアスナを傷付けることなく、余計な障害物たる雨水のみを取り除いていた。
そんな荒技を可能にするのは高いレベルと信頼。自身のパートナーに完全に身を委ねているからこそだった。
雨を無視して、アスナは毎日ダイゴを探している。彼女の鬼気迫る様子にジムの職員も止める言葉を持たなかった。
あんなに楽しく過ごしていたのに。
隣で笑い合っていたのに。
胸が今にも張り裂けそうだった。
中からマグマが溢れてきて、全てを焼き尽くしそうな焦燥感。
やっと帰ってきた幼馴染。
試練を放棄して、自身の事も故郷の事も捨てたと思っていたろくでなし。
その性根はどこまで行っても自分勝手だけど、例の英雄の口添えもあって一緒に過ごすことができた。
とても、楽しかった。
毎日こんな風に過ごせたら、なんて思えた。
アスナが夢見た日々がそこにはあった。
しかしある日、起きたらダイゴはいなくなっていた。
程なくして嵐が訪れた。
並のモンスターや人間では行動すらできないだろう嵐の中、それでもアスナは懸命に探し続けた。
今度こそ、逃さない為に。
「あんな……巨人なんて……!」
自分よりも巨人の事を見ているダイゴに腹が立つ。
でも、それがダイゴという男なのも分かっている。
ジムリーダーの自分はこの街を離れられない。だから、もうこうなったら縛ってでも隣に居させてやる。
ついでにもう一発ぶん殴ってやる、そんな気概だった。
そうでも思わないと、恐怖で動けなくなりそうだった。
「ダイゴ!」
海辺の歩道、魂が抜けたようにダイゴは佇んでいた。
全身傷だらけのボロボロの姿で、膝下まで水に浸かっている。こんな嵐の中で過ごしていたのなら当然の姿だった。
烈風、雷鳴、そんな中でアスナの声が聞こえているのかいないのか、海を向いたまま全く振り向かない。
手に何かを持ち、ボソボソと呟いているかのように口が動いていた。
歩み寄り、肩を掴む。
氷のように冷えた身体。
なるべく優しく、アスナは声をかけた。
「帰ろう、ダイゴ」
「──こころは目覚めなければならない」
「え?」
「目覚めないこころは見失ってしまう」
「ダイゴ……?」
「目覚めたこころは真実だけを探し続けている」
「ねえダイゴ、ねえ!」
「探し出す事で知ることが出来る真実の世界は──」
アスナを無視して、熱に冒されたかのように意味不明な言葉を吐き続け、遂には手に持つトランペットを吹き鳴らした。
この豪雨の中でも高らかに鳴り響くトランペットの音に、アスナは片耳を押さえながらダイゴに抱きついた。
「やめて! やめてよ! もう、やめて!」
半泣きでダイゴに言葉をぶつける。目の前のバカがまたどこか遠くへ行ってしまうのでは無いか、そんな気がしてならなかった。
微かに音がぶれてトランペットが止み、ゆっくりと口元から離す。
溢すように先ほどの続きを告げた。
「なんて素晴らしいんだろう」
「っ………! こんなもの!」
その手からトランペットを弾き飛ばすとダイゴは地面に崩れ落ちてしまう。
慌てて受け止めるが、完全に脱力した男の身体を支え切れるほどの膂力は無かった。
海に向かって流れて行く水に巻き込まれないよう必死に耐えていると、それは聞こえてきた。
『真実を求め、魔に魅入られた愚かな子羊よ』
『封じられた秘密を解き明かし続ける不用意さ。その愚行は全て見通してきた……』
『私の名はトランペッター、その愚かさとトランペットの音に免じて再びこの地を訪れた』
「だ、誰!? なんなの!?」
アスナの問いに答える者はおらず、代わりにトランペットの音が海の向こうから押し寄せてきた。
今はまだ、起きる時では無い。
グレンタウンが終わったら軽く人物紹介とかやります。