さて、朝が来て水族館に行く事になったわけだが、先に宿の外で待ってろとか言われました。
せめてリザードンがいたら暇つぶしもできたんだけど、俺1人で待ってろとのことです。
新しい服買ったらしいけど、俺はセンスねえからどう褒めようかなあ……
あ、女将さんおはようございます。落ち葉掃除ですか、まあここら辺は木ばっかというか木しかないというかね? いつも大変なんじゃないですか? とっくに慣れた? いやあ、流石ですねえ!
やっぱ住むのと観光でくるのとでは全く違いますから、そういう細やかな気遣いのおかげで我々も気持ちよく過ごせてるんですね。
え? 彼女たちとの関係? 唐突ですね。
えーと……ホシノ、ああピンク髪の娘です、あの子は手持ちポケ……相棒ですね。黒髪の娘はレッドって名前で、なんて言えばいいのかな……結構複雑な関係でしてね。一言には表せないですかね。
まあ旅の仲間たちですよ。
はい? ……そうですね、可愛いですよ。自慢の妹たちみたいな感じです。
いや、血は繋がってないですよ、みたいなってことです。看板娘に欲しい? 俺を倒してからにしてもらいましょうか。
金をせがんでた話? あぁ、俺は金遣いが荒いもんで、そこら辺の管理はホシノに任せてるんです。
別にヒモとかそういうわけじゃないですよ。
いや、本当ですって。俺も本気出せばちゃんと稼げるんですから。えぇ? そう言う奴は大体本気出さないって? はっはっは! 確かに!
でも俺はマジでえーと、そう、プレイヤーやモンスターとのバトルなら大得意なんで最悪それで稼ぎますよ。
ちょっとスタートが特殊過ぎてね、就職は厳しいんですわ。
そんな感じに見える? いやそこはカバーしてくださいよ!
……おっ、2人が来たんで、じゃあ。
はい? …………えぇ、大事にしますよ。
お……見違えたな、2人とも。いつもの格好も似合ってるけど、今日は格別だ。
レッドはあの旅の服ってイメージがあったけど、こういうフリフリの可愛らしい格好もやっぱり合ってるな。いつもそういう服でも悪く無いんじゃないか?
ホシノはいつも学生服みたいなの着てるけど今日はガーリーな感じか、活発な雰囲気と合ってるぞ。
……うん、俺の語彙力が死んでるが、2人とも良い感じだ!
顔を真っ赤にしてるのもポイント高い!
ちなみに俺はアロハシャツとズボンです。
水族館に向けて路面電車で移動する。この街は広いけど、自動車なんかは一切走ってない。木を傷付けないようにそういったところにまで気が配られているようだ。
そのかわり、公共交通機関が発達している。
路面電車の本数も多いので、今乗っている車両はそこそこ空いていた。
すみっこの席にレッド、俺、ホシノの順で座る、リザードンはお留守番です。
そういえば、水族館行くの決めたのってホシノだよな。ホシノは水族館好きなのか?
「うん、お魚を見るのが好きなんだ〜」
そうなんだ、俺も水族館に来るのは久しぶりだな。そもそもどんな魚がいるかあんまり知らないけど、こっちの魚は輪をかけて知らないの多そうだから楽しみだ。
「別の地方の水族館には行った事あるの?」
ん? まあ……そうだな。美ら海っていう水族館なんだけど、ジンベイザメっていう7〜8mのでかいサメを展示してるんだよ。
「へぇ〜、おじさんもいつか観に行きたいなぁ〜」
……あぁ、いつか連れて行くよ。
ホシノは具体的に好きな魚とかいるのか?
「うーん全部、かな〜」
全般が好きなのか、ちなみに昔マタナキに来た時は水族館には行ったのか?
「うへ〜それ聞いちゃう〜? おじさんあの頃は水族館にあんまり興味無かったから、実は行ってないんだよね」
ほぉー、まあ趣味が増えたって事なら良いじゃん。
レッドは水族館には行ったこと……無いよな、うん。
いやいや、特に他意はないから。
……そんなジト目で見られても変わらないって。
レッドはなんか好きなものとか無いのか? こういうの行ってみたいなーとか。
よく分かんない? それじゃあ片っ端から遊び尽くすしかねえな。
ん? おつきみやまは楽しかった? …………それは良かった。
「顔歪んでるよ〜」
うるせ、余計なこと言うな!
「うひゃあ! くすぐったいからやめてよ!」
ふん、雑魚が……
「ねえ」
なんだ?
「なんでグリーンスカイロッドに行くことにしたの?」
あー……そりゃあ気になるよな。
まあ、俺がちょっと悪いことしちゃったからそのお詫びというか……いや、元々行きたくなかったわけじゃないんだけどな?
「悪いこと?」
ううん……未遂だから厳密にはまだしてなかったんだけど……でもホシノ泣きそうだったからギルティか。
なんて説明したもんかな。
「私のこと騙そうとしたから、それを許す代わりだよ〜」
そ、そうですね……はい。
「……お兄さん、めっ、だよ」
はい……誠に反省しております。
「レッドちゃんも今日はいつもより我儘言って良いからねえ〜、目一杯困らせちゃお〜」
「お、おー……」
2人で可愛らしく拳を突き上げて恐ろしい宣言をされてしまった。でも俺が悪いから何も言えないんだよなあ。
はいというわけで俺たちは今、グリーンスカイロッドの根本に来ています。
もっというとスカイロッド水族館の前に来ています。
こんなでかい水族館、元の世界でも見た事ねえぞ……
おいホシノ、とんでもねえぞこの水族館! めっちゃでかいポケモンとか展示されてんじゃねえか!?
え? ナバルデウス? へえーかっこいい名前だな、聞いた事ないけど。それが何? デカいんだ。
どんくらい? ろ、六十メートルぅぅ!? 展示されてんの!? え……生きてる!?
おい、チケット売り場どこだ。さっさと買ってくるからお前らここで待ってろ!
…………あそこか!
待ってろな!
待機列が長過ぎる、30分待ってようやく買えたぞ。
2人ともお待たせ。……あれ、なんだそのマックフロートみたいなやつ。
赤と青と緑、三つ買ったのか?
待ってる間に買ってきてくれたのか。
いやー暑かったぜ、なんでこういうチケットの列って野外なんだろうな。
……ん? レッド、一つくれよ。
──あっ!? 二つともストローに口つけやがった!
おいしい、じゃねえよ。
どっちかくれよ。
半分は私のもの? 何でも良いけど暑いんだわ。
お、サンキュー。
うーん冷たい! やっぱほてった身体にはこういう飲み物ですねえ!
え? また飲む? はい。
あぁ……どんどん減って行く……
「自業自得だよ〜? レッドちゃん、私にもちょうだーい」
はい……今日は涙を飲んで受け入れるしかあるまい……
見る間に目減りする緑色の炭酸飲料を前に、俺は無力だった。
とはいえ暑いもんは暑いので、もらったお小遣いで水だけ買って水族館の中に入る。
ホシノが目を輝かせてあちこちに目を走らせた。
「うわ〜! 見た事の無い魚がいっぱいだ〜! ねえ見て見て! 可愛い〜!」
どれどれ……これはヘイガニ!? 間違いない、このフォルム、伊勢海老かと思ったがこれはヘイガニ! そっちのは進化後のシザリガー!? 本当に額に星が付いてる! すげえ! ポケモンだ! おいホシノ! そっちの魚は何だ! ハリーセン!? 聞き覚えがあるぞ! 間違いない! ポケモンだ!
「こっちのお魚ちっちゃ〜い!」
おお、ちっせえ……ヨシノボリっぽいな。レッド、こっち来て一緒に見ようぜ。ほら、コレだ。ガラスに張り付いてるだろ。
え? 食べ応えなさそう?
お前食いしん坊キャラになるの?
水族館に来たんだから飯のことなんか忘れて魚に酔いしれるんだよ!
ほら、そっちの水槽も見るぞ。
ヒトデに触れるらしいな。
触ってみようぜ。
え? 毒? そんなのここに展示しないだろ。
……ほら、別に何とも無いだろ?
ほい、パス。
……うっ!? 手が痺れてきた!?
はは、冗談冗談……うべっ……人の顔にヒトデ投げつけない!
「なーにやってんのー?」
ヒトデを人の顔に投げ付けてはいけないことを教えてた。
「うへ〜またレッドちゃんに変なことしたんでしょ〜?」
またとか言うな、一回もしてないだろ。
「いやいや〜変じゃ無い時の方が少なかったんじゃない?」
仮にそうだとしたら俺が悪いんじゃなくて、記憶喪失なのが悪いだけだ。
「まだその設定続けるの〜?」
設定とか言うな! 俺は記憶喪失だ! 誰が何と言おうとな!
「……まあ良いけどさ〜、そのうち有名になったらどうすんのさ〜」
ならねえよ、どうやったらここから有名になるルートがあんだよ。なあレッド?
ほら、レッドもこう言ってるぞ。
レッド、左手出して。人が多くなってきたからな、ハグれないようにしとかないと。
え? メガネがあるから逸れない? 何言ってんだ、俺が迷子になるに決まってんだろ。こんな広いのに道案内無くて活動出来るわけないじゃん。
というか話すのも良いけどそろそろ次の水槽見に行こうぜ。
……おっ、レッド見てみ、マンボウだ。見た事ない? お前見た事ある物の方が少ないじゃんよ。もっと色んなもの見なー? ……おっと、説教くさくなっちまった。
マンボウってめっちゃ繊細らしくて、壁にぶつかっただけで死ぬとか聞いたことあるわ。
「それ都市伝説だよ〜」
マジ? マンボウ博士じゃん。
……お、マグロだ。こんだけ水槽デカいと、こんな魚まで展示できるんだな、どこまで続いてるか見えねえや。
え? 岩盤をくり抜いて作ってある? 直径1km!? 何でこの建物規模がいちいちでかいんだ!?
というかそれどこで知ったんだ?
メガネか、そりゃそうだ……メガネクイッてするな、ちょっとアホっぽいぞ。あいてっ。
それにしても直径1kmの球体か……中で何が起こってるか分からなくないか?
「それがウリらしいねぇ〜なんでも自然に限り無く近付けたんだってさ」
なるほどな……放置こそが自然か。
放置……俺がコイツらに関わったのも自然な出来事じゃないのかもな。
レッドに関してはある程度先は決まってるだろうな、紆余曲折を経て最終的にピカチュウを見つけて一区切り。多分俺がいてもいなくてもそこは変わらないんだろうな。
ホシノは……昔の事を知らねえから何とも言えねえな。言っちゃあなんだが、レッドと比べたら俺も含めて全員モブみたいなモンだ。レッドの物語に出てくるフレーバーテキストでしか無いんだろうな。
だからこそホシノはある意味自由なのかもな。何をしても本筋には関わらない以上その余地があるというか。
……失礼過ぎるからこれ以上はやめとくか。ダメだな、どうにもまだあっちの世界を基準に考えちまう。
よし、ホシノ! ナバルデウスとやらを見に行くぞ!
大怪獣をこの目に収められるんだ、今日は何時までも居座るぞ!
え? 昼ごはん? それは別だ。腹が減っては戦はできぬ、基本だぞ。
まだ昼までは時間があるし、小水槽を見ながらナバルデウスが現れるのを待つぞ!
そういやこの水槽ってナバルデウスが生態系の頂点なのはわかるけど、他にはでかい奴いないのか? それこそジンベイザメとか。
え? 調べても出てこない?
まあ甚兵衛だしそりゃそうか。
どんな見た目なのって……覚えてねえわ。まあいないんだろ、俺の妄想だよ妄想。
知らん知らん!
おっ、今度は伊勢海老だ、コイツはめちゃ美味いぞ〜。海の街に行ったら食べような。
そういやレッドは寿司とか食べた事あるのか? 無い? 勿体ねえ〜! 今度連れてってやるよ。
あれ、ホシノそれなんだ。
「これ? クラゲだよ〜」
クラゲか、クラゲって独特な雰囲気だから好きな層が絶対いるんだよな。ソーマとかでもそういうのいたりしない? ……見つからない? まあそういうこともあらあ。
ホシノはクラゲ好きか?
「うん、ゆらゆらしてて寝てるみたいでしょ? おじさんもああして寝てたいなぁ〜」
じゃあおんぶしててやるから寝るか?
「うへ〜……せっかく水族館に来たんだから今は寝ないよ〜」
じゃあ今度お前が寝付くまでおんぶしてやるよ、子守唄でも歌いながらな。
「……うん、楽しみにしとくね」
おう。
……え? レッドも? じゃあレッドも今度な。
「2人で乗っかっちゃえ〜」
俺を舐めないでもらおうか、それぐらい余裕だな。
なんなら今2人ともおんぶしてやっても良いんだぞ。
「流石にそれは恥ずかしいかな〜って……」
お、イワシだ。やっぱイワシとか知ってるのもたくさんいるもんだな。
「あれヨワシだよ〜」
え? 弱し? 魚偏だからってそんな蔑称で呼ばれてんの? 可哀想過ぎないか?
「いやいや〜本当にヨワシって名前だよ?」
へー……ポケモンか?
全く聞いたことねえから分かんねえな。
みずタイプなのは間違いねえだろうな。
そういやメノクラゲとか展示されてないのか?
あっちに展示されてる? メガネで探したのか、やるじゃん。
おーメノクラゲだ、気持ち悪っ……
「気持ち悪く無いよ〜結構可愛いじゃん」
貴方とは分かり合えない運命なのね……
やっぱデフォルメって大事だよな、こんなのがDSの画面で出てきたら子供泣くぞ。
……DS? DSは携帯ゲーム機だよ。
え? めっちゃ昔の機械? そもそもこっちにあったの?
「うへー……言ってることわかんないよー……」
分かんなくていいよ、どうせカセットも無いだろうし。こっちのDSって何のゲームが出来たんだろうな……え? スマホロトムの先祖みたいなもの? ごめん、まずスマホロトムが分からないわ。
そもそもスマホじゃねえのかよ、そのロトムの部分いるのか?
ああ、ゲーム機じゃないのね。つまりガラケーみたいなもんか。
「あっ! これってもしかして! ねえ、行こ行こ!」
お、なんか見つけたか、レッド、転ばないようにな。おーい、ホシノ、ちょっとお前早えよー。
「先行ってるね!」
どんだけ見たいんだあいつ……ここ段差あるから気を付けな。
レッド、メガネであいつの場所追いかけられるか? じゃあナビゲート頼むぞ。
レッドマンエグゼ、トランスミッション!
──────
一際人が多い場所にやってきた。
「おいおい、人だかりで全然見えねえじゃねえか」
「あ、ホシノ」
「何やってんだあいつ……」
人混みの後ろで「くっ……!」とか「はっ……!」とか言いながら跳ねてるホシノがいた。
悪目立ちしすぎだろ、見てて恥ずかしいわ。
とりあえず合流するか。
「ほいっと」
脇に手を差し込んで持ち上げ、ホシノを肩の上にセット。
「うわぁぁ!? ちょっ、何!?」
「見えねえんだからこうするのが一番いいだろ」
「ちょっと、私スカート、スカートだから!」
「見えてねえよ、だいじょーぶだいじょーぶ。お前は俺が守る!」
「全然カッコよくないから!」
「ふんっ!」
「……え、何?」
「お前のパンツ覗こうとしてる奴が後ろにいたから気絶させた」
「やっぱだめじゃん! 下ろして! おーろーせー!」
はあ……我儘だなあ、今日だから我儘聞いてあげるけどさ。
しょうがないから2人と手を繋いで、全力で人だかりをすり抜けて最前列に来た。
「え、今どうやって?」
ポケモンバトルの応用。
全員の呼吸や意識、重心の偏り具合から触られたら思わず動いちゃう方向を予測して通り抜けた。
2人ともそのジト目、最初からやれよって?
あのさぁ……普段から全力を出して生きてたらすぐ死んじゃうよ? もっと力抜いてこ?
ほら、前見ろ。
…………
データでは、画面では、何度も見ていた。
だが、世界で最も美しいポケモン、それは伊達ではなかった。そういう存在として世界に保証されている。その凄まじさは直に見て見なければ分からなかった。
鱗の一枚一枚が、その色自体はクリーム色にも関わらず、極限まで磨き上げられた鏡のように周囲の光景を反射している。
背中から尾にかけては周囲の光を受けて虹色に光り輝いており、極上の宝石のようだ。
体のパーツの一つ一つが、「もしここにコレがあったら美しいだろうな」という可能性を反映したような完璧な配列をしていた。
「きれい……」
「うん」
ホシノもレッドも見入っていた。観客の誰もが見入っていた。ただ、誰が1番見入っていたかといえば、間違いなく俺だった。
ポケモンバトルの時の状態でミロカロスを目にした俺は、極限まで加速された思考と観察眼により、視界から入ってくる美の具現化の仔細に至るまでが情報として脳に叩き込まれた。
無量空処を食らったような状態になり危うく廃人と化すところだったが、落ちたボトルから溢れた飲み物が足にかかった事で冷たさにより中断された。
目がカピカピに乾いていた。
「大丈夫?」
ああ、大丈夫。ただ、俺はミロカロスとは戦えねえわ。
「そんな機会、ある?」
もしもの話だよ、その時は頼むぞ。
「やだ」
ええ……
「可哀想」
それはそうだな。
ああすいませんね、ちょっとぼーっとしちゃって。ウェットティッシュ要ります?
いやぁホントすいません。
それで、もう2人は十分見たか?
動画は撮ったりした?
「おじさんはあのキレイさをそのまま動画に残せる気がしないよ〜……」
まあ確かにな、でも思い出としては残せるんじゃないか?
どうせなら3人で撮ろうぜ、写真。
「! ……撮る」
お、レッドのメガネで撮るか……でもどうやって撮るんだ?
え? 仮想カメラ? なにそれ……空中にカメラを仮想的に作り出す?
????
まあいいや、撮ろうか。よく分かんねえけど撮れるんだろ?
「反応がおじいちゃんだ〜」
うるせえ、もっと寄れ。
「だ、抱きしめ……!?」
ほら、ピースピース!
……撮れたか?
おお、満足そうな顔。良いのが撮れたか、惜しむらくは俺にそれを確認する術がない事だな。
まあ俺もどっかのタイミングで見れれば良いや。
ホシノには今の写真もうあげたのか?
早え〜……こんな人混みなのに通信速度も常にバリ3じゃん。
「写真」
なに?
「初めて撮った」
え? でも動画とか撮ってたじゃん。
「写真は初めて」
へー、じゃあもっとちゃんと撮った方がよかったかもな。
「良い」
あ?
「コレが良い」
そうか、お前がそう思うならそうなんだろうな。そうやって思い出を増やしてけ、いつか写真を見た時にその日の事を思い出せるようにな。
……で、ホシノはなんでそんな食い入るように見てんの?
「へぇっ!?」
へぇっ!? じゃないが。
「おじさんが!? いや、全然見てないよ!?」
いや、見ろよ。
全然見てないのは流石におかしいだろ。
「う、うん…………うへへ」
センチュリースープ飲んだら多分こんな顔になるんだろうな……
うーん、そろそろ昼飯食べたくなってきたな。2人はどうだ? なんか食べたいものとかあるか? 俺は調べる方法無いからアレだけど、結構広いしフードコートとかもあるんだろ?
「あっち」
よし、じゃあナビゲート頼むぜ。
レッドマンエグゼ、トランスミッション!
「それもう良い」
対応が冬のドアノブぐらい冷たいじゃん。
もしかして俺ってセンス無いのか?
うざっ、みたいな感じで置いて行かれてしまった……
「天丼ってやつだね〜」
ふんっ、良いもん! 俺には数多の引き出しがあるんだもん!
「うへ〜、お兄さんにもんは流石に合って無いかな〜」
ウゲーって顔すんな。
「……ねえ、気になってたんだけどさ」
おう。
「戦う練習とかしなくて良いの?」
え? 早くね?
まだこっちきてから一週間ぐらいしか経ってないじゃん。そんな急ピッチで考えてたの?
「カムイさんって結構強いからさ、今のままで行けるのかな〜って」
チラッと俺の顔を窺ってくる様子から見るに、不安なんだろうな。
まあ安心しろ、そのうちここの依頼も受けるからさ。……ただ、バッジ集めというよりピカチュウ探しにきたんだよな俺たち。まあその過程で強くなるのは良い事だけど。
「あ、おじさんうっかりしてたなあ、そうだよね〜……今のは忘れて〜?」
なんか陰の気を感じたのでホシノの頭を雑に撫で回す。
「や、やめてよ〜髪が乱れちゃうでしょ〜……」
乱れろ乱れろ、バカなことを考えるホシノの髪なんか乱れてしまえ。
バッジが欲しいならちゃんと言え。そんでレッドにも相談だ。昨日決めたばっかだろ、ちゃんと相談するって。
最悪、レッドとはここでお別れかもしれねえけどな。
「え……」
心底びっくりしたような顔のホシノ。
当たり前だろ、俺はお前のトレーナーで、お前は俺のポケモンだ。
お前がやりたい事は俺がやりたい事なんだよ、そもそもここで俺がやりたい事とか無いしな。
それで、お前がやりたい事とレッドがやりたい事がぶつかっちまったなら、レッドには悪いが俺はお前の味方をする。
「そっ、か……」
そりゃそうだろ、逆の立場で考えてみ? リザードンが今にも死にそうで、俺も死にそうだったらレッドが優先すべきはどっちだ?
まあ、まだ出会ってから3ヶ月とちょいくらいだからお前にはよく分かんねえだろうけどな。俺にとってはそういうもんなんだ、相棒ってのは。
「そんな事ないよ」
お、分かるか?
「うん、私のやりたい事がお兄さんのやりたい事……おじさんも良いと思うなそれ」
でも俺に合わせる必要ないからな、お前はお前でこういうもんって思ってて良い。
「お兄さんのやりたい事が私のやりたい事、かもよ?」
え、マジ!? じゃあ素手でグリーンスカイロッド登ったりして良い!? ロッククライミングとかに興味あったんだよね、そんで今ならできるんじゃねえかなーって。グリーンスカイロッドってめっちゃデカい木で出来てるし突起も多いだろ? 多分できると思うんだよなー。
いつやる? 今やる?
「やっぱナシ」
なんでえ……まあ、そういうことだ。俺は少しだけお前らとは価値観が違うから、俺に合わせてると大変だぜ。記憶喪失は本当不便だ。
「うへ〜、絶対関係無いよ……あはは、レッドちゃんから催促のチャットが来たよ。早く、だってさ〜」
おっ、そんじゃあ……
「逸れないように、でしょ?」
そうそう、よく分かってるじゃん。
──────
「良いよ」
「え、アッサリだねレッドちゃん……おじさんびっくりだよ」
「多分、そっちの方が良い」
「……そうなの? おじさんちょっと若い子の考え方分かんないかも〜」
まあ俺はレッドがOKって言うだろうとは思ってたけどな。素直だし根がいい子だから、言えば大体は頷いてくれるだろ。
でもレッド、お前はピカチュウを優先するべきだから、探しに行きたくなったらいつでも言うんだぞ? なるべくバックアップはするから。
「……一緒じゃないんでしょ?」
……まあ、端的に言えばそうだけど。
「じゃあいい」
レッドが良いなら良いけどな、俺はレッドとの旅を結構楽しんでるし。
でもレッドってもうジム全部クリアしてるんだろ? 今更ジム周っても面白く無いだろうし、俺たちがジムに挑戦してる間とかどうするんだ?
それこそピカチュウ探したりとか?
「見てる」
「うへ〜……おじさんが泥に塗れてるところ見られちゃうの〜? 恥ずかしいよ〜」
「違う、戦い方」
レッドが戦い方見てもなんか得るものあるか? もうポケモンへの指示の出し方とか完璧だろ。
「全然違う」
ん? よく分からんな、もう少し説明してくれ。
「さっきの呼吸とか」
……ああ〜! なるほどね!
「え、なになに? おじさんにも分かるように説明して?」
さっき、人混みをすり抜ける時に使った技術を盗みたいんだとさ。
「そう」
まあアレは俺のチートというか、人間の可能性の限界というか……なんかこの世界に来たら出来るようになってただけだからな、説明できるようなモンじゃ無い。それでもレッドなら出来るようになるってんなら、まあそれは納得だ。
って事は、一応四天王への再戦は考えてるんだな。
「うん、ピカを見つけたら」
まあそこら辺の順番は好きにしていい、俺は付き合うだけだ。
「いつか、お兄さんとも」
「え、それって戦うの私ってことじゃない?」
そうだよ。
「いやいや〜無理だって〜……」
そうだよ。
「ちょーい、そこはパートナーなんだから肯定してよ〜」
勝てはしない、数値的な能力差があまりにも大きいからな。ただ、負けはしない、攻撃が当たらないからな。
「うん、無理」
というわけで、今やっても千日手になるだけだ。つまりホシノが無限に苦しいだけになる。もちろん理論上の話で、俺の言うことにホシノが瞬時に従える体力のある間だけだ。そんなバトルにはなんの意味も無いからな。
「……お兄さんってそんなに凄いの?」
「そう」
いや、俺っていうかチートが……まあ言っても意味無いから黙ってるか。
お、昼飯届いた……こ、これは!?
「どうしたの〜?」
猫型配膳ロボってまだ現役なの!?
第何世代だ!?
「ニャーはベラボットの第476世代ですニャー」
凄え! 会話が成立してる!
おい、凄えぞお前ら、動画に収めろ!
「え〜?」
「別に普通」
こいつら分かってねえ〜……ヌコヌコしてえなあ。
「……猫、好きなの〜?」
好き。
猫カフェとか行ったりしてたな。
ここら辺じゃ見かけないからアレだけど。
もちろん犬も好きだ。
「いぬ?」
レッドも犬は好きか?
シェパードとか良いよな。
「おじさん、いぬは知らないかな〜」
「知らない」
は?
嘘だろ?
犬がいないとかどうやって原始人から進化したんだよ。人類の原初の相棒だろ。
「大昔にかなりのモンスターが絶滅したらしいから、その前にはいたのかもね〜」
ええ……ヤバすぎだろ、人類は大量絶滅乗り越えたのかよ……
「すごいモンスターがなんとかしたらしいねえ〜」
そんだけ前の情報ってことか……
「それ頂戴」
ん、これ?
「そう」
切り分けるからちょっと待ってな。
こんなに違う世界でも箸とフォークとスプーンとナイフは変わらねえなあ、はい。
「ありがとう」
レッドの食べてるのもちょっとくれよ。
「はい」
サンキュー。
「おじさんにもちょっとちょうだーい」
あ……ホシノが俺の皿から残りの半分ぐらい持ってきやがった。ちょっとじゃねえじゃん!
「うへへ〜」
「私のもあげる」
「レッドちゃんありがと〜」
仲睦まじいようで何よりですね。
でも俺の昼飯は雀の涙です。
「そんな顔しないでよ〜、はい、私のも分けてあげるからさ〜」
落としてから上げる……ホシノ、お前はいずれ魔性の女になるであろう……
「うへ〜もしかしておじさんのこと褒めてる〜?」
褒めてねえよ。
「……魔性の女になるかどうかはお兄さん次第かなー」
──────
昼飯食ったらまたナバルデウス待ちの時間だ。とはいえ同じ場所で待つ必要はない。
直径1kmの水槽の全周を覆うように小水槽が配置されており、しかも螺旋状に配置されているので何十キロにも及ぶ回廊となっているのだ。
ヤバすぎでしょ……
しかも小水槽の大きさも並大抵じゃ無いしな。
ホエルオーとか収容してる水槽もあった。やっぱ間近で見ると迫力すげえな、ジンベエザメより遥かにデカかった。
ホシノはホエルオーが特にお気に召したらしく、しばらく齧り付いていた。
レッドは午前中で少し疲れたようで、ホシノがホエルオーに夢中の間に一緒に座って待ってたら寝落ちしてしまった。まあ普段はあんまり活動的じゃないしな。しかも昼飯後ってことでそりゃあ眠くなりもするだろうさ。今は俺の背中で小さな寝息を立てている。
それにしてもホエルオーであの迫力なら、ナバルデウスなんか見た日には俺は感動で失神するかもしれん。
どんなポケモンかは知らんけど。
60mかあ……
「ホエルオー凄かったね〜! 見てこれ、ぬいぐるみ買っちゃった!」
おま……それ置くところどうすんの?
「え〜? うへへ〜……ダメ?」
上目遣いに勝てるわけないだろ。
良いよ、荷物の1番上に括り付けよう。
「やった〜!」
髪を揺らして喜ぶホシノを見てると、こっちまで嬉しくなってくる。
「ね、ね、他にも色々買って良い!?」
良いぞ、でも荷物に入りきらなくなるくらい買うのはダメだからな?
「うん!」
どうやらホエルオーに関してはぬいぐるみだけで良いようで、別のポケモンにリソース、もとい金を注ぐようだ。
無意識にか、抱えたぬいぐるみをモフモフしながら水槽を覗き込むホシノの後ろをゆっくり歩く。レッドを起こさないように気を付けないといけないからな。
「お〜ここは〜?」
ホシノが次に覗き込んだ水槽には何もいなかった。
「なんだろね〜? …………うわああ!」
ん? と思ったら、クッッソでかいタコが入っていた。胴体部分でおそらく10mくらいはある。どうやら擬態能力を持っていたらしい。
いや、反則だろお前、擬態能力は体が小さい被食者が持つのじゃなきゃアンフェアだろ。
もうこれ怪獣じゃん。
ポケモンの世界だと普通のタコもこんな事になっちまうのか……とんでもない速度で水槽の奥に消えてったぞ……
驚いて転んだホシノに手を貸す。
「……えへへ、びっくりした〜」
海に行く時はああいうのにも気をつけなきゃな。遊びに行って食われましたなんて笑い話にもならん。
「毎年犠牲者自体は出てるらしいね〜」
やば……海行くのやめるか。
「ええ〜守ってくれるんじゃないの〜?」
いや戦うのは俺の仕事じゃないから。
まあ浅瀬なら来ねえか……もし来たらホシノの銃を借りてたこ焼きにしてやる。
「その時は任せたよ〜」
おう、俺のたこ焼きは天下分け目の大戦を引き起こすからな、覚悟しとけ。
「うへ〜……傾国のたこ焼きってこと〜?」
言い方が違うな、傾国のたこ焼きって、コト!? だ。
「おじさんにはよく分かんないや」
むしろおじさんが流行らせてるまであったな、本当のおじさんだけど。
「出たぞー!」
突然、うわっと歓声が上がった。
背中のレッドも目を覚ましてしまった。
「……もしかして!」
そういう、コト!?
「急ごう!」
まだ寝ぼけたままのレッドを背負ったまま、すぐさま大水槽に近付く。
ソイツを目にした途端、鳥肌が立った。
すっげ……
「でっか──い!」
ホシノも大興奮だ。
ほら、レッドも降りて自分で見ろ! お目当てのアイツだぞ!
「うん…………うわあ」
ソイツを目の当たりにして寝ぼけ眼から一気に覚醒状態になったのか、今日一目をかっぴらいていた。
ナバルデウスはあまりにもな巨体をゆっくりと揺らしながら目の前まで現れた。そして、明らかに高度な知性を感じさせる目でもって俺らを観察していた。
一人一人に目を這わせ、値踏みをしているようだった。
超々高強度のガラスで覆われているため大丈夫だと事前に説明は受けていたが、実際に目の当たりにすると生物が持つ生存意識が稼働し、身体を動かすことを拒否していた。
レッドが俺の腕にギュッとしがみついた。
百戦錬磨のレッド様でも流石にこいつに勝てる自信は無いらしい。
そりゃそうだ、見ただけでわかる。少なくとも普通のポケモンじゃあこいつにダメージを与えるのは無理だ。
今日は外でのんびりしているはずのリザードンとこいつが向かい合ったと想像してみるが、全く敵う気がしなかった。
そしてその視線が俺に向いた。
「ひっ……」
レッドの口から怯えが漏れる。
本能的な恐怖が心を刺激するが、敢えて見つめ返す。ナバルデウスは暫く俺と視線を交わした後、来た時とは逆にゆっくりと離れていった。
…………やっべ──ー!! めっちゃ心臓バクバクしてるわ、怖すぎだろ。
レッドも完全に俺にしがみついて離れなくなってしまった。
しかも根が生えたようにその場から動かないので、抱っこしてホシノのところまで行く。
ホシノ、お前大丈夫だったか?
「う、うん……まだ足が震えてるよ〜」
2割増ぐらいで声も震えてんな。
「レッドちゃんはどうしたの?」
アイツに直視されたらこうなっちゃった。
「しょうがないよ〜凄かったもん」
あんなのどうやって水槽に入れたんだ? 予想だが四天王でも敵わないんじゃないか? チャンピオンでも出動したのか?
「チャンピオンと四天王、ジムリーダーも協力したらしいよ〜」
総動員かよ……でもまあ、生物としての格が違いすぎるからな。全員がかりでも良く捕まえられたって感じだわ。
俺がアイツを倒すなら。
ホシノをチラッと見る、武装した時の火力を考慮しても……
「おじさんにはちょっと荷が重いかな〜……」
それはそう、ホシノぐらいのサイズのポケモンだとどう鍛えても足掻いても無理だろうな。大きくて強いやつがいないと無理だ、それも海で動けるやつ。
種類を知らなさすぎて全然選択肢が出てこないけど。
「私達がそんな場面に遭遇することなんて無いだろうから大丈夫だよ〜」
……それもそうだな、考えても仕方ねえや。そんな場面に遭遇したら大人しく逃げの一手だ。ホシノに回避行動の指示出しながら逃げるのと俺がおぶって逃げるのどっちが速いかね?
「うへ〜、おじさんとしては後者推奨かな〜?」
ひっつき虫と化していたレッドがガバッと上体を離して俺を見つめてきた。
「……すごかった」
レッドでもあんな化け物は見た事無かったか?
「無い」
そりゃそうだ、あんなのが頻繁に現れるような世界だったら人類なんかとっくに滅んでるだろうな。
レッドも1人でいる時にああいうのと出会したらすぐ逃げるんだぞ?
レッドを地面に下ろして、3人で近くのベンチに座った。
まだ全部は見れてないけど、2人はまだ見たいのとかあるか? ナバルデウスを見た後だと全部インパクトに欠けちまうと思うけど。
「おじさんは今日はもう良いかな〜」
「疲れた」
降りたばっかなのにまたおんぶをせがむレッドをおぶさる。今日はワガママばっかで俺は嬉しいぞ!
じゃあ2人とも、帰るか!
──────
帰りの路面電車の中、レッドは言わずもがな、ホシノも爆睡していた。
席に座ったら5分も経たないうちに船を漕ぎ始め、最終的に俺の両肩は占領された。
結局、何の事件も起きなかったな……コレがグリーンスカイロッドの展望台に行くとかだったらまた違ったのかねえ。
常識で言えば……水族館に行って何も起こらなかったのだから、展望台に上ったところで何かが起こるはずもない。ただ、この世界に常識は通用しない。俺の知識なんて意味を成さないほど、摩訶不思議な事象で溢れている。
とはいえ、ホシノとは約束しちまったからな、展望台に行くって。
んにゅ……とかふみゅ……とかアニメのキャラみたいな寝言を立てるホシノの口元に髪がかかっていたので、手の甲で軽く払うとめっちゃサラサラだった。キューティクルが半端ねえ。
触っているのがあまりに心地よくて夢中になってしまった。
「ん〜……」
危うくホシノを起こしてしまうところで正気に戻り、髪を触るのをやめる。
レッドは、と思い目を向けると半目が開いていた。
肩の動きで起きちゃったか、ごめんな。
「……ん」
頭を肩にトン、トンと軽くぶつけて催促するので撫でると、こちらもサラサラだった。手で掬ってみると数本でも輝いているのが見える。
ずいぶん手入れに気を使ってるんだな。
「ホシノが……ちゃんとした方がいいって……」
まだ脳が起きてないのか、ちっさい声で言ってたのが何とか聞き取れた。
なんかお姉ちゃんみたいだな。レッドは弟とか妹しかいないんだろ?
「うん……」
ホシノのことは好きか?
「うん……」
そっか、相性が良いようで一安心だ。
これからも仲良くしてやってくれな。
「でも……」
中々先を続けないので、なんだ? と思ったら俺の顔をじっと見つめていた。
どうした?
「ううん」
誤魔化されてしまった。
結局またコテンと俺の肩にもたれかかって寝てしまった。
一つ思うのは、この世界の人間の人懐っこさだ。
フルオカタウンの子供達を思い出す。普通、記憶喪失で身元不明の年上となんて関わりたく無いと思うはずだ。だけどあいつらは、一週間もすれば仲良くしてくれた。1ヶ月前の出立の日、あいつらは大泣きしていた。その感情の起伏の豊かさに驚かされたものだ。
それはテッセンだってそうだ。初対面にも関わらず、俺を信じて身分証を発行してくれたテッセン。彼には一生かかっても恩を返しきれない。
レッドもまた、そんな世界の人間だ。
ピカチュウに関する情報を求めて行動を共にすることになったが、たった1ヶ月の旅でずいぶん懐かれた。正直なところ、もっとクールで一言も喋らず旅を終えると思っていた。
そしてホシノ……いつも世話になっている、俺の相棒だ。彼女がいなければ俺の旅は始まらなかった。ポケモンバトルの才能なんて関係無い、彼女に会えた事こそが俺のチートだった。
この子達に誠意を持って接する事ができた、それだけが、俺の唯一の功績だった。ホシノ相手には少ししくじっちまったが、それでも許してもらえて本当に良かった。
つまり、こんなトントン拍子に俺の旅が進んでいるのは、この世界の人間が純粋な心を持っているからなのだろう。
……だからこそ、違う世界の、心の汚れた俺にだけ見える、際立つものがある。
それは悪意だ。
信じているからこそ見逃される、そんな事は起こらないと露程も信じて疑われない。
そうして、時折現れる悪意に右往左往する。
他者に優しく、悪意に弱い世界、ソレがここだった。
だから俺が疑うしか無い。
非力な俺だが、幸いなことにどっかの神様がくれたポケモンバトルの才能がある。両の腕に収まるこいつらぐらいは助けられるだろう。
あり得ないぐらい機微に聡いリザードンもいるしな。