まずはマサラタウンに行こうという話。
マサラタウン。
マサラタウンなのねん。
レッドちゃーん、マサラタウンなのねーん。
たかいたかいを久しぶりにしたけどやっぱり少しは成長してるな。
……マサラタウンだ。
あのマサラタウンかは分からんけど、レッドの故郷でもある。
テンション上がってきたな!
が、先に試練を受ける事になった。
要はバッジ集めようねって話である。
ナギもなんだかんだでちゃんとプレイヤーしてて嬉しい。
「私は元ジムリーダーなのですわよ! バッジくらい寄越しなさい!」
みたいなスタンスじゃなくて良かったわ。
あ、冗談です。
……ナギは美人だし可愛いしスタイル良いし性格良いし家事もできるけど、良くないところが一つだけある。
俺の冗談を間に受けるところだ。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!
──ふう、まあこういうところ。
真面目過ぎるんだよな。
まあそういうのも可愛いんだけど、ガハハハ!!
アスナに会いに行ったらダイゴ君もいた。
ジムの裏に連れて行かれて、レジギガスの事を散々説明させられる羽目に。
こういうところはオーキド博士の影響を大いに受けてるわ。
……世界中回ったって言ってたけど、グズマのこととか知らない?
マ? 会ったことあんの?
こんな顔?
……おお〜そうなんだ。
その時はなんか会話とかしたのか?
壊そうとしてるのを止めた?
やべえ奴じゃん。
ちゃんと警察に突き出したんだよな?
……お前らも入っちゃだめなところに侵入してたんかい!
アスナも言ってやれ! 彼氏がダメなことしてたら叱るのが役目だろ!
……惚気んじゃねえ!
ダメだ、話が通じねえ。
こんな腑抜けた奴が相手だとバッジなんて簡単に取れちまうんじゃねえか? ……とはならない。
アスナの保有する中で最大の戦力であるイフリートは、ほのおタイプのポケモンの中だとかなりの曲者らしい。
どういうことかというと、権能こそ持っていないものの、硬くてデカくて威力が大きいらしい。
つまり、強いということらしい。
普段はやる気がなくて洞窟の奥で寝ているらしいけど、そいつを出されたらこちらも全力の本気で行くしかない。
……何にも知らないから聞き齧った知識だけで話してるぜ!
え? まだ寝てるから出さない?
やったぜ。
じゃあ、近々挑むからよろしく。
ダイゴ君、これからはどうするんだ?
また旅に出るのか?
……いや、アスナには聞いてないけど。
ジムに調査隊として就職ね、良いんじゃないか?
公務員みたいなもんだろうし。
火山の調査してれば、レジギガスにもまた出会えるかもしれないからな。
……まあ、レジギガスがあの一体だけだとは思わないけど。
おっと! これは失言だったかなあ!?
ガハハハハハ!
じゃーなー!
良いことを知ったな。
イフリート? が出てこないなら多少の余裕はある。
とはいえ、ほのおタイプのポケモンってのは熱を操るっていう部分だけ見ても危険だから気をつけよう。
なっ! ヒーホーくん!
「……全然近付けないホ!」
「リザードン、そのまま」
「ほーら、焼け死んじゃうよ〜」
擬似的なジム戦というか、うちのほのお担当と言えばレッドとリザードンなので大特訓中です。
あと、何故かいるブルーにも手伝わせてる。
2匹のリザードンから放たれるかえんほうしゃに対して真正面から近付いていくというのが今回の特訓だ。
流石にアイリは退避させている。
親御さんから預かっている大事な娘を炭にするわけにはいかない。
ヒーホー君は氷の壁を作り出して耐えようとしているようだが、ものすごい勢いで表面が溶かされている。
「ヒホ──ー! い、維持するのもきついホ──! アイリー!!」
「ヒーホーくん! 維持するんじゃダメ! 出力を上げて一気に押し切って!」
「すぅぅぅ……ヒホ!」
ピシリと、凍り付く。
壁を維持していただけの先程と違い、オールドタウンでやったように氷の道を作り出し、見には氷のアーマーを纏う。かえんほうしゃの軌道の中で比較的安全な場所をすり抜けていく。
……いや、押し切れよ。
テクニカルではあるけど、真正面から打ち破らないと。
「ゼェ、ゼェ、ゼェ、ゼェ……お前がやれホ!!」
キレすぎだから。
あと、俺がやったら服が燃え尽きるからダメでしょ。
「うーん……ちょっと無茶なんじゃないかなあ……」
ホシノがなんか言ってる。
ジムリーダー舐めてるのか?
「いやいや〜ブルーちゃんもレッドちゃんもプレイヤーとしてはトップ層なんだから、火力だけ見ればジムリーダーと大差無いでしょお?」
……じゃあその二人のパートナーの火力に耐えればジムリーダーも余裕だな!
「ダメだこりゃ〜」
「あ、あのぉ師匠……まずは1匹からじゃダメですか?」
良いよ。
「こらぁ〜! なんでおじさんの言うことはアッサリ却下したんだー!」
アイリとヒーホー君が無理って言ってないのに勝手に辞めさせるわけないでしょうが!
「オイラは言ってたよ!?」
じゃあ、おかわりいってみよー!
「無視!?」
リザード──
「リザードン、かえんほうしゃ」
ああ、俺が言いたかったのに……
「あなたが言ったら火力が洒落にならないでしょ」
ヒーホー君とアイリが覚醒したって話は聞いてたんだけど、実際どうなの?
一時的な力だったの?
今も使えるようなら……なんだっけ、メギドラオン? 使えば良いし。
「ええと……もう使えないです」
一時的だったのか。
まあな?
都合良くいきなり強くなれるなんて普通はあり得ないし、地道に行こうか。
ほらヒーホー君! がんばれ! がんばれ!
「ブフパーンチ!」
おお! 右手に氷を纏わせて突っ込んだ!
「グエエエエエ!!」
「ヒ、ヒーホーくーん!」
──────
「んんっ……わたしは グレンタウンのジムリーダー アスナだ! もえさかる あのグレンかざんのように あついきずなを みせてみろ!」
「──おれはポケモントレーナー! おのぞみどおり おれとホシノとの あついきずな みせてやる!」
「……へへっ! わかってるじゃねえか!」
アスナに最初に挑んだのはホシノとポケモントレーナー。
そして戦場に立つのはマグカルゴとホシノだ。
ワイルドハントの襲撃より数週間後、パーティーはバッジを獲得の為に動いた。
「チャレンジャーとして、こっちから行動させてもらうぜ! ホシノ、分かってるな!」
「うへ〜、すっごい熱そうだよねやっぱり〜……距離を取って、技を避けて……弾を打ち込む! だいじょーぶ!」
「そんじゃあまずは──」
「えいっ!!」
号砲代わりのシェルはマグカルゴへと一直線。
着弾する前に、ジュッ、という音と共に蒸発した。
「事前の情報通りだね〜」
「ヒートフォース……みずタイプのわざを無効化する特性ってマジで反則だよな……それでも、そういう敵って分かっていればやりようはある。マグカルゴは鈍重なポケモンだ! 足を使え! 右回りだ!」
「癖を……!?」
マグカルゴに腕は無いが、左右どちらをよく使うという概念は存在する。
重心の偏りから分析するのはお手のものだった。
「マグカルゴ!」
「マグゥ!」
「小石を撃て!」
「…………マッ!?」
高温の唾液を吐き出してホシノを融かし尽くそうとする。しかし、弾かれた小石が液を受け止め、跳弾したシェルがマグカルゴの殻へと直撃した。
「なんてテクニカルな」
「一石二鳥って良いよね……」
「──これは小石じゃ防げないだろ! かえんほうしゃ!」
「おじさんもそこまで素直じゃ無いよ〜」
ホシノはいわタイプのシェルを地面に撃ち込み、生えてきた岩を盾として火炎を防いだ。
「……マグカルゴ、すなあらし!」
「マグマグマァ!」
遠距離戦は分が悪いと悟ったアスナは、すぐさま視界を遮る作戦に舵を切った。
それは当然、行動指示に影響を与える。視界が取れない以上、何かしらの対策が必要だ。
それがメガネの機能だったり、阿吽の呼吸だったりするわけだが……青年にとってはいつもと変わらない。
見るのではなく、聞く。
小うるさい砂嵐の音の中に、ザッザッと走る音とズリズリと這い回る音。
方向と距離さえわかっていれば問題無かった。
「5時の方向!」
ズドンと一発。
「7時! 10時!」
ドンドンと二発。
砂嵐などお構いなしに走り回るホシノを捉えることはできず、逆に銃声が放たれるたびにマグカルゴには着実にダメージが入っていった。
──と
「……アクアシェルを撃て!」
「マグカルゴ! やきつくす!」
熱が放出される。熱に触れた周囲の砂つぶは融け、熱された空気が広がって青年や観客の肌を風となって撫でていく。
「ホ、ホシノさんは……!?」
バックの関係者席で見ていたアイリが、不安そうにナギの服の袖を引っ張る。
少し硬い表情をしたナギは、答えることはしない。
やがて、熱された砂嵐が効力を失って地面に落ち、二つの影が現れる。
片方はマグカルゴ、赤く燃える殻が砕けて落ちていた。
そしてもう片方は──
「危うく、燃え死ぬところだったね……ぺっぺっ」
蒸気を上げ、全身を濡らしながらピンピンしていた。
シェルに内包された水が弾けて保護膜となったのだ。
その代わり、濡れ手で粟よろしく濡れ身に砂できったねえことになっている。
アスナは失策を悟った。
砂嵐ではなく、攻めに転じるべきだったのだ。
「いわなだれ!」
「右、左、右、左、左」
「ほいっ、ほいっ」
襲いかかる岩を余裕を持って避けるホシノは、指示されずとも合間を見て攻撃をしている。
追い詰められていくマグカルゴを見て、アスナは手を挙げた。
「──ストップ!」
「ん?」
「やめよう、これ以上は無駄だ!」
「……勝ちってことか?」
「そうだ!」
「……よーし、バッジゲッ──」
──隕石が空にいくつも出現した。
「は?」
『ゴォアアアアアアアア!!!』
街全体に木霊する、禍々しい声。
「……お寝坊さんが起きたってわけか?」
「なんでこのタイミングで!?」
「もうちょい早く目覚めてくれればカッコよかったのにな」
「……くるぞ!」
アスナが叫ぶ。
遠くの空に黒々と点のようだったのが、近付いてきてその異様さがわかる。
だが、最も目立つのは大きな角だろう。
そして全高で10mはある体躯。
大きく地面を揺らしながら着地すると、ホシノに詰め寄る。
明らかに格の違うモンスター。
「こ、これは流石に……キツイかなぁ……」
「イフリートやめろ! もう決着はついた!」
「グルルル……」
目を細めて、今にも攻撃しそうなイフリートをアスナが嗜める。
それを聞いてか、近付けていた顔を逸らしてアスナの後ろに歩いていく──途中でポケモントレーナーの匂いが気になったのかクンクンと鼻を動かし、大きく牙を剥き出しにした。
「一応言うことは聞くわけか」
「バカ! 声出すな! ……イフリートも収めろ!」
フッ、と隕石が消失する。
「りゅうせいぐんに近い技を使えるんだな、そのイフリート? とかいうのは」
アスナは一々喧嘩腰なイフリートを抑えるのに四苦八苦しつつ、バッジをホシノに手渡す。
「こら! イフリート、伏せ! ……わたしの熱じゃあ、二人の間にある絆を超えることは出来てなかったみたいだな……これがグレンバッジ!」
「わぁ〜! ありがと〜!」
「残すはあと一つだ! がんばれ!」
「うん!」
「おーい、イフリートー!」
ダイゴが手を振ってイフリートに親しげに話しかけた。久しぶりに会えたから飛び出してきたのだろう。
……いや、ここスタジアムのど真ん中なんだけどね?
「グルル……」
「そうだよ! 俺だよ! ダイ──」
「ハンバーグだよおお!!! ──おごっ……」
「グルゥ……?」
「お邪魔しました〜」
突然の奇行に走ったポケモントレーナーは、ホシノに顎先を思いっきりぶん殴られてノックアウト。
引きずられて仲間の元に連れていかれた。
──────
無事、ノコさん以外はバッジを手に入れることができたのでお祝いの食事会に来てます!
師匠の隣の席を確保したので、思う存分ご飯を食べたいと思います!
「いっぱい食べるんだぞー」
「はい!」
たくさんのお皿が運ばれてきて、それぞれに旬の食材を使ったおいしそーな料理が載っています!
どれから食べよーかなー!
「うわあああ! こんな短期で3回も負けたああああ!!」
「よしよし」
一応はお祝いなんですけど……お別れ会も兼ねて、アスナさんとダイゴさんもいます。
アスナさんは負けたことが悔しいのかダイゴさんの膝枕でいじけてますね。
「ナギ」
「なあに?」
「ジムリーダーっちゅうのは負けてなんぼの職業だと思ってるんだけど、やっぱ悔しいもんは悔しいんだよな?」
「勿論そうよ? でも、次へ進むプレイヤーを祝福するのもジムリーダーの義務だからね」
「そか」
「……懐かしいわね、あなたと戦ったのがもう2年前だなんて」
「すげえ技だったな、あれは」
「もう出せないけれどね」
「いやいや、信仰を失っていないなら……きっと出せるさ」
「……ふふ」
師匠にくっついてスリスリしてるナギさんに負けないようにわたしも反対側からスリスリします!
「わあああん! 僕だけ負けた!」
「ノコちゃんはまだプレイヤーとしての経験が浅いし、しょうがないよお」
ノコさんがホシノさんに泣きついてるみたいですね。
「でも僕だけバッジ手に入れられないのは仲間はずれみたいじゃん!」
「またみんなで来れば良いんだから。ほら、美味しそうなご飯が並んでるよ〜?」
「うう……ミートボールとって……」
「はいどーぞ」
「…………うわあああん!」
「うへぇ……やけ食いはだめだよ〜?」
ご飯を勢いよく食べていくノコさんを師匠は呆れた様子で見ていますね。
ちょっと笑ってもいますけど。
「レッドもご飯食べなー?」
「うん!」
胡座の上に乗っかってるレッドさんの為に、師匠は大皿からおかずをとっています。
「はい、あーん」
「あーん」
ず、ずるい……おかずをとって貰うだけじゃなくてあーんまで……!
「……アイリ、あーん」
「! ……あーん!」
「アイリもバッジ3つ目かあ、すごいじゃん」
「えへへ……」
「グズマを見つけたら全部揃えような」
「はい!」
「おじさんがバッジ3つ揃えるのにどれだけ時間かかったと思ってるのさ〜、このこの〜」
「うわ〜」
そうは言うけど、ホシノさんはあと一つでジムを制覇なのです。
ブルーさんもバッジを7つ揃えてるし、ここにいる人達はみんなすごい人ばかり。
「……前からあなたに聞きたかったんだけど」
「なに?」
「バッジを取る度に祝勝会を開くのはなんでなの?」
「なんでってなんだよ」
「だって、そんなのみんなやってないわよ」
「……じゃあ、みんなやってないから俺ももう旅やめるか! ナギがそう言うんだしな!」
!?
「!?」
「!?」
「!?」
「そ、そんなこと言ってないでしょ!」
「でも、みんなやってない事をやるのはおかしいんだろ?」
「…………いじわる」
「冗談だよ。他所は他所、うちはうちだろ?」
「もう知らないっ」
「いじけるなよぉ〜……な、泣かないでも良いのに……」
「ぐすっ……」
「ごめんて」
すっごいびっくりした……
皆さんもホッとして胸を撫で下ろしてますし……ナギさんなんかちょっと涙目になってるや。
私だって、自分のせいで師匠の旅が終わるなんて言われたらあんな表情にもなると思う。
師匠は、あんまり面白くない冗談をいきなり言うところは直した方がいいと思う。
みんなからジト目で見られている事に気付いたのか、師匠は若干狼狽えていた。
「……何この空気、俺が悪いの?」
「確実にジョークのセンス無いよ」
「心に刺さる……!」
ブルーさんの一言に胸を押さえてご飯を食べ始めた師匠。多分だけど、全く刺さってないですね……
「はいはーい! 私、これからの目標を発表しまーす!」
「おう」
「ミュウツーを探しまーす!」
「おう」
「もっと反応してよー」
「どうせコイツらとはもう話してあるんだろ? そりゃあ反応も出ねえよ」
「いや、トレーナーさんのことだけど」
「……俺?」
「反応薄く無い?」
「……だってミュウツーのこと説明したの俺だし……ブルーならそうするだろうって分かってたし……」
「つまんなーい」
「……えええ!? ブルーがミュウツーを探すだってえ!? こうしちゃいられない、祝い酒だ!」
「…………」
「やめいやめい」
バシバシと師匠の背中を叩くブルーさんとは、街を巡ってた時にたまたま出会ったらしいです。
……正直怪しいと思ってるけど。
それ以降も結構な頻度で出会して、色々と話をしていたんだけど……レッドさんの妹だって知らずに話してたらしいです。
間違いなく、ブルーさんが隠してましたね。
「ブルー、座って食べて」
「ちぇー」
レッドさんの言うことはそこそこ聞くんですよね。
──────
僕はポケモントレーナー!
無邪気で無垢な優しいお兄さんさ!
可愛い女の子たちを引き連れて旅をしているんだけど、グレンタウンで困った事があるんだ……
それはこの女の子、ブルーのことだ!
ミュウツーの事をめっちゃ聞いてくるし、それ以外のポケモンの事もめっちゃ聞いてくる!
最近は二人で会う事も少なくなって……というか、採掘マラソンをやめたから最近は仲間と一緒に街を周っている事が多いんだ。
そこにブルーがやってくる。
今はジム戦を終えての待機期間というか、オフシーズンというか、とにかく仲間とのコミュニケーション期間なんだよね。
普段はみんなで行動しているけど、一対一で話すのも大事というか……まあ、恒例行事的な?
そして今日はアイリとお出かけしとります。
映えるところを巡りたいと言うので、よく分からないながら一緒に色々なところに行った。
昼頃までにいっぱい投稿したらしく、なんか楽しそうだったので多分グッドコミュニケーションだったんだと思う。
よし、楽しく話せたな
──しかし、そんな時間に突然の乱入者が!
つまり、ブルーである。
この街にいると何故かこの娘とのエンカ率が高い。
別に嫌いじゃないので、全然対応するんだけど……遭遇回数が多いこと多いこと!
細い路地から、背後から、正面から、上から、地面から。あらゆるところから現れる。
多分ブルーは忍者の末裔なんだと思う。
なんか、出会うたびに質問を受けるんだけど……俺ってもしかして質問に答えてくれるタイプのNPCだと思われてる?
本題から逸れたな。
俺は嫌いじゃないんだけど、出会うたびに応対してると当然時間を食うわけで……放っておかれてる方はちょっと不機嫌になる。
レッドは姉妹だからか、邪魔しないでと主張するんだけど……あの性格に通じるわけもない。
そして矛先は俺へ……
ぼ、僕は悪くないんです!
全部あの、ブルーってやつのせいなんです!
ΩΩΩ<ナ、ナンダッテー‼︎
ブルーと何故出会ってしまうのか、その真実を追い求めて我々はアマゾンの奥地へと進んだ。
というか、ブルーの泊まってる部屋に乗り込んだ。
俺一人で。
「──だって、色々聞いておかないと損じゃない?」
お前の額にかかっているのは何だ?
メガネがあるんだからググれよ。
「ググ……なに?」
調べろよって。
「……でも、トレーナーさんの知識ってどこにも載ってなくない?」
……じゃあせめて、俺の仲間との時間を邪魔するのはやめてもろて。
「えー……」
えー、じゃなくて。
「お姉ちゃんの妹なんだし、私も実質仲間みたいなものじゃない?」
そんなこと言ってたらキリないから……
ミュウツー探しにいくんだろ?
こんなところで油売ってる暇あるのか?
「でもお姉ちゃんに、一人では探すなって言われてるしなー」
へー……仲間でも探してるのか。
いい心がけだ。
旅は道連れ、世は情け。
縁を大切に出来たなら、世界はきっとお前の思いの儘だ。
「それが座右の銘なの?」
そんなの無いよ。
「じゃあ、何を大事にしてるの?」
仲間。
命。
金。
「なんか安っぽーい」
王道と言え。
この三つを大事に出来たら、あとは何もいらないだろ。そういうお前は何を大事にしてるんだ?
「うーん……」
チラッとリザードンを見た。
ふ──────ん……良いじゃん。
それで良いだろ。
「何も言ってないけど」
まあ、ともかく言いたいことは言ったから帰るわ。
じゃーなー!
「ちょっと待って」
ぐええ!
おい、人の襟を掴まないって習わなかったのか!?
「うん」
じゃあ今教えたからな!
じゃーな!
「待ってって」
ぐえええ!
……やめなって、言ってるんだけどな?
「ご飯食べにいこーよ」
ええ?
……まあ、昼飯時だからいいか。
何食う?
「ステーキ!」
食うか、じゃあ。
「うん! どうせお金持ってるんだから奢ってね!」
何で一々余計な言葉が付け足されるんだ会話に。
ちゃんと学校ではモラル履修したか?
「がっこー? お金無いから通ってないよ」
ごめん……
「なにが?」
……学校通いたかったとかそういうの無いのか?
友達とか、いたんじゃないのか?
「孤児の事なんか普通の人は気にもしてないし、みんながいればそれで良いよ」
シビアだねえ……ヒガンくんも友達いなかったし、孤児ってそうなのかな……
「ヒガンって、あのヒガン?」
どのヒガンだよ。
「ナルガクルガをパートナーにしてる人」
そのヒガンだな、多分。
ヒガンくんは1週間だけ俺が指導した子なんだよ。
コトリタウンでの話だ。
ナギと会ったのもそこだな。
「ナギさんとの話はそりゃ知ってるけど」
そうなの? なんで?
「有名だし」
なんで!?
すげえ個人的な話だぞ!?
「あっ……そっか、メガネ使わないんだっけ? えっとねえ、スタジアムで戦ったでしょ? あの時にナギさんが出したわざのせいかな……後は、いきなり血を噴き出したとかジム戦後に抱きついたとか」
あぁ〜! はいはいそっちね!
「動画も撮られてるし、証拠もバッチリだよ!」
証拠って何だよ。
別に悪いことはしてないだろ。
「ポッと出の男の人にアイドルを取られたファンクラブの怒りや察るべしって感じだね」
むしろ、ナギに彼氏がいなかったのが不思議なんだけど。
……モノホンの巫女だからか?
「そりゃあそうでしょ」
巫女ってすげえ……!!
やっぱ神様がいる世界の巫女って本物なんだな!
「何言ってんの……?」
おっと、何でも無い何でも無い。
何だその目は。
「トレーナーさんさぁ……隠し事多すぎない?」
悪いか?
何かについて知ってるからって、全部話さなきゃいけないわけじゃないだろ?
「でもさー、そうやって梯子外されるとあんまり良い気分しないよ」
難しい言葉知ってるじゃん。
お、ここだ。
「バカにすんな! ……え、ここ入るの?」
お邪魔しまーす。
「いらっしゃいませ、本日は……」
2名で。
「かしこまりました、それではこちらの席へ」
「……そんなラフに入る感じの店じゃなくない?」
え? ……こっちの物価とかわかんねえから適当に入ってるぞいつも。
ここは美味いから結構来てる。
「ええ……絶対おかしいって……」
何でそんな声ちっさいの?
「だ、だって私、こんなところ入った事無いよ……」
え? でもバッジ7個持ってるんだろ? 俺なんかバッジ持ってないのにここ入れるんだからみんな行けるんじゃね?
「あの……トレーナーさん基準で考えないでもらって良い?」
俺基準じゃない。
金だよ。
金さえあればどんな事だって日常に落とし込める。
世の中金って事だ。
「そんなこと言ってたら仲間に幻滅されるよ」
幻滅されるほど高くは見られてない。
「うわ、情け無〜い!」
むっ……!
メスガキレベル15か、中々やるな。
うちはメスガキレベルの高いやつがいなくてな。
1番高いリンでもせいぜい7か8だ。
あ、これ二つください。
ブルーもこれで良いよな?
「……え、あ、うん」
あれ、美味かったんだよ。
俺が大学生の時は、毎日卵かけご飯と鶏肉でなあ……うわくっそ懐かしい! 今度焼き鳥食いに行こうかな!
こっちの生き物はタイプごとに味がだいぶ違うから面白いんだよ。
お前も来る?
……あ、でもその頃には出発してるか。
まあ、今度な。
「今のってベヒーモスのお肉だけど……お金あるの?」
えーと……これくらいはある。
「その肩掛けの中身全部現金なの!?」
どれくらいあんのかよく分かんねえんだよな。
ホシノにお小遣い貰ってるから、予算を圧迫しない程度なんだろうけど。
「ず、ずるいよ! 何その……金はいくらでもあるみたいな!」
稼いだの俺だし、別に良いじゃん。
ほとんど渡してるけどその一部をお小遣いとしてもらってるだけだよ。
「ぶるじょわじぃ……」
俺も電子決済してぇ〜、こんな馬鹿みたいな量のお金持ちたくねぇ〜。
それに、俺のことブルジョワジーって言うけどお前だって優秀なプレイヤーなんだから、やろうと思えば稼げるだろ。
「……お金に支配される人生とか惨めじゃん」
貧乏人がなんか言ってら。
「な、なんだとー!」
たまには汗水垂らして1ヶ月連続で試練受けたりしてみろ。
そんでソーマに、ポケモントレーナーさんの言う通りに働いてみたら人生が変わりました! とか投稿しろ。
「毎日試練なんて受けられるわけないじゃん……」
根性が足りねえな。
「足りないのはトレーナーさんの脳みそでしょ」
このっ! このっ!
「あはははは!! や、やめて!! くすぐったいから!!」
「…………」
あ、お肉きた。
ここに置いてください。
「…………ヤッパリロリコン」
店員さん!? 今なんて!?
「ひぃ……ひぃ……」
ほら、ちゃんと座れ。
「だ、誰のせいで……うわぁ! これ食べて良いの!?」
そもそも食べようと言ったのは君では?
「…………私お金払わないよ!? 食べるからね!? た、食べちゃうよ!? 本当に食べちゃうよ!」
やかましいな、良いから食べなって。
じゃあいただきまーす。
「は、箸がスッと入る……!? …………く、口の中で溶ける!?」
そりゃあこんだけサシが入ってるんだから。
うーん、しっかりとした食感があるのにトロみたいに解けてくのはポケモンの肉ならではって感じだな。
「おいひぃー!!!」
ほら、口元汚れてるぞ。あんまりがっつくな。
「むぐ……ねえ! これとこれも食べたい!」
図々しくて草、さっきの遠慮どこいったんだよ。
「いいじゃん!」
……じゃあ、食べられる量だけな?
「わかった!」
すいませーん! これとこれとこれとこれと──
ちゃんと食べるんだぞ?
……なら良し!
──目の前にはお腹を押さえて満足げに壁にもたれかかる少女が。
……おい、まだ残ってるぞ。
「もうおなかいっぱーい……」
ほれ見ろ! そら見ろ! やっぱりでみそ!
お前全部ちょっとずつ食べてお腹いっぱいじゃねえか!
……おい、何眠くなってんだ。
こんな良いご飯使ってドカ食い気絶部すんじゃねえ!
「んん……」
おいまぶた開けろ!
白目剥くな!
講義中の俺か!
だ、だめだ……こいつ完全に寝る気だ、こんな昼間から。
…………すいませーん、これ包んでもらえます? 流石に食べきれなかったみたいで。
──────
「ねえ〜……暑い〜」
君が着いてこいって言ったんでしょ!?
しかもクーラードリンク飲んでるんじゃないの!?
「暑いものは暑いって」
ほんまコイツ……レッドはあんなに素直なのに。
……ほら、アレが鉱脈だ。
リザードン、お前ならどうやって取る?
「ガルル…………グルゥ!」
尻尾叩きつけちゃらめえ!
そんな事したら中身メタメタになっちゃうから!
……ヒント、もっとピンポイントに狙うんだよ。
「……ガル」
そうそう、鉤爪を突き刺して掘り起こす。
ポケモンは腕力があるからな、それで良いんだ。
それでブルーはどうする?
まあ、今回持ってきた道具見れば分かるよな。
はい、ツルハシィ〜! (ダミ声)
「……持ち上がらない」
ずこー!!
ブルーが試練に付き合えというので、わざわざこの俺が仲間に土下座してまで時間を捻出した。
この俺が! わざわざ!
ツルハシを2人分! いつもは不要で、しかも高価なクーラードリンク! 耐熱装備! ライト! 救難信号!
そこまで準備した!
それなのに、この期に及んでツルハシが持ち上がらないとか舐めた事言いやがった!
入る前に持たせれば分かるだろうって?
俺が付き合ってやってるんだから、そんなのわざわざ確認する必要すらないだろうが!
ツルハシ振るえないって言うけど、どうすんの?
今回はお前の試練だぞ?
「うーん……あっ、そうだ!」
あんまり舐めた事言うようなら裸にひん剥いて道端に放置するからな。
「な、何でもないよ! ……じゃ、じゃあリザードンがツルハシ持ってよ!」
俺はそれでも良いけど。
リザードンはできるのか?
「ガルゥ……」
手先をにぎにぎして若干不安そうに見つめるリザードン。
ものは試しだ、とりあえずやってみろ。
──キンキンキンキンキン!
パワーに任せてツルハシを振るうホノオナシホノオトカゲ。閉鎖空間で火なんか使えないからね。
洞窟内には、人間が聞くには不快すぎる音が響いていた。
ボロボロと、ただの石も価値のある鉱石も砕けて落ちていく。
リザードン、こういう色のあるやつは避けるようにして振ってみな。
「ガル!」
しばらく振るっていれば、ちょっとは分かったのか砕け方もマシになってきた。
まあ、全部砕けてるから金になるようなものは無いんですけど。
「うぅ〜音おっきいよ〜……もうちょっと静かにしてー?」
何だこのわがまま娘!?
耳を塞ぐな。お前のパートナーが頑張ってるんだから直視しろ!
ゴーグルだってしてるんだし!
「トレーナーさんはしてないじゃん……」
俺はいつもこんな感じだし。
現場ネコは1人の現場には常に付き物なのだよ。
ほら、きりきり働け!
「ガルルゥ!」
うっせ!
黙って掘れ!
じゃあ俺はあっちで掘るから、なんか異変があったら声掛けろよ!
掘り始めて1分も経たないうちに慌てたようにブルー達がやってきた。
もうなんかあったの?
「なんかあったの? じゃないよ! 何今の音!?」
「ガルガル!」
なんか変な音した?
俺は聞こえなかったけど。
「ガガガガガって……」
何となく言いたいことがわかったので、ツルハシを再び振り始める。
先を叩きつけた瞬間、ヒビが広がって鉱石が転がり落ちる。ツルハシを持ち上げて振り下ろすまでの間隔に、次のヒビを見て叩きつける先を選定する。
ずっとこれをやってるからもう慣れてるけど、確かにちょっとうるさいのかもしれない。
まあ……そういうわけだから、気にせずあっちで採掘を続けててくれ。
「これ、私たちが掘る必要ある?」
……俺をそんなに呆れさせたいんですかね。
そもそもこれはお前達の試練だぞ。
「でも初めてだからよく分からないし……」
種類が?
「うん」
じゃあ、ソーマで調べながらでいいからゆっくりやりな。分かんなかったら聞いていいから。
「じゃあ、この落ちてるやつ見てて良い?」
あんまり近付くとツルハシが脳天かち割るから気を付けろよ。
「これは?」
マカライト
「こっちは?」
アメジスト
「この丸いのは?」
真珠
「はい」
化石
「ほい」
ダイヤモンド……って、全部聞くんじゃない!
分かんなかったらっつっても多少は自分で調べなさい。
「ここソーマ使えないんだもん」
じゃあ大人しく掘ってれば良いと僕は思いますぅ!
──────
「じゃあなダイゴ君! そしてアスナ、仲良くやれよ!」
「お世話になりました!」
「なんだかんだ、春直前までいたな」
「季節なんか俺にとっちゃ、暑いかそうじゃないかの違いしか無いからな! ポケモンも以前より活発に動き出してるし、これからはもっと楽しめそうだ」
「……結局、ワイルドハントって何だったんでしょうか」
「ダイゴ……?」
「ち、ちがうから! 別に探しに行ったりしないから!」
「しっかり尻に敷かれてるみたいで安心したぜ、じゃあな!」
思った通りにアッサリと、ポケモントレーナーさん達は街から去っていった。
去るまでには色々あったわけだけど……終わってみれば短かったような気がする。
山ほどの荷物を背負って先頭を歩く彼は、マサラタウンに向かうと言っていた。
その時の目、遺跡を見つけた時のオーキド博士のようなあの目。
マサラタウンはあの人にとって大事な意味をもっているのかもしれない。
海から漂着した赤い石板。
あの時、火口に投げ入れたひのたまプレート。
前とは違って少し熱を持っているそれを見て、ポケモントレーナーはこう言っていた。
『神に負けてタイプを奪われた巨人の一族……と思っていたけど、何やら事情が違いそうだ。何せ、わざわざこんな場所に配置して守護させているんだからな』
「……うわぁぁぁあやっぱり気になるぅぅぅぅう!」
意味深な事だけ言ってどっか行くのは本当に……!
髪をグシャグシャに掻きむしっていると脇腹に衝撃が。
「まーだそんなこと言ってんのか?」
「……だって気になるじゃないかああああ!!」
「次会った時に聞けば良いだろ? ……ねっ?」
「……っ」
スルリと。
手が絡み合う。
アスナちゃんは活発で明るい。
男の子よりもよほど男の子らしいと思うことさえある。
ただ……その身体は、その手は、まさに女の子のそれだった。
細く、柔らかく、角が少ない。
俺とは大違いだ。
「帰ろ? 私たちの家に」
「う、うん……そうだね」
2人は並んで歩いていく。
かつてのようにダイゴが置いて行くこともなく、アスナが立ち止まることもなく。
もはやこの街に憂いは無い。
最後の巨人が護り、原典を受け継ぐ街の一つであるグレンタウン。
それを知るのは僅かな人間のみ。
しかし、ワイルドハントは思い知った。
思い知らされた。
人々にとってはそれだけで十分だ。
同時刻、コソコソと街から出て行く影があった。
「よ、よし……リザードン行くよ!」
「ガルガル?」
本当に行くの? とでも言いたげなリザードン。
「ここで着いていけば近道間違いナシだよ!」
「ガルゥ……」
本当かよみたいな顔をしつつも、相棒の言う事だから仕方あるめえ……と後ろをついて行くのであった。
──────
水の都。
大昔の人は考えました。
海っていいよね……海に住みたいな……埋め立てとか勿体無い、勿体無くない?
──じゃあこうしよう! 海の上に家を建てちゃえばいいんだ!
そうして人々はせっせと街を築ました。
外敵が多い? じゃあ防衛システムを作ろう!
移動が不便? うるせえ! 舟使え!
通り抜ける音楽と潮の香り。
食卓には新鮮な魚が並びます。
至る所にある水路を、舟やモンスターに乗って移動する。
訪れた人は同意しました。
まさに水の都、聞きしに勝る栄華が咲き誇っていると。
「しかし、一夜にして滅びました……何だこの雑な説明文はよお……」
「何が起きたか、伝わっていないって事だよね」
「金払って入ったのにこの程度の情報しか得られねえのか? ここは」
「いやいや、色々置いてあるじゃないか。ほら見てよこの彫刻の造形、当時の意匠の最先端が──」
「興味ねえ」
「……はぁ、ほっぺた痛いなあ」
「ちっ」
「なんでそんなにつれないのさ〜」
「……ったく」
「ふふっ、ここ見て? この模様は──」
「あぁ……」
聞いているフリをしてほぼ右から左に受け流しながら、外の風景を眺める。
小舟と、それに乗った人間が水路を移動して行く。
当たり前のように舟が生活に組み込まれているこの街は、様々なところに行った自分をして見た事の無いものだった。
この街はかつての水の都を再現しているが、ただ再現するのではなく、生活の一部として定着させる事に成功していた。
トプンと、モンスターが水面下に姿を隠す。通りすがる舟に驚いたのか、側道を歩く2人を警戒したのか。
目だけを出してキョロキョロと。
ルドロス。
舟を牽引する移動用としてポピュラーなモンスターだ。
1人が立ち止まって、地面につきそうな若草色の髪を束ねてからルドロスと見つめ合う。
「──うんうん」
もう1人は胡乱な目でその様子を軽く見ていたが、後ろから来ている小型の竜車に気付く。
海辺特有の湿気があるこの街では、竜車が通り過ぎても砂埃が舞うこともない。
季節もあるのだろうが、ベタつくようなそれではない、丁度いい空気の肌感は人が住むのに最適と言えた。
「ふーん……やっぱり良い街みたいだね」
「わざわざ人前でモンスターに話しかけるなんて奇行を晒して出る言葉が、良い街とはな」
「グズマ君のそのこわーい顔の方がよっぽど奇行だよーだ──いたたたた! あ、あいあんくろーは!」
角のジェスチャーをして、暗にお前の顔は鬼だと揶揄した結果、顔面を鷲掴みにされる。
当然、そこまで力を込めているわけもなく、プロレスのようなものでしかない。
しかし、それがプロレスに過ぎなくても、公衆の面前でやっていれば人々の目に留まるのは必然と言えた。
そして、正義感の強い人間というのはどこにでもいる。とても良いことだ、弱きを助け強気を挫くそんな人間がいること自体は。
しかし──
「おい! その人を離せ!」
「あぁ?」
「ん?」
お節介、と言う言葉もまたこの世界には存在する。
2人とも軽く笑いながらじゃれあっていたところに、釘を刺す声が耳に届いた。
青年が、グズマに向けて険の籠った視線を向けている。
後ろにはさらに2人、仲間がいるようだ。
服装から見るに地元民らしい。
腕組みをして視線を返すグズマ。
「誰だ? てめぇら」
「……っ」
凶悪と呼ぶに相応しいグズマの容姿。
そう言われただけで、正義心に満ちた青年は怯んだ。
しかし、勇気を奮い立たせて声を上げる。
「そ、その女の人から離れろ!」
「あぁ? ……ああ〜」
少し顔を赤らめさせる青年の様子を見て、グズマは邪悪なちいかわみたいになった。
確かにコイツは面だけは良い。
数歩、ナチュレから離れるとニヤニヤと底意地の悪い表情を浮かべた。
「離れたぜ?」
「…………よ、よし! そこの人、こっちに来てください!」
ニヤニヤとしたまま、次の行動を見守る。
「趣味悪いよ?」
「知るか」
青年達は困惑した。
あの悪人面を見ればわかる。
あいつは悪逆非道の徒に違いない。
それなのに彼女は何故、離れた男にまた近づくのか。
「危ないからこっちに来てください!」
「だとよ」
「…………」
彼女の目はもはや、彼らに何の興味も抱いていなかった。
路傍の石ですらもう少し興味をもって見るだろう。しかし、その目は義心に燃えた彼らには逆効果だった。
「くっ! あの目、催眠術でも受けているのか!? ……みんな!」
「「おう!」」
「…………」
変わらずに、全く興味を持たない目を向ける彼女にグズマは凶悪に問いかける。
「おいおい良いのかぁ? もしかしたらアイツらは、英雄様かもしれねえぞお!?」
「──彼らにはその資格すら無い。強き心も、野心も、世界を導くに足るものがどこにも無い」
「ヘッ! だとよお! …………じゃあ、良いよなあ!? その哀れな勘違いも! ちっぽけな勇気も! 俺が全部ぶっ壊してやるよお!」
「な、なんだ、このプレッシャー……!?」
3人は悪寒に身を包まれ、鳥肌を抑えきれない。
身構え、パートナーを前に出す。
グズマは犬歯を剥き出しにし、今まさに蹂躙を開始しようとした。
が──
「……行こう、時間の無駄だ」
「行けえ! グソ……お、おい、今から良いところ──」
グズマの腕を掴み、ズンズンと進んでいく。体格差がある2人、グズマが止まろうとすれば容易に引き止められるはずだが、そうはならなかった。
否、しなかった。
引っ張られる腕を振り解くことは容易だ。
しかし一つため息をつくと、グズマは引っ張られるまま着いて行く。
本質的に目の前の女は変わっていない。
世界を変えたい、その願いはいまだに持ち続けている。あの木端どもはお眼鏡にかなわなかったようだが、それでもコイツは人間というものをまるで分かっていない。
ああいう輩は徹底的にぶっ壊してやるのが後の為になるのだ。
立ち止まると、前を向いたまま話しかけてくる。
「グズマくん、僕は……」
それは悪癖であり、あのゴミカスと呼ぶに相応しい男の置き土産だろう。
しかし、俺は勝った。
それが全てだ。
「とりあえず飯だ」
「え……?」
「行くぞ」
「あ……うん」
ウジウジとくだらねえやつだ。
入ったのは市民食堂。
賑やかな店内、どうやら人気らしい。まだ少し早い時間ゆえに満席一歩手前で済んでいるのだろうか。
ボックス席に着く。
出てきたのは魚料理。
地魚をふんだんに使っているようだ。
箸で突いていると、ナチュレが話を蒸し返す。
「グズマ君……さっきの事だけど」
「ああ? まだ言ってんのか」
「うん、僕にとっては大事な事だから」
「なんの話だよ」
「キミは……あの時、見せてくれたじゃ無いか。全てをぶっ壊すことの意味を」
「──あの時、ね」
「嘘でも、冗談でも、英雄があんな人達だなんて……キミにだけは言わないでほしい」
「お堅いヤツだな」
「……英雄?」
「あ?」
いきなり知らない声が混ざってきた。
振り向くと、後ろの席にいた二人組の女どもがこちらを同じように見ている。
「あ、どうも」
「…………」
無視して向き直ると、なぜか乗り込んできた。
「今、英雄の話してたよね?」
「失礼します」
困惑がいきなり最高潮に達した。
誰だ?
なんというか、誰だ?
マジで誰だ?
「どうも、リンって言います」
「ユカリです」
「ナチュレです」
「…………」
何で自然に挨拶してるんだコイツも。
「英雄には私たちも一家言持ってるんですよ」
「……なるほど? それじゃあまず、キミたちの英雄とやらの話を聞かせてもらえないかな?」
「はい、是非!」
切り替えたナチュレは表情を変えた。
下らない話が始まりそうだったので、さっさと飯を済ませて1人で店を出る。
水路を勢いよく滑って行くレーサーが、水を跳ね飛ばした。
「おっ! 今日も練習やってるねえ!」
「昔はモンスターレースなんてと思ったもんですが、ハハハ! 中々見てて楽しいですなあ!」
「若い子のエネルギーというかなんというかね!」
服がびしょびしょだ。
海水混じりの水路。
汽水が乾けばきっとベタベタになるだろう。
「グソクムシャ……追いかけてぶちのめすぞお!」
「グッシャア!」
「おっ! 途中から参加かな? がんばれー!」