俺はポケモントレーナー   作:goldMg

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41_なんでもない日常

 マサラタウンは小さな町、あるいは村であり、知名度も高くない。

 そして、グレンタウンとマサラタウンの距離はさほど離れていないらしい。

 ……知っている。

 ああ、そうだ。

 最初から知ってた。

 

 行くには、陸路か海路か。

 451ばんどうろを再び通って回り込む陸路。

 内海を船で行き、あとは同じように陸を行く海路。

 当然、海路を選んだ。

 グレンタウンの北側にある港、そこからは向こう岸に行くための船、と言うか大きさ的にはフェリーと呼ぶべきモノが出ている。

 フェ……フェフェフェフェリー!!?? とか最初は思ったけど、ポケモンの世界だって飛行機とかあったしフェリーもある、のかも。

 

 お高いのね貴方……という値段をしているが、俺のパワー系金策(採掘)でグレンタウンから搾り取った額は伊達じゃ無い。

 チケットは容易に手に入った。

 でもまあ、6人分……高いね! 

 そしてフェリーはでかい。

 つまり、俺たちだけの船旅じゃ無いという事だ。

 乗るのは金持ちのガキども。

 大人ももちろんいるけど。

 今はまだ船に乗り込めないので艀で待っている。

 

 ……全く最近の子供はこれだから……俺が10歳の頃なんて自分の足で川の上流までなあ! 

 え? 一般家庭の子は451番道路で行く? 

 まあそうだよな。

 でもアレだな、揃いも揃って自信に満ち溢れた顔をしてやがる。

 それに連れてるポケモンも毛並みが綺麗でアクセサリーまで付けちゃってまあ……

 親も良い会社に就職してるんでしょうねえ! 

 可愛い子には旅をさせよってよく言うだろうに! 

 ……いや、旅はさせてるのか。

 ──ん? なんだチミは。

 

「ぼくはエリック! しょうらいチャンピオンになるおとこさ!」

 

 おお! それはすごいな! 

 ぜひうちのアイリやヒガンくんとライバルになってくれ! 

 

「……ふん」

 

 なぜかエリックくんはチラッとアイリを見ると、鼻を鳴らした。

 なんぞや。

 

「こんなやつ、ライバルにふさわしくないね!」

 

 確かに。

 

「ししょー!?」

 

 でもちょっと待って欲しい。

 エリック君はまだ弱すぎてアイリのライバルには相応しくないかもしれないけど、アイリは優しいから相手してくれるぞ。

 

「なんだと!」

 

 逆に、君より弱い奴がうちにはいないから弱者を探してるなら困る……あ、いや1人くらいなら……

 

「なんで僕を見るの!?」

 

 だってお前もまだアレじゃん。

 

「僕もバッジ一個持ってるじゃん!」

 

 そうだよな……それに実際戦ったらノコには勝てないだろうし。

 

「ぼくのパートナーはあのプテラだぞ!」

 

 ──マジ!? 

 どこにいるんだ!? 

 見せて! 

 良いから見せて! 

 早く見せて! 

 絶対見せて! 

 やっぱ金持ちって最高だよな! 

 金持ち万歳! 

 というかどうやってプテラ復活させたんだ!? 

 

「ゆ、ゆさぶらないで……きもちわるくなっちゃう……」

 

 おっとごめん。

 つい興奮が。

 

「手のひら返すの早すぎでしょ……」

 

 ホシノ、余計な事言うな! 

 ……ゴホン! それでエリック君、プテラはどこにいるんだい? 

 

「……じゃ、じゃあよぶよ? ……ぴ──ーっっ!!」

 

 ゆ、指笛だぁぁぁぁ!! 

 かっけえええええ!! 

 おっ! あっちの方から飛んできた! すげえすげえ! 

 

「も、もうみえるの?」

 

 そりゃ見えるでしょ。

 

「ええ…………おーい、こっちだぞー!」

 

 よく調教されてるな。

 それで、プテラなんてどこで化石から戻したんだ? 

 

「しらないけど……べつのちほうからとりよせたっておとうさんが」

 

 なるほど、別の地方ならそういう機関がある訳か。

 ……プテラ触っても良い? 

 

「あ、うん」

 

 んー……さすがに爬虫類みたいな肌してるな。

 やっぱ恐竜ベースで考案されてるからだろうな。

 可愛いでちゅねー! 

 まあ完全体じゃ無いらしいけど。

 こいつもコハクから復元なのかね。

 えーと……それでなんだっけ、俺にプテラをプレゼントしにきてくれたんだっけ? 

 ありがとう、大事にするわ。

 

「ちがうよ!?」

 

「…………」

 

 ちょっ! ホシノ冗談! 冗談だから! 

 ホシノ一筋だから! 

 

「は?」

 

「ピカチュウのばか!」

 

 待て! これはあくまでプレイヤーとパートナーの関係の話だから! 

 そういう話じゃ無いから! 他の奴らはちょっと待って! 

 ……リザードンは完全に関係無いだろ! やめろ! 

 

「ぷーくすくす、ざまあみやがれだホ。いい気味だホ」

 

 なんなんだ本当に……もう少し落ち着いて周りを見て欲しいぜ。

 ──それでエリックくん、やるかい? 

 

「じょうとうだ!」

 

 ノコ、お前の出番だぞー。

 

「……僕のこと、ザコだと思ってるでしょ」

 

 そんなわけねえだろ。

 単純に、他の奴らだと実力差がありすぎて相手にならないんだよ。

 その点、お前はまだ完全には慣れてねえだろ。

 

「しょうがないじゃん」

 

 どんどん戦って練習しろ。

 

「はぁ……わかりましたよーだ」

 

 そうそう、素直に聞いてくれる子は俺も好きだ。

 

「ふ、ふーん……」

 

 じゃあ頑張れ、エリック君。

 

「僕への応援は!?」

 

 流石に負けるとは思ってない。

 

 

 ──────

 

 

「ああ……」

 

 エリック君は膝から崩れ落ちた。

 ボロ負けというか、何もできずに負けていた。

 うーん、ノコでもまだ強すぎたか。

 まあ……異世界の勇者を舐めすぎたな! 

 見た目(でかぱい)に騙されやがって。

 目の前が まっくらに なった! って感じで四つん這いになっているエリック君。

 よかったね、最初に負けられて! 

 

「……」

 

 あっちを見てみな。

 

「──くすくす」

 

「……っ」

 

 上品に笑って、君を見下している子供達がいるだろう? あれがさっきまでの君だ。

 あの子達より、君の方が100倍くらい経験値あるからな。

 

「う、うるさい!」

 

 ノコ──あの水色の姉ちゃんはバッジ一個しか無いけど、ほとんどのジムリーダーよりも経験積んでるからな。

 

「え……?」

 

 レギュレーションが違うからポケモンバトルではまだ初心者の域を出ないけど、そのうち一気に強くなる。

 負けるのは当然だ。

 そして、君がこれから旅する世界は──

 

「……くそ!」

 

 あ、行っちゃった。

 ……まあ大丈夫だろ。

 強くなれ、少年。

 

 遠巻きに見ているおじょうさまやおぼっちゃま。

 未だ自信ありげなあの子達はきっと、ワイルドハントの事を夢か何かだと思っているのだろう。

 アレこそは、この世界の厳しさを指し示す一端。

 最後まで生き残っていたなら世界が再生していく不可思議を目に収める事も出来ただろうが、それを求めるのは酷か。

 きっと押し潰されて、亡骸となっていたに違いない。

 

 街でも、ワイルドハント襲来から少し時間が経つと人々の反応は2つに分かれた。

 あれは夢だったと思う者。

 奇跡が起こったのだと理解し、生への強い執着を含んだ目つきをする者。

 勿体無いとは思う。

 全員が意識を共有できれば、次に何かが起こった際の対処が容易になるだろう。

 ただ、多くの人々が虐殺されたなどとわざわざ伝えるのも残酷な事だ。

 子供も多い事だし。

 協会内部では共有できているようだからそれで良いのだろう。

 治世をしている彼らがそう判断したということだ。

 

 それはそれとして、あの子達にも敗北を刻みてえ〜! 

 あの、金持ってますって顔を絶望に塗れさせてえ〜! 

 大層なポケモン持ってるようだけど君の力じゃなくて親の力だよねってわからせてえ〜! 

 

「顔、歪んでるわよ」

 

 俺に整形しろって言うんですか! なんて失礼な! 

 

「……趣味の悪い顔」

 

 ぐへへ……拙者の悪いところが出たでござんすねえ! 

 

「お金持ちの子がそんなに気に入らないの?」

 

 うん! 

 

「そ、そう……でもあなたもお金ならいっぱい持ってるじゃない」

 

 それはそれ、コレはコレ。

 

「……呆れた」

 

 まあ、絡んでこなきゃ俺から何かを言うことも無い。そんな暇じゃ無いしな。

 

「今は待ってるだけなのに、暇じゃ無いの?」

 

 せっかくの港だし、お前達との時間が欲しい。

 

「あら、じゃあ──こう?」

 

「おじさんもいるよ〜?」

 

 両手が塞がってしあわせです。

 やっぱ異世界って神だ。

 タケシとか泣いて羨ましがりそう。

 ……結局タケシって結婚できたのかな。

 あんな超有料物件、普通は放っとかれないよな。

 

 2人と一緒に護岸から海を覗き込むと、海面下には魚やポケモンがいる。

 南国でも無いのに透明度が高めだ。さすがに沖縄には及ばないけど。

 

「ここも結構南の方だからねえ」

 

「……ね、海にはどんな不思議なモンスターがいるの? 私、すごい気になってたのよ」

 

 そう聞かれても……お前達の方が詳しいだろ。

 

「普通のモンスターの話はしてないわよ」

 

 あーね……そうだな、じゃあーおぉぉぉおおお!!? ……ばか────!! 

 

 前のめりになっていたところに後ろから思いっきり衝撃が来て、そのまま海に落ちた。

 最悪です。

 目を開けると、クリアなシーがミーを迎え入れてますね。そしてポケモン共は俺のことを見てケタケタ笑っている。

 久しぶりにキレちまったので、サイコエネルギーもとい波導の力を用いた擬似魚人空手で激流を発生させて全てを押し流した。

 驚いた顔で流されていくポケモンを見ると胸がポカポカする……これが心……ああいや、まずは海から出よう。

 

「……ぶはあ! おいコラァ! 誰だ俺のことを突き落としたのは!」

 

「あ、出てきた……大丈夫だった? すごい波が発生してたけれど」

 

「ああ、気にしなくて良い! それより、さっきのは明らかに誰かが俺の背中をどついてただろ!」

 

「……えっと、実は──」

 

 ナギが視線を背後の方にちらっとやった。

 どうやらここからだと見えないが誰かがいるらしい。

 すると聞こえてくる、下手人の声。

 

「ホシノしゃーん! 船に乗れないよー!」

 

「そ、そうなんだねえ?」

 

「……お金、貸してください!」

 

「ごめんね〜ブルーちゃん……これはみんなのものだからおじさんだけの判断で決めるわけにいかなくてね〜?」

 

「──おいブルーお前かあああああ!」

 

「良いから早く上がってきなさいよ……」

 

 

 ──────

 

 

 護岸の壁を掴み砕きながらよじ登り、縁に手をかけて身体を持ち上げた。

 ホシノに抱きついて、全く悪びれない顔をしたブルーがいた。

 

「ごめーんね?」

 

「お前なあ……まあいいか、どっか行ったもんだと思ってたぜ」

 

「あー……まあちょっと私も用事が……」

 

「俺を突き落としたことに関係してるんだろうな?」

 

「……そっそうそう! 早くチケット買わないと船に乗れないよ!」

 

「なんの話だ」

 

「実は──」

 

 フェリーに乗ろうとしたら金が無くて、チケットの残り枚数もそこまで多く無いので急いでホシノから金を借りようと思ったら勢い余ったらしい。

 普通そういうのは事前にいくらか調べてから来るよね? 

 

「だ、だってまさかこっちで行くとは……」

 

 は? 飛んでいけば良いじゃん。

 見ろ、この晴れ渡る青空! 

 今にも飛んで行きたくなるだろう! 

 ほら行け。

 

「あなた、流石にそれは……」

 

「こ、殺す気!?」

 

 何言ってんだ? 

 死なないだろ、リザードンいるんだし。

 

「飛んで行けるような場所ならそもそも、こんな遅い船が採算取れるわけないでしょ!」

 

 知らんよそんなん。

 なんかあるのか? 飛べない理由が。

 

「飛んで行った人たちはみんな行方不明になってるの!」

 

 こわ……じゃあ歩いて行けよ。

 

「……ねえ〜お金貸してよ〜」

 

 びしゃびしゃなんだからそんな揺さぶられたらお前にも水かかるぞ。

 もういいや。

 ホシノ、とりあえず金は俺の分から引いといて良いから。

 

「まあそれならおじさんから言うことは無いけど……」

 

「わーい!」

 

 ただし! 

 船内で他人のモンスターを手に入れようとするんじゃ無いぞ! 

 

「はーい」

 

 じゃあホシノ、こいつと一緒に買ってきてもらっても良いか? 

 

「分かったよ〜」

 

 俺は着替えないといけませんからね、ええ……

 

 コインシャワー室的なアレを借りて、潮水からおさらば。

 着替えた。

 やっぱり電子決済オンリーだった。

 クソでやんす! 

 ステーキの店は現金でも行けたのに! 

 

「大衆向けにそういうの期待しちゃダメよ、そもそもあのお店はステーキのお店じゃ無いからね?」 

 

 え? 

 ステーキ売ってたのに? 

 

「ステーキ専門店じゃ無いわよ……」

 

 まあ、なんでも良いんだけどさ。

 

「結構気に入ってたわよねあそこ」

 

 美味かったからな。お前も嫌いじゃなかっただろ、何回か一緒に食べに行ったし。

 

「そうね……いつかおじさんも連れてきたいわ」

 

 アラカゼさんなら来たことありそうだけどな。

 

「おじさんも昔は旅をしていたらしいし、そうなのかしら……」

 

 でもあれだ、ナギと一緒に来るのはまた別だもんな。

 

「ええ」

 

 ……おっソフトクリーム売ってるじゃん、食おうぜ。

 やっぱ甘味は正義ですよ。

 

「えー……こんな中途半端な時間に?」

 

 おやつは中途半端な時間に食うもんだ。

 すいません、何が売ってるか聞いても? 

 

「塩ソフト、アマソフト、ニガソフト、カラソフト」

 

 ……あれ、なんかちょっと思ってたのと違うな。

 抹茶ソフトとか胡麻ソフトみたいなの無いの? 

 

「……あんな邪道なもの置いてないよ」

 

 邪道て……じゃ、じゃあ塩ソフトがどんな感じかまず一個もらって良い? 何個か買いたいんだけど、めっちゃしょっぱいとかだと嫌だから。

 

「にいちゃんお金持ってるのにケチだね、はいこれが塩ソフトだよ」

 

 なんだこいつ失礼だな…………美味いじゃん。

 じゃあこれをあと5個、じゃなかった6個ください。

 

「──はい、どうぞ」

 

 じゃあナギ、支払いは頼んだ。

 

「はいはい」

 

 アイス7個をゲットしたので、アイリたちのところへ向かった。

 

「わーい、アイスだー!」

 

 真っ先に飛び込んできたのはノコ。

 素直で可愛いねえ、はい、1人一個な。

 

「ありがと! ……ん〜美味しいー!」

 

 初めて食べた時に気に入ったって言ってたもんな。

 

「おねえちゃーん!」

 

「ブルー? なんでここに」

 

「じゃーん、チケット!」

 

「船の上では暴れちゃダメだよ」

 

「ふふふ〜、ちゃんと大人しくします〜」

 

 何故かブルーは俺に向かってこっそりウインクをしてきた。

 どういうウインクだ。

 お前がいい女感を出した場面は今のどこにも無かったぞ。

 金も払ってないし。

 

 

 ──────

 

 

「うへ〜船ってこんな感じなんだね〜」

 

 _人人人人人人人人人人人人人人_

 > 船ってこんな感じなんだね <

  ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄

 

 とんでも無い衝撃の一言がホシノの口から飛び出た。

 確かにこの世界で船見るの初めてな気がするし、すげえ貴重な技術なのかもしれない。

 俺が知ってる船とは見た目ちょっと違うもんな。

 みんなフェリーとは呼んで無いし。

 すげえゴツい。

 船体とか石だぜ多分。

 甲板に渡ると、既に上には多くの人がいた。

 速度が遅いらしく、しばらくは海の上だそうだ。

 当然、宿泊室がある。

 というかチケットを取る意味はほぼそれだ。

 何故かみんな甲板で立ち止まって空中を眺めている。

 俺も空を見るけど、遥か空の果てに黒い龍が飛んでいるのしか見えない。

 こいつら何見てるんだ? 

 みんな頷くと足早に階段を降りて中に入っていく。

 なんだこれ。

 

「ししょー! あそこに案内が浮いてて、視界でキャッチすると案内してくれるんです!」

 

 つまりナビタイムか。

 じゃあアイリが俺を案内してくれ。

 

「がってんです!」

 

 階段を降りようとして大量の荷物が引っかかり、一旦各々に渡してから中に入る。

 木製の甲板に引き続き木製の廊下だ。

 古めかしいな、古臭くは無いけど。

 あと……なにあれ。

 甲板にでかい穴が開いてるんだけど、その底に巨大なクリスタルが鎮座している。

 トゲトゲの生クリスタルだ。

 穴は吹き抜けになっていて、廊下からも見下ろすことができた。

 ひと足先に荷物は置いてきたのか、手すりにもたれて見ている老紳士もいる。

 あと、猫耳女もいた。

 亜人……か? 

 

「綺麗だよね」

 

 ノコちゃん、そうだけどそうじゃ無いんだ。

 天然炸裂させなくて良いから。

 

「はー!? てんねんじゃないから!」

 

「!!!」

 

 レッドがシュバってきた。

 

「あれは動力のクリスタル」

 

 動力? 

 

「うん、あれでタービンを回す」

 

 夜どうすんの。

 

「……昼間のうちに太陽のエネルギーを貯めるんだって」

 

 じゃあ1週間ぐらい天気悪かったら? 

 

「………………うるさい」

 

 うるさい!? 

 ……でもなんかあるんだろうな、10mくらいあるんだし。

 教えてくれてありがとな。

 

「うん」

 

 ちょっと満足そうだ。

 でもコイツらも船に乗るのは初めてだからか、部屋に着くまでお上りさんよろしくキョロキョロと周囲を見ていた。

 

「やっぱ高いだけあって部屋広いねえ〜」

 

 ホシノが部屋を見て感想をこぼす。

 確かに、俺のイメージするフェリーの個室っていうともっと無駄を切り詰めたようなイメージなんだけど……まあこれ高級船っぽいしな。

 宿から出たと思ったら、また別の宿に泊まってて草です。

 こういうのは初めての体験だな。

 ソファに座って少しダラダラしていると、ナギが横に腰掛けた。

 

「元の世界ではこういう旅はしてなかった、のよね?」

 

 そうだな、旅なんかする必要無かったし。

 

「必要が無い……」

 

 この世界だと人間はモンスターのお情けで生き延びてるだろ? 

 俺の世界だと逆にモンスターが人間のお情けで生き延びてるから。

 

「たくましい世界なのね……」

 

 逞しいというか……源流が違うみたいな。

 

「?」

 

 神様がいないんだわ。

 

「ええ!?」

 

 信じられない気持ちもわかるけど、そういう世界もある。

 

「じゃ、じゃあどうやって世界が生まれたの?」

 

 さぁ…………ず──ーっと昔から人類は考えてきてたけど、俺の時代にもまだ分かっていなかったよ。

 有力な説自体はあったけど、それでもまだ特定には至らずだ。

 

「大変ね」

 

 大変……でもまあ、この世界と比べたら外敵は少なかったな。

 どこを歩いてもモンスターに襲われるなんてことはないし、空だってある程度は自由に行き来できた。

 

「……じゃあ、なんで貴方はあんなに荒事に慣れてたの?」

 

 慣れてなんかねえよ……精一杯やってんだ。

 ただの学生が本物の命のやり取りに関わる事なんて殆ど無かった。

 せいぜいがムカついたやつを川に沈めるくらいだ。

 

「……それなのに、1人で戦いに行ったのね」

 

 ほっぺを突いてくるナギ。

 口を尖らせており、何やら責めるような雰囲気を感じる。

 ちょっとヒヤヒヤしていると、口元を緩めた。

 

「ありがとう」

 

 この事に関してそのセリフ聞いたの何度目だっけ……

 

「……寝そべってよ」

 

 あ、はい。

 

「んしょ、よいしょ」

 

 ソファで仰向けの俺の上にうつ伏せになったナギは、胸に耳を当てていた。

 心臓の音でも聞いているのか楽しそうだけど……まだ昼前なのに寝るのは早いんじゃね? 

 

「良いから、このまま」

 

 そうしてると、やはりナギは寝てしまった。

 寝辛く無いのかよその体勢……俺の雄っぱいに枕としての可能性が眠っていたのか? 

 そこにトコトコとアイリが寄ってくる。

 

「ししょー、ナギさん寝ちゃったんですか?」

 

 そうみたいだ。

 アイリは荷物片付けたか? 

 

「はい! これからレッドさん達と一緒に船の中を冒険してきます!」

 

 はは、そりゃあ良い。

 ナギは寝かせて俺も行こうかね。

 

 立ち上がるためにゆっくりとナギを退かそうとしたら、慌てて止められた。

 ナギの相手をしておいてくれとのことだ。

 そう言われれば俺も否やは無い。

 1人で置いていくのは少しだけ不安だしな。

 とはいえ体勢自体はあまり良くないので、俺は起き上がって膝枕で寝かせておくことにした。

 毛布をかけ、ひたすらに顔を眺める。

 

「おじゃましまーす……あれ、2人いる……しかもイチャイチャしてるし」

 

 何故かブルーがやってきた。

 てっきりレッド達と一緒に散策してるもんだと思ってたんだけど。

 ブルーは俺たちとは別室だ。

 ……俺も別室ほちい! 

 

「……まあ、良いじゃん」

 

 可哀想に、ハブられてしまったのね……

 

「うざ、トレーナーさんだってハブられてんじゃん」

 

 俺は見ての通り白雪姫の護衛してるから。

 

「しら……え?」

 

 眠っているお姫様のことだ。

 

「……お姫様とか呼んでるの? うわあ」

 

 うちの仲間達はみんな俺にとってそんな感じだけど……子供にはわからんか〜。

 まあ子供だもんな〜、ブルーもあと10年経ったら分かるかもな。

 ほら見ろこのナギの寝顔。

 

「ナギさんだね」

 

 バカお前このパーツの整い方見ろ! 

 可愛いと感じる場所に全部のパーツが配置されてるんだぞ! 

 目も耳も、鼻も眉も口も! 

 

「あの、あんまり触らない方が……」

 

 この形の良い耳! 

 百万ドルに値しますよこれ。

 

「……あ、あの、顔が赤く……」

 

 ちょっと赤くなった顔もまた可愛いだろ? 

 ナギは素直じゃないから、2人きりだと思いっきり甘えてくるのがまた良いんですよ。

 

「へんたい!」

 

 そんな顔真っ赤にしなくても良いのに……ブルーもいつか分かるよ。

 

 

 ──────

 

 

 ブルーをもう一つのソファに座らせて、訪ねてきた理由を伺う。

 

「……あの……お金……ありがとうございました」

 

 この部屋には窓がある。

 外が見れるわけだけど……別に天気は変じゃなかった。

 ゆっくりと動く遠景と波だけが移動の事実を伝えてくる。

 こうなると、明日は大荒れか。

 

「むっ……私だってちゃんとお礼くらい言うし」

 

 散々奢ったりしたけど、改まって言われたことは無かったような気がするな。

 

「だって……」

 

 え? 

 

「ムカつくし」

 

 ええ……レッドの話? 

 

「そうだよ! 結局、お姉ちゃんはまた戦ってたし!」

 

 まあまあ落ち着けって。

 ピカチュウの事も一段落ついたし、マサラタウン行ったら海外だ。

 お土産は期待しとけ。

 

「そんな話してないよ!」

 

 ナギが起きちゃうから、もう少し静かにしてくれない? 

 

「もう起きてると思うけど……そのグズマって人、どこにいるのか本当に分からないの?」

 

 分からない、なにせソーマの利用頻度が絶無だ。

 ……これ起きてるか? 

 ナギ〜? 

 起きて無いな、いい子いい子。

 

「…………」

 

「ナギさーん? 起きてるよねー?」

 

 ……ほら、反応しないんだから寝てるよ。

 

「トレーナーさん……もうちょっと身内のことに意識張った方が……」

 

 まあそれはいいんだ。

 俺が今1番気になってるのは……ブルー、お前が本当にミュウツーを探すのかってことだ。

 本当に危険な道だぞ? 

 紹介した俺にこんな事言う権利は無いのかもしれないけど、カムイに挑むために訓練を積んだ方がいいと思う。

 

「……トレーナーさんはさ、冒険が好きなんでしょ?」

 

 うん? …………そうだな。

 

「好きで好きで、やめられないんでしょ?」

 

 まあね。

 

「私も同じだから」

 

 ……そうだよなあ、だってブルーだもんなあ。

 

「何それ」

 

 ブルーといえば強いモンスターに惹かれるみたいなところある。

 

「……なんか納得いかない」

 

 レッドと旅をするのは前から約束してた事だからさ、それは許してくれよ。

 あの子だって楽しみに思ってくれてるはずだし。

 

「それも分かるけど……」

 

 お前もどっか行く宛はあるんだろうけど、別の地方か? 

 

「うん」

 

 どこ行くの? 

 

「ヒミツ」

 

 まあどこでも良いけどさ、ちゃんと下調べしていくんだぞ。

 心配だからな。

 

「…………ムカつく」

 

 またそれか、俺の何がそんなに神経に来るんだか。

 こんな人畜無害が服を着て歩いてるような人間なのに。

 

「お姉ちゃん探しにいくね」

 

 お、おい──なんだったんだありゃ。

 ……まあレッド達と合流するなら特に言うことも無いか。

 

「はぁ……」

 

 あ、起きたか。

 

「ええ、たった今起きたわ。たった今ね」

 

 そんな念押ししなくても分かってるって。

 いやさ、今さっきまでブルーが来てたんだけど、やっぱアイツむずいわ。

 

「……もうちょっとあの子にも素直さがあればね」

 

 素直さ? 

 素直さがあるとどうなるん? 

 

「小声で言ったんだから聞こえてても流しなさいよ!」

 

 ごめんなさい……

 

 また少しだけのんびりしたあと、俺とナギも船内探索へ。

 この船には広場のような場所が多くある。つまり宿泊室がそこまで多くないということなんだけど。

 俺たちと同じように散策しているガキども、設けられたカフェで優雅なひと時を過ごす紳士、船内スタジアムでバトルするガキども、忙しなく走り回る乗組員、何かとぶつかって揺れる船。

 

「気持ち悪い……」

 

 ナギは酔った。

 でも気持ちは分かる。

 俺も船とか酔うタイプだからな。

 

「うう……」

 

 医務室に顔を出すと、さっきの衝撃で転んだ人がいたのか、手当してもらっていた。

 あ、どうも。

 

「ポ、ポポポポポ……!?」

 

 八尺様かもしれない。

 五尺ぐらいしか無いけど。

 ……五尺様!? 

 年もナギよりはちょっと上のような雰囲気を感じるのに、ポニテに半袖ショートパンツなのでお子ちゃまな空気感だ。

 とりあえず酔い止めをもらって部屋を出る。

 しつれいしゃっしたー。

 

「ポポポケモントレーナー!?」

 

 閉めた扉の向こうから絶叫が。

 面白えやつだ。

 

「頭に響く……」

 

 酔っているナギにはあの声量はキツいのか頭を抑えていた。

 

 

 ──────

 

 

 船は夜闇を進む。

 溜め込まれた莫大なエネルギーの一部を用いたライトは進むべき道を照らし出す。

 集まってきた怨霊やモンスターをライトの力で押し戻し、寄せ付けない。

 とんでもなく重要な仕事をこなしている。

 操舵室、乗組員達は交代で捜査を行なっていた。

 静かだが、確かに人の動きのある室内。そこに慌ただしい音が殴り込んできた。

 一斉に、そちらに気を取られる。

 下っ端船員が何かを掲げていた。

 

「こ、こんなものが!」

 

「…………これは!?」

 

『いと高き空、満ちる力を束ねるは神の施し。灯台の見える頃、輝かぬ証をいただきます 慈愛の怪盗』

 

「なんだこれ……ああ、怪盗か」

 

「……業務に集中しろ!」

 

 馬鹿を相手している暇は無いんだ! 

 モンスターの方が怖えんだ! 

 

 一方その頃、一行は──

 

「くるくる〜……えへへ、ししょー見てますかー!」

 

「見てるぞー」

 

「えへへへ! レッドさんも、もっと笑ってください!」

 

「う、ん……」

 

「はぁ、最高だ……ホシノ、ちゃんと撮ってるよな?」

 

「もちのろんだよ〜」

 

 パーティに参加していた。

 青年だけアロハシャツだが、これは紛うことなくパーティだった。

 ホシノもレッドもアイリもナギもノコもブルーもみんなおしゃれに着飾っているのに、1人だけアロハシャツだった。

 そして、うちの仲間はこんなに可愛いんだ……と感動していた。

 アイリとレッドが手を取り合って踊っている姿を見つめている。口元に手を当てて、目元を潤ませていた。

 ナギやブルー、多くの船客やポケモンも楽しそうに踊っているようだ。

 

「いや〜あんな可愛い子達のドレス姿、眼福だね〜」

 

「…………」

 

 ツッコミ待ちだろうか、青年は本気で悩んだ。

 そして口に出すことにした。

 

「ホシノ、お前が1番可愛いよ」

 

「ふぇっ!?」

 

「綺麗だ」

 

「……そ、そんな事無いよ〜……ほら、レッドちゃんとかノコちゃんとかもっと──」

 

「近くにいるホシノが一番輝いて見える」

 

「…………あ、ありがと」

 

「わかれば良い」

 

 他の子の方がとか生意気な事、二度と言うんじゃねえぞ。

 

「フォッフォッフォ、お熱いですのお」 

 

「どうも」

 

 あの老紳士だ。

 昼間の紳士服からは着替えたようだが、それでもハイセンスなのが紳士たる所以だろう。

 

「ワシも若い頃は随分と無茶をしたものですが、貴方はまさに比肩無し、といったところですな」

 

「そんな大したものじゃ無いっす」

 

 おそらく右腕は義手だ。

 オートメイルってやつだろう。

 

「これが気になりますかな?」

 

「ええ、まあ」

 

 カチャカチャと機械特有の音すら無く、滑らかに動く義手。

 ……カッケェェェェェェ!! 

 だが俺は男の子なのでそんなこと口には出さない! 

 

「この世で一番大事なものと引き換えに失ったのですよ」

 

「この世で一番大事なもの……」

 

「貴方ならきっと分かるでしょう」

 

 紳士は顔をレッド達の方へ向ける。

 十二分に伝わってくる思い。

 それはつまり、そういう事なのだろう。

 

「名誉の負傷ですね」

 

「うむうむ、誇らしいとも」

 

「……うちの子達は綺麗でしょう?」

 

「ホッホッホ! 貴方が自慢したくなるほどに、ですかの?」

 

「はい」

 

「そうですな……まあ、3番目に綺麗だとだけ」

 

「なるほど」

 

「怒らないのですかな?」

 

「気持ちは分かりますから」

 

「ほほっ! では、我が船をこれからもお楽しみくだされ!」

 

 そう言って紳士はクールに去った。

 いや、あんたの船かい。

 

「お、お兄さん……あのさ……」

 

 なんでっしゃろ。

 

「お……お……」

 

 お……

 

「お……踊らない、ません、か?」

 

 なんて? 

 

「…………」

 

 ホシノは顔を真っ赤にしてしゃがんでしまった。

 隣にしゃがんで顔を覗き込む。

 そんなこと気にしてないで、立て! 

 

「う……じゃ、じゃあ踊ってくれる?」

 

 俺、盆踊りしか知らないんだけど……

 

「盆踊りって何?」

 

 死者の魂を鎮めて送り出す踊り。

 

「邪教!?」

 

 お前、なんてこと言うんだ! 

 お祭りとかも開かれて賑やかなんだぞ! 

 

「でも、踊りたいよ……」

 

 ……まあ、踊れないことは無い。

 

「ホント!?」

 

 そんな目を輝かせないで……周りの人の動きをトレースして再現するだけなら一応出来るから、多分。

 

「それで良いよ、いこいこ!」

 

 手を引かれて場に飛び込む。

 俺のハイパースペックボデーは予想通りに動いてくれた。ホシノの手を伝って動きを伝播させ、澱み無く、滑らかに舞う。

 ドレスがヒラリヒラリと音楽に乗って揺らめき、二人の間に在る距離が自在に変化する。

 手の内だ。

 そのうち慣れてくると片手で1人ずつ操作できるようになったので、代わる代わる仲間を2人ずつ伴って踊った。

 やっぱマルチタスクは神経使うぜ! 

 

「……ふぅ、中々な難易度だったな──うるさっ!?」

 

 音楽が終わると、万雷のと頭に付くような拍手が鳴り響いた。

 うるさいのでさっさと退散して飯を皿に乗せる。

 なんか色々言ってて、元気だなって思いました。

 

「ふむふむ、あの爺さんが用意するだけあって美味いな。スタイリッシュだ」

 

「トレーナーさん、踊れたんだね」

 

 ブルーの声が横から聞こえた。

 アイツらは踊り疲れたのか、みんなで丸机を囲んで飲み物を飲んでいる。

 

「踊れないぞ」

 

「普通に嘘つくのやめて?」

 

「他の人の動きを真似しただけだよ」

 

「それであれだけ踊れれば十分じゃ無い?」

 

「それな」

 

 このスモークされた肉美味いな……こっちのはどうだろ。

 

「みんなすごい綺麗だよね、特にお姉ちゃん」

 

「分かる」

 

 生魚のマリネ……か? 

 よく分かんないけど美味いからヨシ! 

 

「……ところで私の服は──」

 

「うんうん」

 

 おっ! こっちの野菜は見た事ねえ! 

 食べちゃいましょうねえ──

 

 カチャリ

 青年が伸ばした菜箸を邪魔するように、横からフォークが伸びてきてかち合う。

 

「おいブルー……たくさん食べたいからって邪魔しないでくれ。フォーク剣術で俺と勝負したい、の……か……」

 

 随分と小悪魔な服装を着ておられる。

 胸元が大胆に開いてるドレスを選んだようだ。

 ちょっとブルーには早いかもしれないけど……

 

「どう?」

 

「似合ってるぞ」

 

「ふふん」

 

 自信満々だし良いか。

 おっ、こっちの果物は見た事いぢぢぢぢ!! 

 なにすんだ! 

 俺のほっぺたはお餅じゃないぞ! 

 

「ん」

 

 なんだよ、果物欲しいの? 

 

「ん!」

 

 なんだこいつ……握手すりゃええんか? 

 よろしく。

 

「ん!!」

 

 だから何なんですのん……こ、言葉は便利なツールなんだから使わないと損だぞ! 

 

「ん!!!」

 

 怖いよお、誰か助けて……アイツらは──ダメだ、目逸らしやがった。

 俺になにしろってんだよ。

 落ち着け、考えるんだ。

 この、よく分からない事で定評がある娘が差し出した手は何を求めているのか。

 

 その時、俺の灰色の脳みその中でとある言葉がリフレインされた。

 

『もうちょっとあの子にも素直さがあればね……』

 

 す べ て り か い し た

 

 良い加減プルプルし出したブルーの手を取る。

 

「Shall we dance?」

 

「…………?」

 

 英語! 通じず! 

 

「うるせえ良いから踊るぞ!」

 

「あ、うん……あっさり、だ……」

 

 なんかさっきとは違って随分ゆっくりした曲だな……う゛っっっ!! 周りで踊ってる奴がいない! 

 これじゃあ真似できないよお! 

 思い出せ! さっきの動きを思い出せ! 

 ……よし、思い出したな! 

 あ、でも曲調が違うから動き変えないと合わないよお! ダンスって何だよお! こんなの学校では習ってないよお! 

 

「ふふ、あんまり踊るのは好きじゃなかったけど、勝手に身体が動くのは結構楽しいね!」

 

 俺は大変だ! 

 手をあっちやって脚をこう動かして回転してってのを考えながらやらないといけないんだぞ! 

 感覚でやってねえんだこっちは! 

 全部マニュアルだぞう!? 

 

「あ〜そういうこと言うんだ〜、私と踊れる機会なんてこれ以降無いかもしれないよ〜?」

 

 なんか楽しそうに言ってるけど、ヒイヒイ言いながら曲に合わせて一生懸命動いてるだけの俺の頑張りとか分からないらしい。

 ……女の人っていつもそうですよね! 

 ──あ? 

 

「あれ、照明が…………あ、付いた……消えた」

 

 ブルーの言う通り、照明の調子が悪いのかチカチカと付いたり消えたりしていた。

 演奏している人たちも一時的に中断して、踊る空気じゃ無くなってしまった……とでも言うと思ったかなあ!? 

 俺は音楽に合わせてるわけじゃ無くて、動きをトレースしてるだけなんだよねえ! 

 

 結局、照明がもどるまで踊ってたらお捻りが貰えた。

 暗さと明るさの中で踊る事により人間の栄枯盛衰の表現がどーのこーの、みたいな事言ってるオッサンがまずお金を投げて、そこから次々と別の人も。

 まあ、現金じゃ無くて電子マネーだから全部ブルーのところに行ったけど。

 

「お金がいっぱい……」

 

 これで君も今日から資本主義の仲間入りだね! 

 金さえあれば何でも買える! 

 さあ、まずはこの自販機で飲み物を買おう! 

 

「お金、返したほうがいい?」

 

 でもお前あんまり金持ってないじゃん。

 その金は取っとけよ。

 

「……うん……あのさ」

 

 え? 

 

「なんで……アロハシャツなの?」

 

 なんでって……釣りしてたら服選ぶ時間過ぎてた。

 

 そうなのだ。

 この際なので海釣りを楽しもうと釣り糸を垂らしていたのだ。

 釣りとは、待つのみ。

 待って、待って、待ち続けたものが勝つもの。

 誰も使わない備え付けの釣竿を波立つ方へ向け、ひたすらに待っていたのだ。

 そして大物を1匹釣り上げたかと思ったら既に服を選べる時間は終わっていた。

 高いチケット代を払っただけのことはあるのか、パーティ前の一定時間内であれば着ていく服を好きに選べるのだ。

 やっちったと思った時には既に遅く、ナギ達と合流して顰蹙を買った。

 ダンスで盛り返したようだが、アロハシャツで踊っているので見物人もネタとして見ている側面が強かった。

 

 

 ──────

 

 

 またクラーケンが出現しているらしいので、俺も雷撃銛を持って突っつきに行く途中です。

 デカい船を敵と勘違いして突っかかってくるんだって乗組員が言ってたけど、なんか工夫しろよ。

 

「そこの若えの! ぼーっと立ってんじゃねえ!」

 

 ホシノ達が一生懸命に銛でツンツンしてるのを見てたら、サボってると勘違いされた。

 可愛いものを愛でて何が悪いのか、論理的かつ明快に説明したら理解してくれたのか作業に戻っていった。

 ……いや本当、クラーケンってなんだよ。

 何あのクソデカい触腕。

 海ってヤバくね? 

 あんなのがウヨウヨいる世界でコンテナとかマジで意味なさそう。

 この船も属性装甲積みまくってるらしいし。

 この銛もちょっとバチっとするくらいで大した威力ないし……まあ、使用者の安全のためなんだろうけど。

 

「馬鹿野郎! 先端に触れるんじゃねえ! 死ぬぞ!」

 

 海の荒くれです、みたいな見た目の筋肉ハゲに銛を取り上げられた。

 もしかして先っちょに毒とか塗ってあったのかもしれない。

 ……ぐえええ! 死んだンゴォォォォ!! 

 

「もう帰れお前……」

 

「お兄さーん! 良い加減手伝ってー!!!」

 

 ブチギレホシノから救援要請が来たので、荒くれから銛をひったくってぶん投げた。

 音速ギリギリの銛はパンッという音を上げて触腕に大穴を開けた。

 

『ギィィィィィィィ──────ー!!!』

 

 どこから出てるのかも分からない、この世のものとは思えない叫び声を上げた。

 

「ゆ、ゆ、ゆれに備えろー!!」

 

 乗組員が注意をする。

 次の瞬間、大きな突き上げが下から襲い掛かり、内臓が浮く感覚を覚えた。これは初めての攻撃だな。

 

「きゃあああああ!!」

 

 荒くれが女の子みたいな悲鳴をあげた。

 それでも船体自体には問題が無いようで、軋む音すらない。精々、甲板がメチャクチャに壊されている程度だ。程度で済ませて良いのか分からないけど。

 

 相手はB級映画のラスボス。

 ポケモン達も流石に相手取るには心許ない。

 出てきた触腕に対して、凍らせたり電気を浴びせたりするのが関の山だ。

 こうしてズンドコズンドコと海中からやられたらなす術が無い──なんて事も無いらしい。

 例のクリスタルに溜められたエネルギーを放出する所が見られるらしい。

 メガネを使っている人には。

 ……チキショー! そんなことだろうと思ったよ! 

 

 しょうがないので、クリスタルを直接見に行く事に。

 多分なんか見られるやろ……

 吹き抜けから見下ろすと、下の階から別の誰かが同じようにクリスタルを見下ろしていた。

 

「ふふ……ああ、なんて美しい……」

 

 美しいね。

 明るく光り輝くクリスタルを2人(1人と1人)で見ていると、繋がった管が脈を打ったように錯覚した。

 明らかに何かが今起こったな。

 

「この輝き、こんなところに置いておくのはやはり無粋だね……」

 

 楽しそうで良いなあ。

 俺もなんかやろうかな、腕にシルバーとか巻いて。

 ……あれ、どっか行っちゃうのか。

 

 その後も見ていたら、使用後のクリスタルの状況を確認する為か、乗組員2人が何やら最下層で計測を始めた。

 ご苦労様です。

 折角なので近くで見学しようと思い、吹き抜けを落下する。

 作業の邪魔にならないように後ろで静かにしていると会話が丸々耳に入ってくる。

 

「やっぱり想定よりもエネルギーが……」

 

「発射直前に出力ミスったんじゃねえか?」

 

「あー……まあ、不明って事にしときますか」

 

「そうだな、さて戻るか──なんでここに人が!?」

 

 上から来ました。

 

「上から……まさか落ちてきたのか!?」

 

 何やってんのかなって。

 

「ここは関係者以外立ち入り禁止だから、早く出て行ってもらっても……」

 

 道案内してもらって上まで行くと、ナギが腕組みしてプンプンだった。恥ずかしいからそういう事するなってさ。

 アイリもジト目だ。

 それで、何があったんだ? 

 

「ビームをクラーケンに撃ったのよ、逃げていったわ」

 

 へー、凄そう。

 レジギガスのビームとどっちが凄かった? 

 

「比較しちゃダメでしょ……」

 

 

 ──────

 

 

 寝よう? な? 

 

「ねみゅくないでしゅ……」

 

 目閉じてるぞ? 

 

「あいてましゅ……」

 

 眠いんだからさ。

 

「すごくねむくないですぅ……」

 

 眠くない人はそんなこと言わない。

 今日もクラーケンの相手したりスタジアムでFP稼いだりしてたから疲れちゃったんだろ? 

 

「ちがいましゅ……」

 

 ソファで寝ると風邪引くから……ほら、おいで。

 

「んん〜」

 

 お風呂入ってきな、とりあえず。

 船なのにあんな良い部屋風呂がついてるんだから。

 俺が二人、ゆったりと入れるくらいには湯船も広い。

 

「んー……」

 

 オーシャンビューの風呂を楽しんできなー。

 

「ししょーといっしょにはいります……」

 

 ナギー、このお眠ちゃんをたのん──あれ? もう寝てら。

 というかみんな寝てるわ。

 じゃあ入るか。

 

 ちゃんと身体を洗ってから、アイリが溺れないように膝の上に乗っけて支える。

 オーシャンビューっつっても夜だし、凄い景色が見れるわけでは無い。

 夜空は綺麗だけど、徒歩で旅している時の方がよほど綺麗だ。なんたって風呂の照明があるからな。

 

「あつい……」

 

 熱いそうなので、少しだけお風呂に水を足す。

 髪洗ってれば起きるかなって思ったんだけど、全然そんなこと無かった。頭ゆらゆらさせて洗い辛いので、最終的に風呂入る前から膝の上で髪洗ってた。

 ちっさいから膝上にちょこんと収まって良い感じなんだ。

 身体には今日のクラーケンとの戦いでの怪我は無かったし、過去の厳しい旅路の中でも痕になるような怪我はしていなかったみたいで安心した。

 

 ちっこい頭を撫でると、気持ち良さそうに金髪を押し付けてくる。

 アッシュ地方に行く前に、親御さん達に挨拶しなきゃな。

 

「んにゅう」

 

 あんまり長く入っても意味無いし、そろそろ上がるか……

 俺が髪を乾かす時はタオルでグワシャアアア!! って感じなんだけど、アイリにそれやるわけにはいかないので丁寧にな。

 ……ドライヤーってどう使うのが正解なんだ? 

 

 四苦八苦して乾かした後はベッドにぽい〜だ。

 寝る子は育つ。

 少しの間だけ側で見て、ちゃんと寝付いたのを確認したので夜風に当たる事にした。

 

 甲板に出ると、同じような発想の人が多少はいるだろうな〜とか思ってた俺を嘲笑うかのように誰もいない。

 別に良いし! 

 俺は夜風に当たりにきただけだし! 

 同じ気持ちのオッサンがたまたまいて

 

『よう坊主、良い風が吹いてるぜ』

 

 なんて話しかけてくれないかな、とか思ってないし! 

 FPで買った苺ミルクを呷る。

 潮風が鼻を抜けていくのを感じるけど、苺ミルクの甘みは負けない強さを有しているようで、喉越しはあの味だ。

 

 あ、ちなみにFPは船ポイントの略だ。スタジアムで勝ったりクラーケン退治に貢献したりすると貰えるポイントで、船の中でだけ使えるらしい。

 

 そして優雅に苺ミルクを嗜む俺の耳に、こっそり歩いている奴の足音が聞こえた。

 まさかナイスガイが!? 

 ……猫耳の少女だった。

 

「ごきげんよう」

 

 こんばんは、そして初めまして。

 何の用かな? 

 

「何の用……噂の英雄は如何程のものかなと確かめにきました」

 

 それで? 

 

「普通ですね」

 

 そうか……まあ、猫耳生やして輪っか浮かべてるやつに比べたらな。

 

「あの子猫ちゃん達が一体何に惹かれたのか、とても興味深いです」

 

 俺はその猫耳にすごい興味があるよ。

 

「……では」

 

 あ、そうだ。

 

「はい」

 

 夜風に理解のあるナイスガイを知らないか? 

 

「……え?」

 

 いや、知らないなら良いわ。

 おっさんと語り合うって男のロマンでしか無いから、分からなくてもしょうがない。

 

「??」

 

 おやすみ、風邪ひくなよ。

 

「──変な人ですね」

 

 お前の格好の方が一万倍変だよ、とは口に出さない理性が俺にもあった。

 こんな夜中に白スーツてお前……ケツがプリンプリンやないかい! 

 

 部屋に戻ると、ノコが洗面台の前で寝落ちしていた。

 おしっこをするために起きて、洗面台で手を洗ったところで限界が来たようだ。

 水がチョロチョローっと出てる。

 キュッと栓を閉めて、俯いているノコを抱っこした。

 垂れていた乙女液をティッシュで拭き取り、そのまま寝かせようとしたらしがみついて離れない。

 

「うへへ……マシュマロ……」

 

 ニヤつきながらなんか寝言も言ってるし……でも俺も良い加減眠いのでそのまま寝た。

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