俺はポケモントレーナー   作:goldMg

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42_ポケモントレーナー⇔ワタル

「──てー」

 

 何かが……

 

「──きて」

 

 何かが肌に触れている……

 

「おきなさい!」

 

 サワサワと穏やかな風が抜けていく。

 地面に生えた草が服の繊維を突き抜け、肌にチクチクと刺さる。

 仄かな青臭さが鼻腔を通り、萌ゆる草に包み込まれていることを実感させる。

 ここは船の上……風が抜けていくのも当然…………じゃないが!? 

 バッと目を覚ます。

 

「こんな所で眠るなんて、不用心にも程があるんじゃない?」

 

「あ、ああ……」

 

 赤い服を着た茶髪の少女、そして……

 

「兄ちゃん、随分気合い入ってんなー! こーんな野原で熟睡しおってからに、相手がワルモンでなくても食われてておかし無いで?」

 

「……目玉?」

 

「目玉とはなんや! 先生と呼べ先生と!」

 

 先生を名乗る目玉がいた。

 口ぶりからして、通りがかったら俺が寝ていたので起こしてくれたらしい。

 俺はノコを抱きしめていたはずなんだけど……というか船の上にいたはず。

 一体ここはどこなんだい! 

 

「ここどこ?」

 

「え? どこってそんなの……」

 

「まーだ寝ぼけとんのかい! 後ろ見てみい!」

 

 目玉に促されるままに後ろを振り向くと、街がある。それもかなり物々しい雰囲気だ。

 

「後ろ? ……街、か?」

 

「ミナガルデよ」

 

「ミナガルデ?」

 

「なんや兄ちゃん、ミナガルデ知らんのか?」

 

「そりゃあ知らないよ」

 

 夢でも見ているのかもしれない。

 でも、夢って実際に見た事のない物まで登場するのか? 

 そんな事を考えていたら──

 

「私たちはミナガルデに行くけど、あなたはどうするの?」

 

「……じゃあ、悪いけど着いていかせてもらおうかな」

 

 ミナガルデとやらはかなりの大きさを誇る街のようだ。山の上から見下ろす限りでも栄えているのが分かる。

 ただ、巨大な砦や壁を築いているようで、外敵がいる事が確定した。

 リオレウスとかかな。

 

「兄ちゃん、名前教えてえや」

 

 目玉はスエゾーとかいうらしい。

 名前を教えてくれと言うので、いつも通りポケモントレーナーと名乗った。

 

「ポケモントレーナーって……ふふ、変なの」

 

 変な事あるかい! 

 

「ポケモンもいないのにポケモントレーナー名乗るなんて、変じゃ無かったらなんなんや」

 

 ……ポケモンを知ってるのか!? 

 

「知ってるも何も……遠い昔に封印されてしまったモンスター達よりも更に古い、御伽噺の存在じゃない」

 

「そうやそうや! アホなこと言っとらんと本名を名乗れ!」

 

 その言葉を聞いて、しばらく考え込んだまま歩いていたらスエゾーに引っ叩かれた。

 

「いつまで考えとんねん!」

 

 それもそうか、今考えても答えが出るわけないし。

 

「結局、本名は何なんや?」

 

 あー……じゃあワタルって呼んでくれ。

 

「じゃあてお前……」

 

 良いだろワタル。

 渡、航。

 容姿はともかく、俺を表すのにぴったりだ。

 

「今日は野宿する事になりそうね……はぁ、戻れると思ったんだけどなあ」

 

 上から見た時は結構近くに見えたんだけどな。やっぱ人間の感覚なんて当てになんねえわ。

 

 

 ──────

 

 

 夜、スエゾーとホリィはコソコソと話していた。

 

「ねえスエゾー、ワタルのことどう思う?」

 

「まだ何も分からん……ただ、用心に越したことは無いで?」

 

「うん……」

 

「ただでさえホリィは女の子なんやから、あんな男に襲われたら終いや」

 

「……今日は疲れちゃった」

 

「見張はワイがするから、もう寝とき」

 

「おねがいね?」

 

 ホリィが横たわると、スエゾーは焚き火の反対側に座っているワタルの元へ向かう。

 ワタルは星空を見上げていた。

 

「空なんか珍しくも何とも無いやろ」

 

「……良いや、そんなこともない」

 

「変なやっちゃな」

 

「お前は寝なくて良いのか? ……冗談だよ、もちろんわかってる」

 

「ふん……そっちこそ寝なくてええんか?」

 

「その気になれば、1週間くらいなら寝なくても大丈夫だ」

 

「んなアホな……」

 

「正直、寝る気分じゃない」

 

 憂いを帯びたワタルの横顔。

 思わずスエゾーは問い掛ける。

 

「なんかあったんか?」

 

「ああ……俺にはもう、これが現実なのかそうじゃないのかすら分かんねえ」

 

「何言うとるんや」

 

「仲間がいたんだけど……あいつらが本当にいたのかすらも……」

 

「……何やよう分からんけど、結構大変みたいやな」

 

「ホントだよ!」

 

「ち、近い近い……」

 

 情け無い顔で詰め寄ってくるワタルを宥める。

 

「ホシノのところに最初に来たかと思えば本当はピカチュウだし、俺は記憶無いし、大怪我するし、アカギの遺志を継いだ奴と戦わされるし……しかもまた知らねえ所だ! 何なんだよ本当に!?」

 

「お、おお?」

 

「夢かと思ったら全然覚めないし、あいつらとの旅も嘘だったのか!? ……頭がおかしくなりそうだよ本当に……」

 

 髪を掻きむしるワタルからは心底の苦悩が感じ取れた。

 下を見たまま、ポツリとスエゾーに向けてつぶやく。

 

「先生も寝ちまえよ」

 

「……ホリィに手ェ出したらただじゃおかんで」

 

「ああ……」

 

 覇気を感じない声。

 スエゾーは不安に思いながらも、自身も疲れている事から見張は任せて眠りにつく事にした。

 

 ワタルは自我を確かめていた。

 このハッキリとした草木の感触。

 もしかしたら自分は、狂気に陥っているだけなのかもしれない。

 本当は精神病院にでもいて、彼女達との輝かしい出会いも胸踊る冒険も全て、妄想なのかもしれない。

 震えるような想像だ。

 免許証、そしてアロハシャツ。それらだけが彼の存在証明だった。

 取り出した免許証を空にかざす。

 パチパチと弾ける火から発される光が表面を反射して、眼球の奥に情報を届ける。

 

「──いや、こんな事で折れるのは早いか」

 

 心を奮い立たせる。

 

「弱気になってたな……そんなのは俺のスタイルじゃ無い」

 

 彼女達との時間を思い出す。

 この程度、たかが知らない場所に来たというだけのことだ。

 

「よし、とりあえずミナガルデでは地理情報の把握に努めるか──なんだ?」

 

 闇夜に紛れ、近づいてきた何者か。

 赤くほのかに照らされ、鋭い爪と牙を持つそれらは明らかに敵対的な意思を見せていた。

 

「見つけたぞガイアの末裔、寝ているとはもはや運の尽きよ」

 

「首を掻き切って終わりですね」

 

「隊長、アイツは……?」

 

「見覚えはないが……おい、そこの猿」

 

「……俺か?」

 

「お前はそこのガキの仲間か?」

 

「仲間? ……まあ、飯の恩があるな。しょぼかったけど」

 

 ホリィもスエゾーも旅に必要な分の食料しか持ち歩いていない。その中からワタルにわけてくれたのだ。

 少ないとは思いこそすれ、感謝しか無かった。

 

「ならば、どうする?」

 

 首を傾げる。

 どうするかと聞かれても、何の話だ。

 

「ムー様のご意志に逆らって今ここで命を落とすか、僅かばかりの人生を楽しむか」

 

「誰だよムー様って」

 

「ふん、とぼけるか……ならば死ねい!」

 

「え?」

 

 襲いかかる爪と牙。

 容易く人間の肉を割き、骨を砕く一撃。

 あとはあの小賢しいガキを仕留めて終わりだと、そういう目算だった。

 

「お前らがワルモンってやつか?」

 

 頭上から聞こえる声。先ほどまで座っていた丸太はズタズタに引き裂かれていたが、そこに血溜まりは無かった。

 

「すばしこい奴め……」

 

「なんでその子を狙うんだ」

 

「知れたことよ! ムー様に逆らう者は皆殺しだ!」

 

「ふーん、5匹か」

 

「時間がかかりそうだ……大人しく消え去るなら見逃してやろう」

 

「奇遇だな、1匹残してくれれば他のは見逃してやるよ」

 

「──お前ら、囲め」

 

 木から降りたワタルを襲撃者が包囲する。

 今度こそ逃げ場は無いとその動きの一挙一動を監視していた。

 

「やれ」

 

 隊長と呼ばれた個体の発した言葉によって一斉に飛びかかる。そして、今度こそ牙が肉体を捉えようとしたその時──

 ボキリ

 明らかに、良く無い音だった。

 

「グゲッ」

 

 一体の口から漏れたのは断末魔。

 首の骨が折れた事により、ほぼ即死だった。

 

「食料ゲットだな」

 

「い、今……何が……」

 

 絶命した襲撃者の長い首をしっかりと掴み、夜を明かすための肉を絶対に逃さない構えのワタル。

 

「所詮、異世界は弱肉強食。言葉で解決できるもんでもないんだよな……日本なら話し合いで何とかなったのに勿体無い」

 

「貴様ァ!」

 

「もういい」

 

「グァァァァ!」

 

 隊長が吹き飛ばされる。

 顔面をモロに殴られ、牙が砕けていた。

 

「た、隊長!」

 

「うぜえから早く消えろ」

 

「くっ……お、覚えてろよ!」

 

 再びの静寂が訪れた野営地。

 ワタルは戦利品の解体を始めた。

 

「……まずは血抜きからだな」

 

 

 ──────

 

 

「きゃあああああああ!!」

 

「な、なんやなんや!?」

 

 スエゾーは聴き馴染んだ声の悲鳴に飛び起きた。

 慌てて駆け寄ると、ホリィはわなわなと焚き火の方を見つめている。

 

「なんや! アイツやっぱりなんかやったんか!?」

 

「ち……」

 

「え?」

 

「血!」

 

「……うわっ、何じゃこりゃ!ナンマンダブナンマンダブ!」

 

 焚き火のすぐそばには穴が掘ってあり、そこに大量の血が溜まっていた。

 そしてこれまた大量の肉が小分けにして串に刺さっていた。

 火から少し離れた場所に固定している。

 燻しているのだろうか。

 その時、ガサガサと木が揺れた。

 

「な、ナニモンや! まさか追手か!?」

 

「──さっきの悲鳴は何だ!?」

 

 ひょっこり出てきたのはワタルだった。

 どうやらホリィの悲鳴を聞きつけて、何かあったのかと思ったらしい。

 

「あれ、何も無いな」

 

「何も無い事あるかい! 何じゃこの惨状は!」

 

「ああこれ? 解体してたんだよ、肉」

 

 串を一本取って、焼き加減を確かめたあと口に放り込む。

 

「少し筋っぽいけど、血の気が多い奴らだったからかな? 塩気があって美味いぞ」

 

 食うか? と差し出された肉を見て、2人は生唾を飲み込んだ。

 

「お、お肉……」

 

「こんな新鮮な肉なんて久しぶりに見たでワイ……」

 

「2人とも起きたし、飯にすっか」

 

 座って燻肉を食べ始めるワタル。

 スエゾーとホリィは顔を見合わせた。

 

「えーっと……ワイらも食べてええんか?」

 

「?」

 

「お肉なんて高級品、売ったらどれだけのお金になるか……」

 

「意味わかんねえ、良いから食えよ」

 

 どうやら本当に食べても良いらしい。

 恐る恐る串をとって、刺さっている肉に齧り付く。

 

「…………うまーい!」

 

 目をキラキラさせながら、次々と肉を食していく。

 

「お、おいお前ら、そんな勢いよく食べなくても……」

 

「どアホ! 肉なんか次いつ食べられるかわからんのやで!」

 

「そんなに貴重なのか?」

 

「ホンマに何も知らんのかい……ええか! あらゆるモンスターが封印されて数百年、復活してるのはワルモンばかりや! そんな奴ら恐ろしゅうて食えるわけないやろ!」

 

「ふーん……」

 

「せやから、肉なんてホンマにたまーにしか食えないんや!」

 

「じゃあこの皮は売れるのか?」

 

 ガサゴソと何かを取り出すワタル。

 それを目にしたスエゾーは口の中に入っていたものを吹き出した。

 

「お、おまえ何ちゅうことを!?」

 

「これダメだった?」

 

「ダメも何も…………もうええわ」

 

 ホリィも思わずといった感じで口を抑えている。

 

「ワルモン軍団のブラックディノを食べるなんて……」

 

「ブラックディノ、聞いたことのない名前だな」

 

「…………」

 

 その後は黙々と肉を食べ、出発した。

 ミナガルデが近付いてくると、ホリィ達はワタルに別れようと提案する。

 

「お肉をありがとう。でも、ミナガルデからは別行動よ」

 

「分かった」

 

「……何も聞かないの?」

 

「出会って二日だしな、俺がいるとやり辛い事もあるんだろ?」

 

「何や、分かっとるやないか! ワイらにはやることがある! お前みたいな迷子に構っとる暇はないっちゅうわけや!」

 

「はは、頑張れよ」

 

「変なところで素直やな……」

 

 ミナガルデの門が見えたあたりで2組に分かれようというので、ワタルはホリィ達が街に入っていくのを見届けてから門番に近付く。

 あの2人は門番と少し揉めていたようだが、入れたのなら問題無いだろう。

 

 

 ──────

 

 

 トラブル、発生! (笑)

 門番にいきなり怪しいやつ認定を受け、ムー様に対してどう思っているか聞かれた。

 そこは問題なかったんだよ、ムー様万歳と唱えるだけで通れたから。

 だけど、中に入ってみるとあら不思議! 文字が読めないじゃありませんか! 

 おいふざけんな、またかよ。

 何となく嫌な予感を感じてはいたんだぞ。

 

 早々騙そうとしてくる奴がいたので、路地裏で締め上げて有り金を巻き上げる。

 メガネが無いから電子決済も無く、現金を持っているようだ。

 こりゃあやりやすくて良いや。

 身包みを剥いで、表に戻る。

 鋭い目つきでこちらを見てくるモンスターはワルモンってやつだろう。

 

 昼飯を食いたいので飯屋に入ると、なんか少しピリピリしてた。

 席を取ると粗暴なヤンキーが目の前にくる。

 カツアゲとかしたい感じらしい。

 とりあえず飯を頼んで、支払いはヤンキーに頼んだ。

 最初は渋っていたけど、店を出る時にはブンブンと首を縦に振っていたのでとても親切なんだなあ。

 ……文字が読めねえから適当に店に入るしか無いのめんどくせえな。

 その後も襲いかかるヤンキーやワルモンから金を巻き上げ、ある程度目処がついたところで宿を探す事にした。

 

 ……なんでホリィ達がいじめられてんだ? 

 石投げられたりしてるぞ。

 あの、何であの子達あんな目に遭ってるんですか? 

 ……ムーに楯突いてこの街の住民を危ない目に遭わせている? 

 そんな奴が街の中に入ってきたからみんなピリピリしてる? 

 クッソ嫌われてて草なんよ。

 俺もなんかやろう。

 

 やめろお前ら! 

 ……止めるなって? 

 良いや、止めるね! 

 俺は許せない! ムー様の事を悪く言っていたような奴らがのうのうとこいつらに石を投げていることが! 

 これまでに少しでもムー様に隔意を抱いた事の無い者のみがあの者達に石を投げよ! 

 俺? 貴重な食料をワルモンとして復活させてくれてありがとうって気持ちでいっぱいだ。

 

「ワタル……騙したのね!」

 

「お前もワルモン軍団だったんか!」

 

 騙すって何だよ。

 お前らが俺をこの街に連れてきたんだから、騙すも何も無いだろ。

 

「みんな……みんな、元は優しい人たちだった!」

 

「全部ムーが悪いんや! あいつがどんどん人々を苦しめて……最後の砦すら!」

 

 あっ、なんか気まずそうにみんないなくなってく。

 どうやら本当らしい。

 とりあえず立てよ。

 

「触らないで!」

 

「失せろ! この人でなしが!」

 

 弱者の言う事はキキマセーン。

 ミーの言うことは聞いてもらいマース。

 とりあえず宿の場所を教えてクーダサーイ。

 

「はあ!? 何言うとんねん、そこら辺にあるやろ!」

 

 文字読めねえんだよ! 

 

「へ?」

 

 よいしょ。

 

「うわわ……」

 

「な、なにすんや! 下ろせ!」

 

 とりあえず担がれてろ。

 宿紹介してくれや。

 

 宿は見つけたけど、そこのご主人が2人を見たら俺ごと追っ払おうとしてきた。

 そこで、ブラックディノとやらの皮を見せたらすんなり話が通った。

 話が早くて助かる。

 2人は金が無いらしいので俺が払っておいた。

 今は俺の部屋で2人ともブスッとしている。

 ……え? 俺の行動に何の意味があるのかって? 

 いやね? 文字が読めないから何も出来ないんだわ。

 良い加減にしてほしい。

 ダメ元なんだけど、お前らグレンタウンって知ってる? 

 ……知らないよな。

 いや、期待は5%くらいだったからあんまり失望はしてない。

 クソがよ! 

 

 もしかして助けてくれたのかって? 

 言うほど助けたか? 

 この街の住民全員とお前ら2人だったらお前らの方が命重いだけでしょ。

 俺は第一村人を大事にするタイプなんだ。

 あとこの街の奴ら態度悪すぎ。

 え? このシャツがダメ? 

 アロハシャツだぞ? 

 浮いてる? 

 理不尽だ……

 ああ、なるほど。

 余所者だって分かるからな。

 まあいいや。

 宿は取れたし、とりあえずもう良いかな。

 じゃあ……明日は襲われんなよ。

 俺はこの街からさっさと出て行くし。

 

 一人になったので、ベッドの上でゴロゴロする。

 夕飯は出るらしいので、質素なんだろうなあと思いつつ待つと、良い匂いがしてきた。

 意外と期待アリかな? と下の酒場に行く。

 この街限定なのか知らないけど、基本は宿と酒場が併設らしい。

 そりゃ宿も見つからん……て感じだ。

 酒場には昼間のヤンキーやワルモン達が! 

 ……あっ! もしかしたら仲直りしに来たのかもしれない! 

 こんばんわー! 

 

「袋叩きにしろ!」

 

 どぉしてぇ^q^

 

 やっぱアロハシャツがダメなんだな。

 夜の露天で地元民が着てるっぽい質素な服買ってきた。

 これで僕もミナガルデの民! 

 アロハシャツ? ゴミだろ。

 時代は無地、ベージュ、麻100%。

 当たり前だよね。

 さーて、寝ますか。

 

 

 ──────

 

 

「ピカチュウ、おはよ」

 

 ん? 

 …………ん? 

 

「つんつーん、おーい」

 

 ……ノコ、もうちょいこっち来て。

 

「うん? ……わっ!? あわわわわ!! わーーーっ!!」

 

 この匂い、感触……本物だ! 

 マジでよかったあああああ!! 

 夢だったああああ! 

 あーもう、マジで愛おしいわ。

 しばらく抱きしめていよう。

 

「あうう……エ、エッチだよお……」

 

 二日ぶりのノコが堪らない。

 お日様みたいな匂いする。

 

「……えへへ、よく分かんないけど僕のことが好きってこと?」

 

 マジで大好き。

 あーもう、お腹の匂いとか最高。

 

「はぅっ! く、くすぐったいから……!」

 

 このまま食べちゃいたい。

 

「朝からお盛んなようね?」

 

「あ、ナ、ナギ……こ、これは……全部ピカチュウのせいだから!」

 

 いきなり冷凍庫に放り込まれたような気分になったぜ。

 おかしいな。

 布団は被ってるし、ノコだって抱き締めてるのに……

 でも、この感じすら安心するぜ! 

 

「──夢の中で、また異世界に行ったって……どういうことか教えてちょうだい」

 

 そうなんだよ。

 ワルモンとかいう奴らがいてさ。

 そいつらに追いかけられてるっぽい子と目玉先生に出会ったんだ。

 ミナガルデって街で宿を見つけて、ベッドに横になったところまでは覚えてる。

 

「何言ってるかはよく分からないけど……よかったあ」

 

 おお、よしよし。

 どうした? 

 

「どうしたもこうしたも無いわよ……勝手にどこかへ行っちゃったりしないでね?」

 

 そりゃあ俺だって放浪したいわけじゃ無いからな。

 せっかくそこそこ安定して暮らしてるのに、それを投げ捨ててどっか行くわけがない。

 

「うん……」

 

 起きるか。

 ナギ、一旦顔を洗わせてくれ。

 

「うん」

 

 随分ハッキリとした夢だった。

 全然忘れないし。

 あと一つ言いたい。

 寝た気分にならない。

 もちろん身体の疲労とかは抜けてるんだけど、直前まで起きてた気分だからなんか腑に落ちない。

 いや、腑に落ちないっていうか納得いかない。

 

 ……ネオプラズマ団とかいう奴らが船を占領しちゃったあ! 

 とりあえず大人しくしとこうかな。

 目的は何なのか下っ端に聞いてみたら、クリスタルを使って歴史をなんかやるらしい。

 え、えんだいでそうだいなけいかくですね……

 オーナーがなんか抗議してたけど、爺さんなので呆気なく捕縛されていた。

 俺たちのことも捕縛するのかな……とか思ってたら、邪魔さえしなきゃ手出しはしないらしい。

 感動した! 着いていきます! 

 

 クリスタルに機械を繋ぎ始めたネオプラズマ団のエンジニア。

 位相がどうとか、単次元圧縮限界がどうとか。

 頭良さそうなこと言ってるのは分かる。

 船長達がクソほど焦ってるけど。

 あれに溜め込まれてる星のライフストリーム? を変なことに使ったら、地球が寒くなって人が住めなくなるらしい。

 …………そんなに? 

 盛ったらしい。

 焦らせやがって……

 ただ、暴走したら直径数kmが消滅するのは間違いないらしい。

 ええ……なんでそんな危険物を燃料として用いたんですか? 

 ……それとは別にエネルギーを溜め込めるから? 

 いや、せめてもっと厳重に扱ってほしい。

 でもまあ、ネオプラズマ団だって死にたくは無いだろうしそんな変なことには使わないでしょ。

 

 クリスタルは船から取り外して持っていくってよ。

 ……俺たちは置き去りじゃん! 

 ふざけんな、こんなの人道に反してるぞ! 

 そういうわけでプレイヤー達が反抗したけど──ネオプラズマ団が意外に強い! 

 敗北を糧に成長したらしい。

 タチ悪いな。

 船はプレイヤー達の占領している場所とネオプラズマ団の占領している区域で二分されてしまった。

 平穏に過ごすのって、大変なんだな……

 え、俺だけ? 

 普通はもっと平穏? 

 ……不幸だって叫んで良い? 

 

 防衛線を突破されないために、今日は俺が見張りをすることにした。エリック君もいるぞ。

 このライン超えたら死ぬから、と忠告したおかげで今のところそこまで激しい襲撃は無い。

 エリック君も頼りになるなあ。

 それでどう、その後は。

 ……ああ、FP結構稼いでるんだ。良いじゃん、頑張れよ。

 これからどうなるのかって? それはあっちの連中に聞いてくれ。

 どうせあいつらは脱出する手段を準備してあるんだろうし。

 

「どうなるか知りたいですか?」

 

 お、白スーツちゃんじゃん。

 俺は別にどっちでも良いけど、エリック君は知りたいって。な、エリック君……あれ? 

 

「へっ? あ、お、う、そ、そうだな、知りたい! です……」

 

 なんだこいつ。

 こんなキャラだったか。

 

「ふふ、じゃあ教えてあげよう」

 

 ネオプラズマ団は用意した巨大クレベースに乗って脱出。その後アジトでクリスタルの解析を続け、時の門を開く。

 ……だそうだ、エリック君。

 

「???」

 

 あー、もう少し噛み砕いて説明してもらっても良いか? 

 ……過去を変えて、世界を変える? 

 そりゃあすごいな。

 本当にすごい。

 で、なんでお前はそんなことを知ってるんだ? 

 ……盗聴した? 

 あんまり褒められることじゃねえけど、この状況だとそういうのも役に立つんだな。

 

 夜が明け、日が昇ると交代の時間になった。

 ホシノが寝ぼけ眼のままやってきた。

 フラフラしていて危なっかしいので支えると、そのまま再び夢の世界へ。

 何しに来たのこの子は。

 

 おんぶしたまま朝飯を食べに。

 でもあれだ、シェフは捕まっちまってるから自分たちで料理しなくちゃならない。

 めんどくさいけど、非常事態なのでしょうがない。

 ネオプラズマ団への怒りを沸々と溜めつつ朝飯を貪る。

 せっかく高い金払ったのに、許せねえ! 

 ……あの白スーツちゃんの名前ってなんて言うんだ。

 次会ったら聞いてみるか。

 

 乗組員曰く、事前に怪盗から手紙が届いていたらしい。

 慈愛の怪盗と名乗っていて、そこそこ有名なんだとさ。

 慈愛って何? 

 あと、怪盗って実在するんだ。

 で、何でこのタイミングでその事実を公表したのかというと、ネオプラズマ団の目的であるクリスタルをその怪盗も狙っているかららしい。

 乗組員が読み上げた予告文の中身は、大層分かりづらい言葉使いをしていた。聞いてるだけで頭痛くなってくるタイプのあれだ。

 それを読み解いたってんだけど、怪盗はクリスタルを目的地に到着する直前で盗もうとしていたようだ。

 ふてえ野郎だな。

 ──ん? 白スーツちゃんか。

 

「美しいものは、その価値がわかる人間が持っているべきだとは……思いませんか?」

 

 めっちゃ思う。

 何ならいつも思ってる。

 

「あ……」

 

 あいつらの良さは俺だけが知っていれば充分だし、他の奴らには教えてやる価値も無い。

 

「それは、あの子達のこと?」

 

 そうだ。

 世界で最も確かなモノが何かわかるか? 

 

「教えてもらっても?」

 

 絆だよ。

 

「──それは形には残らない、とても儚いモノだ。確かさとは真逆です」

 

 俺は……俺にだけはわかる。

 儚いからこそ、露と消えるかも知れないからこそ、強く感じることができるんだ。

 例えば俺の持ち物が、名前が、記憶が、あらゆる物が奪われたとしても──あいつらとの絆だけは決して奪われない。

 

「意外と情熱的だったんですね」

 

 情熱? いいや違う。

 これは絆に対する信頼でも期待でも無い。俺の経験からくるものだよ。

 

「……少し、羨ましいですね」

 

 そうだろう? 

 でも、あいつらは俺のものだ。

 あげないぞ。

 

「そうじゃないですけど……」

 

 ずっと思ってたんだけど、何で敬語? 

 もっとフランクにいこうぜ。

 

「まあまあ」

 

 いや、俺は良いんだけどさ。

 あ、そういや名前。

 

「え?」

 

 え? じゃねえよ、わかるだろ。

 名前なんて言うんだよ。

 

「…………」

 

 オッケーわかった。

 また今度な。

 

 クラーケンだああああ!! 

 三竦みやめろ! 

 どれか一つだけにしろ! 

 ……あっ、まずい。

 クリスタルはネオプラズマ団に占拠されてるからレーザービームが使えない! 

 どうやって撃退すればいいんだ! 

 ……もうこうなったら潜水するか。

 

「ダメに決まってるよね?」

 

 ホシノ、そうは言うけど他に手段とかある? 

 

「ヒーホー君がいるじゃん」

 

 ……あぁなるほど! 海を凍らせればいいのか! 

 

「それ、オイラ過労死するホ!?」

 

「あはは。そこまで極端じゃなくても、真下に潜り込んだ時にブフで何とかさ」

 

 完全にヒーホー君の力量任せの作戦だったが、これが意外とハマった。

 出てきた触手は以前の傷が回復しており、俺が開けた大穴もわずかな痕跡を残してほぼ治っていた。それを痛めつけたらやはり船の真下に潜り込まれた。

 そのタイミングで潜水艦を出して、ヒーホー君がマハブフーラでクラーケンに大打撃を与えた。

 フラフラと逃げていくクラーケンも懲りただろうし、流石にしばらくは大丈夫のはずだ。

 

 ホシノ、この船旅っていつまで続くの? 俺のイメージだと海峡を船で渡るくらいのもんだったんだけど、長くね? 

 何言ってるの? じゃなくて。

 お前正気か、みたいなトーンで言うな。

 疑問に思ったんだから良いだろ。

 ……え? 航路真っ直ぐじゃ無いの? 

 こう行って……こーう行って……ぐねるねえ!? 

 岩礁とか古龍の出現ポイントを避けていくからこんなルートになる? 

 お前こんなルート……ヒモQみたいじゃねえか! 

 俺たちこれに金払ったの!? 

 ……これでも陸路よりは早い!? 

 マサラタウンに近いって何だったの!? 

 直線距離の話? 

 実際は間に山とか色々あるから迂回路になる? 

 そんなん詐欺だろ詐欺! 

 快適だから良いだろって……ネオプラズマ団とクラーケンのせいで1ミリも快適じゃ無いが!? 

 今からあいつら全員海に沈めてやろうか!? 

 

「し、ししょー落ち着いて……」

 

 ふー、ふー、ふー……

 

「寝ましょう? ししょーは今、疲れてるんですよ」

 

 アイリが一緒じゃなきゃヤダ! 

 

「一緒に寝ますから、ほら、お部屋に行きましょ?」

 

 うん! 

 

 

 ──────

 

 

「おきろ!」

 

 ………………は? 

 

「ほら、早く出ていってくれ! もう関わりたく無いんだよ!」

 

 は? 

 

「この街から出て行け!」

 

「──余所者め!」

 

 は? 

 

「待っていたぞ、猿! 良くも昨晩はやってくれたな! くたばぐあああああ!!」

 

 は? 

 

 俺は寝たはずなんだけど……

 目覚めたらまたミナガルデにいた。

 街から追い出され、待ち構えていたブラックディノを吹き飛ばし、森までやってきた。

 どうなってるんだ一体……

 今は焚き火の中で木が弾ける音をbgmに石板をいじっている。

 クソでかい芋虫が襲いかかってきたので、ねぐらまで叩き返したら山芋っぽいのがあってそれを掘り返したら芋の下に埋まってた。

 

 この石板、どっかで見たことがある気がする。

 全然思い出せないけど。

 表面に模様が描かれているから、貨幣とかなんじゃないかと思う。

 ……いや、ちょっとでかいか。

 それに良く考えたらヤンキー達から徴収した金はちゃんと金属製だったわ。

 どうしようこれ、枕代わりにはなるかな。

 ……ん? 誰かやってきたな。

 

「こっちよ、近いわ」

 

「……ん? 火の匂いやな、もしかしたらワルモンかもしれん! 気をつけるで!」

 

 聞こえてますよー。

 先生はちょっと声がデカいから気を付けたほうがいいと思う。

 

「何でワタルがここに!?」

 

「ま、まさかワイらをツケ狙って来たんとちゃうやろうな!」

 

 俺のセリフだろどう考えても。

 見ろよこれ。

 火まで焚いてあるんだぜ。

 お前らの行き先を計算して、ちょうど来るだろう時間にこんな事するなんて劇場型の人間じゃねえよ俺は。

 というか、何でこっちに来たんだ? 360度あるのにわざわざ俺の方に来たなんて、偶然とは思えないぜ。

 

「むむむ……スエゾーはどう思う?」

 

「信用は……できへん。だけど、昨日は助けてくれたことも事実や……って、あーーーーーっ!?」

 

「ど、どうしたの!?」

 

「アイツがケツに敷いとるアレ!」

 

 ──ああコレ? なんか芋虫の巣の近くに埋まってたんだよね。

 何か分かる? 

 古代の貨幣とかじゃ無いよな。

 

「円盤石じゃないの!」

 

 円盤石? 

 確かに円盤状だけど。

 

「ワタル!」

 

 うわっ!? 

 

「お願いワタル! それを頂戴!」

 

 そんな必死にならなくてもあげるよ、要らないし。

 

「え?」

 

 こんな石、何に使うんだよ。

 寝る時の枕にしようかと思ってたくらいでしか無いから、欲しいってんならあげる。

 

「じゃあ、ホンマにワルモン軍団の仲間じゃないんか!?」

 

 そんなダサい名前の組織に入った覚えは無いぞ。

 待遇次第では就職しても良いけど。

 

「ダメよ!」

 

「ムーはホリィの故郷を焼き尽くしたんやぞ! 人間のお前なんか、良いように使われてしまいや!」

 

 村を焼いた……? 

 普通にやばいじゃん。

 

「だからそう言うとるやろ!」

 

 円盤石でなんかするらしいので着いていくと、変な遺跡に着いた。

 ピラミッドっぽさがある。

 中に入ると、大きめの部屋があった。ホリィは円盤石をそこに置き、全く分からない装置を操作している。

 ……円盤石からポケモンが出てきた!? 

 そうか、封印されたとか何とか言ってたのはコレか! 

 もしかして、モンスターボール代わりなのか? いや、携行できるようなもんでも無いし何か別の……

 

「やっと見つけたぞ! ガイアの末裔!」

 

「げえっワルモン軍団! に、逃げるで!」

 

 良いところでムーの手下が襲来した。

 復活したばかりのライガーとかいうポケモンの赤ん坊を連れ、ホリィを担いで逃げる。

 向こうもそこまで数は多く無いし、戦えば? 

 

「アホ抜かせ! ワイらは戦うのは得意じゃ無いんや!」

 

「ワタルは戦えるの?」

 

 戦えるも何も、あいつらそこまで強く無いじゃん。

 

「強く無いわけあるかい! もしワルモン軍団が弱いなら、ワイらがこうして逃げたり、ミナガルデの奴らがあんな怯えたりしないやろうが!」

 

 確かに。

 説得力に満ち溢れてるな。

 

「バカにしとんのか!?」

 

「待てコラーー!!」

 

「……あ、あかん! この先は崖や!」

 

 バカみたいな会話をしていたせいで、崖に追い詰められてしまった。

 そういえば……俺が追いかけられるのは分かるけど、何でお前ら追いかけられてんの? 

 

「今か!? それ、今じゃなきゃイカンか!?」

 

「ぐふふ……ムー様の前では皆等しく無に帰すのだ……ぐわーはっはっは!」

 

 ジリジリと包囲の輪が狭まってくる。

 ホリィを庇うようにスエゾーが前に出る。

 

「スエゾー! どうするの!」

 

「ど、どうするったってもう飛び込むしか……ひえっ、む、むりや! あかんコレ! 高過ぎる!」

 

 ライガーベビーも怯え切っているようだ。

 そりゃそうだよな、目が覚めたら恐竜みてえな奴らに囲まれてるんだから。

 おーヨシヨシ、隠れてるんだぞ。

 

「キュウウン……」

 

「ワタル! 何か策は無いの!?」

 

「せ、せやせや! 大人なんやから、なんか名案を出してくれや!」

 

 大人に対する謎の信頼。

 大人はそこまで万能じゃないぞ。

 俺に思いつくのは、今ここで血みどろの闘争をするか崖下にあいつら投げ捨てるかのどっちかだ。

 

「むっ……」

 

 ブラックディノ達が身構える。

 流石に今朝の今でボコボコにされたことを忘れたりはしていないらしい。

 

「なんや、ビビっとるやないけ! ほんならワイの出番やな!」

 

 えぇ……何でいきなり? 

 

「ワイはビビっとる奴に対しては強気に行けるんや!」

 

「そんな事キメ顔で言わないでよ……」

 

 いきなりイキリ出したスエゾーはブラックディノに向かっていく。

 

「くらえやああああ!!」

 

 器用に尻尾で攻撃を加え始めた。

 だけど……

 

「…………なんだあ?」

 

 全然効いてねえじゃねえか! 

 ブラックディノも微妙な顔しちゃってるよ! 

 ホリィ、あいつ弱いんじゃねえか。

 

「スエゾー頑張って!」

 

 何だろうこの……運動会で全然活躍できてない子供を応援してる親みたいな声色。

 あ、スタミナ尽きた。

 

「……ゼェ……ゼェ……ほ、ほなコレくらいにしといたるわ……」

 

「イキがりおって! 雑魚が!」

 

「ぐへぇぇ……」

 

 あっぶね! 

 尻尾でぶっ叩かれて吹っ飛んだ勢いそのまま、崖から落ちるところだった。

 

「……ワタルお願い! あなたなら倒せるんでしょ!?」

 

「たのむぅ……」

 

「…………舐めやがって!」

 

 なんか隊列を組み始めた。

 

「我々ブラックディノ隊がムー様からご褒美をいただくのだー!」

 

 波状攻撃。

 次から次へと攻め寄せる巨大な包丁のような爪や牙、鞭のような尻尾。

 俺というより、ホリィ達を狙っているようでやりづらい。

 こんな時でもムー様万歳なのはすげえよ。

 お前らには立派な社畜の才能がある。

 でもまあ、スエゾーも腐ってもポケモンだ。丸くなってホリィを包み込み、防御している。

 ……背中の防御力は3倍!?

 あ、もうやっちゃっていい?

 

「くっ、何なのだこいつは! 人の形をしているがモンスターか!?」

 

 ぽーい、ぽーい、ぽーい、ぽーい。

 

「どわあああ!」

 

「うひゃあああ!」

 

「助けてェェェェェ!」

 

 

 ──────

 

 

「や、やるやんけお前……」

 

 ああ、そんじゃあまたな。

 

「そんなあっさり!? 風情とか無いんか! あんな強敵を倒したんやぞ!」

 

 倒したって言っても崖から落としただけだしな……ゲーム風に言うなら、戦闘を避けて落下ダメージで倒したってところだからあんまり自慢できない。

 あいつらに落下耐性があったら無理だったよ。

 

「何やようわからんけど、助かったんやから喜べばええや無いか!」

 

 助かったも何も、ピンチとかじゃなかったし……

 お前達が有無を言わさず逃走したからとりあえず着いてきただけだよ。

 ……まあ、そういうわけだから元気でな。

 ムーを倒すんだろ? 応援してるぜ。

 

「な、何でそれを知ってるの!?」

 

 見てりゃあ分かる。

 何かを成し遂げるやつってのは目付きが違うんだ。

 お前らならやれるさ、間違いなくな。

 

「ちょ、待ちい!」

 

 どうした? 

 

「言うだけ言って勝手にいなくなろうとするなや!」

 

 誘ってくれるなら嬉しいんだけど、俺は早くこの謎の現象を解き明かさないといけないんだ。

 バグってるみたいなのは良くないしな。

 

「……あなたの言う謎の現象ってなに?」

 

 俺の肉体は今、寝ている。

 どうしてこんな場所にいるのか解き明かさないと、いずれ大変なことになるだろうな。

 

「寝てるって……どっからどう見ても起きとるやん」

 

 そうだ、それがおかしいんだ。

 正直……コレが夢だとは思わない。

 お前らは生きている人間だと俺の直感も言っている。

 でも実際、俺は寝ている。

 肉体は今も船のベッドの上にあるはずだし、そこで目を閉じているはずだ。

 

「よう分からんけど……ムーのせいちゃうんか?」

 

 ムー……そいつはどんなやつなんだ? 

 どんな能力を持っていて、どんな大悪を成してきたんだ? 

 

「……いつからこの世界に存在するのかは分からん。ただ、あいつが現れてから世界が闇に覆われとるのは間違いあらへん。村を焼いて、人間やモンスターを苦しめて──」

 

 目的は世界征服、ね。

 なんつーか典型的だな。

 アカギやヒカワみたいな大義を背負っているわけじゃない、純粋悪を遂行する悪の親玉。

 ちょっとワクワクするじゃねえか。

 でも……可愛いあいつらが心配そうな顔してるのが簡単に想像できる。

 ノコはちょっと嬉しそうにするかもしれないけど。

 

『僕そんなんじゃないよ!?』

 

 なんだ今の。

 毒電波か。

 

 問題は、こっちで死んだらどうなるか分からないって事だ。

 あっちで死んだら死ぬだけだけど……あれ、よく考えたら死んだ事ないな。

 あっちで死んだらどうなるんだろう。

 ……あいつらが泣くだけか。

 

 それは置いといて、こっちで死んだらあっちでも死ぬなんて可能性が大いにある。

 無茶はできない。

 何せ俺はあいつらの仲間なんだから。

 それを踏まえて、さすがに今回は協力できない。

 

「そっ…………か」

 

「そこまで深い事情があるなら、ワイらも無理強いはでけへんな……」

 

 悪いな。

 俺の最善はコレなんだ。

 

 

 ────本当に? 

 

 ────お前にとってポケモントレーナーとはなんだ? 

 

 ────驕ったか? 

 

 ────お前はそれで、胸を張れるのか? 

 

 ────胸を張って、彼女のトレーナーだと言えるのか? 

 

 

 …………

 

 

 ────お前はこの出来事に見て見ぬ振りをして、ホリィとスエゾーの死体を見つけるのか? 

 

 ────残念だった、そんな一言で締めくくるつもりか? 

 

 ────それであの子の赤い帽子を外して、真っ直ぐ目を見つめていられるのか? 

 

 ────彼女達を笑顔で抱き締められるのか? 

 

 

 あ〜もう…………

 

 

 ────戦え

 

 ────力の限りを尽くせ

 

 ────浅ましく抗い続けろ

 

 

「──じゃあ、行こう? スエゾー」

 

「ワタル!ほな元気でな!」

 

「…………いや、ちょっと待て」

 

「え?」

 

「やっぱり俺も行く」

 

「ええ!?」

 

「どういう風の吹き回しや? 今の今、コレが最善って言ったばかりじゃ……」

 

「よく考えたら、最善は俺の求めるものじゃなかった」

 

「自分いま、無茶苦茶言うてるって分かっとる?」

 

「うるせえ! 行こう!」

 

「良いじゃないスエゾー、ワタルが着いてきてくれるなら百人力よ!」

 

 

 ──────

 

 

「ししょー、おはようございます!」

 

 おはようアイリ。

 ……やっぱりか。

 

「よく眠れましたか?」

 

 夢の中でも大変だったよ。

 こーんな怖い顔したモンスターと戦ってきた。

 

「怖い夢だったんですか?」

 

 ああ、とっても怖い夢だ。

 

「よしよし」

 

 アイリの赤ちゃんになりてぇな。

 働かずにアイリにご飯作ってもらってイチャイチャしてるだけ。

 

「ええ〜……私はいやです」

 

 うそーん! 

 なんでよ! 

 

「だってそうしたら、ししょーが私の師匠じゃ無いじゃないですか……」

 

 クソかわアルティメット侍だろこんなん。

 一生アイリの師匠でいるわ。

 

「わーい!」

 

 アイリ! 

 

「ししょー!」

 

 ひしっ! 

 師弟愛を再確認したところで、朝ごはんを食べるためにベッドを出た。

 

「おふぉよ……」

 

 眠過ぎて溶けているノコを担ぐ。

 こいつ、ポケモンだったくせに朝弱いんだよな。

 あんな牧歌的な生活送ってたんだからもうちょいシャキッと起きても良いような気がする。

 というか、ドリームランドだと実際早起きだったし。

 

 先ほどからシャワーの音が聞こえている。

 レッドはまだスヤスヤと寝ていたから、ホシノかナギのどっちかだろう。

 

「うへ〜、気持ちよかったねえ〜…………!?」

 

「ええ、野宿だとこんな贅沢できないものね──あっ、わっ、ちょ、ちょっと! 何でこのタイミングでいるのよ! 洗面所に!」

 

「お兄さん! ニヤニヤしてないで早く出てって!」

 

 顔を洗ってるタイミングで二人とも風呂から出てきた。

 うんうん、今日も朝からかわいいな。

 

「出てけ!」

 

 ぎゃひん! 

 洗面所から蹴り出されちゃったしん……

 今更こんな事で恥ずかしがらなくても────

 

『俺の馬鹿! 違うよ馬鹿!』

 

 ──俺の本能くん!? 

 

『恥じらいを無くしたら終わりなんだよ! 恥ずかしがってる女の子からしか得られない栄養素があるんだよ! 人はそれを五大栄養素に加わる新たな栄養素として摂取しているんだよ!』

 

 そ、そうか! ありがとう本能の俺! 

 ナギ、ホシノ! 恥ずかしがってくれてありがとう! 

 

「何でわざわざ入ってくるの!? もう! でーてーけー!」

 

 グイグイとホシノに顔面を押されて結局追い出された。

 

「ししょー……流石に無いと思います……」

 

 アイリにドン引きされた、俺はもう終わりだ。

 コレからはナメクジとして生きていくことにします。

 ごめんなアイリ、ナメクジで。

 

「そこまでは言ってないですよ!?」

 

 じゃあ俺のこと大好きってこと!? 

 

「…………」

 

 視線が冷たい。

 ちょっとふざけ過ぎたかもしれない。

 

「もう知りませんっ」

 

 プイッとそっぽを向いてしまった愛弟子の余りのあざとさに度肝を抜かれた。

 いつの間にそんなジツを!? 

 

 謝り倒して許してもらったことにより、おててをつなぐ許可をもらえた。そしてやってくる、2匹の鬼。

 変態だの甲斐性無しだの浮気性だのと誹謗中傷を浴びせられ、アイリに泣き付いたら笑顔で俺が悪いと指摘された。

 じゃあ俺が悪いじゃん。

 反省して二人にも頭を下げると、より一層ボコボコにされた。

 なんでや! 

 ここは普通、謝ってくれるなんて素敵! 抱いて! ってなるところだろ! 

 

 今日の朝飯は刺身です。

 釣りに釣った魚を捌き、盛り付けていく。

 俺だってできるんだ! 

 

 こ、米はどこ……

 

「実は一つ頼みがある、オーナーを救い出してほしい」

 

 刺身を食っていた俺のところにやってきたのは船長。

 そして、いきなりお使いクエストみたいなのが発生した。

 頼みってことは、報酬があるのか? 

 

「奴らが占領している食糧庫には穀物があるはずだ。君なら取り返せるだろう、その中の穀物を好きに使っていい」

 

 米も!? 

 

「コメ……は聞いた事無いな」

 

 ちくしょう異世界! 

 でも、どんな穀物だろうと、あるだけでだいぶ変わるからな! 

 

 すいませーん、船長さんに会いたいんですけどー。

 ……会わせるわけがない? 

 重要な人質? 

 あーごめん。

 なんか勘違いさせちゃったかな。

 これ、お願いじゃないんだ。

 お前らの命は一粒の穀物より軽い。

 

 目と目が合ったらポケモンバトルってこういうことかあ。

 普通にポケモンを繰り出してきたので普通に撃破した、ホシノが。

 このレベルだと確かにあの金持ち坊ちゃんどもは苦戦するかもしれない。

 うちのホシノは普通に勝てるけどねえ!? 

 

 普通に船内を闊歩し、普通にしたっぱをボコし、普通に牢屋に辿り着いた。

 ……いや、突っ込ませて欲しい。

 船の中に牢屋は要らないよね? 

 凶暴なモンスターでもペットとして飼うつもりで? 

 ……黙秘か。

 まあ良いんだ、俺が頼まれてるのはあんたを牢屋から出すところまでだからな。

 ただ、2度と使われないように牢屋は破壊させてもらう。

 鉄格子を折り曲げちまえば使えないだろ? 

 

 帰りもネオプラズマ団にアイサツしながら戻ってきた。

 ホシノには頑張ってもらいましたよ。

 ただ、人間をショットガンで撃たせるわけにはいかないので、プレイヤーをノックアウトするのは俺の役目だ。

 

「正しいはずなのに、なぜまたも我々は……! Nさま、あなたが……!」

 

 力無き正義ほど頼り甲斐の無いもんは無いな。

 何が良いか選べ。

 幹部をすり潰すか? お前らしたっぱを海に放り投げるか? クリスタルを破壊して全てを無に帰すか? 

 俺に正面から喧嘩売っといてマトモな末路を迎えられると思うなよ。

 

「こ、ここに幹部など来てはいない! だが、あの方が来ればおまえなど……ぐぅあっ!」

 

 お前ら、ネオプラズマ団とか言ってたよな。

 レッドにはああ言ったけど……Nがいるんだな? 

 もしもあの方とやらがNで、もしも俺の前に立ちはだかるなら、容赦なく打ち砕いてやる。

 

「ひっ……こ、こいつ、危険だ!」

 

「お兄さん、少し落ち着いて」

 

 ……ん、そうだな。

 ちょっとピリピリしてた自覚はある。

 

「夢の事だよね?」

 

 ……あれはただの夢じゃ無くて一つの世界だ。

 それこそドリームランドと呼ぶに相応しいんだろうけど……あそこではポケモン自体は知られている存在らしかった。それに、人間もいた。

 だから、ドリームランドとは明らかに違う。

 円盤石とムー、そしてガイアの末裔。

 謎を解き明かさないと、俺はきっと元には戻れない。

 

「おじさん達に出来ることがあったら、なんでも言うんだよ?」

 

 ありがとう。

 

 おーい船長さーん、連れてきたぞー。

 意外と早かったって? そりゃあ、あの程度なら朝飯前ですよ。

 これで穀物は俺のもんだぜ! 

 ──ズシン

 船が大きく揺れた。

 乗客達に動揺が走る。

 クラーケンか? 

 本当、この状況で来られるのが1番厄介だ。

 

「いや……これはクラーケンじゃ……無いぞ!?」

 

 乗組員の一人がそんな事を言った。

 長年クラーケンと戦ってきたから、そこらへんはわかるんだろう。

 ……じゃあ、この揺れは何? 

 クラーケンじゃ無くて、こんなデカい揺れを引き起こ──

 

 

 ──────

 

 

「あ?」

 

「ワタル、おはよう」

 

「あ……え…………?」

 

「どうしたの? 起きたんなら朝ごはんの準備してあるから食べましょ?」

 

「…………寝てないぞ?」

 

「なんや、変な夢でも見たんか」

 

 ホリィが柔らかな笑みを浮かべ、木の葉に今日の朝飯を載せていた。

 いまだ上半身を起こしただけのワタルのところまでそれを持ってきてくれる。

 

「はい、どうぞ」

 

「……あ、ああ……ありがとう」

 

「じゃあ、私たちもいただきます!」

 

「ふん! ……ホリィ、頂くで! ムシャムシャムシャムシャ!」

 

 スエゾーがホリィとワタルの間を塞ぐように陣取ると、勢いよく朝飯を貪る。

 口をポカンと開けていたワタルも、やがて再起動するとモソモソと朝飯を口に入れる。

 時折うーん、と唸る様子にスエゾーは文句を言った。

 

「なんや! ホリィの作ってくれた朝飯にケチつけるんか!?」

 

「──美味しくなかった? ごめんなさい、肉もどきと野草しか無くて……」

 

「違う違う! これは美味しいよ、ありがとう。あと肉もどきって何?」

 

「ほんなら、さっきからの辛気臭い声は何やねん! はぁ……だの、うーん……だの、聞いてるだけでメシが不味くなるわ!」

 

「つ、唾が飛ぶからやめろ!」

 

「じゃあ、もっとシャキッとしい!」

 

「……そうだな! 悪かった!」

 

 目付きが変わると、まずは朝飯を口にかっこんだ。

 優先順位を変えたのだ。

 根本的に、ポケモントレーナーにこれを解決する術は今のところ無い。

 ならば、今、この世界でできる全力で行動していくのが正解だと捉えた。

 

「それで、どこへ向かうんだ?」

 

「…………これで」

 

 ホリィは胸元からネックレスを取り出してみせた。

 先端には勾玉がくっついている。

 

「これ……が、何?」

 

「あんまり胸元ジロジロ見るもんじゃないで!」

 

「見てないだろ……先生じゃ無くて大スケベ目玉親父って名前にしてやろうか」

 

「な、なんやとお!」

 

「良いからこれをどうするのか教えてくれよ」

 

「こうして念じるのよ、すると…………ほら、あっちの方角に円盤石があるわ!」

 

「ほえ〜」

 

「気の抜けた返事やな」

 

「だって特に感想も無いし……一応聞いておくと、円盤石を見つけて何するんだ?」

 

「それはもちろん! ヒノトリや!」

 

「はぁ? 何言うてますのん?」

 

「ワイの口調を真似すな!」

 

「ヒノトリって誰?」

 

「ヒノトリっちゅうのは伝説のモンスターや! 全てのワルモンをイイモンに変え、死んだモンスターも復活させられるんやで!」

 

「なるほど、つまり凄いやつってことか」

 

「そんな雑な……」

 

「で、そのヒノトリは円盤石に封印されてるのか?」

 

「伝説ではそうね」

 

「……虱潰しに円盤石を探すって認識でOK?」

 

「オーケーや!」

 

「はぁぁ…………」

 

「何やそのため息」

 

「長い旅になりそうだ……普通にムーをぶっ殺したほうが早いんじゃねえか?」

 

「そんなの無理よ! だってムーはワルモン軍団の親玉なのよ? とても私達なんか敵いっこ無いわ!」

 

「ヒノトリはそれに対抗できる手段なわけね……ブルーが欲しがりそうだな」

 

「ブルーって誰や?」

 

「えーと……妹みたいなやつの妹、かな」

 

「???」

 

「……よし、出発だ!」

 

「ちょ、おい誤魔化すな!」

 

「きゃっ! ──ちょっと!?」

 

「キュイ!」

 

「ワイを置いていくなっちゅうに!」

 

 ライガーベビーとホリィを抱え上げ、走り出す。

 完全に切り替えた。

 ウジウジしているのは終わりだ。

 胸の内に燃え上がる新たな情動を感じる。

 きっとまだ見ぬポケモンや敵が待ち構えているだろう。

 知らぬ土地、新たな名前、新たな仲間。

 彼女達はこの冒険ではおれのそばにはいない。

 それでも、夢から覚めれば温かく迎えてくれる。

 完全にあの世界に戻る為にも、ホリィ達の行く末を見届ける為にも、ムーとかいう悪の親玉を倒す。

 まずは円盤石集めからだ。

 

「──しゃあ、冒険だコラ!」

 

「だから……待てっちゅっとるやろがあああああ!!」

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