俺はポケモントレーナー   作:goldMg

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43_時の揺り籠の中で

「ひぃ、ひぃ、ひぃぃ……も、もうちょいペース落としてくれんか……」

 

「なーに言ってんだ先生、あんたには立派な足があるじゃ無いか。甘えるなカスが」

 

「血も涙もないんかワレェ!」

 

「で、でも……私ももう少し……ゆっくりにして、欲しい、かも……」

 

「あ、そう? じゃあ少しゆっくりにするか」

 

「何でワイとホリィで扱いが違うんや!」

 

「自分の顔を見てみな」

 

「顔? ……今日もハンサムやな」

 

 道のそばを流れる川面に映るスエゾーの顔。

 うっとりと見つめるスエゾーに対して、ワタルは無表情だった。

 

「ああ、ハンサムなやつは嫌いなんだ」

 

「おいおい、嫉妬しとるんかあ?」

 

「あ、見て二人とも! お魚よ! 昼ごはんはお魚にしましょ!」

 

「ワタル! 取ってこい! 新入りやろ!」

 

「お前が行け」

 

 ドボンと川に投げ飛ばされたスエゾー。

 

「あ、ちょ、ピ、ピラニア! ピラニアや! 食われる! 食われてまう!」

 

「いいよ」

 

「助けなきゃ!」

 

「いや、もうちょい見てよう」

 

「血も涙もないんか! ──ひぎい!? 噛まれとる! 尻尾にめっちゃ噛みついとる! このままやとワイが無くなってまう!」

 

「ワタル!」

 

「よし、そのまま噛みつかれとけ!」

 

 ワタルはピラニアごとスエゾーを川から助け出した。

 跳ね回るスエゾー、ピラニアがビチビチと陸に落ちる。

 

「ひいいい! ──お? 全部剥がれたか……おんどりゃあ! いきなり殺す気か!」

 

「今日の飯の準備が出来たな、お手柄だよ先生」

 

「やったわねスエゾー!」

 

「キュイ!」

 

「ぐぬぬ……」

 

 ホリィは空気の読める少女だった。

 

 一行は大きな湖にたどり着いた。

 花畑のある畔の反対側。

 どうやらガイアが指し示しているのはあの村らしい。

 小舟が一つ、ショートカット用だろうか。

 何やら看板が建ててある。

 今現在、俺は船に良い思いが無い。

 出来るなら湖畔を回っていきたいところだが、スエゾー達に言っても伝わらない。

 ここは二人の判断に任せよう。

 

「えーと……村へ来る際はご自由にお使いくださいって書いてあるわね。ただし、綺麗に使ってって!」

 

 そういうわけなので、俺が漕ぐ。

 二人もベビーも櫂を動かすのには向いてないしな。

 湖は遠浅な所がまばらに存在していて、スエゾーのとんでも視力で確認してもらいながら漕いで行く。

 それにしても……ホリィは優雅だな。

 座り方もそうだし、髪をかきあげる動作も気品がある。

 先生とは大違いだ。

 余計なお世話って? 

 でも先生もそう思わないか? 

 ……いや、無い。

 …………いいや、先生に気品は無い。

 先生はまず哺乳類になってから言ってもらって良い? 

 

 村に着くと、いかにも苦しいですという顔をした老人が出迎えてくれた。

 近くにワルモンが出現する様になって漁師が湖での漁に出れなくなっているらしい。

 狩人がワルモンを狩れば良いのでは? 

 ……まあ無理だよね、冗談です。

 いつも考えてはいるけど俺の中の基準として、人間と同じ背丈のやつには人間は勝てないっていうのはある。

 人間は熊に勝てないし、熊よりでかいやつにはもっと勝てない。

 全員がグレネードランチャー持ってれば別だけど。

 

 そのワルモンは森に住んでいるらしい。

 ホリィはそのワルモンをどうにかしたいようだ。

 お人好しというか何というか。

 円盤石を探すのが至上命題なのに、見捨てられないらしい。

 呆れたかって? 

 そういうの、とても好きだ! 

 ……いや、そっちの好きでは無いけど。

 それで、具体的にどうにかするってのはどうするんだ? 

 倒すのか、追い払うのか。

 ……出来るなら穏便にね、じゃあまずは偵察からだな。

 無闇に接触しても刺激するだけだ。風下から隠れて相手の様子を伺ってみよう。

 

 一つ忘れてはいけないのは、相手がワルモンだということだ。

 ブラックディノがそうだったように、ワルモン軍団は基本的に邪悪で害悪らしい。

 理屈や論理よりも欲望を優先するタイプ。

 俺が前に出ると拗れそうだから、ここはホリィ達に任せる。

 

「なんやあの甲羅刺々しいな。それに……あたり一面骨だらけや」

 

「き、きっと事情があるのよ」

 

 ムシャムシャと今も魚を食っているそいつは、亀みたいな甲羅に棘を生やしていた。

 今はひたすらに魚を口へ運んでいる。

 なんかアレだ、冬眠でもしそうだな。

 腹一杯食ってるなら意外と話通じるかもな。

 ただ、このオーラ……あの見た目……

 ホリィ、やめても良い。

 いけるか? 

 

「自信は無いけど……やってみるわ!」

 

 

 ──────

 

 

「ぐわははは!! この我輩にどこかへ行けだと? 生意気な娘だ! その意気に面じて食ってやろう!」

 

 案の定なのでホリィはすぐさま回収した。

 スエゾーの後ろに置いて、前へ出る。

 俺は無理だって思ってましたよ。

 もう見た目が悪だもん。

 あくタイプ以外に分類しようがないもん。

 

「ワタル! お願い!」

 

 ダメだって分かったらすぐに切り替えられるのは君の良い所だ、うん。

 

「なかなか素早いな?」

 

 喉あたりの空気がゆらめいている。

 急速に蜃気楼が発生し始めた。

 あー……コイツやべえわやっぱり。

 カムイのパートナーのパックンよりやべえんだよな。

 全力だ。

 

「燃やし尽くしてやろう!」

 

 あ、二人がやべえわ。

 退散! 

 

 先ほどまでいた場所を見てみると一面火の海だ。

 こんなん、そりゃあ狩人じゃどうにもならんよ。

 ホリィ、どうする。

 アレでも対話するか? 

 ……え、マジでするの? 

 

 ムーとやら、俺の想像の100倍くらいヤバイのかも。あんなやつをたくさん配下に従えてるなら、そりゃあ世界征服だって出来るってもんだ。

 村に戻るとどうなったかを聞かれた。

 近日中にどうにかしますと答え、その日は泊まる。

 村長とのご相伴に預かる事になり、この村の成り立ちについて聞いた。

 

 一人の旅人がこの湖を見つけ、釣りのための小屋を作ったのが始まりらしい。

 釣りをしている様子が気になって他の人も釣りを始め、段々と小屋が大きくなった。

 やがて建物の数が増え、定住する人が増えたのだそうだ。

 あいつが現れたのは一年前らしい。

 気に入ったのか何なのかあの森から動かないのだが、魚を大量に食べる事もあり湖に頻繁に現れる。

 あんな怪物、近付くのすら恐ろしい。

 そのせいで漁獲量が激減して、生活に困窮しているらしい。

 …………移住しろ! 

 

 その日、眠りに着いても元の世界に戻ることはなかった。

 空き家をタダで貸してもらい、ホリィとスエゾーとベビーは寝室、俺は納屋で寝ていた。

 鳥の声が聞こえる夜明けに目が覚め、家の外に出ると村長が空を見上げていた。

 早起きですね。

 

「おお……ワタルさんと言ったかな」

 

 家を貸してくれてありがとうございました。

 あの子達も安心して眠れたでしょう。

 

「なあに助け合いよ、こんな世の中じゃからな」

 

 村長、ミナガルデは知っていますか。

 

「……悲劇じゃよ」

 

 悲劇? 

 

「あの街は強大な戦士が多くいる街じゃった。ワルモン軍団もおいそれと手出しを避けるほどのな」

 

 俺はミナガルデに行きましたが、そんな戦士はいない様子でした。

 一体何があったんです? 

 あんなに巨大な街の、一角にしか人間がいなかった。

 

「わしも商人から聞いただけじゃが、ムーが直接襲って激しい戦闘になったらしいの」

 

 じゃあ、戦士達はその戦いで? 

 

「そうじゃ。残ったのは戦えぬ弱者や、卑怯な犯罪者ばかり」

 

 それは……確かに悲劇ですね。

 

「ムーの姿を見て生き残った者はいない。一体どんな化け物なのか……」

 

 きっと良くなる。

 

「む?」

 

 ホリィは、ムーを倒すために旅をしているんです。

 

「そうか、そんな気骨のある少女だったか……」

 

 あの子らを信じて待っていてください。

 必ず成し遂げてくれるでしょう。

 

「はは……わしのような老人には最早、信じるという事すら恐ろしい変化なのじゃよ」

 

 それは……

 

「ムーは強大じゃ。それは配下のワルモン軍団でさえ同じ、生まれた時から奴らに苦しめられてきて……もう、それが普通なんじゃ」

 

 ──折れている。

 これは良くない。

 これじゃあ、人類が勝てないわけだ。

 打ち砕く者は、折れた者の中からは現れない。

 でも……関係無いな。

 ホリィはやり遂げるタイプの人間なんで、やり遂げたら喜んでくれれば良いですよ。

 

「そうじゃな……その時は魚料理をいくらでも食べさせてあげよう」

 

 楽しみですね。

 俺も魚料理は好きなんです。

 ちなみに村長は魚料理だと何が好きなんですか? 

 

「魚は嫌いじゃよ」

 

 ええ……

 

「散々食べたからの」

 

 もう一眠りするとか言って家に戻って行ったので、俺も戻ることにした。

 まだ早朝と呼ぶに相応しい時間だしな。

 眠くは無いけど一応布団に入る。

 寝室の全員が起きたらもう一度あのワルモンのところに行く予定だ。

 ホリィが納得しなきゃ意味無いからな。

 

 目をこするホリィの服を寝巻きからさっさと着替えさせ、燻製肉を食わせる。

 ここら辺は俺もレッドの世話で慣れたもんよ。

 下着がどうとかスエゾーが喚いてたけど、素人は黙っとれって感じである。

 間違えて扉を半分開けたぐらいでうるさいぞ。

 さて、あいつの案件はチャチャっと済ませたほうがいい。

 さっさと赴こう。

 

「──おっ! わざわざ自分から喰われに来たか!」

 

 今日は少し話をしに来た。

 

「む? 何故我輩が食材と話をせねばならん」

 

 俺は強いぞ。

 お前を食材にできるほどには。

 

「…………ふーむ」

 

 ワルモンは指を丸にして、片目で俺のことを観察し始めた。

 何か分かるのだろうか。

 

「むむむ……」

 

 気持ち悪いからあんまり見ないで欲しいんだけど。

 

「──驚いた! まさか人間の中にこんな強度の者がいるとは!」

 

 どうやら納得してもらえたらしい。

 

「話すのを許そう」

 

 へへぇ〜! ありがたき幸せ! 

 ……ほら、ホリィ。

 

「私!? ……そ、そうね……あなたは何でここにいるんですか?」

 

「……我輩は当たり前のことを説明するのが嫌いだ、一度だけ教えてやろう」

 

「は、はい」

 

「メシを食べるためだ」

 

「え?」

 

「どこもかしこも雑魚っぱで溢れかえりおって! 盟約で手出しできんのを良い事に……実に腹立たしい!」

 

「盟約?」

 

「その点ここは良い! 余計な邪魔もおらんし、好きなだけ食べられる!」

 

「要点を話せや! 要点を!」

 

 ん? もしかして……アンタはムーの仲間じゃ無いのか? 

 

「ムーの? ……ガハハハハ! そんなわけがあるまい! 世界を統べるに足るはこのクッパのみ! あやつなど手下がいなければ動けぬ臆病者よ! ……思い出したら腹が立ってきたな」

 

「えーと……一応、今の世界を支配しかけてるのはムーなんですけど……」

 

「そうやそうや! そんなに強いんならムーを倒してみいや!」

 

「そ、それは……我輩もほら、封印とかされてたからブームに乗り遅れたというか……世界征服とか今更始めても二番煎じだし……」

 

「あの……クッパさん」

 

「クッパ『様』だ!」

 

「クッパ様、お願いがあります」

 

 ホリィが跪いてクッパとやらの顔を見つめる。

 この子、こういうのも出来るんだ。

 

「ほう! 何だ、言ってみろ」

 

「あの村の人たちはお魚を主食にしています。どうか、あの人たちが飢えないようにしていただくことはできませんか?」

 

「なぜ我輩がそんなことをせねばならんの──む? …………むむむ!? お、おい娘! ちょっとそれを見せろ!」

 

「え? ……きゃあ!」

 

 クッパがホリィの胸元にいきなり手を凄まじい速度で伸ばして、何かをむんずと掴んだ。

 このタイミングでおっ始めるのか!? 

 もうちょい別のタイミングあったよな!? 

 

「おいコラァ! クッパだか木端だか知らんが何しとんじゃ!」

 

「だまれ小童!」

 

「ひええ……」

 

「グヌヌ……やはりこれは……娘ぇ! コイツをどこから盗んだ!」

 

 なぜかブチギレてる。

 勾玉のことのようだ。

 

「──ガイアは私の村に昔から伝わるお守りです! 盗んでなんかいません!」

 

 ホリィも全く引いて無い、すげえ胆力だな。詰め寄ってきたクッパを睨み返してるぞ。

 ただ、王気とでも呼ぶべきか。

 恐るべき圧が発生している。

 

「その言葉、嘘偽りは無いかぁ!!」

 

「……うっ、ううっ……あ、ありま、せん!」

 

 ホリィは顔を青くしながらも、なんとか答えた。

 

「ぐうう……女の子をいじめんなや!」

 

 スエゾーが間に入って、圧からホリィを庇った。

 

「……どうやら、嘘は無いようだな」

 

「ぶはぁぁ!! はぁ、はぁ……な、何ちゅうやつや!」

 

「あぅぅ……」

 

 王気が止むと、二人とも地面に崩れた。

 どうやら怒りは収まったらしい。

 クッパはゴソゴソと懐を探り出した。……いや、お前全裸なのにどこを探る必要があるんだよ。

 

 どこを探っているのかは謎だったけど、ともかく何かを取り出した。

 それをホリィに差し出す。

 

「──えっ!? こ、これは……!」

 

 ホリィは差し出されたものを目にして、とんでもなく驚いていた。

 覗き込むと、ホリィが持っているのと同じような勾玉がクッパの掌の上に乗っていた。

 

「何であなたがガイアを!?」

 

「……これはガイアでは無い」

 

 まぁ、勾玉なんて作ろうと思えば作れるもんな。

 

「娘、お前の勾玉をこれに重ねろ」

 

「重ねる、ですか?」

 

「……まさか、盗む気じゃないやろなあ?」

 

「ふん! 我輩がそんな卑怯なことをする訳がなかろう!」

 

 ホリィが首紐を外し、クッパの勾玉にガイアを重ねると一つの勾玉になった。

 大きさも変わっていない。

 色もガイアのままだ。

 

「ガイアに何をしたんですか!」

 

「何もしとらん。だが、やはりか」

 

 何が? 

 

「何がですか?」

 

「何がや」

 

「キュイ?」

 

「ええい、やかましい! 我輩が何でも教えてやると思ったら大間違いだ!」

 

 解散! とクッパが宣言したけどちょっと待って欲しい。

 なんか色々と話が飛んじゃったけど、本題はガイアじゃ無いんだよ。

 もちろん大事なんだけどさ。

 

「ワタル、ちょっと待って」

 

 なんすか。

 

「クッパ様、あなたは何故2個目のガイアを持っていたんですか?」

 

「教える義理は無い!」

 

「そんなぁ……」

 

「だが村人に告げろ、吾輩の臣下である限りは魚を獲っても良いと」

 

「…………はい、分かりました」

 

 成果は得られたが、村に戻る最中、ホリィだけは気落ちした様子でとぼとぼと歩いていた。

 先生、何でホリィはあんなに必死だったんだ? 

 

「なんでも何も、ガイアっちゅうのはワイらの村にだけ伝わる神からの賜り物なんや。それをあのクッパとかいう奴が持っとったら理由ぐらい気になるやろ」

 

 そういえば、ガイアと勾玉が合体してたのはなんだ? あれは伝承で伝わってないのか? 

 

「分からへん……実際のところ、アレを本来受け継いでいたのはホリィちゃうからな。伝承の中身も全部は教えてもらえてへんのや」

 

 じゃあクッパ様は何者だよ。

 ……ていうか先生、ホリィのこと元気付けてこいよ、幼馴染なんだろ? 

 

「キュウ!」

 

「そ、そやな……おーいホリィ! 可愛いお顔が台無しやで! そないな暗い顔しとらんと、お茶でも飲みながら話しようや! ほれ、お茶!」

 

 ナンパ師かな? 

 あと、今どこからお茶出した? 

 

「スエゾー……ごめんなさい、ガイアのことが気になってて」

 

「それはもちろんワイも気になるで! でもな? 考えても分からんことちゅうのはどうしようも無い! 今は一旦後回しにしよや」

 

「そ、うね……うん、わかった!」

 

 自分の頬を一回叩くと、無理やり笑顔になった。

 元気付けろとは言ったけど、これって合ってたのだろうか。

 村人にクッパの事を話すときにまで暗い顔してたらスエゾーの後ろに隠すつもりだったとはいえ、無理させるもんでも無い。

 休憩しよう。

 

「でも、まずは村の人達にクッパの話を……」

 

 ベビーを抱いてて。

 ……ほら、受け取れ。

 

「あ、はい……」

 

「キュン」

 

「…………」

 

 適当に丸太を椅子にしてそこにホリィを座らせ、スエゾーにはお茶を淹れさせる。

 最初はしょんぼり顔でベビーを見つめていたホリィも、しばらくすればゆっくりとした手つきでベビーを撫で始めた。

 アニマルセラピーこそ至高って俺は知ってるんだ。

 が、そんな事をしてるうちに雨が降り始めた。

 これはまずい、さっさと村に戻ろう。

 

「アカン、こんな土砂降り、びしょびしょになってまう!」

 

 先生は裸なんだから関係無いじゃん。

 

「ワイのことちゃうわ! ホリィや!」

 

 それは確かに。

 ホリィ、替えの服はあるよな。

 

「きゃっ! こっち見ないで!」

 

 あ、ごめんなさい。

 ……もうビショビショだよなそりゃあ。

 

「逆になんでお前さんは全く濡れてないねん!」

 

 前よりは精密に波導を操れるようになったっぽいんだよね。

 正体が分かったからかもしれない。

 

「ハドウってなんや!」

 

 波導は我にあり。

 

「説明しろや!」

 

「──え、あれ? ……なんでガイアが反応してるの?」

 

 近くに円盤石があるんじゃね? 

 場所だけ先生が覚えといて、今は村に戻ろうぜ! 

 

「おう、そうやな! ……って、なんでワイだけ覚えとかにゃならんねん!」

 

「えーと、円盤石は今進んでる方向にあるわ」

 

 おお、都合が良いな! 

 

 

 ──────

 

 

 家に戻るまでガイアは反応し続けたが、家の中に入った途端に反応が無くなってしまった。

 

「確かに反応していたのに……さっきのでおかしくなっちゃったのかしら……」

 

「もしそうなら、クッパには全責任を取ってもらう必要があるわな!」

 

 それはそう。

 とりあえず、俺もいつまでも目を閉じていたい訳じゃないからホリィは身体洗ってきな? 雨に濡れたままはあまり良くないし。

 ……いや、科学汚染が少ないなら拭くだけでも良いのか。

 

「うん、じゃあちょっと時間もらうわね?」

 

 どうぞ。

 

 ホリィが着替え終わったタイミングで、俺たちが帰ってきたことを知った村長がやってきた。

 クッパがワルモンでは無いこと、そしてクッパの言葉を伝えると、村長宅で集まって何やら話し始めた。

 俺たちは部外者なのでそこには参加せず、ガイアの様子を見る。

 

「……私、もう一度クッパに話を聞きたいわ」

 

 目の前に答えがあるのに、わざわざ他の場所で探すなんてアホらしいからな。

 教科書ってやっぱ偉大だわ。

 じゃあ、村長とは別のタイミングで行ってみるか。

 

「村の人達が行くんだから、私たちもついていけば良いんじゃないの?」

 

「せやせや! わざわざ別れて行く必要無いやろが!」

 

 落ち着けって。

 村長達はすぐにクッパのところに向かうだろうよ。

 行くやつを選別してな。

 

「どうして?」

 

 だって、ここの人たちはお腹空いてんだぜ。

 早く話を進めたいに決まってんだろ。

 

「言われてみればそうね」

 

「中々頭回るやないけ!」

 

 ホリィも身体冷えてるだろうし、ちょっとゆっくりしようぜ。

 具体的には明日でも遅く無い。

 

「そうやな、ほんだら早速肉を──」

 

 待て。

 

「ほ?」

 

 お前らが食う事を止めるつもりは無かったけど、いくらなんでも消費が早すぎる。

 せめて、一回の飯で食べる量を決めろ。

 燻製肉がたくさんあるって言っても無限じゃ無いんだ。

 

「せ、せやかて……」

 

 工藤も佐藤も無い! 

 

「なんやそれ!?」

 

「でも、どうやって決めるの?」

 

 それを考えるのがあなた達の仕事です。

 

「こんなんパワハラや!」

 

 じゃあ俺が決めるぞ! 

 一日一欠片な! 

 ……ブーブー言うんじゃない! 

 

「もうちょっと食べさせてくれても良いのに……」

 

「ケチやでほんま!」

 

 じゃあ俺が全部食っちゃおっかなー! 

 

「横暴やぞ!」

 

「そうよそうよ!」

 

 そういえば、先生で一つ試したいんだけどいいか? 

 

「ワイで試す?」

 

 スエゾー、まもる。

 

「カキーン! ……な、なんやあ!?」

 

 おお、出来るのか。

 やっぱり先生もポケモンだな。

 

「ワタル、今の何!?」

 

「ワイの体が勝手に動いたで!? しかも、なんや今のバリアは!」

 

 俺にはポケモンへと指示を出す能力があるんだよ。

 

「なんやそりゃ!? 聞いとらんで!」

 

 教えてないし。

 

「で、でも、それがあればワルモンも操れるんじゃ!?」

 

 まあな。

 でも、これを使ってばっかだと身体が鈍るだろ? 

 だからあんまり頼らないことにしてるんだよ。

 

「確かに、それならムーとも戦えるのかしら……」

 

 さあな。

 ほぼ化け物になっていたヒカワにも効かなかったし、あまり期待しない方がいい。

 ただ、取り巻きは任せろ。

 一対一の状況にしてやる。

 

「……なんでワイを見るんや」

 

 先生が戦うんだよ。

 

「ワイじゃなくてヒノトリ!」

 

「でも、本当に頼もしいわ! ワタルを仲間にして良かった!」

 

 ああ、そう? 

 そんな風に言ってもらえると俺も嬉しいな。

 

「なんやいワタル、もしかしてお前さんもホリィみたいに特別な一族だったりするんか?」

 

「そうなの?」

 

 いや、俺のは神様から与えられ……てないか。えーと、後天的に与えられた能力だな。

 親も普通のサラリーマンだったよ。

 

「サラリー……」

 

「マン……?」

 

 顔を見合わせた二人はサラリーマンという言葉を知らないらしい。

 ……そうか! 

 こんな中世ぐらいの世界でサラリーマンなんて、そもそもそんな概念すら存在して無いよな! 

 

「ワタル、サラリーマンってなあに?」

 

 えーと……説明が難しいな。

 まあ、普通の家庭だって思ってくれ。

 こっちで言うところの普通の村人の事だ。

 

「……そういえば、ワタルはどこの村からやってきたの?」

 

「確かにそうやな」

 

 ……せ、説明するのが面倒くさいよお! 

 面倒臭いから説明拒否しようかな……あとは記憶喪失って設定にするか。

 

「仲間なんだったら、そんくらい面倒臭がらずに説明するぐらいええやろ!」

 

「スエゾー、無理強いは良く無いわよ。話辛い事なのかもしれないじゃない」

 

「あ……そ、そうやな……すまんかった」

 

 おーい、勝手にしんみりした空気にするなー。

 ……まあ、いいか。

 

「──ええ!? 元々いた世界から別の世界に移動して、仲間を作っていたらまたこっちの世界に移動した!? ……ワタル、ちょっと額良い?」

 

 ホリィの少し冷えた手が俺の額から体温を奪って行く。

 

「…………熱が高いわ!」

 

「大変やったな、ワタル。熱あるのに気丈に振る舞って……」

 

 おい! 

 風邪ひいて妄想してるやつ、みたいな扱いすんな! 

 そんな事言ってたら、お前らの肉は無しだぞ! 

 

「──冗談! 冗談やさかい! な? ホリィ」

 

「ええ!」

 

 俺の体温は人より高いんだ。

 身体能力が高い代償だろうな。

 

「確かに担がれた時は温かいような気がしたけど、でも……こんなに高いのってありえるの?」

 

「そんなに高いんか? どれどれ……うわっ、なんじゃこりゃ! やっぱり風邪ひいとるんやろ!」

 

 引いてねえっつってんだろ! 

 

「いぃじじじじ! 飛び出る! 目ん玉飛び出る!」

 

 もう半分飛び出てるようなもんだろうが! 

 まったく……

 

「──ウフフ」

 

 おっ、やっと普通に笑ってくれたな。

 

「え?」

 

 ホリィ、クッパと話してから暗かっただろ? 

 

「…………」

 

 先生も言ってたけど、女の子は笑っててくれた方が嬉しい。

 それに、せっかく可愛いんだから勿体無いじゃん? 

 無理に笑えとは言わないけどさ。

 

「うん……」

 

 ……そうだ! 

 一つ、お話でもしようか。

 

「お話?」

 

 一人の道化と、風の巫女のお話だ。

 

「どうけと……みこ?」

 

 ああ、縛り付けられた巫女の解放の物語だ。

 ちょっと長くなるかもな。

 

 この話は、道化が巫女のいる街を訪れたところから始まるんだ。

 その街は巫女が治める街、みんな巫女のことが大好きでした──

 

 

 ──────

 

 

 ──願いに応えて現れた神は巫女に力を授け、巫女は相棒と共に一筋の流星となりました。

 そして巫女は鎖を断ち切り、道化を打ち倒して自由を手に入れましたとさ。

 めでたしめでたし。

 

 その後、仲間を作って旅に出たりとか真の敵を滅ぼしたりとか色々あったけど……でも、彼女はもう大丈夫だ。

 あの子は──彼女は強くなった。

 仲間を束ねる支柱として今は頑張っているさ。

 

 ──さて、空もだいぶ暗くなったから二人ともご飯にしようか……って、どうした!? 

 

「うぅ〜……よがっだのぉ! 本当によがっだ!」

 

「ひぐっ……えぐっ……お、お父さんと、お母さんを、亡くして……その気持ち、私も分かるわ……ぐすっ……」

 

 泣いてて二人とも夕飯の準備どころじゃ無いので、俺一人で準備をする羽目になった。

 でも安心した。

 やっぱりコイツらなら大丈夫だ。

 他者に共感し、悲しみを受け取って寄り添うことができる。

 その心を持ち続けられれば、いつか世界だって救える。

 泣きながら飯を食うと喉に詰まるから、それはやめた方がいいとは思うけど。

 

 泣き腫らして目元が真っ赤なので、ホリィの目元に軟膏を塗る。

 これ、成分はなんなんだ……

 俺には到底理解できない原材料だろうし正直怖いけど、怪我したらこれを塗れば安心らしい。

 ホリィはなにやら口元をモゴモゴさせてる。

 

「ワタル……さっきのは作り話? それとも──」

 

 もちろん作り話だ。

 神様なんているわけないじゃん。

 

「神様はいるわよ! だって、そうでなきゃモンスターや人間はどうやって生まれたのよ!」

 

 そ、それはアミノ酸がどうとか……なんでもないです。

 神様は実在する、そうだな。

 でも、モンスターがいるならこの世界もアルセウスみたいなやつがいるのかもな。

 よし、じゃあホリィももう寝ようか? 

 

「分かった」

 

 

 ──────

 

 

 寝たら今度は船に戻れた。

 ただ、いつもと違って起きている時にいきなり飛ばされたもんだから、状況を思い出すのに時間がかかった。

 ホシノが大層心配していて、申し訳ない気分になったぜ。

 戦闘中にアレになったら結構やばいかもしれん。

 揺れの元はなんなのか結局分からなかったけど、どうせ怪盗かネオプラズマ団だろ。

 俺が一人の時に現れた白スーツちゃんはネオプラズマ団に間違いないとか言ってたけど。

 密会みたいに思われるから、一人の時に来るのやめてもらえないかな……

 イチャイチャする前にナギに首筋の匂い嗅がれて、女の匂いがするとか言われたのめっちゃドキッとしたわ。

 全然やましくないのにやましい事したような気持ちになった。

 あと、ナギもナギで鼻が良すぎる。

 

 そうこうしている間にもネオプラズマ団はクリスタルを取り外すための準備を進めていた。

 少しずつエネルギー供給管を取り外し、安定器を代わりにつけていってる。

 白スーツちゃん曰く、供給管が全部取り外されたらいよいよ船は遭難するらしい。

 乗客とネオプラズマ団の前線はジリジリ広がってるけど、まだ非戦闘員のエンジニアがクリスタルのところに安全に行けるほどじゃない。

 

「私から一つ提案が」

 

 白スーツちゃんが現れて、そんなことを言い出す。

 提案でも何でも、まず話を聞いてからだよね。

 

「私は慈愛の怪盗です」

 

 ……マジ!? 

 

「むしろ、なぜ気付かれないのか不思議でした」

 

 ……失礼なこと言うけど正直、怪盗とか眼中に無かった。今もそれどころじゃないし。

 

「本当に失礼ですね……まあ良いでしょう、それで提案なのですが──」

 

 ああ、ちょっと待って。

 

「はい?」

 

 ナギ、隠れて聞くのは感心出来ないぞ。

 

「……あの匂いはこの子ね」

 

 だから怖えって……別に密会とかじゃないからな? 

 なあ、そうだよな。

 

「ええ、真面目な話です」

 

「ふーん……?」

 

 割と大事な話っぽいから、質問は後でな。

 ああ白スーツちゃん、コイツも同席して良い? 

 

「…………」

 

 ダメそう。

 ナギ、悪いけど一旦席を外してくれないか? 

 

「なんで?」

 

 何でってお前……

 

「あなたが女の人とこっそり会ってるのだって、正直問い詰めたいところなんだけど?」

 

「ポケモントレーナーさんが信じられないのなら、何で付き従っているのかな? お嬢さん」

 

 やめて! 

 脱線しないで! 

 私のために争わないで! 

 

 ナギを落ち着かせ、とりあえず白スーツちゃんと二人きりに。

 よ、よし! 何とか話が進むぞ! 

 

「私は、あのクリスタルを盗む予定でした。……とんでもない邪魔が入ったせいで頓挫しましたが」

 

 ネオプラズマ団の情報を事前に得られていたわけじゃ無かったんだな。

 

「プラズマ団という前身の組織は知っていましたが、既に壊滅していたからノーマークだったといいますか……」

 

 眼中に無かったわけね。

 

「ですが、元々クリスタルを盗み出す予定だったのでその機材やパートナーは準備してあります」

 

 そりゃそうだよな。

 流石にこの細腕じゃ俺すら持ち上がらんだろ。

 ……で、提案ってのは? 

 

「私はクリスタルの周囲に結界を張ることができます。貴方にはその準備中、私を守って欲しいんです」

 

 いいよ。

 じゃあいつやる? 

 

「もちろんタダでとは言いません──ん?」

 

 早めに済ませよう。

 

「あの、報酬は用意してますよ?」

 

 要らん。

 何で自分の身を守るために金をもらわなきゃいけないんだ。

 逆だろ、むしろ俺が金払ってやるよ。

 あんまり大人を舐めるな。

 

「……ふふふ、そうですか」

 

 なにわろとんねん。

 ……あ、一応うちの仲間に話通してからで良い? 

 

「──どうしてです? せっかく二人で話したのに」

 

 なるべく拡散して欲しくないのは分かる。

 ただ……こういう時にこれやっとかないと、後で俺がこっぴどく怒られるんだよ。

 そこだけ何とかならないか? 

 

「……分かりました」

 

 おお、ありがとう。

 じゃあ改めて、俺はポケモントレーナーだ。

 よろしく。

 

「わたし、は……」

 

 ああ、名乗れって意味じゃ無い。

 これは俺のケジメだ。

 何かを始める時、改めて名乗るんだよ。

 君は別に良い。

 

「は、はい……」

 

 

 ──────

 

 

「そんなの絶対ダメだからね! いつまた意識が飛ぶかわからないんだから! もし戦闘中になったら致命的でしょ!」

 

 ホシノも俺と同じ懸念を抱いていたらしい。

 でもさあ、戦闘中になったら致命的だけど、このままだと漂流して死ぬのを待つだけだぞ。

 

「う……で、でも……」

 

 それに、みんなを助けようとリスクを冒して提案してくれたんだから、応えないとポケモントレーナーの名が廃るぜ。

 

「か、怪盗だよ!? 盗みを働くような人の言うことを信じるの!?」

 

 ホシノ、大丈夫だ。

 きっとあの子は人の命を粗末に扱うような子じゃ無い。

 

「でも……」

 

 何がそんなに心配なんだ? 

 

「……お兄さんに決まってるでしょ!」

 

 ……俺? 

 

「自分の状況をちゃんと自覚してよ……」

 

 俯き、弱々しくしがみついてくるホシノを見て、二の句を継ぐ気にはなれなかった。

 説得する言葉を持たなかったので、他のやつにも話をした。

 レッド達も概ね同じ反応をした。

 この状況で無茶をするべきじゃないと。

 もし大怪我をしたらどうするんだと。

 私たちの気持ちも考えろと。

 

 ……みんな反対なら気にしなくて良いか! 

 ホシノだけ反対とかだと蟠りが生まれるけど、全員同じなら問題ナシ! 

 さあ行くぞ、白スーツちゃん! 

 

「えっ」

 

 何だ、行くぞ! 

 

「あの……許可は取ってないんじゃ……」

 

 許可取るなんて言ってないけど。

 

「彼女たちの気持ちを蔑ろにしているのでは?」

 

 アイツらの気持ちは大事だと思う。

 すげえ大事だ。

 アイツらの思っていることはなるべく叶えてやりたいし、そう過ごしてきた自負もある。

 

「それなら、なぜ?」

 

 え? 分かんない? 

 

「私のような常人にあなたの思考を理解するのはなかなか難しいですよ」

 

 猫耳天使の輪っか白スーツケツプリっ娘がなんか言ってら。

 ……命と尊厳がかかっているなら話は別だ。

 俺だって仲間だけ見てたら思考が凝り固まっちまうからな。

 線引きはしてるんだわ。

 

「──胎界主」

 

 ん? 

 

「人を動かし、心を動かし、世界を動かす」

 

 ……はい? 

 

「形而上学的な存在かと思っていましたが、なるほど……」

 

 何もなるほどじゃないから。

 怪盗だから知識溜め込んでるのかもしれないけど、俺みたいなパンピーにもわかるように説明してもらっても良いか? 

 お前そんな風に生きてたら誤解されるぞ。

 意味深に言うのはかっこいいけど、理解はしてもらえなくなるからな。

 

「古い書物にある、世界の中心たる存在を表す概念です」

 

 なるほどな……ってなるわけないだろがい! 

 中心は俺じゃなくて神様だから! 

 めっちゃ失礼だから! 

 その考えは今すぐ捨てなさい! 

 ……脱線してる! 

 行くぞー! 

 

「──な、何だ貴様らぐえええ!」

 

「行け! ミルホッぶほおああああ!」

 

「キャアアア! 誰か止めてええええ!」

 

 粉砕! 玉砕! 大喝采! 

 幹部はいないとか舐め腐った事ほざいてたし、蹴散らしゃあ良いんだ蹴散らしゃあ! 

 しっかり着いてこい、白スーツちゃん! 

 

「快適快適、次からも手伝ってもらおうかなあ」

 

 クリスタルまで一直線だぜ! 

 しかし、クリスタルのそばには何やらスイッチを持った奴が! 

 

「と、止まれ! こっちはいつでも起爆できるんだぞ!」

 

「──トリック」

 

「……お、おい! スイッチが!」

 

「へ? あれ? ──うわああ!」

 

 すり替えておいたのさ! 

 というわけで白スーツちゃんのマスカーニャのトリックによってすり替えられたスイッチと閃光爆弾。

 手元で爆発したから多分怪我してるだろあれ。

 ボコボコにしてからロープで巻いておいた。(白スーツちゃんが)

 

「機材を下ろしてもらっても?」

 

 はいよ。

 頼むぜ白スーツちゃん! 

 ここからが正念場だ! 

 

「ご武運を」

 

 祈られるまでもねえ! 

 この程度、あの時に比べたら大したことねえからな! 

 

「包囲されたこの状況でもまだ威勢が良いな! ポケモントレーナー!」

 

 良いぜ、来いよ。

 何百発でも撃ってこい。

 この半径1m、こいつには一度だって掠らせはしない。

 まあ、そんな事をしたらクリスタルがどうなるかは保証できないがな! 

 

「……ちっ、あれだけのクリスタルをそう簡単に見つけられるはずも無いか」

 

「なあに、これだけの数だ。近距離戦でも負けはしない」

 

 ああ……久しぶりにゾクゾクしてきた。

 でも、近接戦だけってのは楽で良い。

 あの時はビームも火球も岩石もって感じで、あらゆる遠距離攻撃が飛んできたからな。

 

「かかれ!」

 

 

 ──────

 

 

「ホシノ! お兄さんがいないよ!」

 

「え」

 

 レッドがホシノの元に飛び込んできて開口一番そんな事を言った。

 椅子が後ろに吹き飛ぶのも構わずにノコが立ち上がる。

 

「まさかピカチュウ、例の怪盗と一緒に行っちゃったんじゃ!」

 

「!!」

 

 ホシノが顔を歪めた。

 すぐさまショットガンを手に取り、部屋から出て行こうとする。

 ナギが腕を掴む。

 

「どこ行くの、ホシノさん!」

 

「そんなの決まってるでしょ! ……ナギちゃんは止めないよね」

 

「一人で行かないでって言ってるのよ」

 

 5人はすぐさま連れ立って部屋を出た。

 駆け足で向かうのは当然、吹き抜けのあるスペース。

 防衛ラインよりはだいぶ奥、プラズマ団の支配範囲だ。

 向かっているのは5人だけでは無く、他のプレイヤー達もだった。

 その中にはエリックもいた。

 走りながら、年の近いアイリが尋ねる。

 

「エリック君! なんでみんな同じ方向に走ってるのか教えて!」

 

「前線にネオプラズマ団のやつらが少ないんだ! どうやら、クリスタルのあるところに集まっているらしい! ……集音モードにしなよ! すごい戦闘音だぞ!」

 

「い、いそいでたから……うわああ!?」

 

 耳に飛び込んできたのはマシンガンのような音。

 銃声とは明らかに違うが、何かを破壊している音だった。

 敵を突破して、クリスタルの元へと向かう。道中も敵は当然存在する。

 銃を所持しているせいで生身のまま突っ込むのが厳しい。歯噛みしながらも時間をかけて近づいて行った。

 そして──

 

「突っ込め突っ込め!」

 

「サワムラー! メガトンキック!」

 

「テッカモン! 切り刻め!」

 

「チ級! 弾き飛ばせ!」

 

「レパルダス今だ! ふいうち!」

 

「ハム! 正拳!」

 

「──押し潰せ!」

 

 ネオプラズマ団は間断なく何かに攻撃を浴びせていた。

 ホシノは一瞬で理解し、したっぱ共の足元向けて岩タイプのシェルを放つ。

 

「──な!? ぐあああ!」

 

「新手だ! 気を付けろ!」

 

 床から生えた岩石がしたっぱを吹き飛ばし、一部がこちらを振り向いた。

 距離を詰める事なく睨み合う。

 したっぱ達もこれまでの戦いで相手の力量は理解していた。

 リザードン、そしてジャックフロストは殲滅的な能力に長けた厄介な敵だ。

 特にリザードンはこちらの攻撃を意に介さぬ練度の高さを誇り、一気に来られると蹴散らされる可能性も考慮できた。

 

「……退却だ!」

 

「しかし!」

 

「これは命令だ!」

 

「……でも、モンスターをどうやって回収するんですか!?」

 

「あんなのはどうでも良い! 行くぞ!」

 

 ネオプラズマ団は一時的にクリスタル周辺から撤退して行く。怪我人を引き摺り、油断なくホシノ達を睨みながらいなくなった。

 

「──おにいさん!」

 

 レッドが急いで吹き抜けに近寄り、下に声をかける。

 手をふり返されてパァッと顔が明るくなり、その姿を見て固まる。

 ズタボロに服が裂け、血塗れだ。

 周囲には無数のモンスターがいる。

 どのモンスターも一撃で屠られており、容赦の無い殺し合いが行われたことは明らかだった。

 リザードンを呼び寄せ、急いで下に降りた。

 

「来ちまったのか、レッド」

 

 タハハ、とトボけた笑いをする青年。

 腰に抱きつこうとして止められる。

 

「血がついちゃうから、ちょっと待ってな」

 

「むー……うるさい」

 

 それでもひっつくレッド。

 引き剥がそうとしても離れないので、青年も諦める。

 あんまり力を入れると血が吹き出すので余計に汚れてしまうのだ。

 そうこうしてるうちにアイリ達もやってきた。

 

「ししょー、またお怪我を……」

 

「そんな大した怪我じゃ無い」

 

「そーたいてきな話はしてないです!」

 

「いつの間にそんな頭の良い言葉を覚えたんだ!?」

 

 ワーワー言われてる間にも、慈愛の怪盗は機械を弄っている。至って真剣なのでナギ達もそれ自体を咎めることはしなかった。

 ただ、怪我を治療するためにも早く部屋に戻ろうという言葉には青年が頷かない。

 

「作業が終わってからな」

 

 そんな言葉を聞いて、レッドも一つの提案をする。

 リザードンを置いていこう。

 

「ガウ!?」

 

 確かに自分ならこの女一人を守るくらい簡単だし、戦力的に考えても妥当だけど、あのバカみたいに頑丈なわけではない。

 せめてチビにして! とリザードンはヒーホー君を指差す。

 

「オ、オイラは生贄になるつもりはないホ!」

 

「確かにヒーホー君なら防御面では優れてるわね」

 

「ホ!?」

 

 ナギの一撃目。

 

「ヒーホー君……お願い……」

 

「ホホ!?」

 

 ホシノの二撃目。

 

「ヒーホー君、ありがとう」

 

「ヒホホ!?」

 

 レッドの三撃目。

 

「ヒーホーくん!」

 

「ノコ、お前なら!」

 

「頑張れ! 頑張れ!」

 

「」

 

 ノコの無邪気な応援。

 

「じゃあヒーホー君、お願いね」

 

「……カハッ!」

 

 最後にプレイヤーたるアイリがトドメを差した。

 しかし! そこに思わぬ助け舟が! 

 

「待て、俺は戻るとは言ってないぞ。この子の護衛を引き受けたのは俺だ。それをヒーホー君に押し付けるわけにはいかない」

 

「そ、そーだホ!!!!」

 

「二人の意見は聞いてないから」

 

 無かった。

 助け舟なんて無かったし、ヒーホー君とポケモントレーナーには発言する権利なんて無かった。

 何も、無かった。

 

 

 ──────

 

 

「ほら、服脱いで!」

 

 脱ぐ、というより引きちぎる

 攻撃を受けて、布の服はボロ切れ同然になっていた。不思議パワーで際どいところだけは守られていたが。

 上はそうしてゴミ箱に放り込んだものの、下を脱がない青年にホシノが催促する。

 

「下も!」

 

「おいおい、5人も要らないだろ……というか、まずは風呂に入らせろ」

 

「あわわわ……」

 

「あっち行こう」

 

 レッドはアイリを連れてその場を脱出した。

 

「おじさん達を心配させた罰だー! 良いから傷を見せろー! ぬぎぎぎ……つ、強い……!」

 

「観念しなさい! あなたが悪いんだから! ふぐぐぐ……!」

 

「あははは! ピカチュウ、ほら脱いじゃえ! ……何でそんな冷たい目で見るの!?」

 

 巌の如し。

 全く脱げない。

 何なら3人を引きずったまま風呂場にたどり着いた。

 

「お兄さんやめて! 洗うためだとしてもお湯なんか浴びたら血が余計でちゃうよ!」

 

「そうだな」

 

 そしてレバーを全開で捻る。

 冷水が飛び出た。

 四方八方に撒き散らされ、ホシノ、ナギ、ノコの体温を奪っていく。

 

「ひゃああああああ!!」

 

「きゃあああ!!」

 

「みぎゃあああああ!!!!」

 

 悶えて湯船に飛び込んだ3人を傍目に、冷水で全身の血を洗い流していく青年は慈愛の怪盗のことを考えていた。

 

 クリスタル、そして時の門。

 難しいことはわからないけど、時の流れに干渉するというのは科学の限界を超えているはずだ。

 訳のわからない事にまた巻き込まれた。

 過去への干渉──ああ、とても恐ろしい事だ。

 自分に都合が良いように過去を破壊するなんて、そんなのは物語の中だけで良いんだよ。

 

 ネオプラズマ団の行動を許していたら、俺たちが過ごしてきた日々すらも破壊されるだろう。

 それを止める為なら、これくらいの怪我はかすり傷だ。

 

 今回の鍵は誰なのか、ずっと考えていた。

 俺がいなくてもこの事件に巻き込まれていたやつ。

 ブルーは違うよな、あいつはレッドに着いてきたかっただけだと思うし。

 エリック君も少し頼りないけど、三日会わざれば刮目せよと言うから完全には否定できない。

 

 ……そう、白スーツちゃんだ。

 あの子だけはこの船で一悶着を起こすことが確定していた。

 それはつまり、ネオプラズマ団ともぶつかるということだ。さながらルパン3世のように、悪の組織と戦う怪盗。

 やはり彼女が──

 

「──いつまで冷水浴びてるの!?」

 

 ノコの声が響いた。

 何だ、まだ風呂にいたのか。

 

「いたのか、じゃないからね!? ほら、お風呂上がるよ! ……なんでこんなにあたたかいの!? 散々冷水浴びてたよね!?」

 

 心があったけえからだ。

 

「もおおお! 身体拭くよ!」

 

 

 ──────

 

 

「なんでオイラが……いっつもそうだホ、貧乏くじはオイラに押し付ければ良いとみんな思ってるホ……今回のだってあいつが始めたんだから、あいつが最後まで責任持って完遂させるべきだホ……」

 

「ふふ、それだけ君が信頼されているって事だよ」

 

「嬉しく無いホ────!!」

 

 ホー、ホー、と2匹と一人の空間にこだまする慟哭。

 慈愛の怪盗がヨシっと立ち上がる。

 離れてスイッチを押すと、ブブブという細かい振動音の後にバリアが展開された。

 ヒーホー君に対して、バリアへと技を放つように言う。

 

「なんでも良いからさ」

 

「じゃあ遠慮なく……ホ!」

 

 ヒーホー君が選んだのはブフダイン。

 単体への攻撃としては絶大なそれを受け、バリアはびくともしなかった。

 

「どうやら問題無いようだね……さあ、君のレディーの元へ戻ろうか」

 

「ホ」

 

「……なんでモンスターが喋っているのかな?」

 

 当然の疑問を、怪盗はやっと口に出す事ができた。

 

「天才だからだホ」

 

「面白いね、君」

 

 キラリと怪盗の目が光る。

 ヒーホー君はサラッと流した。

 

「オイラは普通だホ、おかしいのはあいつらだホ」

 

「本当にそうかな?」

 

「ストッパー役がオイラしかいないから毎度苦労してるホ」

 

 苦労しているのは本当だった。

 

「一体どんな事があったのか教えてもらえるかい?」

 

「まずは──」

 

 怪盗は、ヒーホー君の愚痴から彼らがどんな道のりを辿ってきたのかを考察しつつも、ソーマでの噂が誇張された物じゃ無くむしろ控えめなものだった事に驚いていた。

 このモンスターが嘘をついている可能性もあるが、そうだったらいっそのこと賞賛してやろう。

 

 部屋に戻ると、ズボンだけ履いた青年が治療を受けていた。真顔というか興味無さげな顔で、開いた扉と開けた怪盗の顔を見る。

 固まる怪盗。

 しばらく見つめ合う両者。

 目だけ動かして成り行きを見守るヒーホー君。

 動いたのは青年だった。

 

「……きゃーーー! のび太さんのエッチー!」

 

「──なっ!?」

 

「あー! 動かないでよ! もう!」

 

 唐突に恥ずかしがり始め、クネクネと身体を動かす気色の悪い成人男性。

 動揺する回答の前で、治療していたノコが青年の脇腹を殴る。

 

「ぐぉあっっ! おまっ……傷を殴るな……」

 

「ノコさん!」

 

「ご、ごめん、つい……」

 

 ナギに叱られ、シュンとしたまま辿々しい手付きで治療を再開する。

 

「やっぱ医務室行こうかな……」

 

「もうちょっとやらせてよ、コツ掴めそうなんだから」

 

「俺のこと実験台だと思ってる?」

 

 

 ──────

 

 

 地面に突き刺さった城。

 何者かがモンスターに指示を出した。

 

「ライフストリーム……言うは易し、行うは難しですが厄介ですね」

 

 失敗の報を持ってきた部下を処理し終える。

 実際には触れていないにも関わらず、汚いものに触れたと言わんばかりに手を軽く叩いた。

 

「ちっ……余計な乱数というのはどうしてこう、間が悪いのか」

 

「──怯えているのか?」

 

「……黙りなさい、ワタクシは機嫌が悪い」

 

 話しかけてくる男に脅しが通じないのは理解していた。事実、なんの事も無い顔をしている。

 相当の修羅場を潜ってきたと、肉体の見える部分に刻まれた無数の傷が理解させた。

 

「無理もない、長年かけて築いた計画をアッサリと覆されたのだからな」

 

「…………ええ、認めましょう……あの男が憎い……これほどまでに何かを憎く思っているのは初めてですよ」

 

「ククク……」

 

「──忌々しい! ああ、忌々しい! 奴があの時いなければ……チャンピオンも、四天王も、ワタクシの前にひれ伏す筈だったのだ!」

 

「だからこそ、時間を掌握するのだろう」

 

「……フハッ! そうですとも!」

 

 想像するだけで楽しくてたまらないと漏れる笑い。

 過去に行き、世界を意のままに操る。

 最早あの粗暴で愚昧な邪魔者など気にする必要も無いが──

 

「アレも存在しなくて良い」

 

 計画を邪魔したクズに着いて行ったのだから処分しよう。

 裏切った者には罰を。

 当然の話だ。

 従わない弱者など必要無い。

 

 モンスターの自立などという薄寒い話を信じ、いる筈もない英雄を求める。

 挙げ句の果てには、律儀に一対一を挑んで負けた。

 一体では無く、1対の古龍が現れたのには驚いたが、所詮は彼奴に追い払われた程度だ。

 計画に組み込む価値など無かったのだろう。

 

「…………」

 

 口を歪めているこの男も過去を支配するまでの繋ぎでしか無い。

 だが、保持している技術は全て吸い取らせてもらう。

 手土産として渡された、ダークボールという未知のテクノロジーの塊。

 モンスターを内部に格納し、洗脳する。

 凄まじいテクノロジーレベルであり、解析も未だ1割に満たないと考えられる。

 複製すらできていない。

 手中に収めたダークボールをコロコロと転がす。

 

「複製が出来る段階になったら、まずはマタナキへ向かいましょう」

 

「──私はあまり良い思い出が無いがな」

 

「ふん、さぞ滑稽だった事でしょうね」

 

 軽く顔を歪めた男を鼻で笑い、マントを翻した。

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