俺はポケモントレーナー   作:goldMg

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47_頂点、そしてメガ

 マタナキタウンが襲撃を受けた。

 そんなとんでもない事件を引き起こしたのはどんなやつかと動画を見て驚いた。

 ネオプラズマ団、まだ全員は捕まってなかったのか。

 ただ、その中にNはいないようだった。

 構成員はいつものように忍者チックな衣装を着ている。

 もうね、流石に絶滅させよう。

 ゴキブリと一緒で、出てきたやつを殺してもあんまり意味ない。

 根を絶つんだ。

 

 あと、娘さんをもらうにも順序ってもんがある。

 久しぶりに土下座をするけど、そもそも親御さんがいないとそれすら出来ない。

 ナギやホシノが一生懸命に安否確認してるけど、なかなか結果は芳しくないようだ。

 今も泣くのを必死に堪えているアイリを抱きしめる。

 泣いたら、もうそういうことだと認めたも同然だから。

 泣く事すら今のアイリには負担になる。

 絶対に許さん。

 

 迎えがきた。

 天国からじゃない。

 ハンサムさんだ。

 

「君の力が必要だ」

 

 その手に持っているのは灰色のモンスターボールと、明らかにダークボールな物体だった。

 

「頼む、これがなんなのかを教えてほしい」

 

 わざわざマサラタウンまでやってきて、それを教えろってよ。

 つまり……これが今回の? 

 

「そうだ。ネオプラズマ団を名乗る集団──その構成員が身につけていたものだ」

 

 これをねえ……

 

「古代人である君ならば、知っているんだろう?」

 

 古代人でも知らない人多いだろ、これ。

 

「これは一体なんなんだ?」

 

 これはダークボール。

 

「ダークボール?」

 

 原理は知らないけど、モンスターを強制的に捕獲して洗脳し、凶悪に改造することができるボールだったはずだ。

 あの動画だとモンスター達は正気を失っていた。

 おおかた、これでやったんだろうな。

 

「なるほど……想定していた以上にまずい、というわけだ」

 

 そうだな、これが大量生産されてるってことだもんな。

 一つ気になるのは、モンスターボールすら無いこの時代に誰がこれを作り出したかってことだ。

 そもそもモンスターボールが俺から見てもオーバーテクノロジーというか、こんなのどうやって作るのみたいな感じなんだよ。

 ドラえもんの秘密道具とかと一緒の括り。

 それを遥かに強化したものを、いきなり作り出せるわけがない。

 

「ならば……」

 

 古代からやってきたやつがいるな。

 

「君と同じように、か?」

 

 ま、まあそんな感じでしょ、たぶん。

 どうにかしてそいつを……あれ、でも今回の奴らって確か──

 

「ネオプラズマ団だね」

 

 そう、つまりネオじゃないプラズマ団がどこかにいたって話だよな。

 そこら辺洗い出した方がいいんじゃないか? 

 もしかして、プラズマ団そのものが過去からやってきたとか……

 

「いや、プラズマ団はあんな機械を使っていた記録は無い。だが、プラズマ団のことは知っていたんだな。彼女達に情報収集は任せているのか?」

 

 ソーダヨー。

 

「そうなると、アッシュ地方のことも知っているわけか……流石だな、ポケモントレーナーくん」

 

 ──知らないなんて言えない空気だ。

 

「……」

 

 だから、そんなチベットスナギツネみたいな目で見ないでくれ、ホシノ……

 

「話題が逸れたな。ともかく、私が今回ここに来た理由だが……」

 

 聞くまでもなかった。

 忙しくてなかなか捕まらないあのハンサムが、直々に俺の元を訪れる。

 その意味が分からないほど鈍感じゃ無い。

 

「マタナキタウンに来てほしい」

 

 言われるまでもなかった。

 明日には行こうとしていたところだ。

 

「聞くまでも無いという顔をしているな……骨の髄まで、ということか」

 

 ハンサムさん、明日まで待ってほしい。

 

「もちろんだ、いきなり来たのは私だからね。それに今すぐ出発と言われても正直困っていた」

 

 ……アイリ、もう少しだ。

 必ずお義母さん達は助ける。

 

「はい……」

 

「仲がいいな」

 

 まあ、はい。

 

「良いことだ。何にせよ、足はすでに我々が用意している。今日は休んで、明日出発だ」

 

 数時間後、マサラタウンの上空に現れたのは青い龍。

 ちょうどレッド達と急いで森に行くところだった。

 ……いや、雰囲気的に古龍だよなあれ。

 あんまり険はなさそうだけど。

 

「アレこそは天の覇者が一、シャンティエン。スカリオのパートナーだ──とは言っても、仮契約に過ぎないがね」

 

 スカリオって誰だよ。

 

「おーい! ハンサムさーん!」

 

 シャンティエンの背中には何人かが乗っていた。

 ……あれ、なんか見覚えが。

 

「そこに降りまスカらー!」

 

「なんでわざわざ私の頭の上に!? うおおお! あぶなああああい!」

 

「──大丈夫っスカ?」

 

「スカリオ君! 私じゃなかったら大丈夫じゃ無かったぞ!」

 

「ははは! 土まみれっスよ!」

 

「何を笑っとるんだ君は!」

 

 あれだ、オールドタウンでチルタリスに乗ってたあいつだ。

 

「そんで……久しぶりっスね、ポケモントレーナーさん!」

 

「ほぼ初対面だと思うけどな」

 

「確かに! でもソーマで散々見てるからそんな気にならないっスね」

 

 底抜けに明るい少年だった。

 口元にスカーフを付けてても貫通してくるくらいには。

 

「……で、コイツがパートナーなのか?」

 

「シャンチーっス! ……あ、皆さんも降りてください!」

 

 スカリオに言われて背中から降りてくるプレイヤーとそのパートナー。

 総勢5名。

 いずれも並々ならぬ実力者なのは理解できた。

 ただ、そのうちの一人から目が離せなかった。

 

「ポケモントレーナー君、いいかな? 連れてきた私から紹介しよう」

 

 並んだ四人。

 いずれも余裕に満ちており、その理由は明白だった。

 圧倒的な強者ゆえの自然体を裏打ちするのは経験と才能。

 その後ろに、苛烈な戦歴が透けて見えた。

 

「左から順にリッカ、フローラ、ダツラ、リディア」

 

「……強いな」

 

「ああ、四天王だからな」

 

「──ポケモントレーナーさん、よろしく!」

 

 リッカが挨拶してきた。

 茶髪の少女だ。

 四天王に至るには、この世界のプレイヤーの強さを考えると──とてつもなく若い。

 もう、それくらいしか特徴がないというか……それ以外は至って普通にしか見えない。

 だからこそ異質だった。

 そして、連れているのは──人間? 

 ホシノと同じか? 

 

「こっちはキングゥ、人間に見えるのは擬態してるからだよ」

 

「よろしく、ポケモントレーナーくん」

 

「よろしく」

 

 差し出しされたキングゥの手を触ると、人間とは思えないような冷たさだった。なるほど確かに、こいつ()は人間じゃないな。

 おそらくメタモン系のポケモンだ。

 進化の過程でこうなったんだな。

 

「──お噂はかねがね、よろしくね」

 

「どうも、ポケモントレーナーです」

 

「ハンサムから話は聞いてるよ、古代人なんだってね。それは私が生まれるより前の時代かしら?」

 

「えー……多分?」

 

「1000年前ぐらいかい?」

 

 おいくつなんだよこのババア。

 そんで、フローラ婆さんのパートナーはバハムート。

 強そう。

 実際、ドラゴンタイプの中で最強らしい。

 お淑やかな見た目に反して、パワーで押し切る系なのか。

 

「──私はリディアよ、あなたが女の敵だって噂は聞いてるわ」

 

「……初対面だよな俺ら」

 

「噂は間違いじゃ無いように見えるけれど」

 

「うっ……」

 

 全身緑のエロい姉ちゃんことリディア。

 ナギ達を見て、一瞬で何かを見抜いたらしい。

 女の勘ってやつだろうか。

 リディアのパートナーはミストドラゴンとかいうやつだった。

 それだけじゃなくて、召喚で色々なモンスターを呼び出せるらしい。

 ──ごめん、召喚って何? 

 俺、遊戯王はあんまり……

 

「──俺の名前はダツラだ! お前の戦績で見れるもんは全部見させてもらったぜ! すんげえセンスしてやがる、いつか戦おうぜ!」

 

「お、おう」

 

 ダツラ……ダツラか。

 まあ、考えるまでもない。

 強いのは間違いないな。

 パートナーはメタグロス。

 

 ……そして、こんなにキャラの濃い奴らに比べると、ポケモン世界ということを加味し、そこまで派手な姿はしていない。

 それでもこの場にいる5人の中で誰が一番気になるかと言われれば、この男だった。

 

「──ポケモントレーナーだな」

 

 道着を着て鉢巻をした姿。

 ゲーム的に言うなら、からておうの装いだ。

 何故か裸足だが、修行者としては普通なのかもしれない。

 ただ、普通じゃないのはその佇まい。

 動作の一つ一つが、俺の警鐘を激しく鳴らす。

 間違いない、こいつは──

 

「ポケモントレーナー君、紹介しよう。君が先ほどから気になって仕方がない彼こそ──この地方のチャンピオン、リュウだ」

 

 チャンピオンの リュウが あらわれた!! 

 

 

 ──────

 

 

「……これはこれは、チャンピオンとお会いできるなんて光栄だ」

 

「そうか」

 

 この地方最強のプレイヤー。

 疑う余地は無かった。

 出会った奴らの中で、ぶっちぎりで上手いことが伝わってくる。

 手を差し出されただけで鳥肌が立つ。

 単純な肉弾戦においても、向こうの世界で片腕が無くなるほど戦いまくってる今の俺ですら、どうなるか分からない。

 その手を握る。

 岩のようだった。

 戦う男の手だった。

 

「むっ──そうか、あの時の…………どうやら成長したようだな」

 

「え?」

 

「覚えてはいないか? あの霧の中でのことを」

 

「何て?」

 

「──ならば、一撃」

 

 気付いたら目の前に拳があった。

 断言するけど、瞬きなんてしてない。

 それでも意識の揺らぎの隙間を縫うように、その拳は俺を捉えていた。

 青い炎を纏わせながら、コマ送りの世界を迫り来る一撃。

 

「────っっつお!!」

 

「きゃああ!」

 

 ギリギリで身体をのけぞらせ、アイリを抱きしめたままバク転で距離を取る。

 急な動きにアイリが悲鳴をあげた。

 

「アイリ、大丈夫か?」

 

「は、い……」

 

「……おい、チャンピオンだか何だか知らねえが──」

 

 蛮行に走ったチャンピオン。

 俺だけならともかく、アイリがいる状況でのそれは許せなかった。

 怒りのままに声をかけようとして──

 

「今のは無いですよ! こどもがいたんですから!」

 

「子供に手出したらダメに決まってんだろバカ! もっと考えろ!」

 

「リュウ、いつも言っている通りあなたはもう少し思慮深くなった方がいい」

 

「大丈夫かいお嬢ちゃん、ほら、飴食べるかい?」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 非難轟々だった。

 四天王的にもハンサム的にもアレはダメだったらしい。当たり前だろ、馬鹿か。

 ネオプラズマ団の前に俺がジム協会ぶっ潰すぞ。

 

「すまない、彼は脳筋なんだ」

 

 代わりにハンサムさんに謝られた。

 チャンピオンに関しては見た感じ全く反省してない。

 イカれてるのは分かった。

 だけど今の軌道、キレ、思い出したぞ。

 

「久しぶり……ってわけか、チャンピオン」

 

「ああ、君ならば数々の事件を解決してきたのも納得できる」

 

「本来なら俺たちが解決しなきゃいけねえんだけどよ……悪いな! 押し付けちまって!」

 

 すまんすまん! みたいな感じでダツラが手刀を切った。

 

「そこら辺は特に気してないんで……ああ、じゃあ金ください、お金」

 

「お前、意外と現金だな!?」

 

「だって養わないといけないし……お金って使ったら減っちゃうから、あるだけ欲しいんすわ」

 

「……分かる、俺も嫁さんにいつも言われてるわ、寝てる暇があったら働いてこいって。こんなにいつも頑張ってるのに……」

 

 おじさんのリアルな悲しみがそこにはあった。

 

「──で?」

 

「え?」

 

「誰なんだ?」

 

「誰?」

 

「おいおい、とぼけんなよ! あんだけ噂されてるんだからよお!」

 

 俺、今くっそだるい絡み方されてるな。

 それにしても、あの噂と言われてもどの噂かが分からないのがめんどくさいところだ。

 俺の噂なんて、ゴキブリを飼育しているとかいうクソしょうもないものから、海底からやってきたカエルの進化モンスターなんじゃ無いかとか、モンスターに抱きついて腰を振ってる性獣であるみたいな名誉毀損モノまでレパートリー広いからな。

 どの噂だろう。

 ……頼む! しょうもないのであってくれ! 

 

「良いじゃねえか教えろよ、誰が本命なんだ?」

 

 しょうもないけどめんどくさいやつがきた。

 修学旅行じゃねえんだよ。

 しかも正直それに付き合うようなテンションでも無いし……急いでるんだよな。

 

「養うってんだろ? どの子だ? ピンクの子か? うちの元従業員か? レッドか? パイオツかいでー姉ちゃんか?」

 

「……全員」

 

「…………?」

 

「だから、全員だよ。……もう良いか? 今はそういう気分じゃ無いんだ」

 

「お、おう」

 

 

 ──────

 

 

「おいハンサム……あいつ、全員本命って言った?」

 

「そうだな」

 

「まじで? 噂じゃ無かったのか?」

 

 ダツラは答え合わせをするようにハンサムと話していた。

 四天王、チャンピオン、ハンサムの中で一番交流が深いのがハンサムだからだ。

 

「ええ……1、2、3……6人いるけど……流石に冗談だよな? 俺がそういうの疎いだけだよな、おじさんだから」

 

「6人で済めばいいがな」

 

「え? あんたの視力だとなんか見えるのか? 透明人間とかそこら辺にいたり──というか6人の時点でヤバすぎだろ」

 

 目を細め、辺りをキョロキョロと見回すダツラに呆れたようにハンサムは溜息をついた。

 マタナキには彼の弟子であるアイリ君の両親も住んでいたはずだ。

 こんな下世話な男はさっさとマタナキに投下すればよかったかもしれない。

 

 リッカは目をキラキラさせていた。

 年頃の少女らしく乙女回路が爆発していた。

 

「すごーい! あんな自然に全員養うとか言える人なんだ!」

 

「リッカ、ああいう男はやめた方がいい」

 

「なんで?」

 

「ろくでなしだ」

 

「えー? 誠実そうな人だったけどなあ……」

 

「ソーマでは悪い噂ばかりだよ、ほら」

 

「……前から思ってたけど、ソーマばっかり見るのやめた方がいいよ? キングゥ、性格悪くなったでしょ」

 

「そ、そんな事ないぞ! リッカ、訂正してもらおうか! 博士の最高傑作である僕が性格悪いなんてありえない!」

 

「人間のこと勉強させようと思ってたけど、メガネ買ってあげたの失敗だったかも……」

 

「リッカ!?」

 

「それにしても……あの子たちのポケモントレーナーさんを見る目、分かった!?」

 

「?」

 

「みんな、好き好き〜って感じだったね!」

 

「…………」

 

 イヤンイヤンと頬を振る自分のプレイヤーを見て、キングゥはウゲェという顔になっていた。

 生み出された当初は氷のようだったものの、人間力マックスのリッカに日々振り回される事で、存外に人間の感情も学べているのがキングゥという存在だった。

 

 リュウはフローラと共にマサラタウンを見て回る。

 

「いい街だ……ここがレッドの故郷か」

 

「ブルーちゃんと姉妹らしいねえ」

 

 かつてレッドが肉薄し、それでも届かなかった四天王フローラ。彼女にとっては、たとえそれが10年前だったとしても昨日のことのように新鮮に思い出せる。

 

 

 ──────

 

 

 リッカとリディアの先代に当たる四天王二人を破り、ダツラすら破り、そしてフローラの前に到達したレッド。

 最速の称号を携えた、ちいさきもの。

 

 喝采の中、扉を堂々と抜けてスタジアムへ歩いてきた彼女。

 赤い帽子を被った小柄な体躯からは、いまだ磨き切られていない才能が溢れて見えた。

 他の3人とのバトルを見て、レッドに師がいただろう事はすぐに分かった。

 旅を始めて2、3年で到達できる練度では無かった。才能そのものとは関係無く、その磨き方に偏りが無かった。

 きっとその師は、彼女の素晴らしい才能を見抜いていたのだと理解した。

 そして同時に、惜しいと思った。

 並び立つパートナーたちの練度は十分。しかし今のままでは……磨き切られていない才能のままではチャンピオンどころか、自分とそのパートナー、最強のドラゴンたるバハムートに勝つ事は出来ないだろう。

 そんな分析だった。

 

 ──上空、バハムートが悠々と空に浮いている。

 最後に残ったリザードンが空へ飛び立ち、いきなりの攻撃指令。

 

『りざーどん! そーらーびーむ! ──かえんほうしゃ!』

 

 直線状のソーラービームが当たる直前に掻き消え、後ろから現れた爆炎がバハムートを追尾する。

 

 これまでの4匹に対して行われたのは殲滅だった。

 一対一で行われ、スタンダードバトルと呼ばれることが多いこのバトル形式。

 レベルの差、指示能力の差、単純なタイプ相性、こういった要因は戦況を傾けがちだ。

 このバトルにおいては、あえて言うならタイプ相性がそれを引き起こしていた。

 

 バハムートは常に空を飛んでいる。

 地面にいるモンスターに抗う手段は少ない。

 1匹目のエーフィはサイコキネシスで一時的に金縛り状態を生み出したがその先が無く、わざを切らしたタイミングで削り切られた。

 2匹目のラプラスはれいとうビームやハイドロポンプで多少は粘った。しかし、フィールドが悪すぎたというのもあるが真正面からの撃ち合いで押し負け、そのまま瀕死へ。

 3匹目のカメックスはラプラスとは違い、ハイドロカノンでフレアを押し切った。しかしそれも大したダメージにはならず、連射されるフレアに圧殺された。

 そして4匹目のフシギバナ。

 蔦を用いて的確に拘束し、バハムートの飛行能力を阻害した。

 レッドお得意の後出しジャンケンでソーラービームを3度命中、さらに眠りごなを当てることにも成功し、ハードプラントをぶち込んだ。

 流石に堪えたバハムート、怒りのエネルギースワームで敢えなく気絶に追い込まれた。

 

 リザードンが他の4匹と違うところ。

 それは飛行能力の有無。

 そして、最も長くレッドと接してきたということだ。

 あのいけすかないピカチュウを除けば、それは間違いないとリザードンは考えていた。

 勝手にどっか行きやがって……今いてくれたなら、と思いながら、眼前に佇む竜を見る。

 あり得ないことに、自分が放ったかえんほうしゃを食べて吸収した。

 そして、お返しと言わんばかりに口から火が漏れた。

 

『分からせてやりなさい。迷ったままでは勝てないということを』

 

 単純なスペック、それだけでバハムートはフローラを四天王に押し上げることを可能にする。

 漏れた火が如何なる力によってか形作られ、ドラゴンの形となる。

 

『──ゴアアアアアアアアアアア!!』

 

 咆哮とともに放たれる焔。

 自身に向かってきたそれを前にして、リザードンの心は凪いでいた。

 

『……りざーどん』

 

 高く、小さな声。

 心から信頼できるプレイヤーのそれを待つ。

 

『りゅうのいぶき』

 

『グルル…………ガアアアアアア!!!』

 

 溜め込んだ紫炎を解き放ち、迫った炎を散らした。

 不甲斐ない後輩達と同じだと思うな。

 あの程度の攻撃、ピカチュウに散々喰らわされた。

 

『──ほう、やはり少し違いますね』

 

 驚いた様子もなく、想定通りという反応を見せる老婆。

 この程度で驚かれても困る。

 

『ならば肉弾戦も良いでしょう、付き合ってやりなさいバハムート』

 

『くるよ! りざーどん!』

 

『──────!!』

 

 観客達の鼓膜を破らんばかりの爆声が撒き散らされた。

 両者、相手を威嚇するための咆哮が合わさった結果だった。

 

 天空で突撃を繰り返すリザードン。

 サイズ差は如何ともし難い。

 ソレを埋めるための積極攻勢に出ていた。

 

『どらごんてーる、かわらわり、かみなりぱんち、げきりん、ふれあどらいぶ、すてみたっくる!』

 

 高速詠唱のように唱え続けられるわざを即座に繰り出し、連撃として昇華させている。

 バハムートも絶え間ない衝撃にまともな攻撃を繰り出せない。

 そして、離れた場所でも指示を可能にしているのは、ただひたすらに信頼の強さ。

 お互いがお互いを信じる事でそれを実現させていた。

 

『…………』

 

 フローラは本当に惜しいと感じていた。

 仮に全てのパートナーとこれだけの絆があったならば、あるいは絆など関係なく才能が磨き切られていたならば、自分にも勝てただろうと。

 彼女の師匠である誰かを、心中で罵る。

 なぜこんな中途半端な状態で世に放ったのか。

 こうなることは分かっていただろうに。

 導く能力はあっても、導く気がないのであれば最初から師匠などやるべきでは無いのだ。

 一つ、ため息をついた。

 

『バハムート』

 

『!』

 

 リザードンは、あまりにも硬すぎるこの敵がやる気になったことに真っ先に気付いた。

 何度わざを浴びせたか、何度急所に当てたか。

 

『りざーどん、よけて!!』

 

 そんな声が聞こえたが聞こえなかったか、腹に衝撃が走る。

 

『カッ…………!』

 

 吹き飛ばされ、スタジアムの壁に衝突した。

 

『おきて! おきてりざーどん!』

 

『ぐる……』

 

 そんなに焦るな、くらったのは一撃、まだまだ動ける。

 起き上がり、見上げ、飛び立とうとして……

 強烈な光に、自分の身体から影が地面に落ちていた。

 敵の背後に光輪が発生している。

 周囲のエネルギーがどんどんと集まっていく。

 相棒の顔を見る。

 

『……な、なに、を……私は…………どうすれば……ピカチュウ……』

 

 考えることができなくなっていた。

 ならば、自分が何かをしなければならない。

 そう、強く思った時、リザードンは疼きを身のうちに感じた。

 しかし、それが何かになることは無い。

 ピカチュウがいれば何か分かったのだろうか。

 それでも、今、自分がやるべきことは明確だった。

 最強の技をぶつける。

 それが今の自分たちの、最高到達点だ。

 リザードンは、ソーラービームを放つためにチャージを始めた。

 いつも相棒がやっていることの、拙い真似だった。

 光輪がゆらゆらと揺れ動き、不安定さと、エネルギーの高まりを表している。

 今まさに、威力だけなら四天王最高の一撃が放たれようとしていた。

 相棒はいまだに自失している。

 ……ならば。

 

『これで終わりです』

 

 光輪が消滅し、バハムートの口元に小さな光が現れた。

 ブゥゥゥンという異質な収束音が高まる。

 リザードンも、通常のチャージを超え、ひたすらに我慢した。

 その時を待ち続ける。

 そして、老婆の声が聞こえた。

 

『────メガフレア』

 

 撃ち出されたそれはプラズマを発生させながらリザードンへ。

 それが距離を詰めるのは一瞬だった。

 生き物が挑める一撃では無い。

 しかし、だからこそやる価値がある。

 リザードンは、チャージしていたエネルギーを別の攻撃に回した。

 そう、すなわち──

 

『ブラストバーン……ですが、通常の規格を超えていますか』

 

『グルゥゥゥゥゥウウウウウ!!』

 

 どれくらい拮抗していたか分からない。

 リザードンは一瞬が数千倍にも拡張されたような感覚を味わっていた。

 

『1匹でも折れない心、良いパートナーなのは間違いないようですね──ですが!』

 

 さらに出力の上がったメガフレア。

 それを前にして、自身の身体に回る全ての炎をブラストバーンに費やす。

 しかし、そんなことをすれば体力、気力がすぐに尽きる。

 拮抗していた位置がズレていく。

 リザードンの片膝が折れ、ズズズと後ろに滑った。

 それでもと耐えようとするも、尻尾からは最早煤が出るだけだった。

 

『……また、強くなれたならば出会いましょう』

 

『ガッ──』

 

 極大の光に飲み込まれ、視界がめちゃくちゃになる。

 身体を貫通する光と痛みの中で、頭を抱えてしゃがんでいる相棒が最後に見えた。

 

 

 ──────

 

 

 あの時に比べて、今のレッドの何と穏やかなことか。何と幸せそうなことか。

 フローラは一人の人間として、少女の変化を心から嬉しく思っていた。

 最近、レッドの活躍が伝わってくるのを、フローラは本当に楽しみに待っていた。

 そんな少女がポケモントレーナーの腕を引いて、楽しそうにしているのを実際に目にした老婆の目には光るものが。

 

「おっと」

 

「大丈夫か、フローラ」

 

「歳をとると涙もろくなるもんさ」

 

「レッドが気になるか」

 

「……あんたは本当にデリカシーが無いねえ」

 

「?」

 

 レッドと仲間達は、森の中に入って行ってしまった。

 どうしても今日中にやりたい事があるらしい。

 こんな辺鄙な村の森の中に一体何があるのか分からないが、心配は必要無いだろう。

 

「それにしても、今日はおとなしいな」

 

「……アンタみたいなのと一緒にしないでほしいね」

 

 強さ、それのみで言えば目の前の脳筋男には一定以上の敬意を持っているが、それ以外の部分が酷い。

 まだ若いというのもあるだろう。

 しかし、バハムートに戦いを挑むのはやめてほしい。

 毎度そんなラブコールを食らったところで、自分もバハムートも嬉しくは無い。

 そんなに戦いたいなら自分のパートナーと戦えばいいのだ。

 

「同じ相手と戦い続けるのもな」

 

「……はぁ」

 

 本当に呆れた男だ。

 

 一方、リッカとリディアは孤児院を訪れていた。

 扉を開けると、老婆がカチャカチャと食器を洗っているところだ。

 

「お、お邪魔してま〜す……」

 

「ん? あらあら、まあまあ、可愛いお嬢さん達いらっしゃい」

 

「は、はじめまして! 私、リッカって言います!」

 

「リッカちゃんだね、そちらのあなたは?」

 

「リディアです、突然すみません」

 

「こんな辺鄙なところによくきてくれたね」

 

 優しいおばあさんだった。

 一旦手を止め、お茶でもどうぞと促される。

 

「いただきまーす! ……うわ〜美味しい!」

 

「そうかいそうかい」

 

「──あっ!? あれっ、シテンノー!?」

 

 廊下をパタパタと走ってきた子供が一度通り過ぎ、3度見して正体に気付いた。

 

「あはは、一応そうだよ」

 

「うわ、すっげー! 本当にリッカとリディアがうちにいる!」

 

「君はなんていうの?」

 

「俺? 俺はブラック!」

 

「ブラックくんもプレイヤーになるの?」

 

「あったりまえじゃん! 姉ちゃんみてえなすげえプレイヤーになるんだ! そんで、チャンピオンにもなる!」

 

「おお〜! すごいじゃん!」

 

 青年がいれば、うんうんなれるなれると頷いていた、本気で。

 

「リュウさんは強いよ〜? 毎日頑張んなきゃね!」

 

「うん! ところでなんでシテンノーがうちにいるの?」

 

「え? えーっと……そう! ポケモントレーナーさんとレッドちゃんに用があってね!」

 

「シテンノーと用事があるのか! お姉ちゃんすげ〜! 何の用事ぃ!?」

 

「よ、ようじは……その……」

 

「ブラック、お姉ちゃんを困らせたらダメよ。今はあっちでホワイトと遊んでなさい」

 

「はーい! ……ホワイトー!」

 

 ダダダダと廊下をかけていくブラック。

 リッカはほっと胸を撫で下ろした。

 リディアがお茶をひとくち。

 

「リッカ、あなた本当に素直ね」

 

「あははは……」

 

「本当に、キングゥとバランスが取れてるわよね。良い意味で」

 

「そう? ありがとう!」

 

「──聞いても良いかい?」

 

 そこに院長が口を挟む。

 結局のところ、ブラックと同じような疑問を抱いてはいたのだ。

 

「四天王、それにチャンピオンまでがどうしてこんな辺境にやって来たんだい?」

 

 ポケモントレーナーの独白に続き、ありえない訪問者がこのマサラタウンに。

 尋常ならざることだった。

 院長は緊張を湛えて尋ねる。

 それに対して、四天王リディアは誠意から応えた。

 

「世界を救うために、我々はやってきました」

 

「…………」

 

 世界。

 この地方の守護たる彼女は、その地方を守るのではなく世界をと言った。

 それはどういう事だろう。

 専門外かつあまりにも想像外のことを打ち明けられ、一瞬思考が止まる。

 そこにリディアは説明を始める。

 

「今まさに、マタナキタウンに攻め込んでいる奴らがいます。そいつらを野放しにしておけば、多くの人命が失われるでしょう」

 

「……なら、なんでここに来たんだい?」

 

「それは、レッドさん達の力が必要だからです」

 

 もっと言えば、ポケモントレーナーの力が必要だった。

 四天王クラスになれば、ポケモントレーナーが古代人である事はほぼ確定の情報として周知されている。

 モンスターボール、ポケモン、シンオウ神話。

 ヒカワの遺したものとの合致。

 今回の事態に関しての専門家とも言うべき人間だった。

 

 素性の知れないモノを招くことのリスクを恐れる声もある中で、参集を強く推したのはハンサムとオーキド博士。

 それにハンサムのボスが賛成したため、こうなった。

 

「……ブルーとレッドは子供だよ」

 

「もちろんそれは承知の上です。そして、だからこそ私たちも集まりました」

 

「四天王……昔は私も憧れていたけれど、こうして子供を預ける立場になると不安ね」

 

 失礼にあたるかも知れないが、それは院長の紛れも無い本心だった。

 レッドは四天王を3人倒している。

 その相手達に護衛してもらうなんて、不安が過ぎた。

 もちろん侮っているわけでは無い。

 ただ、不安なのだ。

 それは子を想う故の防衛本能。

 リッカ達にはそれを振り解くだけの策があるのか。

 

「チャンピオンがいます」

 

「……」

 

「最強の男、リュウがいれば彼女達には──」

 

「それならチャンピオンに任せれば良いじゃ無いか」

 

「そ、それは……」

 

「レッドとブルーをわざわざ連れていく必要性がどこにあるんだい」

 

「…………」

 

 押し黙ったのはリディアの方だった。

 子を想う親、その強さたるやモンスターバトルでの経験など全くアテにならない。

 二人はスゴスゴと孤児院を出ていった。

 

「ふん……」

 

 旅ならともかく、どうなるか分からないような惨劇の幕内に子供を上げる気は無かった。

 

 

 ──────

 

 

「ちょ、お兄さん待ってって!」

 

 相棒の声を無視して、ずんずんと進み続ける。

 頭痛がしていた。

 ずっと、頭痛がしていた。

 この村に入った時から本当は、何かに呼びかけられていたんだ。

 直感か、記憶か、魂か、何かも分からない。

 呼びつけるその声を無視していた。

 

「ピカチュウ、どうしちゃったの……」

 

 まるで、催眠術にでもかけられているようだった。虚な意識の中で、曲がりくねった視界の中で、あちこちから聞こえてくる人の声。

 それでも、足取りだけはブレること無く俺の身体を運んで行く。

 頭痛がしていた。

 

 いつのまにか、元に戻っていた。

 先ほどまでの揺れ動く視界では無く、真っ直ぐと周りを見ることができる。

 そして、奇妙だった。

 ドリームランドの時のような低い位置から見ているような──

 

『ピカチュウ、こっち!』

 

 聞き馴染んだ声だった。

 愛する少女。

 聞き間違えようも無い。

 肉体に活力がみなぎる。

 声のする方へ。

 

『こっちー!』

 

 嬉しそうに笑う少女。

 しかし、妙だ。

 俺も小さいが、彼女も小さい。

 15歳になっている彼女はあそこまで小さく無かったはずだ。それに声も高い。

 

『ピカチュウ! あはは!』

 

 俺の身体を見る。

 黄色いフサフサに覆われていた。

 そんなバカな、そう言おうとした声は……

 

『ピカピカピ』

 

 そう変換された。

 

『なにしてるのー!』

 

 ピョンピョンと跳ねるレッドは、今のあの子とは比べ物にならないくらい明るかった。

 

 支離滅裂な俺の意識。

 夢を見ればそこにはホリィがいて、もう一度夢を見ればホシノ達がいる。

 スパイクタウンに入ろうとすればドリームランドへ飛ばされ、1000年前の俺がやり残したことを終わらせた。

 時間という確固たる保護のもとで生きていくはずの生物。

 俺だけが、その庇護の下にいないようだ。

 

 ただ、足は意識とは関係無く動いていく。

 木々の間を楽しそうに走るレッドの背中を追いかけ続ける。

 その背中から伝わってくるのは、心底から楽しいという感情。

 そして、自分の肉体から伝わってくるのは諦念。

 どうにもならないという思いだった。

 

『ここだよ! ここ! ピカチュウ! ──』

 

「──ピカチュウ! ねえしっかりして!」

 

 ノコの声が聞こえ、急速に揺れ動いて元の姿に戻った俺の姿。

 ……俺は今、何をしている? 

 ナギが左手を持っていた。

 瞳が揺れていて、今にも病院にぶち込まれそうな雰囲気を感じる。

 

「大丈夫なの?」

 

「…………」

 

「その鍵……」

 

 俺はすでに小さな鍵を持っていた。

 そして、足元には木箱が。

 The 宝箱って感じのやつだ。

 それを今まさに開けようとしていた。

 どうやら、コイツらの制止とか全て無視して掘り起こしたらしい。手が汚いこと汚いこと。

 

「お兄さん……今、姿が……?」

 

 レッドが妙なことを言っている。

 姿がどうとか。

 

「うん、ピカチュウに見えた」

 

「そうか……そうか、そう見えたのか」

 

「リザ……」

 

 頷くリザードンにも同じように見えたらしい。

 ……いや、今はそんなことどうでもいい。

 

「開けよう、きっと何かがある」

 

「うん」

 

 レッドの手が右手に重なる。

 鍵を錠に突き刺し、捻ると何の抵抗もなく錠は外れた。

 

「どきどき……!」

 

「ワニ!」

 

 ノコが、ワクワクとした面持ちで背中から覗き込んでくる。大きなお胸がハッピーハッピーハッピーだった。

 ホシノ達に蹴られながら、箱の蓋を開けると、くしゃくしゃの紙に包まれた何かがあった。

 ソレを開く。

 稲妻のような衝撃が胸中を走った。

 

「……なにこれ」

 

 ホシノが訝しげにそれを取り出す。

 レッドは見覚えがあったらしい。

 

「これ、最後に入れてたやつだ」

 

「綺麗だけど……ガラス細工かしら」

 

 ナギが指をそれに走らせる。

 ずっと土の下に隠されていたからか、埃もかぶっていなかった。

 

「ねえピカチュウ、何か思い出せない?」

 

「俺は一体……」

 

「ピカチュウ?」

 

 全員の視線が集中しているのを感じた。

 ただ、この世界で初めて見るソレが何なのか、俺には分かっていた。

 この地方で、名前すら全く聞かなかったモノ。

 

「──間違いない、これはメガストーンとキーストーンだ」

 

 1組のメガストーン。

 俺は……ピカチュウは、これをどこで見つけたんだ!? 

 

 

 ──────

 

 

 スカリオが仮のパートナーの毛繕いというか鱗繕いというかお手入れをしていると、森に行っていたポケモントレーナー達が帰ってきた。

 気持ちよさそうに身を委ねていたシャンティエンが片眉を上げて、ポケモントレーナーを見る。

 いや、彼自身というよりはその手元を見つめていた。

 

「シャンチー、何を見てるっスカ? ……なんか持ってるっスね」

 

「カロロ」

 

「ああ、ごめんごめん」

 

 お前はこっちに集中しろと喉を鳴らすシャンティエン。

 仮とは言え、粗雑に扱うことは許されないのだ。

 

「はっはっは、やはり気に入られているな」

 

「可愛いっス」

 

「可愛い…………うん、可愛い、かな」

 

 ハンサムは困惑した。

 古龍に対して可愛いとかいう感想を抱いた事がない。

 ぶっ殺すか、鎮めるか、そのどちらかが常に選択肢。

 ただ、自分にはできなくともスカリオにはできることがあると納得していた。

 

「ソレで──さっきは何に目移りしていたんだ? ホシノ君達の誰かか?」

 

「? ……いや、ポケモントレーナーさんが何か持ってるんで」

 

「そ、そうか……」

 

「はい」

 

 純粋な眼差しに負けたハンサムはポケモントレーナーの元へ向かった。

 

「なにか見つけたのか?」

 

「……いや、特には──」

 

「──メガストーンっての見つけたよ!」

 

「ちょっ、バカ!」

 

「ふぇ?」

 

「お、お前は口が軽すぎる……後でお仕置きだからな」

 

「なんでー!?」

 

「なんでもクソもあるか!」

 

 ごめんなさい〜と青年にしがみつくノコを尻目にハンサムは考察した。

 聞いたことのないアイテム。

 メガストーン。

 そして、ポケモントレーナーがその名前を隠したがっている事実。

 

「また古代のアイテムか?」

 

「……ノコ……」

 

「……ごめんなさい」

 

 お仕置きが確定したところで、ポケモントレーナーが取り出したのは石、いやさ透明な結晶だった。

 

「これは……なんだ?」

 

 ハンサムは即座にデータベースから目の前の石の形状を照合していく。

 ヒットしたのは3件。

 オーキド博士が一つ、国際警察が一つ、ジム協会が一つ。

 名称、効果、由来、全てが不明だった。

 国際警察とジム協会では保管庫の奥底に仕舞われている。オーキド博士は現在研究中だが、資料が無いため苦戦しているようだ。

 今回の件とは関係無いだろうけれども、彼はこれが何かを知っているらしい。

 

「これはぁ……メガストーンとキーストーンと言ってぇ……ポケモンのぉ……可能性のぉ……極限をぉ……引き出す事ができる道具でぇ……」

 

 テンションが低いポケモントレーナーは、やたらダウナーな喋り方でメガストーンとやらの解説をしていく。

 

 

 ──────

 

 

 ……とんでもない石じゃ無いか! 

 モンスターの形態を変化させ、その能力を、本来の種族を超えて強化させる。

 そしてその能力は古龍にすら匹敵するという。

 アローハ地方のZリングとは原理からして違うようだ。

 

「古龍というか伝説のポケモン? ……まあどっちでも良いけど」

 

 手の上でぽーんぽーんと2つのメガストーンをお手玉のように放る。

 

「ちょっ! そ、そんな粗雑に扱わないで!?」

 

 ナギ君が慌ててソレを止める。

 ハンサムもソレに加勢した。

 

「そうだぞ!? これからの旅やバトルの常識を変えうるんだぞ!?」

 

「……俺は正直、壊れても良いと思う。こんなモノはこの時代、この世界に要らない気がするんだ」

 

「い、要らないならせめて国際警察に寄付を!」

 

「ジムでも良いよ!」

 

 リッカがひょこっと現れた。

 話を聞いていたのかどうか。

 

「聞いていたのは僕なんだけどね」

 

 キングゥが聞いていた内容をリッカに伝えていたようだ。

 ポケモントレーナーはソレを否定する。

 

「いいや、これはたくさんあるからこそ意味があるんだ……希少なままでは意味が無い、そういうものだ」

 

「なぜだ?」

 

 それはハンサムをはじめとして、彼らには理解し難い理屈だった。

 希少価値。

 それは普遍化された概念だ。

 希少であることは価値を高める要素であり、低めるようなことは無いはずだ。

 このメガストーンには世界を変えうる力がある。

 バトルを更なる領域へ押し上げ、プレイヤーの可能性を押し広げてくれる。

 誰もがそう思っていた。

 ポケモントレーナーはナギを見た。

 

「この地方で俺はメガシンカを見ていない。だからだよ」

 

「……もっとわかりやすく言ってちょうだい」

 

「もしかしたら他の地方にはメガストーンがたくさんあるのかもしれない。みんなメガシンカを使ってバトルをしているのかもしれない……ハンサムさん、どうだ?」

 

「……いいや、それは無い。そしてそのメガストーンとキーストーンとやらに類似したモノは、それを除くと3個しか見つかっていない」

 

「だよな……たった5個でバトルが成立するわけねえだろ?」

 

「ええ?」

 

「みんなが平等に使って、それで初めて環境ってのは成立するんだ。3人だけメガシンカできます、なんてレギュレーションぶっ壊れすぎだ」

 

「……えーと、つまりお兄さんは……不平等だからダメって言ってるの?」

 

「そうだな」

 

 大きく頷き、石をみんなにはっきりと見せる。

 

「良いか、こんなもん持ってたって生活の役になんか立たない。ポケモンがパワーアップするだけだ。おまけに見つかってるのは5個。こんなものあったところで百害あって一理なしだ」

 

「研究するくらいは良いじゃないか」

 

「人間を使う奴が出てくるから嫌だ」

 

「……二つの機関がすでに1個ずつ持っているんだから、その抵抗は無駄な気がするんだが」

 

「じゃあ、俺のメガストーンはいらないな」

 

 少なくとも、ハンサムたちに渡すという選択肢は無いようだった。

 手の上でコロコロと転がし、ぶっ壊そうかな……などと不穏なことを呟く。

 

「──じゃあ、私にちょうだい!」

 

「ん?」

 

「要らないなら、私にちょうだい」

 

「ブルー……いや、でもなあ……」

 

「お願い」

 

 レッドの妹、ブルーは手を差し出して、完全におねだりの姿勢。

 ポケモントレーナーは色々なことを考えた。

 

 何故、ピカチュウはこれを持っていたのか。

 何故、これをレッドに渡さずに箱の中に入れたのか。

 再び持ち出した時にどうするつもりだったのか。

 本当にこれを持ち出して良かったのか。

 

 ブルーの青い瞳を見る。

 最強のポケモン、ミュウツーに勝つことは出来ないと説いた。

 そして、勝てない相手をどうやって仲間にするのか問うたのは己だ。

 彼女は、その答えを一つ見出したのかもしれない。

 

 なあ、ピカチュウ。

 お前は信じたのか。

 レッドならこんなもの要らないって。

 彼女ならこんな余計な物無くてもチャンピオンになれるって。

 …………いや、これはただの妄想だ。

 もしそれが知りたいなら、セレビィに頼んで、ヒーホー君を連れて過去に行く必要がある。

 

「なんでオイラの事を見るんだ?」

 

 …………信じてみるか。

 

「ほれ」

 

「おっと……おっとと……うわわわ! ──あっ」

 

「あぶなーい!」

 

 放り投げたら、手元でわちゃわちゃとした後に落としやがった。ノコが受け止めなかったら危うく砕け散るところだった。ブルーってあんまり運動神経が良くないんだよな……と、青年は一抹の不安を覚える。

 

「…………え!?」

 

 なんで驚いてんだ。

 

「ほ、本当にくれるの!?」

 

「要らないなら跡形もなく消滅させる」

 

「…………わああ! あははは! やったあ!」

 

 両手で上に掲げると走り回り始めた。

 ボールをもらって喜んでるイッヌみたいだね。

 

「お兄さん、お兄さん」

 

「ん? どうしたホシノ」

 

「本当にいいの?」

 

「……ああ、きっとピカチュウは誰か託せる人を探していたんだ。それで……助けて欲しかったんだ」

 

「助ける? ……でも、ピカチュウってお兄さんだよね? どういうこと?」

 

「へっ、良いんだよなんでも」

 

「……ブルーちゃんなら、信じられるんだね?」

 

「ああ」

 

 そこに、ブルーが走り込んできた。

 ちょっと走っただけで既に息が上がっている。

 

「ハァ、ハァ……ねえねえトレーナーさん! これ、どうやって使うの!?」

 

「ええ? そんなの……おめぇもがんばんだよ!」

 

「お前『も』ってなに!?」

 

 しかし、頑張れと言われたのでとりゃー! っと念じてみるも何も起こらない。

 ゆさゆさと青年を揺らす。

 

「ねーえー! 分かんないからやってよー!」

 

「……ったく、しょうがないねえ!?」

 

「うん! はい、これ!」

 

 再びポケモントレーナーの手に戻ったメガストーン。

 ダルそうにすかしていた状態からカッと目を見開いた。

 

「い、いきなりやるのか……ちなみに、そのメガシンカとやらはやったことがあるんだよな?」

 

「無いよ」

 

「!?」

 

「でもまあ、俺は出来る。この石に触れると感覚的に分かるからな」

 

 ハンサムは驚嘆を隠せなかった。

 いきなり研究が進もうとしている。

 これを見ないわけにはいかなかった。

 

「ちょっと、ハンサムさん達がいるのに……」

 

「良いんだよ、ブルーがそのうちやるんだから」

 

「……なら信じるわよ?」

 

「おう! ……じゃあレッド、リザードン借りるぞ」

 

「分かった」

 

「ガゥ!?」

 

 いつのまにか協力させられる事になったリザードンは、ブー垂れながらポケモントレーナーの隣に立つ。

 

 

 ──────

 

 

「んー、どこにしようかな」

 

「リザ……」

 

 まだぁ? とでも言いたげなリザードンの体をジロジロと見て、良い位置を探す。

 

「うーん……良い毛並みだぁ」

 

「…………」

 

 少し恥ずかしくなってきたリザードンの尻尾がパタパタと動いている。

 先ほどはいなかった四天王達も集まった。

 少し離れたところで青年を眺める面々は、何をしているのかと聞きたくて仕方が無い。

 しかし、至って真面目な青年の様子に話しかけるのが憚られた。

 これもきっと必要な事なのだろうと信じて待つ。

 

「やっぱり胸元が良いんだ……少しかっこつかねえけど、これで良いや」

 

 器用な事に、その場で紐を使ってメガストーンを編み入れたネックレスを作り、首に掛ける。

 

「……?」

 

 リザードンは、石から何も感じない事に違和感を感じていた。

 そんなすごいなら何か感じるものと思っていたのだ。

 青年が気にするなと肩を叩く。

 

「本当ならこれは、強い絆を結んだパートナーとプレイヤーでしかできないんだ」

 

「……」

 

「そして、だからこそ俺のこれはチートってわけでね……リザードン! 構えろ!」

 

「!」

 

 リザードンの隣に並び、青年が右手を突き出した。

 それを受けてリザードンも身構える。

 青年がメガストーンに意識を集中させ始めると、大気が蠢いた。

 

「──な、なんだ!?」

 

「おいおい……俺もこんなの見た事ねえぞ……」

 

 リザードンと青年、2人に向けて風が吹いていた。

 木の葉が舞い上がり、訪れるだろうソレを予感させる。

 

「うおおおおおお!!」

 

「────!?」

 

 リザードンは、まるで青年と意識が一体化したかのような感覚に困惑した。

 全ての物体が克明に見え、音が鮮明に耳から脳へ。

 一つ一つの動きがゆっくりと認識され、ソレに対する最適解が弾き出される。

 どれだけの情報量を普段から処理しているのか、あのピカチュウがコイツだというのが益々納得させられた。

 そして外部から見ても、変化は明らかだった。

 

「リザードンの炎が!?」

 

 四肢は羽根のように軽くなり、更に、尻尾から吹き出す炎が青を帯び始める。

 

「いくぜ! メガシンカ!」

 

「──────!!」

 

 青年が吠えるとメガストーンが光り輝き、2人が見えなくなった。

 

「え……ええ……」

 

 渦巻く炎が空にたちのぼり、1人と1匹の姿は覆い隠されている。

 炎により生じた強い光、太陽よりも強いソレが周囲を照らし出し、レッド達の背後に影が現れた。

 ブルーはびっくりして腰を抜かしている。

 そりゃそうだ。

 だってアレに巻き込まれたら死ぬもの。

 

「グルゥゥ……」

 

「バハムートも分かりますか? やはりあの男……そうらしいですね」

 

 炎の中から漏れ出るエネルギー。

 バハムートは直感的に警戒を抱いていた。

 先ほどまでのリザードンとはまるで違う存在になったと感じ取ったのだ。

 フローラも、半々程度だった思いが確信に変わるのを感じた。

 そして、強大な気配と咆哮があたりに撒き散らされる。

 

「────ゴアアアアアアアアアアア!!」

 

 炎の渦が蹴散らされ、真の力を解き放ったリザードンの姿がお目見えとなった。

 

「…………っ!」

 

 レッドは、自身の相棒が変貌したことを認めた。

 アレがリザードンの極限。

 ソレを引き出したのが自分で無い事に悔しさを覚えながらも、ソレを為したのが彼である事に誇らしく思う。

 

「アレが……メガシンカ……」

 

「……く、黒いリザードンだと!?」

 

 リザードンの身体は黒く変色していた。

 そして尻尾だけでなく、口からも青い炎が吹き出している。まるで、シンカして尚有り余ったエネルギーが漏れでているようだった。

 青年はリザードンの姿を見て一言。

 

「Xか……まあ、かっこいいから良いよな!」

 

「──!?」

 

 自らの身体を見て、触って、変化に驚くリザードン。

 まるで回復し続けているかのように力が溢れてきた。

 青年と目が合う。

 嬉しそうに笑っていた。

 一つ頷いて、森を指差す。

 

「リザードン! かえんほうしゃ!」

 

「グルァア!!」

 

 上がったテンションそのままに一直線に青いブレスを放つ。

 ナギ、ホシノ、アイリ、レッドはマサゴタウンの時のことを思い出した。

 青い炎。

 まさかあの時からリザードンは……? 

 そんな事を思ったが、次に現れた光景に絶句した。

 あの時は雪の向こうに、槍のような一撃が消えていった。

 今回は光線のように収束されたかえんほうしゃが地平線まで伸びていく。その余波は射線上の木々を焼き尽くし、さらに衝撃で消し飛ばした。

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