俺はポケモントレーナー   作:goldMg

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5_弟子を取り、街を荒らす

「あらあら、すっかりお兄ちゃん……いや、お父さんね」

 

「はは……」

 

 レッドをおんぶしてホシノを片腕で横抱き、ソレに加えて買ったお土産も両手に持っているのですれ違う人に奇異の目で見られてしまった。

 女将さんに扉を開けてもらって2人の部屋に入り、ゆっくりと2人をベッドの上に寝かせる。

 リザードン、ただいま。

 

「がう」

 

 リザードンは尻尾で返事を返した。軽くモフった後、2人の荷物を机の上に置いておく。

 ほら、2人とも起きな、宿だぞ。

 

「んん……」

 

「すぅ……」

 

 お風呂入らないのか? 今日は結構暑かったから入ったほうがいいと思うぞ。

 ……女将さんがお風呂はいつでも入れるって言ってたから起きたら入りな? 

 つっても聞こえてねえか……書き置きだけして俺は風呂入ってくるか。リザードン、頼んだぞ。

 

「がう」

 

 ゆらゆらと揺れる尻尾に任せて風呂に向かう。この宿は露天風呂が自慢であり、体を洗ったのちにそちらに入る。

 空を見上げると満点の星空だ。

 ビルが無いからだろう、こんな大都会でも美しいままだ。

 ふーっと、一息を吐く。

 なんというか……水族館に行って、生物的なところでの違いの大きさに改めて気付かされた。

 もちろん、フルオカでの試練や旅の途中でもそういったものは感じていたけど、あっちの世界にはナバルデウスみたいな極端なやつはいなかった。

 進化の段階で変わったとかそういうレベルじゃなく、根本から違うんだろうな。犬もいないし。

 もしかしたらレッドみたいな普通の人間も俺とは違うかもしれねえ、DNAとか。そうなら俺ってこの世界で子作りできないって事になるな、悲しすぎる。

 もう種としては絶滅してるって話になっちまうよ。

 今度医療機関で調べてみるか〜? でも下手なところで調べて本当に違ったら大騒ぎになるからな……フルオカタウンにもう一度行ったらテッセンさんに頼むか。

 風呂入ったら疲れが取れるかと思ったけど、全然そんな事ねえな、むしろ眠くなってきた。

 さっさと上がってベッドに入るか。

 

 体を拭いて部屋に戻ると、ドアノブにビニール袋が引っ掛けてあり、中にはおにぎりが入っていた。

 紙になんか書かれてるけど読めねえや、多分女将さんだろ。明日お礼言わないとな。

 ……あれっ、そういや俺も書き置きしたけどあいつら俺の文字読めねえじゃん。

 ……まあリザードンいるし大丈夫か。

 米がこっちの世界にもあって良かったわ。

 

 鳥すら眠る夜半、ゆさゆさと体を揺すられて呻き声を上げながら目を開ければレッドがいた。

 どしたん……

 お腹減った? 

 えぇ……ホシノは……? 

 寝てる……? そりゃ寝てるでしょ……だって夜中だもん……

 コンビニは開いてるんじゃね……? 好きに買ってきな……

 わざわざ聞かなくても良いぞ……

 え……? 一緒に行こう……? …………ん〜〜よし! 

 勢いよく脚を伸ばして慣性で体を起き上がらせると、目を覚ました直後のだるさが上半身を包み込んだ。

 あぁ〜……くっそねみいや。

 ……いや大丈夫、行こっか。

 お金あるのか? 無い? まあホシノが管理してるしな……やっぱ自分の金は自分で管理したほうがいいんじゃ無いか? 俺は出来ないけど。

 まあ良いか、えーと財布はバッグの外ポケに……あった。

 じゃあ買いに行くか? 

 え? リュック取ってくる? 

 いやそんなのいらないから……手ぶらで良いよ。

 

 今日は帽子被ってなかったよな、水族館ではいらないけどさ。……リュックには入ってた? 

 今も帽子だけは持ってきてるよな。基本的にいつも被ってるけど、なんかあるのか? 

 …………へー、最初から持ってた、ねぇ。

 ソレならまあ相棒みたいなもんか。

 大事にするのも分かるわ。

 でもレッドは綺麗な髪してるから、もっとみんなに見せれば人気出ると思うんだけどな。

 別に人気とかいらないか。でも時々で良いから、そうして髪解いてるのも見せてくれよ。

 おう、2人きりの時だけな。

 そういやお前らちゃんと風呂入ったか? 宿着いた時全然起きないからリザードンに任せて俺はさっさと浴びたんだけど。

 嗅いでみろ? いや、教えてくれれば良いんだけど。

 …………うん、良い匂いだ。でもレッド、夜で人目が無くて2人きりだから良いけど、昼はそういうこと言ったらダメだぞ? 本当に、俺が捕まるから。

 いや、また出てくれば良いよ、じゃないから。なんかダメなこと覚えさせちゃったかもしれねえ……

 ん? あの紙? まあ気付くよな、あれは俺の故郷の言葉だよ。

 見た事無いって、そりゃあ無いだろうよ。

 なんて地方かって言われても記憶喪失だから答えられねえんだ。

 ……書けるようになりたい? それじゃあ少しずつ教えるさ。

 いつかお前達を連れて行けたら役立つかもしれねえからな。

 そういや、世界地図ってあるのか? いや、あれだよ、世界の全ての地方が一枚の紙に書かれたやつ。

 無いの? マジで? 

 人工衛星とか無いのか? ……空は支配されてる? あー、アレか、レックウザとかいるもんな、そりゃあ地上100kmにあんなのがウヨウヨいたらとても人工衛星なんて飛ばせないか。

 ……もしかして、グリーンスカイロッドが造られた理由ってソレなのか? 

 大丈夫? バベルの塔みたいな事にならない? 

 

 え? バベルの塔ってのは……かつて全ての人類が話す言葉が同じだった頃に、傲慢な人類が天まで届く塔を建てようとしたんだ。ソレに怒った神様が塔をバラバラにし、人の言葉をバラバラにした。だから俺のいた地方では、場所によってみんなが話す言葉は全然違った。

 ここはどうだ? みんな同じ? まあそれは納得出来る。

 不便かって? そりゃあ不便だ。なんせ地方を跨いで生活しようと思ったら1から言語を学び直さなきゃならないんだから。

 そんで言語自体の数も100じゃきかないからな。複数言語を話せる人がいたら、それだけで特殊技能持ちだ。

 何にも良い事が無い? いーや、そんな事はないぞ。

 俺が何かを美しいと思う。するとそれを別の言語で表現する人達がいる。同じ意味でも、別の言語を使う人がその何かに対して思う事は全く違うんだ。

 言語の数だけ美しいがあって、その違いが文化の違いとなって、その場所の特色になる。そうして価値観の違う人達の場所で形成されたのが俺のいた場所だ。

 よく分からない? ははっ、俺もよく分からん! 

 コンビニ着いたし、こんな堅っ苦しい話はやめて飯の話でもしよう! 

 

「っしゃいせ〜」

 

 何が食べたい? 美味しいもの? じゃあカップ麺でも買うか、こんな夜中に食べるカップ麺が1番美味えんだ。

 まあそんなにたくさん食ったら豚になっちまうから一つだけな。

 他に食べたいものとか無いか? 

 え、それ……? いや良いけど、チョイスが渋いな。貝柱か……

 あとは飲み物だな。

 何が飲みたい? いや、クリームソーダは売ってないかな。あれはお店限定みたいなとこあるから。

 じゃあサイコソーダでも買うか。これも前飲んだら美味かったんだよ。

 ポケモンが回復するくらいなんだからそりゃ美味えよな。

 

「温めますか?」

 

 いや、温めるもの無いですね。

 

「830円になりやーす」

 

 これでお願いします。

 

「……現金?」

 

 はい。

 

「てんちょー、現金のお客さんおねしゃーす」

 

「うい、850円お預かりいたします」

 

 バイトのにいちゃんから店長にバトンタッチした。若者には現金の扱い方がわからないらしい。

 

「お客さん有名ですよ」

 

 え? なにが? 

 

「現金を使う兄ちゃんがいるってんで最近ここら辺で話題になってるんですよ」

 

 えぇ……何そのイヤな拡散の仕方。

 レッド……現金使うのってそんなおかしいのか? 

 

「これまで使った事無い」

 

「お客さん、レッドって、あの?」

 

 レッドって聞いたらあの? って返すのはこの世界のテンプレなの? 

 

「だって知らない人いないでしょう」

 

 そうなの? まあ有名でもおかしくは無いか、レッドだし。

 

「現金使ったりレッドの事あんまり分かってなかったり、やっぱ変な人ですねえ」

 

 客に向かってそんな事言うか? 普通。

 なあレッド。

 

「お兄さんは変だよ」

 

 ショック! 

 真顔でそんな事言われるとは思わなかった! 

 

「おつりの20円です、ありがとうございました〜」

 

 なあ、俺ってそんなに変? 

 

「変」

 

 貨幣が作られてるのに使わない方がおかしくない? 

 造幣局の無駄じゃん、ソレなら全部仮想通貨にしろよ。

 ……それだとメガネ使えない俺が何にも出来なくなっちゃって真なるヒモが完成するからやっぱ良いや。

 なあレッド、俺がヒモになったらどうする? 

 

「私とホシノがいるからならないよ」

 

 まあそうだけど、仮定の話というかなんというか……ねえ? 

 

「ならないよ」

 

 そうだね……この子変な所で意思が強いんだよな。

 でもさあ、俺このまま行くとフリーター一直線なんだ、そうなる前になんとか就職できなきゃマジでヤバいんだよね。

 なのに経歴が終わってるから挽回の余地がほぼ無い。何故かホシノがプレイヤーで俺がパートナーっていう登録になってるから、俺が何しようがホシノの功績になっちゃうし。

 変に目立たないから良いとは思うけどさ。

 いや、目立てばインフルエンサーとして生き残る道もあるのか? やっぱ俺もプレイヤーになあ……

 でもそうするとホシノが宙ぶらりんになっちゃうし。

 レッドはなんか良い案とか無い? 

 

「無い」

 

 無いんだ……まあ、まだレッドには早いもんな。

 もう本当、このまま行くとポケモンバトルで稼ぐしか道が無くなっちまうよ。

 うわぁストレス溜まりそ〜。

 指導者みたいな感じでテッセンさんに雇ってもらえねえかなあ……

 

「私が雇うよ」

 

 マジ? でもレッドって将来の夢とかあるの? 

 

「…………」

 

 え、何? なんかモゴモゴ言ってて聞こえないんだけど。

 

「およめさん」

 

 あー……良いなあそれ。

 

「お兄さんもおよめさんになりたいの?」

 

 いや、流石にソレは無いけど……俺も逆玉狙いてえ〜。

 素性が怪しくて常識無くて顔も普通な俺を好きになってくれるスーパー美女のセレブいねえかなー! 

 あーむなし。

 ……誰か俺の将来を助けてくれー! どうなっても知らんぞー! 

 

 

 ──────

 

 

「うへ〜……ソレで2人とも夜遅くにカップ麺買って食べてたの〜?」

 

 おう、美味かったわ。ホシノも起きてたら連れてったんだけどな。

 

「おじさんは夜中にそんな食べたら胃がもたれちゃうよ〜」

 

 おじさんじゃないけど俺もちょっともたれてるよ。

 レッドは全然そんなこと無いみたいだけどな、ご飯も進んでるし。

 

「ほら〜……」

 

 しょうがないじゃん、食べたくなっちゃったんだから。

 ホシノも今度食べような、お夜食。

 

「えー……ふとっちゃわない?」

 

 太るよ、でもホシノはまだ若いし、元々細いし綺麗だからあんま変わらないよ。

 

「そ、そお〜?」

 

 そうだよ、だから食べようね。

 

「今度ね〜」

 

 機嫌良さそうに朝飯を食べていくホシノ、ちょっろ……

 

 食べ終え、ホシノ達の部屋で今日の予定を決める。

 昨日は散々遊んだけど、今日はどうする? なんか行ってみたいところとか無いのか? 

 

「無い」

 

「おじさんが言ってもいい?」

 

 はいホシノ。

 

「昨日も言ったけど、やっぱりカムイさんに挑むならもう少し強くなっておきたいかな〜……まあ、今日は疲れが残ってるし、明日からで良いんだけど〜」

 

 つまりレベリングがしたいと、レッドは本当になんか無いか? 

 

「無い」

 

 じゃあどうする? 俺たちは試練行くから、レッドとはその間別行動で良い、のか? それとも一緒に来るか? 

 

「着いてく」

 

 レッドが着いてきたらパワーレベリングしてるみたいに思われないかってのが一応懸念点なんだけど、そこらへんお前ら詳しいこと知らないか? 

 

「うーん……確かにそういうリスクはあるよね〜」

 

「別の試練受けるから」

 

 別口で試練受けたらたまたま出会っちゃった、ってやつか。ホシノ、どうなんだ? 

 

「悪くは無いかな〜、でもレッドちゃんが受けるような高ランクの試練を探すのが大変そうだよね〜」

 

 まあ、最悪ただ着いてくるだけでも良いだろ。

 

 

 ──────

 

 

「え!? 長年塩漬け状態だったおつきみやま探索試練を受けてくださるんですか!? ありがとうございます!」

 

 じっくりトコトコ休んだ次の日、ジムで試練を漁ったら、あったよ! 高ランクの試練でレッドが受けられるようなやつ! 

 

「うへ〜……探してみるもんだねえ……」

 

「しばらく猶予がありますので準備期間として使ってくださって結構ですよ! お願いしますね!」

 

 掲示板の奥底にあったそれは、おつきみやまでの体験を経た2人にとってはまさにイージーモード。

 何も知らなければ、ただ断崖絶壁に囲まれただけの山を調べるというものだが、ピッピの事を偶然知ったのでそれを報告すればクリアじゃい! 

 さあ、あとはホシノの試練を選ぶだけじゃい! 

 ……これとかどうだ! 

 前回は火力担当のホシノが武器を持ってなかったから逃げるしか出来なかったが、今回は違うぞ! 

 

「……ねえ、何も見ないで取ったでしょ〜。それ、二つ名持ちのドダイトスだよ〜?」

 

 なにっ、ホシノ、そんなにやりたいのか! 

 受付さん! これ受けられるか!? 

 

「無理です」

 

 なんで? 

 

「ホシノさんのプレイヤーランクが4で、あなたはプレイヤーランク……あれ、プレイヤー名簿のどこにも記載が無い……あなたはプレイヤーでは無いですね? そうなりますと余計に受けるのは無理です、理由は書いてある通りです」

 

 ……うん、ごめん、俺文字読めないんだ。なんて書いてあるの? 

 

「あ、そうでしたか、失礼いたしました。この試練はバッジを全て手に入れて、パートナーのランクも全て8に到達したプレイヤーのみが受けられるんです」

 

 ……ホシノ、どういうことだ。ニヤニヤしてないで説明してくれ。

 

「つまり〜レッドちゃん達みたいな強者しか受けられないって事だよ〜」

 

 なんでや! 倒せるなら誰でも良いだろ! 

 

「その倒せる人物の基準としてランクが設けられております」

 

 ええ〜……ホシノはやりたくないのかー? 

 

「おじさんにはまだちょっと早いかな〜」

 

 つれねえなあ……しゃあねえ、じゃあこれ。

 

「あ! また見ないで選んだでしょ〜!」

 

「えーと……新米プレイヤーの方からの依頼ですね」

 

「おじさんにも見せて〜、えーと……ふむふむ、ほおほお……最初の肩慣らしには悪く無いんじゃないかな〜」

 

 ふっ……さすが俺だ。ところでどんな試練なんだ? 

 

「植物園でのパートナー探しを手伝って欲しいという依頼です」

 

 ああ……そう……

 

「あれ、お兄さんなんでいきなりテンション下がっちゃったの?」

 

 違うんだホシノ、なんでも無いんだ……

 うん、いや……まあ、いいか……

 

 この街にいるからまた出会うとは言ったけど、意外と早く再会したな。

 

「ふっふっふ! こうしていればまた会えると私は確信していましたわよ!」

 

 そうでいらっしゃいますか。

 ん、そうだよ、この前ブラブラしてた時に知り合った。

 レッドとホシノは初対面だろうな、アイリ、こちらレッドとホシノ。俺の仲間だ。

 2人とも、彼女はアイリだ。

 

「よろしくねぇアイリちゃーん、可愛い女の子の用心棒なんておじさん張り切っちゃうぞ〜」

 

「よ、よろしくお願いしますですわ!」

 

「…………」

 

 レッド、後ろに隠れてないで、ほら、挨拶したら? 

 

「レ、レッドって……やっぱりあのレッドさんですの!?」

 

 うん、レッドと聞いたらあの、と返すのがセオリーだな、間違い無い。

 結局俺の後ろから出てくる事なくアイリを睨み続けるレッドの事は放っておいて、依頼のことを確認した。

 アイリはやはりプレイヤーとして旅に出るようで、そのためのパートナーを探しているようだ。

 どんな相棒が良いか聞いてみたら、強くて可愛くて自分のことだけ愛してくれてかっこいい奴がいいらしい。裏垢でスパダリでも探しとけ。

 戯言は放っておいて、現実的なラインを考える。

 

 植物園に入り、まずは練習としてホシノに対して指示を出すよう伝えたが、あんまり上手く指示できていなかった。

 知識はある程度あるようで、ホシノに傷を負わせる事なく盤面を進めてはいたが、攻撃に転じるセンスは無いようで結局ホシノが自分の判断で倒していた。

 あまり相手を引っ張るようなカリスマは感じられないな。

 どっしり構えて攻撃を受けた上で火力で押し切れるやつか、ある程度自分で考えられて攻撃のタイミングだけは任せられるやつが良いかもしれない。

 どっちもある程度経験を積んだやつしか当てはまらねえなあ……

 そうなるとやはり、弱いやつを1から育てていくのが合っているかもしれない。カリスマでは無く、信頼によって察してもらう。そういうのがいいのかもしれない。じゃあ弱いやつを探さなきゃな。

 なんでも、最初のパートナーは自分の膂力とかのみで捕まえるのが慣例らしい。ワイルド過ぎる、俺は嫌いじゃ無いけど。

 命の危険にまで陥ったら間に入るという事で、少し離れたところで見守る。

 見つけたヒーホー君と戦うアイリを見守る。なんかヒーホーヒーホー言ってるからヒーホー君って名付けたけど、ホシノ曰く正式名称はジャックフロストらしい。カッコ良すぎない? 俺も名前ジャックフロストに変えよっかな……

 ヒシっとしがみついて離さないレッドが放ったダサイという一言により深刻なダメージを受けて、俺の名前はポケモントレーナーのままになった。今日のレッドちょっと変だな。

 なんか氷の技を使ってアイリの周囲の気温を下げたので寒そうだなーって思ってたらバッグから取り出したスタンガンとか使って叩きのめしてた。

 なんか思ってたんと違う……

 

 すんまへん……本当にもう無理です……みたいな感じになったジャックフロストをパートナーにしたアイリに、イケメンでも無くて強くも無いけどそれでいいのか? って聞いたら、めっちゃ嬉しそうにジャックフロストを抱き締めてたのでやっぱそういう事だな。

 俺も最初にホシノと出会った時に、ババコンガを叩きのめして手持ちポケモンにする未来とかあったのかな……とか夢想したけど絵面が汚いので途中で辞めた。

 確かなのは、手持ちがババコンガだったら極限まで鍛えるから同じピンク髪でも華奢なホシノと真反対のバケモンが完成してただろうなって事だ。

 ぶるっと身震いをしたホシノにウィンクをする。

 ??? ってなっているのを眺めているとアイリはテンションが上がったのか、俺と戦いたいとほざきおった。

 

 ホシノ、出番だ。調子付いたガキには分からせをしなければ。

 え? 武器持ってきてない? あと今日は疲れてるから動きたく無い? 

 お前カムイの話どこ行ったんだ、それはそれ、コレはこれ? なんだこいつ……

 じゃあまあせっかくだし、俺がお手本見せますか。

 何だレッド、いや心配とかいらんだろ。

 そもそも俺がホシノに指示出してんのに、自分がその内容実践出来てなかったら説得力無いだろ。

 

 はい、15秒、ザエンドってね。

 まあよく持ったんじゃないか? え? 何をしたかって……そりゃあ霜の放たれる感覚はさっきアイリとヒーホー君の戦いで見てたから、その隙に近付けば何も食らわんでしょ。

 え? まだ終わってないって? まあ寸止めしたからヒーホー君はダメージ食らってないけどさ。

 おぅっ!? いきなりは反則なのでは無くて!? 

 でも範囲も見切ってるし、食らう方が難しいというか……アイリー、お前が見るべきはヒーホー君じゃ無いぞー? 俺の動きを見て、どういう風に動くかのパターンだったり癖を見つけるんだ。

 ヒーホー君がどう動くかなんてのは、お前が指示を出して初めて決まる事なんだからヒーホー君見てても意味無いんだよ。あくまで相手の動きの差し込める所に攻撃の指示を入れるのがプレイヤーの役目だよ。

 ほーら、この反復横跳びにはどういうパターンがあるんだー? いや、煽りとかじゃ無いから。この反復横跳びは極端なパターンだけど、要はコレを複雑にしたものを読み取るのが君たちの仕事だから。

 段々とステップアップしてけ。

 

 そう、俺を見ろ。足の運びから、次にどこに置かれるのか、重心はどっちへ行くのか、そういったことをだな。

 そう、そうだ! 良いぞ、今のはかすった! ただ、相手だって直前までパターンが一緒でも攻撃を見たら避ける選択肢を基本的には取る。その一手先を読むだけで大抵のやつには攻撃が当たる。

 え? いや、格上のこととか考えんな。目の前のことに集中しなさい。今出来ることをやっていくのがいちばんの近道だぞ。

 まあ基本は分かっただろ、そういう事じゃよ。今日はもう疲れただろうし終わり! 

 なんだ2人とも……何? 今のは基本じゃ無い? そんなわけないだろうが! 避けて当てる! 全てのアクションゲームは古今東西これを突き詰めるんだ! 

 え? ここは現実? いいや、ここはゲームの世界だ! ……可哀想なものを見る目をするな! 

 

 じゃあお前らが基本とやらを教えてくれよ、アイリと俺によお! 

 まずは一緒に歩く? 色々会話をして? 一緒に昼寝? 仲良くなって、簡単な採取クエスト? そしたら小型モンスターの依頼? 

 それって俺がホシノとやった事じゃん。

 アレが基本だったの? 

 ……だそうだ、アイリ。俺の話は全部忘れてあいつらの言う事を聞きなさい。

 え? 師匠? 俺? いや、師匠じゃないから。戦闘についてたったの1時間教えただけで師匠とか厚かましすぎでしょ、俺が。

 おいホシノ、囃し立てるな。その理屈でいくとお前は弟子1号だぞ。

 姉弟子だぞ。

 いやそれで良いんかい。

 レッドは……何故かアイリを睨んでるし、あいつらは盛り上がってるし……ちょっとこっち来な、レッド。

 

 

 ──────

 

 

 どうしたんだレッド。らしくないぞ、あんな睨んで。

 

「……」

 

 ……なあ、過去に何かあったりとかしたのか? 別に詳細は話さなくても良いけど、意味も無くって事は無いんだろ? 

 

「……」

 

 アイリのこと、嫌いなのか? 

 フルフルと首を振るレッドにますますの混乱を覚える。おじさんには難しいかも〜、と心の中のホシノが騒いでいた。

 俯いて唇をとんがらせたままくっついて来たので、背中をポンポンする。

 ここ数日のレッドがあまりにも可愛過ぎる。

 もうアレだ、愛おしすぎて食べちゃいたい。

 

「2人ともそんなイチャイチャしちゃって〜、おじさんも混ぜてよ〜」

 

 どうぞ、と両腕を構えて待っていたら全然来ない。うにうに言いながらモジモジしてた、直前でチキったらしい。お前そのキャラ向いてないよ……

 ところでホシノとアイリはどんな話をしてたんだ? 

 

「わたくし、ホシノさんと電話番号を交換したんですのよ!」

 

「う、うん、そうだよ」

 

 2人してメガネをクイクイしてるのでとてもアホかわいい。

 じゃあレッドもアイリと電話番号交換したらどうだ? な、レッド、どうせだしさ。

 そう促せばトコトコとアイリの元に近付いて何やら交信を始める。

 空中に指置いて操作してる絵面がシュールなんだよなあ。

 

「……」

 

「あのレッドさんの電話番号を頂けるなんて!」

 

 なんだかんだあの2人も相性も悪く無いと思うんだけどな……じゃあ今日は一旦戻るか! 

 

「はい、試練達成ですね、こちら報酬でございます」

 

 毎度のこと、報酬はホシノがメガネで受け取っている。一応現金でも受け取れはするが、ホシノが2人の金を管理し始めたあたりで全部メガネで処理するようになった。

 まあなんでも良いんだわ、物さえ買えれば。

 それにしてもアイリ、どうやってあの金を稼いだんだ? 結構大変だっただろ。

 

「えっと……危なく無い試練を受けて……」

 

 おお、凄いな。パートナー無しで試練を受けてたのか、危なく無いって言うけど外には出るんだろ? それってアリなの? というか大丈夫なの? 

 

「自己責任ですので」

 

 受付のその対応に関して俺は冷たいと思うが、まあそんなもんなんだろうこの世界では。

 

「それじゃあ、今日はありがとうございましたですの!」

 

 それなんだけどさあ、折角アイリの初パートナーゲットなんだし、夕飯奢るよ。

 折角みんな友達になれたんだしな。

 

「え……」

 

 口をポカンと開けている。

 まさか時間とか無い感じか? まあそれならしゃあないな、次の機会にでも。

 

「いいえ、行きたいですわ! でも……」

 

 親御さんか……じゃあ今からアイリの家に行くか。

 反論は受け付けまセーン! 

 アイリはお母さんに連絡しといてな。

 

「は、はいですわ……」

 

 帰り道ついでに飯買ってこう、飯。

 

 結構でかい家だな、口調でなんとなくそうなんじゃ無いかとは思ってけどやっぱお嬢様か。

 お邪魔しまーす、お、アイリさんのお母様ですか? いつも大変お世話になっておりますー。

 私はポケモントレーナーと申します、あ、知ってらっしゃる? それはまた、どこかでお会いしましたでしょうか? 

 ああソーマで動画が……そうでしたか、お恥ずかしい。

 ん? ああ紹介遅れました、彼女はホシノ、私の相棒です。

 こちらは……ご存知でしょうが敢えて紹介させていただきますね、レッドです。私の旅の仲間です。

 ほら、2人とも改めて挨拶して……なんだその目は、俺だって一般常識ぐらいはだな……

 そうそう、本日アイリさんがパートナーを無事ゲットしたという事で──

 ん? どうかされましたか? 

 あれ、アイリも顔色が……

 ちょ……

 

 

 ──────

 

 

「私はアレほど言ったわよね? プレイヤーになんかなるなって」

 

「……」

 

 その発言だけで、概ねは察した。なるほどなあ、まあ考えてみれば当たり前か。そもそも数日前に出会った時、アイリはお母さんに植物園に行く事を告げていなかった。

 先にそこら辺話しとくべきだったか。

 

「今すぐ、捕まえたとかいうモンスターを逃してきなさい」

 

「……」

 

 ギュッ、と服の裾を掴んで俯くアイリ。可哀想だけど人様のお家の事情だからなあ……

 でも、アイリがこの家にいる以上いつかはバレる筈だったと思うんだがそこら辺どう考えてたんだろうな。

 

「アイリ!」

 

「……っ!」

 

「アイリ! 待ちなさい!」

 

 アイリは自室だろうか、2階に駆け上がって行ってしまった。

 エントランスにはアイリの母親と俺たち3人だけが残され、気まずい雰囲気が漂っていた。

 じゃあちょっと失礼して……

 え、何? 今日は帰ろう? いや、帰らないから。そもそも今日来たのはパートナーを捕まえたのを祝うって事だし、そこら辺俺はある程度聞いておくべきだったからな。

 パーティーは続行や! 

 

「ちょ……なんで入ろうとしてるの!」

 

 邪魔だ、どけぃ! 

 ヌルッと通り抜けて階段の手前までくる。当然靴は脱いだ。2人はどっちでも良いぞ、俺についてくるか帰るか、お前達の自由だ。

 俺は折角なら行くぜ! 最近おとなしくしすぎてたんだ! 俺がいつまでもルールに従ってると思うなよ! 

 

「あ〜もう止められないねえ〜」

 

「うん」

 

「ちょっと!? 警察呼ぶわよ!」

 

 むしろ呼んでくれ! お祭りだ! たまには暴れなくちゃよ! 

 

「い、いかれてる……」

 

 アイリここか! いねえ! こっちか! いねえ! ここか!? 

 

「…………っ」

 

 何泣いてんだ、飯食うぞ。ほら、ピザ、ハンバーガー、スパゲティ、マラサダ、ドーナッツ、まだまだあるからな、全部味わえ! 

 そういや前の話忘れてジュースとかもしこたま買ってきたな。コーラ、オレンジジュース、ジンジャーエール、ミルク、お茶、なんでもあるぞ。パンパンに詰め込んできたからな! 

 

 あとこの部屋狭いわ、リビング行くぞ。テーブルくらいあんだろ。

 渋るアイリを持ち上げて一階まで運ぶ。あ、お母さん、リビングこっち? 

 

「え……?」

 

 なんか通話してたっぽいけど多分警察呼んでるんかな。まあ来るまでは飯食ってりゃ良いだろ。ほら、おひとりさまごあんなーい。

 扉を開けると俺の元の家とは比べ物にならないくらい広いリビングだった。すげえ……ピザ並べ放題だな。

 

「ちょっと! 出てきなさいよ! 出てけ!」

 

 うーん……これじゃあアイリが落ち着いてご飯食べれないし、やっぱ場所移動すっか! じゃあの、お母さん! 

 

「ちょ、待って!」

 

 大丈夫、明日までには返すから! 

 場所を宿に移した俺はアイリと2人で飯を食べた。俺の仲間結構ドライかもしれねえ……

 最初は母親のことが気になってあんまり手が進んでいなかったアイリも、話をするうちに段々と気にならなくなったのか手が伸びていった。

 

「他には!? どんなポケモンがいるんですの!?」

 

 こうして反応良く返してくれるやつに世界のことを話すのは楽しい。まあ残念なことに俺は実際に世界を旅して周ったわけじゃないから、表面的なことしか話せない。ただ、この世界に確実に存在するであろう、秘匿されたそれらをこうして雑に人に話すことによってしか得られない快感があった。

 

 例えば大地を支配するポケモンがいて、例えば時間を支配するポケモンがいて、ピッピという、俺ですら知っている普通のポケモンも忘れ去られるようなこの世界でどんな風に過ごしているのか。それを想像するだけで心が躍る。

 ナバルデウスのような、俺の全く知らない超級のポケモンに負けたのか、時の流れの中で人に狩られたのか、世界の果てで、裏で、今も誰かを待っているのか。

 あまりポケモンの詳細を覚えていない俺ですら覚えているような強者たちがきっといる。

 マツブサのような、あるいはNのような、はたまたローズのような、精神が極まった人間たちがいつか、彼らを見つけ出すのか、思いを馳せるだけで胸が激しく鼓動を打ち出す。

 なあ、そうだろうアイリ? 

 お前のその瞳の輝きも、旅に出たいと思うその心も同じだろう。

 誰かさんも言ってたぜ、憧れは止められねえんだ、ってな。憧れ、焦がれ、羨み、妄想し、そうして、なんの奇縁かこの場所に流れ着いた。

 折角こんな遊園地に来ちまったんだ、隅から隅まで探し出さなきゃ勿体ないじゃねえか。

 ヒーホー君を折角パートナーにできたのに、何もせず、ただ給料を稼ぐだけの人生を過ごすのは楽しいと思うか? 

 分からない? 考えた結果じゃなくて、どう感じたかで良いんだよ。

 お前の部屋を見たよ、ちらっとだけな。

 色んなポケモンのぬいぐるみがあったじゃねえか。つまりそういうことなんだろ? 

 出会ったばっかの俺には分からねえがお前自身はわかってんだ、そういうもんだ。

 さあ飯の時間は終わりだ、迷う時間すらもったいねえ! さっさと親御さんに会いに行くぞ! 

 

 

 ──────

 

 

「お母さま! わたくし……わたし、旅に出ます!」

 

「…………許さない! あなたまでいなくなったら……!」

 

「お兄ちゃんがいなくなっちゃったのはわたしのせいじゃ無い! だから、旅に出る!」

 

 キッ、と俺を睨みつけるアイリの母親に笑いかける。

 

「あんたが……唆したのね!」

 

「そうだよ」

 

「許さない! 認めない!」

 

「それも自由だ」

 

「なんなのあんたは!」

 

「ポケモントレーナー、俺はずっとそう名乗ってるぜ」

 

「訳のわからないことを言って、私の家族をバラバラにしないで!」

 

「お母さん、違うよ……だって……お兄ちゃんがいなくなった時からずっと……バラバラだった……じゃん」

 

 そういう事があった。家族は、どこにでもありふれている悲劇に襲われていた。ただ──

 

「俺は過去には興味が無い、全て置いてきて、失くしたからな。だから、未来の話をしよう」

 

「私からこれ以上……何を奪えば……!」

 

 玄関の扉が開いて、男性が中に入ってくる。話を聞いていたのだろう。

 

「アナ、もう良い」

 

「あなた……!」

 

「アイリに責任を負わせるのはもう辞めよう」

 

「…………っ!」

 

「幸いなことに優秀な師匠も付いてくれるようだ、彼ならきっといつか……」

 

 強い意志を感じる眼だった。

 俺が好きな眼だ。

 でも俺は別に弟子とかそういうの求めてないんだけど……

 男性はタブレットを操作して画面を俺に見せた。

 俺が複数のプレイヤーとポケモンバトルしているところが映っている。

 

『楽しい、楽しいぜ! ありがとうよ! 俺に突っかかってきてくれて! これがポケモンバトル! 命を賭ける感覚ってこういう事か!』

 

 ポケモンバトルっていうかホシノを後ろに置いて俺が1人で戦ってた。あれだわ、テンション上がってた時だこれ。確か1人ぶちのめしたら次の週、目を離した隙に5人ぐらいがホシノに絡んでたから全員パートナーごと病院送りにしたんだったわ。

 

「私は君のファンでね、君になら娘を任せられると思っているんだが」

 

 俺にファンがいたなんて知らなかったが……そうか、ファン1号からの頼みかあ……

 面白そうだからヨシ! 

 

「お父さん、初めまして、俺の名前はポケモントレーナー……娘さんをいただきに参りました!」

 

「ああ、頼むよ……怪我をさせたら地の果てまで追い詰めるからな」

 

 そりゃあちょうど良い、俺と一緒に、地の果ての見た事も無いポケモンを見に行きましょう! 

 きっと、あなたが知らないポケモンが、事象が、待ち受けている! 

 じゃあ、眠いから今日はここまで! じゃあのアイリ! おやすみなさい! 

 明日からホシノと一緒に特訓だ! 

 

「警察です、通報を受けて参りました」

 

 じゃあの! 

 

「逃げたぞ!」

 

「追いかけろ!」

 

「ああ、ちょっと待ってお巡りさん、通報は誤りです。誤解があったようで」

 

「え、あ、そうなんですか……」

 

 すごすごと引き返す警察。

 ありがとなお父さん! ファン1号との約束、俺は永遠に守るぜ! 

 そんじゃ! 

 

「全く……想像通りの青年だな」

 

「あなた……!」

 

「もう良いんだアナ……これまで済まなかったアイリ、お前は……自由だ。彼の言っていた通りだ。お前の未来の話をするべきだったのに、私たちは過去に囚われていた」

 

「……違うよ」

 

「え?」

 

「……お兄ちゃんは、過去なんかじゃ無い!」

 

「あ…………」

 

 泣きながらアイリは叫んでいた。まるで電気を浴びたかのようだった。灰色でくすんでいた男の脳裡に、一瞬にして、少年と笑い合っていた色鮮やかな記憶が蘇る。取り戻したい、出来るならば、あの頃に帰りたい。4人で、笑いたい。

 

「ああ……あああ……」

 

 その願いを託す事が恥知らずであると承知していた。己の無力さを無視し、他者へそれを押し付ける事が如何に傲慢であるかを理解していた。さりとて、何も出来なかった。弱い彼には、プレイヤーの才能が無い彼には。

 

「頼む、アイリ……あいつを……グズマを……見つけ出してくれ……! 済まない……こんな親で、済まない……! 済まなかった……」

 

 彼にはもはや選択肢などなかったのだ。この善人だらけの、化け物だらけの世界で、彼に出来ることなどなかったのだ。だから、投げ渡すしか無いのだ。無様に涙を流しながら、強き者へ意志を継ぐしか無いのだ。

 

「ううん……私が見つけるよ……あの人なら、師匠なら、世界のどこだって連れて行ってくれる! お兄ちゃんは……死んでなんかいない! だから、私がお兄ちゃんを絶対に連れて帰ってきます!」

 

 その魂の叫び、まさに登場人物に相応しいとみた! 

 

「あれ、師匠!?」

 

「何故ここに……!? 帰ったのでは!?」

 

 街のゴミ箱から世界の果てまで、俺は行くつもりだぜ! その何処かに、お前の兄がいる……聞こえたぜ、グズマ、俺が覚えている強者であり、この世界に愛されている人間の1人……旅をしていれば必ずグズマに出会える! しばらく先の話だろうがな! 

 

「何故わかるんだ……ポケモントレーナー君、何故そんな事が!」

 

 うるせえ! 分かってねえよ! 

 

「え……」

 

 分からねえから旅するんだろうが! 俺の知識なんてアテにならねえから実際に目にするんだろうが! 

 ホシノのトレーナーでありパートナーであり、レッドの仲間であり、アイリの師匠であり、ただのポケモントレーナー! 

 全て奪われて、最後にもらったのがこの才能だ、楽しく生きなきゃやってられねえだろ!? 

 

「君は……」

 

 辛気くせえ顔されたら、意地でも助けたくなるのがこの世界の人間だろ! だから……俺も応じるだけだ。

 

「……ありがとう、本当に」

 

 

 ──────

 

 

 なんか熱血主人公みたいな事やってしまって非常に恥ずかしかったがアイリとアイリパパは抱きついてくるほど喜んでくれた。

 あと、言ってることの半分くらい自分でも意味分かってなかったけど勢いで誤魔化せたな。

 

 次の日から俺はホシノとアイリにカムイに勝てるように特訓を施した。というかホシノが勝てないってことはパートナーの俺も報酬もらえないからな。必死だわ。

 でも1ヶ月ほど経ってから、シンリンカムイという男がどんな戦い方をするのか全く知らなかったことに気付き、そこまでの1ヶ月全部無駄だった事を隠した。

 そういうわけで適当な理由をつけてマタナキジムに見学に行き、ジム門下生とプレイヤーたちのバトルを見学した。

 

 さすがジムリーダーの中でも屈指の強さを誇るカムイ、その門下生たちもなかなかのレベルだった。

 というか、アイリは最初に訪れるジムがここなのキツすぎないか? 普通はもう少し優しめのジムとかで鍛えてからやってくるんじゃ無いの? 

 ホシノもそうだそうだと言っていたし。

 

 くさタイプメインということで、ほのおタイプのポケモンでもいれば良かったんだが、生憎俺の手持ちは銃火器仕様の天使ポケモンことホシノだ。

 タイプ的にはノーマルなのかはがねなのかほのおなのか分からんが、カムイが使うパックンフラワーキングは異常な耐久と回復力を有していた。地面と接していると常に回復しているようで、一撃の威力が大きいか、あの巨体をかちあげて空中に無限コンボできればおそらく勝てるんだが……

 ホシノみたいな機動力頼みのポケモンには厳しい相手だ。

 とはいえ今から新戦力を入れるのもなあ……そうだ! ピッタリなのがいたじゃないか! 

 

 というわけで、オフの日を利用して二つ名持ちのドダイドスとやらを捕まえてきた。もちろん1人でだ、危ないからな。

 街に連れてきたらみんなが逃げていってしまったんだけど、お前らカムイが連れてるパックンフラワーキングと比較してみろよ、この造形のマトモさ。

 なんか警察まで来たんで危なくないよーって説明してみる。フルオカタウンでもこんな事あったよな。

 もっと騒ぎが大きくなった。

 カムイまで来た。

 おいカムイさん、俺が試練でこいつを取ってきたわけじゃないって説明してくれよ。ランクもそうだし、俺はパートナーだから試練を受ける権利が無い。せめてプレイヤーだったらいつか受けられたかもしらないけどな。

 そんで、そんなんだからわざわざ試練も何も受けずに普通に捕まえてきたんだろうが! 金も貰えないのに! 

 俺も生きている! 俺にも人権を! 

 騒いでいたらホシノたちがやってきて、野良プレイヤーも集まってきて、俺の実力が問題無いことを証明する流れになった。

 そもそも俺の実力に問題があったら二つ名持ちのドダイドスをここまでどうやって連れてくるんだよ。

 結局その場でカムイと軽い模擬戦をやるらしい

 ホシノを呼んで、ドダイドスに指示を出すように指示する。

 なんか驚いた声が多すぎてうるさいが、当たり前だろ。俺はポケモントレーナーだけど、俺の相棒はホシノだ。ホシノが1番だし、ホシノを蔑ろにして他のポケモンを重用することはあり得ない。

 だから、俺がホシノに指示を出して、その中でホシノがドダイドスに指示を出せば良いのだ。

 外野がうるせえが俺が決めたらそうなのだ。

 とはいえホシノにそういう経験は無いだろうし大丈夫か尋ねてみると、意外と乗り気だった。

 

 本当はホシノにも、実地でドダイドスへの指示を出す訓練をさせてから挑みたかったが、今回は軽い腕試しだ。ホシノ、出来るんだな! 

 

「任せて!」

 

 

 ──────

 

 

 マタナキタイムズの記者は、休日を楽しんでいた。特に意味もなく街をぶらぶらし、街と外とを隔てる壁の出入り口、門付近をたまたま通りがかった。

 すると、大通りで騒ぎが起きているのを見つけた。

 これはスクープの匂い! というわけで彼女は早速その現場へ向かう。

 

『ホシノ、ハードプラントを使えばそれだけで押し潰せるなんて考えるなよ! 相手は甘く見積もってもレベル80相当! ドダイドスと互角だ!』

 

『トレーナー!』

 

『あの形状……下半身が貧弱に見えて、植物由来の強靭な肉体を有しているぞ! だからこそ、逆だ!』

 

『頭だね!』

 

『この日を楽しみにしていたぞ、ポケモントレーナー! パックン、かいてんぎり!』

 

『ドダイトス、転がって避けて!』

 

『ホシノ! 相手の動きをよく見ろ、カムイがその手を読まないわけが無い!』

 

『横っ面をふみつけろ!』

 

『っ! ドダイトス! なんとか避けて、はっぱカッター!』

 

『そんな小技が効くものか……! パックン、きりばらい!』

 

『蔦で受けて!』

 

『……そんな細い蔦で受け切れるかな?』

 

『そんな、あっさりと……』

 

『ホシノ、技では無い動きには力は込められない。使い所を見極めるんだ』

 

『……分かった、それじゃあ……リーフストーム!』

 

『興味深い……どんな動きを見せてくれるんだ? パックン、リーフストーム!』

 

『……いまだ! ドダイトス、とっしん!』

 

『残念、私もリーフストームはブラフだよ。パックン、くさむすび!』

 

『あっドダイトス! ……技が通用しないよ!』

 

『違うぞ、ホシノ! 通用しないのではなくて見切られているんだ! どれだけ強くても当たらなきゃ意味が無い!』

 

『摩訶不思議……まさに君たちの関係に相応しい言葉だ……パックン、かえんほうしゃ!』

 

『ほのおの技まで……ごめん、トレーナー!』

 

『ドダイドス、ハードプラント! ホシノ、今のは良い判断だった。時には素直に引くのもポケモンバトルでは大事だ。というか、初めての割には結構慣れてるな?』

 

『え……ま、まぁそうかも〜?』

 

『ふふふ……真打登場、というわけかな?』

 

『俺が真打ちなわけないでしょ……いつだって真打はこの子達、ポケモン達だ、あるいはパートナーとも言う。俺はその能力を引き出しているだけに過ぎない。引き出して、戦ってもらっているんだ』

 

『……嫉妬するぞ、テッセンさん! 我ももっと早くに出会いたかった!』

 

 ドダイトスに指示を出しているピンク髪の少女がプレイヤーなのかと思いきや、その少女に対して、青年が指示を出していた。

 頭を撫でられる少女と撫でている青年の関係はともかく

 、相対するは、我が街のジムリーダーカムイことシンリンカムイ。如何なる理由があってこんな場所で戦っているのか、彼女はその理由を探し、すぐに見つけた。

 

「あ、あれって……二つ名持ちのドダイトス!?」

 

 額に深く刻まれた十字の傷、『十文字』という二つ名を頂くあのモンスターはどれぐらい長く生きているのか、少なくとも彼女よりは昔から生きているだろう。数多のプレイヤーたちが挑み、諦めたドダイトスを謎の青年が操り、そしてカムイと戦っている。

 

「これはスクープだぞ〜」

 

 さらに、メガネで撮っているのは彼女だけでは無い。戦いの一部始終は様々な角度から録画され、ソーマに投稿されていた。

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