俺はポケモントレーナー   作:goldMg

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51_旅の終着点

 ポケモントレーナーはアローラ地方に関する知識をほとんど有していない。

 特に理由があるわけではない。

 強いて言うならば──昔のポケモンおよびゲーム機というのは骨董品であり、プレミア品であり、欲しいからと言って簡単に手に入れられるものではなかった。

 没入型ゲームが主流になった市場でわざわざ没入感の薄いゲームを探すのは、それこそ古いものが好きな変わり者がほとんどで──脳が適合しないから、などというのは青年以外には見たこともなかった。

 ネタバレが好きじゃ無いので調べるのも主要キャラの名前と姿くらい。

 ゲームに関してはそのうち手に入れればいいやと思って後回しにしていた。

 

 その登場人物がそこにいた。

 顔と服装があまりにもそのまま過ぎた。

 ナギやテッセンですら、あのゲーム内の服装とは違ったのに。

 

「本物のグズマだ!?」

 

「……」

 

「めっちゃグズマじゃん!」

 

「何言ってんだお前」

 

「グズ……Nもいる!?」

 

 緑色でもっこもこの髪。

 地味な帽子。

 白いシャツ。

 完全にNだ。

 何か違和感も感じるがあれはNだ。

 

「あいつのこと知ってんのか、てめえ」

 

「うわっ! 生グズマ声だ!」

 

「……ちっ」

 

 なんでゲーチスと戦ってるんだ……? 気絶していた青年の脳内に浮かぶ当然の疑問。

 突入してきた場面を知らないので

 不可思議なものであるかのようにナチュレを見る。

 

「トレ君、ナチュレさんのこと知ってるの?」

 

「ナチュレ? ……ああ、そういやそんな名前だっけ」

 

 確かに自然みたいな名前してたな、とあやふやな記憶を蘇らせる。

 

「リンもNのこと知ってるのか?」

 

「知ってるっていうかここまで一緒に来たし、なんなら暫く一緒に旅してたよ」

 

「──ホシノちゃん!? 聞いてないんだけど俺!」

 

「おじさんのせいにしないでよ〜、再会したら話すって話だったんだからさぁ〜」

 

「……そうだった!」

 

 談笑に花を咲かせているポケモントレーナー達だったが、ここはホテルじゃ無ければ喫茶店でも無い。

 ダークボールによって矯正強化された上に理性を奪われ、傀儡と化したモンスター達が犇めく展望エリア。

 地上2700mのコロッセウムだ。

 痛みも恐怖も無い、特攻兵器に等しいモンスター達の手綱を握っていたビシャスは手元を動かしながら声をかける。

 

「さて、久方ぶりの語らいは十分だろう。いけ」

 

 交わすべき言葉は無い。

 敵と向かい合ったなら容赦なく戦力を解放する。

 それは、かつて少年達に敗れ去った男の学びだった。

 モンスター達は真紅に染まった瞳をポケモントレーナーに向け、フロアごと揺らしながら歩き出した。

 

「あっわわわわ……」

 

「数が多いのってやっぱりクソだな」

 

 やっぱりこんなところ来るんじゃなかったかも……と既にリンが後悔していると、ドスの効いた声が響いた。

 

「シェルブレードォォ!」

 

「シャアア!!」

 

 グソクムシャの腕から放たれたわざにより吹き飛んだヒヒダルマは後ろのモンスターを巻き込み、さながら渋滞の様相を呈す。

 しかし、その程度で止められるほど冷静な場ではなかった。ピクリとも動かなくなったヒヒダルマを踏み潰し、乗り越え、どんどんと近付いてくる。

 

「撃ち続けろ!」

 

「シャッ! シャッ! ……シャアッ!」

 

 腕を左右に振り、れんぞくぎりのような早さでシェルブレードを放ち続けるグソクムシャの顔には迷いがなかった。

 最適な角度で、最適な速度で、最適な威力で、わざを放つ。

 そして、敵を殲滅する。

 負け続けた男とそのパートナーは、それを磨き続けた。

 自分がどんな体勢だろうと必ず技を放ち、敵がどんな場所に──それこそ背後にいても技を当てる。

 それは才能でもなんでも無い。

 あらゆるシチュエーションを想定し、それに対してどう対処するかを、1人と1匹はひたすらに考えた。

 

 グソクムシャは腕を振り続ける。

 グズマと自らの視界内に入ってきたモンスターの弱点を、重ね合わせの視界で見抜いて一撃を放つ。そうするだけで敵は崩れ落ちる。

 もちろん、こんなのは突っ込んでくるだけの猪が相手だからこそ出来ることだ。

 Nやゲーチスが相手であればこんな単純な作戦は取らない。

 それでもこの場で、これまで磨き続けた動きは確かに効率的に敵を押し留めていた。

 グズマは自分達の近くに近寄らせるなと念を押す。

 

 それはひとえに、見届けるため。

 才能に恵まれ、それを押し潰されそうになっていた彼女が過去を乗り越えたのか。

 自分の旅についてきた事は彼女にとって何か意味があったのか。

 英雄であろうとした彼女に、蛹から羽化する時が来たのか。

 知りたかった。

 

「気合い入れろ!」

 

「シャアアアア!」

 

「──うっしゃああああああ!」

 

 余計な声が混じっていた。

 暑苦しくてバカみたいな、能天気な男の声だ。

 チラッと見る。

 男が拳を振り回していた。

 左手がパラセクトの顔面を掴み、片腕で振り回す。

 右手のナイフが閃き、首を突き出して噛みつこうとしていたドスイーオスの首がポトリと落ちる。

 火球が飛んできて、直撃しようとする。

 

「よっと」

 

 横殴りのアクアシェルが火球を相殺し、水蒸気が広がった。

 銃口から煙を燻らせ、少女が不敵に笑っている。

 

「飛び道具は任せてね〜」

 

「おう!」

 

 背中を任せられる相手がいる、その安心感が青年の力をより引き出す。

 

「ふんぬ!」

 

 踏み込んだ右脚から最も遠い位置にある左拳が、わずか1.5mの距離の中で音の壁を遥かに越えるほどに加速していく。

 断熱的な圧縮で赤く燃ゆるままにモンスターの肉体を焦がし貫き、背後に控える一段には衝撃波をお見舞いした。

 弾ける音が鳴り響く。

 肉と空気の弾ける音だ。

 

「うるっせえなアイツ……」

 

 近くにいるピンク髪の少女──確かホシノとか言ったか──がなんでもないような顔をしているのが信じられないくらいにはうるさい。

 強いとか凄いとかいうより先に、うるさいという感想が出てくる。

 ただ、それにふさわしいだけの戦果はあげていた。

 惨状と言った方が良いだろう。

 床面を構成する丁寧な木目を血と臓物が覆い、モンスターがその血溜まりに沈んでいる。

 

「本当に人間か? ──っと……そうじゃねえなグズマ。今はそうじゃねえ」

 

 ナチュレに向き直る。

 ポケモントレーナーなどどうでも良いのだ。

 ゲーチスらの野望自体にも興味はない。

 集中しろグズマ。

 

 

 ──────

 

 

「ムーンフォース!」

 

 頭上に掲げられた満月のような光球はゆっくりと、確実にサザンドラを追尾する。

 回避を選択する事は敗北を意味するだろう。

 しかしゲーチスはそこまで未熟では無い。

 

「トライアタック」

 

 両者の中間で接触し、エネルギーの暴走による爆発を巻き起こす。

 

 ナチュレが指示を出せばそれに対応するようにゲーチスが指示を。

 ゲーチスが指示を出せば逆にナチュレが。

 均衡状態に陥っていた。

 だからこそナチュレは告げる。

 

「父さん、もう終わりです」

 

「ふむ」

 

 均衡はしていた。

 だが、パートナーの状態はどうだ。

 サザンドラは無理矢理に縛り付けられ、理性を剥奪されていた。その上で強化され、出力の上がった状態で戦っている。

 痛々しい、その一言に尽きた。

 

「僕の勝ちです」

 

「なるほど」

 

 見れば見るほどに、サザンドラが戦うべき状態では無いという事が分かる。

 体表の一部は焦げ、肉が剥き出しに。

 立て髪部分は無くなり、羽が折れている。

 それを見ても、ゲーチスの表情にはいっぺんの揺らぎも存在しない。

 軽薄な笑みを浮かべ、無慈悲に告げる。

 

「げきりん」

 

「サイコキネシス!」

 

 既に瀕死のサザンドラを無理矢理に動かそうとする。

 ダークボールによる洗脳ありきの、イレギュラーで異常な指示。

 

「これ以上戦えばサザンドラは本当に死んでしまう! やめてください!」

 

 いつもそばにあった彼らの声。

 物心ついた時から聞こえていたそれはナチュレにとって当たり前のもので、他の人には聞こえないと知った時は驚いた。

 知ってからは自分が特別な存在だと教えられた。

 モンスターと人を繋ぐ架け橋であると。

 

 大人のエコで子供が傷つき、モンスターが無意味に刈り取られていく世界で唯一争いを調停し得る存在だと思い込んでいた。

 結局それは嘘だった。

 ホンモノは別にいて、自らこそが争いの火種だった。

 そんなナチュレが今、できる事。

 

「ガ……カ……」

 

 サイコキネシスによって動きを封じられているサザンドラの声が聞こえてくる。

 

 くるしい

 あつい

 いたい

 たすけて

 幽閉された魂がもがき苦しみ、助けを求めている。

 

 ナチュレは誰かに助けてと言われた事が無かったことに思い至る。

 助けてと彼女から求めた事は2度だけ。

 口に出した事は無い。

 それでも彼女が心から願った時、彼らは確かに現れた。

 そして、奇しくもその2人はこの場にいた。

 

 1人は──自分が知る限り最強のプレイヤーである彼は、自分の戦いに邪魔が入らないようにしてくれている。

 

 そしてもう1人。

 父さん。

 

 

 ──────

 もりのなか、おなかがすいて、ねむくて、さむくて……しんぱいそうにまわりにあつまるみんな。

 でも、なにもできなくて……うつぶせになっていることしかできなかった。

 

 ──じゃり。

 

 つちをふみしめるおとがきこえた。

 ちかくでとまったそれを、なにかわからずに、なにもせずにいた。

 そしてきこえた、あたたかいこえ。

 

『もう大丈夫ですよ、これからは私が家族です』

 

 たとえそれが嘘でも、欺瞞でも、未来の野望の為でも、酷い目的の為だったとしても……その瞬間だけは、あの人は確かに自分にとっての救世主だった。

 

 

 ──────

 

 

「──おや、泣いているのですか?」

 

「…………」

 

 サザンドラだけじゃない。

 彼らを必ず解放してあげなくてはならない。

 この空間に満ちた苦しみを無くさなくてはならない。

 

「存外、人間としての機能を獲得できたのかもしれないですね……これもあなたの仕業ですかな? グズマさん」

 

「そうじゃねえ」

 

 彼がいた。

 グソクムシャに一時的に戦場を任せ、やってきたようだった。

 

「元から持っていたモノを取り戻しただけだ、自力でな。そんな事も分からねえからお前は勝てねぇんだ」

 

「勝てない? サザンドラ1匹倒したところでなんになるというのです?」

 

 ダークボールを見せびらかす。

 敗北感を与える為にあえて一対一を選んだが、その気になればいつでも捻り潰せたと。

 愚かな道化だけがそう考えていた。

 

 

 ──────

 

 

 殲滅までもう少し。

 横目でゲーチス達の戦いを見て、やり取りを聞いて、ポケモントレーナーは理解していた。

 そういう戦いなのだろう。

 あの2人はきっと試練を乗り越えたのだ。

 素晴らしい出会いがあって、素晴らしい贈り物があって、自分がしてきたソレに勝るとも劣らない、ポケットの中の世界のような旅をしてきた。

 その果てのラスボスこそがあいつだ。

 

 何故グズマがNと関わっているのか、それは青年にも全く分からない。

 アローラ地方とイッシュ地方。

 全く関連性が見えない。

 とはいえ、この時代はゲームの時代よりはるか先の未来。モンスターの種類も人間も、普通とは違う。

 そんな、本来のゲームでの活動地域なんて細かい事を気にしていたらやっていられない。

 

 ゼクロム、そしてレシラム。

 

 大事なのはその2体がいるという事実。

 真実を求める英雄と理想を求める英雄の前に現れる伝説のポケモン。

 一体はNだろう。

 ゼクロムが隣に降り立ったし。

 ただ、そうなると残りの一体が誰に対応しているかって事なんだけど……流石にグズマなんて事は無いよな……? 

 だってグズマって本来はアローラ地方の存在だ。

 流石に別の地方の伝説のポケモンを従えるなんてそんな無茶な事はしないと思いたい。

 そもそもビジュアル的に悪人だし、口調的にもチンピラ上がり。

 そんな大役を務められるはずがない! 

 ……なんかレシラムに指示を出しているようにも見えるけど、気のせいだよなあ。

 ──ん? 

 

「ぜぇ……はぁ……ビシャス様! 加勢いたします!」

 

「…………ちょうど良かった! 時間が必要です! その者達を足止めしなさい!」

 

「はっ!」

 

 雑兵がゾロゾロと……

 ブルー! レッド! 

 

「はーい」

 

「うん」

 

 お前らの力を見せてやれ! 

 真のポケモントレーナー! 

 

 

 ──────

 

 

 サザンドラが倒れ、ゲーチスは眉間に皺を寄せた。

 

「最初から英雄として私を倒すつもりだったと……そう言いたいわけですか」

 

 世界を焼き尽くすとも言われる雷が、ゲーチスの1m手前に放たれた。

 ナチュレの隣にゼクロムが佇んでいる。

 打ち滅ぼすべき敵は共有されていた。

 

「父さん──いや! ゲーチス! 僕の名前はナチュレ! 理想を求める者として、世界を破壊しようとするお前を否定する!」

 

「……行け、お前達!」

 

 放たれたモンスター達は一直線にゼクロムに駆けていく。

 

 ──豪雷が走った。

 

「うおあああ!!」

 

 ゲーチスが吹き飛ぶ。

 モンスター達は煙を上げながら、失神していた。

 

 ゼクロムは目の前の道化を覚えている。

 理想を唱えた英雄である主の敵。

 そして半身が真実を求める人間であると認め、我が主が付き従う英雄──白髪の男の敵でもある。

 それだけで滅ぼすには充分な理由だった。

 

 だが、ゼクロムには魂が見える。

 床に倒れている男のそれは……

 どす黒く、欺瞞に満ち、世界には何も無いと嘲笑う邪悪な黒だった。

 

「これが古龍……!」

 

 敵。

 理想をこそ至上とする自らと相入れぬ、醜悪な敵。

 対極たる真実からすら程遠い、正しくゼクロムとレシラムの天敵。

 思い出されるのは、駆り出された数多の戦場。

 かつて争っていた英雄達の裏にいた、不倶戴天の者達の姿。

 覚えている。

 ゼクロムとレシラムはそれを覚えている。

 

 理想を唱える英雄よりも、真実を求める英雄よりも、その後ろで笑っている奴らの方がよっぽど倒すべき敵だった。

 奴らは、風上の方が良いものであると嘯き、純粋な者達をそこに立たせて自らは影に潜んだ。

 

 英雄同士の戦いで自らが敗れるのは良かった。

 半身の一撃で身が焦がされ、墜落していくのはまだ認められた。

 勝ち残った英雄達は皆、影に潜む者達の言葉で堕落していった。

 自分は、そして半身は、英雄が堕落するのを最後まで見届け──雷鳴と灼熱の中に全てを沈めた。

 

 幾度も繰り返される争い。

 人類の最も醜い部分とともにあった2匹のポケモンは、だからこそ英雄を主とした。

 共にあるならば、煌めく彼らこそ。

 人の最も素晴らしい部分を持つ彼らこそが相応しかった。

 

 英雄と英雄が共に立つ。

 そんな事だって過去にはあった。

 理想と真実は、必ずしも仇敵足り得ない。

 始まりの2人がそうだった。

 ぶつかり、拳を交え、刃を交え、言葉を交える。

 繰り返される衝突の中にこそ相互理解があった。

 例え真逆の意思が魂にあっても、人は分かり合えるのだ。

 

 この2人もそうだ。

 

 真実の前に敗れた理想は、敗れて去る事はなかった。

 真実の中にこそ理想を見出したからだ。

 

 理想を打ち砕いた真実は、砕けた理想のカケラを一つ一つ拾い集めて行った。

 再び理想を抱けと肩を叩いた。

 

 思いよ実れと、手を取り合った。

 

 だからこそ……それこそ──

 

 

 ──────

 

 

 それこそが、お前らがいつまでも互いの近くにいる理由なんだな。

 ゼクロム、レシラム、やっと分かったぜ。

 真実を求めるからこそ、理想を求めるからこそ争って……最後に分かり合えたならそりゃあ、最高だ

 

 ゲーチス、ビシャス、お前らには分からないだろう。

 コイツらが何を信じてここにいるのか、分からないんだろうな。

 

 なにせ自分本位ってのは楽だ。他者の気分に左右されずに自分の行動を決めることができる。

 なんて言われようが関係無い、やりたいようにやっていれば人は勝手に着いてくるんだから……それをカリスマって呼ぶのかもしれないけどな。

 あとは、後ろに着いて来ただけの奴らに命じていれば全ては思いのまま。何も見えていない奴らに判断能力なんて無いから、言ったことをこなしてくれる。

 

 それじゃあダメなんだ。

 面倒くさくても、時間がかかっても、お互いのことを理解しなきゃトゥルーエンドには辿り着けない。

 フラグを一つ一つ拾って、アイテムを揃えて、ルートを理解して、道筋を整えなくちゃいけないんだよ。

 

 いやもう本当に……俺がどれだけ頑張って来たか、全部語ってやりたいぜ。

 免許証しか無かったんだからな! 

 どれだけ多くの試練を乗り越えて来たか分からん! 

 

「お兄さん」

 

「うん?」

 

「グズマさんって、お兄さんと少し似てるね」

 

「え゛」

 

「うへへ、そんな顔しないでよ〜褒めてるんだからさぁ」

 

 へにゃりと笑う。

 この笑顔に支えられて来た。

 本当に、ホシノがいなかったらここまで来れなかった。

 一緒に乗り越えて来た。

 

 ホシノ、レッド、アイリ、ナギ、ユカリ、リン、ノコ、ブルー。

 

 ……ホリィ、リンネ。

 あとは君たちがここにいてくれたなら。

 それなら何も言うことは無かった。

 

 

 ──────

 

 

「ゲーチス!」

 

「ぐっ……」

 

 追い詰められていた。

 そしてナチュレは確実に、この男を追い詰めていた。

 2体の古龍を前にして、もはや残っている戦力は雑兵が多数と、遥か下でチャンピオン達と戦っているナバルデウスのみ。

 その雑兵達も今はビシャスの壁になっているが、いずれ尽きる。

 

 それでもまだ詰んではいなかった。

 例えどれだけこの場で言い負かされようと、バトルに負けようと、本命はそこでは無い。

 黄金樹を安定させ、飛び込みさえすればその瞬間に勝利条件は満たされる。

 それを確かめようとビシャスを見て、固まる。

 

 ビシャスは焦ったような雰囲気で何かを打ち込んでいた。

 余裕綽々な先ほどの態度はどこへやら、メカニック共と一緒になって機械のあっちをいじり、こっちをいじり、ぶつぶつと呟いている。

 

「……何をしているのです?」

 

「おかしい……何だこれは……! おかしいぞ!」

 

 頻りに口に出す。

 何がおかしいのか。

 お前自身の様子が一番おかしいでは無いか。

 そう思い、オウム返しにする。

 

「おかしい?」

 

「──時代が固定されている!」

 

「あなたが固定したのでしょう?」

 

「違う! パスを安定させただけだ! 我々が乗り込めるように、無限の過去へと遡る道を作っただけだ!」

 

「それで?」

 

「まだ、我々の時代に至るための道標は建てられていない!」

 

「…………なら、誰が?」

 

「……まさか!?」

 

 誰かが干渉している。

 

 2人は同時に思い至った。

 しかし、目の前のガキどもを見ても困惑しているだけ。

 

「アイツら何してんだ?」

 

「焦っているみたいね」

 

「処す?」

 

「処さないで。そもそもあなたの出る幕じゃ無いでしょ」

 

 ビシャスと目を合わせる。

 何が何だかわからない。

 困惑の中にいる場の全員の耳に、小さな音が届いた。

 

 ピシリと、黄金樹にヒビが入った。

 

 

 ──────

 

 

 武闘大会二日目の夜。

 ホリィと一緒に長椅子でお好み焼きみたいなやつを食べている時だった。

 自分の身体が薄ーく引き延ばされていくような感覚を味わった。

 どんどん薄くなって俺自身の密度が下がり、拡散していくような。

 しかし、瞬きをしたら何も起きていなかった。

 

 感じるのは内に宿る熱。

 それは、あの時の──

 

「ワタル?」

 

「…………」

 

 ホリィの顔を見る。

 

「…………うん?」

 

 ホリィの顔を触る。

 

「わっ!?」

 

 もちもちすべすべだ。

 嘘みたいだろ。これ、本物の人間の肌なんだぜ。

 しかも触り放題だ。

 

「どっ、どうしたの?」

 

 フニフニと軽く揉む。

 そこにあるのは耳たぶのような柔らかさのパン生地のような柔らかさ。

 俺のような凡夫では到底辿り着けないであろう領域。

 全世界の奥様も奥歯を噛み締めること必至だ。

 

「もぉ〜……食べ辛いから、めっ!」

 

 はい。

 

「けっ! イチャイチャしおってからに!」

 

「ふふふ、そうですね……私も昔は……うぉおおおおおん!」

 

「お前のそれ弄りづらいねん!」

 

 スエゾーのビンタが炸裂した。

 しかしノーマルタイプなのでガストには当たらない。

 

「ずるいでガスト! ツッコミ殺しや!」

 

「ボケているわけではありません! うおおおおん!」

 

「スエゾー、ガストナカセル、ダメ」

 

「どこをどう見たらワイが泣かせたって見えるっちゅうんや!」

 

 地団駄を踏むスエゾーにヤジが飛ぶ。

 

「おい、またスエゾーがガストを泣かせてるぞ」

 

「あーあ」

 

「かわいそう……」

 

「ガストが幽霊だからって酷いぞー」

 

「……はいはい! スエゾーが悪ぅござんした! どうせワイはガサツで、意地汚くて、目ん玉が大きいだけです!」

 

「怒るなよ。ほら、これ食べて」

 

「そんな食べ物なんかで気良くするほどワイは単純ちゃうからな! …………もぐ」

 

「これも美味いぞ」

 

「……あむ」

 

「はい、スエゾーちゃん」

 

「……むぐ」

 

「これ食べなよ、目ん玉お化け」

 

「うむ…………って誰が目ん玉お化けや! ……なんや、トワかい」

 

「スエゾーって意外とエンジュに馴染んでるよね」

 

「そりゃあワイの取り柄はコミュニケーション能力の高さやからな」

 

 胸を張る(?)スエゾーをジロジロと見て、合点がいったと頷く。

 

「あー……よわっちいのはそういう」

 

「よ、よよよよよわっちいとか言うなや! 傷付くんやぞワイも!」

 

 わははと周りから聞こえる笑い声にビクッとしてトワに詰め寄る。

 軽くいなされ、特訓の成果が出てると喜ぶトワに翻弄されていた。

 

「な、何で追いつけへんのや!」

 

 

 ──────

 

 

 スエゾーに飽きたトワは2人のところにやってきた。

 

「トワちゃん、どうしたの?」

 

「リンネが1人でご飯食べてて可哀想だから誘いに来たんだ」

 

「ええ……」

 

「来ない?」

 

「行く! ──ほらワタル、急ぐわよ!」

 

「もご!? も、もご……!」

 

 あんなに頑張っているのに、あんまりにもあんまりなリンネの現状を聞いてホリィのママみが爆発した。

 ワタルの口に残りを急いで詰め込むと、早く飲み込むように促す。

 何だこの鬼畜!? とびっくりしながらも、ホリィの言うことに否定とかあり得ないので急いで飲み込もうとする。

 

「こっちこっちー」

 

「走っていくわよ!」

 

「モゴォォ……」

 

 俺は飲み込んでるんですが……

 という男の悲しい心中文など見向きもしないホリィ。

 手を引っ張ってズンズンと進む。

 下駄なのでそこまで早くは進めないが、口いっぱいに物を詰めて咀嚼しながら歩いている青年はそれどころではない。

 あちこちから見られていた。

 

「ワタルだ……何してんだあれ」

 

「どういうシチュエーションだよ」

 

「あれがこの街の守護者です、か」

 

「いやいや、親しみやすいようにああしてるんだよ。そうでなきゃあんなアホみたいな面しながらホリィちゃんと一緒にいるわけないし」

 

「あんなアホ面晒しながら街を歩くなんて普通なら恥で死にたくなるもんな」

 

「あははっ」

 

 言われ放題の自分を見て楽しそうなホリィ。

 そんな姿が眩しかった。

 日常に回帰する。

 それは彼女が無意識のうちに縛っていたこと。

 どこまでも自縛的で自罰的な彼女の、諦めていたこと。

 サバイバーズギルトに近いだろう。

 世界を救う。

 征服者ムーを倒す。

 人の身には過ぎた願い。

 村を滅ぼされた程度の小娘が持つにはあまりにも過分で、力不足なそれ。

 

 切り捨てなければいけなかった。

 弱さを。

 日常を。

 彼女の心の強さを見て、ワタルはすでに理解していた。

 あの子達も同じだった。

 何かを奪われ、強さと引き換えに失ったものがあった。

 

 人は弱い。

 誤差はあれど、デフォルトの強さは誰しも変わらない。

 心の強さとは即ち、それを得るに至る過程において試練を乗り越えたということに他ならない。

 彼女達は試練を与えられた。

 自分はそのそばに居て、やりたいようにやっていただけ。

 そして、自分は違う。

 己のそれは心の強さではない。

 心の余裕を持っているだけだ。

 ただ、物理的に強者であるから余裕を持てているだけだ。

 何かの試練を乗り越えたわけではない。

 青年はそう考えていた。

 

「ほら、急いで!」

 

 ただ、眩しい。

 子供達が無邪気に笑っていられる世界。

 それは、何て尊いんだろう。

 何て恵まれていたんだ。

 能天気に親の金でゲームを買って、学校に通って、飯を食って……

 例え他のみんなと少し違っても、そんなのは大したことなかった。

 ただ、笑っていた。

 ゲームの中の世界は無限に広がっていた。

 どこまでも。

 手が届かないくらいに。

 青年など及びもつかない、才能に溢れた人たちが作り上げた彼らの理想の世界だった。

 

「リンネさーん!」

 

 

 ──────

 

 

「ホリィちゃん、それにワタル?」

 

 どうしたの? と首を傾げるリンネにトワは身も蓋もなく告げた。

 

「ぼっち飯は可哀想だから連れてきた!」

 

「ぼっ……」

 

 ショックで固まるリンネ。

 確かに彼女の周りには誰もいなかった。

 

 ただ、勘違いしてはいけない。

 エンジュシティの人々はみんな、彼女に感謝している。

 尊敬している。

 しかし、女性として見た時には高嶺の花すぎるのだ。

 遠巻きに多くの男達がチラチラと見ている。

 大会で優勝しなきゃ求婚出来ないということもあり、暗黙のルールのようになっていた。

 

 ワタルはその光景を見て爆笑していた。

 

「ぼっち飯してんのか! ぶははははは! 町長がぼっち飯!」

 

「はぁああ!?」

 

 尻上がりに裏返る声。

 許せねえ、あんたは今再び私の心を裏切った。

 リンネの堪忍袋の緒をピンポイントでスライスしたワタルの首元がグワシと掴まれる。

 

「誰がぼっち飯よ! 誰が!」

 

「ぐ! え! え! え! え!」

 

 首の骨を折る勢いで揺らされるワタル。

 ギャーだのワーだの、さっきまで静かに夕飯を突いていた空間が一気に騒がしくなった。

 

「ふん!」

 

「怒るなって〜ほら、飴ちゃん食うか?」

 

「お夕飯の時にそんなもの食べないから!」

 

「じゃあリオレウスのタンは?」

 

「は、はあ?」

 

 そんなのあるの? と、チラッと視線を寄越すと満面の笑みで用意してあった。

 

「ず、ずるい!」

 

 ホリィが机を叩いて立ち上がった。

 

「探してたのに! やっぱり隠してたのね!」

 

「フォフォフォ、こういうのは得意なんじゃ」

 

「こんなに沢山あるなら、頂戴よ!」

 

「いやいや、みんなで分けるから良いんじゃないか」

 

 え? これどこから持ってきたの? 今買ってきたんじゃないの? 

 ワタルとホリィのやり取り的に、ワタルがどこかに隠していたらしいんだけど……食べても良いの? 

 

「あ、あの〜私は良いからホリィちゃんが……」

 

「おいおい、せっかく用意したんだから食べろよ」

 

「むぅー!」

 

「いででで、いでで」

 

 頭をポカポカと叩くホリィをどうどうと宥めながら差し出してくる。

 

「……本当にいいの?」

 

「良いよ、それにホリィの分もちゃんとあるって……ほら」

 

「──え!? 今どこから出したの!?」

 

 リンネは一連の動きが全く見えなかった。

 瞬きする間もなく皿が現れたように見えた。

 

「イリュージョンだ」

 

「わーい!」

 

「むひょひょ!!」

 

 ワタル大好き! と抱きついてくるホリィにデレデレしながら、隠していた理由を話す。

 

「肉は熟成させると美味いって聞いた事があるからこっそりやってたんだよ。アミノ酸がどうのって……細かいことは覚えてないけど、試しに食べたら美味かったしいけるはずだ」

 

「なんで私にくれるの?」

 

「いつも頑張ってるご褒美」

 

「……あ、ありがと、ございます」

 

「片言でワロタ」

 

「うるさい! ……でも、なんでこのタイミング?」

 

「リンネ、頑張れよ」

 

 そっと、リンネだけに聞こえるように言った。

 

「え?」

 

「お前ならできる」

 

「なにが?」

 

「お前なら、未来を作れる」

 

「や、やめてよ……気味悪い」

 

「そうだな、悪い」

 

 薄寒いものを感じた。

 まるで、自分はそうでは無いと言っているようだった。

 ムシャムシャと肉を頬張るホリィの頭を撫でながら、空を見上げていた。

 釣られて見上げると、お月様。

 

「月が綺麗だ、そうは思わないか?」

 

「ええ……そうね」

 

「空を見上げた時に同じものがあると安心するって、この世界に来たとき初めて知ったよ」

 

「世界?」

 

「ああ、俺は別の世界からこの世界にやってきた」

 

「…………えっと」

 

「その世界ではポケモンっていうこの世界に似たようなゲームがあって、それが好きだったんだ」

 

「………………」

 

「子供の時に聞かせてもらう物語があるだろう? 俺はその世界の中にやってきたんだ」

 

「待って……ちょっと、お願い……」

 

「ピカチュウやレッドと出会えて、すげえ嬉しかった」

 

 照れたように笑う青年。

 そこから感じるのは少年のような心だった。

 エンジュシティの守護者として認められている戦士ではなく、憧れを語っている等身大の人間がいた

 でも──何故だろう。

 リンネには、それがとても寂しく思えた。

 

「お願いだから待って」

 

「なんだ、気分よく話させてくれよ」

 

「なんでこのタイミングでそんな事を話すの?」

 

「さあな」

 

「教えて」

 

「……はぁ〜もう、リンネちゃんは本当にしょうがないねえ」

 

「…………」

 

「知らねえ!!!」

 

 ドンッッッ!! 

 

「今、この瞬間に話すのが1番良いと思ったから話すんだよ」

 

「あのさ……」

 

「町長さんみたいに頭のいい人には分からんだろうがなあ、俺はフィーリングで生きてるんだ」

 

「……その呼び方やめて」

 

 すごい不快だった。

 そう呼ばれることもあったけど、こんな不快な気持ちになったのは初めてだった。

 

「ワタルの言っていることを一々真に受けてたら頭おかしくなっちゃいますよ!」

 

 ワンポイントアドバイスのプロ、ホリィが人差し指を立てた。ここ、テストに出ますよ。

 

「はっはっは! そういうことだ!」

 

「タン美味しいでしょ?」

 

「それは、うん」

 

「そのタンだって、この人がやりたいようにやっているだけですから」

 

「おふっ」

 

 ワタルの脇腹をツンとつつく。

 一緒にいて、その性質はバッチリ把握していた。

 目を離すとどこかに行ってしまうだろうことも。

 だから、ホリィはずっと見ている。

 ばちこり見ている。

 

「そう……」

 

 リンネは、ホリィと自分が逆ならどうだっただろうと想像せずにはいられなかった。

 出会った順番が逆で、彼と長くいたのが自分だったならどんな関係になっていただろう。

 街の守護者と町長なら、一緒にいてもおかしく無い。

 武闘大会だって、たちまちのうちに優勝するだろう。

 人の限界とも言える彼の能力なら武術などいらない。

 彼と相対する自分が想像できた。

 彼はその時、どうするだろう。

 リンネに勝って、どうするだろう。

 ──ただの夢想、意味の無い事だ。

 

「リンネ!」

 

「え?」

 

「せっかくの祭りだ! 遊びに行こうぜ!」

 

「え……え……でも、見回りが……」

 

「うっせえぶっ飛ばすぞ!」

 

「…………」

 

 閉口する一同。

 遠巻きの男達もドン引きしていた。

 

「俺が来いっつったら行くんだよお!」

 

「……はいはい」

 

 その強引さが嬉しかった。

 

 

 ──────

 

 

「わたあめ、久しぶりに食べたかも……」

 

 俺もだわ。

 

「私は10年ぶりくらいだけど、ワタルは?」

 

 うわ出た! なになにしてないマウント! お前そういうところは子供だな! 

 

「な、何よ、いいじゃない……」

 

 あーごめんごめん……同年代とこういう風に話すの久しぶりだなって意識したら、なんか調子がな……

 

「え〜……」

 

 何で嘘ついてるだろみたいな顔するんだ!? そんなに目細めなくてもいいじゃん! 

 俺の仲間って全員俺よりも4歳以上年下とかだぞ! 流石に同年代と話してる気分にはならねえよ! 

 

「私が年増って言いたいの?」

 

 なんでそうなる! 

 お前、同年代と話した事あるんだよな!? 

 

「…………」

 

 あーもう! 

 ご趣味は! 

 

「しゅみ……しゅ、しゅみ……」

 

「にいちゃん……」

 

 泣きそうな顔すんな! 

 まだあるはずだ! 

 リンネの何かが! 

 

「……あの、別に無理して探さなくても良いというか……むしろそれで何も出てこなかったら私には何も無いという事が確定するんじゃ……」

 

 顔が良いし性格も良いんだから既に文句無しだろうが! 

 

「う……」

 

 この程度で照れてんじゃねえ。

 大体お前、町長ならそういうの慣れてるはずだろ。

 社交辞令とか。

 

「社交辞令、なの?」

 

 いや、違うから。

 そんな眉尻下げないで? 

 俺は本気でリンネのことが綺麗だと思ってるから。

 

「──良かった」

 

 ▂▅▇█▓▒░(’ω’)░▒▓█▇▅▂ウワァァァァァァァァ‼︎

 

 こ、これが聖者の放つ後光!? 

 なんて優しい笑顔なんだ……恐ろしや、リンネ。

 

「お、恐ろしい!?」

 

「兄ちゃん!」

 

 全然恐ろしく無いです。

 ……ん? どした? 

 

「…………」

 

 こ、この顔……

 やだ、かわいい! 

 ホリィが嫉妬してるぞ! 

 左の袖を掴んで頬を膨らませてる! 

 

「……」

 

 あ、ちょっとだけ機嫌なおった。

 左腕が残ってたら抱き締めてたところだけど、無いから仕方ない。

 ……左腕が欲しい! 

 

「兄ちゃん、これ欲しい」

 

 うん? 

 ……ああ、お面とか売ってるんだ。

 良いよ、どれが欲しいんだ? 

 俺のおすすめはこのバッタのお面だな。

 

「え〜……センス無ーい」

 

 うそーん!? 

 古くから続くヒーローの原典なのに! 

 ただのバッタの顔だから仕方ないけど、なんかショックだ……

 

「ワタル、気持ちは嬉しいけど私がお金出すから」

 

 俺からトワを甘やかす機会を奪わないでもらっても良いか? 

 

「でも……」

 

 あのさあリンネ……そういうところだぞ。

 

「え?」

 

 カッコつける機会をくれよ。

 お前が良いところばっか見せてたら男なんかすぐ萎縮しちまうんだから。

 

「う、うん……じゃあ、お願いします」

 

 その調子だ! 

 ユカリみたいな大和撫子を目指せ! 

 

「……ばか」

 

 なんでや! 

 

「はぁぁ……」

 

 おい、ため息つくな! 

 そのうち刺されるよってのはもう良いんだよ! 

 

「ワタルに期待した私がバカだったのかな」

 

 あまりにも失礼が過ぎる。

 ホリィさんもそう思いませんのこと? 

 

「ふーんふーんふんふーん」

 

 楽しそうだね君……

 

 

 ──────

 

 

 準決勝当日! 

 実況席に座らされたのは最初だけだった。

 VIP席にホリィとトワとリンネ、後モンスター達と一緒。

 いやあ、ここまで長かった。

 32人から28戦、1日4戦で1週間。

 男と男が全力を賭して戦う……その素晴らしさたるや! 

 

「兄ちゃんもこういうの好き?」

 

 そりゃあ俺も男ですから。

 頭空っぽにして興奮するの大好きだ。

 

「ふーん、自分より弱いのに?」

 

 そういうのは関係無いから……

 

「でも兄ちゃんも戦うんだよね?」

 

 挑戦は出来るけどしなきゃいけないわけじゃ無いし、スルーしてリンネと戦ってもらっても良い。

 プライドが許すかは別としてな。

 

「ねっ! ねっ! ちなみにさ!」

 

 お、おう。

 

「大会とわたしだったら兄ちゃんはどっちが好き!?」

 

 一択じゃん。

 

「どっち!?」

 

 そもそもトワと比べられるほど優先順位高いものってあんま無いっていうか……武闘大会は別に優先順位高くないからな。

 

「じゃあ私とリンネは!?」

 

「…………」

 

 や、やめろリンネ……俺をそんな目で見るな……

 

「どっち!」

 

 ……うぐっ! お、お腹痛くなってきた! 

 これはあれだ! どっちが好きか答えたら死ぬ病になっちゃった! 

 

「こたえろー!」

 

 い、嫌じゃあ! 針の筵は嫌じゃあ! 

 

「怒らないから!」

 

「うんうん」

 

 というか試合に集中しろよ! 

 もう戦ってるんだから俺も集中したいんだけど!? 

 ほら、あの人とかトワだって参考になるだろ? 

 

「えー……でもなんかハゲてるし……」

 

 おまっ、なんて事言うんだ!? 

 あの渋さが良いんだろうが! 

 

「どこがぁ?」

 

 か、感性が違う……

 

「あの人がそんなに強かったらリンネがあの人と結婚しなくちゃいけないかもしれないよ?」

 

 まあそこはリンネ次第だよな。

 

「私嫌だよ、リンネがハゲと結婚するの」

 

 あの……周りのお父さんが少し傷付いてるからそこらへんに……気持ちはわかるけどさ。

 リンネの家に遊びに行ったらハゲのおっさんが出てくるの、すげえ微妙な気持ちになりそう。

 

「でしょ!?」

 

 うん。

 まあ、人の好みにとやかく言うつもりは無いからそれもまた選択だよ。

 

「あの……私はハゲた人は好みじゃ無いんだけど……そもそもワタルが好きだって話でしょ? あの人」

 

 まあな。

 カッケェよな、ああいうの。

 

「ワタルは今のままが良いと思うよ」

 

 俺も自分がツルッパゲにした時にかっこいいとは思わない。

 今のこのざっくばらんな髪型がいっちゃん合ってる。

 

「でも、ずっとそれだけど飽きないの?」

 

 飽きないね。

 

「流行の髪型とか……」

 

 こっちの流行とか俺の肌に合わねえよ。

 整ってりゃ良いんだ。

 リンネはショートにはしないのか? 

 

「ショートのほうが良いかな?」

 

 一度見てみたいけど、長くするのが大変だろ。

 トワはどう思う? 

 

「えー? 兄ちゃんが決めなよ」

 

 決めるのはリンネなんだよなあ……

 

「どっちが良い?」

 

 俺はポニーテール好きだから、それに近い今の方がいい! 

 

「そうなの?」

 

 そういやホリィにも言ったこと無かったな。

 俺はポニーテールが好きなんだ。

 なんかこう、揺れてるのが目に入るとすげえ心がぴょんぴょんする。

 

「揺れてるのが」

 

「目に入ると」

 

「心がぴょんぴょんする?」

 

 な、何だお前ら揃いも揃って…………いや、違うから。リンネの胸の話はしてないから。

 ポニーテールって言葉が聞こえなかったのか? 

 

「兄ちゃんさいてー」

 

「ホリィちゃん、ワタルって意外とムッツリなの?」

 

「うーん……」

 

 こ、こんなのは許されないんだよ! 

 冤罪なんだよ! 

 ムッツリとか失礼なんだよ! 

 そもそも俺にはナギ達がいるんだよ! 

 浮気はしないんだよ! 

 

「え?」

 

 うん? 

 

「ナギって確か……」

 

 仲間だけど。

 

「ホリィさんは?」

 

 仲間だけど。

 

「え?」

 

 なんだよ。

 

「それだけ?」

 

 はい? 

 

「浮気って、つまり……」

 

 一応、ナギ達とは付き合ってるから。

 

「……そう」

 

 まあ、あいつらがいるのは遠い場所だ。

 それにもう会えないし、紹介できないのが残念だ。

 

「え…………」

 

「──」

 

 リンネ、さっきからどうしたんだ? 

 ホリィもそんな顔して。

 変だぞ。

 

「ワタル、どういうこと? ホシノさん達と2度と会えないって……私、そんなの聞いてない」

 

 ああ、言ってないからな。

 

「何で……」

 

 おいおい、そんな暗い雰囲気やめてくんない? 

 しょうがないじゃん? 分かっちゃったんだから。

 もう俺は繋がってない。

 帰るべきじゃないんだ。

 

「でも、ホシノさん達はあなたの事を待って……」

 

 ……そうかもしれない。

 でも、何となく違う気がするんだ。

 そして俺の感覚は残酷な事に、いつだって正確だ。

 

「また眠れば……目を覚ませば……その為に頑張ってきたんじゃないの?」

 

 ホリィ、どうしようもないことはあるんだ。

 ムーを倒すことなんかよりよっぽど難しい事だって世の中にはある。

 俺には何も変えられない。

 ただ力を与えられただけの人間には、根本的な事を変える力は備わっていない。

 もしもそんな力があるなら、チートなんかには頼ってないんだから。

 

「その手で……私達を助けてくれたのに……!」

 

 

 ──────

 

 

 月夜、並び立つ2人。

 光り輝く勾玉は、遠き空を指し示していた。

 紋様が煌々と浮き出る。

 

「明日……」

 

「そうだ、明日だ」

 

「私……は……」

 

 迷いがあった。

 本当にこのまま彼を戦いに引き摺り込むのか。

 自分の願いは永遠に叶わないと、彼自身が諦めていた。

 それでも戦うと言ってくれた彼を、言われるままに面に立たせる。

 そんな事が許されるのか。

 

「ホリィ!」

 

「っ……」

 

「俺は楽しかったぞ! お前はどうだ!」

 

 ホリィは、笑ってそう言うワタルの顔を直視できなかった。

 

「──楽しかった、です……」

 

 楽しかったから。

 日々が笑顔に溢れていたから。

 だからこそ、青年は覚悟を決めた。

 

「じゃあ、わかるな?」

 

「…………」

 

「旅路には終着点が必要なんだ」

 




ポケモントレーナー(ワタル)
23歳

ホリィ(原作:モンスターファームシリーズ)
16歳

リンネ(原作:ViVid Strike!)
21歳
ビジュアル:リンネ・ベルリネッタ

トワ(原作:半妖の夜叉姫)
12歳
ビジュアル:日暮トワ
銀髪ポニテ
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