現世に帰還すると、シンリンカムイが微妙な表情でポケモントレーナーを迎え入れた。
「カムイさん、久しぶりだな」
「……ああ」
「やつらは?」
「それが──」
ゲーチスとビシャスが忽然と消え去ったことを伝える。
深刻そうな顔をするカムイに反して、ポケモントレーナーは頷いた。
「そういう事もある、悪党ってのは往々にして逃げ道を何個も用意しているからな」
「しかしだな」
「また現れるなら、そのときは何度でもぶちのめしてやろうぜ」
「──そうだな、そうしよう……それで、例のモンスターは?」
「ムーなら消滅した」
「消滅……ならば、終わったということだな」
「ああ、終わったよ」
「彼は?」
チラッと視線を向けた先には、明らかに目の前の青年と同じ顔をした男が一人。
ホシノたちに囲まれ、談笑している。
「アイツは俺だ」
「うん?」
「ちゃんとした説明は俺も出来ないんだ、色々と複雑で……」
「君は本当に懲りないな」
「俺のせいじゃ無いけど!?」
改めて、展望台のあった場所から見下ろす。
人類の栄華。
発展の象徴。
植物と人工の材料を相互に組み込むことで作り上げた、あり得ざる高さの建築物。
それが、見事なまでに破壊し尽くされていた。
ここまでくればいっそ気持ちがいいくらいだ。
「ここからどうするんだ?」
「…………君に全部任せてもいいかな」
「嫌だけど」
「我も本当に嫌なんだが」
「お給料貰ってるくせに文句言ってんじゃねえ」
「ならばやってみればいいじゃないか」
「いきなりそんな重役みたいな立ち位置任されて熟せるわけないでしょうが」
「リッカ君などは君より若くとも立派に四天王を務めているし、アスナ君も若いぞ?」
「……ナギもジムリーダーだったな」
「そうそう、だから君も──」
「それとこれとは話が別なんだよ!」
なんかこう、違くない?
就職はしたいけど、この流れは絶対に違う。
というか、カムイの下で働くのが嫌だ。
絶対こき使われるのが目に見えてる。
それに──
「世界は広いからな」
「旅を続けるのか?」
「目標は達成したけど、まだ俺は世界を見終わってない。それにレッドとも約束したんだ、目的を達成しても一緒に旅をするって」
「君らしいな……しかし、もう一人の君はどうなるんだ?」
「あいつは…………」
──────
「楽しそうね」
「……はい」
胸中を覆う歓喜。
そして喪失感。
全てが完遂された。
ホリィが望んでいたことは全て叶えられた。
マガタマを揃える。
ヒノトリを復活させる。
ワルモンの洗脳を解き、イイモンに戻す。
ムーを倒す。
そして……彼を元の世界に帰す。
目の前で少女たちと本当に楽しそうに過ごしている彼の姿こそ、ホリィが望んだ最も大きなものだった。
やっぱり彼にとって、帰るべき場所はこの世界だった。
「ここが……ワタルのいるべき世界、時代なんだ」
嬉しそうな彼を見ると、少しだけ寂しい。
彼が言っていた。
旅には終わりが必要だと。
ワタルとの旅は終わり、それぞれの人生を歩む時が来ただけ。
ただ、それだけのこと。
「……ホリィちゃん」
「はい」
「それでいいの?」
「私には何の権利もありませんから」
チクリと、痛みが走る。
「帰ったら、ちゃんと住む所を考えないといけませんね!」
「ホリィちゃん……」
口から言葉を発するたびに、ズキズキと心臓が痛くなる。
「ほら、リンネさんもそんな顔してないで喜ばなきゃ!」
「だって……ここが彼の帰る時代じゃないですか!」
自分が喋っているのに、自分の口から出ていないみたいな感覚だった。
「最初から、この時代に帰るって話だったんですから!」
「だ、だから……私たちは……元の時代に、帰るんです……帰らなきゃ……いけないんです」
命を助けられて、旅をして、街を救って。
夢のような時間だった。
一緒に歩いてくれる人がいるだけで、あんなに心強いなんて思いもしなかったな。
しかも、ただの男の人じゃなかった。
遠い時代からやってきたヒト。
マガタマをその身に宿し、世界を救ってきた人。
ポケモントレーナーを名乗った時は旅芸人か何かなのかと思ったけど。
多分、私とワタルが出会うのは運命だったんだと思う。
だってそうでしょ?
あの日、あの丘で、腕を枕代わりに頭の後ろで組んで、ワタルは寝ていた。
私がたまたまそこを通りがかって仲間になるなんて、都合が良すぎる。
偶然にしては、上手くできすぎだった。
まるで蛍のように、グリーンスカイロッドの周りをセレビィが飛んでいた。
フワフワと。
こんな大きな樹、見た事ない。
未来って凄い。
そして、光の柱がその真ん中を貫いてお空までぐーんと伸びている。
これが、この星の記憶そのものらしい。
遠い時代まで旅をするのにはとても大きなエネルギーが必要で、本来ならセレビィでも行き来は簡単には出来ない。
でもこの柱があるおかげで、今ならどんな時代にも行くことができる。
ポケモントレーナーの彼はそう言っていた。
それが意味するのは、私たちが帰るならばこのタイミングが最適ということ。
まだライフストリームの爆発が収まらず、エネルギーが解放され続けている今なら。
でも、足が動かない。
セレビィに頼めば今すぐにでも連れて行ってくれるだろうに、口が開かない。
私は、なんて弱くなったんだろう。
もともとスエゾーと二人きりで旅をしていたのに。
その時に戻るだけなのに。
怖い。
仲間から引き離されて、片腕を失くして、それでも前を歩いてくれた彼がいなくなるのがとても怖い。
私は、これから何をすればいいの?
「ホリィ」
──────
「──どうやら、成功したみたいだな」
握っていた拳を下ろし、隣に座り込む男に尋ねる。
座っている男の額には玉のような汗が浮かんでいた。
剣をほっぽらかして、手をヒラヒラと動かして風を顔に送る。
「疲れた! 今日はもう働かない!」
ハンサムはダミ声でそう宣言した。
周囲には、地面で伸びているリッカやダツラがいる。
やはり総力戦だった。
あの時と同じ、古龍の底知れぬ戦闘力を思い知らされた。
「も、もう、コイツなんなの……?」
勘弁して、とでも言いたげな声でメタグロスと背中合わせのダツラ。
四天王とチャンピオン総出で、これ。
しかも、まだ余力を残しているときた。
前回はもう少し楽だった、とダツラは思い返していた。
当時リッカはいなかったが、キングゥが火力不足なわけでは無い。
シンプルに生物としての格差なのだろう、というのが見立てだった。
その超生物は、先ほどまでの威圧感はどこへやら、水槽の中で揺蕩っている。
そんな怪物を沈めた聖女がいた。
穏やかな笑み。
口元だけが笑った、ともすれば冷たいとも表せる美しさを備えた、中性的な美少女だった。
緑色の髪が特徴的で、良く目立つ。
そして、大柄な青年がそばに立っている。
趣味の悪いサングラス、趣味の悪いシャツ、趣味の悪いパーカー、ガラの悪い人相。
あまりにも不釣り合いで、あまりにも報告通りだった。
「四天王のくせに情けねえ」
「……グズマ君、そういうことを言うものじゃないよ」
「けっ」
「あー、お二人さん聞いてもいいか?」
「なんですか?」
少女が堂々と答える。
明らかに青年の方が年齢が上だろうに、その青年は後ろで我関せずと立っていた。
協力を持ちかけたの自体は二人の方からだった。
白の古龍の背中に乗ってやってきたナチュレは、戦っている四天王たちを横目にチャンピオンに話しかけた。
リュウは二人を目で捉えながら水流を全て弾き落とし、十分な空間を作り出す。
そこに着陸するとレシラムは戦いにすぐさま合流し、ナチュレは端的に告げた。
『こんにちは、僕はNと申します。この戦いに協力したい』
『N──ああ、アッシュ地方の……協力なら助かるが、どうするつもりだ?』
『僕が鎮める。だからあなた方には、僕をナバルデウスの近くまで護衛してほしい』
『…………承知した』
本来ならば、そんな抽象的な言葉を信じるべきではないのだろう。
どうやって鎮めるのか。
その仔細を聞き出すべきなのだろう。
しかし、リュウは直感を信じた。
すぐさまハンサムと共に先頭に立ち、障害を破砕しながら突き進んだ。
リュウが弾き切れない余波はグソクムシャが弾きながら。
『凄まじいね、チャンピオン』
『そりゃあチャンピオンだからな』
『……君が素直に認めるなんて、本当に凄い人なんだね』
『昔なら兎も角、今はそこまでガキじゃねえよ』
少し時間はかかったがナバルデウスの至近距離までやってきた。
そして、リュウとハンサムに感謝を告げる。
『ここから先は、二人だけで大丈夫です』
『……本当に大丈夫なのか?』
『リュウくん、信じよう』
『ふむ……分かった』
そして話しかける。
無防備なまま。
『あなたがナバルデウス、大海の守護者だね』
『──オォォォォォォォ』
遠い汽笛のような声。
理知的な瞳でナチュレを見据える。
海面からうねり上がる、触手のような水柱が一時的に動きを止めた。
この矮小な存在は自らと対話を行うことができるのだと察した。
『話をしにきた』
巨大な目を細めた。
すでに戦闘は始まっている。
それを理解した上で対話を選ぶ。
どれほど愚かな選択か。
『あなたが抱いているのは、戦意では無い』
『………………』
そう。
戦うことは本旨では無い。
帰るのだ。
我が故郷へ。
母なる海へ。
変わりはしたが、変わらなかった海へ。
『あなたの願いを──』
放たれた一撃が、柔らかな頬を掠めた。
次、下らないことを言ったなら頭が吹き飛ぶぞという警告。
しかし、ナチュレは顔色を変えずに言い放つ。
『願いを教えて欲しい』
『オォォォォォオオオオオオオオオオ!!!』
『ギガフレア!』
バハムート。
竜種の頂点に位置するモンスターの放った一撃が、殺到した激流を相殺した。
弾けて、雨に混じる。
そして雨の中にあって尚、紛れることなく、滝のように降り注ぐ水。
太古の昔から繰り返される、龍と竜の戦い。
人種が介入するのは容易では無い。
『──それでも!』
少女はかつて、モンスターと人の架け橋になりたいと願った。
それがどれほどの難しさなのかは、語るまでもあるまい。人ですら、気持ちが分かったところで対話ができるとは限らない。
子供が抱いた、純粋な願い。
難しさなど微塵も考えられていないそれは、だからこそ理想として正しく、叶える価値があるのだ。
偽りの冠を与えられるべく育てられ、人としては未熟なままの彼女は、未だ人として幼いままだからこそ、その願いをまだ胸の内に秘めていた。
それを解き放った。
夢を叶えるために。
その果てに、この結果があった。
Nって……ひっでえ名前だな、と思いながらダツラが尋ねる。
「えーと、嬢ちゃんはモンスターの気持ちが読めるんだよな?」
「そうですよ」
「で、アイツとは結局どんな話をしたんだ?」
「はい、海に帰してあげると約束をしました」
「──でええええ!?」
「はい」
「……まじか……まじで?」
チラッとナバルデウスを見ると、こちらを見返している。
そんなの確約できるものでも無い。
しかし、そういう約束で戦闘が収まったのだ。
この場で否定出来るわけが無かった。
「もし、それが出来ないなら僕たちもナバルデウス側について戦います」
「ええ…………ん? 今、僕『たち』って言ったか?」
「言いましたよ」
ニッコリと、グズマの腕に抱きつくナチュレ。
グズマは特に否定しない。
沈黙は肯定なり、そういうことだ。
「おいおい……」
冗談じゃ無いぞ、と頭を抱える。
アッシュ地方のチャンピオンを倒したNと、そのNを倒したグズマ。
記録は無いが、アホみたいな強さに違いない。
その二人があの怪物と手を組むのは洒落にならない。
「とりあえず、この件は一旦持ち帰りだ」
「ナバルデウスにも、今すぐは無理って伝えてありますから」
「ありがてえ……なら、とりあえず上に行くか」
──────
ワタルは最後にレッドと話をした。
ホリィの時代だけじゃ無い。
彼が人間としてこの世界に現れてからの、全ての旅の始まり。
その彼女とは最後に話をするべきだと、そう思ったからだ。
そして、お願いをした。
「レッド、良く顔を見せてくれ」
「わかった──ふみゅ」
ほっぺを両手で挟んでムニムニと弄ぶ。
柔らかな感触を楽しみ、おもちゃにしていた。
当然、レッドから抗議が入る。
「にゃにするにょ」
「ははは」
レッドは、いつも着けている赤い帽子を外して、纏めて中に収めている髪を晒していた。
青年と同じ黒。
ざっくばらんに切る青年とは違い、腰と肩の間まで届く長い髪。
太陽光を受けてダイヤのように輝くそれを撫で、言い含む。
「レッド……ナギたちの言うことをちゃんと聞くんだぞ?」
「うん」
「リザードンとあんま喧嘩するなよ?」
「うん」
「それに、ちゃんと歯磨きするんだぞ?」
「やだ」
「……そこはうんって言ってくれよ」
「お兄さんが磨いてくれるでしょ?」
「──そう、だな」
その反応からレッドは何かを感じ取って、眉尻が下がった。
あんまり良くない予感がした。
「──お兄さん?」
ポンポンと頭を軽く叩くと立ち上がり、ポケモントレーナーに目線で合図を出す。
カムイを引き連れてやってきたポケモントレーナーは、困惑する他の仲間たちを無視して自分自身と会話をする。
場にはすでに、チャンピオンたちも合流していた。
ナバルデウスの件はもう大丈夫らしい。
「なんというか……俺の身体に腕があるのは妙な気分だ」
「よく分かんねえけど、お前が自分で治したわけじゃ無いのか?」
「……それは内緒にしておくわ」
「内緒てお前」
「何が起きたか、いまいちわかんねえんだよ俺にも」
「……まあそうか」
正確に説明出来る自信が無い。
この一連の流れについて、両者の見解は一致していた。
だからこそ、中途半端な説明は混乱を招きかねないと、回答を拒絶した。
二人は、世界を見回した。
素晴らしい世界を、この高さから見る機会などそう多くは無い。
それも自分自身となど、普通はあり得ないだろう。
「アイリもレッドも、目的自体は達成した」
「ホリィもな」
ミッションコンプリート。
三人を見ると、三人ともが不思議そうに首を傾げた。
「……結局、なんで俺たちはこんなところに来ちまったんだ?」
「神様も分からないってんだから、考えても仕方ねえ……とも言い切れないんだよな」
「ポケットモンスターの世界って事は──少なくとも俺たちの世界と、そういう意味での繋がりはある」
「じゃあ、何が俺たちと世界を繋いだんだ?」
「「………………わかんねえ」」
全く同じ結論に至り、苦笑する。
「俺たちの頭じゃ、これが限界だな」
「限界が低すぎる……俺たちの脳みそ、貧弱すぎないか?」
「うるへー! 大学卒業すらしてない奴の脳みそなんてこんなもんだろ!」
軽口を叩く二人は兄弟のようだった。
気心が知れた、どころでは無い。
お互いが何を言うか正確に推測される会話は、予定調和通りに進んでいく。脳内で一人漫才をしているのと大して変わらない故に、ポンポンと言葉が出てくる。
「久しぶりにポテチが食いたくなってきた」
「動画でも見ながらソファでのんびりな」
「懐かしいなあ」
「もう、何もかもが遠い過去に成り果てたけどな」
「うぅん……帰りたいとは違う、この懐かしいって感情はなんなのかね」
「はっ、おセンチな感情ってのはいきなり湧いてくるもんだ。見覚えのある光景を見りゃあ、当然だろ」
「見覚え!? かーっ! 見覚えと来たか! いや〜ポケモントレーナーさんは流石の記憶力だあ!」
「お前はなんも思わないのか」
「そりゃあお前……」
画面上では何度も見た。
戦いを終えた証。
仲間が並び、四天王が並び、チャンピオンがいる。
「殿堂入りだな」
「ああ」
「……本当に、長い旅だった」
脚を見る。
腕を見る。
かつての自分とは似ても似つかない。
筋肉の量が、多くの傷が、肉体に刻まれていた。
そして、肩口の新たな傷。
最後に二人を隔てた分岐点。
「もう痛みはねえのか」
「ああ、勾玉と一緒に持ってかれた!」
「…………もう、いいのか」
ポケモントレーナーの顔が暗く沈んでいた。
ワタルとしては、自分自身からそんな感情を向けられても微妙な気持ちになるだけだった。
「変な顔すんな、せっかく平和に終わったんだから」
「……こんなの喜べねえよ」
「俺だって嬉しかねえよ……でもさ、これが俺たちのゲームクリアーなんだ」
「ゲーム、クリアー……」
「ストーリーはここまで──ここから先はやり込み要素、エンドコンテンツでしかねえだろ?」
「…………」
「しっかりしろ!」
項垂れるポケモントレーナーの肩を揺さぶり、叱咤を投げかける。
「お前はポケモントレーナーなんだぞ!」
「!」
「素直に認めてくれよ」
「そう、だな」
「後のことは任せたぞ」
右手を差し出す。
「──任された」
返された右手。
ポケモントレーナーは手を握り、顔を強張らせた。
ワタルの感情が入り込んでくる。
それが表情の制御を難しくしていた。
自然と、涙が流れ出していた。
「おいおい、泣くんじゃねえよ」
「うるせえ! こんなの卑怯だろうが! ……むしろお前が泣けよ!」
「はっはっは! 覚悟する側ってのは泣かねえんだ!」
「あー、くそ…………何か言うことあるか?」
「もう言い切ったさ」
「そうか、じゃあ……お前も、あの子をよろしくな」
「任せろ!」
手を離し、歩いていくワタル。
目を拭うポケモントレーナーの元にレッドが歩いてきた。
「もう一人のお兄さん、どこか行っちゃうの?」
「……少しだけ遠いところにな」
「もう会えない?」
「結構難しいかも」
「そんな……せっかくツインお兄さんシステムが完成すると思ったのに……」
「何を言っているんだお前は……」
意味の分からない事で落ち込んでいるレッドの話を詳しく聞いてみると、人数が多すぎて構う時間が……的なことを気にしていた。
まあ……うん……それは旅の当初から抱えていた問題というか、慢性的な問題というか……本当に今更だな。
それで、俺が二人いれば時間が2倍! とかいうアホみたいな計算をしていたらしい。
あーあ、俺がもう一人いればなー、とか考えたことあるけど、実際にいるってなったら気まずすぎてそれどころじゃない。
「ぶー」
ぶーじゃないんだよ!
とにかくあいつはあいつで行くべき場所があるの!
ほら、見ろ!
──────
「ホリィ、リンネ、トワ」
「ワタル……」
「兄ちゃん……」
「準備はできたか?」
ピシリ。
ヒビが入る音がした。
覚悟はしていたけど、本人がそこにいると尚更。
「う、うん……もう、帰る覚悟はできた、わ……」
「? ……とりあえず準備できたんならいいか」
「……ま、待って!」
「お?」
「もう少しだけ……最後に、もう少しだけ一緒にいちゃ……ダメ、ですか?」
軽い態度で帰るように言う彼に、思わず待ったをかけてしまった。
あまりにも、呆気なさすぎる。
こんな終わりは嫌だった。
トワちゃんも激しく首を縦に振っている。
「一緒に? ……ああ、そういうことか!」
「う、うん」
「ちゃんと紹介してなかったもんな!」
「え?」
「伝えたいことは言い切ったとか言っちゃったからちょっと恥ずかしいけど、ホリィ達の頼みだからしょうがないな! うん!」
かろうじて言葉を返すことはできたけど……よく分からないまま手を引かれて、ホシノさん達の前に連れて行かれた。
ポケモントレーナーさんと何事か話すと、彼は肩をすくめて、道着を着た人たちのところに行ってしまった。
「こいつはホシノ、俺が最初に出会ったやつで──いてっ、なんだよ」
「私が最初」
レッドちゃんがワタルの脇腹を突いて邪魔をした。
どうやら順番が違うらしい。
「……うへ、どういうことかなぁレッドちゃん」
「ホシノは2番目だから」
「は?」
「な、なにもまちがってないし」
「フルオカで最初に出会ったのは私だよね?」
「で、でも、本当の最初は私だよ」
「…………」
「…………」
レッドちゃんとホシノさんが喧嘩をし始めて、ワタルはそれを無視して紹介を続けた。
なんでいきなり紹介が始まったのかは分からないけど、ワタルと少しでも一緒にいられるなら話に付き合うことにした。
「ホシノは最初の仲間で、付き合いも一番長い。この世界に来た時からずっと一緒だからな」
「この世界に来た?」
「ああ、俺は別の世界からやってきたからな」
「──あ、そっか、ここは時代が違うだけだもんね…………え、じゃあ兄ちゃんの本当の故郷は全然違う場所ってこと?」
「おう、日本って場所だ」
「……帰れるの!?」
「無理だけど」
「──あっ!?」
トワちゃんが声をあげて驚いていたけど、同じ気持ちだった。
確かに、前の世界とも違う世界からやってきた、みたいな事を言っていたような気はするけど、完全に忘れていた。あの時は何を言っているかよく分からなかったと言うのが大きいかもしれない。
でも、それじゃあワタルって……この世界でも異邦人ってこと!?
リンネさんと顔を見合わせる。
リンネさんが口を開いた。
「あ、あの、私、全然分かってなくて……」
「そうだったんだ」
なんとも思ってないみたいな顔と口調で軽く流された。きっと、ホシノさん達とも同じようなやりとりをしてきたんだろうな……
「ホシノはあの輪っかが特徴的でな。多分ヌケニンが先祖にいるんだと思うけど、天使みたいで可愛いだろ? 一人称がおじさんっていう希少属性持ちなのもチャームポイントだ。かわい子ちゃんが好きなんだよ〜とか言ってるけど、いざ迫るとフニャフニャになるからそこもまたギャップで──おぅっ!?」
「余計なこと言わないでよ! ……あ、ホリィちゃん、リンネさん、トワちゃん、改めてよろしくね〜」
「あ、はい……」
ワタルのお尻に蹴りが入った。
レッドちゃんとの喧嘩は中断したらしい。
悪い悪いと謝りながら次の紹介へと移る。
「こっちはレッド」
「ぶいぶい」
両手でピースサインを掲げるレッドちゃんとワタルの髪色は同じ黒で、もしかして──
「二人は同じ場所から来たとか?」
「私はこの世界出身だよ、よろしく」
「あ、そうなんだ……よろしくね」
「お兄さんと同じ出身の人は二人だけ、ここにはいないけどね」
「……二人もいるんだ」
「レッドは俺がモンスターの姿だった時に一度出会っててな。トータルの年数だと一番長いかもしれん、俺はほとんど記憶無いけど」
「──ほとんど!?」
モンスターの姿だった時って言うのは意味がよく分からないけど、レッドちゃんがすごく驚いてた。
ゆっさゆっさとワタルの腕を掴んで揺さぶった。
「な、何を思い出したの?」
「それは既に継承してあるからあいつに──ともかくホリィ、レッドは無表情に見えるかもしれないけど、意外と感情豊かなのが特徴だ」
「それは確かに……今のとかもそうだよね?」
「そうそう! それにレッドは、ポケモンマスターに一番近い存在だ」
「ポケモンマスター?」
「全てのポケモントレーナーの頂点。ポケモンという存在について極め尽くした人間のことだ」
「じゃあレッドさんも、あなたと同じポケモントレーナーなの?」
「そうだ、レッドという名前にはそれだけの重みがある」
「……じゃあポケモントレーナーじゃなくて、ただの人としてはどんな子なの?」
「そりゃあもう最高ですよ」
「…………」
「レッドは一見してクールに見えても、情熱的な子でな? 髪が長いから纏めないと湯船に髪が浸かっちゃって大変なんだけど、解くとフワーって水面に髪が浮いて、一本一本が艶めいてて綺麗なんだ。前はもう少しズボラだったのに、ホシノに色々教えてもらって髪の手入れとかもきちんとするようになったから、どんどん可愛くなってむぐぐ」
「もうやめて……」
レッドちゃんは、ワタルだけじゃなくて自分の口元も押さえて顔を真っ赤にしていた。
それってつまり、一緒にお風呂に入ってるってこと? とは聞けなかった。
お付き合いをしているんだから、お風呂くらい当然の事なんだろう。
──────
「こ、こんにちはです! アイリです!」
「ホリィです、こんにちは」
「よろしくね、私はリンネ」
「トワだよ!」
「アイリは弟子だ、俺みたいなカス師匠の言うことを聞いてくれる良い子だよ」
「そ、そんなことありません! 師匠は立派な師匠です! それに、わ、私のかれしなんでつから! そんな事言って自分を下げないでください!」
「ごめんごめん」
彼氏。
確かに仲間達と付き合っていると言っていたけど……
「アイリさんっていくつなの?」
「もう直ぐ13歳です!」
「え?」
聞き間違いかな。
「もう一度聞いても良いかしら?」
「今は12歳ですけど、もう直ぐ13歳です!」
「え? ──ワタル?」
「…………」
ワタルを見ると、引き攣った笑みを浮かべていた。
暑くもないのに汗がダラダラと流れている。
「どういうこと?」
「お、俺がアイリを好きで、アイリも俺のことが好きだから……そういうことです」
「……もしかして、ワタルってロリコ──」
「ちょっと待ってください! 師匠はロリコンではありません!」
「でもワタルって23歳よね」
「私を含めて、師匠のことを好きになった人がたまたま師匠より年下だっただけです!」
「……そうなの? ところで誰と付き合ってるんだったっけ」
「私と、ホシノさんと、レッドさんと、ナギさんです!」
「に、兄ちゃん……」
「ワタル、あなた……」
トワちゃんとリンネさんも、流石にこれは……という顔で見ていた。
「師匠は年下の女の子が困ってると放って置けないだけです! それで、少しやり過ぎちゃうだけです!」
「やめてアイリ! いつも思うけど、それフォローになってないんだ!」
「……ねえ、ワタル」
「な、なんでしょうか」
「ブルーさんやノコさん達は?」
「っ」
「……」
「じー……」
「トレ君……」
少しだけ空気がざわついたような気がしたけど、いまいち分からないのがそこだった。
四人とは付き合っているけど、残りの四人とは付き合っていない。
なんでそんな中途半端な状態なのかが理解できなかった。
「…………?」
「ん?」
なんか、変な反応をした。
さっきまで大慌てだったのに、今はただ困惑しているみたい。
「ブルー……?」
「付き合ってないの?」
「──どういうことだ!?」
「え? だって四人と付き合ってるんだから残りの四人とも──」
「いやいや! 付き合うってそういうのじゃないだろ!? なんでコンプリートしなきゃいけないみたいな話になってんの!?」
「お姉ちゃんばっかり……」
「ピカチュウなんて死ねば良いのに」
「おい、傷付くからやめろ!」
ブルーさんとノコさんが露骨にガッカリしていた。
ユカリさんとリンさんも深いため息をついている。
……もしかしてワタルって。
「鈍感?」
「んなわけあるか! あのだな、仲間として…………いや、もういい。全部あいつに任せたからな、そこらへんは、うん」
やっぱり、あんまり聞いてて楽しい話じゃないなあ。
リンネさんも同じ気持ちなのか、少しだけ俯いていた。
──────
「で、こいつがナギ、俺の次に年長者だ」
「トワちゃん、リンネさん、ホリィさん、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「なんかリンネと雰囲気似てる!」
「おっ、良く気づいたな! ナギは元々リンネと同じポジションだ!」
「……リンネさんもジムリーダーなんですか?」
「私はエンジュシティって街の町長をやってます」
「なるほど……私は、コトリタウンっていうところのジムリーダーをやっていました。ジムリーダーっていうのは──」
「ワタルから聞いてます、防衛組織の筆頭戦力なんですよね?」
「え、ええ……まあ、元ですけどね」
「ナギは風の巫女とかいうやつでな、古龍の力を借り受ける事が出来るんだ。最大火力を出されると俺も素の力じゃ太刀打ちできない」
「風の巫女……」
「リンネはライコウ、エンテイ、スイクンを祀る一家の巫女みたいなもんだよな?」
「まあ、巫女って言われればそうかも?」
「二人とも伝承を受け継いでいるから、そこらへんも似てるな」
「…………もしかして、ワタルから伝承の続きとか教えられたりしました?」
「続きというか、神様について伝わっていなかった真実を……」
「ああ、やっぱり……」
巫女として、何やら二人はシンパシーを感じたらしい。祀っていた対象に関して一族よりも詳しいあの人は本当になんなのか、と愚痴りあっていた。
「ま、まあそれはいいんだ……ナギは見ての通り美人だから、コトリタウン──ナギの故郷にはナギちゃんファンクラブっていう会があってな。俺の旅に同行するって時にはすげえうざかった」
確かにナギさんはハッとするような美人さんだ、ファンクラブくらいできるのかもしれない。
馴れ初めは聞いていたけど、本当に綺麗な人だ。
「俺がいない時はこいつらを纏めてくれている。なんだかんだでいつも頼ってばかりだったな!」
「もう……」
肩を抱き寄せると、ナギさんも満更でもなさそうに抱きついた。
モヤモヤとしたものが胸を覆っていくのを感じる。
「それで、こっちはユカリとリン」
「──あなた達がユカリさんとリンさんですか!?」
さっきからいるのには気付いてたけど、そうだったんだ!
「そ、そうですけど……」
「どうしてそんな勢いが……」
「あの人からお話は聞きました! すっごい大変だったんですよね!?」
「え? 話?」
「お姉ちゃん、多分トレ君……」
「あ、ああ〜!」
この人たちがあの、運命を乗り越えた!
箒に乗ってレースをする!
「お会いできて光栄です!」
「あ、ありがとう、ございます? 私は何もしてないけど……」
「そんな事ないぞ」
「そうだホ、ユカリはすっごく頑張ってたホ」
「そう、かな?」
「ああ!」
「ユカリがいなかったらヒカワは倒せなかったホ」
「あっ! 聞いてた話通り! パーカーもウサ耳のやつなんですね!」
「──そうですね。これはあの人が私にプレゼントしてくれたものだから、大事にしてるんです」
「じゃあ、モンスターレースっていうのにも参加してるんですか!?」
「はい! 最近はリンと、あそこにいるグズマさんとナチュレさんと一緒に旅をしながら参加してました」
「ふわあああ! 凄いなあ!」
──────
「こっちのはノコ、元ポケモンだ。そこにいるワニノコがまんま元々の姿だな」
「ワニィ」
「よろしく!」
「よろしくお願いします……え? この子からノコさんに?」
「ど、どういうことなの?」
ここからどうやって人間になったの?
本当に意味がわからない……
「かむくらのかんむりっていう願い事を叶えてくれる道具があってな、それを使ったらしい」
「そ、そんな凄い道具があるのね……ホリィちゃんは聞いたことある?」
「無いです……」
「そりゃあ無いよ! だってドリームランドにしか無いからね!」
豊かな胸を張って自慢する。
ノコさん曰く、ドリームランドっていうのはこの世界の近くにある異世界で、ある時ワタル達はその世界に飛ばされてしまったらしい。
それで、そこで活動している時に仲間になったのだとか。
「ワタル……あなた、異世界から異世界に飛ばされ過ぎなんじゃ……」
リンネさんは引き気味だった。かくいう私も同じ気持ちだ。
「うへ〜、お兄さんはトラブルメイカーだからねえ〜」
「異議あり! 俺がトラブルを作っているんじゃ無い! この世界中に転がってるトラブルがたいあたりをしてくるだけだ!」
「お兄さんと旅するようになるまではこんなことに巻き込まれませんでした〜、異論を却下しまーす」
「ピカチュウは面白そうなことだと思ったら直ぐに首を突っ込んじゃうしね! バカみたいに!」
「一言余計なんだよ、お前は!」
「いぢぢぢぢ! ご、ごめんなひゃい!」
ほっぺたを引っ張られているノコさんの姿はなんだか堂に入っていて、凄いしっくりときた。
そして何故かホシノさんがこっそりと教えてくれた。
「ノコちゃんはお兄さんのことが大好きでね? かむくらのかんむりにはお兄さんと一緒にいたいって願ったんだよ。だからノコちゃんもドリームランドからこっちの世界に来たんだ」
「え、そうなの?」
「うん、そうだよ〜」
「やめへ〜!」
「こら! 大人しくしろ!」
「ひゃー!」
ワタルのお腹に抱きついてほっぺたを守っているノコさんは楽しそうだった。
「──ノコの良いところ? そうだなあ……」
「うんうん!」
「赤ちゃんみたいな匂いがするところ」
「なにそれ!?」
「あ、それ分かるかも」
「ナギも!?」
「ナチュラルにすげえ良い匂いがするんだよ」
「……良い匂い?」
「ミルクみたいな……」
クンクンとワタルがノコさんの首筋の匂いを嗅ぐ。
「うん、やっぱ甘い匂いがする」
「褒めてる?」
「褒めてるよ」
「そっか! ふふーん!」
本当に、ワタルのことが大好きなんだなあ……
私もああして、自分の気持ちを素直に曝け出して一緒にいられたなら、どれだけ幸せだろう。
「こっちはブルー、レッドの妹だ」
「ブルーだよ! いつもうちの人がお世話になってます!」
「こちらこそ、いつもワタルにはお世話になってます」
「うちの人ってなんだよ……」
「お姉ちゃんのお兄さんなんだから、うちの人でいいでしょ」
「ブルーは俺の妹だった……?」
「それは違うけど」
「がーん!? そんな!」
ワタルがどうやって彼女達を仲間にしたのかが、分かった気がする。
コミュニケーションが大事だと常に言っているのは、そういうことなのだろう。
「とまあ、ブルーは名前からも分かる通り、レッドと同じメインキャラクターだ」
「…………なにが?」
「ストーリーを進めるのに必要不可欠な鍵、それがメインキャラクターだ」
「ブルーさん、どういうこと?」
「うーん……私が教えて欲しいかなあ」
いきなり良く分からないことを言い出すのはいつも通りだけど、ホシノさんがやれやれと首を振っていた。
ノコさんとナギさんは嫌そうな顔をしている。
「この世界には、本質的に2種類の人間がいる」
「2種類?」
「世界の時間を進める人間と、それ以外の人間だ」
「時間を進める人間って……例えば?」
「ブルー、この子はその典型だ」
両肩に手を置くと、見上げるブルーさんと目を合わせる。
不満そうな顔をしていた。
「私、そんなんじゃ無い」
「分からなくてもいい。でも、アルセウスが創り出したこの世界でブルー、お前が重要な存在じゃ無いわけがない」
「むぅ……」
「誰かがその場所に行かなければ、物語は進んでいかない。それを運命と呼ぶ事もあれば、銀の弾丸と呼ぶ事もある」
ホシノさん達が顔を寄せてヒソヒソと話している。
「聞いた事もないよ、銀の弾丸なんて」
「うへ〜、楽しそうに話しちゃってさぁ……」
「トレ君、頑固過ぎない?」
「何時になってもあの理論を崩さないのよね、あの人」
「ポケモントレーナーさんは、ああだから良いんです……!」
「ユカリちゃん、ダメだよアレに賛同しちゃ。お兄さんの一番ダメなところなんだから」
「でもでも! あんな人だからこそ、ここまで歩んで来れたんですよね!?」
「それはまあ、そうだけどさあ……」
ブルーさんを抱き上げると、肩に乗っけた。
抗議するブルーさんを無視して自論を展開する。
「ホリィ……世界の時間を進めることができるのは、自分の力で切り開くことを覚悟した人間だけだ」
「彼女達が、そうなのね」
「そう。例え特別な力が無くても、誰も味方する人が居なくても、どんな苦境にあっても、その意思を貫き通すことができる人間だ」
自分の手を見つめていた。
そこに何かがあるかのように。
何を思っているのか、なんの意味があるのか。
目線を外し、ニカッと笑う。
「お前らは自分が何者なのか分かっていなかったのに、それでも戦うことを選んだ──だからお前らのことが好きなんだ」
「……ワタル、あなたは?」
「俺?」
「あなたはメインキャラクターじゃないの?」
「俺は違う」
当然とばかりに首を振る。
迷いすら見せなかった。
「なんで?」
「言いたいことはわかる。そりゃあ俺は世界を救ったし、色々大変な目にもあってきたよ」
「そうだね」
「でも、俺にはチートがある」
「またそれ……」
「この力があれば誰だって世界を救えちまう、そんな強力無比な力だ。だから、もしスタッフロールに名前が載るなら……俺じゃ無くて、俺の力だよ」
「──ううん、違うよ」
彼がそう信じているのは分かった。
それでも、私が信じる彼の姿を教えてあげたかった。
客観視を捨てた彼に、みんなからどう思われてるかを気付かせてあげたかった。
「いいやホリィ、俺がいなくても、きっと他の誰かがやってくれたはずだ。だから安心してはっちゃけることが出来たし……思い返してくれ、常に戦いの中にあって俺が発揮していた力を、チートを」
「思い返さなくてもいいの。だって、あなたは間違っているから」
「…………」
「ねえワタル、あなたはなんで私のことを助けてくれたの?」
この世界に何も残さず、お別れするのはあまりにも嫌だった。
彼と、ちゃんと対話がしたい。
別の人たちと話しているポケモントレーナーを見て、空を見上げた彼は話し始めた。
「…………なんの力も無く、アレだけの強敵に立ち向かえるお前達が羨ましい」
「うん」
「世界を滅ぼすってのは、そりゃあもうとんでもねえよ。星間兵器級の力、分かるか? ヒカワやムーが持っていたのはそんな力だ」
「うん」
「ずっと聞きたかった」
「うん」
「なんで生身で戦えるんだ? ……ホリィ、君はなんで立ち向かえるんだ? ノコ、お前らはなんで立ち上がれるんだ」
「…………」
「何がなくとも立ち上がって、敵に立ち向かう。そんな姿を見せられたら、戦わなきゃ男が廃れるだろ」
「やっぱりバカなんだね」
「──なっ!?」
口をあんぐりと開けて絶句している姿は、こんな事を言われるなんて微塵も思っていなかった人間の反応のそのものだった。
「バカだなあってなんとなく思ってたけど、ちゃんとバカなんだ」
「おまっ……大学ちゃんと入ってるんだぞ俺は!」
「もうなんか、その返しもバカだもん」
「どこら辺がバカなんだよ!」
「じゃあ、私がなんでワタルと一緒に旅をしたか分かってる?」
「……仲間だから」
「はぁ……」
「な、なんだよ」
何にも分かってない。
これと決めたら全然引こうとしない。
だから、分からせないといけない。
仲間だから一緒に旅をした、なんてバカな答えを言うこの人に。
いつも手を引いてくれた右手を握る。
「私は、ワタルだから一緒に旅をしたし、ワタルがいたから戦えたんだよ」
「俺だから……?」
「聞いて、ワタル」
「はい」
「人は、大きな力を手に入れたら調子に乗るの」
「そうだな」
「力に振り回されて、破滅する人だっている」
「そうだな」
「善を成すことは、ワタルが思ってるよりもずっと難しいんだよ」
「……そうなの?」
「教えてくれたでしょ? 大いなる力には、大いなる責任が伴うって」
「ああ」
「大きな力を手に入れて、仲間を従えて、導いて、世界を丸ごと焼き尽くそうとしている敵と戦って、あまつさえ人々を救うために立ち向かう、なんて……そんな責任を背負える人は、いないのよ」
「…………いやいや、それは流石に──」
「いないのよワタル……そんな都合の良い人は、あなた以外にはいなかったの。旅の中で、あなただけが助けてくれた」
「何度も言うけど、この力を手にしたなら誰だって……」
「──ワタル、あなたは気付いてないだけ。これだけの仲間を集めたのはチートじゃない。みんなが付いてきたのはあなたが持っている力じゃなくて、ワタル──ポケモントレーナーっていう一人の人間なの」
彼の目にしっかりと見せる。
彼が築き上げた成果を。
自己評価を間違えた彼の、曇った眼を覚ます。
「力を手に入れた、名前も顔も知らない誰かじゃなくて、あなた自身なのよ!」
「…………」
「彼女達は世界を動かす歯車じゃないし、メインキャラクターなんて名前じゃない! 感情のある女の子達だよ!?」
「それは分かってる」
「なら、彼女達が誰の為に戦っているかなんて分かっているでしょ!?」
「……俺なの?」
「何がなくとも立ち上がったんじゃ無い! あなたがいたから、あなたが前に進んでいるから、着いていったの!」
「それはなんか違う気が……街を守る為じゃ……」
「なら、レッドさん!」
「うん」
「あなたは街を守る為に、一人でここまで来るの?」
「来ないよ」
「ええ!?」
「お兄さんが連れ出してくれなかったら……一人だったら、今でもフルオカタウンにいたはずだよ」
「おじさんもそうだね〜」
「ほ、ほんとうか!?」
「あのね? 他の街や世界で起きてる大事件に首を突っ込もうなんて、普通しないでしょ? お兄さんだけだよ」
「──まじかよ……」
ポケモントレーナーさんが戻ってきて、ショックを受けていた。
どうやらさっきからの話を聞いていたらしい。
「じゃあ、俺がいなかったらみんなドリームランドとか行かなかったの?」
「そもそも、どうやったらいきなりドリームランドに行けるのよ……」
「それは俺が聞きたいけど」
「ともかく、あなたがいたから色々な事が起きたのよ」
「ち、ちがわい!」
「……ねえ、ホリィさんはつい最近まで一緒に旅をしていたのよね?」
にわかにナギさんが、腕組みをしながらそんなことを尋ねてきた。
当然、私たちは旅をしていた。
「はい、一緒でした」
「ど、どんな感じだったの?」
思い返す。
あの、辛くても虹色に煌めいていた日々を。
山を、海を、谷を、空を越えた旅路を。
「──いつも守ってくれました。寒い日はそばにいて、暑い日は水を汲んできてくれて……自分にはなんの得も無いのに私の目的を優先して、手を引いて導いてもらいました」
「はぁぁ……本当、どこにいても変わらない人……」
「そうか、そうなのか……」
そうか、そうか、と噛み締めるようにつぶやく。
「分かってくれた?」
「正直なところ実感が……」
「でも、言いたいことは伝わったでしょ?」
「……うん、そうだな、これからは気をつけるわ」
「なら良かった……私も、言いたいことは言えたから」
これでもう、心残りは無い。
ワタルに、この事を気付かせてあげられたなら、それで良い。
リンネさんとトワちゃんの所へ。
「ホリィ……」
「ホリィちゃん、本当に良いのね?」
「……はい」
セレビィの前に立つ。
なあに? と首を右に左に傾げてふわりふわりと漂う妖精。
「ビィ?」
「セレビィ、お願い」
時を超える力。
違う時間同士を繋げる摩訶不思議な能力。
「私達を元の世界に帰して」
「……ビイ!」
──────
荘厳な鐘の音が鳴り響く。
誰もいない街を、建物の間を、道路を滑って抜けて行く。
風に乗って、街の外の避難所まで。
「これはさっきの……?」
不安に駆られる人々の耳にこの音が届くのは、2度目だった。
1度目、勘違いかと思うほど微かな音量だったそれよりも、遥かにハッキリと。
人々の心に浮かんだのは緑。
豊かに生い茂った草木。
萌ゆる芽と、堂々たる樹冠。
太陽の光を浴びて、生命の芽吹く森が脳裏に浮かび上がった。
人々は、イメージの正体を掴もうと口に出す。
「森?」
「マタナキタウン──いいえ、違うわね……この森は一体……」
「これは、どこなの?」
「──―っ!?」
「どうしたの?」
「あ、あれ……アレ見て!」
黄金色の巨大樹が、緑色に変わっていく。
突然に現れた異常な物体が、さらに変化していく。
恐るべき古龍に破壊されて無惨な姿になっていた、街の象徴。その中心から伸びていた巨大なナニカが、溶け込むように色味を変えた。
空を覆っていた暗雲は晴れていた。
ざあざあ降りの雨、視界を遮る水滴は消え、巨大な虹が空に架かる。
見たこともないモンスター達がいた。
彼らから感じたのは、並ぶものなき強大な力。
一体一体が、ナバルデウスに列席する存在だった。
虹を渡るように、大気をその意思で書き分けるように、力強く空を泳ぐ。
鱗が、開け放たれた宝石箱のように太陽光を反射してキラキラと輝いていた。
「あれは……古龍、なの……?」
「あんないっぱい、一体どこから現れたの!?」
「撮らなきゃ(使命感)」
「お母さん、リオレウスとどっちが強いのかなあ」
「そうねえ」
空中に出現した巨大なポータルを通して、彼らは帰って行く。
この世界の存在を刺激せぬように。
マガタマの持ち主が戦いを終わらせた事を察して。
ポータルで帰る前に、持ち主を間近で目に収める。
『な、なんだこいつら! 俺は美味しくねえぞ!?』
『どわあああ! 髭が! ぶっとい髭が俺のシャツを!!』
『ワタル!?』
『ポケモントレーナーさん!?』
なるほど、彼と極めて近い匂いがする。
そういうこともあるのだろう。
戦いを収めた彼と、似ているが少しだけ違う本質。
違うからこそ、違う結末を迎える。
一人で抗い切った彼と、多くの同族と共に戦い抜いた彼。
なればこそ祝福しよう。
この世界にやってきた旅人を。
『────────―!!!!』
聞いている者全てを怖気つかせる、莫大な圧力。
彼らは世界を軋ませる雄叫びを上げた。
それは勝ち鬨。
しばらくの平穏を楽しめ。
そう、念を込めて。
ともかく、マタナキタウンを巻き込んで引き起こされた大事件はここに終わりを迎えた。
グリーンスカイロッドは、大規模改修のためにしばらく閉業することが決まり、ナバルデウスは海に戻される事が正式に決定した。
シンリンカムイは今回の件で責任をとってジムリーダーを辞めるつもりだった。が、後任に指名するつもりだったグズマが全力で拒否したため続投だ。
街は壊れたし、傷ついた者は多い。
ネオプラズマ団は、この世界に対して不満を抱いていた子ども達を吸収して急拡大していた。
それはつまり、現在の世界が抱える歪みが本物であるという何よりの証拠だった。
「うーむ、問題は山積み……それはそれとして戦いは終わった、か」
「はい、また『彼』ですね」
「──はーっはっは! まさか、あの時の行動がここまで影響を及ぼすことになるとは! どうだ! ワシもなかなか見る目あるじゃろう!
「さすがの慧眼でした、私如きでは見抜けなかったでしょう……誰もがあなたを称賛することは間違いありません」
「……そうやって手放しで褒められるのも、ちと違うのお」
「それだけの結果です」
「ふむ……空が綺麗じゃのお」
──────
……時渡りをするってのはこんな感覚なんだな。
あの時はヒノトリだったからよく分からなかったぜ。
にしても……やっぱりこっちの方が微妙に空気が上手いな。
あ、フリーザー達はもうどっか行っちまうんだ。
まあ、こんなやつらがいたら野生動物どこかに逃げちゃうもんな……
なあホリィ、リンネ、トワ。
あれ、なんでそんな呆気に取られたような顔して……
おっと。
いきなり抱きつくとはヒロイン力の高まりを感じますね…………本当にどうしたんだお前ら!?
なんでそんな泣いてるんだ!?
ちょ……そんな大泣きされると訳わからないから……
──ええ!? 俺があっちの世界に帰ると思ってた!?
なんで!?
……ホシノ達に会えて嬉しそうだったからって……いや、あっちにはもう俺がいるし……
俺が二人もいたらストレスで禿げるわ、俺が!
マジかよ……本気で俺があっちに残ると思い込んでいたらしい。
──だから、もう少しだけ一緒にいたいって言ってたのか!?
普通に考えたら同じ人間が世界に二人いたら面倒臭いことになるのなんて目に見えてるじゃん……
そもそも、最後まで一緒だって言ったじゃん。
それを、ホシノ達に会えたからっつって放り出すのは違うじゃん。
仮に俺があっちにいなかったらホリィを誘拐してたけどさ、いるんだからあっちは任せるっしょ。
ホリィだって、この時代の方が好きだろ?
……ほら、じゃあこれで良いじゃん。
それに、こっちの時代も悪く無い。
あっちよりも原作に近い時代だ。
これまでは勾玉と石板をメインで探してたから気付かなかっただけで、実は何かが見つかるかもしれない。
──だからさ、また旅をしよう。
ムーの支配は終わった。
これからはお前達の時代だ。
今度はリンネ達も連れて、この世界を見て回ろう。
……え? 当たり前じゃん、なんでお前らを連れて行かないと思ったんだ?
町長の仕事?
何言ってんだお前。
そんなの武闘大会の優勝者に押し付けろ。
……あ? そんな無責任なことできない?
あーもう、めんどくせえな……じゃあ俺がエキシビションマッチで優勝者とお前のこと纏めてぶちのめしてやるから、俺が町長になって誰かに押しつければ良いんだろ?
……なんで泣き笑いしてんの? こわ…………全員へたり込んじゃったあ!
「──そうだ、スエゾー達はどうなったのか確かめなきゃな! ちょっと見てくるわ!」
草原を走って行く背中。
彼は、当然のようにこちらの時代にやってきた。
リンネさんと顔を見合わせる。
「なんか、めちゃくちゃだね……」
「あはは……」
「色々覚悟を決めてたのになあ」
「私もです」
「私、町長辞めさせられちゃうんだって」
「……私は嬉しいです。リンネさん達と一緒の旅、楽しみにしてます」
「こら! そんなこと言って!」
「えへへ……」
「……はぁ、もう……ほんとやだ……」
リンネさんは涙で顔がぐしゃぐしゃになっていた。
拭いても拭いても、涙が溢れてくる。
「おーい! スエゾー達は無事だったぞー! ……おいリンネ! いつまで泣いてんだ! ……ほら、いつまでも泣いてちゃ美人さんが台無しだぞ」
「うるさい、ばか」
「にいぢゃあ゛あ゛あ゛あ゛ん!!!!」
「おーヨシヨシ」
トワちゃんはもう、セミみたいにしがみついて離れなくなってしまった。
「おーい! ホリィ──ー! 大丈夫か──!?」
「スエゾー……」
「おい、泣いとるやないか! ワタル!」
「そうなんだよ、幼馴染の力を借りられないかと」
「……いいや! 自分でなんとかしいや!」
「え?」
「男なら! ちゃあんと責任取るんやろうなあ!?」
「…………ああ!」
なんか、悩んでたのがバカみたい。
「さ、ホリィも立って」
「うん……えいっ!」
「お?」
抱き着いて顔を見上げる。
これからは一緒、だよね?
聞こえるはずもないのに、心の中で聞いてみた。
「もちろん、これからも一緒だぞ」
「……えへへ〜!」
ああ、幸せだなあ!
──────
「あー、疲れた……」
「ジムリーダー、やらなくて良かったの? 良い機会かもしれないのに」
「なんで俺様がカムイの後始末をしてやらなきゃいけないんだ」
「君が良いなら良いんだけどさ…………そ! れ! よ! り!」
「あん?」
「僕、すっごい頑張ってたでしょ!?」
「……」
「あんな大きなモンスターを静かにさせたんだよ? それに、君の故郷を守るために戦ったんだからね?」
「まあ……そうだな」
「ん!」
「は?」
「ん!!!」
少女は飼い慣らされたポチエナのように、ご褒美を求めるペットのように、帽子を脱いで頭を差し出す。
最初は引き気味だった青年も、ため息を吐くと頭に乗せた手を左右に動かし始めた。
「よくやったよ」
「ふふふ……父さんを倒したご褒美は後で、ね?」
キラリと輝いた瞳、妖しく歪む口元。
グズマは軽くたじろいだ。
「……それは、俺がなんかしてやらなきゃいけねえことなのか?」
「当たり前じゃないか」
「そうかよ…………」
「──グズマ?」
「あ? …………あ」
二人の前に姿を現したのは、一人の男。
グズマと同じ髪色をした男が、唖然とした表情でグズマを見つめていた。
グズマは常の不敵な顔では無く、バツの悪そうな顔をしている。
ナチュレは、そんなグズマの背中に隠れた。
「帰って、きていたんだな」
「……ああ」
「大きく、なったな」
「まあな」
「どこに、行っていたんだ?」
「…………色々な場所だ」
「そうか……色々な、場所か……アイリも、色々な場所を冒険しているらしい、ぞ」
「それは知ってる」
「──いや、違う! そうじゃない!」
「!?」
男は膝をつき、頭を地面に擦り付けた。
「すまなかった! 全ては私の過ちだ!」
「な、なにを……」
「全てだ!」
「全て……」
「お前が窮屈な思いをしていたのは知っていた! 試練に苦しんでいたのも見ていた! なのに、私はお前に対して何もしてやれなかった!」
グズマは、無言でそんな父親を見ていた。
ナチュレがギュッと、グズマの服の裾を掴む。
「お前が出て行くのも当然だ! 嫌われて当然だ! でも……それでも……!」
「違うぜ、親父」
「!」
「あの頃の俺は確かに雑魚だった。そのせいでカムイを倒せなくて、かなりキテたのは事実だ」
「……」
「だがなあ……それは俺が弱かったせいだ。俺は、弱い自分が心の底から嫌いで、許せなかったんだよ」
かつてグズマは、そこら辺にいるただのチンピラでしかなかった。柄が悪いだけで、実力は大してない。
一山いくら程度のプレイヤーだった。
ナチュレにはそんな彼の姿を想像することは難しかったが、そういう時代もあったのだろうと推測することはできた。
「俺が街を出たのは、そしてこの地方を出たのは、そんな自分に我慢ならなかったからだ。親父達のせいだなんて、最初っから思ってねえよ。だからよ、頭上げろ。そんな軽々しく土下座なんてするもんじゃねえぜ」
肩に手を乗せ、立ち上がらせる。
「グズマ……お前は……本当に、立派になったな」
歳をとったせいか、涙腺が緩くなっていけないな。などと言いながら、グレイは目元を拭った。
背中に隠れて、タイミングを見ていた少女を指差す。
「グズマ、そちらのお嬢さんを紹介してくれるか?」
「ああ、こいつはえn」
「ナチュレです! グズマ君の彼女です!」
「!?」
「か、彼女!? ……グズマ!? どこに行くんだグズマ!」
グズマはダッシュで逃げた。
──────
──少し先の未来にて
マーブルの床材が敷き詰められた空間に、カツン、カツン、と音が鳴り響く。
一歩一歩進む度、ほんの少しだけ鼓動が強くなる。
緊張が増していく。
やがて、空間は終端部に来た。
扉がある。
ここを抜ければ最後、もう引き返すことはできなくなる。
「ふー……」
じとりと、一筋の汗が流れ落ちる。
それを無視して、取っ手を押し込んだ。
『わああああああああああ!!!』
「っっ!!」
強烈な光と、全身を打つ衝撃が襲った。
慣れたはずだったその光景が、今日だけは……かつて、駆け出しだった自分が見ていたあの時の光景と一致して見えた。
そんな光景の中でも変わらぬ、あの人が立っている。
違うのは、腰にぶら下がった赤と白のボール。
「プレイヤーを倒し──」
そのボールをホルダーから外し、手の中でクルクルと回す。
「ジムリーダーを倒し──」
モンスターボール、どこかから齎され、あっという間に広まった革新技術。
「四天王を倒し──」
だけど、僕には分かっていた。
きっとあなたが関わっているんだって。
ねえ、そうなんでしょう?
「そして、チャンピオンを倒す」
アロハシャツを着て、ギラギラと目を輝かせて。
「久しぶりだな、ヒガンくん……それか、こうやって呼ぶべきかな? ──チャンピオン」
「お久しぶり、です」
「君がチャンピオンに勝ったって聞いたから、会いに来たよ」
「それでここまで来れるのは、あなたぐらいです……」
「ハッハッハ! ──チャンピオンの高みから見える景色って、どんな感じなのか聞いても良い?」
多分、あなたが見ている景色よりは低いんじゃないかなあ……
「ぼちぼちです」
腰に手を伸ばし、ボールを取り外す。
何故かポケモントレーナーさんの口元がニヤけた。
「な、なんですか?」
「いやあ、まじで最高の光景だ」
「えっと?」
「グヒヒ……」
「ま、まあいっか……いけ! ナル!」
赤い光と共に飛び出したのは、僕のパートナー、ナルガクルガ。
「正直に言います……僕は、すごくワクワクしています! こうしてあなたと、ここで戦うのを心待ちにしていました!」
彼は、口角を限界まで上げて笑っていた。
「OK!」
弄んでいたモンスターボールを正面に翳す。
笑いながら、スイッチを押した。
「ポケモントレーナーってのは、こうでなくちゃなあ!」
ポケモントレーナーは タカナシホシノを くりだした!
──────
「楽しみだったのはわかるけど……おじさん、この為だけにボールの中に入るの、すっごい微妙な気持ちだったよ」
「ご、ごめん……」
これにてメインストーリーは終了です。
何故なら、ここから話を続けて行くと、地方を何個も周る事になるのでアホみたいな話数になることが予想されるからです。
今後は蛇足や、時系列などを更新して行くことはあるかと思います。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。