俺はポケモントレーナー   作:goldMg

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その後4_新マップにゴー!!

 船を探す旅。

 立ち寄ったコトリタウン、ナギの実家。

 いつかの夜のように、2人は縁側で酒盛りをしていた。

 刺身と月を肴に、報告がてらの宴会だ。

 

「──それにしても、良い顔をするようになったな」

 

「そ、そうですかね?」

 

「ああ、責任を取る事を決めた男の顔だ」

 

「顔だけで読み取るのやめてもらって良いですか?」

 

「……ハッハッハ! 冗談だよ、冗談! ナギから聞いていただけだ!」

 

「え……なにを……」

 

「旅が終わったら一緒になってくれるって、嬉しそうに話してたよ」

 

「あいつ、そんな事まで話してたのか……」

 

「ポケモントレーナーくん」

 

「はい」

 

「……ナギを遺して、なんてことはやめてくれよ」

 

「そりゃあ勿論」

 

「君がいなければ、あの子達は……特にホシノ君、レッド君、そしてナギはマトモではいられない」

 

「……まあ、はい」

 

「そのくせ君の方は、1人でも旅を続けるんだろう?」

 

「極端な話ですよそれは」

 

「だが、君はそうだ」

 

「…………」

 

「本当に碌でも無い男だ! そんな自分を変える気も無いのだろう!」

 

「そこまで言わなくても……」

 

 少しだけ不貞腐れながら酒をチビチビと口に含む。

 そこに、ドタドタと品の無い足音が響いた。

 乱入者だ。

 

「あー! お刺身まだあるじゃん!」

 

 青年の背中にドシンと体当たりを食らわせ、コアラのようにしがみついたのはリン。

 鼻をクンクンと動かすと、眉間に軽く皺を寄せた。

 

「お酒臭〜い」

 

「何しにきたんだよお前は……」

 

「くちゃーい!」

 

「なんだこいつ……」

 

「はっはっは!」

 

 

 ──────

 

 

 アラカゼはその光景を肴に酒を進める。

 義息子が、義父の目の前で娘以外の女子と仲睦まじくしている。

 極めて非倫理的で、ありえない光景だった。

 ともしなくとも、それだけで不倫と取られても仕方がない。

 普通なら、殴られて家から放り出されるような所業。

 普通では無いこの青年も、あまり良いことじゃないと自覚している。

 なのに、これ程までに堂々としている。

 おかしなことだ。

 愉快なことだ。

 

 酒のつまみにはもってこいだ。

 

「もぐもぐ……ん〜美味なるぞー!」

 

「しまいには食いやがって、やりたい放題か?」

 

「んふふー! だーってトレ君のものってことは私のものってことじゃーん!」

 

「その理屈で行くと俺のものがほぼ無くなるんですが……」

 

「ふふー!」

 

「なにわろてんねん」

 

 見ていて飽きない男だ。

 それは、容姿端麗だからとかそういうわけでは無い。

 むしろ、凡庸といって差し支えない顔をしている。

 醜男では無いが、捉えどころも無い、特徴の無い顔。

 何かをするような男には見えない。

 これは、そう……擬態だ。

 人は見かけによらないとは、この男のためにある言葉かもしれない。

 

「あーおいひー」

 

「金かけた甲斐があるな」

 

 舌ったらずな口調で、モニュモニュと刺身を食む。

 そんな少女を呆れたように、されど優しく見守っている。

 彼はきっと、兄のような気持ちで彼女たちに接してきたのだろう。

 

「というかリン、アラカゼさんも食ってるんだからもう少し遠慮とか……」

 

「気にするな」

 

「だそうでーす」

 

「生意気な……! 討滅してくれる!」

 

「きゃー!」

 

 いきなり庭に飛び出すと、リオレウスの周りでグルグルと追いかけっこを始めた。

 ただの人間のような速度で。

 酔っているのか、はたまた戯れあい故の気遣いか。

 

 伏せ、片目を開けて二人の様子を観察しているリオレウス。

 害意は無い。

 敵意も無い。

 それでも根本的には人類の天敵である。

 この街に久しぶりに来た彼が最初にやったのが、このモンスターの調伏だ。

 リベンジマッチだとか。

 で、再び倒して配下にした。

 剛気なことだ。

 

「捕まえてみろー!」

 

「何だこの青春」

 

「あっ! 速くなるのはずるいよ! だめ!」

 

「無茶言ってるのわかってる?」

 

「こっちだっ!」

 

 何故かリン君がリオレウスの背に登って──

 

「お、おばか! おまい何やっとんじゃ!」

 

「えー? でも、全然動かないじゃん。トレ君が負かしたんでしょ?」

 

「そりゃあそうだけど……何でこいつを見て、そんな命知らずなことができるんだ!?」

 

「だってえ、あのときの方がよっぽど大変だったじゃん?」

 

「比較対象が間違ってるから!」

 

「ふーん」

 

 ペシペシとリオレウスの背を叩く。

 

「ねえ、歩いてよー」

 

「グルル……」

 

「ぴゃああ!」

 

 殺すぞ……

 

 そんな思いが聞こえてくるような唸り声。

 所詮は弱者と強者、いくら序列第一位の身内とはいえ、舐めるようなら再び争いを繰り返すだけだ。

 すっ転ぶように降りた小さな身体を彼が受け止めた。

 

「あ……えへへ、ナイスキャッチ」

 

「危ないからやめてな?」

 

「うん」

 

「良い子だ」

 

「あー! 子供扱いするな!」

 

「大人の時間はまだ早いだろ」

 

「う……えっちなこと考えてるでしょ!」

 

「お前だスケベは」

 

「わーー!! うるさいうるさい!」

 

 何を面白い話をしているんだ彼らは。

 

 

 ──────

 

 

「リン、二人の邪魔しちゃダメだよ」

 

「あ、お姉ちゃん!」

 

「アラカゼさんごめんなさい、妹が……」

 

「気にしなくて良い、面白かったからな」

 

「は、はあ……?」

 

 ユカリ。

 未知のエネルギーを使って光の翼を発現させた。

 興味深いことだ。

 今も翼はあるようで、ダボっとしたパーカーの中にしまってある。

 男物なのか、随分と大きいような……それに何なんだ、あのフードについた耳は、飾りか? 

 ……そして彼曰く、神に近いモンスターと繋がっているらしい。

 彼が言うところの神とは、天上天下唯一の、絶対神に他ならないとのことだ。

 それに近いモンスター、エムリットという名前だそうで、稀に彼女のそばに出現することが確認されている。

 それでも、彼にとっては既知の存在でしか無い。

 宇宙の真奥にすら至る智慧。

 この世界、この時代に現れる前の彼は、いったい何者だったんだ。

 

「トレーナーさんも、すみません」

 

「ユカリはなんにも悪く無い、もっと悪い子になってほしいぐらいに悪く無い」

 

「ふふ……」

 

 ゆるゆるとした空気が流れる。

 頭に添えられてゆっくりと動くポケモントレーナーの手。

 少女自身の柔和な雰囲気と笑顔。

 リンの姉であるユカリは、闊達なリンとは真逆な空気感を有しているようだ。

 

「……ずるい!」

 

「は?」

 

「ずるいずるいずるーい!」

 

「なにが?」

 

「お姉ちゃんへの対応と私への対応が違いすぎるんですけど!」

 

「じゃあなんだ、ユカリを追いかけ回せってのか?」

 

「ちがーう! そっちに合わせるなー!」

 

「じゃあなんだよ」

 

「私にも優しくしろー!」

 

「…………」

 

 無言でユカリの身体を引き寄せると、無言で抱きしめ、無言で髪をすく。

 

「えへへ」

 

 ユカリも呼応するように青年の身体に腕を回した。

 そして、俺が見ていることに気付いてワチャワチャと手を動かす。

 ちがっ……とか、やっ……とか言ってるな。

 うん、遅いな? 

 おじさんは空気かな? 

 

「ブーーー!」

 

「ブーじゃない」

 

「ズーーー!」

 

「ズーでもない」

 

「……トレ君は私のことが嫌いなんだ! ビエエエエ!」

 

 リオレウスの翼に突っ伏して泣き始めた。

 まるで子供のようだ……! 

 そんなリンのそばにしゃがんで、慰める。

 なんというか……本当に、幼い兄妹のやり取りを見ているようだ。

 

「ばーかばーか! ばーーーか!」

 

 そんな捨て台詞を吐いて、リンはリビングに撤退した。

 ユカリに刺身を渡す。

 

「これ持っていくかい?」

 

「い、良いんですか?」

 

「ああ、どうぞ」

 

「ありがとうございます、みんなでいただきます」

 

 また二人きりの空間になった。

 ポケモントレーナーが、隣に座る。

 遠い昔の記憶が蘇る。

 この縁側で、酒を酌み交わした。

 この街を守ろうと、二人で盃を掲げた。

 ……彼が、それを成した。

 俺と兄貴の代わりに。

 

 俺は──なんて幸福なんだ。

 唇が震えるのを誤魔化して、酒を喉に滑らせる。

 もう、思い残すことが無い。

 厭世の念に飲まれたとかそういうことでは無い。

 満足なんだ。

 俺たちが受け継いできた役目を、神話を、ナギは完結させた。

 神──天津禍土に爪を返上し、新たなる風を吹き込んだ。

 代々の誰にも成し得なかったことだ。

 初代が託されただけの物を、彼女は真に意味あるものにした。

 賞賛されるに値し、この家にナギありと評されるに相応しい偉業だ。

 

 それだけでは無い。

 

 世界を、街を──人々を救った。

 もはや巫女など……そんな器に収まる存在では無くなってしまった。

 巫女という存在がこの街からいなくなる。

 それは、少しだけ寂しい。

 それでも、きっと神は見守っている。

 俺たちの街を守ってくれている。

 

 彼がそれを教えてくれた。

 あの神は、そういう存在だと。

 大事な約束があって、それを、誇りと命を賭けて守っていると。

 彼の同郷が、その誰かだとか。

 本当に──

 

「アラカゼさん」

 

「む……すまないな、黙り込んでしまって」

 

「いえ、ただ……一つだけ伝えたくて」

 

「なんだ?」

 

「この世界を護るのは、俺みたいな部外者じゃダメなんです」

 

「…………」

 

「この世界を生きている本物の人間じゃ無いと力が足りない」

 

「本物の……人間?」

 

「はい、俺みたいな紛い物がこの世界でやっていけているのは、ホシノやレッド、ナギ……そしてアラカゼさん、あなた達が必死に生きているからなんです」

 

「すまない、俺には意味が……」

 

「俺たちは特別な力を与えられた。きっと彼も、何かを持っていた。でも……そんな程度で強がれるほど、この世界は甘くなかった」

 

 与えられた。

 それは、神から? 

 

「俺たちはへなちょこです。ウォシュレットが無かったら文句言うし、自動湯沸かしじゃ無かったらめんどくさいし、車が無いと移動なんてしたくない」

 

「…………?」

 

「主体性なんて、最初は無かった」

 

 彼は、一枚のカードを月に翳していた。

 透かしているのか、何かを見出そうとしているのか……そこに、何の意味があるのか。

 

「そんな俺たちがこの世界で何かを成したとしたなら、最初に何かを見た筈なんだ」

 

「何かを?」

 

「俺たちのナニカを変えるような、何かです」

 

「──君は、何を見たんだ?」

 

「……あの子達が俺を救ってくれました」

 

「ホシノか」

 

「綺麗だったんです、あの後ろ姿が──それに、街を見守るあの人の立ち姿が」

 

「では、それが君の誤解の元だな」

 

「──誤解?」

 

「己は無力で、一人では何も出来なくて、悲しい生き物だ──たまたま才能があるだけで、ちっぽけな男だ…………俺も、そんなふうに思った事があった」

 

「そんなふうに思っていた時期が……」

 

「うん、だが……そんな事を気にする必要は無いんだよ」

 

「?」

 

「誰かに影響されなければ出来なかったとか、昔の自分だったらこんな事はしなかったとか……そういうのは、思うだけ無駄なんだ」

 

「そ、そんなことは──」

 

「無いっ!」

 

 若いな。

 

「君の内心など、君の偉業を測る上では意味が無い。君の自虐など、世間のものは聞く耳を持たない。君が何を思おうと、何を言おうと、君は英雄だ」

 

 きっと、自分自身の心に誠実でありたいのだろう。

 英雄などと呼ばれることに辟易しているのだろう。

 自分が思う自分と、世間が思う自分が大きく乖離しているのだ、彼にとっては。

 

「胸を張って生きていれば、それだけで良いんだ。…………いや、胸は誰よりも張っているか」

 

 普段の振る舞いと同じぐらい傲岸不遜にしていれば良いのに、そうしないのは彼なりの美学なのかもしれない。

 彼にも、理想の英雄像というものがあるのだ。

 

「もう一人の少女にも教えられたのだろう?」

 

「…………ホリィ」

 

「遠い時代の君のパートナー、彼女もきっと、君が堂々としていることを望んでいた筈だ」

 

「……ダメですね俺は、言われた事をすぐに忘れてしまう」

 

「あっちの君は忘れていないだろう?」

 

「そう信じてます」

 

「──しょうがない! なにせ君は、女の子を8人も引き連れているハーレム野郎なのだから!」

 

「言い方に悪意を感じるんですけど!?」

 

「世の男の敵だな!」

 

「ええ!?」

 

「ついでに女の敵でもある!」

 

「じゃあ人類の敵じゃん! それで良いのかよ人類! 天敵に守られてるぞ!」

 

「ガハハハハ!! んぐっんぐっんぐ──ぶふぉっ!」

 

「何してんだこのおっさん!?」

 

 盛大に咽せてしまった。

 歳のせいかもしれん。

 

 

 ──────

 

 

「ハーレム野郎だー」

 

「はーれむやろー」

 

「やろー」

 

 孤児院を訪れたら、誰が教えたのか丸わかりな罵倒を浴びせられた。

 アラカゼさん……子供だからといって、俺が容赦すると思うなよ……! 

 そう、ポケモンバトルだ! 

 

「いけ! コクーン!」

 

 俺のドスヘラクレスが負けるわけないだろうが! 

 

「コクーン! やっちゃえー!」

 

 ふ、ふん! コクーンの方が3倍くらい大きいとはいえ、俺はポケモントレーナーだぞ! 

 それに、コクーンに技なんてほぼ使えない! 精々糸を吐けるくらいだ! 

 ドスヘラクレス! 突き刺してやれ! 

 

「糸でぐるぐる巻きにしちゃえー!」

 

 …………ド、ドスヘラクレース! 

 ドスヘラクレス、ぐるぐる巻きになっちゃったぁ! 

 

「戦闘不能、コクーンの勝ちだホ!」

 

「いぇーい!」

 

 ふ、ふざけんな! 何でお前ら全員そっち側なんだよ! 

 何でちびっこ側に全員混ざってハイタッチしてんだよ! 

 ホシノ! せめてお前はこっちだろがい! 

 

「えー? でも、お兄さんズルいじゃん」

 

 何が!? 

 

「存在が」

 

 存在が!? 

 チートのこと!? 

 

「そう」

 

 これカブトムシだよ!? 

 モンスターじゃないからね!? 

 

「そういう判定なの!?」

 

 何を驚いてんだ! 

 そんなことが出来るなら野営中に出てくるゴキブリにキレるわけないだろ! 

 

「だって、人間にも力を使えるんだからカブトムシでもいけるかなって」

 

 ポケモントレーナーだっつってんだろうが! 

 蟲使いじゃねえんだよ! 

 

「おじさんのこと、いまだにポケモンだと思ってるの!?」

 

 ホシノどころか、お前ら全員ポケモンの血が混ざってんだろ! 

 

「もはや差別だよねそれ!?」

 

 うるせー! 

 

「で、でも、ドスヘラクレスも言うこと聞いてたじゃん!」

 

 言う事は聞いても、昆虫が使える技なんかあるわけないだろ! 

 

「思い込みじゃん! 試しにやってみなよ!」

 

 …………とんぼがえり! ──あっ。

 

「とんぼがえりってそういう……」

 

「ししょー! 飛んでっちゃいましたね!」

 

 お前らみんなポケモンや! 

 ……何でゴキブリは言う事聞いてくれないんだよお! 

 

 

 ──────

 

 

 ちびっ子! ヒガンくんのことを色々聞かせてくれ! 

 ……うん…………うんうん……うんうんうん。

 そうかそうか! 

 自慢のお兄ちゃんか! 

 ヒガンくん、かっこいいもんな? 

 ……そうだよなあ! 

 いやー、アラカゼさんの教育が良いせいか、みんな行儀が良くてすごくグッドだ! 

 

 前来た時より、お風呂が全然広くなってる……ヒガンくんがお金を貯めて色々買い足した!? 

 あいつ、すげえな! 

 結構大変だったんじゃ無いか!? 

 ナギサお姉ちゃんにチクチク言われながら貯めてた……ええ……? 

 ヒガンくん……お前、もう人生の墓場に到達したのか? 

 でもヒガンくん、俺よりシッカリしてるからあんまり心配にはならないな。

 

「いやいやいやいや! あの動画見てその感想は出てこないから!」

 

 どうしたブルー、いきなり騒いで。

 疲れたなら寝るか? 

 

「お風呂入ってないから!」

 

「おねーちゃん、いっしょにはいろー!」

 

「え……わ、わかった、後でね?」

 

 ブルーがお姉ちゃんみたいなことしてる! 

 あんなに妹キャラが似合ってるのに! 

 変だ! 

 

「すっごい失礼だからねそれ! ……じゃなくて! ヒガンさんの動画見たよね!?」

 

 おん。

 

「なにそのムカつく顔! ……ヒガンさんがしっかりしてるとか言ってたけど、暴力が選択肢にナチュラルに含まれてるじゃん。それは良いの?」

 

 え? ダメなの? 

 俺も昔は、からかってきた友達を川に沈めたりしたもんだけど。

 

「それ友達じゃないでしょ……そもそも、無闇な暴力はダメ!」

 

 俺も無闇にはやってないから。

 だよな? 

 

「……まあ、トレーナーさんは意外と優しいけど……」

 

「ブルーさん騙されちゃダメよ!? この人、チンピラとかに絡まれると酷いんだから!」

 

 酷いのはチンピラでしょ! 

 俺だって何もされなきゃ何もしないのに! 

 それともなんだナギ。

 俺に殴られっぱなしにしてろってのか! 

 

「そうは言ってないじゃない」

 

 そもそも、絡まれる原因はお前らでもあるんだからな! 

 お前らが可愛いから絡まれるんだよ! 

 で、俺が受け皿になってるだけだろ! 

 

「それはそうね」

 

 じゃあ、しょうがないじゃん!? 

 どうにかするべきはソーマの治安の方であって……というか、お前らも最近少しずつ動画とか載せてるよな!? 

 なんかチラチラと聞こえてきてるんだぞ! 

 

「し、しらないわね」

 

 何だその顔! 

 絶対知ってる顔じゃねえか! 

 お前らもあれか! 承認欲求に支配されたのか! 

 

「ちがうわよ! 思い出作り!」

 

 じゃあ内部保存でいいだろ! 

 

「……し、しらないわね」

 

 それ言ってりゃ誤魔化せるってわけじゃねえからな! 

 ──ホシノ! 

 

「ひゃいっ!」

 

 お前もそこらへんよく分かってるんだからさ? 

 もう少し、影響とか考えてくれないと後々困るから。

 な? 

 

「は、はい……ごめんなさい」

 

「謝る必要は無い」

 

「レッドちゃん……」

 

 何だレッド、反論できる要素があるのか。

 ホシノですら完封した俺の意見に。

 

 

 ──────

 

 

「異議あり。お兄さんのは意見じゃなくて、弱みに漬け込んでるだけ」

 

「おいい! 人聞きが悪すぎますぅ!」

 

「ホシノはよわよわだから、お兄さんに弱点を突かれると四倍不利で即ひんし」

 

「レ、レッドちゃん……おじさんの味方なんだよね……? あと、四倍って何?」

 

 しかし、ここでホシノをガン無視。

 

「私たちが投稿してるのは、あくまで健全な内容。みんなで今日はどこ行ったとか、こんな事して楽しかったとか」

 

「でも、場所特定されて凸られるとかあるだろ?」

 

「慣れたから問題無い、それに最近はみんなもあんまりそういう事はしない」

 

「少しはあるんだろ?」

 

「そもそも、その程度のことを気にしていたら日々の行動が出来ない」

 

「む……」

 

「私たちが投稿するのをやめる理由にはならない」

 

「うーん……でも、やっぱり心配だしなあ……」

 

 首をグネグネと動かして迷う青年を見たレッドは、目を光らせた。

 近くに寄ると、修道女のように祈りの手を見せ、上目遣いで尋ねる。

 

「……だめ?」

 

「いいよ──はっ!?」

 

「勝った」

 

 反射的に了承した青年は、すぐさま気付くが時すでに遅い。

 すでに裁定は下された。

 それに、レッドの意見が真っ当だと感じていたのも事実だった。

 まあ良いか、と首をすくめて一本指を立てる。

 

「あんまり過激な内容は投稿しないこと、いいな?」

 

「はいはーい!」

 

「はい、ホシノ」

 

「過激ってたとえばどんなのかなあ?」

 

「あー……裸の写真を要求されて送っちゃうとかそういうのだな」

 

「そんなことしないよ!?」

 

 少女達は愕然とした。

 この人、私たちのことをあまりにもバカだと思ってやしないだろうか。

 

「ああ、分かってたんだ」

 

「お兄さんよりもず──ーっと! ソーマに触れてる時間長いんだから!」

 

「ふーん…………俺が知らないところで炎上した事とかあるのか?」

 

「うへ〜……そもそも、今だってお兄さんが炎上してるよぉー……」

 

「ああ、そうなんだ」

 

「反応浅いねえ」

 

 やっぱり、という感想しか出てこない。

 そりゃあ炎上ぐらいしてるんだろうな、と青年自身も思っていた。

 書き込みも、何が書かれてるか全く分からないから気にする意味も無い。

 なんか書いてるなー、というぐらいのものだ。

 

「最近は、1週間に一回ぐらい炎上してるわね」

 

「週一の炎上……もはや通常運転なのでは?」

 

 どうせ女がどうとか、金がどうとか、そんな事だろ。

 

「まあ、面と向かって言ったらやられるからあんまり来ないんだろうけどねー」

 

「いや、来るぞ」

 

「来るの!?」

 

 

 ──────

 

 

「ぬくぬくおふとんぬっくぬく〜」

 

「なんだそれ」

 

「お兄ちゃんが歌ってくれたおうた!」

 

「ヒガンくんが?」

 

「うん!」

 

「お風呂なのに?」

 

「うん!!」

 

「なかなかセンスあるじゃん」

 

 孤児院のガキンチョと風呂に入っている。

 名前はヒュージ。

 いつもヒガン君がお風呂に入れていたらしい。

 あいつ、お父さん役もやってたのか? 

 最初出会った時は孤児院でもなんか気まずそうにしてたのに、本当、変わったよなあ。

 

「おじさんはお兄ちゃんのお兄ちゃんなんでしょ?」

 

「ええ? 俺が?」

 

 言っている意味がよく分からない。

 

「うん、おんぶしてもらったのがすごい嬉しかったんだって!」

 

「そっか……」

 

 聞いても良いのかな、これ……

 ダメだよな……

 聞かなかったことにしよう、うん、それがいい。

 

「おじさん、ありがとう!」

 

「え?」

 

「お兄ちゃんが元気になったのは、おじさんのおかげなんでしょ?」

 

「きっかけはそうかもな」

 

「お肉いっぱい食べられるようになったし……それに覚えてるよ! イジワルなおばさんをやっつけてくれたこと!」

 

「そんな事もあったな」

 

「うん!」

 

 可愛げのある子だ。

 こういう子供が欲しいかも。

 でも、あれだな。

 孤児院の子だから、普通よりも少しだけ大人びてるってのもあるんだろうな。

 

「あついからあがろーっと!」

 

「そうだな、上せないようにな」

 

「髪拭いてー」

 

「はいよ」

 

 

 ──────

 

 

「ここー」

 

 俺の部屋に案内された。

 前は数人で一つの部屋だったけど、基本は一人一部屋になったらしい。

 確かに建物も大きくなっている。

 ヒガン君、すんごい頑張ったんだな……

 今度会った時、何かご褒美あげたいな。

 

「ベッドでかー!」

 

 どっしゃああ! と俺が寝る予定のベッドに飛び込んだ。いつもは子供用のベッドだもんな、飛び込みたくもなるか。

 でもスプリングが痛むからやめた方がいいかなって。

 

「俺もここで寝よーかなー!」

 

「暑くない?」

 

「確かにおじさん体温高いもんねー」

 

「うん」

 

「うちは食堂にしかクーラーないからなー」

 

「しゃあねえな……」

 

 

 ──────

 

 

「──何でオイラが?」

 

「お前はクーラーだ、いいな?」

 

「オイラはクーラー」

 

「すっげー……モンスターが本当に喋ってる……」

 

 喋るモンスターなんていないもんな普通。

 さて、寝ますか。

 

「おい、説明はどうしたんだホ」

 

「お前はクーラーだ」

 

「それが説明になると思ったら大間違いだホ」

 

「良いだろもう……寝る時暑いんだよ」

 

「そう……じゃあ……」

 

 部屋からふらっと出て行こうとしたヒーホー君をキャッチ。

 

「おっと、お前は今夜、この部屋から出ることはできない」

 

「なあなあ! 名前なんてーの!?」

 

「え? ヒーホーだホ」

 

「他の街にはヒーホーみたいな喋るモンスター、いっぱいいるの!?」

 

「いないホ」

 

「じゃあ、ヒーホーだけ!?」

 

「そうだホ、オイラは天才なんだホ」

 

「いいなー! ……おじさんのパートナー!?」

 

「は? ふざけんな、オイラはアイリのパートナーだホ」

 

「アイリって誰だっけ」

 

「金髪のロングの女の子だホ」

 

「……ああ! あのちっちゃいお姉ちゃん!」

 

 あの姉ちゃんのかー、いいなー、と足をバタバタさせるヒュージを他所に、ヒーホー君が耳打ちしてきた。

 

「やっぱり8人って多いホ」

 

「そんなの分かってるわい」

 

「もう、増えないホ?」

 

「うん」

 

「嘘だホ」

 

「何言っても無駄じゃねえか」

 

「オイラも最初は、ホシノとくっつくんだろうなー、とか思ってたけど、途中から色々おかしくなったホ」

 

「…………」

 

「節操無しとはお前のためにあるような言葉だホ」

 

 …………寝りゅっ!! 

 

 

 ──────

 

 

 アラカゼさんもいるので、メガシンカの練習。

 安全装置は多いに越したことは無いからな。

 こうして見守っているわけじゃよ。

 今はひたすらブルーに喝を入れてる。

 そう、俺は熱血教師! 

 中学校に配属されたばかりで、やる気満々の教師だ! 

 

「メガシンカッ! ……メガシンカッ↑! ……メガ↓シンカッ→!」

 

「そうだ! もっと気合い入れてけ!」

 

「メガシンカァ!」

 

 もう10分ぐらい色々なアプローチしてる。

 両手で持ってみたり、祈ってみたり、リザードンがやってみたり。

 なかなかうまくいかないもんだ。

 ちなみにレッドは笑いすぎて、地面に突っ伏してピクピクしてる。

 クールで有名なレッドも、妹の奇行には耐えきれなかった。

 

「パヒャヒャヒャヒャ!!」

 

 地獄みたいな笑い方をしてるのはヒーホー君だ。

 かき氷を自分で作って食べてる。

 

「うわーん! できない!」

 

 ついにブルーも幼児退行して、半泣きでしがみついてきた。

 かわいいねえ。

 

「むりだよお」

 

 帽子が転がっているのも気にしないで頭を擦り付けてくる。

 汗だくだ。

 綺麗な茶髪が梳いてもひっかかる。

 早くシャワー浴びさせないとな。

 

「まあ、今すぐできるようになる必要も無いから」

 

「でも、あの時は出来たのに……」

 

「焦るな! その時が来たら、必ずお前はできる!」

 

「ほんとう?」

 

「限界のギリギリさが、再びきっとお前の力を呼び起こしてくれるはずだ!」

 

「限界のギリギリ……」

 

「とある人のありがたいお言葉だ」

 

「どんな人?」

 

「殺人鬼」

 

「!?」

 

「さて、一旦汗流してきな」

 

「う、うん……殺人鬼って、ええ……?」

 

 

 ──────

 

 

 さぁぁぁ。

 耳を抜ける音。

 温いお湯が肌に当たって滑り落ちていく。

 あんまり熱いと肌がダメになっちゃうから、温度には気を付けて、と。

 それなりに──そう、それなりに私もお肌とかに気を付けてる。

 強いモンスターが大好きだけど、オシャレだって大好きなのだ。

 そこらへん、あの人はあんまり分かってない気がするけど。

 

「はぁ……」

 

 ため息を吐くと幸せが逃げるなんて言うけれど、私の最近はずっとこんな感じだ。

 トレーナーさんは、ため息付きすぎてPOWひっくwwwとか言ってたけど。

 ムカつく。

 というか、そもそもさ。

 そもそも……原因はトレーナーさんだよ。

 

 私との距離感、ずっと変わらないんだけど。

 

 何あの人、お姉ちゃんたちとはずっとベタベタしてるくせに、私の事は生暖かい目で見てくるし。

 進展? とかそういうの、無いの? 

 私には無いの? 

 あーあ、うざ。

 しがみついた時もさりげなく見たけど、ただただ優しい目してた。

 はー……本当、女心とか分かってないよねあの人。

 

「むかつく……」

 

 そう、口に出すと余計に腹が立ってくる。

 シャワーを止めて、自分の身体を見る。

 客観的に見ても、悪い見た目じゃ無いはずだ。

 ソーマでも可愛いって言われるし、あの人も可愛いって言ってたからそこは間違いない。

 お世辞とか、あんまり言う人じゃ無い。

 たぶん。

 胸だって、お姉ちゃんとかホシノさんよりはあるし、お腹も引き締まってる。

 

「うーん……」

 

 胸を寄せてみる。

 あの人、あんまり胸がどうとか言わない。

 ノコさん以外には。

 ノコさんが抱きつくと露骨に反応する。

 この前も、ビーチで遊んでた時ノコさんばっか見てホシノさんにお尻を蹴られてた。

 アイリちゃんにも。

 私もついでに足踏んだ。

 

「きらっ☆」

 

 鏡に向かってウィンクをしてみた。

 顔だって、そこらのアイドルには負けてない。

 トレーナーさんも可愛いって言ってたし。

 ……可愛いって言ってくれる割には、あんまり露骨じゃない。

 でも当然なのかもしれない。

 あの人、いっつも誰かしらの相手してる。

 昨日はアイリちゃん、一昨日はユカリさんで、その前はナギさん。

 ナギさんは、私たちの中だといちばんお姉さんだからなのか、あの人の前だと妹みたいになる。

 わがままを言って、少しイタズラをして、甘える。

 そんな風にしているのを、こっそり後を尾けた時に見た。

 

 ……そして、お姉ちゃんも結構強かというか、気付いたらくっついてる。

 もう少し、分けてくれてもいいのに。

 

 そうじゃない! 

 問題はあの人だよ、あの人! 

 トレーナーさん! 

 ナギさん達で満足してるのか分からないけど、もう出会って一年以上経ってるのに、全然手を出してくる気配がないじゃん! 

 そりゃあ、私はまだ14だけどさ。

 お姉ちゃんよりは身体育ってるのに……

 

「はぁぁ……」

 

 別に、手を出して欲しいとか思ってるわけじゃない。

 付き合ってる訳でもないし。

 ……いやいや! こんなに可愛い女の子が隣にいて、そういう風にならないのがおかしい! 

 強いて言えば、女の子が多過ぎるのがおかしい! 

 

 

 ──────

 

 

「女の子が多すぎる? …………わかる」

 

 分かる、じゃないから! 

 

「でも、俺もずっとそう思ってたし……」

 

 なんとかして! 

 

「それは無茶振りじゃないか!?」

 

 じゃあ、話し合いをしょもーします! 

 

「認めます」

 

 

 ──────

 

 

 膝を突き合わせて。

 2人とも正座をしている。

 こんな近距離でいる必要ある? と青年は訝しんだ。

 ただ、ブルーがそうしたいならそれでいいか……と流す。

 女の子+異世界+原作キャラ=俺には理解できないの図式が青年の頭にはあるのだ。

 これもまた、この子達と正常な関係である為には必要なことだ、そんなことを考えていた。

 

「と! い! う! わ! け! で!」

 

 でかい。

 声がでかい。

 何がここまで彼女を動かすのか。

 何がそんなに不満なのか。

 ちゃんとした距離感でやってきたはずなのに。

 青年は戸惑う。

 強いモンスターが欲しい、それがこの子の願いだ。

 その究極はミュウツーだったけど、殺しちゃったのは許して欲しい。

 というか、許してくれた。

 

『私は、トレーナーさん達を傷付けてまでパートナーが欲しいなんて思ってないよ?』

 

 嬉しかったなあ……

 すごい美少女然とした微笑みだった。

 いつもああしてくれてれば良いのに。

 美少女なんだから。

 そんな事を思っていたのがよくなかったのか、少女が手を突き出した。

 青年の腹に捩じ込まれる。

 

「邪念!」

 

「ぐへっ」

 

「今、変なこと考えたでしょ」

 

「いやいや、そんな……」

 

 大袈裟に手を振る。

 彼にとっては、至極真面目な問題だ。

 しかし、今回は彼女が設けた場であり、彼には他の事を考える権利はなかった。

 ブルーに思考をフォーカスさせなきゃ……! 

 

「なんで……」

 

「ん?」

 

「なんで、私だけ距離感ずっと変わらないの?」

 

「変わってないか?」

 

「うん」

 

「でも、出会ったばかりの時は毒虫みたいな感じで見られてた気がするなあ」

 

「そんな前の話してないから!」

 

「えっ」

 

 目を丸くする。

 青年の感覚として、1年前はそこまで前では無い。

 ただ、そういうことを言いたわけじゃ無いのだろうと、なんとなく察した。

 

「じゃあ、最近の事?」

 

「そうだよ!」

 

「あー……距離感……」

 

 青年の感覚として。

 ブルーという少女はどこまで行ってもモンスター好きの、というか強ポケ狂いのバーサーカー。

 そのうち、もっと強いやつに会いにいくとか言って、パーティーを抜けるんだろうと思っていた。

 意外だった。

 ここまで長く同行するとは、と感慨深い気持ちが湧いてくる。

 

「……なにその目」

 

 情が無いわけじゃない。

 むしろ、それなりのものがある。

 レッドの妹という個人識別から、ブルーという確かな意志を持った人間へ、そして大切な仲間になった。

 ただ、距離感というのはよく分からない。

 

「ブルー、今、俺たちの距離ってどれくらいだ?」

 

「え? …………ぜ、ぜろ」

 

「だよな」

 

 青年は膝に目を落とした。

 お互いの膝が触れている。

 それで距離感とか言われても、なんのことかがよくわからない。

 首を傾げるしかなかった。

 

 

 ──────

 

 

 俺は、仲間になる奴を見極める時に大事にしている事がある。

 それは、熱を共有できる関係性である事だ。

 パートナーでも、友達でも、ライバルでも、恋人でも、妹でも、呼び方や対外的な関係なんて、なんでも良いけど、それだけは譲れない。

 熱──ロマンこそが、俺がこの世界を生き抜くために不可欠な要素なんだ。

 だから、そいつの夢を知って初めて、俺はそいつを仲間にするかどうかを決められるってわけ。

 

 世界を目の前にして、何かをしたい、希望に向かって羽ばたきたいと思っている奴の心は輝いて見える。

 例え諦観があっても、秘められた願いは色褪せない。

 なぜなら、そいつの最も純粋で尊い願いが奥底にある。

 これは、チートがどうとかそういうのじゃない。

 みんなが持ってる。

 頑張るやつを応援したいと思う、そんな気持ちだ。

 

 そんで、ブルーの熱は半端ない。

 いつも表に出てくるくらいだ。

 そんなブルーを見ているのは楽しい。

 奇行も多いけど、色々なモンスターを見て強さを分析したり、俺の眼を頼ってくることも多い。

 年下の女の子に頼られると嬉しくなるのが男ってもんで、見たところの強さやブルーとの相性を答えたりしている。

 言うなれば、アドバイザーみたいな? 

 トレーニングのコーチみたいな? 

 まあ、そんな感じだよね。

 

 

 

 んで、ブルー、話し合いは良いけど、距離感って結局なんだ? 

 ……何モジモジしてんの? 

 言いづらいならレッド連れてこようか? 

 余計なことするなって……じゃあ、何が言いたいんだ? 

 そもそも、膝が触れ合うぐらいの関係なんだから、十分近くね? 

 これより近付いたら健全じゃないというか、一応彼女いるからさ、俺。

 ……今更遅いとか言うな! 

 俺は浮気がしたいわけじゃないんだよ! 

 すごい普通なの! 

 説得力無い? ……知ってる! 

 

 ホシノとかナギとかと付き合ってて、お姉ちゃんとも付き合ってるのに、私だけ付き合ってないのはなんか違くない? って事らしい。

 普通に叱った。

 俺があいつらと付き合ってるのは、まず最初に旅があって、時間を共有して、あいつらのことを1人ずつ知っていって、みんなの事が好きになったからだ。

 そこら辺、勘違いすんなよな? 

 

 拗ねちゃったブルーを宥めつつ、悩む。

 ブルーが感じているのが、疎外感なのか恋愛感情なのか、俺には分からない。

 モヤモヤしているのは見てても分かるけど、感情ってのは定量的なものじゃないからどうしても難しい。

 取り敢えず、あそぼう! 

 ごちゃごちゃ悩んでるとおかしくなる! 

 うにうに言ってる暇があるなら、体動かすぞ! 

 ……脳筋だとお!? 

 そうだが、なにか!? 

 

「──決めた!」

 

「なんでしょうか」

 

「お姉ちゃん達は関係無い!」

 

「何がでしょうか」

 

「私は好きにやる!」

 

「いつもそうだね?」

 

「うるさい!」

 

「はい」

 

 

 ──────

 

 

 今回はナギの実家に泊まってるから、お金はいらない。

 さすが、巫女の家! 

 この人数でもなんともないぜ! 

 ……うそ、暑い。

 そしてうるさい。

 部屋がいっぱいあるんだから別れて寝よかー、ってことになったのに、2人が来た。

 

 布団でスヤァ、しようとしたらノコが勢いよく襖を開け、ホシノが続いて入ってきて、当然のように俺の両脇に転がった。

 クーラー付けてるとはいえ、すでに暑い。

 あちゅいよお! 

 ……なんでこいつら、俺を無視して2人で話してるんだ? 俺の部屋に来る必要あったか? 

 さりげにしがみついてくるので殊更に暑いしうるさい。

 暇だから2人の頭でも撫でてるか……

 

 いつのまにか2人とも静かになったと思ったら、チラチラとこっちを見ていた。

 なに? 

 とか言うほど鈍感じゃない。

 でも、君たちはそれでいいの? と、逆に問いたい。

 2人やぞ? 

 良いらしい。

 ……寝ようかな、普通に。

 おやすみ。

 ……おわっ!? 

 

 

 ──────

 

 

 俺たちは再びアトラス大陸を巡った。

 マタナキ、フルオカ、コトリ、スパイク、グレン、テツカセ、マホロバ、オドクモ、それ以外にもたくさん。

 もちろん今回は船を作るためだから、猛ダッシュだ。

 あいつらはリザードンたちの背に乗って、俺は走ったけどな。

 んで、その甲斐あって、古代戦争時代の船を見つけることができた。

 ゴミカス高い。

 は? 俺の人生買えるやん? ってぐらい高い。

 ふざけんな死ぬほど働いたわ。

 

 ──また旅かよって? 

 チッチッチッ。

 今度のこれは、新たな門出に必要なプロセスだ。

 何も無かった俺が、一つずつ、1人ずつ得ていった旅とは違う。

 絆を結んで、意味を知ったあの輝かしい日々とは、また違う。

 レッドと、アイリと、ブルーのためにしていた旅は、一応終わった。

 これは、あの子達が喜ぶ顔が見たくて、あの子たちの目標を叶えるためにしていた旅じゃない。

 俺が楽しむための、俺が最も望んだことだ。

 世界を見る。

 世界を識る。

 ポケモンを、もっと堪能する! 

 俺が、俺自身を知る! 

 この世界の広さは、GPSすらないこの世界の距離は、俺の世界の星を凌駕している。

 ──未知だ! 

 胸の奥で、なにかが燃え盛っていた。

 ……いや、違う。

 これは俺が元から持っていたものだ。

 俺がこの世界に来る前から持っていた、熱。

 だから、この船は──

 

「お兄さん」

 

「──ホシノ、どうした」

 

「あのさ……みんなに夢を見せてくれて、ありがとう」

 

「なんだそりゃ、大袈裟だな」

 

「ううん……大袈裟なんかじゃない」

 

「…………」

 

「何度だって言うよ。この気持ちは絶対に、大袈裟じゃないんだ」

 

 ホシノが、その小さな手を伸ばして、俺の傷だらけの手を取った。

 傷をなぞられる。

 

「最初は、ピッカピカの手だったのにね」

 

「そりゃあピカピカの一年生だったからな」

 

「うへ、なぁにそれ」

 

 こそばゆさを感じつつ、したいようにさせていたらポツポツと語り出した。

 

「夢ってさ、遠いよね」

 

「そうだな」

 

「普通、叶わないよね」

 

「……そう、か?」

 

「人生を賭けて頑張って、それでも届くか分からない。それが夢だよね」

 

「そうかもな」

 

「お兄さんは違うって言うけどさ……やっぱりお兄さんは私たちのリーダーで、前を歩いてくれる人なんだよ」

 

「……そうか」

 

 違和感はあるけど……言葉を邪魔する意味は無い。

 

「夢見心地って、言うのかな」

 

「なんだ眠いのか?」

 

「茶化さないでよ! おじさんが真面目に話してるんだから!」

 

「ご、ごめんて」

 

「……みんな、同じなんだ」

 

 胸に手を当てて、ホシノは思い出しているようだった。

 ──なにを? 

 

「みんな同じ目をしてた」

 

 

 ──────

 

 

 彼は、力を持っていた。

 彼は、意思を持っていた。

 彼は、慈しみを持っていた。

 彼は、情熱を持っていた。

 だけど、彼は全てを失っていた。

 家族も、経歴も、名前も……それら全て、世界の彼方に置いてきていた。

 人が自分を自分であると認めるために、当たり前に持っているものを何一つ、持っていなかった。

 ──嘘。

 一つだけ。

 彼はカードを持っていた。

 ただ、それだけが彼を表すものだった。

 刻まれているのはきっと、彼自身が失くしたと言って憚らない名前。

 彼の本当の名前。

 彼の世界の文字、言葉。

 

 恐るべき孤独。

 なんて恐ろしいんだ。

 ……私には分からない。

 彼は最初から、それで良いと言っていた。

 帰ることはできないと。

 親には悪いけど、これで良いんだって。

 諦めているとも取れるけど、違った。

 

 意味が無いと、彼は言った。

 失ったものは2度と元には戻らない、ここにあるのはその残り滓でしか無いって。

 俺はもう、ポケモントレーナーだって。

 俺は偽物で、俺はそれで良いって。

 

 そんな事はない。

 彼が言うところの残り滓が、彼のほとんどを構成している。

 彼を突き動かす原動力は、彼の知識だ。

 私たちに出会う前と出会った後で、彼は変わってない。

 たとえ私たちがあの人に出会わなくても、道筋が違うだけ。

 絶対に彼はたどり着く。

 彼が望むものに。

 

 だって、私たちは見てきたから。

 あなたが嗤う、あなたを。

 力を与えられた凡人だって嘲笑う、あなた自身の意志の強さを。

 力が無ければ何もできない臆病者だって嘯いて、苦しむ誰かに手を差し伸べていた尊さを。

 だから、自分を馬鹿にしないで。

 私たちのリーダーがそんなんじゃ、私たちは悲しいから。

 

 

 ──────

 

 

 常識? うるせえ! 

 ルール? しらねえ! 

 悪人? ぶんなぐってやらあ! 

 それが彼のスタンスだ。

 一緒にいると本当に苦労する。

 いつも盗撮されるし、気付いたら喧嘩してるし、警察に追われてるし……

 でも──そんなあなたに夢を見る。

 

 あなたがそのままでいるのは、私たちが縛り付けているから。そうじゃなかったらきっと……どこまでも歩いていってしまう。

 

 それに……手を引いてくれて、抱きしめてくれて、物語を教えてくれて……世界を見ようって言ってくれた。

 女誑し。

 正直、そうとしか思えないけど……彼は大真面目に、仲間とのコミュニケーションだって。

 どうかと思う。

 そういう事をやってると、いつか刺される……というか、私が刺す。

 そりゃあ私だって最初からじゃ無いけど、それなりに一緒にいるし、他の女の子ばっかり見られるのは不愉快だ。

 だから、刺す。

 どうせ死なないし。

 それぐらいしなきゃわかってくれないんなら、私はやる。

 

 ……だいたい、あんな風にされたら、離れられないに決まってる。

 いつもはこっちの気持ちなんて気にしないで好きな事をやるくせに……私のことだけを見て、私の目を見つめて、私が欲しい言葉を言ってくれる。

 

 あの月夜を思い出す。

 リオレウスとともに崩れ落ちたあなた。

 血だらけで、傷だらけで、それでも笑ってた。

 ──泣いていただけの私を導いてくれた。

 ああ……本当に、あの2ヶ月は愛おしい時間だった。

 

 あなたと一緒にいたい。

 これはきっと、刷り込みなんだ。

 私たちは、この人に手を引かれて歩いていくのが当たり前。

 もう……そうやって、心の奥まで囚われてしまった。

 

 私たちは、夢を見るあなたに、夢を見る。

 

 

 ──────

 

 

「うふふ……」

 

「…………」

 

 ホシノと話していたら、いきなりナギが甘えてきた。

 2人の視線が電気を散らしているけど、俺を挟まないでほしい。

 

 ──そうそう、船を見繕うための旅で、みんなと仲良くなれた。

 ……言い方が違うな。

 前から親密度はマックスだったけど限界突破した。

 心の距離が! さらに縮まった的な!? 

 かーっ! 俺ってめちゃ幸せだわ〜! 

 かわいい! 

 目に入れても痛く無い! 

 流石に痛覚遮断は出来ないけど、それでもな! 

 

 レッド! こっちおいで! 

 

「うん」

 

 はぁー! 

 かわいい! 

 撫でると目を瞑って身を委ねてくれるところが可愛い! 

 リザードンをもふってると嫉妬して叩いてくるのが可愛い! 

 昼飯を食べるときに、わざとほっぺに食べ物をつけて見せつけてくるのが可愛いい! 

 なあホシノ! ……ママー! ……ママー!? 

 

「こら〜! 誰がママだー!」

 

 ホシノが可愛い! 

 疲れたーなんて言ってるのに、本当は誰よりもみんなのことを見てるのが可愛い! 

 一緒に寝るときに、背中をトントンしてあげると子供みたいにすぐに眠りに落ちちゃうのが可愛い! 

 いまだに顔を近付けると、頬を染めて照れ笑いするのがぎゃわいい! 

 

「んんー……」

 

 ナギが可愛い! 

 部屋でのんびりしてると、飛び込んできて子犬みたいに甘えるナギが可愛い! 

 前よりもさらに険が取れて、子供っぽくなったのが可愛い! 

 恥ずかしそうに誘ってくるナギが可愛い! 

 全力で戦っているナギは、とびきりかっこいい! 

 

 ……あれ、他の奴らいねえや。

 ……ジュース買いに行った? 

 ばかやろう、空気読んで帰ってこい! 

 俺が褒めてるんだから! 

 まあ、それは置いとくか。

 船に乗り込もう。

 

 

 ──────

 

 

 お兄さんが船を見る目は、どこまでも希望に満ち溢れていた。

 楽しみで仕方ないって、目が輝いてる。

 桟橋の脇に停留している、灰色の船。

 やっとの思いで見つけた、世界に行くためのチケット。

 規模も、参戦した者の名前も残っていない、古代戦争の遺跡。

 そう……この船は、そのものが遺跡。

 そこにあるだけで歴史的な価値となる代物。

 異常な耐久性を有しているから、今でも船として使われたりするけど……いや、本当に稀だよね。

 

 だって、すっっっごい高いんだから! 

 お兄さんも流石に驚くぐらいだったよ! 

 高級なお家が余裕で買えちゃうんだから! 

 でも、そこはさすがお兄さんというべきか……

 キカンコウモード? とか言って、休み無しで、高難度の試練をひたすら受けてた。

 しかも、高難度の中でも特に難易度が高い試練ばっかり受ける。

 

 レッドちゃんも1人じゃ受けるのを拒否するような、凶悪なモンスターたち。

 未探索領域を支配する本物の怪物。

 穢れた精霊。

 炎の巨人。

 轟音の怪鳥。

 粘菌の竜。

 鳴動する山。

 戦ったり、一輪の花を取ったり、粘菌を盗んだり、時にはウンチを持ち帰ったり……あれは思い出したくないや。

 なんでか分からないけど、いつも最初に、お兄さんと睨めっこをする時間があった。

 脳筋同士だからかもしれない。

 なんていうのかな……うへ、そうだ、力isパワーだ。

 お兄さんが前にそんな事を言ってて、その時は何言ってんのって思ったけど……まさにそんな感じの連中だった。

 どいつもこいつも秘境みたいなところにいたけど……一生引きこもっててほしい。

 トラウマになりそうだよ。

 

「さてさて、ブラックパール号ちゃんの乗り心地を確かめますか」

 

 お兄さんが船に乗り込んで、甲板から街の方を見た。

 ……おじさんはこの名前、反対だけどね。

 絶対におじさんの考えた名前のほうが良い。

 

「フハハハハ! これが俺の船だ! 見るが良い、愚民ども!」

 

 なにしてんの……

 

「王様ごっこ」

 

 これがお金を手に入れた男の末路……

 と、いきなり側壁を蹴り始めた。

 しかも結構力を込めてるように見える。

 ガンガンと音が響く。

 

「な、なにしてんの!? やめて!?」

 

 超高級な船ということで、お兄さんを抜きにしても衆目を集めるには十分すぎるものがあった。勝手に触ろうとしてお兄さんにぶっ飛ばされたプレイヤーがいたせいで、群衆も一応落ち着いてはいるけど。

 そんな人達も、目をパチクリさせている。

 で、聞いたのに全然やめない。

 乗り込んで羽交締めにした。

 

「ちょっと、やめなって! 

 

「え? あ、止めてた? ごめんごめん」

 

「ええ……」

 

 声が聞こえなかったらしい。

 

「本当に何してるの?」

 

 ちょっとだけ頭に来た。

 せっかくみんなでお金貯めたのに、いきなり壊すようなことして! 

 

「偽物つかまされた線も考えて、最後の確認」

 

「それ買う前にやったじゃん!」

 

「買った後はやってないじゃん」

 

「でも、こんなに綺麗なのを蹴るなんて……」

 

「1週間も経てば鳥のフンが落ちてても気にしなくなるだろ」

 

「そんなことないから! 毎日ピカピカに掃除するに決まってんじゃん! お兄さんが!」

 

「???」

 

 こんな船を毎日掃除する体力は、私たちにはありません! 

 ね! ナギちゃん! 

 

「そうね、疲れさせないと私たちが持たないし」

 

「?????」

 

 

 ──────

 

 

 出港の日、テッセンさんがやってきてくれた。

 流石に歳もあれだし、あのクソジジイは来ねえか……とか思ってたところにひょっこりやってきた。

 めっさ嬉しい。

 

 2人で街を巡った。

 俺は船の整備とかでだいぶ慣れたけど、テッセンさんは昔に一度来ただけらしいから、案内だ。

 

「昔と全然違うのお」

 

「まあ、爺さんが若い頃に来たのと比べたらそりゃあ変わりますって」

 

「うっさいのお」

 

 道ひとつとっても違う。

 今は石畳になっているけど、かつては砂利敷きですらない土だったそうだ。たまたま雨が降っていて、水たまりを踏み抜いた事を覚えているらしい。

 

「このメイン通りは変わらんが、それ以外が全く違うのお」

 

「何が違うんすか」

 

「建物も、人も、服も、空気も、モンスターも、全てじゃよ」

 

「よく覚えてますね」

 

「覚えてるとも! なにせ、友が旅立った日なのだから」

 

「はい?」

 

「あの日ワシがこの港町なんぞにわざわざ来たのも、出立する友を見送るためじゃった」

 

「…………なるほどね」

 

「感慨深いのお」

 

 適当な店で団子を買い、店先の長椅子でもっちゃもっちゃと柔らかい生地を食む。

 餡子たっぷりだぜ! 

 

「さっきの友達ってのは、今はどこに?」

 

「うーむ、分からん」

 

「ええ?」

 

「なにせ、途中で行方知れずになってしまったからな」

 

「途中ってのは……」

 

「当然、航海の途中じゃよ。当時は他の移動方法が無かったからの」

 

「…………」

 

 二の句を継ぐ事ができない。

 海で通信が途絶えることの意味がわからないほど、海の恐ろしさを知らないわけでは無い。

 俺の世界でさえ、それは明らかだ。

 天候、海水、距離、環境の全てが人類に牙を剥く。

 仮に船が転覆などしようものなら、絶望は必至だろう。

 

 この世界なら、そこに巨大なモンスターや謎の海流、隕石、海底火山の噴火が追加される。

 まともな神経をしたものは航海なんてしない。

 グズマがそうだったように、テッセンさんの友とやらもイカれた精神の持ち主だったんだな。

 

「察しの通り、破天荒なやつだったわい」

 

 カラッと笑うテッセンさんは、きっと……その離別を乗り越えた。

 あらゆる悲しみは、時間が優しく癒してくれる。

 たとえ完全には治らなくとも。

 少しだけ悲しそうなのは、そういう事なのかもしれない。

 ……ん? あれ? 

 

「もしかして、俺もそうなると思ってます?」

 

「無論」

 

「無論!?」

 

 無論。

 論ずる無く。

 論ずる意味が無い。

 つまり、主観的に見たときに100%という事だ。

 失礼が過ぎる。

 

「海とは荒御魂の彷徨う別世界だ。逆に聞きたいのだが、君のような人間が何の目にも遭わずに目的地に着けると思うか?」

 

「何ちゅう言い草だ……」

 

 お茶を飲み干す。

 あまりにも不躾。

 俺だけならともかく、ホシノ達がいるのにそんな危ないルートを選ぶわけがない。

 

「磁石みたいなものじゃろて」

 

「俺が厄介ごとを引き寄せてるみたいに言うな! 結果論だぞそれは! 俺がたまたま立ち寄った街で、たまたまイベントが起きるだけだ!」

 

「わかってて言ってるじゃろ」

 

「いーや! レッドが原因だね!」

 

「あの子が? どういう事じゃ?」

 

 

 ──────

 

 

「ふうむ……」

 

 ポケモントレーナー君の言った事を要約すると、あのレッドという少女を起点にして彼らのイベント? は紡がれている、との事だ。

 ……じゃあ、レッド君がいなければ何も起こらないのか? 

 

「試しに、レッド君と別行動してみるのも手では?」

 

「ええ……」

 

 何でそんなこと言うの……とでも言いたげな顔をした。

 露骨にショックを受けている。

 しかし、理屈の上ではそうなる筈だ。

 あの少女がしばらく別の街に行き、その上で行動してみれば結果は現れる。

 

「うーん……それはちょっと……」

 

 とても嫌そうだ。

 チラッと寄せた視線の先に、飛び出た水色。

 よく見れば、他にもいる。

 

「愛されているな」

 

「あ、分かります!?」

 

「うむ、あまり普通では無いが……」

 

「いや〜、可愛いっすよね」

 

「……そうだな」

 

「あげないですよ?」

 

「何を言っているのやら」

 

 つまり、発言の真偽はともかくレッド君から離れる気は無いらしい。

 それにしても……

 

「うーむ、8人か」

 

「ノーコメントで」

 

 女をあんなに増やすというのは、お金もそうだが、相手をするのも大変だろう。

 なにせ彼は1人。

 どうしているのか、非常に気になる。

 

「な、なんすか」

 

「こっちはどうなんだ?」

 

「そのジェスチャー、こっちでも同じなんだな……」

 

「で?」

 

「その話題、もうアラカゼさんと話してるしなあ」

 

「なぬっ! あやつめ……」

 

「コミュニケーションはしっかり取ってますよ」

 

「ふむ?」

 

「話して、一緒に行動して、やりたい事を聞く。目を見て、どんな事を思っているかを感じ取る。それがコミュニケーションです」

 

 指を折って、自身が思うコミュニケーションの要素を数え上げる。

 しかし、そんな青年の姿を見て思うのは……

 

「なんというか、機械的じゃのお」

 

「いやいや! ちゃんとやってますって!」

 

「まあそこは疑っとらんがの? 1日1人みたいな感じか?」

 

「……そう思ってもらっても大丈夫です」

 

「1週間でサイクルが回らんとは、ハードじゃな」

 

「幸せです」

 

「そうじゃな……間違いなく、果報者だ」

 

「はい…………」

 

 唐突に、笑顔がなりを顰めた。

 注がれた茶を静かに見つめ、もう一度湯呑みを持ち上げる。

 しかし飲まずにそのままおろした。

 カタリと、カップが机に乗る。

 何かを言いたげな雰囲気だった。

 通り過ぎる人々も、物々しい雰囲気に当てられて、2人の前を通る時だけは静かになっている。

 

 待った。

 老人は待つのが得意だ。

 街で帰りを待つ秘書に指示を出しながら、のんびりと待つ。

 そして青年が口を開いた。

 

「テッセンさん……俺は、あなたに出会えて本当に良かった」

 

「はっはっは! 大袈裟じゃよ!」

 

「いいえ、大袈裟なんかじゃありません」

 

 想定していなかった強い口調に、少しだけ驚きが湧いてくる。

 真意を確かめるため、顔を見た。

 

「…………」

 

 思うところがあるのか、目を閉じていた。

 ゆっくりと、言葉の意味を確かめるように言葉を繋げる。

 

「あの日……あなたは無理を通して、道理を、引っ込めてくれた」

 

「む……」

 

「あの行動こそが、俺を絶望に突き落とさないための鍵だった」

 

 目を開けた彼は、そう断言する。

 客観的に自分を捉えているかのような物言い。

 彼を拒絶した時の未来──現在が、彼には見えているとでも言うのだろうか。

 

「あなたが別の選択をしたのなら、この世界に対しての俺の関わり方ってのは大きく変わっていました」

 

「…………」

 

 それは、彼が言うところのチートによって見えるものなのだろうか。

 

「黄金の精神──あなたとホシノはそれを持っていた」

 

「黄金の……?」

 

「分かり難いですよね」

 

「まあ、そうじゃな」

 

 聞いた事のない言葉だが、何を意味するのか、何となく分からないでも無い。

 

「握手をしましょう」

 

「……最後がワシでいいのかの?」

 

「貴方だからこそ、です! テッセンさん、原典から変わらぬ守護者である貴方だからこそ」

 

「光栄じゃな」

 

「はい!」

 

 差し出された手。

 握る。

 しっかりとした力を感じた。

 膂力などではない。

 意識の力。

 黒い瞳の奥に、溢れんばかりの感情がこもっていた。

 こうも素直に出されると、年甲斐もなく恥ずかしくなってくる。

 

「本当に……ありがとうございました!」

 

 ただ、良い笑顔だった。

 

 

 ──────

 

 

「ひゃっほー!」

 

 快晴! 

 海! 

 風! 

 最高の日に出発したな! 

 潮風を切って進むこの船が、果たしてアローハに辿り着けるのか。

 リンに聞いてみた。

 

「にひひひ! このポーネグリフを使えば、迷う事はないって言ったじゃーん!」

 

 ポーネグリフ──特定の場所を記録する機能があるらしい。

 GPSみたいなもんだと思えば良いのかな。

 でも秘境などは、強大なエネルギーバリアみたいなものがあるせいで記録できないとか。

 

「たまたま手に入った物だから、狙って買えるものでも無いけどね。それに……どれくらいの距離かは分からないんだ。1回目と2回目で違うことだってあるし」

 

 そんな事もあるらしい。

 プレートテクトニクスか? 

 

「私達はほら、空のプロフェッショナルだから、飛んでいけば良かったけどさ……まあ、死にかけたけど」

 

 怪我とかしてないんだよな? そのときは

 

「う、うん、大丈夫だったよ……ねえ」

 

 ピトッとくっついて来た。

 ホシノ達は下で騒いでる気配がするし、今この場には俺とリンだけだ。

 

「ひひっ」

 

 どうしたのよあーた。

 

「何その口調、変なの……あっ、えへへ」

 

 何となく手を握ると、嬉しそうにはにかむ。

 こんな些細な事でも喜んでくれる、可愛い仲間です。

 

「……2人だね」

 

 そうだな。

 キャモメが飛んでて、あとは海でシーサーペントがメノクラゲ食ってるくらいだ。

 

「ん〜〜〜」

 

 抱き着き、グリグリと頭を俺の腹に擦り付ける。

 猫かもしれない。

 どうしたのこの子。

 ねえ、どうしたの。

 

「ん〜……匂い、付けてる」

 

 ね、猫だ……

 

「今日は、ノコさんでしょ?」

 

 え? …………い、いや……知らない……

 

「誤魔化さないで良いよ、ノコさんスッゴイソワソワしてたもん──だから、今は独り占めっ」

 

 可愛いので抱きしめたい。

 というか抱きしめた。

 でも……ノコに関してはそもそも、船でそんな事してたら色々足りなくなるだろ。

 シャワーの水とか。

 

「ワニノコが出せるじゃん」

 

 その為に!? 

 ワニノコも激オコだろそれは! 

 とりあえず、船上では一旦そういうの我慢! 

 

「…………本当? 絶対ダメ?」

 

 ぐぎぎ……俺の弱点を突いてきやがって……上目遣いに弱いって完全にバレてる……! 

 でも、ダメです! 

 何故なら、海だからです! 

 海は怖いんです! 

 

「……トレ君の怖いもの、初めて知ったかも」

 

 自然はこええんだよ! 

 

「自分だって災害みたいなもんじゃん」

 

 それ誹謗中傷超えてるからな! 

 

「だーって、スッゴイ敵が現れても基本的に笑ってるじゃん」

 

 俺の目の前でイベントが進む瞬間だぜ、そりゃあ口角だって釣り上がるってもんだ。

 強いとか弱いとか、そんなのは二の次だ。

 あくまで目の前にいて数値的に測れるような奴なら、神の力を使ってようが、嵐の化身だろうが、そのものじゃないならば勝てない事はない。

 ただ、絶望的なだけで。

 でも、海って倒すとかそういうのじゃないだろ。

 殴っても消えないし、倒すこともできない。

 だから恐ろしいんだ。

 

「それで死にかけてるんだから、世話無いよー」

 

 命を投げ捨てたくらいで大事な物を守れるなら御の字。

 死ななかっただけラッキーだろ。

 

「ヒューヒュー! かーっくいー! …………本当にかっこいいから困るなあ」

 

 ……生意気言いやがって! 

 

「うわー! 髪が! 髪がー!」

 

「何やってるのよ貴方達は……」

 

「リーン! 今日は僕の番なんだからね! そこどけー!」

 

「……う、うるしゃーい!」

 

「ぐぎぎぎ!」

 

「ぬぎぎぎ!」

 

 あの、ちょっと待って、何で俺のほっぺたを引っ張り合うの……せめて取っ組み合いとか……何で俺が巻き込まれるの……

 

「? ……なんでって、そんなの決まってるじゃん」

 

「トレ君、私たちが怪我するのイヤでしょ?」

 

 嫌だけど? 

 

「だからだよ! ねー!」

 

「ねー!」

 

 何でお前らいきなり意気投合してんだ! 

 ……最初から喧嘩してねえだろ! 

 

「当たり前じゃん、今日は僕ってちゃんと決まってるんだから」

 

「うん、そうだよね」

 

 じゃあ今の時間なんだよ! 

 頬っぺた引っ張られ損じゃねえか! 

 

「語呂悪〜ピカチュウセンス無いね──いぎゃぁぁ!」

 

 実は俺もポケモンでな、アイアンクローが使えるんだ。

 

「われちゃう! あたまわれちゃうよお!」

 

 割れろ。

 中身変えろ。

 

「ごめんなさい! ……うぅ、ばか……」

 

 俺もお前の頭を割ろうとしてる時、すっごい心が痛かった、ごめんな。

 でもこれもお前のためだから。

 お前じゃ無かったらこんな事しないから。

 

「ピカチュウ……」

 

 トゥンク……みたいな顔してるノコをウヘェって顔でリンが見る。

 ウヘェっつっても別に、ホシノの口癖の方じゃない。

 ドン引きの方だ。

 

 いたいのいたいのとんでけー。

 ……ほら、これで少しは痛くなくなっただろ? 

 

「うん! ありがと! ……あれ、何で僕感謝してるんだろ……?」

 

 ノコ! 

 

「ぴぃっ!?」

 

 魚釣ろうぜ! 

 ほら、ここ座って! 

 

「よーいしょ!」

 

 

 ──────

 

 

「すぅ……すぅ……」

 

 青年がノコと釣りを始めて30分。

 ノコは早々に青年にもたれかかって寝息を立てていた。

 倒れないように抱きしめながら、海をぼーっと眺める。

 脳内では海のbgmが流れている。

 海の色が薄い場所と濃い場所、そんなのはリアルだと分からない。

 それでも、釣りにハマっていたあの時の気持ちを思い出していた。

 

「──おじさんも隣いいかな〜?」

 

「おう」

 

 よいしょ、とスカートを前に流して青年の隣に座るおじさん。

 

「どーお? 調子は」

 

「ぼちぼちだ」

 

 ぼちぼち(0匹)

 

「うへ〜、バケツ空っぽー」

 

「しー……ノコが起きちゃうから、静かにな」

 

「うん」

 

 あどけない寝顔を見せるノコ。

 別に疲れるような事はしていないはずなのだが。

 

「まさか、お兄さん」

 

「え?」

 

「……いや、なんでもないよー」

 

「なんだよ、変なやつだな」

 

「なんだとー!」

 

 ポカポカと肩を殴る。

 子犬の甘噛みを幻視した青年は、ホシノの目が何かを訴えていることに気づいた。

 

「どうかしたか?」

 

「あ、うん……その……なんか変なんだ、わたし」

 

「どう変なんだ?」

 

 釣り竿を一旦放置し、ホシノの方へ顔を向ける。

 

「心臓がね、すっごいドキドキしてるの」

 

「そうなのか」

 

「水平線を見てると、気持ちが抑えきれなくなりそう」

 

「…………分かるぞホシノ、俺もだ」

 

「これ、なんなのかな」

 

「お前達が、俺達と同じ土俵に立った証だ」

 

「ドヒョー?」

 

「あー……立場ってことだ」

 

「じゃあ、スタートラインに追い付いたってこと?」

 

「そうだな」

 

「そっか……そうなんだね」

 

「ワクワクするだろ?」

 

「うん!」

 

「この先にどんな世界が広がっているのか、どんなイベントが待っているのか、待ちきれないだろう?」

 

「うへ〜、こーんな気持ちをいつも味わってたなんて、狡いよお兄さん」

 

「がははは!」

 

「──あー! ホシノさんいたー! ししょーもー!」

 

 突然、大声が響いた。

 甲板の向こう側、階段からヒョイと顔を出してブンブンと手を振るのは、元気隊長のアイリ。

 

「どしたんアイリちゃん」

 

「ホシノさん! クジラさんですよクジラさん!」

 

「えっ!?」

 

 船底には、謎の超高強度透明素材が使われている。

 元から付いてた。

 なんだあれ、硬すぎる。

 そこから海中の様子が見れるのだ。

 

「ガラスからクジラさん見れます!」

 

「っ!」

 

 端的に状況を説明してくれたアイリ。

 ホシノは一瞬で消えた。

 俺<クジラだからしょうがない。

 

「ししょー!」

 

「うん?」

 

「^^」

 

「ええ……」

 

 ニッコリと目だけ笑んだ後、階段の下へまた消えてしまった。

 多分、他意はないんだろうけど……なんか煽られた気分だ。

 

「んん……」

 

「ああ、よしよし」

 

「ん……」

 

 ──ピクッと。

 

「あ──っぶねええええ!!」

 

「ふぎゃっ」

 

 釣竿が一瞬にして、持って行かれそうになった。

 慌てて身を乗り出し、竿を全力で握る。

 柄の部分が半ば潰れてしまったが、無くなるよりはマシだ。

 拍子にノコが膝の上から落ちてしまったが。

 

「くぉっっ!? な、なんだこれ!」

 

 余計なこと考えてる場合じゃない。

 渦潮がいきなり発生して、その中心めがけて釣竿が引っ張られている。

 

「いてて、なんなのもう──ピ、ピカチュウ! でっかい渦巻きがあるよ!」

 

「あるよ! じゃねえ! ポケモンが引っかかったんだよ! 離れろ!」

 

「ひぇぇ!」

 

「ぬぎぎぎぎ……あ」

 

 一瞬、海面下にいる何かと目があった。

 その直後、糸がちぎれて、顔面めがけて何かが突っ込んできた。

 衝撃と共に身体が後ろに吹き飛ぶ。

 

「だ、だいじょぶ?」

 

「釣りもマトモに出来やしねえ」

 

「──あははは!」

 

「あ?」

 

「変なの!」

 

 グッショリとした感触、持ち上げてみると緑色。

 海藻だ。

 どうやらさっきのやつがこれを俺にぶん投げたらしい。

 

「馬鹿にされてるね」

 

「次は絶対釣り上げてやるぅ!」

 

 覚えとけよ!? 

 

R18って要りますか?

  • いる
  • ポケモンは全年齢対象なのでいらない
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