俺はポケモントレーナー   作:goldMg

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8_なかよしこよし

 宿に放り込んで話を聞くと、別に3人は悪くなさそうだったのでもう良いやってなった。

 3人ともシュンとしてて、怒られると思ったらしい。別に俺は迷惑かけられてないしな、リゾート開発もソレを阻止するのも関係無いからなんでも良い。

 それよりアナコンダって、こっちの世界にもいたんだな……なんかリアルな怖さがある。

 ……火噴くの!? 毒も!? 

 やべえな……ドダイトスより弱いんだろうけど、映画サイズのアナコンダだったらわかんねえ。

 ああ、そんなデカく無いんだ。6〜7m? うん……まあ、この世界基準だとそんなデカくないか。

 アナコンダっていうすげえリアルな単語が出てくると流石の俺も気圧されるな。

 なに? ビビってる? ホシノ、お前はこうだ! 

 散々くすぐった後、ハァハァと汗だくでその場に寝転んだままのホシノを含め、3人ともが結構汚い事に気付く。

 お前ら……風呂入れ。

 汚いってことかー! という抗議を肯定し、女将さんに会いに行く。

 

「工事? ……私達としては、正直あんまり歓迎はしてないですね」

 

 そうなんですか? 

 

「ティアーズカンパニーが計画を持ち込んできたらしいんですけど……今だってお客さんはいっぱい来てくれてるし、それに、あの計画見られました?」

 

 いや、詳細は全く知らないですね。

 

「一回読んだ方がいいですよ。なんだいあのでかいリゾートマンション、こんな森林地帯の、それもこんな街並みと全然合わないじゃないですか」

 

 どうやら街のコンセプトというか、調和とかそういうものを崩しかねないようなセンスらしい。

 これはまだ一波乱ありそうな予感がしますねえ……

 

「あと……」

 

 加えて、そういう諸々とは別の側面からも賛同し難い何かがあるようだ。聞き出してみると、聖域というのはこの地域で本当に大事にされてきたもので、ソレを無視して森を切り拓くなんてのは恐れ多いことらしい。

 土着信仰って感じだろうか。

 そもそもなんの聖域なのか分かってない俺にはピンとこない話だった。

 後で総合案内に聞きに行くか。

 もう俺にとって総合案内は無くてはならない存在だ。

 レッド達に聞いてもいいけど、他者との触れ合いというのも大事なんだわさ。

 

 総合案内のお姉さん、聖域とは!? 

 神様が降臨した土地? なんだかずいぶんアレな話ですねえ。

 あぁめちゃくちゃ強いポケモンの事か、ソレならわかる。

 ……なんだっけ、神様みたいなポケモンいたよな、名前が全然思い出せないけど。

 え? 嵐を司る? 

 ほな違うか。

 あのポケモンは全てのタイプを使えたはずだし。

 それで、どんくらい広いんだ? その聖域とやらは。

 おお、地図を広げて……めちゃくちゃ広いなおい! 

 こんな広範囲にわたって指定してたの!? なんかもっと国立自然公園みたいに細々としてる感じかと思ってたら意外と図々しい広さしてるな! 

 この中であんなちょっぴりの範囲を削るだけで文句言ってるの!? 

 ……そもそもあの土地持ってるの巫女の一族なんだから、そいつらが売ったものに関してファンクラブがなんか言うのはおかしいのでは? 

 まあ巫女的には罰当たりな感じあるけど。

 え? ナギちゃんはそんな事するような子じゃ無い? あ、そう……でも売ったんでしょ? 

 ああそうだ、開発されるリゾート地のパンフレットみたいなのないすか? 

 おっ、あざーす。

 ふむふむ…………うーん、ゴミ! 

 ハワイにハワイアンズ建てようとしてるみたいな感じだわこれ。

 しかもデザインがメタリックで無機質すぎる。

 何考えてんだこれ。

 まあ出来る頃にはとっくに俺もこの街にいないだろうけど。

 あ、これ貰っていきますね、ありがとうございました。

 

 宿に戻るまでの間にスーツの奴らに絡まれた。ティアーズカンパニーの総裁だとか。俺をインフルエンザとして起用してやるみたいな事言ってて、病気してないんで大丈夫ですって答えたら周りの三下がブーブー言ってた。

 なんだこいつ……と思ってたら例のジムリーダーナギも現れて三すくみの状態になった。

 どうやらナギは総裁に文句があるらしく、おじさんをどうのこうのと訴えてた。

 総裁は鼻で笑い、三下達はナギにブチギレて殴りかかっていた。

 そんな唐突に暴力に!? 

 流石にドン引きした俺は三下達を止めて、ナギちゃんファンクラブのやばさを伝えたら引き返していった。

 やはりあのファンクラブのヤバさは世界共通……

 それじゃあとその場を離れようとしたらナギに礼をしたいと言われた。

 間違いない。

 ファンクラブが現れてお礼参りをされるアレだ。

 丁重にお断りをしてその場を去ろうとするも、裾を掴まれて引き止められる。

 このパターン……使徒か! じゃなくて、人助けイベントが発生してるな。

 ナギの表情的にマジで困ってそうだ。

 ただ、俺が介入する意味って正直あんまり無い。流れとしては歴代の主人公の誰かがピンチに現れて解決するって話なんだろうけど……アイツらみたいな表情しないで欲しいなあ。

 分かったぜ、ジムリーダーナギ、話を聞かせてくれ。

 

 話を聞きました。

 なんか地権者であるナギのおじさんが洗脳されて、土地を無理やり買収されたらしい。

 な、生々しいね……

 ちなみに下手人はティアーズカンパニーだそうだ。

 ハイ出ました、〇〇カンパニー。

 会社って意味でしか無いのにこの世界でカンパニーってつくだけで途端に怪しさが50倍ぐらいになると思ってたんだよ。

 

 あの女総裁がやったのかと聞くと、確証はないけどそうらしい。

 おじさんが総裁との話し合いの場に赴き、帰ってきたらもう洗脳されていたとか。

 こわ……

 技術としての洗脳じゃねえな、能力による洗脳だ。

 で、なんで俺にそんな話したの? 

 通りすがっただけの俺に。

 テッセンとかカムイとか幾らでもいるじゃん。ソレどころか、ナギはジムリーダーなんだから自分で戦えるだけの戦力を持っているはずだ。

 しかしどうやら、ナギが連絡をしようとしたら謎の電波障害が起こったりして連絡できなくなってしまうらしい。

 じゃあナギちゃんファンクラブは? こんな時だからこそ頼るべきだろ。

 え? もう頼って、総裁が放ったと見られるプレイヤーにボッコボコにされてる? 

 何やってんだあいつら……

 

 まあとにかく、俺如きが思い付く程度のことは全部試したわけか。

 で、藁にもすがる思いで赤の他人の俺を頼った、と。

 ん? 赤の他人じゃない? いや、俺が君と実は血の繋がりがあるとかは絶対にあり得ないんだけど、どういうこと? 

 風……前も言ってたな、ソレ。

 どういう事だ? 

 ……はいはい、あー神様がね、うん、御神体があって、その風が俺と一緒……

 あー……なるほどなあ。

 ちなみにその御神体って見せてもらえたりはしないよね? 御神体だし。

 ……ああ、良いんだ。

 それだけ切羽詰まっているという事なんだな、俺みたいな部外者に対して御神体を見せるなんて。

 いや、もしかしたらたまにご開帳してたりするのかもな、そこらへんどうなの? 

 ……次の当主になる人にしか見せない、ね、やっぱり切羽詰まってるみたいだな。

 

 ちなみに今はナギの家にいる。

 外だと盗聴される可能性があるのだそうだ。

 こんな場所にこそ盗聴器仕掛けてそうだけど。

 それでここが本殿で、奥に御神体が祀ってあるってわけか。

 さてさて何が入ってるのか……なるほどなあ。

 見覚え? あるよ。

 やっぱりって、その風とやらで感じ取ってたのか? 

 それにしても、常に風を発生させる爪、確かに手をかざすと微風を感じるな。

 ソレで、この御神体と俺の風? が一緒だと、どうして俺の事を信用できるって話になるんだ。

 なんとなく? 

 ライブ感で生きてるなあ。

 あんまりそういうの良く無いと思うんだけど……

 うーん……協力するにしてもあいつらに相談しないとな。

 

 

 ──────

 

 

「それで、また女の子拾ってきたのー?」

 

 なんて言い草だ! 相談しろって言うから答えを保留にして連れてきたんだぞ! 

 むしろ褒められるべきじゃないか! 

 はっはっは! 

 

「……ひさしぶり?」

 

「そうですね……お久しぶりです、レッドさん」

 

 当然レッドはナギと面識がある。

 それにしても天然2人が揃うとこんな空気になるんだな。

 なんかホワホワしてるわここ。

 あっそうだ、連れてきた理由だったな。

 説明しよう! 

 説明した。

 

「うへ〜物騒だねー……」

 

 そう、物騒なのである。これはこの世界にしては珍しい。なにせ多くの人間が善の性質を持っているのだから、彼らが悪事を起こすことは無い。

 俺みたいな余所者や、ヤニカスみたいな外れ値がそういうことを起こすのだ。

 そして、大体は小悪程度に収まる。あっちみたいに殺人がーとか誘拐がーとかそんなのは聞いたこともない。

 すげえよな。

 そしてそんな世界の人間が悪事を起こそうとしたら、大義名分とやらを掲げるに決まっている。

 なにせ純粋な悪などというものがいないのだから。

 何の理由もなしに悪意を振り撒くことが出来ない種族なのだから。

 まあ、行動そのものが悪であることには変わりないので勧善懲悪の流れに従って滅ぼされるだろう。

 そう、本来なら俺が特別に何かする必要は無いのである! 

 ただ、変な縁が結ばれてしまった。

 みなさんご存知、あの廃墟。あそこを守っていたデカい奴が神様として崇められているらしい。

 あの爺さんが色々やったんだろうなあ、というのは想像できる。

 それで、あのデカいのと直接出会った影響か、風、とやらを感じられる巫女に見つかってしまったというわけだ。

 

「あなたは、マタナキタウンでカムイさんを倒した方……よね?」

 

 せやな、今は無理だけど。

 

「それは……あのドダイトスに関係する話?」

 

 そういうこと、あいつは別に俺の手持ちじゃ無いからな。だからあのレベルの戦力を今期待されても困る。

 だが……ホシノも十分やれるぞ! な? ホシノ。

 

「えー? おじさんは全然だよーもう腰も痛いし無理無理」

 

 ソレは後でマッサージしてやるよ、あとストレッチな。

 腰痛は洒落にならない。

 

「し、師匠……私も筋肉痛で動けません……」

 

 じゃあアイリもな。

 

「私も」

 

 レッドもな。

 

「ガウ」

 

 リザードンもな。

 おっと、くだらんギャグに巻き込んですまない。

 ソレで、一応俺のことは知ってたわけか。最初に会ったときはそんな様子無かったけどな。

 

「あの時は……最初、ティアーズカンパニーの回し者かと……でも風を感じて、違うと分かった」

 

 で、調べたってわけか? 

 まあ御神体関係の情報なら喉から手が出るほど欲しいか。

 で、どうなんだ。

 

「どう、とは?」

 

 こいつら3人からその風とやらは感じないのか? 

 

「……感じたわ、すごく驚いた」

 

 やっぱりそうか。

 

「一体どうやって会ったの?」

 

 教えても辿り着けないし、辿り着いても意味が無いんだけど。

 レッドはどう思う? 

 

「…………」

 

 ダメならダメで良いし、教えるならソレでも良い。

 お前の意見が聞きたい。

 

「私は教えても良い」

 

 なんで? 

 

「お兄さんに会う前の私と一緒だから」

 

 ナギは今、霧の中でどこに進めば良いか分かってないって事か……

 例えその道が間違っているとしても、自分の意思で決めた道を進めるようにしてあげたい。

 それがレッドの意思。

 アイリは? 

 

「私はカンパニーがどうとか難しいことはわからないですけど……ナギさんだったら教えてあげても良いと思います! 誰かを大切に思う気持ちはあの……あのポケモンにも通じると思います!」

 

「ポケモン……それが、神様?」

 

 まあ遠からずというかなんというか。

 

「あなたはポケモントレーナーと名乗った。ポケモンとはどういう意味なの?」

 

 ジムリーダーはみんなそれ聞くよな。

 俺は正直、ジョン・ドゥの意味を込めてそう名乗っているんだけど。

 ……誤算だったよ、まさか本当にみんなポケモンを知らないなんて。

 でも、昔はいたはずだ。

 ポケモンとポケモントレーナー、二つで一つ、どこで忘れ去られたんだろうな……

 ポケットモンスター、縮めてポケモン……この星の不思議な不思議な生き物、海、空、森、至る所に見ることが出来る。

 それがポケモンだ。

 ホシノがはあ〜とため息を吐いた。

 

「やっと分かったよ、ポケモンってそういう意味だったんだねー……でも私は?」

 

 頭の上に輪っかを浮かべてる奴がポケモンじゃ無いわけがないだろ。

 はるか昔は種類の少なかったポケモン達も、どっかで人と交わったんだろうな。

 ど変態どもがよ。

 

「私の両親は人間だよ〜?」

 

 隔世遺伝だろうよ、多分あのセミみたいなやつの輪っかだ。正直、なんてポケモンだったか名前覚えてない。でも絶対セミだった。

 沈黙が広がる。

 

「し、師匠……女の人にセミが先祖と言うのはいかがなものかと……」

 

「最低」

 

「……お兄さーん?」

 

 ぶちぶちギレとるやん……

 良いじゃん別に、セミの子供だろうがカエルの子供だろうが。

 こんなに可愛いんだから。

 あれだぞ、俺が元いた場所ではこんな可愛い子いなかったからな。

 ホシノより可愛い女の子を探そうと思ったら美少女選手権みたいなやつのトップ層とかじゃないといないぞ。

 

「……ふーん?口は回るみたいだねえ〜」

 

「私は?」

 

 レッドも同じだ。

 アイリも。

 この空間は顔面偏差値が高すぎる、俺を除いて。

 俺だけあれだよ、造形が雑。

 別に住人全員がそうってわけでも無いのにお前ら顔が良すぎる、街歩いてるとめっちゃ振り返って見られてるじゃん。あんな美少女達を何故あんなモブが!? みたいな。

 ごめんなあ……ごめんなあ……って思いながら優越感に浸ってるわ。

 

「私は師匠のこと、かっこいいと思います!」

 

 ア、アイリ! 

 

「師匠!」

 

 ひしっ! 

 筋肉痛で寝転がったままのアイリと抱きしめ合ってイチャイチャする。

 アイリはいい子だ! もう本当に可愛い! うちの子にしたい! ついでにマッサージもしてやろう! 

 

「えへへー!」

 

 子犬みたいに擦り寄ってくるアイリを撫で繰り回す。金髪がサラサラーっと流れていって、高級な金糸のようだ。お前ら揃いも揃って髪質が良いよな。

 

「ししょお〜〜」

 

「私もかっこいいと思うよ」

 

 レッド、ほんまか!? 

 すっ……と手を広げたレッドを高い高いする。

 ぐるぐるーっと回ってそのまま抱っこだ。

 んふー、と満足げな鼻息が聞こえてきた。

 レッドは甘え上手だな、やっぱりお姉ちゃんじゃなくて妹向きだ。

 

「ポケモントレーナーさんは、お三方と仲が良いのね」

 

 そりゃあな、なんだかんだ数ヶ月一緒に旅してるし。

 

「それで……その……」

 

「おじさんも良いと思うよ〜、でも……お兄さんはどうなの?」

 

 どうって言われても、あそこはあの人の土地ではあるけど、デカいのが認めるかどうかとしか。とりあえず、3人の気持ちが同じなら俺に否やは無い! 

 

 

 ──────

 

 

「空の廃墟……そんなところが……廃墟の噂は聞いたことがあったけれども」

 

「無理もねえよ、あそこに辿り着けるのは認められたやつだけだ。俺たちだって命からがらだったんだからな」

 

「嵐を巻き起こすと言われるモンスターが数年に一度目撃されるのだけれど……アレとは違うの?」

 

「アレ、を見た事がないから何とも言えないな」

 

「違う」

 

「見た事あるのか」

 

「うん、あいつも強いけど違う」

 

「レッドが認めるって事は相当だな」

 

 ホシノとアイリは並んで布団に座り、3人の会話を側から見ていた。

 

「師匠って、記憶喪失なんですよね?」

 

「うーん、そういう設定なんじゃないかと私は思ってるんだけどなかなか本人は認めないね〜」

 

 アイリから見ても、ポケモントレーナーの言動は記憶喪失というにはあまりにもはっきりとし過ぎていた。

 というかそもそも隠す気が無さそうである。記憶喪失と言えば、失われた記憶を取り戻そうと多少は足掻いてみたりするものだろうが、彼にはそれが微塵も見られなかった。

 ソレでも出自を話せない理由とは何なのだろうか。

 

「案外、どっかの国から追放された王子様だったりしてねー」

 

「王子様……」

 

 アイリもホシノも、レッドも、ソーマをよく見る。

 ドスニキ、大ゴキブリ、ロリ野郎、大目立ちしている青年が、最近ソーマで悪口を言われる時の呼び方の一部だ。あまりにも多彩すぎて言われてる本人もきっと気付いていないけど、すれ違いざまにヒソヒソと囁かれている。街を歩くだけで振り返って見られる程度には有名だった。

 ただ、本人は敵意の無い視線に興味がない、というか自分を見ていると思っていないのか、本当に、全く、一ミリも視線の意味に気付いていないようだった。

 王子様というにはあまりにもズボラじゃなかろうか。

 

「まあ、無いよねーそんな柄じゃ無いし」

 

「あはは……」

 

 無理に詮索するのは良く無いと3人で話はしたが、想像するくらいなら別に構いやしないだろう。2人ともそう判断して会話を続ける。

 

「やたらと昔の話とか知ってるよね」

 

「はい、全く聞いたこともなかったようなお話をされるのでとても楽しいです!」

 

「……全部失くして置いてきた、ってどういう意味なんだろうねー」

 

 記憶喪失で、というのが1番自然な捉え方ではある。しかし、本当に失くしたというのであれば知識を披露する事も出来ないはずだ。

 彼が話す内容には、真実が含まれていた。ただそれは、図書館だったりソーマだったり、そういったところを深く調べて、ようやく見つかるか見つからないかといった情報の、たったの一文だけと合致するようなものばかりだ。

 

「師匠には秘密がたくさんありますけど、ソレも含めての師匠なんだと思います」

 

「深いこと言うね〜アイリちゃん」

 

「えへへ……」

 

「可愛いなぁアイリちゃんは、おじさんアイリちゃんみたいな子だいすき!」

 

 青年がレッドをそうしているように、ホシノもアイリを抱きしめる。

 アイリは、まだそんなに長く無いこの4人での旅が本当に楽しかった。プレイヤーとして名を馳せるレッド、お姉ちゃんみたいなホシノ、フルオカタウンに出現したやべえやつこと師匠、そして自分。

 マタナキを出発する時、色々不安になってリュックにたくさん詰め込んでしまった。重くて、これを背負って街から街へ移動するのは大変だと内心思っていたら、青年がヒョイと持ち上げて自分の荷に加えてしまった。なんでも3人の時からそうしているらしい。

 旅の道中、暇してないかと何度も話しかけてきて、いろいろな話を聞かせてくれた。レッドとホシノの2人もまだ聞いた事の無かった、彼だけが知る想像も付かない御伽話。

 お母さん達に会えないのが寂しくて泣いてしまった時は、みんなで慰めてくれた。

 そして鮮烈に思い出すのは、あの空での夢のような出来事。

 ずーっと考え込んでいた彼は、大雨の降る日、大喜びでテントの入り口から顔を突っ込んできた。そこから、あの短い大冒険が始まった。

 リザードンの背の上で抱き抱えられながら見た。雲間を抜けた先の、あの光景をいつまでも忘れないと、そう思った。

 

 

 ──────

 

 

 話はまとまった。

 ナギも、あそこに行ったところで何も好転はしない事を理解した。

 今するべき事はティアーズカンパニーへの強襲、洗脳からの解放手段の確立。大きく分けると、この2つだ。

 ポケモンってのは大体、ボスを倒せば悪事は一気に瓦解する。強い気持ちを持っている人間がソイツしかいないからだな。

 ソレを説明すると、4人ともあんまり理解できないようだった。1人倒れたら他の人が代わりをやれば良いのでは? そういう疑問も出た。

 それを否定する。その為には、ボスと同じくらい何かを成し遂げたいという思いを持ち続けられるやつじゃないと無理だ。

 何人もいるもんじゃ無い、特にこういう世界では。

 だから、倒す。

 知らんけど。

 ……というのは、本当にティアーズカンパニーが悪であるという前提の話だ。

 まあ、聖域として大事にされているところをわざわざ切り拓いている時点でヤバイ企業だとは思うが、万が一がある。

 一応、確認しなくっちゃな。

 

 それに、気を付けなくてはならないのが、ボスは強いって事だ。

 単なる社長とかとは違う。

 ポケモン世界のトップは総じて強い、意志も、ポケモンバトルも。

 理由は知らん。

 ゲーム的な盛り上がりの作り方もあるだろう、だけど、ソレをこの世界に置き換えるなら、ソレ相応の修羅場を潜ってきたという事だ。

 決して侮って良い相手では無い。

 というわけで、カムイの時と同じく二つ名持ちが欲しいわけだが……ジム行くか! 

 

「二つ名持ち、いないね〜」

 

 試練を探してみました。

 いませんでした、残念だけど俺たちの冒険はここで終わりです。

 

「それは困るのだけど……」

 

 冗談だから。

 ただ、強襲用にポケモンをスカウトしたかったんだけどな。なんかいない? 早くて飛べて強い奴。

 まあそんな都合のいい奴いねえか……

 

「……空の王者、かしら」

 

 ほうほう! それは一体どのような!? 

 ぜひ教えてくれ! 

 

「リオレウスといって、個体数が少ないモンスターなのだけれどとても強力なモンスターよ。私もひこうタイプのジムリーダーとしてとても興味はある」

 

 もっと特徴とか……

 とりあえずそいつを捕まえるか! 

 

「今すぐ? それは厳しいと思うわよ」

 

 なんで? 思い立ったら吉日、それ以外は凶日だぞ? 

 今日捕まえなかったら明日には誰か捕まえてるかもしれないし、行かないで後悔するより行って後悔しようぜ。

 

「落ち着いてちょうだい、今はちょうどリオレウスの繁殖期なのよ。みんな気性が荒くなっていて、捕まえるどころじゃ無いと思うわ、それに…………待って? あなた、リオレウスの成体をパートナーにしようと思ってるの?」

 

 当たり前じゃん、幼体を捕まえて何に使うんだよ。

 え、まさかナギ、お前……! 

 

「な、なによ……」

 

 幼体を餌に成体を脅して戦わせるって事か!? お前、結構邪道な奴だったんだな……

 

「ちがうわよ、もう……普通は幼体のうちからパートナーとして育てていくのよ。成体を手懐けるなんて無理に決まってるじゃない。誰か知り合いに借りるとか……」

 

 なるほどなあ…………

 

 お れ の で ば ん だ な

 

「あーあ……おじさん知ーらない」

 

「し、師匠が邪悪な笑みを……」

 

「楽しみ」

 

「ちょっと、どこ行くの……え? リオレウスの情報を集めるって……本当に捕まえる気!? ちょ、3人とも止めて!」 

 

「無理」

 

「無理って何!?」

 

 お楽しみの時間だぜ! 

 

 

 ──────

 

 

 一目見てわかった、こいつがリオレウスだ。

 赤い鱗、禍々しい紋章の刻まれた翼腕、ドラゴンらしさ全開の見た目。

 昨日、総合案内でちゃんと聞いといてよかったぜ。

 繁殖期という事でこいつもメスを探している最中なのか、目を血走らせている。

 おそらく、捕獲の難易度はドダイトスのそれよりも何倍も上だろう。

 なにせあいつには理性と知性があった。獣として生まれながら、長い年月を経て少しずつ築いていったのだろう。

 だから、対話の余地があった。

 だが、コイツからはそれを全く感じない。

 

 こういう時にモンスターボールがあったらと、心底思う。

 あの何とも不思議なボール、アレを抜きにしてポケモンというゲームを語る事はできまい。

 何やらどんぐりを参考にして作っていたとか何とか見た気がするが、その効果は凄まじい。

 なにせ一瞬前まで戦っていたポケモンが、ボールで捕獲されるだけで大人しく従うようになるのだから。

 

「無い物ねだりしても仕方ねえ……」

 

 構えはしない。

 俺は武術の達人では無い。

 俺は戦闘の達人では無い。

 俺は狩猟の達人では無い。

 俺は、何者でも無い。

 ただのポケモントレーナーだ。

 構えたところでそこに意味などありはしない。

 ただポケットに手を突っ込んでいるだけだ、コンビニのレジで精算を待っている間と同じように。

 

「ゴガアアアアアアア!!」

 

 まさに爆音と呼ぶに相応しい。

 人間の本能として、身がすくみ、すぐには行動を取れなくなるような大音量だ。

 だが、ポケモントレーナーはそれでも指示を出す。

 バクオングがばくおんぱを使おうが、じわれでスタジアム全体がぶっ壊れてポケモンが一撃で行動不能になろうが、お構いなしにポケモンに次の一手を指示する。

 同じ事をするだけだ。

 むしろ、声に出すというプロセスを経ない分、脳内のイメージのまま、よりスピーディーに、より正確に行動は完遂される。

 

 リオレウスの左脚に力が入ったのが見える。

 それはすなわち、溜め込んだ力を解放する合図。

 シンプルな突進だ。

 トラックすら凌駕する質量でぶつかられれば、俺など粉微塵に吹き飛ぶだろう。

 だが、2秒前からそこに来るとわかっているような攻撃に対して何もしない人間などいない。

 咆哮直後の頭部はやや下がり気味であり、突進の際もそのままだ。頭部の下を潜って避けるのは大きなリスクを伴うだろう。

 敢えて、そこに突っ込む。

 

 転がり抜ける瞬間、腹の底から冷えるような感覚が襲う。

 ああ、恐ろしい。

 本当に、恐ろしい。

 ……分かるか? なあ

 ポケモンってすげえ大きいんだぜ。

 お前ら熊見たことあるか? 熊

 想像してみろよ、3mを超えるような熊だぜ。

 そいつらと戦えって言われたら、お前らならどう戦うよ。

 例えば拳銃を渡されたとして、その熊に勝てます、なんて言えるか? 

 言えねえだろう、当たり前だよ。

 あいつら、殴りだけで俺たちを屠るんだぜ。

 そんでリオレウスは、そんなクマをむしゃむしゃ食っちまうような化け物だ。

 そいつと俺は今、タイマン張ってる。

 生きてるなあ、俺。

 

 俺の身体の上を通過するリオレウスの頭部に、動きに合わせて下から脚を押し付ける。

 ダメージなど無い。

 ただ、ベクトルを変えるだけだ。

 顎が押し上げられ、そのまま通り過ぎていった先でバランスを崩し、倒れ込む。

 そこに、適当に店で調達した爆弾を投げ込む。

 正式名称があるらしいが、長くてよく分からんし爆発するんだからそれでいい。

 煙が晴れると、リオレウスの体を覆う鱗の一部に小さなヒビが入っているのが見えた。

 振り返りながら、火球を放ってきた。

 皮膚スレスレのところをすり抜けていく。

 あんな近くを火球が通り過ぎたのに、ドライヤーの温風を当て過ぎたくらいの熱さしか感じない。

 

 背後で着弾したのか爆発音が響き、リオレウスはまたも突っ込んでくる。

 しかし、俺のいる場所にその身体が到達する前に、右脚を地面にめり込ませて、運動エネルギーを直線から円運動へと変換した。

 横回転した身体の先にあるもの、尻尾を叩きつけてくる。

 尻尾の棘は一本一本が磨きあげた剣のような鋭さで、俺の鼻先を掠めて地面に深々と突き刺さる。

 尻尾を抜くまでの猶予に、再び爆弾を投げつける。

 先ほどの焼き増しのようだ。

 当然爆発の後には煤と、大きくなったヒビが残される。

 

 モンスターボールが無いとなったら当然、やる事なんて一つしかない。

 心を折る。

 それは、獣の牙を折ること。

 強い者に従えと押し付けるだけだ。

 

 

 ──────

 

 

 離れたところでメガネのレンズ機能を用いてそれを見ている4人は、青年がリオレウスと接近するたびにその身体を強張らせる。

 当たり前だ、目の前で自殺行為を何度も繰り返している人間がいるのだから。

 

「ポケモントレーナーって、凄いのね……」

 

「う、うひぃぃ……師匠……」

 

「それにしても、リオレウスの成体をパートナーにしようなんて本気で……」

 

 ホシノは、青年がいつも言っていた言葉が真であったと思い知る。

 

『ホシノの脳に俺の指示が通るようになるまでのラグは考慮して、多めに安全マージンは取ってある。危なくなったら助けるから心配するな』

 

 あんな紙一重でモンスターの動きを避けたことなんて無い。それはもちろん、指示通りに動いているからではあるし、指示が無くても攻撃を受けないで立ち回る事はできる。

 ただ、そのラグとやらが無ければあんなにも精密機械のような動きになるのか。彼は、口に出すという動きにリソースを割く事であの精密性を犠牲にしていたんだ。

 ……もし、自分にアレ程の指示能力があったなら、先を読めたなら、そんな黒い思いが鎌首をもたげてくる。

 蓋をしていた感情が出てくる。

 あの時、あの場にいなかった私に、そんな事を考える資格は無いと分かっているのだけれども。

 そんな思考は裾を引っ張る感触で中断された。

 

「大丈夫?」

 

 レッドがこちらを見ていた。

 ホシノもレッドも身長は低い方のため、視線の高さはほぼ同じだった。

 ジッ、と見つめ合う。

 

「もうおじさん疲れちゃったよ〜レッドちゃんおんぶしてー」

 

 ホシノをレッドは無言で見つめ、ふいっと視線を逸らすと背中を向けた。

 

「ちょっとー怒らないでよー、冗談じゃんさー」

 

「乗って」

 

「え……」

 

「乗って」

 

「……やった〜! レッドちゃんの背中一番乗りー!」

 

 レッドの背中に乗ったホシノはあははと笑う。

 

「いつもより低〜い! ……ありがと」

 

「うん」

 

 アイリとナギはその光景を不思議そうに見ていた。

 

「何やってるのかしら……?」

 

「何でしょう……」

 

 

 ──────

 

 

 目の前で首を差し出して伏せるリオレウスを前に汗を拭う。

 いやー疲れた、王者の名に偽り無しだ。

 遠くで見ているあいつらに手を振る。すぐに来るだろうが……本当に、次同じ事やれと言われてもやりたくねえな。

 作業になっちまっておもんないし。

 だけど、こんだけつええ奴なら強襲もひとまずは成功しそうだな。

 あとは場所を把握して突っ込むだけ、難しい事はナギに投げちまえばいいし楽なもんだぜ。

 

 やってきた4人にはリオレウスに近付かないように厳命する。コイツが従っているのは俺であり、俺以外に対しては躊躇なく牙を剥くだろう。

 

「いや〜ヒヤヒヤだったねぇ」

 

「お、重い……」

 

 ホシノをおんぶしてヨタヨタと歩いてきたレッドが地面にベシャリと倒れた。

 なにしてんだコイツら……

 

「重くないよー!」

 

 重いから倒れたんじゃん……

 レッドを敷布団がわりにしているホシノをひょいと持ち上げてどかし、レッドに手を貸す。

 顔が土で汚れてしまっているのでハンカチで拭い取る。

 

「お疲れ様」

 

「お兄さんも、お疲れ様」

 

「ああ、死ぬほど疲れたぜ!」

 

「こんな……リオレウスの成体がこんなに大人しくなるなんて……」

 

「そりゃああんだけやればな」

 

「……あなた達はよく分かっていないようだけれど、これはとんでもない偉業なのよ」

 

 長々とリオレウスに関するパートナーの歴史を話し続けるナギには悪いが、リオレウスはあくまで強襲用の特攻兵器であり、機先を制する為の一番槍だ。

 作戦の要では無い。

 大事なのは、ティアーズカンパニーの総裁が悪事を認めるかどうか。

 結局、ナギの話術次第でしかない。

 

「聞いてるのかしら……?」

 

 聞いてた聞いてた。

 要は俺が上から突っ込んで、お前らはリザードンで後から突入、そういう話だろ。

 俺はリオレウスを使って牽制しつつ、敵の目をこっちに引き付ける。

 お前らはその間に総裁をどうにかする。

 

「全く聞いていないじゃない……」

 

 だって作戦に関係無いし……

 リオレウスの幼体がどうとか、食べ物がどうとか、動物園がどうとか、今からやる事と一切の関わり無しだろ。

 

「あなた、本当に変な人ね」

 

 デ◯ィ夫人みたいな事言わないでくれる? 

 お前らもうんうん頷いてんじゃないよ。とりあえず、今日はもう帰るぞ。

 

「リオレウスはどうするのかしら?」

 

 ……どうしよう。

 

「考えてなかったんですか!?」

 

 アイリから思わずと言った風に突っ込みが入った。

 だって思い付きでここに来たじゃん……そんなの考えてないよ。

 どうしよっかな〜。

 ナギ、お前ジムリーダーというか巫女なんだし広い敷地ぐらい持ってるだろ。

 

「あなた……」

 

 そういうこった! 

 リオレウスを置いとく場所ぐらいあるだろ! 

 理由だって巫女なんだから適当に話せばみんな信じるだろ! 

 

「巫女を何だと思っているのかしら」

 

 寺と檀家みたいな。

 

「だ、だんか……?」

 

 まあ宗教の話はやめましょうか。

 大事なのはうちのペットを預けて置けるぐらい広い場所を持っているって事なんで。

 

「はあ……分かったわ、協力してもらう身としてその程度の事なら」

 

 いいや、もう一つ頼みがある。

 

「なにかしら」

 

 レッドに近寄り、背後からその両肩に手を置く。

 俺たちの旅の目的の一つだ。

 振り返ったレッドと目を合わせ、小さく頷いた。

 

「ピカチュウを探して欲しい? ……それは良いけれど、探せば見つかるのでは」

 

 アホ言え、それで見つかるならレッドが見つけてるわ。

 特別なピカチュウなんだ。

 

「私の、親友」

 

 ナギの目が興味を惹かれた色に変わった。

 レッドがピカチュウの説明を始め、ナギがそれを聞いている間にホシノのところへ行く。

 

「さっき倒れたけど、大丈夫だったか?」

 

「なにが〜? 大丈夫だよ〜」

 

「……どっか怪我したか? 擦り傷とか」

 

「ど、どうしたのさ……うへへ、そんなにおじさんの事が気になっちゃう〜?」

 

「そりゃあ気になるだろ、俺の命より大事なホシノの様子がおかしかったら」

 

「っ……」

 

「まあ……良いさ、とりあえず怪我はしてないんだな」

 

 よっこいしょと立ち上がる。

 今の俺には、傍に立って寄り添うことしかできない。中身の無い言葉はふわふわと宙を上っていき、相手の心には届かないからだ。

 いつものように、軽く頭を撫でる。

 言葉は無くとも、想いは伝われと。

 レッドが先ほどそうしていたように。

 お前の背負っているモノが何か、俺には聞き出す事はできないが、いつでも側に居よう。

 

 なあに、既に全て失くした男だ。

 この世界でどこにいようと差したる変化は無いが、この世界で最も身軽な男ではあるが、いる場所ぐらいは選べる。

 それなら俺は、ポケモントレーナーは、ポケモンの隣を選ぶぜ。

 だから、もうしばらくはこうして、レッドとナギの会話を眺めながら待っていよう。

 

「…………」

 

 

 ──────

 

 

「う、うわああああ!? リオレウスだあああああ!!」

 

「識別票は……つ、付いてねえ! やべえ、あいつ野生のリオレウス連れてきたぞ!」

 

「つ、通報しろ! 警察じゃ無理だ! ジ、ジムリーダー……ナギを呼べえええ!!」

 

 とんでもねえことになっちまったわ。これ、マタナキでもあったなそういや。

 行け、ナギ! 

 

「冗談でしょう?」

 

 今呼ばれてたでしょ! ハリーアップ! 

 ため息を吐くとナギは説明をしに行った。

 警察も来て、もうしっちゃかめっちゃかだったが、群がる人間にイラつき始めたリオレウスが唸り始めた。流石に警察でもヤバいのでこの場から去るように指示を出した。

 

「今度、しっかり署で話を聞かせてもらいますからね! ドスニキさん!」

 

 おい、警察がその名で呼ぶんじゃねえ。

 ちゃんと正式名称で呼べ。

 ネットミームに毒されるな、あまつさえ業務中に活用するな。

 

「今度はどんな名前がつくんでしょうね!」

 

 めっちゃ不穏な事を言って警察は帰って行った。

 どういう事……

 市民を不安にさせて帰る警察がどこにいるんだ! 

 ここにいた。

 とりあえず、ジムリーダーが預かるという事で場は収まった。

 やはり必要なのは権力か。

 じゃああとは任せるから、帰るね僕……グェ。

 襟を掴むな。

 

「なに帰ろうとしてるのよ、あなたがウチまで来てくれないとリオレウスも来ないでしょ。私が食い殺されても良いっていうの?」

 

 そうだった。

 じゃあ行くか、お前んち。

 

 

 ここら辺でいいか……おいナギ、大量の肉持ってこーい! 

 

「私を使いっ走りにするなんて……!」

 

 そう言いつつも家の中に取りに行くナギ。

 苦労人の気質が出てますやん。

 リオレウス、今日はここがお前の場所だ。

 肉はあげるから俺みたいな人間を食っちゃダメだぞ。

 …………伝わってんのかわかんねえな。

 まあ、満腹になりゃあ大丈夫か! 

 結局、深夜配送サービスで山ほど肉を速達してもらった。

 ナギに負担させるのは流石に可哀想なのでその分の金はこっちが出した。

 リオレウスにも散々ジェスチャーしたし意味は分かってるだろ。

 分かってなかったら危ないので、ナギも今日は別のところに泊まるように言い含める。

 

 うん、いやジムリーダーとか関係無いから。

 町を守る義務がある? カッケェ……でも本当に大丈夫か? 少し失礼な事を言うが、連れてるチルタリスはリオレウスを倒せるくらい屈強か? もし無理なようだったらすぐ俺を呼ぶんだぞ? 

 心配してくれてありがとう、とかそういうの良いから、俺を呼ぶんだぞ? リスクを管理してくれ頼むから。

 俺はいま〜〜の旅館に泊まってるから、そこに連絡してくれ。

 それかレッ……夜は寝かせなきゃだからなあ、あぁくそ、俺もこういう時メガネが使えたらなあ。

 3人が羨ましい? 何の話だよ。

 こんなところで不思議ちゃんを発動させないでくれ。

 まあとりあえず危なくなったら呼べ。

 

 

 ──────

 

 

 夜、自室で窓際に座って景色を眺めていた。

 もう、寝る前のルーティンみたいになっている。

 昼間の運動で疲れたけど、まだそこまで眠く無いからこうして無為な時間を過ごしているってわけだ。

 ……良い時間だったなあ。

 ああしてモンスターと命を削り合うと、生きてるって実感が湧くんだよな。

 死に向かっているからこそ生存本能が呼び覚まされる、ってやつか。

 ふと上の方を見ると、こんな時間にも関わらず、空には飛行船が飛び、デカデカと宣伝を見せつけていた。

 あれも、どっかの巨大企業の広告だったりするのかねえ……

 

 どうでも良い事を考えながら暇を潰していると、扉が開いた。

 まーた3人娘がやってきましたか、と、もう振り返ることもせずに外を見続ける。

 しかし足音を聞いてみると1人分だけだった。

 だれが? という疑問はすぐに解消された。胡座の上にホシノがいきなり座り込んできたからだ。

 ど、どしたん……

 無言のままのホシノ。

 あわてる俺。

 そのまま、もたれ掛かってきた。

 いつもと違う雰囲気を感じ、ホシノを抱きしめた。

 いつもレッドとかアイリの面倒見てくれてるし、ホシノもこういう時があるのだろう。

 

 チクタクチクタクと鳴る時計を見ると、だいぶ良い時間だった。

 ほら、ホシノ、そろそろ部屋に戻ろう? 

 …………全然退かないんだけど。

 顔を恐る恐る覗き込むと、ハッとさせられる。色々な感情がないまぜになって、どうしようもないって顔をしていた。

 ど、どうしよう……

 こういう顔をされるとすごい困るんだ、フルオカタウンでもそうだった。

 大丈夫だぞホシノ、俺はここにいるからな。

 声をかければビクッと肩が震え、うん、と小さく答えた。反応出来るなら大丈夫カナ……? 

 さっ、一旦部屋に戻ろうか。

 …………戻らないらしい。

 しょうがない、布団をもう一式敷くか。

 ほら、布団敷くから一旦退いてくれ。

 そうお願いすれば素直に胡座の上から降りてくれた。

 何この選択肢ミスると詰みそうな予感。

 布団を敷き終え、ホシノに布団に入るように言う。流石にもう遅い時間だし、俺も眠くなってきた。

 

 ふと、目が覚めた。

 左腕に痺れを感じ、そちらを見るとホシノが枕代わりにしていた。

 ホシノはこちらを見ていて、起きているようだった。

 

「眠れない?」

 

「うん……ちょっとね」

 

「少し話そうか」

 

「……うん」

 

 ホシノから、昼寝が大好きな事や、最近動き過ぎだからもうちょっとのんびりしたいという旨の話を聞く。

 ぜ、善処します……

 具体案を出せと言われたのだが、レッドとかそこらへん色々考えた結果、一緒に昼寝するぐらいしか出てこなかった。

 俺の脳みそ使えねえ……ポケモンバトルの時はあんなに役立つのに……

 

「ふふ……それでいいよ」

 

「ごめん、あんまり思い付かなくて」

 

「ううん、いいよ……わっ」

 

「俺も寝るのは大好きだけど、寂しいのは嫌だからホシノを抱き枕にしまーす」

 

「…………」

 

 おでこまで真っ赤なホシノの背中をぽん、ぽん、と規則的に叩いていれば、おずおずと腕を俺の背中の方に回してきた。

 信頼されてるなあ、俺。

 本当に良かった、頑張ってきて。

 おやすみ、ホシノ。

 

「……おやすみ、お兄さん」

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