※3話構成・執筆終了済みです
この物語はフィクションである。
但し、この世界にはフィクションより度し難い現実というものが存在しており、言葉では説明しきれない摩訶不思議な可能性が点在している。
これは有り得たかも知れないし有り得なかったかも知れない物語、ただ一つ言えるのは『この世界の星野アクアは幸せだ』という事である――
「おはよう、あーくん」
朝日が眩しい。
目を開ければ横には最愛の女が満面の笑みでこちらを見つめている。
有馬かな、口は悪いがヤケにポジティブで俺の背中を押してくる良く分からない女。
だが、そのポジティブさに何度も救われてきた。
「ああ、おはよ。かな」
ポツリと零し、微笑む。
復讐は終わった。
あっさりと、呆気なく、奴は消えていった。
もっともっと、こんな呆気なくなんて無く徹底的にやってやるはずだったのに……無力感に苛まれていた時励ましてくれたのもかなだった。
「おはよう、ルビー」
「相変わらずアンタは間抜け面ねー」
「おはよーおにいちゃん。……最近変に元気だけど大丈夫?」
「何言ってんだアホ、俺はそもそも復讐なんて無きゃいつだってこんなもんだ」
「あ……うん、そう……だよね!せんせ割とはっちゃけるタイプだったし!」
今は復讐なんてしがらみにも囚われず、ようやく一人の学生らしい生活を送り出せて少しだけ気分が良い。
だがこの人生の大半を復讐に費やした俺のタイムリミットを考えるとそんな気分も僅かな時間しか過ごす事は叶わないが、だからこそ楽しみたい。
「今度お前向けにオタ芸動画出してやっても良いぞ」
「ええ!?おにいちゃんキャラ変わりすぎじゃない!?」
「なんだ、嫌なのか?」
「それはそれとしてもらっていきます」
「……前世してやれなかった分沢山してやるから。今まで小っ恥ずかしくて出来なかったのも含めてな」
「……えへへ。せんせのそーゆうとこ大好き」
「はいはい」
「かーなんなのよこの空間!イチャイチャしちゃって!最愛の女は私じゃないのかっつーの!まあ前世が前世だし良いけど!」
……この隣のうるさいのは後でフォローしておくとしよう。
ルビーは最愛の妹だがかなは最愛の女だ、失ったら間違いなく俺は生きていけないからな。
「それじゃあさっさと食べて登校……って言いたいけど今日も仕事あるんだ、ごめんおにいちゃん!」
「良いって。頑張ってこいよ、応援してるから」
「ありがとっ」
俺の妹、ルビーは多忙だ。
B小町が解散してからと言うものの女優にタレントにモデルに引っ張りだこの人気者として芸能界を席巻している。
だからかアイドル現役時より一緒に登校する頻度も減った。
俺は復讐を終えてから芸能界にも積極的に活動しなくなったしな。
今はポツポツと入ってくる仕事を片手間に、高校を卒業したら芸能界から完全にフェードアウトしてかなと二人過ごせる場所に移住してしまうのも良いかも知れない。
そう、俺はかな抜きでは生きていけないのだから。
「ふんふふんふ〜ん♪こうしてあーくんと二人きりで登校するなんて今までじゃ考えられなかったわね〜」
「……随分とご機嫌だな」
「そりゃそうでしょー、大好きなあーくんと登校デート!?そんなの再会したあの日からずっと夢だったんだから〜」
「そうだったのか?じゃあ言ってくれれば良かったのに」
「言える訳無いでしょバカじゃないの?アンタの前世がプレイボーイの医者だか何だか知らないけど乙女心は複雑なの!もっと勉強しなさい!」
「……前世は前世だ。今はかなしか見てないから」
「そう?それなら嬉しいけど」
周りの冷ややかだったり、ドン引きされている視線が突き刺さるが気にしない。
そんなもの気にしてたらイチャつけるものもイチャつけないだろう。
「あ、それよりのんびり歩き過ぎたせいで遅刻寸前よ!ほら急ぎなさい!」
「別に俺は遅れたって構わないが」
「構わなくない!アンタ折角良い大学狙えるんだから頑張んなさい!ほらさっさと行く!……あ、置いてかないでぇ!」
……全くこの女は。
やっと素直になってくれたと思っても忙しないったらありゃしねえな。
そこが良いところでもあるんだろうが。
「遅いぞー星野兄!お前で最後だ!ギリギリセーフだから良かったがキミも最上級生なんだからもう少し気をつけるんだぞ!」
「分かりました」
「ぜぇ……ぜぇ……だから……置いていくんじゃ……ないわよ……」
「さっさと行けと言ったのはお前の方だろ?」
「それはそーなんだけど!なんか釈然としない!」
「ま、慌てるお前の顔が可愛かったからそれを見たかったのもあるけどな」
「……釈然としないけどまあ許してあげるわ♪」
「チョロいな」
「なんか言った?」
「いや、なにも」
こんなにも、かなと話していると心地好い。
こんな事ならもっと早く再会したかった。
高校と言わず小学生辺りで出会っておけば、もっと心地好い空間の中で過ごせたのかもしれないと感じてしまう。
何のしがらみも無い今だから無責任に言える事ではあるがな。
「はぁ~、屋上でぼっち飯って開放感あって最高よね!」
「二人いるけどな」
「……ま、そうだけど。相変わらず友達いないわねーアンタは」
「……俺には身内以外ならかながいれば良い。それ以上は何も求めないし求めたくない」
「そっ、嬉しい事言ってくれるじゃない」
「事実だからな」
「……ま、アンタがそう思いたいなら今はそれで良いわよ」
肌寒くなってきたこの時期、基本的に屋上に人なんて来ない。
芸能科のある陽東は暖房設備も整っている、わざわざその文明の利器を放棄して寒空の下に行く酔狂な人間はそうそう居る訳が無かった。
俺達を除けば。
「なあ、かな」
横に膝を下ろしくっついてくる愛しい女に問い掛ける。
「何よ」
キョトンとした顔で、上目遣いで聞いてくるそれは非常に愛らしい。
思わず頭を撫でながら話を続ける。
「俺さ、卒業したら一人暮らししてみようと思うんだ」
「そうなの?わざわざ言うって事は理由とかある訳?」
「表向きは良い大学に行って就職の幅を広げる為だが……本当の目的はかな、お前だ」
「私?」
「ああ。俺達さ、本格的に同棲しないか?好き合ってる人間同士、二人でようやく見つけられた恋を愛にしていかないか?大学を卒業したら結婚だって考えてる、式場候補も国内外に候補を10箇所アテを付けている。お前の望むものなんでも俺が叶えてやる。だから一緒に暮らそう、幸せになろう」
やっと幸せを見つけられるかも知れない。
前世でも叶わず今世でも苦しんできた俺が許され、唯一掴めるかも知れないと知れた幸せ。
ここで逃したくない、いや逃す訳にはいかない。
逃せばきっと俺は夢から覚めた様にまた白黒の世界を歩んで行かなくちゃならなくなるから。
それは嫌だ、もう前世と今世で三度も大切な人を失ったのにまた失うなんてもう懲り懲りだ。
これくらいのワガママを言ったって到底許されるはずだ。
「あ、あー、うん……そうね……それはとっても魅力的な話ではあるんだけど……」
「なんだ?何か不満か?」
「いや、そういう訳じゃないんだけどね……ほ、ほら、ルビーが妬いちゃうんじゃないかしら?あの子とっても焼きもち焼きだし他の女と暮らすなんてーって絶対認めてくれないわよ」
「なんだそんな事か。ルビーなら分かってくれるさ、アイツはアホの子だが察しや頭の回転は悪くない。丁寧に説明したら分かってくれるはずだ。それに定期的に顔も見せに行くしな」
「うっ……そ、そう……で、でもちょっと待って!ま、まだ気持ちの準備というかそう言う諸々のアレコレが出来てないというか……」
「そう言うなら仕方ないな。分かった、急かしはしないからゆっくり考えてくれ。これは二人で幸せになる為の事だしな、俺独り善がりでも良くない」
これまでの人生が空っぽだった為だろうか、少し急かしてしまっただろうか……と反省する。
だがそれ程までに愛してしまったんだ。
そう、かなさえいれば俺は……
実はこちら、某掲示板のとあるスレが元ネタになっていたり…