「ちと、やり過ぎちまったか」
カランと、遅れて落ちてきた下駄から乾いた音が鳴った。
箒から降りて様子を伺う魔理沙の意識がそれに取られた時、折れかけの傘から弾幕が飛ぶ。
着地際で戦闘態勢を解いた直後だったこともある。
不意を突いた一撃はとっさに翳した箒と魔理沙の手を焼いて、雨を弾きながら背後の森に消えていった。
「……へへ、驚いた?驚いたでしょ」
素で驚いてしまった感情を食べたのだろう。
満足げな小傘は少し回復した様子で上体を起こし、箒を持つ手をさする魔理沙の様子を笑ってくる。
それに無言で八卦炉を構える魔理沙は自分で思う以上に苛立っていたのだろう。
いつもの魔法薬の材料を採取した帰りに見かけただけだった。
木陰に隠れて驚かそうとしている奴を逆に後ろから脅かして、成り行きから暇つぶし程度に弾幕ごっこで遊んでやったところだった。
手加減を間違えたのか、スペルを受け止めて吹き飛んだ際に傘の軸が折れかける様子が見えて、柄にもなく少々反省したところだったのだ。
完全に折れてしまった唐笠と傷だらけの小傘を見て、今度は明確にやりすぎたと魔理沙の顔が歪む。
特に最後の一撃は、弾幕ごっこの加減から外れた威力になってしまったのだろう、傘の破損と火傷、切り傷と言う形で明確に現れてしまっている。
しかし、先ほどのドヤ顔を思い出した魔理沙は肩をすくめて呟いた。
「まあ、いいか」
そのまま興味を無くしたように、雨に打たれる小傘を放って飛び去って行った。
してやられた悔しさと小妖怪への侮りで、向こうが悪いという開き直りに近い感情に至ったのだろう。
あえて気にしないように、鼻歌でも歌いながら帰路に付いたのだった。
小傘は震えていた。
体は痛み、目の前の唐笠は折れて、夏になったことが分かる生ぬるい雨が降っている。
しかしそんなことよりも、魔理沙が飛び去る前に聞こえた最後の一言に震えていた。
「……うらめしや」
小傘は忘れ傘である。
傘と言うものは、一度忘れても雨になると思い出されることが多い。
そういえば、あの傘はどうしただろうか、と。
そんな時、取りに戻ってもらった傘は忘れ傘にならない。
取りに戻ることも億劫だと、諦められて捨てられた傘が忘れ傘になるのだ。
そうして、忘れ傘になる傘は決まって持ち主にこんな呟きをされる。
――まあ、いいか――
根が善良な小傘はあまり妖怪の負の性質を出さない。
しかしこの時ばかりは、雨に打たれる忘れ傘という惨めさが身によく染みた。
差されることなく柄まで濡れ、その内側に腐った雨水を溜め、役目を失い横たわる傘。
かつての感情まで混ざって、すでにない持ち主に向けてか、理不尽な襲撃者に向けてかもはっきりしないまま、静かに恨み節を唱え続けた。
「……うらめ、しや」
心配した舟幽霊に探し当てられるまで溜まった恨みは、小さく重い、忘れ傘の祟りを生んだ。