東方祟り傘   作:bver

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3. 忘れたことの後悔

紅魔館に入れない。

 

空からは過剰なほどの迎撃魔法に止められて。

門からは弾幕ごっこの枠から外れた美鈴に止められて。

曰く、パチュリーから何があっても通すなと言われているらしい。

 

最初はおふざけかと思った魔理沙も、乾いた地面に叩きつけられて悟った。

どうやら本気らしい。

顔を上げた拍子に出た鼻血を乱暴に拭って、門前へ戻った美鈴に向けて箒にまたがり突貫する。

構えもしない立ち姿に不意を突いたかと笑った矢先、美鈴に届いた瞬間、視界が何を見ているか分からなくなるほど回る。

前後不覚の状況に思考が麻痺し、何もできない長い一拍の後、背中を殴られたようだ。

腕に触れる冷たい土の感触が分かるようになって、ようやく再度地に伏せていることを理解した。

 

顔のそばに箒を突き立てられて、魔理沙は飛び退く。

美鈴は悠然と、魔理沙は臨戦態勢で。

対峙する二人は表情まで対照的だった。

 

「なめんなよ!」

 

痛む背中を押して、懐から取り出した八卦炉を向ける。

数秒の溜めだけで膨大な魔力の奔流を放とうとして、こちらにふわりと飛んでくる箒が目に入った。

投げ渡されたことに気付いて思わず受け取り、手を引いた直後にぬっと大きな拳が眼前に翳される。

視界いっぱいの拳に、言わずとも伝わるその力に気圧されて後ずさる。

それでも、と再度構えた八卦炉は意識する間もなく空に向けて逸らされて、さらに腰溜めの拳を向けられていた。

関節を極められているのか、重心は崩されていて手を動かそうとすると痛みしか起きない。

そうして近づいた美鈴の目からは、明確な意志だけが伝わってきた。

帰れ、と。

 

「どうして……」

 

攻撃の意思が無くなったからか、掴まれていた手も離されて、力なく俯く。

思わずと言ったように出た言葉を聞いて、目の前の美鈴からの圧が増す。

それにも疑問しか浮かばない魔理沙が、迷い子のような顔で見上げると、何かを飲み込むようにしてから美鈴が言った。

 

「それが分からないから通さないんだ」

 

何の思いなのか、大きな拳に胸元をどんと叩かれて、ただ踵を返す美鈴の背中を見るしかなかった。

門前に戻ってもうこちらを見ることもない様子をしばらく見つめて、魔理沙は紅魔館から去っていった。

 

 

香霖堂に行くと頭突きが待っていた。

里と妖怪からの苦情を持った慧音が待ち構えていたのだ。

つけ払いを異常なほど繰り返し、返すように言っても忘れたと笑いながら逃げ出す所業に堪忍袋の緒が切れたそうだ。

霖之助にも協力してもらって、借りた代金分を今徴収して返すという。

一通り叱って、分かったら家に案内しろと声をかけた慧音は眉をひそめた。

 

魔理沙は、何かに怯えるように震えていた。

 

そんなに痛かったと慌てる慧音に力なく否定して、こっちだと店を出ていく魔理沙。

顔を見合わせた慧音と霖之助は、何はともあれ追いかけることにした。

 

 

異変はすでに解決されていた。

宴会ももう済んだという。

おぼろげな記憶の中、何故声を掛けなかったのかと聞く魔理沙に簡潔な答えが返ってきた。

 

「あなたが忘れたんでしょう?」

 

打ち合わせにも宴会の誘いにも反応しなかったのだから当たり前だ、と。

そのまま茶を飲む霊夢に返す言葉もなく、魔理沙は博麗神社を飛び去った。

 

 

アリスに吹き飛ばされた。

今、その本が必要なのに、取り上げるというのだ。

ふざけるなと怒鳴ったら、同じようなセリフを返されて人形に攻撃された。

そのままこの実験部屋にある半分ほども回収されていく。

近くに漂う魔法の糸を掴んでやめろと声をかけると、聞き慣れたため息とともにアリスは言った。

 

「2冊も3冊も、同じ本は要らないでしょう?」

 

1冊残してあげるだけパチュリーの恩情だと思いなさい、とアリスは続ける。

意味がうまく理解できない。

ただ、妙に手が冷えたように感じる。

いつの間にかアリスは出て行ってしまったようだ。

雑然とした本の山の中、2冊の本を見比べる魔理沙の姿だけが残っていた。

 

 

人里の古い友人に殴られる。

ただ、記憶を確かめたかっただけなのだ。

亡くなったなどと、知らなかっただけなのだ。

いや……本当に知らなかったのだろうか?

追い出された軒先で降り出した雨に打たれて、ふと思ったことが口に出た。

 

「傘、忘れたな」

 

それが何だか滑稽で、湿った笑いが漏れる。

秋の雨はやけに冷たく感じて、震えが止まらなかった。

 

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