柄にもなく、悲鳴を上げてしまった。
守矢神社からの帰り道、どこをどう通ったかは忘れてしまったが、魔法の森に近づいたところだった。
雨が遮られるほど鬱蒼とした森に入って、何とはなしに箒から降りた。
体に当たる雨が無くなって、よく聞こえるようになった耳から入る音は、あの境内とそっくりだった。
雨の帳に閉ざされて、優しく、あるいはしつこく説かれたあの境内と。
こちらを見つめる爬虫類の目が、無感動に大きく見えて。
そして――。
「おどろけ~!」
横から飛び出した唐笠お化けに、絶叫と言えるほどの悲鳴を上げてしまったのだ。
ばくばくと鳴る心臓を押さえて、魔理沙はへたりこんでしまった。
その様を見て、逆に驚いたように固まる小傘。
しばらくして、徐々に緩んだ表情は、爆発したような喜びの声と共に踊り出した。
「ごちそうだ~!」
やったやったと小傘が跳ねる。
先ほどの魔理沙から食べた感情が、長らく無かったほどの驚きだったのだろう。
いつぶりだろうか、過去のものと比べてどうだったかと、ぶつぶつと嬉しそうに賞味している。
そうして自慢げに「珍しいね、魔理沙がこんなに驚くなんて」と話しかけてきた。
「ああ、いや……すまん」
そんな小傘に、思わずと言った形で魔理沙が返す。
何で謝るの?と笑う小傘に、魔理沙も混乱してうまく返せない。
はて、何故自分は今謝ったのか。
これだけ喜んでいるのだし、「どういたしまして」とでも言うのが正しいのではないか。
もしくは「してやられた」と、何か仕返しをしてやるべきではないのか。
そんなことを思って、しかしあまりの驚きに、毒気が抜かれたように体は動かなかった。
「ありがと!またよろしくね!」
調子がいいから次に行くのだと、はた迷惑な宣言を残して小傘はカランコロンと去っていった。
下駄を小気味よく響かせる後ろ姿を見送って、そういえば雨も静かになったのかと気付く。
辺りを見渡して、家路につくための道を見繕って。
そうして何をするのだったかと考えた魔理沙は、驚きで真っ白になっていた頭で、最初に思いついた行動を口に出していた。
「パチュリーに謝ろう」
そんな自分に驚いて、しかしすぐに苦笑して、魔理沙は帰路に就いた。
しばらく後、何故かノート片手に謝罪に訪れる魔理沙の姿が幻想郷の方々で見られた。
図書館に本は戻り、つけで払うことも滅多に無くなった。
アリスとの魔法の研究も進み、近く紅魔館に訪れる予定だという。
ただし、少しばかり驚きやすくなったせいか、唐笠お化けや小妖精にやけに好かれるようになったそうだ。
そう、不本意そうに語っていた。
「良かったのですか」
巫女は問う。
「どうせ遠くないうちに消えていたさ」
神は答える。
これも一つのめでたしだろうよ。
そうつまらなそうに言って、小さな祟りを押しつぶした。