モンスターパニックが起きたらクラスメイトに追放された 作:創作修行者
【コケコッコー!】
「なんだ、この魔の夜明けを告げるような恐ろしい囀りは?」
【ワン! ワン!】
「いえ、それだけじゃないです。地獄の魔犬のごとき遠吠えも聞こえました」
奇妙な鳴き声が聞こえたら、授業を受けていたクラスメイトが厨二病じみたセリフを口にした。二名が真面目な優等生だったので、僕は素直に驚いている。
気がつくと僕を除く全員が席を立っていた。窓の向こう側を険しい顔で見つめている。
起立とか言ったかなと先生の方に向くと、禿げた頭をキラリとしながら、生徒たちの様子に困惑している。
「こ、こら、君たち。授業の時間だぞ。席に座りなさい」
「あれは……空を飛ぶクジラか」
先生の言葉を意に介さず、クラスメイトの一人は張り詰めた声で呟く。警戒しているのか深刻な表情だ。
「何を言ってる。クジラなどっ!?」
先生と僕も外の光景に絶句した。クジラのような巨大な生物を悠々と空を泳いでいる。幻想的な絵画が現実に現れたかのようだ。
クラスメイトは眉間に皺を寄せて注意深く観察している。誰も彼もが妙な体勢……所感であるが戦闘体勢をとっているように見える。
とか、みんなは冷静なの。
どう見ても非現実的な生物なのに慌てないのさ。この場で先生と僕だけが今の状況を飲み込めていないんだけど。
【ニャーん! ニャーん!】
禍々しい哮りが辺りに響いた。嫌な想像が頭を巡って心臓の鼓動が速くなる。
クジラの群れが学校を目掛けて飛来していた。あの巨体がぶつかれば間違いなく吹き飛ぶだろう。ここにいる僕も無事では済まない。
「う、うわあああ!!」
先生は禿頭を光らせながら、くたびれたスーツをはためかし廊下に逃げ出す。尋常ならざる汗をかいている。
……え、え。あ、あの?
三十人の生徒が教室に残ってるですけど。
「禿頭の教師。生徒を置いて逃げやがった」
「あんな巨体を見たら仕方ないよ」
「クジラがこっちにやってくる。みんな、後ろに下がるんだ!」
赤、青、黄、白、黒。
教室に数多の光が交差し、クラスメイト達に眩い衣が包んでいく。まるでアニメである変身バンクのようで常識では測れない何かが起きている。
白い閃光が教室を埋め尽くした。別に僕自身に変化が起きたわけではないが光が眩し過ぎて目を閉じてしまう
光が消えた瞬間。
『え?』
全員の声が重なった。
クラスメイトが、ファンタジー色の強い服装に着替えていた。その様相を外から眺めれば、コスプレの集団に思われるだろう。
何もない僕は学生服のままだった。明らかに場違いな気がする。
◆
学校を襲撃するクジラの群れをクラスメイトは討伐した。攻撃手段がかぶっていない独自の方法で、銃火器で倒せるか怪しい巨体を一撃でだ。
みんな何者なのさ。警察でも対処できるか怪しいモンスターたちだよ。なんで難なく倒せるの。
「
「
「勇者と聖女に賢者……暗殺者と定番職業が揃っているでござるな」
「
「忍び姿での拙者の習慣でござる。異世界にいたら定着したでござる」
お互いの情報を交換しているクラスメイト。
教室の端っこから眺めていても彼らの会話が耳に入ってくる。話を聞く限りでは全員が異世界召喚されたらしい。
僕を除いた全員が異世界召喚を経験してるとかウチのクラスが魔境すぎる。
ここまで偶然が重なっていると——僕にも実は隠された力があったという展開がありそうな気がする。
いや、まったく身に覚えがないけど。
どちらにしろ何の秘密もないので混ざれない。異世界召喚を経験したクラスの中で僕だけが一般人で異物だ。
仮に話すとしても何を語れば良いのか。勇者はカッコいいね聖女は美しいねとか言えばいいのだろうか。
……媚を売ってるようで情けなくなる。
なんとかこの場を抜け出せないものだろうか。見知った友人がいるとはいえ色物集団に囲まれて気まずい。
あ、クラスメイトの一人が僕に近づいてきた。喋れることないけど何を答えればいいのだろうか……正直に言うしかないか。
「区元には聞いてなかったな。異世界に行ったことがあるか?」
「ないよ」
「クラスで唯一、区元だけ何もないんだ?」
「おかしな話だよな。いや常識からして異世界召喚されないのが普通だけど」
「待て。先生もいるぞ」
「俺らを見捨てて逃げた先生か?」
クジラ襲来時に誰から見ても巻き込まれた一般人だった先生を忘れていた。この場にいないので僕を含めた全員の頭の中から除外されていたようだ。
「ふっ……気づいたか?」
妙に馴れ馴れしい声が教室に響く。
教壇の上で発していた自信なさげのものと違い、どこか確固たる自信に満ちた声。
モッサリと髪の生えた男が教室の扉にもたれかかっている。想像した人物から既視感を覚えるが髪の違和感が強すぎて別人に見える。
『——誰?』
大学生ぐらいの年齢でギリギリ上級生と言われても納得できる若々しい容姿だった。若手教師が着るような新品のスーツを着用している。
「お前らの先生だよ」
「禿頭に髪の毛が生えてるだと……?」
「カツラではないよね。本物の髪っぽい」
真っ先に逃げた先生と同一人物に見えないのでクラスメイトの大半が困惑している。逃げた先生の若い親戚と言われた方が納得できるぐらいに髪の量が多いのだから仕方ない。
「先生はあえて隠れたのさ。お前達の力をじっくりと観察するためにな」
「力を隠していた系のヤツか」
「全然気づかなかったわ」
騒めく生徒を眺める先生のドヤ顔は無性に殴りたくなるものだった。クラスメイトの数名も同じことを思ったのか不快感が顔に出てる。
その中でも明らかに蔑んだ目をした女子生徒が場の空気を壊す。
「嘘です。みなさん騙されないでください」
嘘という言葉に周りの生徒は混乱する。
だが僕はピンと来ている。
目の前の先生は偽物かもしれない。教師に化けてクラス内部に侵入するなんて創作によくある話だからだ。
満悦だった先生の笑みは無表情に変わる。
「先生が嘘をついてるとでも言うのか」
「見栄を張らないでください。ハリボテの有能感に浸った顔が、実に、気持ち悪いです」
「き、貴様。年上である先生の私に向かって気持ち悪いだと?」
「状況が理解できないので説明してくれないか。この人は先生に化けた偽物なのか」
怒る先生?を放置して嘘を訴えた女子生徒に尋ねた。質問内容からすると僕と同じ考えに至ったようだ。
「偽物ではなく本物ですよ」
「えっ……う、嘘だよな? あまりの変貌ぶりに納得できないんだけど」
否定された衝撃が僕に打ちのめす。次回のアニメの予想を外したようなショックだった。
……待て、落ち着くんだ。そもそも女子生徒の言葉は本当なのだろうか。先生だとしてもなぜ若々しくて髪が生えているんだろう。
「どうやら我々がクジラを倒してる最中に先生も異世界召喚されたようです」
『なるほど。納得した』
「おかしいよ! 異世界召喚から戻ってくるの早くない!?」
僕以外の全員がうなづいていた。僕と同じ偽物説を唱えた生徒も見事な手のひら返しだ。
異世界に召喚されたにしても先生が廊下に逃げてから三十分も経っていないんだけど。
「おい廊下を見ろよ! 重曹で消えない召喚陣があるぜ!!」
「かーちゃんに落書きの冤罪をかけられた召喚陣じゃねぇか」
「いまだに消えていないせいで親からオカルト趣味を疑われる召喚陣じゃん!」
廊下の召喚陣を見た瞬間、途方もない羞恥心が体中から湧いてきた。中学生に築き上げた黒歴史を思い出したのだ。
見覚えのある召喚陣——魔法陣があった。かつてオリジナルの魔法を作るべく、ネットで調べて丹念に創作した魔法陣とそっくりだ。
「確定だな。先生は力を隠していたとかじゃなくて本当に一般人だったわけだ」
「生徒を見捨てて真っ先に逃げた上に下らない嘘までつくなんて酷くねえ」
魔法陣に狼狽えている僕を置き去りにして、先生に対する評価がガタ落ちしていた。頭の中がいっぱいなので僕は話に着いてこれ——
「異世界のキングとなった先生を舐め切った貴様らの態度……どうやら教育が必要なようだな」
——えっ?
冷や水をかけられたように忙しい頭が冷静になった。
舐めた態度なんてとってたけ?
あと異世界のキングって何?
先生の反応が予想外なのか生徒全員が戸惑っている。原因不明なので宥めることもできない。