モンスターパニックが起きたらクラスメイトに追放された   作:創作修行者

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中編1

 

「さあ、廊下に並べ。教育的指導だ!」

「せんせー。そんなことより区元君が気になりますので彼の話をしてもいいですか?」

「そんなことだと? 先生たる私の発言を蔑ろにして優先順位をつけるのか生徒の分際で!」

 

 モンスターから逃げた臆病な先生とは思えないチンピラじみたセリフを吐いている。

 不条理とか言ってるけど無茶苦茶な言い分をつけられる生徒の方が不条理なんだけど。

 先生は不気味な笑いを浮かべる。

 

「良いことを思いついた。区元とかいう一般人なんぞ追放して、モンスターの餌にしてやればいいわ!!」

 

 追放と聞いた途端、空気が変わった。

 バタッと人が倒れる音が聞こえた。気がつくと先生がいつの間にか地に伏している。

 何が起きたのと周りを見渡したら、クラスメイト全員が冷めた目で先生を見ている。

 

「"賢者"の臣又……お前の仕業か」

「はい。わたしの魔法で眠りに誘いました。条件をつければ童話の眠り姫のようにキスで目覚めるようにできますよ」

『こんなおっさんにキスとか誰得だ!?』

「ジョーク、ジョークですよ」

 

 先生を怒らせる原因となった女子生徒——臣又さんは知的そうなローブを身につけて、言葉通りの軽さでけたけたと笑ってみせる。

 なお、彼女の目は重圧を感じるぐらいに笑っていない。アニメ調なら絶対に影がかかって黒くなってる。めっちゃ怖い。

 

「蒸し返すようで悪いが、無様に床を舐めているコイツが本当に先生なのか?」

「私たちの先生はこんな横暴な振る舞いをする人だったかしら?」

 

 僕と同じ疑問を抱いたようだ。やっぱり偽物なのではこの人?

 同じ一般人のよしみとして先生を擁護したい。追放ざまあを慣れ親しんだ日本人ならあんなフラグじみた台詞を吐くわけないし。

 

「いえ間違いなく先生ですよ。この場の面子には効きませんが厄介なスキルも持ってます」

「さっきから思っていたが、臣又は相手のステータスを看破するスキルでも持ってるのか」

「異世界にある王国の秘密すら見破るほど……そう、腐敗した貴族が恐れて追放する程の鑑定眼を持っています」

 

 臣又さんの黒い瞳孔が真紅に染まる。赤い宝石と錯覚するほど美しく神秘的な魅力に、僕の視線は光を求める虫のよう吸い寄せられる。

 そして視線だけで満足できず身体も——、

 

「鑑定眼とか嘘クセェな」

 

 机に腰かける男子生徒の挑発的な言葉で、僕は正気にかえる。

 彼女の瞳で僕の本能が昂ったような感覚……もしや臣又さんを襲おうとした?

 僕以外にも影響を受けたのか、男子生徒の一部が目が虚ろで正気に見えない。あらゆる感情を削ぎ落としたようで不気味だ。

 

「ほう。信用ならないですか?」

「初っ端から魅了をかける人間を信じろと? 男どもの様子がおかしいのをどう説明するつもりだ?」

 

 臣又さんは周囲を見渡す。

 目をゴシゴシして、もう一度見渡す。

 彼女の額から玉のような汗が溢れ始める。

 

「やばっ……す、すいません。久しぶりすぎて魅了を切り忘れてました」

「……素でやらかしたのか。賢者のくせにポンコツかよっ!」

「ポンコツ言うな——って、魅了された男子が襲ってくるぅ!」

『ハァハァ、本能が溢れる、高まる——うおおおおおおおおおお!!』

「ちょっと待てぇ! 弱い魅了でその狂乱ぶり! 絶対にわざとかかっただろう!」

『だって合法的に襲えんだぜ!!』

「ひっ、聖さん助けてっ!!」

 

 正気?を失ってる男子生徒たちに追いかけられる臣又さん。先生の秘密を暴いたときの強キャラ感が消え去って、情けない醜態を晒している。

 

「なあ。先生が変だった理由は臣又のせいじゃねえ?」

「眼が赤くなってから魅了が始まったので、時系列を考慮すると無関係でござる」

「そうか……そうなのか」

 

 倒れた先生を遠い目で見つめる。どこか悲しげなものが含んでいた。別人の希望を微かに抱いていたようだ。

 

「臣又の話がマジなら本当に先生なのか」

「異世界人ならともかく現代人でざまぁされる側の性格になるとは」

「髪の毛を含め、もはや別人でござるな。人はここまで変わるものでござるか?」

『お前が言うな!』

 

 総ツッコミで忍さんは狼狽える。事情は知らないけど、ござる口調に変わった人が言うと、僕も指摘したくなる。

 

「せっ拙者もそ、そう見えるでござるか?」

「クジラ襲撃前まで普通の女の子の喋り方だったでしょう」

「うっ……ござる」

 

 忍さんは弱々しい声だった。本人も思うところがあるようだ。何があったら、ござる口調になるのだろうか。

 

「ねえねえ」

「ん、なんだ」

「闇堕ちしたせんせー、結局どうするの?」

『闇堕ちぃ!?』

 

 クラスメイトの言葉が重なった。それは見事なほど同調していて、この場の面子の意思が揃ったかのようだった。

 

「何のドラマもなく唐突に現れたコレを、闇落ちと言われても納得できないんだけど」

「だって、闇堕ちキャラは髪の毛が伸びるの相場じゃん」

「髪の毛が生える程度の変化で闇落ちとかお前の基準が緩すぎだろ!?」

「髪の毛のついでに自己顕示欲も生えただけでしょう」

「あっ。戻って来れたんだ、臣又さん」

 

 臣又さんの後ろで男子生徒が椅子に抱きついていた。うへへと気持ち悪い声を吐き出している。幻覚で椅子が女の子に見えているのだろう。

 

「嬉々として追放を口に出す奴に同情する価値なんてない。そこらへんに放置でいいだろ」

『賛成』

 

 即断即決だった。誰一人、擁護すらしてくれない。追放の危機にあった僕も反対する気がないけど。

 

「ステータスがそこそこ高いので、なんだかんだで生き残れそうですしね。さっきのクジラも死力を尽くせば倒せるでしょう」

「マジで? この人、クジラに苦戦する程度で生徒全員にイキってたの?」

「みんな、一撃で倒せるのにな」

 

 残念な事実が発覚する先生。クラスの中で一般人の僕を除いて最弱らしい。年長者の威厳が台無しだ。

 

「私たちと同程度の経験値を得てるようですが、髪の毛を含めた美容にスキルポイントを費やしたようです」

「髪の毛で!?」

「美容ってそんなにスキルポイントを費やすのかよ!」

「ハゲ対策に」

「どこの世界でも美容はタダじゃない」

 

 戦慄の表情だった、誰も彼もが恐るべき未来に。小声で「大事にしよう……」の呟きがちらほら聞こえる。

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