モンスターパニックが起きたらクラスメイトに追放された 作:創作修行者
「では、彼の秘密を私が暴きましょう」
クラスメイトたちは息を呑む。
どうやら僕の秘密が分かるようだ。
賢者の臣又さんに見つめられ……数分が経った。女の子の直視が恥ずかしいのだが、目を逸らしてはいけないのだろうか。
だが、この機会を逃せば、正面から女の子を眺める機会がないのだ。陰気な僕にとって贅沢な悩みなので思考がループする。
煩悩に駆られた僕をよそに、痺れを切らした男子生徒が声を上げる。
「おい、まだなのか!」
周囲を観察すると訝しげな表情だ。
クラスメイトの視線に耐えきれなくなったのか、臣又さんはバツが悪そうにため息をつく。
そして、ボソボソと口を開く。集中しないと聞こえないぐらい小声だ。
「すみません……実を言うと何も見えないで、ちょっと時間をかければ見えるかなと黙ってました」
「何も分からんのかい!?」
自慢の鑑定眼で駄目だったせいか視線がさまよっている。臣又さんにとって予想外の出来事だったのだろう。
「どうやらレベル99の鑑定眼で、彼の秘密を守る壁を突破できそうにないですね」
「レベル99」
「ゲームだったら上限じゃねえか」
「ほぼレベルMAXで鑑定できない区元の秘密ってなんなんだよ」
クラスメイトも驚愕を隠せず、各々に感想を漏らす。メス堕ち君の秘密を暴いた鑑定眼でも見抜けない事実に驚いているのだ。
「鑑定眼の最大上限がレベル1000なんだろ。俺は臣又が実はショボいのを知ってるんだ」
「そこのあなた……真夏の川で白い汗をかきながら『アーッ!?』って叫ばせましょうか?」
「悪気がなかったんで許してください」
メス堕ち君の暴露で見ていてなお、臣又さんを舐める勇者がいるとは思わなかった。あとレベル1000とか数値がインフレしすぎでしょ。
「しかし、鑑定眼で分からないのは不気味すぎるな」
「不気味という理由で追放すんのか? 俺は反対するけど」
「そんなことをするわけないだろ。一度追放された経験者として絶対にさせたくない」
「そうでござるが……正直な話、爆弾を抱えたようで不安でござる」
忍者の女子生徒が椅子の背を固く握り込み、その手に感情がこもっていた。彼女の視線がちらちらと自分に向けながら、申し訳なさそうに口にする。
「爆弾とか大袈裟じゃねえ?」
「人に化けた魔族が奇襲を仕掛ける異世界ならともかく現代人の区元にそんな心配はいらないしょう」
「モンスターが溢れた状況で心配無用と言えるのか?」
「あんた、もしかして危険だからって区元を追放でもする気?」
「ああん、誰がそんなこと言った? 飯一つ満足に食えない生活を強いられる追放なんぞ誰かにさせてたまるか」
鑑定眼で分からない問題が発端に、ギスギスした議論が活発になっている。
教室を見渡すとクラスメイトが頭を抱えていた。ここまで真剣に悩んでくれると、なんというか問題の当人としては縮こまる。
「えっと。臣又さん、何も分からないの?」
「ご安心ください。思い出しました」
いつの間にか臣又さんは自信なさげな様子から立ち直っている。余裕が満ちた態度で頼り甲斐を感じさせる……初見なら。
「かつて異世界にいたとき——自由研究で開発した方法があります」
「いや、自由研究ってなんだよ」
臣又さんの異世界生活に突っ込みどころはありそうが今はそんなことよりも内容だ。賢者の職についてるのだからスゴいに違いない。
「私の鑑定眼に強化を施すことで——そう、森羅万象の叡智すら知れるのです」
——誰でも思いつけそうなアイデアを得意げな顔で臣又さんは話した。純粋無垢な子どもを思わせるぐらいに赤い瞳が輝いている。
ただの強化した鑑定眼とか普通すぎない。秘密の道具的なのを予想してたんだけど。
「鑑定眼を強化……すごいでござるのか?」
「知ってる範囲のナロウで見聞きしたことがねえな」
「いかなるネタ——作者が斬新と思うネタも、ナロウの片隅に埋もれてる定期」
「みなさん! 賢者の私が研究の果てに見つけた奥義なんですから、私を褒め称えるべきでしょう!!」
臣又さんの剣幕にひとときの静寂が訪れ、なんとも言えない空気が漂う。誰も彼もが臣又さんから目を逸らしている。
なあ、と男子生徒が神妙に話し始める。
「コイツ、本当に頼りになるのか? オレにはそう思えないんだが」
「仕方ないでござる。区元くんを調べる手段が賢者の臣又さんしかいないでござるし」
「男子を魅了で狂わせて、メス堕ちした奴を黙らせた実績があるから大丈夫でしょ」
「……本当に大丈夫なの、それ?」
「そこの人たち、聞こえてます!!」
「とりあえず臣又が凄いのは分かったから始めてくれないか」
諌めるように男子生徒が割って入る。思うところはあるようだが表情を押し殺している。
当の臣又さんは納得いかなそうだった。
「むむむ、釈然としませんが分かりました」
そして、本日で二度目の臣又さんの対面。
女の子に対する最初のドキドキは、もうない。どこか気持ちが冷めてしまってる。
枯れた僕と違って割とノリノリな臣又さん。
「ふふふ。かの魔王を懐を暴いたときを思い出しますね」
魔王と同列とは嬉しいような……特級の厄ネタとして扱われているので、むしろ悪いのか。
視界の隅で聖さんが魔王という単語に渋そうな顔をしてる。聖女だけに魔王と因縁があったのだろうか。
「混沌の夜に目覚めし者——」
こ、これはファンタジーでお約束の詠唱だ!
急速に熱膨張した僕の心が騒めきだす。
そう、僕は詠唱が大好きだ。魔法とくれば必ず詠唱を期待してしまう。詠唱を聞き、読み、呟くと興奮が高まって叫びたくなる。
続きの詠唱がまだかとまだかと、臣又さんに釘付けだ。これがディスプレイの前なら、二次元の壁を超えて指先で触れようするだろう。
「虚夜を染める紅月——紅月?」
ん、どうしたのだろうか。
熟考しているのか臣又さんが難しい顔にゆがみ、次第に眉間の皺が増えていく。
数秒後、なぜか彼女は大きな息を吐いた。
そして、意を決したように口を開く。
「詠唱がめんどくさいので、鑑定眼に魔力を込めます」
「絶対に詠唱を忘れているでしょ、アンタ!」
女子生徒が辛辣なツッコミを繰り出した。というかクラスメイト一同が顔が引き攣ってる。
……僕は気にしていない。詠唱で舞い上がっていた事実なんてなかったんだ。
というか魔力を込める程度なら、最初の時点で実行すればよかったのでは。
「むむむ、見えました」
なんと、意外に見えたらしい。
あそこまで残念な結果を連発していたので、てっきり迷宮入りすると思っていた。
僕の中の臣又さんの株が1cm成長した。下落していたが意外に伸びる機会があったようだ。
「区元くんは血液型はA型でカレーが大好き、さらに童貞っぇええ、痛いんですけど!?」
「区元の個人情報を漏らすんじゃねぇ!!」
男子生徒は物理的なツッコミを繰り出した。
いや、これはひどい。散々焦らされて、僕のプライバシーが公開処刑にされるとは。
「あんな前置きで期待させといて、この程度の情報とか舐めとんのか?」
「やっぱり賢者(笑)だろ」
クラスメイトに叱られ、臣又さんは若干涙目だ。特に鑑定眼で黙らされた人が怨みを晴らすべくチクチクと弄ってる。
僕は見なかったことにした。