ある日の天城宅
宮部「新型戦闘機の試作機テストパイロットを自分にですか?」
天城「はい。2日後に行われる海軍技術研究局と明石さんが共同開発した試作戦闘機のテストパイロットに、宮部さんをぜひお任せしたいと」
その話は、居間でお茶を飲んでいた宮部には寝耳に水だった。
加賀「ほおぅ?宮部がテストパイロットにか?」
赤城「テストパイロットにご指名されるなんて、さすがは赤城の宮部様ですわ〜♪」
一緒に居た赤城と加賀の二人は感嘆している。
宮部「はぁ、他にも自分より優秀な方が居るでしょうに、なぜそのような重大な役目を自分に?」
民間機、軍用機を問わず試作機のテストパイロットには高度な操縦技量と状況を的確に伝える説明能力が求められ、並大抵の搭乗員ではテストパイロットになることはできない。
上記以外にも―
・テスト計画を理解できる
・各テストの結果を入念な文章にすることができる
・航空機に対する卓越した感覚を持ち、航空機に奇妙な挙動があればそれを正確に感じ取ることができる
・テスト中に起こった問題を迅速に解決することができる
―など、これら以外にも多くの能力が求められる。
それを理解している宮部は、何故自分がテストパイロットと言う重大な役目に指名されているのか疑問に思っていた。
天城「指揮官様が仰るには―」
栗田『他の搭乗員?絶対に無理ね。この基地には、スリルや興奮を求めて飛行するどアホ野郎が殆どだから試作機を壊しかねないし、下手すれば私の首が吹っ飛ぶわ。だからこれは、優れた技量を持ちどんな時でも冷静でいられる宮部少尉にしか頼めないことよ』
天城「―とのことです」
宮部「……なるほどですね…」
栗田中佐の他の搭乗員に対する猛毒が塗られた毒矢のような言葉に困惑しながらも、一応相槌をうつ。
赤城「しかし、テストパイロットに選ばれるなんて宮部様は本当に凄い方ですわ〜」
宮部「………」
テストパイロットに指名されるという事は、他者から見て自分は優秀であると理解されていることであり一般の搭乗員からすれば大変喜ばしいことであったが、宮部は悩んでいた。
試作機ということは今まで一度も飛行したことが無いため、空中ではどのような出来事や不具合が起こるか予測不可能であり、試作機に搭乗するテストパイロットは常に危険と隣合わせ―いわば鉄製の棺桶に片足を突っ込んでいる状態であり死亡率がかなり高い。
天城「…断って頂いても構いませんわ宮部さん。指揮官様には私から伝えておきますわ」
初めて出会った時から現在に至るまでの長い付き合いから、宮部の心中を理解した天城は宮部にそう語りかける。
宮部「……いえ。テストパイロットの任、引き受けさせて頂きます」
天城「…よろしいのですか?」
返ってきた予想外の答えに、天城は本当に引き受けても良いのかもう一度宮部に訪ねる。
宮部「はい。栗田中佐にはこの世界に来た時からお世話になっているのに、これといった恩を返していませんから」
今、自分が不自由なく生活できているのは天城達だけではなく、重桜海軍航空隊の戦闘機搭乗員として雇ってくれている栗田中佐のおかげでもある。聞けば新型機開発を強く求めたのが彼女であるため、これを機に恩返ししようと彼は考えたのである。
愛する妻と子に会うために、危険を冒さない本来の自分ならすぐに断っていただろう。
天城「分かりました。後日、指揮官様に伝えておきますわ」
宮部「よろしくお願いします」
天城に向かって深く頭を下げる宮部。そして、ひっそりと天城に詰め寄る赤城。
赤城「あのー天城姉様?私もご一緒したく―」
天城「赤城は、加賀とお留守番です」
赤城「(´・ω・`)ショボン」
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2日後
海軍航空隊基地
新型戦闘機の試作機が格納されている基地で二番目に大きい格納庫を、手に飛行服を持った第三種軍装姿の宮部と天城が訪れる。
出入り口には小銃や拳銃を携えた兵士が小隊規模で警備を行っており、不審者が居ないか辺りに目を光らせている。
そして部隊長らしき人物に身分証を提示し、格納庫への出入りが許可されると二人は中へと入っていく。
宮部「失礼します」
天城「失礼致します」
明石「あっ宮部に天城、待っていたにゃよ〜」
入ってきた二人を出迎る明石。その後ろには紺色の海軍将校の制服を着た数名の軍人の姿。更にその後ろには大きな覆いをかぶった物体が置いてあった。
宮部「お久しぶりです明石さん。お元気でしたか?」
明石「見ての通りにゃ。宮部も元気そうでなによりにゃ」
お互い挨拶を交わし、近況の状況といった何気ない会話を交わしていると、技術科と少佐を表す肩章と黒色の太い3本線が刺繍された少佐を表す袖章を着けた女性の士官が近づいて来る。
「失礼します。もしかして、あなたが試作機のテストパイロットを務めてくれる人ですか?」
宮部「あっ、はい。どうも初めまして少佐殿、第三飛行中隊の宮部 久蔵特務少尉です。そしてこちらの方が―」
天城「初めまして、巡洋戦艦の天城です」
「おぉ!あなたがかの有名な宮部少尉!そして重桜きっての策士である天城さんですか!海軍技術研究局戦闘機部門課長の菊池 景子少佐です!宮部少尉、テストパイロットの任を引き受けてくれて感謝するとともに、今日のテスト飛行はよろしくお願いします!」
研究局戦闘機部門の責任者である彼女は元気な声で挨拶をし、宮部に感謝の意を伝える。
宮部「私が有名―ですか?」
菊池「あれ?知らないのですか?今、海軍では宮部少尉は小笠原鏡面海域で14機の敵機を撃墜し、しかも僚機も失わず生還した凄腕の戦闘機乗り―ユニオン語で言うとエースパイロットとして有名なんですよ?」
宮部「そ、そうなんですね…」
菊池「おっと、話が脱線してしまいましたね。飛ぶ前にまずは試作機を見てもらうとしましょう。すいませーんっ!覆いをお願いします!」
バサァァッ
覆いが剥がされて中から現れたのは、薄緑色のみの塗装が施された新型戦闘機の試作機の姿。機体は空母艦載機とは思えないアメリカ軍のF6Fヘルキャット並みに大きく、中央部から緩い上反角がつけられた逆ガルの主翼が特徴的であった。
その外観は、大日本帝国海軍と八菱重工業が共同開発したA7M 艦上戦闘機『烈風』に酷似している。
天城「これが試作戦闘機ですか?」
菊池「はい、私達は十七試艦上戦闘機と呼んでいます。ユニオンのF6Fと同等以上の性能を有する、これからの重桜海軍航空隊を支える新型戦闘機です」
相当な自信作なのか、誇らしげそうに語る菊池少佐。
菊池「この機の要求性能が上層部から提示された際は、思わず目を見開きましたよ。なにせ、あのF6Fと対等に渡り合える高性能戦闘機を設計しろと言っているものですから」
天城「それは過酷な要求ですね…いつか過労死する方が出てしまわないか心配でなりません…」
菊池「天城さんの言う通りですよ。ほんと、上層部は加減ってものを知らないのですかねー」
重桜海軍の上層部が出す要求は世界各国の技術者が目を疑うほどの過酷さで有名であり、詳しい要求性能を知らない天城でも想像に難くない。
愚痴を零す菊池少佐とそれを聞いて頷く天城の二人が話を交わしている中、宮部は機体の各所を見て回る。
宮部「菊池少佐、発動機は何を搭載しているのですか?」
菊池「あっ、はい。空冷星型エンジンのハ-43-11です。2速機械過給機と排気タービン過給機の2段過給機を装備し、馬力は海軍が実用化しているエンジンの中で最大の2200馬力。この開発が中々難しく遅延していたのですが、そこの明石さんが協力してくれたおかげで今日までに何とか間に合わせることができました」
明石「どやぁにゃ!」
隣に居る明石が得意げなドヤ顔を披露する。
宮部「なるほど。では、防弾性能はどのくらいで?」
菊池「操縦席背面に12.7mm弾対応の13mm装甲板を配し、風防は70〜50mmの防弾ガラス。そして燃料タンクには積層ゴムを包んだセルフシーリング式の防弾・防漏・防火タンクを採用しています。我々、重桜海軍は搭乗員を赤子のように大切にしていますから、少しでも防弾設計を怠れば上司からどやされてしまいますよ」
前の世界では考えられない重桜と日本の搭乗員の扱い方の違いに、宮部は内心唖然とする。
似た国柄なのに何を間違えば、搭乗員の命すら使って敵への体当たり攻撃を行う国と、防弾性能を充実させ搭乗員を赤子のように大切にする国に分かれてしまうのかと、ふいに思ってしまう。
菊池「…あの、どうかしましたか?」
宮部「…いえ、何でもありません。それにしても良い機体ですね。武装、防御、そして飛行性能を高めつつ搭乗員を絶対に守ろうとする意思を感じます」
菊池「!ありがとう御座います!設計者としてそう言って頂けて嬉しいです!」
自身が持つ航空機に関する知識の粋を集めた自信作であるため褒められた事に対し、腰から生えた尻尾を左右にブンブン動かして犬のように喜ぶ。
「菊池少佐!!機体の整備が終わりました!!」
試作機の最終確認を行っていた整備兵の一人が、それを終えた事を大声で菊池に伝える。
菊池「分かりましたー!!…では、新型機のテスト飛行を始めましょうか宮部少尉」
こうして、新型機の試験飛行が始まるのであった。
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