戦姫絶唱シンフォギアRV   作:秋乃楓

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13目醒めよ決死の息吹で

聖遺物ギャラルホルンを巡る争いは続いていた。ギャラルホルンを奪われてしまえば全てが終わる。シャーロットはギャラルホルンを用いてラグナロクを引き起こす事を目的とし、それを阻むシンフォギア装者と彼女達を纏める組織S.O.N.Gらと対峙していた。

 

 

「いい加減…諦めたらッ!貴女は私に勝てないッッ!!」

 

 

 

 

「諦める訳無いでしょうッ…!!」

 

 

 

シャーロットとマリアは互いの刃を交じ合わせて戦っていた。すれ違う度に火花が散る。マリアの放った攻撃をシャーロットが跳ね除け、接近し蹴りを繰り出す。それを片手で弾いて拳を振り翳すとお互いに睨み合う構図となった。

 

 

「そろそろお終いにしましょう…我がフェンリルの牙の餌食になるが良いッッ!!」

 

 

 

「何ッ…!?」

 

 

マリアを突き飛ばすと剣を彼女へ向ける。すると収束されたエネルギーが紫色の光線となり、狼の形を象るとマリアへ襲い掛かった。

 

 

 

「くッッ…!!」

 

 

咄嗟に右へ飛び退いて避けるとマリアの直ぐ後ろへ直撃、大きく艦の一部を抉る様に焼き尽くした。もし直撃していたらタダでは済まない。シャーロットは即座に2発目を放とうと構え直す。

 

 

「避けたか…大人しく死んでくれれば良いものをッ!!」

 

 

 

「来る…ッ!!」

 

 

 

「今度は避けられるかしら?はぁあッッーー!!」

 

 

 

エネルギーを再度充填し同じ様に光線を放つ。一直線に放たれた光線は途中で分散、マリア目掛けて四方から襲い掛かった。

 

 

「この程度で…ッ!?きゃああッッ!?」

 

 

 

1発、2発と蛇腹状に展開した剣で掻き消すのだがすり抜けて来た1発がマリアへ直撃し吹き飛ばされてしまう。

マリアは甲板へ叩き付けられると同時にギアの一部が損壊してしまった。

 

 

「フェンリルの持つ能力…破壊する牙。シンフォギア程度、我が牙の前では赤子同然ッ!!勝負あったわね……さようなら、マリア。」

 

 

シャーロットはグラムを収めると倒れているマリアの横を通り過ぎ、艦へ侵入する為に一部を破壊し内部へ突入した。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

シャーロットは艦内を進み、聖遺物の保管されている場所を手当り次第に探して行く。だが見つかる気配は無い。

 

 

「…ちッ、ハズレか。なら先にレーヴァテインを回収しましょうか……各部隊、シンフォギア装者を始末次第、艦内を制圧せよッ!」

 

 

歩いて行くといきなり非常ハッチが展開され行く手を阻まれるが、フェンリルの力の前では無意味。それすら破壊して突き進む。そしてある部屋の前へ来た。

勢い良くドアを開けると美結がそこに居た。颯の遺体と共に。

 

 

「…誰かと思えばさっきの。それとハヤテじゃない…もう死んじゃってるけど。」

 

 

 

「こ、来ないでッ!颯には指1本触れさせないんだから!!」

 

 

美結は庇う様に颯の前へ立つ。だがシャーロットは歩みを止めない。

そして美結の前へ来ると彼女を無言で荒々しく払い除けた。美結は近くへ倒れ込むが直後にシャーロットのブーツへと、しがみついた。

 

「必死ね…そんなにハヤテが大事?」

 

 

「当たり前でしょうッ……!!」

 

 

 

「なら…教えてあげる。颯を殺したのは私……そして彼女を装者へ仕立て上げたのも私なのよッ!!」

 

 

 

「貴女が…颯を…ッッ!?」

 

 

 

美結はシャーロットから告げられた言葉を信じられなかった。彼女が颯を手に掛けたのだと。だが直後にそれは怒りへと変わる。ギリギリと歯を食い縛るとシャーロットを睨み付けた。

 

 

「貴女が…アンタが…颯を……ッッ!」

 

 

 

 

「仕方ないでしょう?私の言う通りにしないのだから…素直に言う事を聞いてればこうは成ら無かったのに。さぁ…レーヴァテインは何処?」

 

 

美結を蹴飛ばし、シャーロットは颯の身体をまさぐる。しかしそれは無かった。

 

 

「ふふッ…お探しの物はコレかしら?」

 

 

 

「なッ……!?それを寄越しなさいッッ!!」

 

 

美結はギアペンダントを得意気に見せ付ける。それを見たシャーロットは美結へ飛び掛った。何としてもアレを奪わなければと。揉み合いの末ペンダントは宙を舞い、シャーロットの手へ渡ってしまう。そして彼女はそれを左手に握るとペンダントを変化させて剣へ変えてしまう。紅い剣がシャーロットの手へ握られた。

 

 

「錬金術師であればこんな事も容易く出来る…次いでにハヤテの力で貴女も消してあげるわ。光栄に思いなさいッ!」

 

 

 

「ッッ…!?颯ッ…!!」

 

 

 

美結は颯へ駆け寄ると彼女の前へ立ち、覆い被さった。絶対離さないと強く彼女を抱き締め、片方の手を握りながら。

 

 

「消えろぉおッッーー!!!」

 

 

至近距離でグラムと紅剣から放たれた光線は確実に2人を飲み込んだ。2人の居た場所を光線が貫通し巨大な円形の穴が開いてしまう。硝煙が風で消えるとそこに居たのは颯だった。ギアを纏わず、美結を右腕に抱き締めたままそこに立っていた。

 

 

「な…ッッ!?」

 

 

 

「……ッ!!え…?」

 

 

 

美結は思わず顔を上げた。そこに居たのは病衣を着た颯。彼女の右腕に抱き締められたまま見つめていた。

 

 

「どうして!?確かに消し飛ばした筈なのに……ッ!?」

 

 

 

「……美結の想いは確かに私に届いた。ありがとう。美結のお陰で私は帰って来られた。私は美結の居る世界が何よりも大切…だからもう二度と美結の手を離さない、絶対に。」

 

 

微笑むと颯は美結を傍に置き、シャーロットへと向き直る。突如、火災を感知した為にスプリンクラーが作動し天井から水が降り注いだ。

颯とシャーロットは互いに濡れながら睨み合っていた。

 

 

「…私は何としてもギャラルホルンを手に入れるッ!!その為ならッッ!!」

 

 

 

「最終戦争なんて絶対に起こさせはしない…皆の居るこの世界を私が、私達が守って見せるッッ!!」

 

 

 

「ほざくなぁあッッ!!」

 

 

 

颯とシャーロットは室内で攻防を繰り広げる。シャーロットは2本の剣を、颯は素手で。だが武器を持つ彼女の方が戦闘能力は上、颯は殴り飛ばされるとガラスを突き破って部屋の外へ投げ出されてしまう。

 

 

「折角生き返ったのに悪いけど…此処でまた死んで貰うわ!!」

 

 

 

「私は死ねない…もう二度とッッ!」

 

 

 

シャーロットが紅い剣を向けると颯へ振り翳しながら間合いを詰めて行く。隙が有ればグラムによる突きが飛んで来る。

颯は後退しながら様子を伺い、構えながら睨み付ける。避け続けても反撃出来なければ意味が無い。

 

 

「ふふッ…いつまで持つかしらッ!!」

 

 

 

「…ッ!!」

 

 

 

突き出された紅い剣を颯は右手で鷲掴みにし、受け止める。手からはポタポタと刃を伝って血が滴り落ちる。

 

 

「あははッ、ヤケになった?私に殺されるのが貴女の運命(さだめ)…それだけは絶対に変わらないのに!」

 

 

 

「……そうだね。確かにこのまま貴女に刺されて死ぬのが私の運命(さだめ)かもしれない。でも、そんなモノで私を止められるものかぁあッッ!!」

 

 

颯は刃を握る手へ力を込め、剣を引き寄せると左手による手刀でへし折ってみせた。紅い剣を右手に握り締めると颯の周りへ紅い光が漂い始める。

 

 

「な、何が起きているのッ!?この異様な力は一体ッッ……何をしたッ!?お前は誰だ…何者なんだ…お前はぁあッッ!!?」

 

 

 

「私は奏宮颯……シンフォギア…レーヴァテインの装者だぁあああッッ!!!」

 

 

その瞬間、颯の着ていた病衣が弾け飛び一糸纏わぬ姿となる。紅い光は一気に収束し彼女のギアとして纏われたのだ。

 

 

SGr-07レーヴァテイン。その姿は正に紅く輝く深紅のギアそのもの。

再び力は颯の元へ舞い戻った、いや彼女自身が再び望んだから。誰かを守る為の力を。

 

 

「…前より軽くなってる?これならッ!」

 

 

今までと同じ様に左腕から剣を抜剣し剣の刃先をシャーロットへ。まさに紅い剣に相応しく、刃も紅い。

 

 

「ッ…調子に乗るなッ!! 」

 

 

 

シャーロットは片方の剣で颯が向けた剣を弾くと更に互いに刃を交わらせ、戦闘が始まる。しかも潜水艦のフロア一角で。廊下での激しい死闘は尚も続く。

 

 

「幾らギアを纏っても、戦闘能力は此方が上ッ!その程度で私が倒せるかしら? 」

 

 

 

「くッッ…!!」

 

 

片やテロリスト、片や装者。

互いの思いをぶつけながら戦闘は続く。

だが颯の方が押され気味なのは変わらないのだが。それでも彼女は戦う事を諦めない。

 

 

「いい加減…くたばりなさいッッ!!」

 

 

 

 

「負けるもんか…負けて…たまるかぁあッッ!!!」

 

 

 

振り翳されたシャーロットの一撃を跳ね除け、颯の刃が彼女の身体を切り裂く。

装甲に阻まれるとそこに大きく傷が付いた。

 

 

「ぐッ…フェンリルに傷を付けただと!?そうか…これこそが……ッ!?」

 

 

何かを言いかけた瞬間、颯の左手の拳が正面から顔面へ炸裂し殴り飛ばされる。シャーロットは廊下へ吹き飛ぶとゆっくり身体を起こしながら睨み付けた。

 

 

「…これは私がお前に殺された分ッ!」

 

 

 

「がはぁッ…!?うぐぅうッッ!!」

 

 

 

血を吐き捨てたシャーロットは走るとグラムを正面へ突き出す。しかし刺突は受け流され左足による蹴りを背中から喰らってしまう。

そして遂には彼女の手からグラムが落下してしまった。

 

 

「これはお前が美結を悲しませた分…ッッ!!」

 

 

 

「この…嘗めた真似を…ッッ!!」

 

 

シャーロットは懐からネフシュタンを取り出し、前へ突き出す。それすらも武器として颯へ振り翳して来た。

それを左腕のガントレットで受け止めると颯は剣を逆手に持ち直し、右手の拳を強く握り締めるとカウンターの形を取る。即座にブースターを作動させて彼女を天井へ向けて殴り飛ばした。

 

 

「仲間を悲しませた分も全部纏めて…ぶっ飛べぇええッッ!!!」

 

 

 

「がぁ…ッッ!!?」

 

 

 

天井を突き抜け、シャーロットと共に甲板へ。颯は着地すると再び構え直す。

目を覚ましたマリアもその光景を見ていた。紅く光り輝くシンフォギアの姿を。

 

 

「ガング…ニール…?それとも…もっと別な…何か…なの?」

 

 

 

「…大丈夫ですか!?その…立てます?」

 

 

 

颯はマリアに気付くと彼女へ駆け寄る。そして手を差し出すとマリアを立たせた。倒れているシャーロットへ向き直ると2人はじっと彼女を見つめていた。

 

 

 

「ありがとう…私は大丈夫。貴女は…何者なの?」

 

 

 

「…後でお話します、色々複雑なのでッ!」

 

 

シャーロットが立ち上がった事を確認し、マリアと共に並んで構える。

シャーロットが叫ぶと右手を突き出し、グラムを再び引き寄せると突撃する。

その刃先は颯へ向けられていた。

 

 

「ハヤテぇええッッ!!」

 

 

 

「シャーロットぉおおッッ!!」

 

 

颯も同じ様に構え、叫びながら突撃すると正面でぶつかり合った。何度も何度も、刃を交わしながら。

 

 

「次の一撃で終わらせてやる…今度こそッッ!!」

 

 

 

「同感ッ…私もそう思ってたッッ!!」

 

 

2人が離れ、颯は左腕を前へ突き出すとガントレットを変化させた。

その形はまるで大型のブラスターそのもの。両足のアーマーから固定する為のアンカーが展開され甲板へ打ち込まれた。

 

そしてシャーロットもグラムを突き出すと刀身へエネルギー全てを収束させていく。紫色の光が怪しく輝いていた。

 

 

「これで…ッ!!」

 

 

 

「終わらせるッッ!!」

 

 

 

「全てを飲み込み、喰らい尽くせ…フェンリルッッ!!」

 

 

 

「全てを穿き、斬り裂け…レーヴァテインッッ!!」

 

 

 

「「はぁああああッッーー!!!」」

 

 

 

直後に膨大なエネルギーがお互いの武器から放たれる。紅い光と紫色の光が爆音と衝撃波を放ちながら正面でぶつかり合った。これが最後の一撃。お互いに死力を尽くし戦ったがこれで最後。

グラムから放たれた光は紅い光を飲み込み始める。

 

 

「ふふッ…このままッッ……!!」

 

 

 

 

「うッ…不味いッッ…押し切られるッッ!

 

 

 

「もっと…もっと腰を入れて足に力を入れて踏ん張りなさいッ!!貴女も装者でしょうッ!?その程度の事でへこたれるなッッ!!」

 

 

マリアが颯を支えながら後ろから檄を飛ばした。

颯は頷くとより力を込めて威力を増加させていく。自分の中にあるエネルギー全てをシャーロットへぶつける事を決めて。

 

 

「お願い、レーヴァテイン…私の全力をこの一撃に……ッ!!」

 

 

颯は左腕を掴む右手に更に力を込める。ギリギリと握り締めると光線の威力が更に増した。紫色の光線を押し返し始めた。

 

 

「なッッ…嘘…私が負けるッ!?こんな事…有り得ないッッ!!」

 

 

 

「さようなら……シャーロットぉおッッ!!」

 

 

「ッ…!?うわぁああッッー!!?」

 

紫色の光を紅い光が飲み込み、そのままシャーロットへ襲い掛かった。彼女の悲鳴と共に紅い光は空へ突き抜けて消えた。

 

 

「はぁ…はぁ……やったの…ッ?」

 

 

 

颯は武装を解くと座り込んでしまった。

ゆっくりとシャーロットの居た方を向くとファウストローブを失い、半裸のシャーロットが颯を睨み付けていた。

 

 

「7つの音階…それとは異なる音…そうか…そういう事……ッ!」

 

 

 

「未だやる気…ッ!?」

 

 

 

「貴女の勝ち……そういう事にしておいてあげるわ…でも……次は無い…ッ!」

 

 

シャーロットは得意気に笑い、颯を指さしながら後ろへ後退し海へ飛び込んだ。割れた黒い指輪を残して。

 

 

「ッ……!」

 

 

 

 

「……シャーロット、貴女は本当に終わらせるつもりなの?この世界…何もかも全て。」

 

 

 

激戦を終えた後、辺りは静けさを取り戻した。装者達の本拠地である潜水艦へ攻め入って来た一団も引き上げた事が後から伝えられたのだった。

こうしてテロリスト集団イノベイターらによるS.O.N.G拠点襲撃事件はリーダー、シャーロットの死により幕を閉じた。

 

シャーロットの遺体が上がらないという

不安要素を残して。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

戦いの後、颯はエルフナインの勧めによりメディカルチェックを受ける事に。

死人がいきなり生き返ったのだから当然だ。裸だった所に病衣を着ると颯の身体を機械が隈なく調べて行く。

 

 

 

「…生命反応、その他数値も正常。特別何か変わった所は…有りませんね…。」

 

 

 

「…本当に?」

 

 

 

「はい、致命傷となったお腹の傷も完治しています。…颯さんは何処か具合が悪いとか有りませんか?」

 

 

 

「いや…?けど前より身体が軽くなった気がするかな。」

 

 

 

「成程。これでメディカルチェックは終了です、お疲れ様でした!後でボクの方でも色々調べてみます!」

 

 

チェックが終わると颯は身体を触ったりしながら部屋を後にした。

廊下を歩いて行くと自分が戦った辺りにはブルーシートが掛けられているのを目にした。無我夢中とは言えアレだけ激しい戦いを繰り広げたのだ、壊れるのは当然。申し訳ないと思いながら司令室へ向かい、自動ドアを通して中へ入る。

音に気づいた響が驚いた様子で此方を見ていた

 

 

「えッ!?颯ちゃん!?ど、どうして…此処に?」

 

 

 

「…どうしてって、報告に来たんだけど?」

 

 

 

「だって颯ちゃん…死んだんじゃ?」

 

 

 

「……私にも解らない。司令は?」

 

 

 

「あー、師匠なら用事があるって出て行っちゃった。それより…本当に生きてる?ユーレイじゃない?」

 

 

 

「…何なら触ってみたら?」

 

 

 

響はそう言われると颯の身体のあちこちを手で触っていく。ちゃんと体温も感じられるし、手を握っていても温かい。

 

 

「生きてる…!」

 

 

 

「だから言ったのに……。」

 

 

そんな話をしているとゾロゾロと後の装者も入って来た。颯を知る誰もが彼女の生還を喜んでいた。

クリス、マリアには一から事情を説明する羽目になってしまったが。

2人と話していると響がつんつんと小突いて来た。振り向くと外を指さしている。

 

 

「……颯ちゃん、会ってあげなよ。美結ちゃんきっと喜ぶから!」

 

 

 

「そうだね…行ってくる。」

 

 

颯は頭を下げ、司令室を後にすると美結の元へと急いだ。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

美結が居たのは潜水艦の中にある休憩室。そこで1人、窓から外を見ていた。

両手で未開封の缶コーヒーを握り締めて。ドアを開けて入ると彼女へ近寄って行く。

 

 

「えっと……?」

 

 

 

「お帰り。」

 

 

 

「え?」

 

 

 

「お帰りなさいって言ってるの。」

 

 

 

「…驚かないの?色々。」

 

 

 

「驚いてるわよ、色々と。でも自然の方が良いかなって。ほら…これあげる!」

 

 

 

ポイッとコーヒーを投げ渡される。

それはBLACKとラベルに書かれたコーヒーの缶だった。

 

 

「ん…ありがとう。それとお腹空いちゃった…昨日から何も食べて無くて。それに戦ってたから余計に……。」

 

 

 

「素直で宜しい。じゃあ着替えて帰りましょう?昨日の夕飯、未だ残ってるんだから!感想聞かせなさいよ?」

 

 

颯の手を引いて美結は嬉しそうに歩いて行く。颯もそれに釣られる形で。

颯は個室で着替えてから美結と共に本拠地を後にするのだった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

本拠地で颯達が色々と話していた頃。

赤いスーツを着た男は1人、路地を歩いていた。名を風鳴弦十郎。超常災害対策機動部タスクフォース、別名S.O.N.Gの司令塔を務めている。

何故彼が此処に居るのか?それは彼の端末に差出人不明のメールが届いた為。

大まかな場所だけ指定され、彼はそこへ向かっていた。

 

 

「…来てくれたのね、時間通りよ。」

 

 

 

 

「キミは……!」

 

 

 

思わず弦十郎は立ち止まる。そこに居たのは金色の長髪と瞳を持つ女性、フィーネこと櫻井了子だった。

丸いレンズのサングラスを外し、弦十郎を見据える。そして彼を手招きし歩き出した。

 

 

「……キミはあの時消えた訳では無かったのか?」

 

 

 

「最初は確かに消えたと思ったけど…残滓として残った……それから更に後、別の子が器に覚醒してからその子も助けた。その時には完全に私は消滅している…貴方達人間に未来を託して。けれど私はこうして此処に居る。」

 

 

 

「それは何故だ?」

 

 

 

「……それを今から話すのよ。着いたわ。」

 

 

彼女が招き入れたのは1軒のバー。

店内は大人っぽい雰囲気が漂っている。

カウンターへ2人は腰掛けると互いに酒を注文する。

 

 

「飲み物を置いたら外して頂戴…大事な話をするから。」

 

 

 

「…では、色々と教えて貰おうか?」

 

 

 

「……そうね。先ずは貴方の知る女の子から話そうかしら?赤い髪の女の子。」

 

 

 

「颯君か…彼女の事は俺も色々調べて検討はついている。彼女と妹の結衣君は奏宮博士夫妻の忘れ形見という事だろう?」

 

 

 

「ええ、そうね…元を辿れば全てはあの日から始まる。未だ博士らが存命していた時の話。北欧のとある遺跡で発見された聖遺物…それがレーヴァテイン。私もその調査に同行し回収を手伝った。当初は回収だけで終わる筈だった……本来ならね。」

 

 

 

「…どういう事だ?」

 

 

 

「奏宮結弦…彼は私の提唱した理論に基づいてレーヴァテインをシンフォギアとして扱えないかと持ち掛けて来た。勿論、断ったわ。けど彼は頼み込んで来たのよ……渡しては成らない人物に渡る前に何とかして欲しいと。」

 

 

話していると2人の前へグラスが置かれ、真ん中にボトルも1つだけ置かれる。店員は頭を下げて厨房へと去っていった。

 

 

「…ある人物とは?」

 

 

 

「貴方も名前は聞いた事が有るでしょう?纏井総一郎……その彼の家柄でもある纏井機関。聖遺物研究者の中でも異質な存在であり、風鳴とも何かしらの関係や繋がりが有るとされる組織。結弦博士はその総一郎博士と顔馴染みだったの。」

 

 

 

「纏井…つまり結衣君の…義理の親…。」

 

 

 

「結弦博士に対し彼はレーヴァテインを寄越す様に指示したの。けど結弦博士はそれを拒んだ。纏井を敵に回せば唯では済まない……事情を聞いた上で私はレーヴァテインの欠片をシンフォギアシステムという形として作り出した。けど問題は誰がこのギアを扱うか……という事。」

 

 

 

「端から颯君では無かったのか?彼女が適合者なら全て納得が行く筈だ。」

 

 

 

「そうね…けど、レーヴァテインを纏う装者を決める為に夜通し実験を繰り返す事になったわ。何人も何十、何百と。しかし適合者は現れなかった。そして時限式でも上手く行かなかった……。そんなある時、妻である詩音博士との間に2人の娘が産まれた。それが貴方の言っていた颯、そして結衣。適合者が不在のまま処理されたレーヴァテインのギアはこのまま処理されるかと思われた……。」

 

 

 

「まさか……結弦博士は…ッ!?」

 

 

 

「……こともあろうに颯と結衣も実験対象に入れたの。実験の末、適合係数が高かったのが颯だった。結弦博士は彼女を正規装者と定めた。だけど…事件は起こってしまった。総一郎博士が一連の研究を知ったのは颯がギアを纏う事に決まった辺りから。自分の娘はギアに適合出来ず、弾かれた事から根に持っていたのでしょうね……。」

 

 

フィーネは自分のグラスにボトルに入った酒を少し注ぐ。そして氷と共にカラカラと手で掻き回した。

 

 

「そして事件は起こった……機関に協力する事を頑なに拒んだ結弦博士と詩音博士を研究中の事故と見せ掛けて手に掛けて部下達に殺害させた。後に総一郎博士らにより回収されたレーヴァテインのシンフォギアは自分達が別で用意したもう1人の実験対象の少女に渡そうとしていたのよ。」

 

 

 

「少女?他に被検体が居たのか?」

 

 

 

 

「被検体No.930…シャーロット、彼女は特殊だった。レーヴァテインと同じくして見つかった完全聖遺物、ギャラルホルンを利用して彼女はこの世界へ連れて来られたの。当の纏井機関は並行世界へと行けるという事実を伏せて報告した。あの聖遺物には未だ私達の知らない何かが隠されている…けれど、装者は見付けられなかった……。」

 

 

 

 

「……カギを握り、そしてそれを知る存在を消してしまったからか。」

 

 

 

 

「結弦博士は実験レポートにも記載しなかった。自分の娘…長女である颯に素質が有った事をね。両親の死後、彼等が結衣を引き取ると名乗り出たのは彼女にレーヴァテインを与えて適合者とする為。しかしそれも叶わなかった。」

 

 

 

「…待ってくれ。何故、キミがそこまで彼女達の事を知っている?」

 

 

 

弦十郎が思わず話を遮った。

それもそうだ。本来なら颯と結衣の関係は本人達か或いは関係者しか知らない筈だ。なのに何故彼女が知っているのか?

純粋で素朴な疑問だった。

 

 

 

「…幾ら研究者とは言え、巻き込んでしまったという事実は変わりはない。だから私は出来る限り調べて回った。レーヴァテインは或る意味…あの姉妹の仲を引き裂いている事に変わりは無い。アレは呪われた剣という事も含めて…。結衣が絶唱による肉体へのダメージを負った際の負荷の半減と…颯に与えたのは自分以外の誰かの温もりと優しさ。全て私が施した事。」

 

 

 

フィーネは1口だけ酒を飲むとグラスを置いた。全てはあの日、レーヴァテインを見つけた時から始まった事。

纏井機関と奏宮博士夫妻の対立とその行く末。そして引き裂かれた姉妹ともう1人の被検体の存在、それをこの場で告げた。

 

 

 

「…そうだったのか。」

 

 

 

 

「そしてレーヴァテインは8つ目の音階を司る存在。7つの星…7つの音階。本来ならシンフォギアは合わせて7つしか存在しない。けれど、レーヴァテインは8つ目…それ等を奏でた時に何が起こるかは予測出来ない。話は済んだわ…後は自分達の手で調べる事ね。」

 

 

立ち上がると出て行こうとする。

だが、それを弦十郎が引き止めた。

 

 

「…何処へ行くんだ?我々と共に彼女達の行く末を!」

 

 

 

「見守るのは貴方の役目であり私では無い。それがどう転ぶかも貴方が見守る事ね……いきなり私が出て来たら驚くでしょう?特にあの子が…ね。楽しかったわ、またいつか……。」

 

 

手をそっと解くとカウンターへ2人分の現金を置いて去ってしまった。

弦十郎もまた複雑な心境だった。

嘗て自分の仲間であった櫻井了子、フィーネが一連の流れに関わっていた事も含めて。彼もまたグラスに注がれた酒を飲み干すと店から出て行った。

 

事件の本当の黒幕は未だ生きていると悟って。

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