戦姫絶唱シンフォギアRV   作:秋乃楓

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15過去と死を司る

あの日、私はアイツに敗れた。

アイツの持つシンフォギアは確かにその力を私へと発揮した。ファウストローブ・フェンリルを持ってしても敵わなかったのだ。だが次はそうは行かない。

私の私自身の計画の為に再びこの世へ舞戻ろう。

 

テロリスト集団、イノベイターのリーダーであるシャーロット。

彼女は世界を変革する為にこの時代へと連れて来られた申し子。

 

 

「…あれ位で終わったと思わない事ね。ハヤテ……!」

 

 

1人の少女はとある場所にある場所で目覚めた。その身体には服を一切身に付けていない。彼女はあの日、海中で死んだ。しかし死んだのは彼女の肉体、魂と記憶だけは残っている。もし肉体が滅んだとしてもまた構築し直せば良い。

それだけの事だ。

シャーロットは片手には指を握り締めていた。計画再開の為、彼女は再び歩き出すのだった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

颯は朝からある場所を訪れていた。

それは結衣の実家とも言える場所。

あの纏井家だった。一応、万が一の為に備えて翼と響の2人も来ていた。

 

 

「ひゃーッ…大きな家!凄いなぁ、結衣ちゃんの家。」

 

 

 

「うむ…私の実家と似た大きさだな。そういえば奏宮、妹はどうしたんだ?」

 

 

 

「結衣ならもうこの中に居ます、何でも来て欲しいって頼んだのは向こうですから。こんにちはーッ、奏宮ですッ!」

 

 

颯が扉へ声を掛けるとゆっくり開いた。

そこに居たのは可愛らしい私服に身を包んだ結衣。響と翼を見ると小さく頭を下げた。

 

 

「いらっしゃい、お姉ちゃん…それにお2人も。」

 

 

 

 

「…大丈夫?顔色悪そうだけど。」

 

 

 

 

「ううん、平気。さ…どうぞ?」

 

 

 

結衣に招き入れられると3人は門を潜り建物の前へ。引き戸を開くと玄関でそれぞれが靴を脱ぎ、結衣に案内されると彼女の部屋代わりの和室へと通された。女の子らしい部屋というよりは何処と無く質素に感じられる。

有るのは勉強机と参考書、それから綺麗に畳まれた布団。机の上には丸型の時計とクマのぬいぐるみが置かれていた。

 

 

 

「流行りの物は有りませんが…ゆっくりして下さい。私、飲み物取ってきます。」

 

 

結衣は3人を部屋へ通してから自分だけは廊下へ出て台所へと向かって行った。

翼、響、颯はそれぞれ畳へ腰掛け、翼だけは彼女に声を掛けてから結衣を見送った。

 

 

「…ああ、お構い無く。」

 

 

 

 

「落ち着いた部屋…何か静かだね?」

 

 

 

 

「確かに、車の走る音も聞こえて来ないし……。」

 

 

 

颯と響はそんな事を話しながら辺りを見ていた。ふと翼はゴミ箱が気になった。軽く覗くとそこには赤い液体の付着した包帯が有った。

 

 

「血……?怪我でもしているのだろうか?」

 

 

少しすると結衣が戻って来る。人数分のコップとペットボトルのジュースを持って。それを真ん中へ置くと彼女も腰掛けた。

 

 

「すいません…こんなのしか無くて。」

 

 

 

 

「気にしなくて大丈夫!結衣ちゃん、それより話って?」

 

 

響は4人分のコップへそれぞれ飲み物を注ぐと渡していき、結衣へ話し掛けた。

 

 

「……実はうちの事で相談が有って。私、この家を出ようと思うんです。」

 

 

 

「家を出る?…つまり、奏宮と暮らすという事か?」

 

 

 

「未だそう決めた訳では…。怖いんです、あの時からお義父様が。」

 

 

結衣は拳を握りながら話し始めた。

 

 

 

「……お姉ちゃんに助けられてから私は退院し、此処に帰りました。そうしたら負けた者は纏井家の敷居を跨ぐなと怒鳴られて。」

 

 

 

「怒鳴られた?随分と厳しいのだな、キミのお義父様は。」

 

 

 

「前はあんな風に言う人では有りませんでした…けど、少しずつエスカレートして来て……。」

 

翼も彼女の話に耳を傾けている。颯はその間、少し考え事をしていた。

前に弦十郎から聞いた事以外にも何かありそうな気がする。直感がそう告げているのだ。

 

 

「…それと、私はシンフォギアの正規適合者じゃ有りません。言ってしまえば時限式で装備する形であのイチイバルを纏っています。纏井家が生み出した専用薬液である特殊なLiNKERを使って。 」

 

 

 

「…キミの家がLiNKERを?」

 

 

 

 

「Ex_LiNKER、通称EXTEND。それが私が使っている物の名前です。」

 

 

 

結衣は赤い液体の入った注射器を戸棚から取り出すとそれを3人へ見せた。

翼と響、颯はじっとそれを見ている。

 

 

「…これがそうなのか?」

 

 

 

「はい。接種する事でギアとの融合係数を本来のLiNKERよりも飛躍的に上昇させる事で性能を大きく引き出す事が出来る…その代わりに肉体に関わる負荷が大きいです。」

 

 

 

「…例えばどうなるの?」

 

 

 

颯は率直に聞いてみる。

結衣は小さく頷くと話し出した。

 

 

「副作用として強い倦怠感…頭痛や吐き気、それから……。」

 

 

 

「強い依存性…それと出血。従来のLiNKERにも同じ副作用が有る。融合係数を跳ね上げれば跳ね上げる程、それに乗じて身体への負担も強くなるんだ。…私も嘗て居た友が同じ経験をしていた事を知っている。つまりExはそれを上回る……そうだな?」

 

 

翼は結衣の話を少し遮ると彼女を真っ直ぐ見つめていた。それに対して結衣は目を逸らしながら頷いた。響は翼の方を見ると首を傾げていた。

 

 

「翼さん、何で知ってるんですか?」

 

 

 

「…奏がそうだった。彼女も時限式だがシンフォギアの装者だったから。私も過去に見た事が有る……苦しみながらそれでもギアを纏おうとする彼女の姿を。」

 

 

 

 

「翼さんの仰る通りです。…私も同じ症状は既に経験しています。体内洗浄を行なう事で以前より多少はマシになりましたが…それでも鼻血が出たり、酷い時は吐血する事も有ります。」

 

 

彼女の手は何処か震えている様にも見える。あの日から結衣の人生は大きく変わってしまった事を物語っていた。

震えている彼女の手を颯は優しく握り締めた。

 

 

「…大丈夫、これからは私が傍に居るから。ね?」

 

 

 

「……うん。ありがとうお姉ちゃん。」

 

 

お互いに頷くと颯は少し経ってからトイレに行くと言い残して1人部屋を出た。結衣に言われた通り、長い廊下を歩いて向かう。すると1人の男性と擦れ違った。ブツブツと書類片手に歩いている。1枚の紙を床へ落としてしまい、それを颯が拾うと彼へ声を掛けて手渡した。

 

 

「あの、落としましたよ?」

 

 

 

「……ん?ああ、ありがとう。ところでキミは結衣に似ているが…誰だ?」

 

 

 

「私は奏宮颯と言います。」

 

 

 

「颯…?ああ…結弦の娘か。僕は総一郎…結衣の父親だよ。」

 

 

男性は間が空いてから颯へ話した。

この男が結衣の義父かと思うと颯は少し腹が立っていた。颯の目付きを察したのか総一郎は再び話し始める。

 

 

 

「…悪いがキミがどう思おうが結衣は僕の家族だ。無論、キミさえ良ければ引き取ってあげるよ。確か身寄りが無いんだろう?結弦も詩音さんも亡くなって、2人の親戚中をたらい回しにされた事も知っている。結衣もキミが居れば喜んでくれるよ。」

 

 

 

「…お気遣いは有難いですが、私は大丈夫です。」

 

 

 

颯は総一郎からの誘いを断った。

それには憐れむ様な目で自分を見て欲しくないという思いが有った。

何人もその目で自分や結衣を見て来た事を痛い程、解っているから。

 

 

「そうかい…その頑固さは結弦から受け継いだみたいだな。キミのご両親は本当に頑固だったよ…1度決めた事は中々曲げなかったからね。きっと、他の聖遺物研究者達も手を焼いただろうな…。」

 

 

 

「…止めて貰えますか?父さんと母さんを悪く言うのは。」

 

 

 

彼の方を颯は睨み付けた。

彼女は他人事の様に両親の事を傷付ける総一郎が許せなかった。

一部の話は颯も知っている為、総一郎もまた関係者である事に間違いは無いからだ。

 

 

「悪かったよ…それじゃ、僕は未だ用事があるからこれで失礼する。ごゆっくり……。」

 

 

 

「ッ…!」

 

 

颯が廊下に立ったまま総一郎の背中を見送っていると心配した翼が彼女へ声を掛けて来た。

 

 

「奏宮…大丈夫か?…広い屋敷だ、てっきり迷子になったと思って心配して来たんだが。」

 

 

 

「…ご心配をお掛けしました。直ぐに戻りますから大丈夫ですよ。」

 

 

 

「…解った、待ってるぞ。」

 

 

翼は颯と別れ、再び部屋へと戻る為に廊下を歩いていた。先程から感じる微かな違和感を感じながら。

颯もその後再び部屋へと戻って来た。

 

 

「戻りました。」

 

 

 

「あ、お帰り、颯ちゃん。居ない間にちょっと結衣ちゃんとお話してたんだ。」

 

 

部屋へ戻ると響が声を掛けて来た。

ニコニコと結衣は頷いている。どうやら響と打ち解けたらしい。

颯は安堵すると自分も気が楽になった。

 

 

「お姉ちゃん、面白いね。立花さんって人…何か色々凄いって思う。」

 

 

 

「常に食堂のランチは大盛り、オマケにご飯食べてご飯食べる位のご飯好き……だからね。変わってるよ。」

 

 

 

「えー?そんなに変わってるかなぁ…私?」

 

 

 

「ああ、立花は充分変わっていると思うぞ?」

 

 

 

「翼さんまで!?むぅ、酷いなぁ…。」

 

 

 

4人で仲良く話を続けていると

翼は何かを感じたのか辺りを見回す。

そして外へ飛び出して行った。

颯達も続いて翼の後を追い掛けて行く。

 

 

「いきなりどうしちゃったんですか、翼さんッ!?」

 

 

 

「殺気だ…殺気を感じる。奏宮、立花、お前達も警戒を!」

 

 

 

「……殺気なんて解る訳無いッ!?」

 

 

 

颯が喋ろうとした途端、何かが颯の身体を縛り付けた。それは黒い縄の様な物だった。

 

 

「奏宮ッ!?出て来い…誰だッ!!」

 

 

 

「……クスクス。」

 

 

 

「お前は…あの時のッ!?」

 

 

 

そこに居たのは嘗て翼が倒した筈のオートスコアラー、ファラ・スユーフ。だが彼女と似ているだけでそれ以外は異なっている。彼女の手には剣が握られていた。

 

 

「…剣を見つけた。剣は我が主のモノ。」

 

 

 

 

「ッ…!立花、奏宮を頼む。私は奴との決着をッッ!!」

 

 

2人の前へ翼が出ると縛られた颯を響が支えながら廊下を進む。

だが、それを阻止せんと2人の前にまた別の何かが立ちはだかる。それは見た事の無い姿をし、黒いドレスに長い金髪をしていた。水色の瞳が2人を見つめている。

 

 

「楽しんで頂けておりますか?我が主が用意した復讐という名前のパーティは…!」

 

 

 

「復讐?…どういう事ッ!?」

 

 

 

「…倒された者達の怨念。それを形に変え具現化し意のままに操り、目的の為に利用する……それが私の役目ですの。」

 

 

 

少女はニィッと笑うと指先をパチンッと鳴らした。すると2人へ目掛けて棘の付いた鞭が放たれる。響は颯と共にそれを避ける。顔を上げた時に居たのはネフシュタンの鎧を纏ったクリスだった。

 

 

「クリスちゃんッ!?どうしてッ…!!?」

 

 

 

「貴女の記憶の一部からお借りしました…貴女にはコレが1番効果的かと思ったので。」

 

 

 

 

「人の記憶を…過去を…勝手にッ!」

 

 

 

 

「さぁ…お行きなさい、記憶の残滓達ッ!!」

 

 

ネフシュタンを纏ったクリスは響へと無言で襲い掛かると2人は部屋の戸を突き破って外へと向かった。

ゆっくりと少女は残された颯を見つめると近寄って来る。

 

 

「貴女だけは傷付けるなと…主様からの命令です。紅き剣の持ち主…。」

 

 

 

「ふざけないでッ!!私に近付いたらタダじゃおかないッ!!」

 

 

 

「威勢の良い事ですね…ですが貴女の力とあの人達の力が計画の全てなのです。シンフォギア…何と素晴らしい力なのでしょう!! 私も興味が有ります…!」

 

 

少女は歓喜の声を上げると颯の前へ座り込み、彼女のギアペンダントへ触れる。

そして何かを呟いた。

 

 

「えッ…?ぐあぁあッッーー!!?」

 

 

その瞬間、目を見開くと颯の右胸の下辺りに激痛が走った。まるで傷口を焼かれる様な鋭い痛み。息をしようにも中々息が出来ない。暫くその痛みが続くが途端に痛みが収まる。颯は大粒の汗を流しながら虚ろな目で少女を見ていた。

 

 

「手を出すなと言われましたが……少し遊ばせて下さいね?ルーン魔術を貴女の身体へ組み込みましたので…さぁ、これで調整は整った。目覚めよ…Saver all-revantin-tron。」

 

 

「な、何が起きてッッーー!!?」

 

 

 

少女が勝手にギアの詠唱をすると颯へ黒い装甲が纏わりついた。そして黒い塊へと変貌すると姿を現したのは暴走状態の颯。拘束を解き放つと獣の様な唸り声を上げて見回していた。翼はファラを振り払うと颯の方へと振り向く。

 

 

「どうした…奏宮ッ!?」

 

 

 

「ウゥッッ!!」

 

 

紅い目が翼を見据えると彼女へ飛び掛り、鋭い蹴りを喰らわせる。吹き飛んだ翼は壁へ激突し外へ放り出されてしまう。倒れた先で身体を起こした翼は刀を拾い、颯を見ていた。

 

 

「奏宮ッッ…!?その姿は…ッ!?」

 

 

 

「フゥッ…ウゥッッ……ガァアアアッッーー!!!」

 

 

 

「呪いの旋律。彼女の詠唱を私が利用した迄の事……申し遅れました。我が名はヘル。死を司るオートスコアラー、ヘル…!」

 

 

少女が微笑むと同時に暴走状態の颯は大きく咆哮し翼へと再び襲い掛かった。

響もギアを纏い、クリスと戦闘状態へと突入して行った。

 

 

「全ては我が主の為……ふふッ、あはははッッ!!!」

 

 

 

新たなオートスコアラー、ヘルは惨状を見て高笑をするのだった。

未だ戦いは終わる気配が無い。

止まったかと思われた世界の終末へのカウントダウンは再びその時を刻み始めた。

 

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