昨日の事件から翌日。昨日、帰ってから颯は散々な目にあった。
先ずはバイト先から帰って来る筈の時間を越していた事への疑問、そしてケガをしていた事から喧嘩したのでは?とか色々と責任者の裕香に問い詰められた。心配してくれているのは解るのだが、颯には長過ぎて後半は余り覚えていない。
そして颯は朝からテレビに齧り付いていた。チャンネルをカチカチと何度も変えてニュースを見る。だが昨日の事は何処にもニュースになっていない。
間違い無く、自分はノイズと戦った。しかし何処にもそれは証明する物は無かった。
「嘘...じゃあアレは夢?それにしてもリアル過ぎる様な...。」
夢にしては現実味を帯過ぎている。
あの時ケガをした箇所も同じだし、何ならペンダントを握って叫んだ事も覚えている。
「お姉ちゃん、手...大丈夫?」
真衣が隣へ腰掛けると颯の右手の事を気遣って来た。じっと心配そうな顔で颯を見ている。
「大丈夫...ありがと。右手使えなくても左手が有るし。コーヒーは自分で入れるから真衣は先に座ってなよ。」
微笑むと左手で彼女の頭を撫でてやる。
真衣はコクリと頷くと普段、食事を取る部屋へ向かって行った。この日は日曜日で出掛ける組はもう朝食を取っている。
颯位の歳になれば自由に外へ出られる。但し、門限付きだが
「さぁて...出掛けますか......っと。」
颯はソファから立ち上がると自分の部屋へ。そして部屋へ入ると私服へ着替えた。今時の子が着る様な服装というより全体的に地味っぽい。本人が明るい物や派手っぽい物は余り好みでは無いので仕方無い。フード付きで黒の無地のパーカーに下はジーンズ。後は普段履いているスニーカーで終わり。
バイト代で買ったリュックサックを背負うと部屋を後にした。
「あ、颯ちゃん!ちょっと待って。お客さん!」
階段を降りた所で裕香に呼び止められた。応接間を見ると赤い半袖シャツにグレーのズボン。そして桃色のネクタイをしたガタイの良い男の人。そしてその横には白衣を着た金髪の女の子が1人座っていた。
「...あの人達、誰?」
「颯ちゃんに会いに来たって...ほら。」
そのまま促されると颯は室内へ入る。どう見ても警察では無いのは解るが、何処か不安だった。そして2人の近くへ来ると向こうも立ち上がった。
「あ...えっと、奏宮颯と言います。宜しくお願いします。」
颯は取り敢えず自分から挨拶した。
その後にガタイの良い男の人が挨拶する、
「初めまして、奏宮颯君。俺は風鳴弦十郎、役職はS.O.N.Gの司令塔だ、宜しく頼むよ。」
そして隣の子も挨拶して来る。
「ボクは同じくS.O.N.Gに所属するエルフナインと言います。共に技術的な面でサポートする役割を担っています。」
ペコリと小さく会釈され、3人は来客用ソファへ腰掛けた。邪魔にならない様に裕香は席を外し、外に出た。
「...それで、私に何か様ですか?それにS.O.N.Gって...何です?」
「先ずは順を追って話をしようか。S.O.N.GというのはSqaud-of-Nexus-Guardiansの頭文字を取った物。日本語に直せば国連直轄の超常災害対策機動部タスクフォース。俺達はそこに所属している」
弦十郎はスラスラと難しい言葉を話して簡潔に颯へ説明する。そして此処へ来た目的も直ぐに明らかになる。
「...単刀直入に言おう。奏宮颯君、我々と共に来て貰えないだろうか?そして共に戦って欲しい...新たな装者として。」
「戦うって...世間でノイズって呼ばれてる奴らとですか?私にはそんな事無理ですよ...できっこない。」
「そのペンダントを持っていても...か?」
じっと弦十郎は颯を見つめる。
そして更に話を続けた。
「キミが持っているペンダントはシンフォギアと呼ばれる物。単なるお守りでは無い...それにキミも昨夜、纏ったのだろう?その力を。」
「アレは...ただ単に偶然が重なっただけです...。誰かを助けたいって思ったらいつの間にかあんな事に......。」
「成程、大体の事情は解った。此処からはエルフナイン君に説明して貰おう...シンフォギアに関する事は彼女の方が詳しいからな。」
弦十郎はエルフナインへ説明を委ねる。
そして小さく頷いたエルフナインは颯の方を見ると説明を始めた。
「えっと、先ずはシンフォギアの説明から。シンフォギアは櫻井理論に基づいて聖遺物の欠片から生み出された物で、FG式回天特機装束の名称です。そして颯さんはシンフォギアを扱う存在...ボク達は貴女達の様な方を装者と呼称しています。」
「そんなに凄いんですか?その...シンフォギアっていうのは。」
「勿論!シンフォギアシステムには総数301.655.722種類のロックが施されていて、颯さんの技量やバトルスタイルに合わせて解除されいていく仕組みです!なので全ては颯さん次第という事になりますね。」
淡々とシンフォギアに関する説明を終え、今度は別の話へ。
「颯さんのペンダントに埋め込まれている聖遺物の欠片...それはレーヴァテイン、北欧神話に登場する武器です。まぁ...形には諸説ありますが、杖だったり、剣だったり......。」
「レーヴァ...テイン......。」
颯の頭の中で様々な事が過ぎる。
あの時、自分が呼び出したのは剣。
その後は無我夢中で戦った。自分が連れていた女の子を何としても護りたかったから。
「SG-r07レーヴァテイン。位置付けとしてはこうなりますね...ボクからの説明はこれくらいになります。後は司令に......。」
話が終わると再び弦十郎の方へ。
そして今度はパンフレットを出して来た。
「リディアン音楽院。名前だけは聞いた事有ると思うのだが・・・キミには此処へ転入して貰いたい。小中高一貫性、そして今の時期では中等科から高等科の切り替え時に外部生徒の編入を行っている。悪くは無いと思うが...どうだろうか?」
そっとパンフレットを開くと記載項目の一部を颯へ見せた。隣には可愛らしいチェック柄の制服を着た少女が写っている。
「...お言葉を返す様ですが、私は親の居ない孤児です。あまり施設へ金銭面での負担を掛けたくありません。ましてや私の我儘でこんな事に成る位なら、いっそお返しします。私には過ぎた物ですから。」
そっとペンダントを外すとテーブルへ置いた。蛍光灯の光が当たると一瞬光った。
「む...そうか。ところでキミは自分の本当の気持ちを押し殺して無理をしていないか?施設の最年長だから、ましてや自分が何とかしないと...という思いや考えは確かにキミにとっては大切かもしれない。だが、キミは未だ若い。子供が大人の顔色を伺って断ったり遠慮したりしなくても良いんだ。転入の事は裕香さんに既に話してある...だから学費の事も、施設の事も心配する必要は無い。後はキミ自身が決める事だ。」
真っ直ぐで純粋な目。それは颯の心情を的確に見抜いていた
いつからかは解らないが、颯は誰かに甘える事を避けて来た。それがどんな些細な事であろうと。物を買って貰ったり、何かをしてもらったりと他にも色々。
自分は歳上だからと決め付けて避けて来たのだ。
「...解りました。検討させて下さい。 」
「良い返事を期待している。それじゃあ、決まったら此処へ連絡を。行こうか、エルフナイン君」
弦十郎は名刺を手渡す。2人は立ち上がると颯へ頭を下げ、立ち去って行った。
颯は2人を見送るとテーブルにはパンフレットとペンダントだけが置かれていた。
「転入...か。」
話が一通り終わり、颯は面倒事に巻き込まれてしまった様な気分を感じていた。先ず1つ目は進路の事、そして2つ目は施設を離れる事。特に気掛かりなのは1つ目。自分が本来目指していた高校では無く、リディアンへの転入になる事と音楽は聞く位しか技能が無いことだった。
「たかがペンダントがシンフォギアって名前で・・・送り主の2人は死んでるから何で送って来たのかも不明。はぁ...。」
部屋を後にすると廊下の直ぐ横に裕香が居た。何処か嬉しそうな顔をして此方を見ていた。
「......あの人から話は全て聞いてる。学費は向こうが負担してくれるし、良いんじゃない?行ってみても。」
「でも...。」
「大丈夫、此処の事は心配しなくても。私は颯ちゃんがやりたいと思う事を最優先したいの...それに、此処にも何人か専門のスタッフを寄越してくれるって。だから前より楽になる。だから安心して行ってらっしゃい。」
優しく微笑むと裕香は颯の手を握った。
颯は少し考えながらも小さく頷いた。
裕香は亡くなった母の後輩、そして親友同士だったらしい。だから尚のこと颯の事が気になるのかもしれない
「解った・・・でも、もう少しだけ考えても良い?自分で納得いく理由を考えてからにしたいの。」
「ええ、勿論。それと気を付けて行ってらっしゃい。」
裕香は頷くと、颯が出掛けて行く姿を見送っていた。そして颯は施設の玄関を出て1人で路地を歩いて行く。お気に入りの曲を聞きながら1人で。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ー市街地ー
周囲は人で賑わっていた。休日なのだから当然と言えば当然。颯は街中を1人で歩いて行く。すれ違う人々は皆、それぞれの日常を過ごしているのが解る。
家族連れやカップル、友達同士、老夫婦やら年齢は様々。多くの人間が居れば居る程、その人達にも暮らしや日常が存在する。
だがノイズという異形の存在が出現した事により日常も大きく変わってしまった。常に認定特異災害と隣り合わせの生活も少しずつ終息に向かっているらしいが、油断は出来ない。歩いている最中、1人の女性とすれ違った。長い金髪、そして黄色の瞳。まるで絵に書いたような外国の人だった。
そしてすれ違う際に耳元で何かを囁かれた。
「...貴女、装者でしょう?それも未だなったばかり。ふふ...会えるのを楽しみにしているわ。」
はっと我に返り、振り向くが既に姿は無かった。何だったのだろう?それに弦十郎やエルフナイン以外には話していない。ペンダントは付けているが服の中だ、見える訳が無い。
「何で...知ってるの...ッ!?」
颯はイヤホンを外し、辺りを見回した
気の所為なのか或いはそうでは無いのか。疑心暗鬼になりながら颯は再び歩みを進めるのだった。
そして暫く歩いた所で再び立ち止まる。街から少し離れた所にある小さな広場。そこにある塔へ階段を使って登ると街中を見下ろす事が出来る。颯が迷ったり悩んだりした時は此処を訪れる。
「装者になった事...新しい学校へ転入になりそうな事...そして施設から離れる事...昨日と今日で全部起きた。私はどうなっちゃうんだろう......。」
颯は街の方をずっと眺めながら1人呟いた。日が沈み、夕日が颯を明るく照らしている。
「新しい学校に行けば、私のやりたい事...見つかるかなぁ?もし、2人が生きてたら私に何か言ってくれたのかな...。羨ましく思うよ、同い歳の子達が。普通に遊んで、勉強して、ふざけあって...部活したり放課後遊んだりしててさ...。」
フェンスへ前のめりに寄り掛かると溜め息をついた。首から掛けているギアペンダントを取り出し、夕日へ翳してみる。それは赤い色を纏ってキラキラと輝いていた。
「...うだうだ迷っててもしょうが無いよね。私、見付けてみせるから・・・自分のやりたい事も将来の夢も。だから向こうで見守っててね...母さん、父さん。」
颯は深呼吸し、覚悟を決めたのかじっと空を見つめていた。そして決意を新たにすると広場を後にして施設へ戻って行った。その足取りは何処か軽い様にも見えた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
そして施設へ戻ると颯は早速、裕香に話をする為に職員室へ。そして2人で応接間へ入るとテーブルを挟み、向かい合う形で座りながら話を始めた。
話し始めてから約15分程経った時、颯は立ち上がると自分の携帯を取り出す。そして電話を始めた。
「あ...もしもし、風鳴さんですか?私です。奏宮颯です...夜分遅くにすみません。その、今朝話してた転入の件ですが...受けようと思います。これは裕香さんの意思じゃなくて...自分個人の意思です。はい、宜しくお願いします...では。お休みなさい。」
通話を終え、再びソファへ座る。
そして颯は再び話をはじめた。
「了解してくれたよ。明日の午後には此処を出る...それから迎えの車に乗って学校で合流して欲しいってさ。」
「そう、解った。でも寂しくなるわね...あの子達、特に真衣ちゃんは颯ちゃんの事ずっと慕ってたから...。」
颯が此処へ来てから今から数年前。
初めて此処へ来たのが真衣だった。月村真衣、それが彼女の本当の名前。
当初は警戒心が強く、あまり誰かと遊んだり話したりはしなかったが颯だけには何故か心を開いていた。それから今日に至るまでテレビを見る時もお風呂へ入る時も常に一緒だった。
「...うん。今日は真衣と一緒に居るよ、これで最後だし...良いよね?裕香さん。」
裕香へ問い掛けると彼女はコクリと頷いた。別れるのは辛いが、此処に居る子達もいつかは出て行かなければならない
それだけは紛れも無い事実。
「それじゃあ...明日迄に部屋の荷物を纏めてね。それと忘れ物の無い様に。」
裕香は颯へ声を掛ける。そして颯は部屋を後にした。
それから颯はリビングでテレビを見ていた真衣へ声を掛け、共に入浴を済ませる。そして颯は自室へ初めて真衣を入れた。
「ずっと入ってみたいって言ってたでしょ?私の部屋。良いよ、好きなだけ居ても...。」
「わぁ...凄い!ポスターがたっくさん!」
颯は真衣と共に自分の部屋のベットへ腰掛けて喋っていた。何気ない事から学校の事も。昔よりも彼女は明るくなっていた。そして話し続けていると真衣は眠そうに目を擦り始める。
「おっと...そろそろ寝ようか?もう消灯時間だし...私も一緒に寝てあげるからさ。」
真衣を寝かせ、自分も横になる。颯は真衣へ寄り添いながら眠りに付いた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ー翌朝ー
颯は早めに起床し、部屋の荷物全てを纏め終えた。貼られていたツヴァイウィングのポスターや風鳴翼の写真も全て段ボールへ片付けてしまった。
部屋に在るのは二段ベットのみ。
忘れ物の有無を確認すると颯は自分の部屋を後にする。
「さぁて...と、行きますか。」
部屋を出て階段を下りる。そして玄関で靴を履き替えると彼女は外へ出た。他の子は学校に行っている為、居るのは颯のみだった。
「...気を付けてね。あと何か有ったら連絡して?相談に乗るから。」
「うん。今までありがとう、裕香さん...私の部屋は真衣に譲ってあげて?二段ベット欲しがってたし。じゃあ...また、会う日まで。さようなら...!」
颯は頭を下げ、迎えに来ていた車へ乗り込む。裕香へ軽く手を振ると向こうも振り返してくる。そして車は走り出した。
「...さようなら、私の家。もう帰る事も無いだろうけど...今まで楽しかったよ。ありがとう。」
そう呟くと車は目的地のリディアン音楽院へ向けて走って行く。遠ざかる見慣れた景色を少し寂しそうに思いながら。
奏宮颯16歳、彼女は新たな生活への1歩を踏み出したのだった。転入生として・・・そしてシンフォギア装者として。