戦姫絶唱シンフォギアRV   作:秋乃楓

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05決められた運命(さだめ)

あの後、雨が降り出していた。

都心部としては珍しい大雨で行き交う誰もが傘を持って歩いている。

時刻は既に午後19:00を過ぎ、サラリーマンや学生達が帰路へ着き始めていた。

 

そんな中、1人で傘をさす事もせず颯は歩いていた。すれ違う人々をすり抜ける様にしながら。紅い髪からは雨の雫が滴り、制服もスカートまで濡れてしまっている。それでも彼女は歩き続けていた。

このまま歩き続けても仕方のない事は自分でも良く解っている。だが足を止める事は出来ない。

 

自分は何かから逃げている気がする。

それが何なのかは解らない。

ふと人混みを抜けた先の通りで立ち止まった。そこはノイズによる災害で建物が壊され、まだ規制線が貼られている場所。無論この辺は人気は少ない。

 

 

「…っと、行き止まりか。」

 

 

颯は立ち止まると規制線の奥を見ていた。店らしき建物はガラスが割れ、扉がひしゃげている。近くの建物もボロボロに壊されてしまっていた。

当然、道路標識も有り得ない角度に曲がってしまっている。街というよりは廃墟と言った方が分かり易いだろう。

 

「……私は何から逃げてるんだろう。逃げても行く先なんて無いのに。」

 

ふと視線を別の方へ移す。誰かが添えたのか花束が置かれていた。本部の資料でも読んだ通り、ノイズに触れた人間は普通の死に方では無い。炭化して消えてしまうのだ。だから葬式も上げられないし、遺体も残らない。特異災害の犠牲者は皆、そうだった。

 

 

「…貴女、そんな格好で居たら風邪引くわよ? ほら。」

 

 

後ろから声を掛けられ、傘をすっと頭上へ掲げられる。振り向くとそこに居たのは金髪の女性。サングラスをして茶色のロングコートを羽織っていた。

 

 

「…ありがとうございます。」

 

 

 

「その格好…成程、あの子と同じか。あの子も同じ制服着てた……。」

 

 

 

「あの子?」

 

 

「…話は歩きながらでも出来るわ。ちょっと付き合って貰える? 」

 

 

颯は女性と共に歩き出した。しかも女性は辺りを確認すると規制線を超えてしまう。颯もそれに続いて罪悪感を感じながらついて行った。

 

「規制線、超えて大丈夫なんですか?」

 

 

 

「平気よ?此処には誰も来ないもの。 」

 

 

 

「だからって行くんだ…。」

 

 

 

「真面目なのね貴女…。見た目とは大違い。」

 

 

女性と颯は廃墟に近い街を見ながら歩いて行く。暫く歩いてから少し大きめの建物の中へと入った。中は誰も使っていないピアノや表面の破れたソファ、砕け散った瓶が散乱していた。

 

「…此処、何なんです?」

 

 

 

「……私の行き付けだったバー。いつも仕事終わりに此処に来て、飲んで帰ってたの。けど特異災害で全てが台無しになった。此処のオーナーもいつの間にか店を閉めてしまった……。」

 

 

女性は奥へ進むとピアノへ触れた。本体にはホコリが積もっており、鍵盤もボロボロ。勿論、指で押しても音は鳴らない。

 

 

「貴女は…その、何者なんですか?どう見ても普通の人には見えないですけど……?」

 

 

 

「…聖遺物の研究者。無論、シンフォギアにも関わった事も有るわ。」

 

 

女性はピアノを指先でなぞりながら呟いた。そして颯の方を向かずに近くの椅子へと腰掛けた。

 

「聖遺物の研究者…!? じゃあ、私の両親の事も知ってますか!? 奏宮(かなみ)って言うんですけど……!」

 

 

「奏宮?…ああ、あの人の事ね。変わった人だったわ…研究熱心で昼夜問わず机に向かっていたもの。」

 

 

女性はピアノを見ながら答える。

どうやら両親の事を知っている様にも見えた。そして颯の方を向くとゆっくり語り始めた。

 

 

「……あの日、奏宮博士は喜びと期待に胸躍らせていたのを今でも覚えてる。現行のシンフォギアと同じかそれ以上の戦力になるかもしれないモノを開発したって。」

 

 

 

「シンフォギアを上回るモノ?」

 

 

 

 

「私の口から言えるのはそれだけ…貴女こそ、何者なの? やけに奏宮博士に拘ってるみたいだけど?」

 

 

女性は颯を見ながら首を傾げる。

突然、颯がこんな事を言い始めれば疑問に感じるのは無理は無い。

 

 

「奏宮博士…奏宮結弦は私の父。私は奏宮 颯……娘です。」

 

 

じっと女性の方を向きながら颯は呟いた。もう長い事、父親の名前を颯は口にした事は無い。最後に言ったのは孤児院へ来た時に詳細を伝えた時だろう。

 

 

「貴女が博士の娘さんか。何処と無くだけど雰囲気は似てるわね……。それで、何が知りたいの?」

 

 

 

「…両親は本当に事故で死んだんですか?」

 

 

 

「さぁね…その事に関しては残念だけど話せないの。秘匿義務で例え貴女が娘だとしてもそれを話す事は研究者達でもタブーとされているの……ごめんなさい。」

 

 

女性は立ち上がると颯へ近寄る。

そして彼女をソファへ座る様に促して来た。颯と女性は向かい合う形でソファへと腰掛けた。

 

「それもそうだけど…貴女は何故あんな所に?」

 

 

 

「……私の事はどうでも良いでしょう?」

 

 

 

「どうでも良い…か。その顔、何か悩んでるんでしょう? 博士と同じで顔に出易いのね、貴女も。」

 

 

女性は少し微笑むと颯が悩んでいる事を見抜いてみせた。そして更に話を続ける。

 

「……さしずめ、人間関係でどうすれば良いか解らない。素の自分を他人へ出すのが怖くてそれ以上の関係を保てる自信が自分には無いって所かしら?」

 

 

 

「何でもお見通し……って事ですか?」

 

 

 

「さぁ? どうかしらね……。それで、どうなの? って、聞くまでも無いか…顔に図星って出てるもの。」

 

 

女性はピッと颯を指さした。言い当てられた颯は右手で左の二の腕を少し掴んでいた。偶にだが無意識に出る癖。人に何か言われたりする時に咄嗟に出てしまう。

 

 

「…私は親が亡くなってからずっと施設で育って来ました。でも、施設を出てからは他の人と関わるのが怖くて……。」

 

 

 

「ふぅん…? それで関わるのを極力避けてきた……と。環境も大きく変わったから余計に怖くなった……そういう事ね?」

 

 

颯は小さく頷いた。この人の前では何を話したとしても嘘は付けない。思っている事や自分の考え、感情を何故か素直に吐き出してしまう。そんな気がした。

 

 

「…大丈夫よ、直に慣れるわ。貴女は外の世界を余り知らないだけ……。迷ったり、悩んだ時は自分の声に耳を傾けなさい? そうすれば…答えは見えて来るわ。」

 

 

すると女性はいつの間にか颯の横へ来ていた。そして彼女をそっと抱き締めた。

手品でも使ったのだろうか?そして颯の背中をゆっくり片手で摩りながら語り掛ける。

 

 

「…あの日、貴女は力に選ばれた。そして力も貴女を選んだ。本来なら素人には起動させる事すら出来ない筈のモノを起動させ、貴女は戦った。これは貴女の運命……誰も運命からは逃れられないの。無論、その代わりを成す者も居ない……。」

 

 

 

「私の…運命……?」

 

 

 

「相互理解を阻む存在を自らの手で断ち切り、葬る事…それが貴女の役目であり決められた運命……。」

 

 

颯はいつの間にか女性の手を握り締めていた。過去にも同じ事が有った様な気がする。懐かしく、温かい感覚が彼女を包み込んでいた。

 

 

「…貴女は誰……?」

 

 

 

「颯……私はいつでも貴女の傍に居る…。そのギアが有る限り……ずっと…だから戦って……私とあの人が決して離れていても、想いだけはいつも貴女の傍に……。 」

 

 

 

「もしかして……母さん…なの……?」

 

 

そう呟いた途端に意識が此処で途切れた。いきなりというよりは声が少しずつ遠のいて行ったという言い方が正しい。

気が付くと先程まで居た女性の姿は無く、颯だけが残されていた。

目を覚ましてから辺りを見回すものの見当たらない。颯は立ち上がると建物から外へ出て、1人で来た道を辿って戻る事になってしまった。

 

 

「あの人の事…もっと前から知ってる様な……?」

 

 

規制線の辺りまで戻って来たがやはり誰ともすれ違わなかった。

もう辺りは人通りが殆ど無い。少し歩いていると突然、ライトらしき光を向けられた。足音と共に誰かが駆け寄って来る。

 

 

「居た!!もう、こんな時間まで何処彷徨(うろつ)いてんのよ!?」

 

 

 

「…どうして此処に?」

 

 

 

「教えてくれたの…私と同じ制服を着た子がこの辺に居るって。 それで来てみたらアンタだったの!」

 

 

美結は息を切らしながら颯の方を見ていた。少し息を整えてから傘を彼女の頭上へ翳した。2人はとぼとぼと何も話さずに歩いていた。ある程度時間が経ってから颯は自分から話を切り出した。

 

 

「……まだ怒ってる?」

 

 

 

「そりゃあ…怒ってるわよ。」

 

 

 

「…私が乱暴に突っぱねたから? 」

 

 

 

「違う! 颯が私から逃げてる気がするから。…今朝の件で颯があまり人と関わりたくないっていうのは私も解ってるつもり……でも、もし仮に本当に1人になったら誰が颯の事を理解してあげられるの? 心の痛みや、苦しさとか辛さとか……そんなの1人で抱え込んで生きてて何が楽しいの!?」

 

 

美結は前へ出ると颯の方を真っ直ぐ見つめた。そして彼女の手を両手で握り締める。

 

 

「貴女は自分が独りぼっちだと思ってるかもしれないけど、それは違う。貴女は独りじゃない……私が傍に居る!だから……もっと素直になって良いんだよ…私が颯の居場所になってあげるから……ね?」

 

 

 

「でも……私は…ッ。」

 

 

 

 

「はぁあ…もっと周りを頼れって言ってるの!!辛かったら辛い、嬉しいなら嬉しいって言えば良いじゃない!何強がってんの!? いい加減、素直になりなさいよ…このわからず屋!」

 

 

美結は颯を強く抱き締めて来る。手放した傘が近くへ落下し、コロコロと少し転がってから止まった。颯は何も出来ずにその場に固まってしまう。

 

 

「…濡れるよ?」

 

 

 

「良いわよ…別に。それで……どうなの?」

 

 

 

「解った…これからはちゃんと話すよ……。これで許してくれる?」

 

 

颯は彼女の方へ視線を向ける。だが未だ胸に顔を埋めたままだ。そしてゆっくり顔を上げると颯へ声を掛けた。

 

 

「…音羽さんじゃなくて、美結って呼んで!そうしたら許してあげる。」

 

 

「はぁ……色々と迷惑掛けてごめんなさい、美結。これで良い?」

 

 

 

「んー…まぁ良い、許す! …さ、帰りましょっか! 」

 

 

颯から離れると美結は傘を拾い、それを2人の頭上へ掲げると此方を向いて首を傾げていた。

 

 

「なぁーにしてんのよ?早く帰るわよ!颯!」

 

 

 

「解ってるよ…美結……。」

 

 

 

「あーッ!今、少し笑った!笑ったでしょ!?」

 

 

 

「笑ってない!」

 

 

 

「いや、絶対笑ったもんね! 私見てますからー!」

 

 

 

「だから、笑ってないってば!!はぁ……。」

 

 

2人は雨の降る中、学校の有る方向へ歩いて行った。颯自身も何処か胸のつかえが取れたような気がしていた。

 

しかし、学校へと戻ってからは門限が過ぎていた事もあり別室でこっぴどく叱られてしまったがそれでも悪い気はしなかった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

ー翌日ー

 

 

「その…昨日は本当にごめんなさい!! あんな酷い事言っちゃって。」

 

 

 

「えーっと…面と向かって言われると恥ずかしいんだけど……大丈夫だよ、気にしてないし?ほら、頭上げて!」

 

 

颯は教室で椅子に腰掛けていた響に向かって頭を下げていた。流石に昨日のアレはどう見ても言い過ぎだ。だから尚更、罪悪感が颯には有った。

 

 

「でも……。」

 

 

 

「ふふ、謝ってくれただけ嬉しいよ。そういえば美結ちゃんとは仲良くなれた?」

 

 

「へ?あー、えっと……。」

 

 

そう言われると思わず目を逸らしてしまう。すると後ろから肩をポンと叩かれた。

 

 

「はぁーやぁーてぇー……?」

 

 

 

「げッ…美結ッッ!? 」

 

 

 

「私達は仲良いわよねぇー?」

 

 

美結はニコニコしながら響の方を見ていた。それに釣られて颯もこくこくと頷く。

 

 

「そっか、良かったね!それじゃあ仲直りした事だし早速……!」

 

 

 

「お昼ご飯は未だ先でしょ、響?それに未だ数学の宿題残ってる!!」

 

 

ニコニコと笑いながら未来が響の肩をへ手を置いていた。

 

 

「やります、やりますからぁ!」

 

 

響は呆れた顔でしょんぼり項垂れるとそれを見た颯と美結は互いに顔を合わせて少しばかり微笑んでいた。

 

こうして今日もまた何気無い日常が過ぎていく。颯、そして美結の2人に大きな決断が迫られる出来事が待っているのを未だ2人は知る由もない………。

 

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