颯、そして謎の少女は互いに激闘を繰り広げていた。刃が交錯し弾丸が飛び交う、そういった状況が続いていたのだった。
「いい加減、諦めたら?執拗いのは嫌われるわよ…ッ!」
「諦める訳無いでしょうが…ッッ!! 」
颯は少女へ刃を何度も振り翳すものの、それらは彼女の持つ銃剣によりあしらわれてしまう。向こうの方が戦闘に対し手馴れているのは解る。だがそれ以上に颯は相手の事を許さないという感情だけで突き動かされていた。見ず知らずの人達を大勢巻き込み、更には幼い子供ですら手を掛けるその在り方に。
「だぁあッッーー!!」
「ッッ!?何、この力…まさか威力が増してるとでも!?これが07…レーヴァテインのシンフォギア……!?」
ガキィイイン!!と銃剣の刃と颯の振り翳した剣の刃が正面からぶつかり合う。そこへ更に力を込めると銃剣の刃に亀裂が生じ始めた。少女は無理に振り払うと今度は左手に持ったガトリングを掃射し颯へ発砲する。颯は剣で数発は弾いたものの、両肩や左脇腹、左右の太腿を射抜かれて倒れてしまう。
剣は颯の手から放離れて近くへ落下、颯は相手の方を睨み付けていた。
「今度こそ終わりよ…貴女の負け。残念だったわね……そもそも、私に適う訳無いでしょう?貴女が戦闘訓練を積んでいるのは動きを見て解った…それでも埋まらない差という物が存在するの。貴女は優しさや誰かを助けたいという強い思いや信念で戦っている……けど、そんなのは所詮、甘い考え。全てを切り捨て、弱者を踏み躙る事で強くなれる…甘ちゃんな貴女には出来ないでしょうけどね?あっはははッッ!!」
少女は颯の方を見るとバカにする様に高笑いした。そして近寄ると颯の頭部へガトリング砲の銃口を突き付ける。
「さぁ、大人しくギアを解いてそれを渡しなさい。SGr-07レーヴァテイン、それは私が纏った方が有効的に使える。貴女よりも性能を開花させてね?」
「……奪ってどうするの?」
「決まってる、その力を使って世界を掌握するのよ。強者が弱者を踏み躙る世界に変える為に……力有る者こそが正義、無い者は有る者に虐げられるのよ!!」
「そんなのが…アンタの…理想の世界か……ふふッ…バカみたい……!」
「ッ…解ったならとっとと……!!」
「悪いけど…私はアンタを…絶対に絶対に許さない……ッ!!アンタだけは…アンタだけはぁあッッーー!!」
颯は叫ぶとその場にふらつきながら立ち上がった。そして顔を上げる。その顔は真っ黒で両目は真っ赤に輝いていた。
そして歯を剥き出しにして少女を見ている。
「…へぇ、未だ隠し球が有るとはね。じゃあ次もさっさと終わらせてあげる…!」
「ウゥゥ……!!」
「喰らえぇえええッッ!!!」
「ウガァアアアアッッ!!!」
ガトリング砲を少女が発砲、弾が颯へ向かって掃射される。だが先程とは違い、颯は弾をスレスレで全て避けていく。そして少女の前へ来ると腹を殴り飛ばし、鈍い音と共に吹き飛んだ。そのまま街灯へ当たるとひしゃげて折れ曲がってしまう。
「がッッ!?よくも!!」
「ウゥ…!!」
「ならッ……貴女の相手はコイツらにしてもらうッ!!」
少女は小型の何かを取り出すとそれを放った。地面に落下した小型の物から次々ノイズが出現する。人型やバナナ、ブドウ等様々なノイズが少女の前へ壁の様に反り立つ。
「使いたくなかったけど…時間稼ぎには成る……!!」
少女は余裕の笑みを浮かべ、様子を見ていた。すると颯は武器を持たずにノイズの群れへ走り出すと飛び掛った。荒々しく拳で殴りつけ、別のノイズが飛び掛って来ればそれを蹴り飛ばし、両手で掴んでそれを引き裂いて投げ捨てる。まるで獣の様な戦い方。普段の颯とは想像もつかない戦い方だった。
「な、何なのアイツ…まさかアレが……暴走…!?」
「フゥッ…フゥゥッッ…アァアアアアッッ!!!」
咆哮すると残りのノイズをも荒々しく薙ぎ倒し、最後の一体の頭部を掴むと少女の前で引き裂いてみせる。そしてニヤリと笑った。
「くッッ…化け物!!」
少女は左右のスカートからミサイルを、右手にはボウガン、左手のガトリング砲もボウガンへ切り替えると相次いで颯へ向けて発砲した。着弾と同時に煙が立ち上る。その付近の地面は抉れ、アスファルトはボロボロになっていた。
「今度こそ…ッッ!?」
「ガァアアッッーー!!」
何かが土煙から飛び出すと少女の眼前へ現れる。それは紛れも無く颯だった。そして空中から彼女の胸元目掛けて蹴りを放つ。少女は苦しそうに悶えながらその場に倒れてしまう。
「けほッ…けほッッ…くッ……どうして……!?」
「フゥゥッッ……!!」
颯は拳を握り締め、少女へ向かって振り下ろそうとする。だが颯の両腕や身体にワイヤーが巻き付いた。意識を回復させた調と共に颯を止めようと切歌が放ったのだ。
「颯さんッ、これ以上は駄目デス!その人…死んじゃうデスよ!!」
「颯さんッッ!!」
「グッ…アァアッッ……!!」
颯は必死に拳を振り下ろそうと藻掻く。
目の前に居る相手だけを殺そうと。
許さないという思いは気が付けば殺意に変わっていた。
「ざ、残念ね…私を倒せなくて……!貴女は所詮そこ迄なのよ…ッッ!!」
少女は苦し紛れに呟く。すると余計に颯との距離が縮まり、下手をすれば本当に殴られる距離となる。
「うぐぅうッッ……!?イガリマのワイヤーでも…ッ、抑え切れないデスッッ……!!」
「切ちゃんッ、何とか止めないと……!!」
「解っ…てるデス…よッッ……!!」
すると今度は少女の方に異変が起きる。
どうやら投薬の効果が切れ始めたらしい。無理に颯を突き飛ばし、離れると少女は足を引き摺りながらその場から去った。
「アイツ…に、逃げたデス…!」
「それより今は…ッ!!」
「ウゥウウウ……ッッ!!」
今度の矛先は調、切歌の2人。
邪魔をしなければアイツを殺せたのにという思いが込み上げる。立ち上がると2人の方へ近寄って来る。両方の目は真っ赤に輝き、不気味に笑いながら。
一定の間合いを詰めると拳を振り翳し、走って来た。しかしその拳は止められてしまった。2人の合間に響が割って入り、颯の拳を右手で受け止めたのだ。
「颯ちゃん…しっかりしてッ!!」
「ガァッ!!ウガァアアッーー!!」
「貴女の帰りを美結ちゃんが待ってる…そんな姿で帰っても、美結ちゃんは喜ばない…寧ろ悲しませるだけだッ!!だからお願い…颯ちゃんッ!!正気に戻って!
」
響は更に殴り掛かって来た左手も同じく受け止め、必死に呼び掛け続けた。すると少しづつ元に戻り始め、完全に戻った頃には颯は意識を失って倒れてしまった。
「…お帰り、颯ちゃん。それと遅くなってごめんね……。」
響は颯を抱き締めると調、切歌と共にその場から帰還した。戦闘が長引き過ぎた事から午後の授業から出席する事に。
ただ1人、颯を除いて。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「いッッ……此処は…何処…?」
颯が次に目を覚ました時に居たのは病室のベットの上。隣にはギアペンダントが置かれていた。どうやら本部の医務室らしい。
「…気が付きましたか? 」
白衣を着た小さな子が此方へ走って来る。エルフナイン、シンフォギアシステム等の技術面をサポートしている子。
「うん…まぁ。それで、何があったの?」
「覚えてないんですか?」
「……何か、アイツを許さないって思ったら突然抑えが効かなくなって…。」
「それを暴走…と呼ぶんだ。」
後から入って来た弦十郎がそれを呟いた。颯の元へ来ると椅子に腰掛け、彼女の方を見ていた。
「我々も戦闘の一部始終はモニターで見ていた。キミが被弾し、倒れ…それから様子が一変した所も含めてな。被弾箇所から弾丸を無理矢理摘出し、傷口を再生。そして……。」
「敵が呼び出したアルカノイズを全滅させ、本人へ詰め寄り…殺そうとしていました。切歌さんと調さん、それから駆け付けた響さんが何とか制止してくれたお陰で事なきを得た……という事です。」
エルフナインが合わせる形で補足し説明した。颯自身は何も覚えていなかったのだ。あの瞬間に強烈な感情に突き動かされ、無我夢中で戦い、気が付けばこうなっていた。
「……そうだったんですね、知りませんでした。」
「ああ、切歌君の話ではそう聞いている。あの時のキミは破壊する事を楽しんでいる様だった……ともな。」
「…でも、向こうだって大勢の人間を巻き添いにして…子供ですら傷付けてるんですよ!?この力…シンフォギアはそんな事の為に使うモノじゃ無いって…だから私は……!」
「キミの気持ちはよく解る…だがな、1つでも手段や方法を間違えれば何かを失ってしまうという事を忘れないで欲しい。他の奏者と比べ、キミは未だ日が浅い。だから誰よりもトレーニングを重ねて努力している事は俺も知っている。つまり、健全な精神は健全な肉体に宿るといという事だ。今のキミに足りないのは強さだけじゃなく、それに見合った精神と考え方。物事の捉え方だ。」
「身体だけじゃなくて…心も鍛える……。」
弦十郎は頷くと胸ポケットから何かを取り出した。出て来た1枚の封筒を颯へと手渡す。
「これは…?」
「俺からのプレゼント、電車のチケットだ。キミには山篭りで修行してもらおうと思ってな!」
「し、修行ですか!?でも学校は……?」
「心配は要らない、既に話は付けてある。それに……。」
「それに…何ですか?」
「強力な助っ人も居る!出発は明日だ、備えて寝ておくんだぞ!!」
弦十郎はニッコリ微笑むと病室を後にする。首を傾げると颯は不思議そうに考えていた。突然言い渡された修行して来いという事、それから強力な助っ人という単語。まるでスポコン漫画みたいだ。
全てが唐突でいきなり過ぎる。
その日、颯は艦内の医務室で眠りについた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ー翌日ー
颯はいつの間にか置かれていた自分の服に着替えると用意された荷物を持って医務室を後に。そして職員の車で駅へ向かった。駅から電車に乗り、揺られて約2時間。着いたのは人気の無い駅だった。
そこから更に歩いて約30分、着いたのは山。長い石造りの階段を上がって見えて来たのは小さな小屋。人が済んでる気配はあまり感じられない。辺りを見回しても人の気配は無かった。
「此処で間違いない筈…だよね?」
携帯は圏外だから繋がら無い。取り敢えず辺りを確認する為に歩き出すと突然、木刀が投げ渡された。颯はそれを受け取ると不思議そうに見ていた。
「へ?木刀…何で…?」
「構えろッ!!」
「ええ!?」
「はぁあーーッッ!!」
ヒュンッと風を切る音と共に何者かが木刀を振り翳す。それを颯は辛うじて受け止める。しかしそこからは反撃出来ずに防戦一方を強いられてしまい、最後は尻もちを着いて倒れてしまった。そして木刀の刃先を向けられる。
「…その程度で剣士を名乗るとは未だ未熟ッ!!」
「いきなり何…てか、アンタ誰!?え…嘘……!?」
ふと颯は顔を上げると見覚えのある顔がそこにあった。凛とした顔立ちに青い髪。そして透き通る様な薄紫色の瞳。
髪の左側は所謂、サイドテールに近い形で結ばれている。
「風鳴……翼?」
「ん?私の事を知ってるのか?それなら話が早い。キミか?叔父様が言ってた新しい装者は。」
「は、はい…奏宮颯と言います……。」
颯は立ち上がると自分から名乗った。何故なら憧れのアーティストが目の前に立っている。
これが最強の助っ人だと思うとある意味最強だった。
「…どうかしたか?私の顔をそんなに見て。何か付いてるか?」
「えっと…その……。」
「何だ、言いたい事が有るならハッキリと……。」
「サインください……ッ!」
颯は思わず口走ってしまった。
2人は一瞬固まるものの、翼は快く引き受けてくれた。颯は小屋へ入ると翼に手帳とペンを渡す。すると彼女は慣れた手付きでサインをし、颯へ返した。
「此処で約2週間、私と生活を共にし修行してもらう。それから携帯電話は見ての通り圏外だから通じない。万が一の事が起きたら私に報告して欲しい。緒川さんに頼めば解決してくれる。」
「緒川さんって?」
「私のマネージャーだ。さ、早くその道着に着替えて修行を始めるぞ!」
翼に促されるまま、颯は道着へ着替えた。上は白、下は紺色。帯は翼に結んでもらうと早速外へ出る。翼と共に小屋から離れて歩いて行くと滝が有る場所へ来た。
「大きな滝…ですね。此処で何を? 」
「これを。そこで着替えて来ると良い」
また着替えさせられる。手間な気がするが、渡された服装に着替えてから颯が戻って来た。全身白の行衣、中は渡された赤い水着を着ている。
「……着てきましたけど。」
「うむ、では早速その中に入ってくれ。少し冷たいと思うが我慢して欲しい。」
「入れって…水の中にですか!?ま、未だ寒いんじゃ……?」
「つべこべ言わず入る!」
颯は翼から言われた通りの作法をしてから水の中へ片足を突っ込む。素足が急に冷やされ、引っ込めたくなる。しかしそれでは修行には成らない。覚悟を決めて水の中へ入ると全身が震える位の寒気に襲われる。それでも颯は滝の方へ近付くと思わず唾を飲み込む。
水の勢いが思ったより強いのだ。離れから見てればそうでは無い様に見えるが、近くで見ればそうでは無いのが解る。
「ッッ……!!」
颯は滝の中へ入り、何とか正面を向く。頭の上から冷たい水が降り注ぐと今にも逃げ出したくて堪らない。両手を合掌の形で合わせるとガチガチを歯を鳴らしながらそこに立っていた。
「滝行は精神面を鍛えるのに丁度いい修行だ。最初は苦しいと思うが、慣れれば然程苦しくは無いだろう。」
「み、み、水がッ…水が冷たいッッ!!」
「耐えろ奏宮ッ!後30分だッ!」
思ったよりスパルタなのだと颯は実感していた。そして30分後にガタガタと震えながら滝から離れると何とか水から上がった。外の風が痛い位に冷たい。
「よし、身体を温めてから次へ行こう。ほらタオルを!」
「はい…ッ!」
タオルを受け取った颯は髪や身体を拭き、屋内のストーブで身体を温めていた。時期として未だ季節は春にすらなっていない為、余計に寒い。
「奏宮、すまないがまた着替えてくれるだろうか?」
「…解りました。」
最初の道着へ着替えてから今度は木刀を用いた素振り。正しいフォームを翼から密着して指導してもらい、形を守りながら続けていく。それが済んだら今度は屋内に戻って座禅。じっと座りながら3時間、何も考えずに精神統一を図る。
終わる頃には足が痺れて立てない。
「あ、足がッ……!!」
「これも修行の1つ。ほら、手を貸すから立つんだ!」
翼の手を握り締め、ゆっくりと立ち上がるものの足が痺れてるせいか違和感が有る。治ってからは道着からジャージへ着替えると今度はランニング。小屋から階段を駆け下りて通りを出ると2時間半ランニングし、戻る。それから階段の昇り降りを20往復。修行が終わる頃には既に日が暮れていた。
「今日はここ迄にしよう…大丈夫か?奏宮。」
「え、ええ……何とか…。」
颯は靴を脱いでから汗だくで小屋の床に座っていた。兎に角、疲労が凄い。
こんなのを2週間も続けるのかと思うと先が思いやられる。
「先に風呂にしようか、汗かいただろう?こっちだ。」
「あー…はい……。」
当の翼はケロッとしており、疲れている様な様子は何も無い。2人は居間から廊下を歩くと大きめの風呂場のある場所へ着いた。木製の風呂は2人が入っても未だスペースが余る。お互いに衣類を全て脱いでから掛け湯をし、湯船へと浸かる。颯は普段入る風呂よりもかなりリラックスした様子でいた。
まるで先程の疲れが全て嘘みたいに抜けていく。
「凄く…気持ちいい……。」
「ははッ、余程疲れていたらしいな。それで…耐えられそうか?厳しいなら叔父様に頼んで滞在日数を減らす事も出来るが……どうする?」
「…大丈夫、やってみます。健全な精神は健全な肉体に宿る。そう司令から聞きました。肉体が鍛えられても精神面が弱ければ意味が無い…今の私に足りないモノは私自身がよく解っていますから。」
「そうか…強いなキミは。キミも立花と同じ雰囲気を感じる。誰かの為なら自分の事を顧みず、全力で手を差し伸べる……それが立花響だ。形は違えど、キミにも戦う理由が出来る事を私は祈っている。」
「戦う理由……ですか。」
「ただ闇雲に正義を振り翳せばそれは一方的なモノにしか過ぎない。私も防人として常に自分が今出せる全力で誰かを守るべく戦っている。とは言え私も未だ未だ未熟だがな……。奏宮、これだけは覚えておいて欲しい。斬るべき相手を…刃を向ける先を決して間違うな。それが剣を扱う者の心得だ。」
ポンと彼女の肩へ手を置くと翼は立ち上がる。身体を流してやると言われ、颯も湯船から上がると翼の前へ腰掛けた。
翼に洗われながら、2週間という短い期間で自分がどれだけ強くなれるか。颯は密かに強い思いを秘めていた。
2人とも風呂を済ませてから夕飯を取ると特にする事は無く後は眠るだけ。
携帯は触っても電波が無い為、意味が無い。明かりを消した居間で布団の上に横たわりながら颯は天井を見ていた。
シンフォギアの暴走、そして突然始まった精神修行。思えば自分がギアを手にしたのもついこの間の様に思える。
成りたくて装者になった訳じゃない。
誰かに望まれて装者になった訳でも無い。この力で自分に何が出来るのか、それをあの日からずっと探し続けていた。
「……私の戦う理由、見つかるのかな。」
そう小さく呟くと颯は目を閉じ、眠りについた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
翌朝、颯と翼は修行と称したトレーニングを再び開始する。滝行から始まり、木刀の素振りやランニング、更に座禅、そして新たに追加されたのが翼との1対1で行う打ち合い。やはり剣術は翼の方が優れている為、颯は何度やっても負け越していた。そんな事を毎日繰り返し、気が付けば颯の両手には豆が出来ていた。
それをテーピングでカバーしつつ鍛錬を続けて行く。翼が仕事で居ない日は彼女が組んだメニューを元に1人で修行する事もあった。トレーニングを重ね続け、そして遂に2週間という長い修行が幕を閉じた。
「うむ、だいぶ太刀筋も良くなった!どうだ奏宮…手合わせでもしてみるか?」
「……お願いします。」
2人は木刀を手にすると礼をしてから向かい合う。そしてゆっくり構えた。
「大切なのは踏み込み…そして相手との間合いだ。解っているな?」
「ええ、勿論…ッ!!」
先に仕掛けたのは颯。適切なタイミングを図ると自分から斬り掛かる。それを翼が防ぎ、振り払うと今度は反撃を繰り出した。今まではこの一撃により颯は軽々と仕留められてしまったが、今回はそれを防いでみせた。更にそれを振り払うと颯も翼目掛けて木刀を右斜めへと振り下ろすがやはり防がれてしまった。
「勝機を焦るなッ!!呼吸を整え、集中しろッ!!目の前に居るのは風鳴翼では無い……お前の敵だと思え!!」
「ッ……!!」
颯は頷き、深呼吸してから構え直す。目を閉じて心を落ち着かせると再び目を開き、相手を見据えた。これまでのやり取りで颯は翼のタイミングを解り始めていた。次の攻撃を繰り出す際の隙を突けば勝機は有ると。
「どうした?来ないなら此方から行かせて貰うぞ!はぁああッッーー!! 」
「来たッ…今度こそ……!!でやぁああッッーー!!」
乾いた音と共に勝負がついた。
互いの木刀がぶつかり合うと颯の木刀は翼から見た左肩と首の付け根に触れていた。つまり、翼が斬られたという事になる。
「……見事ッ!」
「勝てた…翼さんに……勝った!!」
颯は思わず喜んでいた。お互いに礼を済ませ、修行はこれにて終了した。その後に軽く風呂場で汗を流すと最初に着て来た私服に着替えて荷物を纏めると小屋から出た。
「2週間、ありがとうございました。翼さんは帰らないんですか?」
「ん?ああ、私はこれから仕事が有るから帰れないんだ。奏宮も電車の時間が有るだろう、私に構わず先に帰ると良い。それと、良く頑張ったな…後は自分自身の戦う理由、その答えを見つける事。帰ってからも鍛錬を忘れず、続けて欲しい。」
「……はいッ!」
「常在戦場…それを忘れるなッ!!」
「はい…、本当にありがとうございましたッ!」
互いに握手を交わすと颯は翼に見送られながら駅へと歩いて向かった。
来た時と同じ様に電車へ揺られて帰ると眠気を堪えて駅から学校まで歩いて戻った。寮の部屋のドアを開けると美結が走って来て出迎え、そこからは様々な話をした。2人で颯の好物でもあるビーフシチューを食べながら。
修行の成果はこれからの実戦で明らかになるだろう。彼女の戦う理由を見つけられるのはいつになるのか?それは颯にも誰にも解らない。