何故、この世界から争いが無くならないのか。
何故、この世界は平等では無いのか。
悲しみや憎しみは増える一方でしか無い。この負の連鎖を誰かが終わらせなければならない。
ならどうするか?世界は正しい者の手で導く必要がある。一度この世界そのものを破壊し、新たな世界を創り直せば良い。その為に探すのだ。
ースルトと呼ばれる存在をー
「……私はその為にこの国へ来たのだから。」
紫髪の女性は高層ビルの上から街の景色を見下ろしていた。彼女の名前はシャーロットセレスティナ・アイトン。
表書きは研究者、しかし裏の顔はテロリスト。イノベイターと呼ばれる組織に所属するリーダー格でもある。
彼女らの目的は世界そのものを一から造り替える事。そして何故、彼女が此処に居るのか?
ドアの開く音がすると入って来たのはスーツを着た男達。皆、とある国の役員達だ。
「お前がシャーロット技術研究員…だな?」
「ええ、そうよ?…別にシャーリィでも良いわ。気にする事は無いし、気軽に呼んで頂戴。」
シャーロットは会議室の椅子へ腰掛けた。それも足を組んで。
6人居た要人らは警戒しているのか座る気配は無い。そして代表と思われる金髪で髪の短い男1人が前へ出ると再び話を始めた。
「……我々の目的はただ1つ、キミが研究している物を引き渡して頂きたい。それは我々政府が厳重なプロテクトを掛けて保管する。」
「ああ…アレの事?……貴方達の手に追える代物じゃないのに。」
シャーロットはクスクス笑うと足元の細長いケースを取ると机の上へ。
左右のロックを外すと中身を見せた。
そこにあったのは細長い銀色の杖の様な物。ひし形で紫色の物体が上部に取り付けられている。それは完全聖遺物、ソロモンの杖だった。
「…お望みの物はコレでしょう?これはあの時のデータを元に私が生み出したレプリカ……本物はバビロニアの宝物庫の中。もう取り出せないけどね?」
「それを寄越したまえ…!研究者としての地位を失いたくないのなら!!キミは未だ18だ、将来も約束されている!そんな危険な物は我々政府機関が管理すれば良い!」
別の1人が声を上げた。ゆっくりと彼の方を見るとシャーロットは、口角を少し上げてニヤリと笑う。
「…終わらない多国間の戦争や紛争、無くならない飢餓や貧困、そして格差による差別。貴方達もウンザリしている……そうでしょう?これさえ有れば世界のバランスなんて軽くひっくり返せる。でも、肝心な問題はコレを誰が管理するか……違いますか?」
シャーロットは首を傾げて見せる。
6人は皆、互いを見合っていた。こんな杖1つを誰が管理するのか?と。
レプリカという事はつまり元のソロモンの杖と同じ性能を引き出せるか怪しい。
しかし彼女は18歳でありながら聖遺物研究者、そこは彼等も知っていた。
世界の天才と呼ばれる中に彼女も含まれている事も。
「……話し合いで決まらないのなら、この件は無かった事に。」
シャーロットがケースへ手を掛けようとした時、別の男が威嚇射撃をした。
銃声と共に彼女の右頬を弾が掠めると弾は壁に着弾し小さな穴が空いた。
痺れを切らした、また別の男が撃ったのだ。
「御託はいいからさっさと寄越せと言ってるんだ!!」
「…解りました。どうぞ?」
シャーロットはソロモンの杖をケースごと彼等の方へ押して渡した。ケースはテーブルを滑って彼等の前へ。
1人がソロモンの杖へ触れるとそれをまじまじと見ている。他の5人も同じ様に見ていたが、1人がケースへ戻す様に促す。
「これで用事は済んだ、早くケースへ……!」
「……まさか、此処から帰れると思ってるんですか?」
「何を言っている…杖は我々が貰った、キミの役目は終わっただろうに。」
「…ホント、目が節穴ですね。政府のお役人様達は。目先の事しか考えられないのですか?」
立ち上がったシャーロットが取り出したのは、もう1つのソロモンの杖だった。
しかも出て来たのは黒いロングコートの内側から。
「杖がもう1つ有るだと!?馬鹿な!!?じゃあこの杖は……!?」
「…それは試作品の試作品。そして完成品はこっちですよ?」
手元のスイッチを押すと6人の左右をそれぞれノイズが行く手を阻んだ。
人型が2人ずつ、4体居れば造作もない。
1人が互いを前へ押しやったり、撃った事を謝った方が良いと口々に話している。
「ノイズの恐怖は貴方達もご存知でしょう?私が指示を出せば全員あの世行き……それに今更、謝られても交渉は既に決裂していますので。さようなら、政府機関の役人達……!」
「待ってくれ…うわぁああッッ!!」
「死にたくないッ…死にたく…ッッ……!」
次々と断末魔を上げ、ノイズに触れられた役人達は全員炭化し崩れ去る。
シャーロットは再び杖を操作するとノイズが消えた。後方の会議室のドアが開き、黒い髪で紫のドレスを着た女性が入って来るとシャーロットへ近寄って来た。
「……消したのですか?役人達を。」
「ええ。彼等の目的はソロモンの杖の押収、それから私の確保…話し合う前から既に交渉は決裂していたわ。それで、どう?同士達は見つかった?」
「貴女の希望する人数には…既に達しています。350人もの錬金術師達が着々と準備を。」
「そう。例の適合者の事は何か解った?」
シャーロットが問い掛けるとレイスは頷き、1枚の写真を取り出した。それは颯の写真で服装は普段、彼女が着ている物。シャーロットはそれを見ながら不気味に笑っていた。その横でレイスは説明を始める。
「…名前は奏宮颯、今年から私立リディアン音楽院高等科に通っています。歳は17。そしてシンフォギア装者です。」
「カナミ ハヤテ…つまり、あの人達の娘……か。誰よりも世界の変革を望み…理想を掲げて最後は無惨に散った。特に彼女の父親はそれに陶酔していた……。」
シャーロットは颯の写真をしまうと、会議室をレイスと共に後にする。
計画は少しづつ動き始めていた。全ては自分達の力で世界を覆す為に。
「…世界は我らイノベイターが造り替える。その為には今の人類には消えて貰わなければ成らない。」
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颯は朝から職員室に居た。
担任の女性教師から直々にお呼び出しを食らっていたのだ。
2週間という長い期間、授業を休んだ事で彼女だけが勉強に遅れが出ているという事で心配されていた。
相手はつい最近入ったばかりの新人教師で他の生徒からも愛称で呼ばれる事が多い。藍原 望、またの名を望ちゃん。
茶髪のボブカットに緑色の目。それから女性用の黒いスーツ。
「奏宮さん、色々と忙しいのは解るんだけど…流石にこれ以上休まれると退学とかになり兼ねないから……放課後に補習受けて貰えるかな?大丈夫、奏宮さんなら直ぐ終わらせられると思うし…。」
「解りました…じゃあ放課後、また来ます。」
互いに話し合いを終えると颯は職員室を後にする。溜息と同時に自分の本職である学生を思い出していた。
教室へ戻ると美結が駆け寄って来る。
「ねぇねぇ、颯ッ!放課後カラオケ行こ!未来も響も来るって!」
「あー…ごめん、無理。望ちゃんの補習出ないと……。」
「もー、人助けするって言って2週間も休むからでしょ……それで何時に終わるの?」
「解んない…何だったら3人で行ったら?早く終わったら私も合流するって事で。」
颯は教室の椅子へ座ると美結の方を見ながら話を進めた。美結は渋々その提案を受け入れると2人の元へ戻り、話している。話によればどうやら調と切歌も来るらしい。颯はシャーペンをクルクル回しながら色々と考えていた。
授業開始のチャイムが鳴ると全員着席し、授業が始まった。音楽の授業が多いのは確かだが、それ以外にも普通の教科による授業も勿論ある。
出席日数が少なければ卒業する事も難しいのは事実なのだ。
その後、午後の授業が全て終わり周りの生徒らが帰り支度を始める。しかし颯は補習が有る為、先に教室を出て職員室へと向かっていた。
颯の成績は悪い訳では無く、普通より大体上の方。別に勉強が出来ないという訳では無い。寧ろ苦手なのは人付き合いの方だった。
職員室へ入り担任の藍原と話してから共に空き教室へ向かう。
そして教室へ入ってから1体1の形で補習が始まった。
2人しか居ない教室の中で藍原の声だけがする。颯は話を聞きながら黙々とノートに書き記していた。
英語が終われば数学、それが終わると颯が受けている音楽教科の補習と連続して続いて行った。
全て終わったのは夕方の18:30。今からカラオケへ入ってもあまり歌えないのは解っている。しかし、行かなければ美結があーだこーだ言い兼ね無い。
カバンへ教科書類をしまうと颯は藍原へ挨拶してから空き教室を後にした。
それから玄関で靴を履き替え、外へと出る。校門へ向かって歩みを進めていると、後ろから話し掛けられた。
振り向くとそこに居たのは紫色の髪をした女性。制服も普段自分達が着ているのと同じ。黄色の瞳が何とも印象的だった。
「…何か用?」
「買い物に行きたいんだけど…どう行けば良いか解らなくて。この辺、初めてだから……。」
「ふぅん…私も用があるから別に良いけど。一緒に行く?」
颯と共に少女は歩き出した。
彼女はレイチェルと名乗ると自分も名前を教える。2人は色々と話しながら街へと向かった。
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「…それで、何処行きたいの?」
「えっと……スーパーマーケットに。友達から買い物頼まれてて。」
そう言われるとレイチェルと共に近くのスーパーへ入る。彼女に付き添っていると携帯に着信が入って来た。相手は勿論、美結だ。
「やば……もしもし?」
[ちょっと、今何処に居るのよ!?携帯出られるって事は補習終わってるんでしょ!?]
「はぁ…道案内してるの、うちの生徒っぽいんだけどこの辺解らないって言うから……。」
[兎に角、さっさと案内してこっち来なさいよ!せっかく皆予定合ったのに…あ、ごめん…次私の番?じゃ、待ってるから!]
調に呼ばれたのか微かに声がした。電話が切れると颯は彼女の買い物へ再び付き添う事に。
「…お友達?」
「まぁ…そんな所。どう?レイチェルは買い物終わりそう?」
「あと少し…それと、呼びにくいならレイで良いわ。」
彼女は颯の方を向いて微笑むと颯も小さく頷いた。少ししてから買い物を済ませると店の外へ出て行く。
「……ごめんなさい、お友達との約束も有るのに付き合わせてしまって。」
「良いよ、別に。あの時間帯はうちの生徒も殆ど居ないだろうし。帰りは来た道をそのまま戻ると寮に帰れるから。」
「ありがとう。ねぇハヤテ…また私と会ってくれる?」
「…え?」
「私、貴女の事をもっと知りたい。だから…友達になって欲しい。嫌なら諦めるから……。」
レイチェルは颯へ片手を差し出す。
その目は颯を真っ直ぐ見つめていた。
颯は小さく頷くと同じく片手を差し出して彼女の手を優しく握った。
「……私で良ければ。そっちも転校して来たばかりで不安な事も有るだろうしさ。改めて宜しくね?」
「ええ…!ありがとう!それじゃあ…また明日!」
レイチェルは颯の手をもう片方の手で握ってから直ぐに立ち去った。嬉しそうに買い物袋を持ちながら。
颯は彼女を見送ってから美結達の待つカラオケ店へと足を運ぶと、合流してから1時間だけ歌う事となった。
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カラオケを終えた帰り道、響達と別れた美結と颯は2人で近くの公園に立ち寄った。辺りには街灯が点々と有る位でしか無い。
2人で並んで歩いていると美結が立ち止まり、颯の少し前へ出た。
「それで何?話って。話なら帰ってからでも良いと思うけど?」
「…ダメッ!帰る前に颯に聞いておきたいの!!」
「聞くって…何を?携帯代の話?それとも…今日の約束の事?それだったら謝るよ。私もこうなるとは思わなかったし……ごめん。」
「違う…そうじゃないの……。」
「……じゃあ何?」
美結は颯の方を見つめると覚悟を決めたのか口を開いた。
「ねぇ颯…私に何か隠しているでしょう?前もあんなに怪我して帰って来て…それにこの間だっていきなり2週間留守にして。教えてよ…私に内緒で何してるの?」
「それは……ッ…。」
颯は目を逸らしてしまう。
秘匿義務が有る為、外部には迂闊に情報を漏らす事が出来ない。だから当然、部外者である美結にも話す事は出来ないのだ。
「颯…お願いだから話してッッ!」
「美結…私は……ッ!?」
颯が話を切り出そうとした時、突然近くの茂みからノイズが姿を現す。それも1匹だけでは無く、ざっと10体。人型やカエル型、鳥型と種類は様々。颯は美結を庇う様に前へ出るとノイズらと向き合った。
「美結…ごめん、今は話せない。でもいつかきっと…ちゃんと話すから。だから美結だけでも先に逃げてッ!!」
「ねぇ、いきなり何言ってるの颯ッ!?逃げようよ一緒に!颯も知ってるでしょ…コイツらがヤバいって事!!」
美結は颯の制服の袖を引っ張り、共に逃げる様に促す。だが颯は首を横へ振った。
「知ってる……でも、私が此処で逃げたらコイツらは更に人を襲う事になる。…大丈夫、ちゃんと帰るから。信じて待ってて!」
「でも…ッ!」
颯は無言で美結の背中を押すと彼女が咄嗟に走り出した事を確認すると少し深呼吸した。そしてノイズらを睨み付ける。
「お前達が…お前達の様な存在が居るから……ッッ!!」
すると突然、サムライ型ノイズが颯へ目掛けて走り出す。右腕の刃を振り下ろすと確かにそれは颯へ命中した。だが紅い光がそれを妨げるとサムライ型ノイズは吹き飛んで木に激突した。颯が瞬間的に詠唱しギアを纏ったのだ。紅い装甲に赤と黒を基調としたギアインナー、それから両足の黒いブーツ。それ等が全て彼女へと纏われる。以前と違って腰辺りにはスカートが展開されていた。
「……直ぐにケリを付けてやるッ!!」
颯は左腕のガントレットから剣を呼び出し、それを右手で引き抜くと刃先を突き付ける。先程のサムライ型ノイズが飛び掛って来たのを振り払う様に横一線で斬り裂いた。今度は走り出すと此方へ飛んで来たカエル型ノイズを斬り落とす。
2体の鳥型ノイズが液状の攻撃を仕掛けるとそれを飛び上がって避け、空中で剣を振り翳し1体を斬り裂くともう1体を刺突して倒す。
「情けなんか掛けるものか…お前達にッ!!」
颯の身体を何かが駆け巡る感覚がした。
別方向から襲って来たノイズ3体を剣を振り翳した際に発生させた風圧だけで薙ぎ払う。残った3体も続けて颯へ襲い掛かると彼女へ向けて一斉に飛び掛った。
「くッ…邪魔だぁあああッッーー!!!」
颯は左手を前へ突き出すとガントレットの左右から筒状のノズルが展開される。そして凄まじい勢いで炎が放たれるとノイズ3体をそのまま燃やし尽くしてしまった。殲滅したのを確認すると颯は無言でギアを解くとそのまま公園を去った。
颯が去って少しすると木の陰から1人の女性が顔を覗かせる。それはシャーロットだった。颯には偽名であるレイチェルと名乗っていた。
「……アレがレーヴァテインのシンフォギアか。噂には聞いていたけど…あそこまでとはね……まさか貴女がその装者だと思わなかったわ、ハヤテ……貴女は私の敵となってしまった……残念ね。」
シャーロットは多少燃えている木々や草を見ると小さく笑い、その場を去る。
彼女の左手にはソロモンの杖が握られていた。簡単に言えば自身が作ったソロモンの杖のテストを兼ねた実験。もう1つの目的はレーヴァテインの力を調べる為に行ったにしか過ぎない。
全ては世界を変革させる為に必要な事。
彼女にとって人命など容易いモノ。多少の犠牲は計画の内としか思っていない。
シャーロットの立案した計画は確実にその魔の手を伸ばしつつあった。