閑忍譚~カンニンタン~【シノビガミ 二次創作短編】 作:朱星リズ
✕
指矩班 小鳥遊 奈々(タカナシ ナナ)
私達はVIPに愛を
低俗な流派と思われがちな、私達の仕事。けれど立派な、国益を守る仕事でもあるんだとか。
VIPは私達から愛を
彼らには取引材料として、重要な情報や、多額のお金なんかを支払ってもらう。
そこで仕入れた情報から、もし対処してくれと上から命じられれば、現地に赴いて死を与える。
バレエと並行してできて、簡単に大量のお金を稼げて、尚かつ私の趣味も楽しめる。戦うことは苦手だけれど――中々良い環境に私は立っているな、と思っている。
今日も中忍――まだまだ下積みも抜けきれない人間らしく、VIPのお相手。大手動画サイトの運営会社の社長さんで、小綺麗なスーツを着けた、だらしない日本人のただのオジサン。
「君が
アロマポットに香を炊いてベッドに座った私は、私を源氏名で呼ぶ彼に、横に腰掛けるように促す。デレデレしながら彼は私の隣に座ると――私は彼の快楽点を探して、脚や腕を擦る。
それから慣れた手で
彼は奥手のようなので、私が彼を満たしてあげ――最後は覆い被さりながら、汗だくでまるまると大きな彼をぎゅうと抱きしめてあげた。
彼からは情報を支払って貰えるとのことで、彼の愚痴を聞いて慰めながら、困っている事を聞いた。
「――何だか知らないけど、ウチの機密だけじゃなくって命まで狙われちゃってさぁ。やだよねえ、この世の中。物騒になったもんだよ」
どうやら彼のサイトに使われている技術が他社に狙われているのだという。その技術は諸外国の動画サイト運営企業が狙っているようで、覇権を奪うためには忍者を雇うことまでしているんだと。
企業戦争も行きすぎれば国交を悪化させかねないので、私達比良坂機関――中でも外事N課が対応する事にはなっている。
彼にそう話をし、大丈夫だと告げると、安心したように私を撫でてくれた。
「まいちゃんは偉いなあ。偉いから僕の最近の推しを教えてあげるよ」
聞いてもいない話をするのは、ここへ来るVIP達の悪癖だった。けれど私は嫌な顔をせずに彼のスマートフォンを見る。
そこには顔出しで配信をしているマスクを着けた黒髪の女性が爬虫類の世話をしていた。
『ハローハロー、元気?
「すっごく可愛いよね〜彼女。虫も捕まえちゃうし、歌も歌えちゃうんだよね。最近人気も鰻登りで、うちの宣伝とかもオファーしちゃおうかな…って、いやいや、まいちゃんも負けないくらい可愛いからね?」
女の前で推している女の話をする残念ぶりを発揮したVIPだったが、私は何故かこの配信者に興味を持った。
視聴者から社長にまで『可愛い』と言われながら爬虫類を育てるも、
仕事の報告をして家に帰った後、寝落ちするまで彼女――nanashiの動画を見た。
彼女は歌も料理も上手く、爬虫類の事もしっかり勉強をし、演劇や女の子向けの護身術の披露まで幅広いジャンルの動画を投稿していた。ある種の天才なのかもしれないけど、これで収益まで出しているのだからとても驚きだったことを記憶している。
+ + +
翌日、先日やってきたVIPが何者かの襲撃に遭ったという報せを受けた。聞けば彼は命は無事だったが、持っていた鞄を奪われてしまったのだという。
外事N課の忍が動いているはずだが、その鞄を取り返すために何故か私が忍務に就く事になった。
N課はN課でまた別件で忙しいらしい。手が回らないから空いている流派に頼むという点は、比良坂の悪いところだと常々思う。
いつものように気を練って鞄の居所を探り、大まかに場所を絞ったところで空港に到着した。と、同じタイミングで到着したもう一人の忍と鉢合わせた。
「――あれ。あなたも忍者?」
その姿には見覚えがあった。ゴシックなドレスに黒い短髪と赤い瞳。間違いなく昨日動画サイトで見たnanashi本人だった。
「ふうん。鞄を取り返すために来たんだ。じゃあ目的は同じね」
驚いて油断していたら、私の抱えていた使命を読み取られた。彼女はどうやら相当の実力者らしい。
「安心して、依頼者は同じ。運営の社長さんでしょ?あの人に忍者だってバレてたのが意外だったけど」
「――それじゃあ、私と協力してくれる?」
「もちろん。名乗るほどじゃないけど、私は
「
彼女とは捜索の中で身の上を語り合うと、すぐに仲良くなれた。移動中や捜索中は、様々な話をしていた。
「あの社長さんに
「ええ。そこであなたの動画も教えてもらった。せっかく愛してあげてるのに、他の女の話なんて、最低よね……」
「……じゃあ、私も買おうと思えば、あなたから愛を買えるの?」
意表を突いた彼女の質問にどきりとし、気を練っていた私は
彼女は戦いの中で私の戦い方をすぐに学んだようだった。驚くほどの観察眼と吸収力だった。
踊りながら人を操る私と、私の手を取って踊ってくれる彼女。見事な連携で襲撃した忍を倒し、無事に鞄を取り返した。
「あっ!奈々ちゃんにまいちゃん!ありがとう〜助かったよ…」
VIPは任地から帰ってきた私達から鞄を受け取ると、深々と頭を下げた。報酬はその場で支払ってくれ、私達はお互いにお互いの上司へ報告することにした。
別れる前に連絡先を交換し、もう一度会う約束をして。
+ + +
夜。歓楽街の駅前で待ち合せた彼女は、見事にナンパに遭っていた。満更でもなさそうな彼女と彼との間に入り込み、彼女を救出する。
「え、何何?友達?可愛い友達居るじゃん!三人で遊ぼうぜ〜」
「ふふ、ごめんなさい。私は彼女に用事があるから。
私は彼女の手を引いて、さっさと雑踏の中に紛れて、ナンパ男から姿を晦ます。
人混みを抜けて、酒場を横目に、路地を通って、人気の少ないラブホテルに二人で入った。
誰とも知らぬ、壁を穿つような嬌声をBGMに、私達は部屋にさっさと入る。
大丈夫かと彼女に声をかけるが、彼女は少しソワソワした様子だった。
「――ナンパされるのはいつものことだけど、それ以上に、こんな、ラブホとか、来るのは初めてで、ドキドキする」
あの災難をいつものことと一蹴した彼女は、強かながら、弱々しい表情を見せる。
「ごめんなさい、奈々ちゃん。もう少し段取り考えれば良かったかしら」
私は彼女にした約束通り、彼女を
「……ううん。ミヤが愛してくれるっていうから、嫌じゃない。すっごく嬉しい。今すぐにでも愛してほしい」
きらきらと、素敵な宝石を見つめるような目で私を見つめる彼女の頬を、私は右手で優しく撫でてやった。
「奈々ちゃん。いいこと教えてあげる。愛されるにはね、愛してくれるその人を愛してあげるといいわ。そうしたら、お互いとても気持ちいいから……」
「え――」
私は彼女と唇を重ね、舌を絡め合い、ぎゅうと腕を絡めて身体を重ねた。彼女は最初は困惑していたようだが、どうやら学ぶことに関してはとてつもない才能を持っているらしく、すぐにこの状況にも適応できた。
彼女の低かった体温が上がるのを感じ、可愛げな衣装のボタンを外し、華奢な身体をはだけさせて行く。
とろん、と蕩けた彼女の表情を見て、私はいつも以上に深い愛しさを覚えた。
客の中には男だけでなく、女も指名してくることがある。だから私は女性の扱い方もそれなりに分かっていた。
しかも彼女はこれまでやってきた客以上に、
自己陶酔と自己顕示でベタベタに塗り固められた彼女は、誰かを愛することが趣味の私にとっては、甘い蜜であって格好の餌であった。
今までに無いくらいの快楽と悦楽を心と身体で感じ、私達は夜が更けるまで愛し合い、翌昼までぐっすりと抱き合って眠った。
備え付けの電話が鳴り響いて飛び起きた私達は、さっさとシャワーを浴びて部屋を出たのだが、見事にフロントで「延長連絡くらいしろ」とこっぴどく怒られたのであった。