閑忍譚~カンニンタン~【シノビガミ 二次創作短編】 作:朱星リズ
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長耳 月唄 終夜(ツキウタイ ヨスガ)
いつか、敵方の忍者に正義を問われたことがある。その刀は誰が為に振るわれるか、と。
未熟なあたしでも、魔王流が置かれている現状や、あたし達魔王流の流儀くらいは知っていた。
――魔物を殺す。
ただそこに善も悪も無く、その理由を各々に委ねながら、これという漠然的な思想を持っているような、そんな流儀だ。
各地の地獄門が破壊され始め、魔物――妖魔が街中でもよく見られるようになった昨今、あたし達の剣は鞍馬神流の忍達と共に、人々の生活を守る剣となりつつあった。
それでも、一部の古参の忍からは、まだまだ
近年になって、
仇敵である彼らを「魔物だ」と言う魔王流の忍が大多数なのは当然だが、あたしみたいに、人に危害を加えないものはその限りではないと見る忍も、最近は少なからずいる。たびたび開催される交流会に参加する忍は決まって後者だ。
あたしはむしろ隠忍には親近感を抱いていた。血を操って戦うあたしの力は、まるで血社のそれだ。というのも、あたしの家は双方が魔王流なのに、父方も母方も、何の巡り合わせか祖父が
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隠忍と人との交流会では酒と言葉を交わし、場が温まってきたところで技比べが行われる。
今日もあたしはそんな交流会に参加し、初めて技比べに登壇することになった。
相手は血社の男。風貌からはそれなりにやり手であるように見えた。
「噂の血を操る娘か。瑞々しく初々しい、苺の果実のようだ。是非とも君を抱きたい」
きらりと男の黄金の瞳が朱く輝く。忍法のようだったが、全く効果を示さなかった。
「……酔いが回ってるようだね。素面のあたしに勝てるってなら、同じ血を操る者同士だし、抱かれてやってもいいよ」
「ほう……魅了を跳ね除けるか。本当に血社の血を継いでいると見える。益々君を抱きたくなったぞ!」
抜刀して
追尾してくるそれを地面に打ち付けるようにかわし、いよいよもって
自身の血で真っ赤に染まった刀で男に斬撃を喰らわそうとするが、男はそれを血で作り上げた盾で防ぐと、それを槍に変化させてあたしを穿った。
「奥義、【
「ぐっ……!」
防がれたことに驚いて油断をし、大打撃を受けてその場にうずくまる。
「ふははは!たかが
朱色の衣を纏わせるかのように、血はあたしに立ち上がる力を授ける。血社の男はやれやれと言いながら、手にした槍で止めを刺さんと構え、再びあたしの身体を穿ち、あたしを優しく抱きしめた。
「さあ、約束は果たしてもらおうか――」
男が唇を重ねようとした束の間、穿たれたあたしの身体が霧散して男の態勢を崩す。
そしてあたしは背後に立つと――
「――残念。あたしの勝ちだ」
華麗な居合で男を盾ごと上空に吹き飛ばし、男が倒れたところで
どっと歓声が湧き上がるのを見て、もう一つ持っていた兵糧丸を
舞台から降りて、その辺りの木々に背を預けてどかりと腰を下ろすと、見物していた客達が酒の飲めないあたしにジュースを淹れてきてくれた。
赤くも爽やかな酸味のある、ルビーグレープフルーツジュースをぐっと喉に流し込む。と、見物客の間から、遠目にこちらを見る兎耳の男の姿を見た。
夜光で暗くて彼の表情はよくわからなかったが、それよりもとにかく今は、技比べの傷を癒やす事に集中することにした。
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次の日。人と隠忍を繋ぐ独自流派から依頼という名目で呼び出された。聞けば、妖魔退治のエキスパートである魔王流であり、先日の技比べの実力を買ったところによるらしい。
先日、独自流派の人間が暴走を起こして、地獄門を開いたとのことで、既に当該の門は閉じられており、事態は沈静化はされているものの、そこから飛び出した複数体の妖魔が街で暴れているのだという。
早速あたしは街へ案内してもらおうと頼むと、独自流派の頭領は、案内役として一人の長耳を寄越した。
先日あたしを遠目に見ていた兎耳の男だった。彼はにっこりと笑ってこちらを見ると、ぺこりと頭を下げた。
「良かった。昨日の傷はしっかり癒えていたみたいだね。僕は
「あ、うん。あたしは
早速あたしは高速起動に入る態勢になる。隣で優男も弓を構えるが、あたしに一言告げた。
「僕は後方から支援する。昨日のように無茶しちゃ駄目だよ」
「――まあ、昨日は相手が強かっただけだし、今日は大丈夫でしょ。援護よろしく」
避難民が居ることから雑踏が生じ、気を練る辺りで気をつけなければならない。表の人間に勘付かれないように、闘争本能を静かに湧き立たせる。
自身の血が刀に流れると、そこから紅色の殺気を放ち始め、妖魔の視線を向ける。
相対して刀を振るい、一匹一匹と撃ち落とすように衝撃波を当てていく。後方では弓術に長けた優男が、負けじと飛来する妖魔を落とす。
やがて肉薄してきた鬼童の爪が優男を襲わんと振るわれると、あたしは刀を振り上げてそれを弾き、身体を霧散させて鬼童の態勢を崩させた。呼応して優男が零距離から矢を放ち、鬼童の息の根を止める。
「大丈夫?」
「う、うん。ありがとう」
彼の声音には少し震えのようなものが混じっていたが、特に気にせずに前方に向き直る。少し血を流しすぎたか、兵糧丸を一つ齧る。
「また、そんなに血を流してる……。そちらこそ大丈夫?」
「はは、あたしは大丈夫だよ。心配しなくていい」
ふと心配そうに声をかけてくるもので、つい面白くて笑ってしまった。
自分の力が自分の血を操る力だと説明すると、彼は不思議そうに首を傾げた。
「血社のように、自身が傷を負わなくても使えるもの、じゃあないのかい?そこまで傷付いてると、まるで死に急ぐように見えてちょっと怖いな……」
絶句した。
死地に立つ忍のはずなのに、まさか忍の死を心配するなんて。少しだけ腹が立ったので、迫りくる妖魔を見据えながら言い返してやった。
「――戦えば、どうしても血が流れる。あたしはこんな力持ってなくても、誰かを守るためだったらいくらでも血を流せる。……あんたもその覚悟があって忍になったんじゃないのか」
「そ、それは――」
口籠る優男に呆れたあたしは、向かってくる妖魔に対して駆け出した。
刀に付着した血糊を輝かせ、紅の衣を纏い、一匹、また一匹と、獲物を食い散らす獣のように妖魔をなぎ倒していく。
一匹の妖魔があたしの横を通り過ぎ、再び優男に牙を剥く。それをあたしは見逃さず、前方の妖魔を振り払い、後方を睨みつけた。
「【
緋色の瞳に圧倒された妖魔は、その攻撃を止めてこちらを向く。その隙に優男が妖魔を弾き、あたしがとどめに衝撃波を浴びせた。
「……死ぬ為じゃなく、守る為に血を流す。そんな戦い方をする奴だっているってことくらいは、覚えておいて」
優男はこちらを呆然と見ながら、何も返してこなかった。あたしは街に妖魔が居なくなったことを確認し、刀を納めて彼に手を差し伸べた。
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「苦しくないのかい。その力を持っていて、痛くはないのかい」
帰途の夜道で彼はあたしに問いかけた。
未だ彼は血の力を恐ろしい物だと考えてやまないらしい。あたしは面倒くさくなって、適当にあしらう事にした。
「わからなくていい。どうせあんたは持たない力でしょ」
本当の事を言うと、自分にもわからなかった。けれど、わからないなりに、自分の力の使い方はわかっているつもりだ。
誰かを守る為に、誰かを殺す。
安寧を守る為に、混沌を殺す。
無辜な人を守る為に、魔物を殺す。
たとえ、自身の血をいくら流そうとも。
あたしの刀は、守る為に振るわれる。それが魔王流である、あたし自身の流儀だ。
あれ以降、彼が話しかけてくることは無かったし、交流会でも彼と会うことは無くなった。
たぶん、あたしはこういう奴とは馬が合わないんだろうなって思った。ああいうのは、ちょっと珍しいタイプだろうけど。
今日、空に浮かぶ月は、上弦の三日月だった。
戦に向かない彼にはどうか、忍を辞めて隠れ里で静かに過ごしてほしいところだと、心の端で切に願う。