閑忍譚~カンニンタン~【シノビガミ 二次創作短編】   作:朱星リズ

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血社 ジュリエット・デ=メディシア

魔王流 赤穂津 紅(アコウヅ アカ)


「その瞳は紅玉(ルビー)の如く」

事のあらましはこうです。

 

あるところに、エリスと呼ばれる可憐なお姫様がおりました。

跡継ぎの男が生まれなかった王様は、お姫様を厳しく、王女のように育てました。

そしてエリスが18になった頃のある日、王様は街に婚約者募集のお触れを出しました。

婿になる者には、それなりの地位や権威を示す家宝である赤い宝石を託す、と添えて。

街の人は躍起になり、我こそは、我こそはとお姫様に求婚しました。

けれどお姫様は一向に首を縦に振りません。

それもそう。そこにエリスを本気で愛していると言う者は、誰一人居ないのです。

 

見かねた王様は、本気で娘を愛してくれる者を探すため、オーディションを開催しました。

しかし何ということでしょう。勝ち残った二人は、忍者だったのです。

忍者はあの手この手でお姫様の心を射止めようとします。そして最後に選ばれた魔王流(まおうりゅう)の忍は、宝石を持ちどこかへ姿をくらましてしまいます。

 

もう一人の忍は、宝石を手に入れるためにお姫様を(さら)い、魔王流の忍を待ちます。

しかし彼は帰って参りません。

 

ああ、なんて事!エリスは彼にすら愛してもらえなかったのです!

愛する人と引き換えに宝石を手に入れよう!と粋な取引を持ちかけようとした忍は興を削がれ、彼をおびき寄せるために、国民を皆殺しにする選択をしました――。

 

+ + +

 

「――そうして見事、忍をおびき寄せたにも関わらず敗北し、宝石を奪われた挙げ句、小国ごときに指名手配されてしまった、というわけだな……」

 

レポートをくしゃりと握り、上忍が厳しく私を睨みつける。当然も当然だが私達――隠忍の血統というものは、参ったことに鞍馬神流の剣技に弱い。だからこうも睨まれる筋合いなんて本当は無いんだけれども。

上忍は最近台頭してきた穏健派とは違う、どちらかというと私と同じような思想の持ち主だったから、ピリッと来て言い返してやった。

 

「……例えば。貴方が私と同じ立場だったらどうするの?国の人間の命と宝石を取引して、どのみち応じないなら一人ずつ殺して養分(エサ)にするでしょ?」

 

「まあ、それはそうだが」

 

「なら貴方も指名手配犯ね。あの子から受けた傷を回復するためにも、国民のほとんど殺しちゃったし、どうせあの国に私を追う余力なんてないわ」

 

過ぎた事を話して(いさか)うのも面倒なので、話を切り替える。

 

「というか。あの赤い宝石って、結局何だったの?」

 

「さあ。本部の連中曰く、シノビガミの復活に使われるもの――とかなんとか。『魔王流の手の者に邪魔をされた』と伝えれば、いつものように『()()降魔(ごうま)の者か』と悔しがるだけで済むだろう」

 

あの王家に伝わる、赤い宝石で飾られた首飾り。一見だと、少しばかりの魔力のようなものは感じられたけれど、本当にそれだけだった。

シノビガミを復活させるとは言っても、あれっぽっちでは、せいぜいその辺で死んでいたダニの死骸程度しか蘇らないだろう。

 

この後は特に用も執務も無いので、上忍と別れた後、少しあの小国の宝石について探ってみることにした。

とはいえ文献にも載っていない小国に伝わる宝石。

あまりにもネタがローカルすぎる。どう調べたものか。

 

追われる身ではあるが、もう一度あの国に赴いてみようと考えた。図書館でも何でもあれば、あの国の歴史くらいは探れるだろう。

 

+ + +

 

蝙蝠の羽を生やして、海山を越え、近場の森へと足をつける。どういうわけか鬼童(ゴブリン)が跋扈する森を抜け、街の一歩手前までやってくる。

あの惨劇の後であるから、街路はボロボロで、吸い上げ損ねた血糊も、未だ黒々と残ったままだ。

 

黒く変色して固まった血は、血社のほんの一握り、血を沸騰させる技術を持った者にしか吸うことができない。まあ、そんな技術を持った美食家に聞いたら「土の味がする」とかなんとか言ってたし、正直私は、そんな技術持っていたとしても吸いたくは無いんだけれど。

 

明かりが消えた街。唯一道を照らすのは、月の光だけ。もはや生きる気力も失せたのか、あるいは人はもうこの国を捨てて出ていったのか。家々から団欒の声は無く、煙突からは煙すらも上がらない。

寂しい街を歩きながら、図書館らしき場所を探る――と、ふと視界に嫌な明かりが見えたので、物陰に素早く隠れて様子をうかがった。

 

確かあの位置は、エリスの屋敷。けれどその周りに見えるのは、洋風な建築が立ち並ぶ街には似合わない、和風の旗に大掛かりな天幕。

旗には波打つ意匠の(つば)を、正面より見たような文様。見覚えがあるそれに息を呑む。

 

――先の虐殺を受けて、魔王流が復興支援を始めたか?

 

本当にそうなっていれば、この国は日本から少し遠い位置にあるとはいえ、鞍馬神流の勢力図を広げてしまったことになる。参ったな。

 

今回は忍務ではない、ただの私用での訪問なので、できる限り住民や魔王流の忍の目には触れないように行動したい。

しかし図書館か。この国の地理はあまりにも疎すぎるため、情報が欲しいところだが――。

 

「ちょっとあんた。何やってんの」

 

背後から声をかけられ、びっくりして尻餅をつく。見上げると、この国の人間ではない――日本人の赤髪の少女が、こちらに刀の切っ先を向けていた。

 

「はぇっ!?な、何!?驚かさないでよ」

 

「いや、こっちの台詞なんだけど?火事場泥棒が出ないかと警備してたら、あんたが隠れてんだもん。うちの本拠地に何か用?」

 

彼女は話が通じそうだと感じるので、自身の身分とある程度の経緯を誤魔化しながら、ここへやってきた理由を話した。

 

「……ええと、私は……カトリーヌ。外に出ちゃ駄目とは言われてたのだけれど、どうしても図書館で読みたい本があって……」

 

「図書館……?参ったな……あたしもここに来たばかりで疎いんだ。ええと……」

 

少女はスマートフォンを取り出して地図を開くと、画面と向かい合って首を傾げて唸りだす。

 

「……や、わからん。ちょっと待ってね」

 

そう言うと彼女は魔王流の本拠地に駆け出していった。

魔王流だったのか。応援を呼ばれるのもまずいので、さっさとこの場を離れるべきかと思い、本拠地とは逆方向に走る。

屋根に登ったところで振り返ると、赤髪の少女が戻ってきた。

 

「あっこら!!待て!!」

 

すかさず高速起動に入り、屋根を伝いながら少女を振り切る。彼女も負けじと高速起動に入って抜刀し、私を追いかけた。

 

+ + +

 

大きな洋風の城の壁を、ぐるりと回りながら駆け上がる。居城がある癖に屋敷まで持っているというのもおかしな話だが。ここに目当ての本があるだろうか。

入り込んだのは恐らく王女様の――未来のエリスの居室。厳しく娘の教育に力を入れたお母様がいたと聞いているので、宝石の文献なんかも置いてあればいいが。

潜伏術で気配を消しながら、暗い居室で本棚を物色する。

なるべく彼女が来る前に片を付けたいが――。

 

パラパラと(ページ)を捲り、ついに目当ての項目を見つけたところで、背後から気配を感じた。

 

「さー、追い詰めた。あんた忍だったか。所属は?」

 

「どこだと思う?」

 

ばさりと蝙蝠のように衣装を広げて宙に浮かぶ。

ああもう、本当はこんなとこで戦いたくないのだけれど。

 

「お目当ての情報は見つけたから、もう退散するわ。私今日は公務で来たわけじゃないし、余計に戦いたくないんだけれど」

 

「戦いたくないなら懐に入れた本を置いて行きな。というかあんた隠忍でしょ?この街は血社によって大打撃を受けた街なんだけど、活躍聞いて火事場泥棒に来たって、どうかしてない?」

 

「……『赤い宝石の謎が知りたいから文献があったら読ませてくれ』って、隠忍の忍に言われて貸し出す鞍馬が居る?」

 

間に沈黙が走り、お互いに睨み合う。赤く輝く彼女の髪と瞳は、血社のそれを彷彿とさせる。

 

()()()()()。けどそいつは、ここであんたを無慈悲にも捕まえなきゃいけなくなった。最後忠告だけど、戦いたくなければ本を置いて城を出ていきな」

 

「――イヤよ」

 

私の一言を受けて、彼女は腕からピシリと血を吹き上げ、それを全身にふわふわと纏わせる。

彼女も血を操る力を持っているようで、それは紛れもなく隠忍の力だった。

私は最も速い光速を出し、彼女から距離を取る。先日の忍務で散々刀術を見極められなかった私にとって、この戦いは不利戦だ。

 

「逃がすかッ!!」

 

彼女は私よりも速度は劣っているが、赤く染め上げられた刀を振ると、その斬撃は衝撃波を産み、光速を遥かに超える速度で私に迫る。

当然態勢を崩(逆凪)して避けられず、私は森の中に墜落した。

ふらりと立ち上がると、先程の彼女が目の前に立つ。血を欲するように赤く光る瞳をこちらに向ける彼女を睨み返す。

同じ血社の力を扱う魔王流――そう考えると、非常に悔しい思いが込み上げてくる。

今すぐこの場で負かしてやりたいが、この国の領土内であの虐殺を演じた雨をもう一度降らせたら、一巻の終わりだ。

 

だから――。

 

「【月蝕む朱き調べ(リピーテッド・ルージュ)】、赤く流るるは、甘美なる葡萄酒(Tasty Blood Tears, like a Bourgogne Rouge)

 

呪歌を歌った。

彼女が纏う血を、残らず吸い上げてやる。

思惑通り血を失った彼女は、その場に膝をつく。それを見た私はにやりと笑みを浮かべ、その場を幻で包みこんで、木々を掻き分けて飛び出した。

 

あの刹那だけでも勝った。今はそれで許してあげる。けれど次は必ず――。

 

+ + +

 

「――そうしてその本を回収し、追手を振り切ってこの居城に帰ってきた……というわけですね」

 

辺境の国にある、小さな領地。

メディシアの姓に与えられた丘陵(きゅうりょう)に、ひっそりと建つ私の城で、私は玉座について手に入れた本を読みながら、新たに秘書につけた少女にこれまでの経緯を話した。

 

「……やっぱり、剣術の訓練しといたほうがいいと思う?」

 

「――避けられない、ということはそういう事でしょうし、訓練を行った方がよろしいかと。()()()()()()()()()()()()()()()()()()に一太刀浴びせるためにも、主様には強くなっていただきたいところです」

 

「ありがと。今まで秘書にした子の中でも、それくらい厳しいこと言ってくれるのはあなたくらいだわ、ニーナ」

 

そうして、私は本をパタリと閉じると、玉座から立ち上がってそれを窓から投げ捨てた。

まさかあの赤い宝石が、代々伝わる魔力を帯びたものとはいえ、本当に大したことのないただのお守りだったなんて。

それをシノビガミ復活に使えると考える本部も本部だと呆れながら、私は飾り鎧が帯剣していた剣を引き抜き、ため息混じりに秘書に伝える。

 

「――この領地で、最も剣術に詳しい者を連れて来なさい」

 

次は絶対負けない。

隠忍の血を操れるだけの只人(タダビト)なんかに、遅れなんか取るものですか。

 

 

 

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