閑忍譚~カンニンタン~【シノビガミ 二次創作短編】 作:朱星リズ
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ハグレモノ 偲ノ海 靜(シノノメ シズカ)
唐突だが、数年前に一緒に入社した同期がどうしているか、と問われたら、あなたはどう答えるだろうか。
私達が身を置く忍の世界は、死を知らないようで、常に死と隣り合わせ。だから、同期や友人がどうしているとかは、知らないようにしている人が多い。そりゃあ、死なれたくないし、かといえば同流派とはいえ、敵対だってしたくないでしょう?
かくいう私は、別にそこまで隣人に興味は無いから、その日限りの関係で終わらせている。
ああ、でも愛してくれる人は別。リスナーのことは覚えてるし、もちろんあの日タダで抱いてくれた
けれどそこまで。それ以上はこの世に生きてる皆と同じ理由で、『怖いから』気にしないことにしてる。
ある日私は本部に呼び出されて、少し面倒な仕事を渡された。
内容は『追い忍』の仕事。
端的に言えば、抜け忍の始末。
今から2年前に、
方々に放っていた下忍がこの2年間足取りを探していたようで、ついにその糸口を掴んだそう。
曰くそこは、No.9の霧隠れの里。
その名を聞くだけで受けたくもない仕事だと誰もが思うわけだけど、どうやらその里の番を仕切っている忍が、私の同期であるということからの抜擢らしい。
その上、各流派が使用する新たな忍法の研究や、時姫拉致事件の後始末なんかもあって、普段追い忍として駆り出される忍者の手を借りられないんだと。
人手不足にしたって私が抜擢されるのも人選ミスな気がするが、生活の為に文句は言ってられない。
+ + +
首都圏から少し外れたところまで電車で揺られて、
あまり新しそうでない、少し朽ちた流木の上に座り込むと、綺麗な水平線が見えた。
「――はぁ」
思わず溜め息を漏らす。
目の前の光景が美しかったからか、はたまた忍務が面倒臭いからか、いろいろな感情が心の中でモヤモヤして、それが口から吐きでたような、そんな気分。
「どうしたの」
ふと左側から声を掛けられる。そちらを見ると、フードを被った何者かが座っていた。
殺気は感じない。けれどそれだけでなく、見えているはずなのに気配すら感じさせなかったそいつは、私の方を見ずに水平線だけをじっと眺めている。
あまりにも気味が悪かったけれど、悟られないように少し深呼吸して会話を切り出す。
「……抜け忍の里に行きたいのだけれど、道に迷ってしまって」
「そっか。それならこのまま道なりに歩けばすぐだよ」
あっさりと教えてくれた。
順風に身を任せて私はフードの彼に礼をいい、立ち上がる。
「――君、
鳥肌の立った足を止め、振り返らずに返答する。
やっぱり、忍が相手だと中々上手く行かないものだ。裏世界を生きる上で、上手く行き過ぎる話は、逆に信じないほうがいい、というのは常々思う話。
「……だから何?」
「それだけ。行っておいでよ、止めないから」
「止めないんだ」
「うん。だって
あまり長話しても仕方がないので、私は道なりに歩き、視界の先に見える山へと足を踏み入れた。
+ + +
舗装された道を辿り、そこから階段を登って自然路に辿り着く。歩いているうちに霧も深くなり、それでもまっすぐ、見えている木を頼りに、上に上に登っていく。
そうして、草をかき分け、木々の間を通り、獣道を歩いて――
――真っ白な視界を抜け出すと、やがて舗装された道路に出てきた。
指矩班と呼ばれる流派は、忍法の研究を主に行っている。
霧を扱うハグレモノの忍法、恐らくNo.9のそれは今はまだ全貌の解析に至っていない忍法だった。
個人が使う分には見切ることはできるが、どうにもこの霧――『
このままでは仕事が果たせないと思っていたら、フードを被った彼の声が聞こえてきた。
「帰る理由が欲しいかい」
声がする方へ振り返ると、そこは先程まで居た海岸だった。
水平線を背景に、彼がこちらを向いて立っている。
「――ん、まあ。無理だった、と報告するだけして帰れはしないけど。何かいい案ある?」
「君たち斜歯忍軍の忍は、『口封じ』と『情報収集』のために動いてるんだろ」
とんとん、と自分の胸に手を当てて彼は挑発する。
即ち、彼をここで捕まえて、斜歯忍軍に情報を吐かせる。確かに何かしらの収穫があれば、抜け忍を殺せずとも彼らは納得するだろう。
「抜け忍なんでしょ。そんなこと言っていいの?」
「利潤第一主義の連中に命を差し出すつもりはない。けど、君が面倒な仕事の責任を負わないように立ち回ることはできる」
面倒な仕事。心を見透いたような言葉を使い、彼は説得してくる。
私はそういう人間だ、ということをわかって持ちかけていることがわかるような言い回し。少し腹が立ったけど、確かに私は
「――ふーん。じゃあ、期待しちゃおっかな」
いい感じに縄にかけて、流派の人間に連絡し、ランデブーポイントを指定して引き渡す。
こうして無事、私の仕事は終わった。
+ + +
後日。忍務の進捗待機中に電話が入る。上司からだった。
「捕縛対象から霧の抜け方を聞き出した。よくやった。あとは我々に任せておきなさい」
彼、喋っちゃったのか。内心少しだけ残念に思いながら、ごろりとベッドに寝転がる。すると、立て続けに――今度は
『霧は晴れた。君のせいじゃない。』
報告書を作成するに当たって後に聞いた話だが、霧を抜けた先の隠れ里には、誰一人として人間はいなかったそう。
また、証人であった捕縛対象にも逃げられ、現在は正式に抜け忍として行方を追っているとか。
キーボードを叩きながら、ちょっとだけ口角が上がった。
お互い性格が悪いからか、はたまたお互いに協力し合えたからか。初めて同期を同期として意識できた気がした。