後、感想を書いていただけると嬉しいです。
筆者
「何だ?......ここ?」
目を覚まして出たのはそんな陳腐な言葉だった。
辺りは真っ暗で上手く身動きが取れない。
「何だこれ?邪魔だな。」
俺は動きを邪魔する何かを引き千切る様に力を込めた。
ブチ!ブチ!と音が鳴り両手が自由になると視界を覆っていた何かを顔から外す。
見るとそれは包帯の様でビッシリと何かの文字が書き込まれていた。
「うわっ....キモッ。」
嫌悪感から俺は身体に巻き付けられていた文字の書かれた包帯を兎に角、千切り身体を自由にする。
立ち上がろうと足に力を入れようとするが上手く行かない。
両足を見てみるとまるで細い棒の様に痩せ細っていた。
よく見れば俺の身体は細い....まるで何日間も飯を食べなかった様に
顔をに触れてみると濡れていた。
「俺が泣いたのか?」
何があったのか思い出そうとするが記憶に靄でもかかった様に何も思い出せない。
唯一覚えているのが自分の名前だ。
「俺の名前は.....
....何でそれしか覚えてないんだ?」
そんな事を考えていると外から物音が聞こえた。
その瞬間、立てなかった自分が嘘の様に立ち上がると周囲で暗い空間に身体を溶け込ませ息を潜ませる。
(何だこれ!?一体どうして?)
そんな事を考えていると物音は大きくなり扉が開け放たれた。
「
おられますか?」
焦った声の老人が話し掛けてくる。
(竜臣?.....でも一馬って俺の名前だよな?)
疑問に思いながらも俺は現れた老人の前に姿を現した。
俺の姿を見て老人は絶句する。
「一...馬..様!?...何とお痛わしい姿に..」
「貴方は....誰ですか?」
「覚えていらっしゃられないのですか!?
....いえ、申し訳ありません。
私の名前は
捨餓螺家.....貴方様の産まれた家に仕える者です。」
相手の名前を聞いた一馬の記憶が刺激される。
「源吾....!?
源爺か?」
「そうです一馬坊っちゃま!
源爺でございます!」
「そっか.....源爺なら...あん...しん...だ」
「坊っちゃま!」
源爺の姿を見て安心した一馬はそのまま意識を失うのだった。
次に目を覚ました一馬が見たのは外に作られた立派な枯山水だった。
その光景を見て一馬は懐かしさを覚える。
横を見ると点滴が腕に刺さっており輸液が繋がれていた。
「俺....生きてるんだな。」
安心感からか一馬の腹が鳴る。
(腹が減ったな....誰かいるかな?)
「あの....誰かいませんか?」
起きたばかりであまり大きな声は出せないが精一杯の声で尋ねると目の前の襖が開いた。
「坊っちゃま...お目覚めですか。」
「うん、源爺。
実は....」
「"分かっております"。
今、夕食を持ってきますのでお待ち下さい。」
源吾は全て理解したと言う顔でまた襖を閉め暫くすると御膳を持って部屋に入ってきた。
「一馬様は"何日"もお食事を取れなかったので胃が弱っている筈です。
苦しいでしょうがこのお粥から食事を始めましょう。」
「うん....あの...」
「"分かっております"。
疑問はありましょうが今は生きる為に食べないと行けません。
さぁ、お召し上がりください。」
一馬は源爺に言われるまま出された御膳のお粥を口に運んだ。
味も薄く子供には物足りない味の筈なのに口に運ぶだけで涙が出る程、美味しく暖かかった。
「う.....ぐすっ!?」
「一馬様....ゆっくりで構いません。
食べ終わるまで爺は待っていますから...」
一馬は涙を流しながら粥を食べ終わると泣きつかれてそのまま眠ってしまった。
「お痛わしい。
何故、一馬様がこの様な"仕打ち"を......」
源吾は怒りから歯を軋ませる。
すると、部屋に着物姿の女性が入ってくる。
目の前で寝ている一馬を睨むと源吾に顔を向けた。
「源吾...一馬から話しは聞けたのかしら?」
「"奥様".....一馬様は生死の境を彷徨っておられたのですよ?」
「関係ないわ。
一馬が苦しもうが死のうが...私には
「奥様!」
「源吾....貴方分かっているの?
捨餓螺家の当主である"捨餓螺 竜臣"が"複数の呪術師"を連れて消えたのよ?
そこに一馬がいたことは分かっている。
彼処で何が起きたのか知っているのは一馬だけなのよ。」
「ですが、一馬様はまだ幼く記憶が曖昧なのですよ。」
「なら、呪術師でも呼んで記憶を呼び起こさせなさい。
多少痛めつけてでも記憶を呼び起こせば少しは役に立つでしょう。」
「それはなりませぬ。
竜臣様から一馬様と二虎様には万が一にも危害を加えてはならないと仰せつかっています。」
「私は竜臣の妻よ!?」
「ですが、当主は竜臣様です。
貴方は奥様であり私が仕える主ではない。
.....違いますか?」
源吾の言葉を聞いて着物姿の女性は顔が怒りで歪む。
「....二虎が当主になったら後悔するわよ。
覚えておきなさい。」
そう言うと彼女は部屋からさっさと出ていってしまった。
「一馬さまの安否も聞かれないのですね。
一馬様も.....貴女がお産みになったお子の筈でしょう。
何故なのです。」
源吾は言い表せない怒りを心に残したまま眠る一馬を見つめるのだった。
一馬が目覚めてから数週間の時が立ち、漸くある程度の事情を理解することが出来た。
捨餓螺家は呪術師の中でも珍しい呪具を作る名家だった。
平安末期から呪術師に呪具を作っていたらしい。
その家の長男が俺なのだ。
因みに下には捨餓螺 二虎と言う弟もいるらしいのだが会わせて貰った事がない。
と言うよりも源爺以外の屋敷の人から俺は除け者扱いされていた。
父親がいた頃は当主である竜臣の言うことを屋敷の人は聞いていた。
だが、当主がいなくなると妻....所謂俺の母親が実権を握り俺を無視するように命令しているらしい。
何でそんな目に俺が遭っているのか分からないが良い迷惑だ。
そんな俺だが鬱屈した家から救ってくれる存在と手段があった。
"源爺"と言う存在と"呪術"についてだ。
源爺は俺がイジメや不等な扱いをなるべく受けないように動いてくれた。
そして、その中で呪術についても教えて貰った。
自分の持つ負のエネルギーである呪力を操作し術へと転換する。
呪力と呪術の訓練はいい気分転換になった。
今日も俺は呪力操作の訓練を行っている。
手に持った黒いボールを壁に向かって真っ直ぐ投げる。
だが、投げられたボールは四方八方に角度を変えて進みながら当初通りの投げた場所の壁に激突すると俺の手に帰って来た。
これも源爺から課せられた訓練でありボールに呪力を纏わせて投げる間に軌道を設定している。
複雑であればある程、ボールは意図しない方向に飛んだりするが最初の数回で完璧にコントロール出来るようになっていた。
源爺はそんな俺を見て才能があると誉めてくれたのが嬉しかった。
で、今はその訓練も飽きたから跳ね返ってくる軌道のコントロールも同時に訓練している。
やり方はシンプルで最初に軌道を設定した時の呪力操作をまんま反対にすれば良い。
源爺曰く、これを完全にマスターすれば"反転術式"とか言う技を使うのに役立つらしい。
(まぁ、それでも飽きては来るんだけどね。)
返ってきたボールを手に取った一馬はポケットを探り中から大量のスーパーボールを取り出した。
一馬はそのスーパーボールの全てに呪力を流し込むと壁に投げ付ける。
投げ付けられたスーパーボールは無軌道に跳ね回る。
一馬は手を開くとそこに一つのスーパーボールが戻ってくる。
それをまた投げ返すと今度は別のスーパーボールが一つ手元に返ってくる。
これが最近の俺の訓練だ。
無数のスーパーボールの軌道を"全て"操作する。
これが結構、難易度が高い。
連続でもまだ"15分"しか続けられない。
(目標は1時間だけど....これが出来たら次はどうしようかな?)
母親が手を回したせいで俺は呪術に関する講師をつけて貰っていない。(一般の学問は源爺が粘ってくれて何とか受けさせて貰っている。)
だから、源爺からの教えが俺の全てだ。
(せめて、自分の術式が分かれば....訓練ももっと考えつくんだけどなぁ。)
呪術師の素質がある人間は産まれた時から術式を持っているらしい。
俺にもあるらしいのだが自分で関知できない以上、全く分からない。
俺の術式については父親が秘匿にしていたらしく誰にも明かさなかったらしい。
(本当に面倒な事してくれるよ。)
そう心の中でボヤいていると背後に気配を感じた。
「はぁ....またかよ。」
最近、この訓練を遠くから見ている屋敷の連中が増えてきた。
「俺は見世物じゃねぇのに....」
何が面白いのかこんな事をやっている俺をバカにしたいのかは分からないが後ろからマジマジと見られるとぶっちゃけストレスが溜まる。
「"うっぜぇなぁ"。」
源爺から注意されているがそれでも悪態をつくのは仕方がないことだろう。
そんな事を考えているとスーパーボールの壁当てをしている場所に見馴れた黒いボールが通る。
そして、それを追いかける様に子供が中に入ってきたのだ。
「うわっ!?」
「やべっ!」
スーパーボールが子供に当たることが分かった一馬は黒いボールをポケットから取り出すと呪力を多めに込めて投げた。
子供の周囲を回る様な軌道で飛んだボールは子供に当たる筈だったスーパーボールを全て弾き飛ばした。
呆然とする子供に一馬は駆け寄る。
「ごめん!大丈夫だった?」
子供は驚きながらも答える。
「大....丈夫。」
「良かったぁ。
でも、いきなり飛び出すと危ないぞ?
君、名前は?」
一馬の問いに子供は答えた。
「二虎....です。」
「え?.....ってことは君が俺の弟?」
一馬の言葉に今度は二虎が驚く。
「僕が弟?」
「うん、俺の名前は捨餓螺 一馬。
一馬で良いよ。
漸く会えたよ二虎君。」
一馬は笑顔で手を差し伸べた。
二虎はその手を取る。
「改めてよろしくな。」
「......うん。
一馬....兄ちゃん?」
兄ちゃん呼びをされて一馬は嬉しくなる。
「良いのか俺を兄ちゃんって呼んでくれて?
.....俺ってさ何か家から嫌われてるじゃん?」
「母様言っていた。
一馬兄ちゃんは粗暴で悪い人間だって......でも、僕はそう思わない。
だって、一馬兄ちゃんは僕を助けてくれたでしょ?」
可愛らしく尋ねてくる二虎を見て一馬は神に感謝した。
(今回だけは感謝するよ神様。
俺にこんな優しくて良い弟を寄越してくれて.......
運は集束するって言うけどこの弟の為だったんだなぁ。)
俺が幸福に包まれた顔をしているのを疑問に思ったのか二虎が尋ねてくる。
「一馬兄ちゃんどうしたの?」
「いや、何でもな.....伏せろ二虎!」
一馬は二虎を屈ませると二虎の盾になる様に振り下ろされた"平手"を顔で受ける。
小さい身体では耐えられない衝撃で俺は地面投げ出され倒れてしまう。
俺の顔を叩いた"母親"は激昂した様子で俺を怒鳴り付けた。
「二虎に触るなこの"化物"がっ!!」
そうして母親は倒れる俺を見て泣く二虎を引っ張っていってしまった。
俺は空を見上げる。
クソッたれな気分なのに晴天な空を見てイライラが更に増大する。
俺は身体を起き上がらせると叩かれた頬に触れた。
咄嗟に呪力を流したのでダメージはない筈だが気分が悪い。
何でか俺を嫌ってくる母親.....俺の存在を悪く言われてそれを信じていた弟の二虎。
それに、俺を連れて何かしようとしていた父親....
何にも分からないのに変に決めつけられて不等な扱いを受ける。
誰も答えを教えてくれない。
一体何なんだよ?
俺が何かしたのか?
したならしたで教えてくれよ。
何にも分からないのに悪意だけぶつけられんのはストレス以外の何物でもねぇんだよ。
あー、クソだ。
何もかんもがクソだ!
さっきは感謝したが前言撤回だ神様。
もし、いるのなら何時かブチ殺す。
「はぁ本当に.....うっぜぇなぁ。」
小さく無力な今の俺にはそれを言うしか出来ることがなかった。
そうして時は過ぎていき俺が中学生、二虎が小学生に上がった頃、母親が家の者を呼び出してとある宣言した。
「次の当主に一馬は不適格です。
ですので私は当主代理として次期当主に二虎を推薦します。
勿論、このままでは双方共に納得がいかないでしょう?
皆様を納得させられる何かが必要な筈、
ですから、ここは一つ、呪具を製作して決着をつけるのは如何かしら?」
こうして、俺と二虎は当主争いの舞台に駆り出されることになったのだ。