悪童と呼ばれた呪具師   作:多趣味の男

10 / 34
五話 実戦(裏)

【禪院 直琵人の記憶】

 

直琵人は森の中にいる呪霊を瞬殺しながら"見えない敵"と対峙する。

「流石は禪院家の当主だ。

ここら辺の呪霊じゃ足止めにもならないか。」

「そう言うならお主が出て来たらどうじゃ?」

 

そう言う直琵人に見えない敵が返答する。

「そこまでバカじゃない。

アンタの投射呪法は近接戦において無敵の強さだ。

近付いたら死ぬ未来しか見えない。

精々、私に出来るのは呪霊を呼び寄せてアンタにぶつけるぐらいだ。」

「やはり、これはお前の術式か?」

 

「その通り私の術式は"香煙呪法"(こうえんじゅほう)

能力は呪霊を引き寄せる匂いを煙として放つことしか出来ない。

呪霊を祓う力もなければ度胸もない臆病者の術だ.....

 

だけど、この術は人を殺す事に関しては有用でね。

お陰で暗殺や事故を装った仕事が後を経たない。」

「ふん!やはり金に目が眩んだ"呪祖師"か。」

 

「何とでも言えば言い。

姿がバレなければ私の術式は最強だ。

呪霊は腐る程いる....まだまだ付き合って貰うぞ当主様。」

直琵人はその言葉を聞き苛立つ。

 

(ふん....こやつ始めから時間稼ぎが狙いだな。

無視して進もうとしても呪霊をバカみたいに呼び出して邪魔してきよる。

森の中で発見した呪術師の死体はこやつ等の仕業だろう。

 

中々に腕が立つようだ。

だが、時間もかけてられまい。

それに目的がもし湖を封印している呪霊ならば厄介じゃ......しょーがないちょっと無茶するかのぉ)

 

直琵人の投射呪法はアニメのフレームの様に自分の動きを秒間1/24フレームで作り再現できる。

通常の直琵人は脳の負担を抑える為、連続でのフレーム製作には制限をかけていた。

 

(今のワシの制作限界は"5秒"。

それ以上は再制作にラグか起こって身体が止まる。

つまり、"5秒刻みの行動"なら連続で動ける。

 

あやつの術式は範囲はそんなに広くない筈だ。

きっと近くに隠れている。

木が邪魔じゃな。)

 

直琵人は投射呪法で動きを設定する。

そして、その動き通りに身体が自分を中心に渦巻き状に回っていく。

その円は大きくなっていき通る道の木を薙ぎ倒す。

 

(まさか、私を探すために一帯の木を全部へし折る気か!?)

直琵人の行動が読めた敵は回避しようとするが直琵人の行動の方が圧倒的に速かった。

 

「え?」

「見つけたぞ。」

 

気付いた頃には自分の隠れていた木が倒され首を捕まれていた。

直琵人は首を締め上げながら言う。

「本当ならばお主から情報を引き出したいが時間がない。

殺すにしても時間がかかる。」

「あ....く.....」

 

「じゃから"こうする"事にした。」

直琵人は敵を少し投げると腕を構える。

「ワシはアニメが好きでのぉ。

最近見た作品で"敵を殴りながら前へと進んでいくシーン"があったのだ。

それを見てから一回はやってみたいと思っておった。

じゃからまぁ.....早々にくたばるなよ?」

 

直琵人はそう言うと投げた敵を両腕で殴りながら湖へと抜けるルートを突っ切っていく。

目の前にある木は敵共々殴り付けて粉砕していった。

 

そして、森を抜けて湖に到着するのにかかったのは"8秒"。

敵との戦闘時間は"30秒"。

 

つまり、直琵人が敵を倒すのに使った時間は合計で"38秒"だった。

"最速の術師"の名に相応しい戦いをした直琵人は術式を解きストレッチをする。

「痛たたたた....流石に殴り疲れたわい。」

さてと、湖は無事か.....の?」

直琵人は湖の祠に目を向けるがそこにあった祠は破壊され中にあった呪具が失くなっていた。

 

「やはり、盗まれておったか....ん?」

直琵人は背後に気配を感じ反射で蹴り抜いた。

その蹴りは当たるが受けた着物姿の女性は上空に飛び上がり首をかしげる。

 

そして、直琵人本人も自分の蹴りに違和感を覚えた。

(ん?....ワシの蹴りはあんなに"遅かった"か?)

 

その疑問に答える様に着物姿の女性が答える。

「わらわの匂いを浴びてどうしてそんなに"速く動ける"のかのぉ?」

「そう言うってことはこれは貴様の仕業か?」

 

「えぇ、その通り....わらわの身体から出る鱗粉を浴びた者は動きが遅くなる。

普通ならばまともな動作なんて出来なくなる筈なのじゃが....」

「お主はあの祠に封印されていた呪霊だな?」

 

そう尋ねる直琵人に呪霊が答える。

「いかにも....わらわの名は"寄蝕蝶"。

世界でもっとも美しい蝶の呪霊。

お主もわらわの庭で死を迎える事になる。」

 

「寄蝕蝶.....確か一級呪霊だったか?

相手にとって不足無し。

封印が解けてしまったのだここで祓ってやる。」

直琵人は何時もより細かく自らの動きを設定していく。

 

「ふむ....やはり投射呪法の密度を上げれば普通に動く分には申し分ないな。

だが、やはり遅い。

遅すぎてストレスだな。」

直琵人は地面を踏み上げて寄蝕蝶に接近する。

 

直琵人が振るった拳を寄蝕蝶は右腕でガードしようとするが直琵人の蹴りは右腕を砕き彼女の顔に直撃した。

吹き飛んだ寄蝕蝶だったがお返しとばかりに蹴った直琵人の足を掴み地面に振り下ろした。

 

直琵人は乱回転しながら落ちる身体を投射呪法でコントロールし両手足で着地する。

「やはり、威力が上手く乗らんのぉ....」

「わらわの顔を足蹴にするとは....決めた。

お主だけはわらわが醜く殺してやろう。」

 

「アホが....呪霊無勢が頭が高いんじゃ、貴様こそ祓い殺してやる。」

直琵人と寄蝕蝶は互いに相手を睨み付けるのだった。

 

 


 

【禪院 扇の記憶】

 

扇は屋敷で刀の手入れをしていると禪院の使用人が急いで現れる。

「報告致します扇様!

天若湖にて封印されていた呪霊が現れたのと報告が!?」

 

扇はその報告を聞いても驚くこと無く使用人に告げる。

「そうか。

確か、天若湖には兄上達が向かっている筈だ。

連絡は?」

「それが、湖を巡回している者も含めて全員連絡が取れなくなってしまい....どういたしましょう?

"炳と灯"は現在、他県の呪霊の対応に言っておりますし人手が.....」

「私が行こう。」

 

扇は手入れした刀を鞘に仕舞い腰に挿すと立ち上がる。

「扇様が行かれるのですか?」

「うむ、他の者への連絡を頼む。

兄上との連絡がつかないのは妙だ。

私が向かい確かめる。」

 

扇は使用人にそう言うと屋敷を後にする。

 

その移動中、扇は自分の表情を抑えるのに精一杯だった。

(ふっふっふっ....あっはっはっは!

やったぞ!

全て私の想像通りに進んでいる。

後は私が兄に代わり呪霊を祓えば誰が一番当主に相応しいか示せるだろう。

 

天逆鉾を奪う様に指示した呪祖師は私の手中にある。

現場につきそいつから天逆鉾を受け取れば私に呪霊の能力は効かない。

 

十分に勝算がある。

....ここから始まるのだ私が当主として禪院家を支配する時代が!)

 

この事態を引き起こした扇は己が当主となる目的の為に進み続ける。

例えそれにより家が破滅したとしても構いはしない。

当主となり兄よりも上に立てれば扇は満足なのだから....そんな考えを知らない禪院家の者は扇を兄を助けに行く人格者として誇りながら見つめるのだった。

 

 


 

【呪祖師の仲介人の記憶】

 

呪祖師の仲介人を担っている女性が地図や歴史書を広げながら違和感を覚えた。

 

「おかしい....辻褄が合わない。」

 

禪院家が呪霊を封印し守っている土地である天若湖。

この湖が出来たのは昭和36年、その時に天逆鉾を使い呪霊が封印されたとなっている。

 

そして、その影響で漏れ出した呪力が草木に染み込み呪力を持った花が産まれたとなっている。

 

だが、この花自体はこの湖で昭和36年よりも以前に"確認されていた"。

 

「禪院家が天若湖を買い取ったのは"昭和中期".....

だが、その前から呪力を持った花は確認されていた。

だとしたら、一体何処から呪力を吸収していたんだ?

 

もしかして、依頼人も私も大事な何かを見落としている?

これ以上、調べようにも情報がない。

......あまり、調べ過ぎると依頼人に不審がられるだろうけどあの呪祖師達をを失うのは惜しい。

 

はぁ、あまり借りを作りたくないですが....」

 

女性は携帯を取ると個人的に交流のある呪術師に連絡をかける。

相手は直ぐに電話に出てくれた。

 

「そっちから電話をかけてくれるなんて珍しいね?」

「ちょっとした用が出来てね。

貴方の家に天若湖についての歴史書はある?」

 

「歴史書?もしかして仕事関係?」

「あまり、詮索しないで欲しいんだけど.....」

 

「そうは言っても気になるなぁ......

でも、良いよ。

昔からのよしみだ調べて上げるよ。

でも、歴史書だけじゃ具体性に欠ける。

何を調べたいのかだけ教えてくれないかい?」

「それを教えて私に不利益がかからないって保証できる?」

 

「俺を頼る癖に随分と警戒するなぁ。」

「アンタには何度も辛酸を舐めさせられてきたからね。

少しの情報から自分にとって都合が良くなる様な答えを導き出せる。

その点は私は貴方に勝てないと理解している。」

 

「あれ?誉めてるそれ?」

「どっちでも......それより時間が無くてね早めに情報が欲しいんだけど」

 

「そう言うと思って家の資料室でもう調べてるよ。

天若湖は禪院家が所有している土地だ。

こっちにある情報も大した事は.....あーりゃりゃ、マジかこれ?」

「どうしたの?」

 

「今調べてたらどうやら天若湖は平安時代に禪院家との御前試合で負けたことで奪われた土地らしい。

つまりは、元々"僕らの管理する土地"だったって訳。

 

だとしたら、平安頃の資料なら.......あった!

 

.....成る程ね君の懸念が理解できたよ。」

「内容を教えてくれる?」

 

「勿論、結論から言えばあの土地には"禪院家も知らない呪霊"がいる。

この呪霊は平安の頃から存在している。」

「祓われなかったの?

強すぎる呪霊だったとか?」

 

「いや、呪術師にとって有益だったのさ。

この呪霊は呪力を"無限"に吐き出す。

御先祖様はそれを使って術や呪具に利用してみたいだね。

でも、御前試合で奪われたから呪霊の存在だけ隠したんだろう。」

「でも、それならどうしてその呪霊を禪院家は見つけられなかったの?

無限に呪力を吐き出すのなら当主が気付かないのはおかしいでしょう?」

 

「ここからは推測だけど....もしかしたらその呪霊の呪力を別の呪霊が吸収したんじゃないかな?

そしてその呪霊が今、封印されている呪霊だった。

 

だからこそ、天逆鉾を使い封印しても呪力が地面に流れた。

天逆鉾が封印しているのはあくまで表の呪霊であり裏で呪力を垂れ流している呪霊を縛る力は無かった。」

 

「確かにそれなら説明がつく。

....なら、余計に不味いわね。」

「やっぱり、何か厄介ごとに巻き込まれてるのかい?

手を貸そうか?」

 

「いらない。

余計な手出しはしないで」

「君は相変わらずだねぇ....そんなんだから婚約者の一人も出来な....」

 

「今すぐ死にたい"三ツ木"?」

「おぉ、怖っ!

....まぁ、兎に角そんな感じだから天若湖での仕事を受けているのなら降りた方が良い。

もし、僕の仮説通りなら呪力を喰らっている呪霊が祓われたら危険だ。

 

呪霊にとって呪力は自分の力だ。

本来、他人に分け与えたりなんかしない。

それをするって事はそうしないと増え続ける呪力に身体がもたなくなるからだ。

 

共生関係が崩れたら呪力が増え続けて肉体が持たなくりもし爆発する程の状態になったら大惨事だ。

そうなったらもうどうにも出来ない。」

 

「......情報提供感謝するわ。

その呪霊について他に分かっている事は?」

「呪霊の名は"肅"(しゅく)

平安頃から存在を確認されている"特級呪霊"だ。」

 

 

電話を切った女性は直ぐに依頼を送った呪祖師に連絡を送る。

 

 

 

 

 

 

【件名 緊急事態】

 

依頼内容に重大な違反行為を確認しました。

そこでの依頼は危険です。

直ぐに放棄してください。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。