悪童と呼ばれた呪具師   作:多趣味の男

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六話 信頼(表)

一馬は碼鶴が放つ毒による弾丸を盾の呪具で防御していく。

(威力はあるが所詮は水の塊だ。

貫く程の力はない....そして戦ってもう一つ分かった。

碼鶴は呪力がそんなに多くない。

明らかに戦いを長引かせる行動を減らそうとしてる。

 

このまま、直琵人が来るのを待つのも一つの手か?

こっちの策も甚爾が準備出来なきゃ動けない。

だが、呪具のストックはある。

 

このまま、時間稼ぎに徹するか。)

 

一馬はそう考え碼鶴と一定の距離を取る。

対する碼鶴は一馬のその行動を見て考えを理解する。

 

(あのガキ....時間稼ぎする気だな?

て事は俺の呪力が少ないのバレてんなぁ。

時間稼いでの援軍待ち....戦略としては悪くない。

対して俺はあの盾を貫く呪力も無いし挑発して罠にハメるのも難しそうだ。

 

あー、本当に最近の呪術師は優秀だな嫌になる。

っと...現実逃避はこれぐらいして真面目に考えるか。

湖から呪具を取り外して既に10分は経っている。

ここに長居するのは危険だ。

 

ここで取れる最善の手は.....)

 

そうして考えが纏まった碼鶴は一馬に話し掛ける。

 

「君、思ったよりもやるね。

禪院の呪術師見習いかと思って舐めてたわ。」

「口調がブレてるぞ?

最初みたいに小馬鹿にしないのか?」

 

「して効果があるならやるが....お前には意味無さそうだからな。

こっからは真面目に話すさ。

それにしても俺のトラップ(甚爾が喰らった爆発)に良く気付いたな?」

「お前の手から細い糸の様な呪力が見えた。

それで何か仕掛けていると感じたそれだけだ。」

 

「随分と目が良いな。

だが、糸じゃねぇ....正確には"水"だ。

俺の術式は"雨水操術"(うすいそうじゅつ)

呪力を込めた水を操る能力だ。

お前達に撃っていた攻撃は呪力を込めた毒を球状にして放っただけだ。

 

薄々感づいているとは思うが俺の持っている呪力量はそこまで多くない。

本物は周囲に呪力を流して雨や川に流れる水を操る術式だ。

 

だが、俺が操れるのも精々、試験管に入る位の"少量の水"が精一杯だ。

 

そんなもんだから家ではよくバカにされてたよ。

"まともな呪霊も倒せず術も生かせないロクデナシ"ってな。

 

でも、そんな俺でもちょっと工夫すればこの術を生かせる事に気付いた。

その答えが毒さ。

少量でも人体に入れば忽ち御陀仏。

試験管の量すら要らないほんの一滴で人を殺せる。

 

非術師には防ぐ手段も無い。

想像してみろよ?

俺が持っていけば良いのは試験管に入る量の毒で注射器も要らない。

 

金属探知機には勿論、引っ掛からずちょっと遠くから毒の球をターゲットに撃てばお仕事完了だ。

そのお陰もあって裏の世界ではかなり重宝された。

 

家を追い出されたのも今まで生きてこれたのもこの力のお陰ってのは皮肉が効いてるけどな。」

 

「何故そんな話を?

自分の術式をバラすのにメリットがあるとは思えないが?」

「何だ知らないのか?

まぁ良い教えてやるよ。

呪術師がレベルを越えた強さを出すには原則二つの方法しかない。

一つは"黒閃"(こくせん)と呼ばれる奇跡みたいな現象。

打撃と呪力が衝突する誤差が0.000001秒以内だと発生する。

 

これを使うとスポーツで言うゾーンに入った状態となり呪力操作の感覚が段違いに上がり強くなる。

だが、こんな奇跡に奇跡を掛け合わせた様な現象は偶然でも意図的でも起こることは無い。

 

だからこそ、確実に強くなる為に考えられた方法が"縛り"だ。」

 

「縛り?....あれは他者との関係を呪術的に縛る制約の筈だ。」

「まぁな。

だが、この縛りは"自分に対しても行える"んだ。

自分の行動や能力を縛ることで短時間だが術式を強化出来る。

俺はお前に自分の生得術式について明かした。

そして、攻撃方法である毒の事もな。

 

縛りによってこれだけ明かした事でどれだけ術式が強くなると思う?」

 

そう言うと碼鶴は無言のまま指を向けるとさっきとは比べ物にならない速度で水の球が放たれ盾を貫通し後ろの木にすら着弾した。

 

「正解は"無言のままお前の盾を破壊する"程、強くなる....だ。

そして、こっから更にダメ押しだ。」

碼鶴はそう言うと背中からガスマスクを取り出し顔につける。

 

そして、懐から"黄色い液体"が入った試験管を取り出す。

 

「歴史の授業だ。

第一次世界大戦でその有用性が検証され大国がこぞって作った兵器はなーんだ?

 

正解は"毒ガス"だ。

コイツはマスタードガスとも呼ばれる毒ガスの中で最も人を殺した武器だ。

皮膚や気管に触れたら最後、その部分は焼け爛れた様に炎症し死に至る。」

 

碼鶴からそう説明を受けた一馬は戦慄する。

(奴の話が本当ならあのガスは少しでも吸い込んだらアウト。

当たってもアウトだ。

どうすれば良い?...縛りで術が強化されているのなら逃げるのも時間稼ぎもアウトだ。

 

俺の残っている呪力から考えても上手く行く筈が無い。)

 

一馬の転魂術式は利便性がある反面、呪力消費が大きい。

拡大術式ならば複数回使用しても問題ないが呪具転生の様な術式は1日2回が限度だ。

 

(甚爾を助ける為に一度、呪具転生を使ってるもう一度、使えば呪力がスッカラカンになる。

 

甚爾の奇襲も近付かないと効果は無い。

それなのに相手は毒ガスになる液体持ち.....攻め手が無い。)

 

そう悩んでいても戦闘はもう始まっている。

話し合えた碼鶴は指を一馬に向けた。

反射的に一馬は盾を離し走り出す。

 

碼鶴から放たれた毒液は盾を貫通した。

「その判断は正しいぞ?

盾で防いでも貫通しその場所に留まれば毒ガスの餌食になる。

走って場所を変えるのが正解だ。」

「うっせぇんだよっ!」

 

一馬は逃げながら元の大きさに戻したナイフを碼鶴に投げ付けた。

碼鶴は投げられたナイフに毒液を的確に当てることで推力を殺し地面にナイフが落ちた。

 

「!?」

「これは言ってなかったが縛りは術式の操作性も向上させる....こんな風になっ!」

 

碼鶴は一馬の顔面付近の木に毒液を着弾させる。

(毒ガスが!?)

 

急いで口を塞ぐ一馬だったが返ってきたのは碼鶴の蹴りだった。

顔を蹴られてバランスを崩し地面に倒れ込む。

「それは単なる"黄色い水"だ。

本物はこっちだよ。」

 

そう言って碼鶴は一馬の左肩にマスタードガスの毒液を発射する。

着弾した一馬は即座に右手にナイフを取り出すと毒液が当たった部分を斬り取ると距離を取った。

 

痛みを歯を食い縛って我慢しながら碼鶴に目を向けつつ反転術式を発動し止血だけする。

「反転術式まで.....マジで優秀なんだなお前は」

碼鶴は一馬を誉めるが当の本人に答える余裕はない。

 

(今の俺の反転術式の精度じゃ傷を塞ぐ事は出来ても治療は出来ない。

肩の肉ごと削ぎ落としたから左腕は動かない.....クソッ!殺しの経験値が違い過ぎる。

 

こんな奴に"あの奇襲"が通じるのか?)

 

それは禪院での集団戦で一馬と甚爾がよく使う二人だけの十八番だった。

お互いが最も得意としており信頼が必要な戦術。

 

(不安はある....だがやるしかねぇ。

失敗したら甚爾の命も危険になるんだ。)

 

一馬の決意に満ちた目を見た碼鶴は尋ねる。

「まだ、諦めねぇのか?

大した奴だよお前.....」

「伊達に"悪童"と呼ばれてないからなっ!」

 

「何だよそれ?」

碼鶴が疑問を浮かべていると一馬は碼鶴に向かっていつの間にか持ち変えていた鎖分銅を碼鶴に投げつける。

狙いが身体の中心から"ズレていた"ので碼鶴は軽くかわす。

 

「それが最後の反撃か?

どうせまだ何かあんだろ?

取り敢えず"ソレ"邪魔だからぶっ飛ばすわ。」

 

碼鶴は的確に一馬のショルダーバッグの金具を破壊しバックを一馬から遠くへ吹き飛ばした。

 

(これで詰みだ。)

 

呪具を奪った碼鶴は左手に持っていた試験管から毒液の球を生成しようとするが突如何かに引っ張られて中断する。

 

目を向けるとそれは先程、一馬が投げた鎖分銅だった。

左腕に何十にも巻かれておりその端の分銅を"甚爾"が握っていた。

 

「何っ!?」

「今だ一馬っ!」

 

甚爾の声を受けて一馬は拡張術式の一つを発動させる。

 

「"拡張術式"....."拡停"(かくてい)

 

この術式の能力は持っている呪具の大きさを一瞬の内に小さく出来る。

それは腕に巻かれている鎖にも適応し鎖は小さくなり短くなるとその勢いのまま碼鶴の"左腕を切断"した。

 

「がっ!?」

 

痛みで碼鶴は声をあげて左手に持っていた試験管は地面に落下する。

それを一馬ギリギリで手に触れた。

 

「呪具転生!」

 

一馬が術式を発動したことで毒液に付与されていた呪力が反応し試験管は形を変えガラス製のサイコロに姿を変えた。

(これで、毒液が漏れる心配はない。)

 

そう言って安心する一馬だったが戦場での一瞬の油断が致命的な結果を生むことを彼は忘れていた。

 

「痛いじゃねぇかクソガキ。」

 

腕を失った碼鶴は残った右手に武器を持つと倒れている一馬に向かっていく。

 

(防御しないと!?)

 

一馬は残った僅かな呪力を使いショルダーバッグから予め取っておいた武器を元の大きさに戻そうとする。

 

しかし、碼鶴の持っていた武器に"触れる"と一馬の呪具に掛けていた一馬の術式が消し飛ばされた。

 

「何で!?.....しまっ!」

 

驚く間も無く一馬の腹部へと碼鶴の持っていた武器が深々と刺さった。

 

「ボガハッ!」

 

一馬の口から大量の血が溢れ出し彼は膝を着いてしまった。

 

 

 

甚爾は一馬との連携で碼鶴の腕を切断した瞬間、勝ちを確信し安心してしまった。

故に気付くのが遅れてしまったのだ。

 

目の前に写ったのは自分を助けてくれた恩人でもある親友、一馬が刺され口から大量の血を流している姿....

 

それを見た甚爾は自分の中の何かが"千切れた"感覚を味わった。

その瞬間、思考よりも速く身体が動く。

 

「俺の親友(ダチ)に何してくれてんだ?」

 

それだけ言うと俺は一馬を刺したクソ野郎に一瞬で近寄ると顔面を殴る。

何時もとは格段に違う威力に自分でも驚く。

 

だが、そんな事は今はどうでも良い。

俺はただ、コイツを殺したい....それだけだ。

 

甚爾は碼鶴の身体を両足で捕らえると両手を地面に着けて思いっきり地面を押し上げた。

その推力を足に流し込み碼鶴の胴体を蹴り上げる。

 

大人である碼鶴の身体はまるで人形の様に空中へと浮き上がった。

甚爾は体勢を戻すと一馬から渡された武器に触れる。

 

 

「ナイフか?これ」

 

出発前、一馬が甚爾に渡した両足の太腿に付けられた武器の一つを手に取る。

 

「そう、お前ってさ天与呪縛で身体能力が普通の人間よりも頭を5~6は飛び抜けてるだろ?

そんなお前なら銃よりも"投げナイフ"の方がダメージも使い勝手も良いと思ってな。

まぁ、急だったからナイフは呪具じゃないけど....」

 

「いや、それにしたって多すぎだろ。

何本あんだ?」

「片足に20本で両足合わせて40本かな。」

 

「俺をナイフの曲芸師にでもするつもりかよ。」

「失礼な。

ちゃんと一本一本、甚爾の手に合う様に調整してるぞ?」

 

「気にするとこそこじゃねぇよ。

....まぁでも何だありがとな。」

「え?何々....よく聞こえないなぁ。」

 

「調子乗んなアホ。」

そう言いながら二人で笑い合っていた。

 

 

だが、今の甚爾の顔は怒りに満ちていた。

 

「テメェは許さねぇ...死ね。」

 

甚爾は両足のナイフを空中にいる碼鶴に向けて高速で投げ続けた。

威力と精度を備えたナイフは碼鶴の"額と心臓".....そして全身に有らん限り突き刺さると地面に落ちた。

 

甚爾は一馬の様子を見ようとするが覚醒した甚爾の聴覚は碼鶴の呼吸音を聞き警戒を緩めない。

 

「まだ死んでねぇのか。」

 

甚爾の言葉で死んだフリをしても意味がないと悟ったのか。

両足に刺されたナイフを抜きながら碼鶴は立ち上がる。

 

「かふ!....いや、結構ギリギリだ。」

「頭と心臓にナイフを刺したんだぞ?」

 

「俺は殺し屋だぜ?

同然、その二ヶ所には対策を取ってる。

このガスマスクと服は特別製でな。

急所に水銀を埋め込んでる。

 

俺の術式で強化すれば致命傷は避けられるって寸法だ。

だがまぁ、衝撃は逃がせねぇからな。

頭がフラフラするぜ.....」

「どっちでも良い。

生きてるならさっさとトドメを....」

 

「良いのか俺に気を取られてて?

このままだとお前の友達死ぬぞ?

反転術式が、使えるようだがそいつを刺すのに使った。

天逆鉾は術式を強制解除される能力がある特級呪具だ。

 

このまま放置すれば手遅れになるかもなぁ.....」

「!?」

 

「さぁどうする。

俺を殺すか?それとも友達を殺すか?」

碼鶴はそう尋ねてくるが甚爾の答えは言うまでも無かった。

 

一馬に顔を向けると甚爾は言う。

「一馬、よく聞け。

今からその腹に刺さってる呪具を抜く。

だから、気張れ....死ぬな!」

 

一馬は薄れる意識の中、頑張って頷く。

甚爾も覚悟を決めると一気に天逆鉾を引き抜いた。

傷口から漏れる血を甚爾は抑える。

 

そこに一馬が手をかざし反転術式を発動しようとする。

だが、上手くいかず血が止まる気配は無い。

「クソッ!何で止まんねぇんだよ!」

「呪...力..が...足りない...ん...だ。」

 

「呪力だって!?.....ならどうすれば」

「俺の....バックに....薬が...」

 

「バック...バックだな?」

甚爾は碼鶴が吹き飛ばしたショルダーバッグを探すとそれを持って一馬の元に戻ってきた。

 

「どれだ!」

「瓶に...入...った...」

 

「瓶だな?....これか!」

甚爾はバックから緑色の小瓶を取り出す。

一馬はそれを受け取ると一息で飲みきった。

 

「!?....ゴホ...ゴホッ!」

「一馬!」

 

「大....丈夫..だ。」

一馬はそう言うともう一度、反転術式を発動した。

すると、先程と違い傷が塞がり出血が止まる。

 

「ハァハァ....助かったぜ甚爾。」

「....ったく、ビックリさせんなよアホ。」

 

甚爾は安心したのか地面に尻餅を着くのだった。

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