悪童と呼ばれた呪具師   作:多趣味の男

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第七話 真相(裏)

【禪院家での記憶】

 

何故だ兄上!どうして捨餓螺 一馬を帰したのだ!

詰め寄る扇に直毘人は酒を飲みながらウンザリした顔で告げる。

 

「五月蝿いぞ扇。

そんなバカデカい声を出さんでも聞こえとるわい。」

「捨餓螺 一馬が天若湖での特級呪霊の一件に関わったのは兄上も分かっているだろう!

あの呪霊は現れた直後、帳を降ろしていた。

呪力がない半端者(甚爾)に祓うことは不可能だ。

 

ならば可能性は一つ。

捨餓螺 一馬が呪霊を祓う又はそれ同等の何かをしたのだ。

もし、そうならば禪院家として調べる必要がある。」

 

「何故、調べる必要がある?

一馬とワシは縛りを結んでおる。

そんな事をしなくても良いだろう。

 

それに甚爾が言った事を嘘と考えるのも軽率だと思うが?」

「!?.....兄上は弟ではなくあの半端者の肩を持つのか?」

 

「そう言う訳じゃない。

それにな今回の一件は我ら禪院家にとって不利益は少なかった。

湖に封印されていた呪霊がいなくなったから封印に使っていた天逆鉾の回収も出来た。

 

それに甚爾の枷も外れた様だしな。

お前も気付いているのだろう扇?」

「それは!?」

 

「我々、御三家は平安時代から呪術について研鑽と知識を深めてきた。

その一つが天与呪縛であり甚爾が手に入れたフィジカルギフテッドだ。

 

呪術師が術師として覚醒する近道が"黒閃"だとすればフィジカルギフテットが覚醒するのに必要なのが"枷の開放"じゃ.....

 

先天的でも後天的にしても人は産まれながら自分で自分の身体を壊さないように潜在能力に枷という名のリミッターを掛けている。

 

フィジカルギフテットにとってこの枷はあるだけ邪魔なものだがこの枷を外すことは黒閃と同じくらいには難しい。

だが、甚爾はこの一戦で枷が外れた。

 

あやつはこれから強くなるぞ。」

「だが、奴に呪力も無ければ術式もないんだぞ?」

 

「甚爾と一馬とは仲が良い。

きっと甚爾が頼めば一馬は奴に最高峰の呪具を作るだろう。

現に今回の討伐でも甚爾の武器は一馬が用意していた。

 

一馬の作った呪具を甚爾が使いこなせば一級....いや特級クラスを祓うのだって夢じゃないだろう。」

「術式が使えない半端者にそこまで期待するのか?

それは禪院家当主の発言として見過ごせないが....」

 

「ふん!勘違いしておるようだから言っておくがワシにとって強く呪霊が祓える奴ならば術師でなくても禪院の益になるし名を名乗ることも構わないと思っている。

 

禪院家にとって力が全てだ。

術式や呪力が無かろうと強い奴ならば問題はない。」

「くっ!」

 

「それにな扇....ワシはそんな事よりももっと調べるべき事があると考えておる。

一体誰が、天逆鉾の事を呪祖師達に教えたかだ。

 

奴等はワシが来ることを知っている口ぶりだった。

甚爾の話では天逆鉾についても襲ってきた呪祖師は知っていたらしい。

 

呪具の名前や能力は禪院家の資料にしか書かれてなかった筈だ。

となれば禪院家に裏切り者がいると言う話になる。」

「呪祖師が事前に調べて知っていた可能性があるだろう?」

 

「ほぉ....確かに天逆鉾は禪院以外の御三家にも資料はあるだろう。

だとしても呪具を奪い呪霊を蘇らせることに何のメリットがある?

 

当主達も一馬との縛りを交わしている。

余計な手出しをすればどうなるか分からんバカはおらん。

家に忍び込んで調べたのだとすれば御三家を出し抜いて情報を集められる程、有能な者が敵となるが.....そんな心当たりがあるか扇?」

「........」

 

「なぁ、扇.....ずっと気になっておったんだ。

一体、お前は何処で"湖に封印されている呪霊が特級"だと知ったのだ?

 

禪院家の資料をワシも探ったがそんな情報は何処にも載ってなかった。」

「それは....後日、話を聞いて」

 

「お前は湖で一馬に詰め寄る時に特級とハッキリと言ったぞ?

おかしいのぉそれでは辻褄が合わない。

 

もし、湖の一件が起こる前....それこそ湖に向かっている最中に知ったのだとすれば裏切り者はお前だとなるが......どうだ扇?」

「それは.......」

 

「勿論、これは"ワシの勘違い"だろう。

だから一馬や誰かが雇った呪祖師達に関しては調査は要らないと考えておるが....どうかの扇?」

 

暗に直毘人から出された条件を聞き扇は打つ手無しと理解したのかこれ以上の介入は諦める。

 

「兄上の言う通りだ。

この一件はこれで終わり....これ以上は何もしない。

約束する。」

「理解してくれて嬉しいぞ。

優秀なお前の事だ。

特級呪霊についても独自に調査して気付いたのだろう。

そう言う事で話を進める。

 

では扇、この事を他の者にも伝えろ....良いな?」

「承知した兄上。」

 

扇は苦虫を噛み潰した様な顔をしながら部屋を出ていくと直毘人は持っていた酒を煽るように飲み干した。

 

「そんなに当主の椅子が欲しいか扇?

.....はぁ、こんな下らん席など何時でもくれてやりたいが奴は弱いからのぉ.....当主の器として不適格じゃ」

 

目的のためなら清濁合わせ飲みながらも譲れない信念を持ち続ける。

 

直毘人が当主に必要だと思うこの才を扇が持っているかと言えば否と言わざるを得ない。

本人は上手く隠しているつもりなのだろうが当主の座を欲しているのは直毘人にも分かっていた。

 

だが、直毘人は扇に当主の座は渡せない。

 

直毘人にとって譲れない信念とは"力"。

どんな理不尽もその者が持つ力の前ではまかり通る。

禪院が術式を持つ者を優遇するのも力があるからだ。

 

直毘人も力があるから当主として認められている。

 

(それは扇も分かっている筈なのだろうに.....いや、分かっていても見ようとしていないのかもしれんな。)

 

扇のやった行為は禪院家に対する裏切り行為にも等しい。

だが、それでも直毘人は扇を処断する気にはなれなかった。

 

どんなに愚かでも直毘人にとって扇は弟なのだ。

(そう言う意味ではワシも当主としては甘いのかもしれんのぉ......)

 

直毘人は己の弱さを忘れる様に酒を喉に流し込むのだった。

 

 

 

一馬がいなくなると甚爾はまたイジメの標的になった。

だが、当初と違うところは売られた喧嘩は買い、二度と反抗したく無くなる程、ボコボコにしているぐらいだ。

 

それを諌めようとする者も問答無用にボコボコにしていたら統率が取れなくなり上の者が出張ってくるのは当然だった。

 

甚爾よりも一回り大きい男が彼に話し掛けてくる。

「いい加減にしろ甚爾。

俺の弟だからと言ってこれ以上の勝手は許さない。」

「久々に話した弟への第一声がそれかよ"兄貴"。

.....いや、"甚壱"様とでも呼ぶべきか?」

 

彼の名は"禪院 甚壱"(ぜんいん じんいち)

甚爾の兄であり術式を持たない呪術師で構成された禪院家の下部組織である躯倶留隊の統括もしている。

 

「お前が天若湖での一件で呪術師としての殻が剥けたのは知っている。

だが、それでもお前は呪力を持たない禪院では半端者と呼ばれる存在だ。

 

故に呪術を持つ我らに恨みを持つのは勝手だがそれで躯倶留隊の者に迷惑をかけるな。」

「あ?

何を勘違いしてるのか知らねぇが.....お前らに恨みや興味は欠片もねぇ。

 

ただ、ちょっかい掛けてくる連中への対応を変えただけだ。

毎度毎度、来られるとウザいからな。

 

二~三度ボコせば落ち着くと思ったんだがな。」

「ならば何故、対応を変えた?

お前は基本、全ての者に無関心だった筈だが.....」

 

「別にお前に話す事じゃねぇ。

用件はそれだけか?

そんな事に気を取られる程、今の俺は暇じゃねぇんだよ。」

「待て.....そこまでの威勢を吐くのなら相応の覚悟は出来ているんだろうな?」

 

「あ?今度はアンタが俺のイジメに加わるのか?」

「違う。

良いか?......この呪術師と言う世界には生まれながらにして差と分を弁える事が必要だ。

 

お前がどれだけ身体能力が高かろうと術式が無い以上、お前の立場でこの場では最も低い。

それを理解し分を弁えた行動をするのが禪院に名を連ねる者としての"基本"だ。」

 

甚壱の言葉を聞き甚爾は尋ねる。

「つまりはこう言うことか?

この修練場に置いて最も位が高いのはアンタだって言いたい訳だ。」

「そうだ。」

 

「アンタって確か呪術師としての位は一級だよな?」

「それがどうした?」

 

「なら、アンタに"一発"でも攻撃を当てられたら俺は一級にも攻撃できる人間になるわけだ。

そうなれば煩わしいちょっかいも減るだろうな。」

「....俺に一発当てるだと?」

 

甚壱は弟からの不遜な態度に呪力を開放させる。

「良いだろう。

お前が俺に一発でも効かせられる攻撃を与えられたのならその態度を許そう。

 

だが、それが出来なければその罪を"命"で支払って貰う。」

「要は殺すってことだろ?

OK....それで行こう。」

 

二人の会話を聞いていた周りは状況を理解すると遠くに離れたそれを合図に動き始める。

 

先手を取ったのは甚壱だった。

自分の背後に呪力で巨大な腕を大量に顕現させると己の拳打の動きとリンクさせる。

 

呪力が見えない甚爾にとってその攻撃は不可視から落とされる連撃となる筈だった。

「ん?...不味いな。」

 

甚爾は枷が外れた事で五感が強化され呪力もぼんやりとだが見える様になっていた。

 

甚壱の背後に出現したデカい腕がこちらに襲いかかってくるのが見えた甚爾は当たる面積を減らす為、姿勢を低く両手が地面に付きそうな程に身体を倒す。

 

獣の様な体勢から甚爾は足に力を込めて加速すると甚壱の攻撃を回避していく。

 

「貴様っ!俺の攻撃が見えるのか?」

「どうやらそうらしいな。」

 

驚く甚壱との距離を一気に潰した甚爾はそのまま徒手空拳による戦闘に移行する。

甚爾の放つ拳を甚壱は肩でいなしながら防ごうとする。

 

しかし、予想よりも強い威力が肩を襲い甚壱は即座に肩に呪力を流し込み防御しながら正拳突きを放つ。

 

甚壱の正拳突きを甚爾は両腕をクロスガードし受ける。

こちらも呪力を纏い威力が底上げされており甚爾は先程まで詰めた距離をまた空けられてしまった。

 

甚爾はクロスガードした両腕を回しながら言う。

「相変わらずの馬鹿力だな。

俺じゃなかったら両腕が折れていたぜ?」

「天与呪縛があるのだ。

これぐらい耐えられるだろう?

どうやら、俺はお前を少々侮っていた様だ。

 

予想よりもその力は強くなっているようだな?」

 

「ってことは俺は合格で良いのか?」

「あの程度の攻撃ならば何発打たれたようが効かん。

俺を認めさせたいなら納得させるだけの攻撃をする事だな。」

 

甚壱はそうは言ったが実際は甚爾から受けた攻撃により肩にちゃんと痛みが起こっていた。

だが、それを認めると言うことは禪院家がこれまで築いてきた武を破る結果となってしまう。

 

術式を持たない呪術師に敗れることは甚壱にとって到底認められることではなかった。

それは甚爾も分かっていた。

 

(あの顔、内心ではめっちゃキレてるんだろうなぁ?

あの攻撃で認められないのなら....俺が奴を殺せるって分かるレベルの一撃を与えるしかねぇな。

一馬が使った"あの技"(砲落)ならどうだ?)

 

甚爾は利き手を後ろに引き構えるとその中心に甚壱収める。

(甚爾め....何か仕掛ける気だな?

最初は油断したがもう心配はない。

 

お前が強くなったのは認めよう....だがならば戦法を変えれば良い。

徒手空拳しかない貴様を遠距離から削り殺してやる。)

 

甚壱は呪力を操作し先程と違う性質を持った拳を顕現させる。

(威力よりも速度を重視した拳だ。

これでお前を射程外から削り切ってやる。)

 

甚壱が拳を振るうと背後に現れた拳は最高速度を保ったまま甚爾の身体を打ち付けた。

(くっ!?拳が速くなったか。

威力よりも手数で攻める訳か....上等だ。

無理矢理、押し通ってやるよ!)

 

甚爾は次々と自分に向かって放たれる拳を己の耐久力を信じ防御せず突き進んだ。

拳の嵐を通り抜けるのにある程度、ダメージを受けたが甚爾は甚壱の前に進んだ。

 

だが、甚壱もそれを黙ってみていた訳ではなく距離を詰められた時から溜めていた力を一気に開放した。

振りかぶった拳を甚爾の頭に叩き込む。

 

甚爾はその攻撃に対して耐える選択を選んだが今回に置いてそれは悪手だった。

放たれた甚壱の拳には自分の術式が込められており拳が当たった瞬間に術式が発動した。

 

甚壱の拳と術式の拳が同時に甚爾の頭部にダメージを与える。

流石の甚爾でもこれには耐えられず頭が割れ血が吹き出す。

「術式を込めた同時攻撃だ....これで終わりだ甚爾。」

 

そう言って油断した甚壱の脇腹には頭を吹き飛ばされながらも甚爾の拳が設置されていた。

「何っ!?」

「漸く懐に入れたぜっ!!」

 

甚爾は頭から血を流しながらも笑うと甚壱に一馬から盗み取った発頚の技である砲落を叩き込んだ。

 

ドゴン!

 

拳から放たれたとは思えぬ音と威力に甚壱は始めて顔を歪める。

そのまま追撃を加えようとするがその身体を甚壱は掴むと体格の違いを利用して無理矢理回転し壁へと投げつけた。

 

「あぁぁぁぁぁ!!」

 

甚壱は怒りから理性が吹き飛び飛ばした甚爾に向けて拳を振るい続ける。

それに呼応して顕現した拳が嵐のように甚爾へと放たれた。

 

その拳は修練場の壁や地面を砕きクレーターを作り土煙を上げた。

冷静になり甚壱は自分のやったことに驚愕する。

 

(不味い!本当に殺してしまったか!)

 

甚壱は口には出さないが甚爾の事は不出来な弟として見ていたが弱いとは思っていなかった。

術式は手に入れられなかったが弱者ではない...そう思っていた。

今回も実力の差を見せて周囲を納得させれば良い。

 

そう考えていたが自分の本気で倒そうとする一撃を受けて甚壱は怒りに身を任せてしまったのだ。

確実に殺す力を使った。

 

天与呪縛でも耐えられない攻撃を放ってしまったのだ。

 

焦りながら土煙が晴れた先を見るとそこには血塗れながらも生きている甚爾の姿があった。

 

「バカ....な..!?」

「はぁ...はぁ...どうしたよ?

そんなに生きているのが....不思議か?」

 

肩で息をしていながらも甚爾は動揺する甚壱を見て笑う。

 

「なぁ....俺は合格か?」

そう尋ねる甚爾に甚壱は呆然としたまま答える。

「好きに....しろ....」

 

そう言って甚壱は修練場を後にすると甚爾は地面に倒れた。

 

「痛ってぇなぁ!クソっ!....やっぱりまだ勝てねぇか。

術式があるってのは強いな。」

甚爾も甚壱に勝てないのは理解していた。

今回の一件も本気で勝つと言うよりも今の自分がどれだけ呪術師と戦えるかを知りたいと言う欲求もあった。

 

「やっぱり必要だな。

禪院家じゃない別の家の持つ武術が.......」

 

この身体能力で使うに相応しい武術を探す。

それが今の甚爾の目的だった。

 

何れ来る禪院家との決別の為にも......

 

 

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