禪院での一件に片が付き俺は捨餓螺家で何時もと同じ日常を過ごしながら時が経過していった。
小さかった俺の身体は高校を卒業する位には身長も高くなった。
その間、色々なことがあった。
先ずは俺が天若湖で呪具に変え身体に取り込まれたあの壺。
俺はアレに
能力は"大量の呪力を半永久、放出し続ける"。
つまり、ほおっておけば呪力に壺と言う器が耐えきれず破壊されるかもしれない品物だった。
だが、この欠点は俺が持つことで寧ろ利点にすらなっている。
それだけ大量の呪力を発生させるのであれがこれを使えば俺の術式や術具を更に強化できると訳だ。
つまりは俺はこの壺を呪力を供給するバッテリーとして扱うことにしたのだ。
俺は供給される呪力を惜し気もなく使い二虎と協力し色々な呪具を作り術師や非術師達に売り捌いた。
その結果、捨餓螺家には沢山の権力者が取り入ろうと長蛇の列をなしていた。
甚爾とはメル友になった。(誕生日プレゼントとして携帯を一馬が送っていた。)
俺は今、本宅の裏にある俺達が"秘密の入り口"と呼ぶ扉の前にいた。
その扉が開けられると中から"源爺と甚爾"が現れた。
「ようこそ捨餓螺家へ....
歓迎するぜ甚爾」
「おう、世話になるぜ。
それにしても一体何なんだこの入り口は?
言われた通り車に乗って降りたらこうなってたんだが?」
「凄いだろ?
俺と二虎の合作だぜ。
扉同時に印を付けてその間の距離を無くす術式だ、」
「ど◯でもドアかよ。」
「そこまで便利じゃねぇよ。
印が無い場所とは繋げられねぇし移動にかかる呪力が半端なく多い。
ぶっちゃけ、俺が呪力を流し込まなきゃまともに作動すらしねぇ代物だ。」
「マジかよ。
まぁ、それでも普通の呪術師から見れば魔法の道具だぜこれは.....」
「だろうな。
それにしても話を聞いた時は驚いたぜ。
暫く捨餓螺家に泊まりたいって聞いた時は」
「まぁ、お前も来てたし行けるかと思ったんだよ。
だけど、思ったよりも時間が掛かっちまったがな。」
「連絡受けたのが"2年前"だからな。
大方、禪院家でゴタついたんだろ?」
「あぁ、扇のジジィが何故かお前の事を嫌っててな。
中々の無理難題を言われたが.....まぁ、何とかなったさ。」
「それで....そこまでして家に来たかった理由はただ遊びに来たかった訳じゃねぇだろ?」
「....お前が使ってた呪力武術を俺に教えて欲しい。」
「呪力武術を?......だがあれは呪力が無ぇと」
「んなことは分かってる。
だが、呪力を抜きにしてもあの武術は洗練されていた。
身体を1つの波として捕えて操作するあの技を俺は知りたい。
.....頼む一馬。」
そう言って頭を下げる甚爾に一馬は自分の頭をかく。
「俺個人として喜んで教えたいんだが....実は俺も完全に呪力武術を体得してねぇんだわ。」
「そりゃ、どういう....」
「一馬坊っちゃま....ここからは私が変わりましょう。」
そう言って源吾が甚爾と話し始める。
「ご紹介が遅れましたが私の名は五十鈴 源吾と申します。
捨餓螺家で使用人兼、呪力武術の指南役も勤めております。
呪力武術は我が五十鈴家の相伝術式です。」
「ってことは源吾さんから学ぶ方が良いって言いたいのか一馬?」
「まぁ、そうだな。
源爺....甚爾は天若湖で命を助けてくれた恩人でもある。
だから....その....」
「おっほっほ、ご安心を坊っちゃん。
私は術式の有る無しで甚爾さんの実力を決めることはしません。
現に私の生得術式も鍛練しなければ戦闘で余り役には立ちません。
ですが、だからと言って武の才覚が無い者を教え導くほど私も暇ではありません。
才能がなければ申し訳有りませんが我が相伝術式を教えることは出来ませんね。」
「良いぜそれぐらい覚悟の上だ。
俺は必ずモノにして見せるぜ呪力武術を......」
「おっほっほ!....やはり若いとは良いですねぇ。
それよりも、坊っちゃまそろそろお時間では?」
源吾の言葉を聞き一馬は腕時計を確認する。
「やっべ!確かにそうじゃん。
甚爾、悪いけど俺これから加茂家に行かないと行けないんだ。」
「俺の事は気にすんな。
そっちはそっちで頑張れ。」
「悪い....んじゃ、行ってくるわ!」
そう言うと今度は一馬が秘密の入り口を使い加茂家の本宅に近い場所に転移するのだった。
沢山の資料や書物で埋め尽くされた部屋で賢尺は調べ者を続けていた。
その一室に通された一馬は使用人から出された麦茶を飲む。
冷たい麦茶が喉を通り少し冷静になると賢尺に尋ねた。
「あのぉ.....それで俺をここに呼んだ用って何なんですか?」
「.......」
一馬の問いに賢尺は反応することすらしない。
もうかれこれ1時間は耐えていた一馬も我慢の限界が来た。
「無視すんなやコラぁ!!」
一馬はさっきまで麦茶を飲んでいたステンレス製のコップを賢尺に投げ付ける。
それに気づいた賢尺はコップを掴む。
ミシ!と言う音と共に変形したコップを持った賢尺が言う。
「何をする?
当家のコップを投げ付けるとは何事か?」
「アンタが俺を呼び出したのに無視するからでしょうが」
そう言われた賢尺は近くの置時計を確認する。
「まだ、1時間と38分54秒しか経ってないではないか。
私にはまだやるべき仕事が残っている。
後、45分待て......」
「もう帰って良いっすか?」
呆れた表情をする一馬を見て賢尺は溜め息をついた。
「はぁ....仕方有るまい。
呼んだのは我だ。
貴様への用件は縛りでの約束を叶えて貰う事だ。」
「と言うことは呪具を作る依頼ってことですか?」
「まぁ、呪具を扱う点は同じだな。
お前にはとある特級呪具の修理を頼みたい。」
「修理?」
「そうだ。
特級呪具
この呪具はとある特級呪霊を封ずる為に作られた。
だが、最近封印の結びが弱まっていると言う報告を受けている。
特級呪具故に普通の呪具の様な修理も出来ぬ、そこでお前の転魂術式を使い呪具の結びを強化するのが今回の目的だ。
呪具や詳しい場所については家の呪術師を同行させる。
話しは以上だ。」
賢尺からそれだけ説明を受けると一馬は当主のいる部屋から出され車に乗せられた。
運転すること数十分、到着したのは加茂家の所有する"プライベートジェットが置いてある敷地"だった。
「どうぞ中へ....詳しい説明を致します。」
そうして中に入ると二人の人物が先にジェット機に乗り込んでいた。
「お前が噂に名高い捨餓螺家の悪童か?」
腰に二振りの刀を携えた男が一馬に尋ねる。
「普通、人に名前を聞く時は自分から名乗る者だろう?」
「ぐぁっはっは!道理よなこれは失礼した。
ワシの名は
加茂家から依頼を受けてここにいる。
因みに依頼についてはまだ知らん!ぐあっはっは!」
(何が可笑しいんだコイツ?)
そうしていると乗っていたもう一人の女性がペットボトルを差し出しながら告げる。
「そんなに警戒しなくても良い捨餓螺 一馬。
私の名前は
君達のサポートを当主から頼まれている。
さて、全員揃ったことだし話を始めようか?」
一馬を席に座らせると麗は話を始めた。
「今回の依頼は
そこまで言うと時雨が話しに口を挟む。
「その特級呪具の用途は何なんだ?
もしかして、呪霊の封印にでも使われたのか?」
「....今からそれを話そうと思っていたのですが?」
「うん?そうだったか。
だっはっは!こりゃ失礼!」
豪快に笑う時雨を麗と一馬は冷ややかな眼で見つめる。
「はぁ....話を戻します。
この呪具はとある呪霊の封印に使われました。
皆さんの名前なら聞いたことがある筈だ。」
そう言うと麗は椅子に置いていたバックから資料を出すと二人に渡した。
「特級呪霊
この二体を封印するのに静之巫女が使われている。」
「この二体の呪霊は平安時代に造られた呪霊と言われている。」
麗の言葉に一馬が尋ねる。
「造られた?......一体誰が呪霊を?」
「そこまでは資料に記載が無い。
だが、その当時の呪術師が産み出した呪霊なのは間違いない。
相当に危険な呪霊らしく当時の術師はこの二体の呪霊を祓えなかったので大江山にこの呪霊を封じ込める楔を打った。
それがこの静之巫女と言うわけだ。」
一馬は資料にかかれた静之巫女の写真を見つめる。
「木像の女性が刀を背中に携えているなんて面白いデザインですね。」
「確かにのぉ.....それにしても背中に挿している刀の意匠が素晴らしいな。
きっと高名な刀鍛冶が作ったのだろう。」
時雨は写真を見ながら言う。
「我々の任務は静之巫女の修復と大江山を代々管理している御魅村の調査。
静之巫女の修復は悪いが一馬さん貴方に一任します。
私達は専門外ですから....代わりに私と時雨さんで御魅村の調査を行う。」
「その御魅村では何が起こっておるんじゃ?」
「村人の話だといつの間にか別の場所に転移したり村で見たことのない家族が頻繁に現れるそうだ。」
「何だかここまで聞くと心霊話と言うかオカルトの匂いがしますね。」
「当主もそう思っていたがこの山には特級呪霊が封じられている。
何かの拍子で封印が緩んだとしたらこの現象はそれを我々に知らせるサインかもしれない。
だからこそ、それを確認するんだ。
ここから大江山まではこのまま飛んでいき加茂家の別荘の着陸場に止める。
そこからは徒歩になる。
今の内に休めるだけ休んでおくと良い。」
そう言って話を納めた麗に時雨が言う。
「説明は分かったが仲間である以上お互いの事はある程度、理解しておいた方がいいだろう。
呪霊に襲われ連携もろくに取れなかったでは話しになるまい。」
「時雨さんの言うとおりですね。
今回だけ組むにしてもある程度は話すべきだ。
じゃあ、歴の浅い俺から話しますね。
捨餓螺 一馬と言います。
幼いと言う事もあり術師としての級はまだ貰ってません。
術式は戦闘には余り向きませんが大量の呪具を持っていますので戦闘事態は軽くこなせます。
呪術師としてまだ未熟ですがよろしくお願いします。」
「次はワシじゃな。
名は尼乂 時雨。
"一級術師"じゃ....天与呪縛で術式は無いがその代わり呪力と五感が強化されておる。
戦闘ではこの二刀の刀を使う。
"シン・陰流"の門下生故に近接戦は任してくれて良い。」
「先程も話しましたが名前は加茂 麗。
"準一級術師"だ。
術式は赤血操術だが、当主の様な強力な技は使えない。
戦闘に関しては私も呪具を使うが余り充てにしないでくれると助かるな。」
「なんじゃなんじゃ!戦闘に自信があるのはワシだけかいな!?
こりゃ大変な仕事になりそうじゃのぉ。」
「仕事と言ってもあくまで調査であって呪霊を祓う事では無い。
万が一にも無いとは思うがもし、封印が解けた場合のプランも当主様は検討なされている。
私達は余計なことを考えず任務を成功させるだけだ。」
「それもそうじゃな。
じゃが、まだ大江山に着くまでには時間があるだろう?
実は昨日、夜からずっと呪霊を祓っていて眠いのじゃ。
だから寝る!お休み!」
時雨はそれだけ言うと豪快なイビキをかきながら眠りについた。
「では、説明は終えましたので後はお好きにどうぞ。
冷蔵庫の物は勝手に飲み食いして良いので....」
そう言うと麗はバックから本を取り出すと読み始めた。
それを見て一馬も思考を始める。
(任務を聞いた感じ違和感は感じられない。
....だが、説明の節々に"隠したい情報"があるような意図を感じた。
それは当主が隠してるのかこの麗って女が隠したいのかは分からないが気を付けた方がいいな。
酒呑童子.....名前は聞いたことはあるが本当に呪霊として存在しているとはな。
天若湖の時よりも俺は成長した。
術や武術の研鑽も欠かさなかったが少し不安が残る。
ここには甚爾もいない。
万が一を考えて保険を用意しておくべきか?)
一馬はそう考えると席を立ちトイレに向かうと携帯を取り出した。
空の上だから電波が普通ならば通らない筈だが、二虎と共同開発した電波の送受信が行えるこの携帯ならば何処にいても繋がる。
一馬は携帯に呪力を流し込むとメールを一通、送信した。
【件名 依頼】
戦闘が出来る呪術師を大江山に待機させておいて欲しい。
何かあった際のサポートも含めて、
報酬は一人頭、1000万。
準備が出来そうなら連絡をくれ。
メールの送信が終わると一馬は何事も無かった素振りで自分の椅子に戻ると捨餓螺家の家族と甚爾の事を思うのだった。